このブログを検索

2020年4月29日水曜日

沖縄の米軍普天間飛行場の泡消火剤流出事故で立入り調査

 今回は、2020年4月10日(金)に在日米軍普天間飛行場内の格納庫の消火システムが作動して泡消火剤が放出され、基地外へ流出した事故について日本側が初めて立入り調査を行ったことについて紹介します。事故当時の状況は沖縄の米軍普天間飛行場から泡消火剤が市内に大量流出」(2020年4月17日)を参照。
              3回目の立入り調査  写真はTwitter.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、沖縄県宜野湾市(ぎのわん・し)の米軍普天間飛行場内にある格納庫である。
            普天間飛行場付近 (写真はGoogleMapから引用)
(写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2020年4月10日(金)午後4時40分頃、普天間飛行場内の格納庫の消火システムが作動して泡消火剤が放出され、基地外へ流出した。

普天間飛行場から基地外へ流出する泡消火剤
510日)基地内に米軍の消防車が複数台見える
(写真はRyukyuheiwa.blog.fc2.comから引用)  
■ 泡消火剤は、普天間飛行場から宜野湾市真栄原(まえはら)側へ延びる雨水排水用の水路を通じて漏れた。水路の水は下水処理されず、比屋良川(ひやらがわ)を通って牧港湾(まきみなと・わん)につながっている。水路の隣にある第2さつき認定こども園では、同日午後5時頃、園児たちが「トックリキワタの綿が飛んでいる」と騒ぎ、泡に気付いた。園長は触れないよう指示し、園児約130人を保育室内に集めた。側溝からは薄いカルキ臭がしたが、体の不調を訴える園児や職員はいなかったという。

■ 宜野湾市には同日午後5時30分頃、米軍から連絡があった。米軍は沖縄防衛局に対し泡消火剤は有害な有機フッ素化合物の一種であるPFOS(ピーホス)と呼ばれるペルフルオロ・オクタン・スルホン酸を含んでいると説明したが、漏れた量や場所、原因は明らかにしなかった。

■ 沖縄防衛局は同日、事故現場に職員を派遣し、原因究明と再発防止策の徹底を米軍へ申し入れたという。宜野湾市は、沖縄防衛局、外務省沖縄事務所、沖縄県に対し、泡消火剤を早急に回収することと事故原因の究明を申し入れた。一方、沖縄県はメディアからの問い合わせを受けて沖縄防衛局に事実関係を照会し、午後6時過ぎに事故を把握した。

■ 発生から一夜明けた4月11日(土)、宜野湾市嘉数(かかず)と大謝名(おおじゃな)の間を流れる宇地泊川(うちどまり・がわ)で大量の泡消火剤が確認された。消火剤の泡は風にあおられ、川周辺の公道や住宅街に拡散した。市消防本部が川で除去作業に当たったが、量が多すぎたため断念した。米軍は飛行場外の除去作業をせず、大量の消火剤が除去されないまま放置されている。夕方になって河川を見に来た近くの40代女性は、「きょうはお天気だったけど、こわくて洗濯物を干すのはやめた。まだ泡が残っているのを見てますます不安になった。自然にもどんな影響があるのか」と話した。 
写真は、左;Ryukyushmpo.jp右;Headlines.yahoo.co.jp02から引用)
被 害
■ 米軍内の泡消火システムが作動し、泡消火剤が流出し、一部が普天間飛行場の構外へ流れた。
 流出量は、消火剤原液ではなく、水で薄めた量で、全体量が約227,100リットル(227KL)で、基地内で回収したのは約83,270リットル(83.2KL)だった。全体の6割以上の143,830リットル(143.8KL=200リットル入り入りドラム缶719本分)が基地外に流れ出た。 

■ 泡消火剤が宜野湾市の河川や海に流出し、環境汚染を起こした。
 宜野湾市消防本部が一部を回収した量は250リットルだった。

■ 事故に伴う負傷者の発生はない。

< 事故の原因 >
■ 事故の原因は調査中である。

■ 2020年4月17日(金)、在日米軍海兵隊は流出要因について、つぎのように述べた。
 「何かが格納庫内の泡消火システムを起動させ、漏れが起こった。そして、泡が雨水排水系を通って基地の外に移動してしまった」

