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2024年7月27日土曜日

カナダの建設機械レンタル会社でプロパンガスボンベが爆発・火災

 今回は、約2年前の2022621日(火)、カナダのオンタリオ州トロントにある建設機械レンタル会社のクーパー・エクイップメント・レンタルズ社でプロパンガスボンベが爆発し、火災が発生した事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災施設は、カナダCanadaオンタリオ州OntarioトロントTorontoのレックスデールRexdale にある建設機械レンタル会社のクーパー・エクイップメント・レンタルズ社Cooper Equipment Rentalsである。

■ 事故があったのは、ラシーン通りRacine Roadにあるクーパー・エクイップメント・レンタルズ社のプロパンガスボンベ(プロパンガスタンク)である。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2022621日(火)午後3時頃、クーパー・エクイップメント・レンタルズ社でプロパンガスボンベが爆発し、火災が発生した。

■ 発災に伴い、警察と消防署に通報があり、警官と消防隊が出動した。

■ 到着した消防隊員は、「建物の外に置いてあったたくさんのプロパンガスボンベに激しい炎が燃え広がっている」のに遭遇し、すぐに防御態勢を取った。

■ 事故に伴い、近隣の事業所にいる人たちは建物から避難した。

■ 警察は、住民の避難が続く中、現場近くの立ち入り禁止を呼びかけた。

■ ラシーン通りの道路は封鎖された。

■ 店の外に置いてあった工業用プロパンガスボンベが4060個あり、消防隊が延焼防止に努めた。プロパンガスボンベの中には、重さが100ポンド(45kg)に及ぶものがあるという。

■ 消防署長は、「LPガスのような可燃性ガスボンベには圧力逃し弁が装備されており、熱によって圧力逃し弁が開放される。圧力逃し弁によってガスが放出され、そのガスに点火するが、ボンベが実際に爆発するのを防ぐような設計になっている。今回のようなプロパンボンベの火災事故が起こっているときに、それが爆発なのか、圧力逃し弁の開放による急激な燃焼なのかを見分けるのは難しい。」と語っている。

■ユーチューブでは、火災状況の動画が投稿されている。

  ●Youtube Propane tanks explode at Toronto equipment rental facility YT2022/06/22

  ●YoutubePropane fire at Toronto facility sparks explosions, prompts evacuations2022/06/22

 

■ プロパンガスボンベ4060個が火災で損壊し、内部のプロパンガスが焼失した。 

■ 負傷者は出なかった。近くの住民が避難したほか、道路が閉鎖された。

■ プロパンガスが燃焼し、大気が汚染された。

< 事故原因 > 

■ 事故要因は屋外に置いてあったプロパンガスボンベが何らかの要因で漏れ、そのガスに引火して爆発が起こったものとみられるが、事故の原因は分からない。

< 対 応 >

■ 火災のピーク時には現場に100名の消防士と約30台の消防車両が出動し、消火活動を実施した。

■ 発災から1時間の午後4時頃には、消防隊は防御モードに入っており、火災が制御されていなかった。

■ 午後5時頃、消防署は火災警報レベルを引き下げ、状況は制御下にあると発表した。

■ 午後530分までにトロント消防署は火を消し止め、火災によって駐車中の車両数台に燃え広がったが、建物に延焼する前に鎮火できた。

■ 消防署長は、「今回の事故は消防隊員にとって複雑で入り組んだ危険な火災だった。燃えているプロパンガスボンベを冷却するために、消防隊員は火災地点にできるだけ近づき、無人放水銃を設置したり、スクワート車を配置したりしなければならなかった。幸いなことに火災は制御下に入り、けが人の報告もなかった」と語っている。

■ 消防隊は一晩中現場に残る予定だ。

■ 消防署長は、「安全が確認され次第、火災の発生源、原因、状況に関する調査を開始する」と述べた。

■ 621日(火)、クーパー・エクイップメント・レンタルズ社の社長は、「被害の規模は不明だが、負傷者が出なかったことに安堵している」と述べ、「明日は、被害や費用などについて心配することになるだろう。今は、全員が無事に脱出し、家族の元へ帰れたことに感謝するだけだ」と語った。 また、社長は「施設で実施されている安全手順はすべて守られていた」と述べ、「クーパー・エクイップメント・レンタルズ社は裏庭に100ポンド(45㎏)のプロパンガスボンベを保管しており、熱で爆発したのではないか」と考えているという。