< 対 応 >
■ 4月16日(木)、日本の防衛相は参院外交防衛委員会で、米側に厳重に抗議したことを明らかにした。日米両国が2015年に締結した「環境補足協定」に基づき、基地への立入り調査を求めた。環境に影響する事故で立入りを要請するのは協定締結後初めてである。
 同日午後、防衛省、外務省、環境省の現地職員6人が普天間飛行場に立入り、約1時間半にわたり泡消火剤が漏れた現場や周辺の状況を確認し、泡消火剤の保管状況や基地外に流出した経路などについて、米軍側の説明を受けたという。本来は閉じているはずの格納庫の扉が、事故当時、開いたままになっていたため、外に漏れ出す量が多くなったという。 
 なお、4月16日(木)の立入り調査について防衛省は沖縄県に伝達せずに実施したが、防衛相が「われわれのミスだ」と陳謝している。

■ 4月17日(金)、泡消火剤が普天間飛行場の外へ流れ出た事故を受け、沖縄県は副知事と県職員の計3人が普天間飛行場内を視察した。普天間飛行場から有害な有機フッ素化合物の一種であるPFOS(ピーホス)と呼ばれるペルフルオロ・オクタン・スルホン酸を含む泡消火剤が、何らかの原因で基地の外へ流れ出たことについて米軍に強く抗議した。
 視察を終えた副知事は、「(米軍側から)県民に大きな不安を与えたことをお詫び申し上げるとお詫びの言葉がありました。徹底した原因究明とそれをもとにした再発防止策を透明性を持って県や国に報告したい」と説明したという。沖縄県は、次週にも、日米地位協定の環境補足協定に基づく基地内の立入りを行う予定である。
          沖縄副知事に説明を行う在日米軍517日) (写真はTwitter.comから引用)
        沖縄県副知事による普天間飛行場の視察517日)   (写真はWhs.milから引用)
■ ワシントン本部サービス(Washington Headquarters Services;WHS)によると、4月17日(金)の午後、沖縄副知事が普天間飛行場での流出現場を視察したが、副知事の訪問目的は、普天間飛行場から水成膜泡(AFFF)が放出された航空機格納庫の場所を確認することだった。視察では、在日米軍普天間飛行場司令官が流出についてミーティングでつぎのように説明した。
 「この事故では、薬剤と水の混合液が約60,000ガロン(227,000リットル)で、薬剤原液は1,200ガロン(4,540リットル)でした。基地から流出したのは、約38,000ガロン(143,800リットル)と推定しています。これに触れても危険ではありませんが、そうすることは避けるべきです。在日米軍普天間飛行場の長としては、流出の原因を特定するために徹底的な調査を行っています。そして、調査が終了して最終的な報告書の中で述べられる推奨事項に基づいて、将来、同種の事故が発生する可能性を減らすための対策を実施する予定です」

 ミーティング後、日本と在日米軍普天間飛行場の当局者は、流出現場に移動し、泡が発生した格納庫を訪れた。また、AFFFが駐機整備区域から雨水排水系に流れた場所を確認することもできた。司令官は、水と混合した水成膜泡(AFFF) は、雨水排水系に入るのを防ぐために、各種吸収材を使用した応急措置や宜野湾消防署が回収した泡消火剤を適切な処分法を待っている間、普天間飛行場に保管することなど実施したクリーンアップ作業と軽減策を説明した。

 在日米軍普天間飛行場司令官は防止策について、つぎのように説明した。
 「私たちは、遺物のような泡薬剤を、軍の消火用仕様を満足し、より環境にやさしい代替品に置き換える過程にあり、米国海軍長官からの指導に従っています。米国は、日本環境管理基準( Japan Environmental Governing Standards)と国防総省の指示に準拠するように努力しています」

2さつき認定こども園の遊具を
清掃する沖縄防衛局の職員ら
(写真はRyukyuheiwa.blog.fc2.comから引用)
■ 4月18日(土)、沖縄防衛局は、普天間飛行場に隣接する保育園で、飛散した泡が付着した恐れのある砂場の砂を数十cm掘って取り除き、新しい砂に交換した。泡の大量流出があった宇地泊川(比屋良川)では4月17日(金)に続いて草刈りをし、流水で川沿いの柵などを洗った。

■ 4月21日(火)、防衛省は、沖縄県と宜野湾市とともに計10人で同飛行場への立入り調査を実施した。泡消火剤の流出経路とみられる滑走路南側沿いにある排水路3か所で水(計4リットル)を採取した。防衛省は今回採取した水を専門的に分析し、汚染の度合いなどを調査する。午後4時に基地内に入り、午後7時頃まで調査した。米軍から事故原因などの説明はなかったという。
 宜野湾市長は記者団に「協定にやっと実効性が出てきた。米軍がそれだけ重大な事故だと捉えていると理解している」と述べた。21日(火)の調査には、専門業者や外務省、環境省職員も参加した。沖縄県は水質だけではなく土壌調査も求めており、防衛省は今後も普天間への立入りを米側に求めていく方針だ。
水路付近を調査する宜野湾市長ら521日立入り)
(写真はRyukyushmpo.jpから引用)
             水のサンプル採取521日立入り)  (写真はTwitter.comから引用)
流出した格納庫と水のサンプル採取地点
(図はMainichi.jpから引用)
■ 4月23日(木)、外務省によると、米側は在日米軍の調査チームによる調査結果を日本側と共有する、と約束したという。外務省によると、普天間飛行場の米軍司令官は深く謝罪し、原因究明について日本側と連携していく意向を示したという。

■ 4月24日(金)、防衛省は、沖縄県と宜野湾市とともに同飛行場への3回目の立入り調査を実施した。在日米軍が、4月23日(木)に「汚染の疑いがある土壌の入れ替えをする」と通知してきたため、防衛省、沖縄県と宜野湾市は、環境補足協定に基づく立入り調査という形で立ち会った。泡消火剤が流出した格納庫周辺で、米軍による土壌の入れ替え作業が行われた。米軍が土壌を除去したのは、滑走路南端近くの格納庫周辺である。泡消火剤が漏出した可能性のあるエリアとして約65㎡(深さ約15cm)の土壌を取り除いた。重機で掘り起こし、土囊(どのう)に入れてから箱に詰め、「適切に処理する」と話したという。沖縄県は協定の締結時に交わされた日米合同委員会合意に基づき、基地内の土壌をサンプル調査できるよう沖縄防衛局を通じて申請していたが、米側は日米間の調整がつかなかったとして拒否した。
                   土壌の入れ替え524日立入り)  (写真はTwitter.comから引用)
              土壌の入れ替え作業524日)   (写真はTwitter.comから引用)
              土壌の入れ替え作業524日)   (写真はTwitter.comから引用)
流出のあった格納庫と土壌入れ替えを行ったエリア(矢印)
(写真GoogleMapから引用)
■ 4月24日(金)、沖縄県知事は立入り調査が行われたことについて、「協定の実効性確保が非常に重要だ。抜本的な解決方法として、国内法を適用するなど、日米地位協定の見直しを日米両政府に働き掛けたい」と述べた。

■  米軍は、これまで在日米軍基地内で発生した環境汚染について積極的に公表しなかった。しかし、今回の流出事故は明らかに泡消火剤が普天間飛行場から流出し、飛散したものであることが確認され、日米地位協定の環境補足協定に基づく立入りを米軍が初めて認めざるを得ない状況になった。宇地泊川で飛散した泡を回収することなく、放置した米軍の責任も重く問われている。

■ 普天間飛行場から流出した事故を受け、琉球新報社は4月11(土)~13日(月)に付近の河川など5地点から水を採取し、京都大の環境衛生学教授に有機フッ素化合物含有の分析を依頼していたが、4月24日(金)に結果が出た。
 その結果、地下水汚染を判断する米国の暫定指標値PFOS・PFOA合計40ナノグラム(1リットル当たり)の6倍に当たる247.2ナノグラムが宜野湾市の宇地泊川で採取した水から検出されるなど、4地点で多量の有機フッ素化合物が検出された。米軍が泡消火剤への含有を認めているPFOSのほかにも、PFOAやPFHxSなどの有機フッ素化合物が高濃度で検出された。
 一般的な河川水などのPFOS・PFOAの合計含有量は1リットル当たり10ナノグラム程度であり、日本国内では環境省の諮問機関・中央環境審議会の専門委員会が暫定指針値として1リットル当たり50ナノグラムを提案しているが、今回検出された値はそれらを大幅に超えている。
有機フッ素化合物PFOSPFASが検出された地点
(写真はRyukyushmpo.jpから引用)
■ 事故が起こる約2か月前の2020年2月7日(金)、防衛相は、自衛隊が保持する有機フッ素化合物PFOS(ピーホス)を含む泡消火薬剤が約394,000リットルだったと公表した。防衛相は、同日、自衛隊がこれらの泡消火薬剤を、原則、2021年の年度末までに撤去する計画を発表した。同省は国が目標値を定める予定の有機フッ素化合物PFOSやPFOAを含む泡消火薬剤は使用しない方針である。
 一方、新たな泡消火薬剤に関して同省は、「流通している製品は何らかの有機フッ素化合物を含んでいる」としており、環境影響への懸念は完全に払拭(ふっしょく)されていない。