■ クーパー・エクイップメント・レンタルズ社は、原因調査について「私たちは、警察、消防、当局に協力している」と語っている。

■ 今回の事故は、2008年夏にトロント市内で発生した大規模なプロパンガス爆発事故(サンライズ・プロパン事故;Sunrise Propane Incidentとして知られている)を思い出させる。2008810日(日)午前3時過ぎにサンライズ・プロパン・インダストリアル・ガス社で起こった事故では、一連の爆発・火災によってふたりが死亡し、ダウンズビュー地区の住民が避難を余儀なくされた。 今回の事故では、2008年のトロントを揺るがしたような災害は回避できた。

補 足

■「カナダ」Canadaは、北アメリカの北部に位置し、10の州と3つの準州からなる連邦立憲君主国家で、英連邦加盟国である。人口は約4,010万人で、首都はオンタリオ州のオタワである。

「オンタリオ州」Ontarioは、カナダ中東部に位置し、カナダの州の中では最も人口が多く、約1,420万人で国全体の約39%が集まっており、カナダの政治・経済の中心となっている。

「トロント」Torontoは、オンタリオ湖岸の北西に位置し、人口約273万人でオンタリオ州の州都であり、カナダ最大の都市である。

■「クーパー・エクイップメント・レンタルズ社」Cooper Equipment Rentalsは、カナダ全土の請負会社を対象とした建設機器レンタルサービスを手掛けている会社で、本社はオンタリオ州ミシサガにある。クーパー・エクイップメント・レンタルズ社は高所作業、重機建設、ポンプ設備などを専門としているほか、暖房、トレンチボックスなどの機材も提供している。

■「発災タンク」はレンタル用のプロパンガスボンベ(タンク)である。店の外に工業用プロパンガスボンベ(タンク)を4060個置いており、中には重さが100ポンド(45kg)に及ぶものがあると報じられている。

 クーパー・エクイップメント・レンタルズ社のプロパンガスタンクやボンベの種類は図に示すとおりで、重さが45㎏といえば、日本の家庭用に使用されている一番大きいガスボンベ(50㎏)相当とみられる。従って、発災したタンク群は図の左端のボンベと思われる。通常、レンタル時に充填すると思われるので、ボンベ内は充填したものだけでなく、空に近いものもあったのではないだろうか。


所 感

■ タンク爆発の原因は分からないが、屋外に置いていたプロパンガスボンベが何らかの要因で漏れ、そのガスに引火して爆発が起こったものだろう。冷却散水など安全対策の整ったLPガス充填所ではないようなので、プロパンガスボンベの保管状態に疑問のある事故である。

■ トロントの消防署長が語っている話、「LPガスのような可燃性ガスボンベには圧力逃し弁が装備されており、熱によって圧力逃し弁が開放される。圧力逃し弁によってガスが放出され、そのガスに点火するが、ボンベが実際に爆発するのを防ぐような設計になっている。今回のようなプロパンタンクの火災事故が起こっているときに、それが爆発なのか、圧力逃し弁の開放による急激な燃焼なのかを見分けるのは難しい」というのは経験に基づいた示唆に富む話である。

「石油貯蔵タンク火災の消火戦略」201410月)では、圧力タンクを対象にした圧力タンク火災への対応が記載されているが、ここでいう圧力タンクとは球形タンクや横型圧力容器を念頭にしたものである。しかし、今回のような数多くのプロパンガスボンベの火災への対応に関しても有用である。

 「石油貯蔵タンク火災の消火戦略」では、圧力タンク火災への対処の戦略的思考についてつぎのように指摘している。解釈としては、LPガス充填所のように、プロパンガスボンベだけでなく、横型タンクが混在していると思えばよい。

 ● 冷却を基本とし、両サイドから冷却する。

 ● 冷却作業の位置として円筒端の方からは避ける。

 ● 液レベルより上部を冷却する。

 ● ウォータカーテンを実施し、火炎衝突からの影響を軽減する。

 ● BLEVE(沸騰液膨張蒸気爆発)の発生に留意する。

 プロパンガスボンベの火災は厄介である。ボンベを冷却しなければならないが、プロパンガスは空気中に漏れ出たときには気体状で爆発性があり、消防士の命を守るため、3つの消火戦略(積極的戦略・防御的戦略・不介入戦略)を状況に応じて適確な判断を要する。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

   Globalnews.ca, Propane tanks explode amid large fire in Etobicoke,  June  21, 2022

  Toronto.citynews.ca, Fire at equipment facility prompt evacuations after propane tanks explode in Rexdale,  June  21, 2022

  Cp24.com, Businesses evacuated as fire outside Etobicoke equipment rental business engulfs propane tanks,  June  21, 2022

  Blogto.com, Toronto neighbourhood rocked with propane explosion,  June  21, 2022

  Dailyhive.com, Exploding propane tanks likely to blame for fire in Etobicoke (VIDEO),  June  22, 2022