補 足
■「沖縄県」は、九州地方に位置し、日本で最も西にあり、沖縄本島、宮古島、石垣島など多くの島々から構成される人口約145万人の県である。
 「宜野湾市」(ぎのわん・し)は、沖縄本島中南部の中央に位置し、県庁所在地の那覇市から北東約10kmにあり、人口約98,600人の沖縄県第5の都市である。

■「普天間飛行場」(ふてんま・ひこうじょう)は、在日米軍海兵隊の軍用飛行場である。通称は普天間基地といい、2,800mの滑走路を有し、嘉手納基地(かてな・きち)と並んで沖縄における米軍の拠点となっている。面積は約4.8km2で、市域の約25%に相当する。飛行場は航空基地として総合的に整備されており、滑走路のほか、駐留各航空部隊が円滑に任務遂行できるための諸施設として格納庫、通信施設、整備・修理施設、部品倉庫、部隊事務所、消防署、PX(売店)、クラブ、バー、ボーリング場、教会、診療所などが存在する。滑走路の西側には、司令官の庁舎や兵隊の宿舎等が配置され、 東側には、格納庫、消防署等がある。

■「格納庫(かくのうこ; Hangar)は、航空機やヘリコプターを風雨や砂塵などから守り、整備や補給、待機などを行う格納施設である。一般に鉄骨構造であるが、軍用格納庫の中にはコンクリート製や簡易テントなどがある。普天間飛行場では、3か所複数棟の格納庫があり、立入り調査によって南端にある格納庫で泡消火剤が放出したことが分かった。普天間飛行場の南端にある格納庫は、第2さつき認定こども園から300~400mの距離である。

■ 石油に使用される「泡消火薬剤」は消防法やISO規格によって規定されており、成分構成による分類と定義を表に示す。
■ PFOS(通称ピーホス)と呼ばれる「ペルフルオロ・オクタン・スルホン酸」(有機フッ素化合物の一種)は低分子化合物であり、高い親水性・親油性により界面活性能がよく、高い起泡性を持つ。このことから消火剤(水成膜泡消火薬剤など)に使用されていた。
 2009年5月にジュネーブで開催された「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)」の第4回締約国会議(COP4)を受け、日本国内では、化審法(化学物質の審査及び製造等の規制に関す る法律)が2009年10月にPFOSなど12物質を「第一種特定化学物質」に指定し、製造・輸入の事実上禁止となった。残留性有機汚染物質(Persistent Organic Pollutants;POPs)は、毒性が強く、難分解性、生物蓄積性、長距離移動性、人の健康または環境への悪影響を有する化学物質で、人の健康と環境を保護することを目的として検討され、締結されたものである。

 当時、日本でPFOS(ピーホス)と呼ばれるペルフルオロ・オクタン・スルホン酸を含む泡消火薬剤は表に示すとおりである。ただし、技術基準を遵守することで、 当分の間、既設の使用は認められることとなっている。また、火災時等災害時の使用(放出)については、 化審法上の技術基準は設けていないので、規制はない。
 環境省などはPFOSを含有しない泡消火薬剤へ順次切り替えることを推奨しているが、総合点検時に放射が不要になったこと、交換に要するコストが大きいことの理由により薬剤の交換が進んでいないのが現状である。
(表はShosoko.or.jpから引用)
■ 流出した泡消火剤は水成膜泡(AFFF)だと分かった。米国で水成膜泡(AFFF) のメーカーとしては3M社で製造していたライトウォータが有名であったが、2002年に製造を中止している。しかし、この泡消火剤は米国だけでなく、国内でも使用されている。

■ 日米地位協定の「環境補足協定」 は2015年年9月に署名が行われたが、日米地位協定締結から55年を経て初めての取組みである。 「環境補足協定」の概要はつぎのとおりである。
(1) 情報共有・・・両国は、入手可能かつ適当な情報を相互に提供する。
(2) 環境基準の発出・維持・・・米側は、「日本環境管理基準(JEGS)」を発出・維持し、同基準は、両国または国際約束の基準のうち、最も保護的なものを一般的に採用する。これは漏出への対応・予防に関する規定を含む。
(3) 立入り手続の作成・維持・・・日本の当局が次の場合に米軍施設・区域への適切な立入りを行えるよう手続を作成・維持する。
  (ア)環境に影響を及ぼす事故(漏出)が現に発生した場合。
  (イ)施設・区域の返還に関連する現地調査(文化財調査を含む)を行う場合。
(4) 協議・・・ 環境補足協定の実施に関するいかなる事項についても、一方からの要請により、日米合同委員会での協議を開始する。