後 記: 今回の事故は、プロパンガスボンベが発災タンクという事例で、ボンベが4060個と多数になれば、大きな火災となります。ユーチューブの動画を見ても消火の対応も難しくなるというのが理解できます。消防署長がインタビューに応じていますが、なかなかいい話をしています。このようにして事例が広く活かされていくのだと思います。これがカナダの民主的な国情なのでしょう。日本で起これば、消防署長や消防隊長は思っていても、しゃべらないのではないでしょうか。沈黙は金、雄弁は銀といいますが、今の時代は、金・銀が逆(雄弁は金、沈黙は銀)なように思います。

2024年7月21日日曜日

ロシアのロストフ州東部の石油貯蔵施設がドローン攻撃でタンク火災

 今回は、2024713日(土)、ロシアのロストフ州チムリャンスキー地区にある石油貯蔵施設でウクライナのドローン攻撃を受けてタンク火災になった事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災施設は、ロシアRussiaロストフ州RostovのチムリャンスキーTsimlyansky地区にある石油貯蔵施設である。石油貯蔵施設には、ガソリンやディーゼル燃料など合計12,500KLの油が保管されている。 

■ 発災があったのは、石油貯蔵施設内にある石油タンク設備である。

< 事故の状況および影響 > 

事故の発生

■ 2024713日(土)午前4時頃、チムリャンスキー地区の石油貯蔵施設がウクライナのドローン(無人航空機)攻撃を受けて火災になった。午前8時頃には、火災範囲は200㎡に広がった。

■ 地元住民によると、午前4時頃に爆発音が聞こえ、石油貯蔵施設の敷地上空に黒煙が上がっているのに気が付いたという。 地元住民は、午前4時頃に2回の爆発音を聞いたにもかかわらず、空襲警報は聞こえなかったと語っている。 チムリャンスキー地区行政は、石油貯蔵施設への無人機攻撃によって住宅建物に被害はなかったと報告した。

■ 発災の伴い、消防隊が出動した。現場で活動は消防士50名と消防車14台が当たった。

■ この火災に伴い、特殊消防列車が出動して消火活動の支援に当たった。

■ 火災に伴う死傷者は出ていない。

■ 攻撃はウクライナによるものだとロシアは主張したが、正式にはウクライナがこのことにコメントしていない。一方、ウクライナ防衛部門の情報筋は、この攻撃の背後にウクライナ政府がいることを確認し、 「無人航空機の攻撃は、ウクライナへの戦争に協力しているロシアのエネルギー企業(複合体)に対して、経済制裁を課し続けている」と語っている。

■ メディアによると、チムリャンスキーの石油貯蔵施設が少なくとも2機のドローンによって攻撃されたという。 ドローンの1機は石油貯蔵施設の設備に20m届かず、2機目が石油貯蔵所施設に命中し、火災を引き起こした。チムリャンスキーは、ロシア南西部ロストフ州の奥深くにある。これはウクライナ軍による2024618日(火)のロストフ州アゾフへの攻撃より、国境から遠い距離である。

■ 攻撃は、ウクライナで最近使われているFPV型(First Person View)ドローンとみられる。 FPV型ドローンの操縦者は、ゴーグルを装着し、ドローンの視点でリアルに景色や障害物を認識しながら操作を行う。

■ 住民のひとりは、「私の家からは朝から黒煙が上がっているのが見えました。消防隊がすぐに到着し、消火活動が始められました。死傷者は出なかったし、住宅地に被害はありませんでした。会社に出勤して、ビデオをアップし始めたとき、何かがおかしいと気づきました。石油貯蔵施設が攻撃され、火災を起こしており、この先どうなるのか、とても怖くなりました。うつうつとした気分の雰囲気は街全体を覆っています。なぜ、このようなことが起きたのでしょうか。ガソリンスタンドに行ってみると、長い行列ができていました」と語っている。

■ ユーチューブなどには火災の状況を示す動画が投稿されている。主な動画はつぎのとおりである。

   Youtube Пожар на нефтебазе в Цимлянском районе Ростовской области2024/07/13

   ●VkvideoРано утром в Ростовской области из-за атаки БПЛА загорелась нефтебаза в Цимлянском районе2024/07/13

被 害

■ ロストフ州チムリャンスキーの石油貯蔵施設において石油貯蔵タンク1基が火災で被災し、内部の液が焼失した。

■ 死傷者はいなかった。

■ 火災により環境が汚染された。  

< 事故の原因 >

■ 戦争による軍事行動である。(平常時の“故意の過失”に該当)

< 対 応 >

■ チムリャンスキーの石油貯蔵施設の火災は、発災から6時間半後の午前1030分頃に鎮火したという。

 ロシア国防省によると、ロシアの防空部隊はロストフ州上空でドローン2機、ベルゴロド州上空でドローン1機、クルスク州上空でドローン1機を撃墜したと発表した。クレムリン近いと考えられている出版物マッシュによると、墜落したドローンの破片が石油貯蔵施設の敷地内に落ちたとされる。一方、ロストフ州知事は、ロストフ州東部のチムリャンスキーにある石油貯蔵施設で火災が発生したと語っている。

■ ウクライナ軍は、軍事資産、製油所、石油貯蔵施設などを標的として、ロシア領土で頻繁に無人航空機(ドローン)攻撃や破壊行為を行っている。ウクライナ大統領によると、20246月下旬の時点で、合計30か所以上のロシアの製油所、オイルターミナル、石油貯蔵施設がウクライナの特殊部隊による標的となったという。

■ チムリャンスキーにある石油貯蔵施設の火災の前に、クラスノダール準州では、76日(土)夜の無人航空機による攻撃の結果、2つの石油貯蔵施設が火災となっている。

補 足

■ 「ロシア」Russiaは、正式にはロシア連邦といい、ユーラシア大陸北部に位置し、人口約14,200万人の連邦共和制国家である。2022224日(木)、ロシアが、突如、ウクライナに侵攻し、軍事衝突が起こった。

 ロシアがウクライナに侵攻して以降、両国のタンクへの攻撃を紹介した事例は、つぎのとおりである。

   「ウクライナ各地で石油貯蔵所がミサイル攻撃によってタンク火災」20223月)

  ●「ウクライナで化学工場の硝酸タンクがロシアの攻撃で爆発」20226月)

  ●「ロシアのベルゴロド石油貯蔵所にヘリコプターによる攻撃」 20225月)

  ●「ロシアのふたつの石油貯蔵所でタンク爆発・火災、テロ攻撃か」20224月)

  ●「ロシアの2箇所の石油貯蔵施設を無人航空機(ドローン)で攻撃、タンク被害」 202211月)

  ●「ロシアがウクライナのひまわり油タンクをカミカゼ無人機で攻撃」202210月)

  ●「ロシアの石油貯蔵所で無人航空機によって燃料タンク3基が火災」202211月)

  ●「ロシアの2箇所の石油貯蔵施設を無人航空機(ドローン)で攻撃、タンク被害」202212月)

  ●「クリミア半島の石油貯蔵施設で無人航空機(ドローン)攻撃でタンク火災」20234月)

  ●「ロシアの石油貯蔵施設が2日連続で無人航空機(ドローン)攻撃によりタンク火災」20235月)

  ●「ロシアの軍組織が自国ボロネジの石油貯蔵所を攻撃し、タンク火災」20236月)

  ●「ロシアの石油貯蔵施設が無人航空機(ドローン)攻撃によるタンク複数火災」20241月)

  ●「ロシア各地の石油貯蔵施設が無人航空機攻撃でタンク火災、新型ドローンか? 20246月)

「ロストフ州」 Rostovは、ロシア連邦を構成する州のひとつで人口約420万人で、南部連邦管区に属し、南東でウクライナと国境を接している。

「チムリャンスキー地区」Tsimlyanskyは、ロストフ州の43の地区のうちのひとつで、行政および市町村の地区である。州の東部に位置し、行政の中心地はチムリャンスキー市で、人口は約34,000人である。

■「発災タンク」は、ロストフ州チムリャンスキー地区にある石油貯蔵施設にあるタンク設備であるが、ガソリンやディーゼル燃料など合計12,500KLの油が保管されているという情報以外、場所・タンク基数などの仕様は報じられていない。グーグルマップでチムリャンスキー地区を調べると、タンク群のある石油貯蔵施設が存在しているのは分かるが、この施設が発災タンクのある石油貯蔵施設かどうか分からない。

 620日(木)に攻撃されたタンボフ州プラトノフスカヤの石油貯蔵施設は、ウクライナ国境から約400km離れていたが、今回のチムリャンスキー地区にある石油貯蔵施設はウクライナ国境から約170km離れている。以前は国境近くの石油貯蔵施設を攻撃にしていたが、最近は国境から離れた施設が標的にされている。

所 感

■ これまで、テロ対応の観点から無人航空機(ドローン)による貯蔵タンクへの攻撃性を見てきたが、ウクライナが最近使っている無人航空機(ドローン)はFPV型(First Person View)ドローンで、飛行機型からいわゆるドローン型へ回帰しており、テロ対策上からは厄介な攻撃用ドローンの出現である。

 通信社のロイターが発表した「ウクライナ、“ドローン戦” で変貌する戦争」(2024/03/26)は、ドローン攻撃の映像を分析、研究文献と突き合せて照合し、さらにドローン製造者、兵士、政府当局者に取材して、 FPV型ドローンの現状をまとめており、理解に役立つ資料である。

■ ドローンによるタンク設備への攻撃が、ウクライナ国境から遠く、ロシア国内の奥深いところに及んできて、タンクの被災状況が報じられてこないようになった。ロシア軍はウクライナのドローンを撃墜したというだけで、石油貯蔵施設への被害については発表していない。タンクの被災状況はロシアの関係州知事による発表のみになっている。 

■ 消火活動の詳細も報じられていない。今回の事例では、火災時間が6時間半(短いところでは5時間と報じているところもある)であるが、数少ないタンク被災写真によると、かなり激しい火災状況であり、56時間で消火できるようなものではないと感じる。事実がはっきりしておらず、このブログの目的から外れ始めており、ウクライナとロシアによる戦争におけるタンク設備の被災事例の紹介は今回で終わることになるだろう。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

     Rferl.org,  Oil Depot On Fire In Russia's Rostov Region, Governor Says,  July  13,  2024

     Voanews.com, Shelling kills 4 in Ukraine; drone attack sparks Russian oil depot fire,  July  13,  2024

     Kyivindependent.com,  Drone attack caused fire at oil depot in Russia's Rostov Oblast, governor claims,  July  13,  2024

     Straitstimes.com, Russian oil depot on fire after Ukrainian drone attack,  July  14,  2024

     Ukrinform.net, Oil depot on fire in Russia’s Rostov region following drone attack,  July  13,  2024

     Hromadske.ua, Oil depot in Russia's Rostov Oblast catches fire after drone attack,  July  13,  2024

     Currenttime.tv, В Ростовской области из-за атаки дронов загорелась нефтебаза. Пожар тушили больше шести часов,  July  13,  2024

     Dw.com, В Ростовской области после атаки дрона загорелась нефтебаза,  July  13,  2024

     Secretmag.ru, Сильнейший пожар случился на нефтебазе после атаки дронов. Его не могут потушить уже 5 часов,  July  13,  2024

     24tv.ua, Дроны атаковали нефтебазу в Ростовской области: возник крупный пожар,  July  13,  2024

     Bfm.ru,  ДПожар на нефтебазе в Ростовской области после утренней атаки БПЛА потушен,  July  13,  2024

     Reuters.com,  ウクライナ、ドローン戦で変貌する戦争,  March  26,  2024  (資料が多いためか、読み込みはインターネットが重いので、少し時間をかけたあと、読むとよい)


後 記: ドローンの武器化が進歩してきて、国境から遠いロシア国内での石油貯蔵施設のタンク火災になり、報道が変わってきました。いわゆる戦争における“報道” になり、事実を隠して嘘をついてもよいという風潮を感じてきています。インターネットでも添付のような写真を掲載しているところがありました。明らかに写真は今回の事例のものではありません。読む人が勝手に思い込んでいるだけで、字幕と写真は関係ないと言われれば、一言もありません。軍隊という組織は嘘と真実がごちゃごちゃになっていき、よほど気を確かに持たないと、嘘があたかも真実のようになっていきます。実際に戦争を行っているロシアのような国ではそうですが、最近の海上自衛隊の不祥事を見ていると、戦争でなくてもそうなんですね。


2024年7月12日金曜日

米国テキサス州トループ近郊の石油生産施設で円筒タンク爆発・火災

 今回は、約2か月前の2024511日(土)、米国テキサス州スミス郡のトループ近郊にある石油生産施設で石油タンクが爆発し、火災となった事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、米国テキサス州Texasスミス郡SmithトループTroupの近郊にある石油生産施設である。

■ 事故があったのは、郡道4703号線沿いにある石油生産施設の石油タンクである。


 
<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 2024511日(土)午後1時頃、石油タンクが爆発し、火災となった。

■ 発災に伴い、スミス郡第2地区消防隊などが出動した。対応したのは、第2地区消防隊の職業消防士6名、ボランティア型消防士6名、隊長1名、ニューサマーフィールド郡およびノー​​スチェロキー郡のボランティア型消防署の各消防隊である。

■ 消防隊によると、現場に到着したとき、石油タンクは完全に炎に包まれていたという。石油タンクは3基あり、そのうちの1基からは黒い煙が上がり、上からは炎が見えたという。

■ 消防隊の消火活動によって火災は制圧された。

■ ユーチューブでは、消防活動状況のニュース番組が投稿されている。

 YoutubeCrews respond to oil tank explosion south of Troup2024/05/13

被 害

■ 原油生産施設内の円筒タンク1基が焼損した。内液の油分が焼失した。

■ 負傷者は出なかった。

< 事故の原因 >

■ 必要に応じてスミス郡消防署が原因を調査するという。

< 対 応 >

■ 消防隊の消火活動によって火災は消えた。

■ 負傷者の報告はなかった。 

■ 消防隊は必要に応じてスミス郡消防署が原因を調査すると述べた。

補 足

■「米国テキサス州」Texasは、米国南部にあってメキシコ湾岸に面し、メキシコと国境を接する人口約3,050万人の州である。

「スミス郡」Smithは、テキサス州の東部にあり、人口約23万人の郡である。

「トループ」Troupは、正確にはスミス郡とチェロキー郡の2つの郡にまたがっており、人口は約2,000人の町である。

■「発災タンク」は、郡道4703号線沿いにある石油生産施設の円筒タンクである以外、詳細仕様はわからない。グーグルマップで調べると、郡道4703号線沿いには複数の石油生産施設と見られるタンク群があるが、被災写真にあるタンク設備の配置に似た施設があるのがわかった。発災タンクの直径は約3.5mで、高さを6mとすれば、容量は約58KLである。

 発災写真を見ると、タンク屋根が噴き飛んではいないようなので、激しい爆発ではなかったと思われる。ただ、側板の下段部によく分からない異状な部分が見える。側板塗装の汚れなのか、爆発・火災の要因に関係しているのか分からない。内液は、原油単体に近い油だったのか、水を含むものだったのか分からないが、石油生産施設の油専用のタンクではなさそうである。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Kltv.com,  Crews respond to oil tank explosion south of Troup,  May  12,  2024

    Ketk.com, Oil tank explodes near Troup, firefighters respond,  May  11,  2024

    Cbs19.tv, Crews extinguish oil tanker fire near Troup,  May  11,  2024

    Yahoo.com, Oil tank explodes near Troup, firefighters respond,  May  12,  2024     


後 記: テキサス州の陸上原油生産施設は非常に数が多いところで、いつも思うのですが、タンク火災への消防活動が落ち着いており、必死さを感じません。今回の対応の主力はスミス郡第2地区消防隊で、隊長1名、職業消防士6名、ボランティア型消防士6名で、あと応援のボランティア型消防署の消防隊です。消防隊が出しているフェースブックを見ていると、消火活動のことはさらっと投稿していますし、あとは住民との交流などの情報を投稿しており、米国らしいおおらかさを感じます。陸上原油生産施設のひとつやふたつが火災になったところで取るに足らず、むきになって原因がどうの、未然防止がどうのと言っているのは、遠く離れた油田のない日本(の私)だけのように感じ、バカみたいですね。

2024年7月8日月曜日

ナイジェリアのカナダ高等弁務官事務所で発電機用燃料タンクが爆発、死傷者4名

 今回は、約8か月前の2023116日(月)、ナイジェリアの首都アブジャにあるカナダ高等弁務官事務所にある発電機のディーゼル燃料タンクで爆発・火災がおき、死傷者4名を出した事例を紹介します。

< 発災地域の概要 >

■ 発災があったのは、ナイジェリア(Nigeria)の首都アブジャ(Abuja)にあるカナダ高等弁務官事務所(Canadian high commission)である。カナダ高等弁務官事務所はカナダ政府の国際関係を担当する省庁で、イギリス連邦の特殊な組織で、メディアの報道の中には大使館と報じているところもある。

■ 事故があったのは、カナダ高等弁務官事務所の発電機室にある発電機のディーゼル燃料タンクである。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2023116日(月)午前1030分頃、カナダ高等弁務官事務所の発電機室にある発電機用のディーゼル燃料タンクが爆発し、火災が発生した。発電機室は本館ではなく、別な棟にあった。

■ 連邦首都圏の中央ビジネス地区にある外交道路沿いにある背の高い白い外交庁舎から濃い黒煙が上空に渦巻くのが見えた。この建物は連邦国防省や米国大使館などのすぐ近くである。

■ 事故は、 ナイジェリアの不動産業JMD社から派遣された作業員がミカノ(Mikano)製発電機の整備をしていた際に発生した。発電機は2台あり、うち1台は稼働していたが、もう1台は整備中だった。発電機室にあった2,000リットルのディーゼル燃料タンクが爆発して火災が起こった。

■ 発災に伴い、ナイジェリアの連邦首都圏(FCT Federal Capital Territory)の消防隊が出動した。

■ 発電機の整備に当たっていたナイジェリア人の整備作業員のうち2名が致命傷を受けて亡くなり、ほかの整備作業員2名が重度の火傷を負って治療のため病院に搬送された。死亡したふたりのうち一人はカナダ高等弁務官事務所の現地採用職員だった。

■ 目撃者によると、死亡した犠牲者は爆発の衝撃で発電機室から吹き飛ばされ、助かった人は屋根から脱出したという。

■ カナダ高等弁務官事務所のほかの職員は全員無事だった。カナダ外務省によると、20228月時点でナイジェリア高等弁務官事務所にはカナダ人外交官12名と現地採用職員32名が勤務していたという。 

■ カナダ・グローバル連携省(Global Affairs Canada)は、アブジャの外交地区にあるカナダ高等弁務官事務所を追って通知があるまで閉鎖すると発表した。「現在、現場の安全性を確認しており、爆発の原因究明に地元当局と協力する」といい、「調査は行われているが、現時点では故意の行為ではなく、事故であることを示している」述べた。

■ カナダの外務大臣は、116日(月)の午後、SNSに投稿した声明で爆発があったことを確認したといい、「この悲劇で亡くなったふたりのご家族に心からの哀悼の意を表します」と述べている。

■ ナイジェリア大統領の事務所は、建物から煙が漂う写真を公開した。報道官は、大統領が哀悼の意を表し、高等弁務官事務所にナイジェリア政府の全面的な支援を申し出たという。

■ ユーチューブには、火災時の建物の動画が投稿されている。

YoutubeBREAKING NEWS | Canadian Embassy in Abuja is reportedly on Fire2023/11/06

被 害

■ 発電機用ディーゼル燃料タンクが損壊した。内液の燃料が焼失した。

■ 発電機を整備していた人が4名死傷した。内訳は死者2名、負傷者2名である。

■ 発電機室内の設備が損傷した。 

< 事故の原因 >

■ 発電機室にある発電機用のディーゼル燃料タンクが何らかの要因で爆発し、火災が発生したとみられる。直接原因はカナダの技術専門家チームが正式な調査を始めた。

< 対 応 >

■ 連邦首都圏(FCT)の消防隊員が116日(月)午後1230分頃に火災を消し止めた。

■ 連邦首都圏の消防局が火を消し止め、ナイジェリア国防省、連邦消防局、連邦首都特別地域緊急事態管理局(Federal Capital Territory Emergency Management Agency)の救急車などの車両が状況に対応するため待機していた。

■ カナダ高等弁務官事務所の発電機室で爆発が発生して2名が死亡、2名が負傷したことを受けて、1114日(火)、カナダの技術専門家チームがアブジャに到着し、爆発の原因となった要因と状況を特定するための正式な調査を実施し始めた。カナダの調査チームとナイジェリアの関係当局は、それぞれの任務に沿って作業を調整するための努力が続けられている。

■ メディアの中には、この事故は発電機の取扱いや燃料関連の作業を行う際に厳格な安全対策が重要だということを浮き彫りにし、今回のような壊滅的な事故を防ぐために何が必要かということを指摘している。

補 足                                                

■「ナイジェリア」Nigeriaは、正式にはナイジェリア連邦共和国で、アフリカ大陸西南部に位置し、人口約21,000万人の連邦制共和国である。 2014年に南アフリカを抜きアフリカ最大の経済大国である。西にベナン、北をニジェール、北東がチャド、東はカメルーンとそれぞれ国境を接し、南はギニア湾に面し大西洋に通ずる。

「アブジャ」Abujaは、ナイジェリアの首都で人口約98万人の市である。1991年まではラゴスが首都だったが、一極集中などの理由により国土のほぼ中央に位置するアブジャに首都を移転した。旧首都ラゴスは現在でも経済の中心であり、ほとんどの国が大使館をアブジャに移転した今でも、より大規模な旧大使館を領事館としてラゴスに維持している国が多い。

■「発災タンク」は容量2,000リットルの発電機用ディーゼル燃料タンクで、発電機室は本館とは別棟と報じられている。メディアの中で1社のみ、被災後の発電機室内とみられる写真を掲載している。1社のみで真偽の確認はできないが、発電機が2台あり、別置きの燃料タンクが噴破して報じられている事故状況に合っており、今回の事故の被災後の写真と思われる。この写真を見ると、円筒タンクでなく、鋼製の箱型タンクで、縦シームが破裂したとみられる。大きさは1.3m×1.3m×1.3m程度の箱型タンクとみられる。

所 感

■ ディーゼル燃料(軽油)は、ガソリンなどとは異なり、爆発・火災を起こしにくい油であるが、これまで紹介したブログには、つぎのような爆発事例がある。

 ● 20138月、「米国ペンシルバニア州で燃料貯蔵タンクが爆発し、死者1名」; 容量37KLのガソリンタンクで漏洩があり、爆発事故前にディーゼル燃料のタンクへ 移送した経緯があり、爆発混合気が形成し、爆発したものとみられる。

 ● 20158月、「米国オハイオ州の地下貯蔵タンクが落雷で爆発、地表にクレーター」   ディーゼル燃料用地下貯蔵タンクのベント部に落雷があり、可燃性ガスに引火して爆発を起こしたものとみられる。しかし、消防当局の中には、通常、ディーゼル燃料はファイヤーボールを伴う爆発を起こしにくいことから疑問点もあるという。

  20164月、「サモアの石油貯蔵施設で石油タンクが爆発して死者1名」; 発災タンクはディーゼル燃料用だったが、タンク内はディーゼル燃料とガソリンの混合油だった。

 ● 201710月、「インドのムンバイ沖のブッチャー島で石油タンクに落雷して火災」     インドでは、ディーゼル燃料の区分として「高速ディーゼル燃料」と「ライト・ディーゼル燃料」2つがある。高速ディーゼル燃料は100%蒸留油で、一般に750rpm以上のエンジンに使用される。高速ディーゼル燃料の性状は、引火点:3296℃、燃焼範囲:0.75.0%、自然発火温度:257℃ある。日本の軽油とは、引火点に差異がある。このため、製品によっては引火しやすいディーゼル燃料がありうると思われる。

  201711月、「マレーシアでディーゼル燃料タンクが爆発・火災、死者3名」 原因はわかっていないが、過去の事例から類推すると、石油について安易な取り扱いをし、タンク内にディーゼル燃料だけでなく、廃ガソリンのような揮発性の高い油を混合したのではないかと思われる。

 ● 20192月、「イエメンでディーゼル燃料タンク爆発、薄層ボイルオーバーか、負傷15名」; ディーゼル燃料用タンクの爆発は「薄層ボイルオーバー」ではないかと思われる。「軽油のように長時間燃焼を続けても燃料層内に高温層が形成されないが、燃焼末期には水が激しく沸騰する現象で、一種のボイルオーバーのような現象が起こる」という指摘がある。

  20202月、「アルゼンチンでバイオディーゼル用タンクが爆発・火災、死傷者3名」 バイオディーゼルは本来爆発を起こすような液でないので、原料油タンクの運用に問題があったと思われる。バイオディーゼルと軽質の石油を混合したタンクだったのではないだろうか。

■ 消火活動の状況はほとんど報じられていない。発災から約2時間の116日(月)午後1230分頃に火災を消し止めたという。現場では、発災直後の状況がつかめず、外交特権のあるカナダ高等弁務官事務所であり、テロ攻撃ではないかと思っただろう。報道では、このような微妙なことには触れていない。日本でもこのような事例は起こり得るし、東京の大使館での火災対応はなかなか難しい課題があると想像する。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである

     Ctvnews.ca, Two Nigerian workers killed in generator explosion at Canada's high commission,  November  07,  2023

     Punchng.com, UPDATED: Canadian embassy gutted by fire, two die,  November  06,  2023

     Bbc.com,  Canada embassy explosion: Two people killed in blast in Nigeria,  November  07,  2023

     Africanews.com, Fire at Canadian High Commission in Nigeria kills 2 workers repairing generators,  November  07,  2023

     Nairametrics.com, FEMA attributes fire outbreak at Canadian High Commission in Abuja to tanker explosion,  November  06,  2023

     Reuters.com, Explosion at Canadian embassy in Nigeria kills two,  November  08,  2023

     International.gc.ca, Statement by High Commission of Canada on investigation into cause of explosion on November 6, 2023,  November  14,  2023

     Arise.tv, Two Dead in Inferno at Canadian High Commission in Abuja,  November  07,  2023

     Thecable.ng, Fire outbreak: Canadian high commission suspends Nigeria operations,  November  08,  2023

     Bbc.com, Canada issue travel alert, suspend operations for Nigeria afta fire incident for dia embassy,  November  06,  2023

     Daybreak.ng, How Generator Explosion Claims Two Lives at Canadian Embassy in Abuja, FEMA Reveals,  November  07,  2023

     Channelstv.com, UPDATED: Two Dead, Others Hospitalised As Fire Guts Canadian High Commission In Abuja,  November  07,  2023


後 記: ナイジェリアで起こった事故でタンク容量は2KLと比較的小さいのですが、カナダ高等弁務官事務所という特別なところで起こり、しかも死傷者が4名も出る事故だったので、調べることとしました。その際、“FEMA” という略号の機関が現れます。 このブログでもたびたび出てくる“FEMA”Federal Emergency Management Agency of the United States;アメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁)がなぜ出てくるのか疑問でした。米国大使館が近所にあるので、その関係かなと思っていましたが、実はナイジェリアの“連邦首都特別地域緊急事態管理局(Federal Capital Territory Emergency Management AgencyFEMAだということがわかりました。知らないことはいっぱいありますね。