■ 「日本環境管理基準」(Japan Environmental Governing Standards ;JEGS)」は、在日米軍が施設・区域内の環境管理を行うに当たって作成したものである。日本環境管理基準は、米国防省が策定した基準に沿って、環境に関する日本の国内法上の基準と米国の国内法上の基準のうち、より厳格なものを選択するとの基本的な考え方の下に作成されている。

■「航空機格納庫の泡消火設備」は、石油貯蔵タンクの火災で一般的に用いられる低発泡泡でなく、膨張比(発泡割合)が500:1程度の高発泡泡が使用される。高発泡用泡放出口を有し、膨張比が高いものほど軽くなるため積泡しやすくなり、防護対象の表面を一気に被覆したり、防護対象の空間を埋め尽くして、消火や抑制できる。一方、高発泡泡は風に飛ばされやすくなるが、航空機格納庫のようなところでは有効である。格納庫における高発泡泡消火設備の放射テスト例を写真に示す。
        格納庫の泡消火設備の放射テストの例 (写真はGielle.itから引用)
所 感
■ 今回の立入り調査で分かったことは、つぎのとおりである。
 ● 事故のあった格納庫は普天間飛行場の南端に位置する格納庫だった。
 ● 流出した泡消火薬剤は水成膜泡(AFFF)で、薬剤原液は4,540リットルだった。
    (前回の所感では、 2,300~6,800リットルと推定していた)
   従って、原液中のPFOS(ピーホス)の含有量を1%と仮定すれば、45リットルのPFOSとなる。

 ● 事故で放出した泡消火剤は、薬剤と水の混合液が227KLだった。
   従って、薬剤と水の混合率は2%となる。通常、水成膜泡(AFFF) は薬剤と水の混合率が3%または6%で使用されるので、放出した泡消火剤は薄めで形成されている。
 ● 事故当時、米軍は雨水排水系に入るのを防ぐために、各種吸収材を使用した応急措置を実施した。しかし、全量のおよそ63%にあたる約143KLが基地外へ流出しており、この吸収材の使用による応急措置は効果が薄かった。一方、泡消火システムは高発泡の泡で放出したのではなく、薬剤と水の混合液(混合率が2%)のまま放出したのではないかとみられる。

 ● 従って、前回の所感で挙げた格納庫の泡消火システムの作動要因の中で、つぎの項目は無いと思う。
   ×格納庫内の航空機(またはヘリコプターなど)が火を出して、泡消火システムが作動した。
   ×米軍関係者がいたずら(故意の過失)で泡消火システムを作動させた。
   ×定期の泡消火テストを実施した。
   ×使用期限切れの泡消火薬剤を交換する際、意図的に泡消火テストを実施した。
 これらのことから、泡消火システムが故障し、薬剤と水の混合だけの(誤)作動ではないだろうか。

■ 過去の高発泡の泡を放出した事例とは異なる事故であると思う。これまで在日米軍基地内で発生した事故や環境汚染は積極的に公表しなかったが、格納庫の泡消火システムに関わる事例として報告書が公表されることを期待したい。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
   ・Nikkei.com, 普天間へ立ち入り、水採取 消火剤流出で防衛省調査,  April  21,  2020
    ・Asahi.com,  普天間飛行場に2度目の立ち入り 消火剤流出事故,  April  23,  2020
    ・Ryukyushimpo.jp,  普天間3地点で水採取 泡消火剤流出 国・県・市が初の立ち入り,  April  22  2020
    ・Sankei.com,  米軍普天間飛行場へ3回目立ち入り 防衛省、泡消火剤流出で,  April  24,  2020
    ・Ryukyushimpo.jp,  事故の影響表れた」 国指針案5倍に県 泡消火剤流出,  April  24  2020
    ・Nhk.or.jp,米軍基地 消火剤流出事故  日本側が初の環境立入調査,  April  17,  2020
    ・This.kiji.is, 保育園の砂を交換 泡消火剤の大量流出で 泡が付着した恐れ,  April  19,  2020
    ・Stripes.com, Marine general apologizes for massive firefighting foam leak on Okinawa; Japan officials want answers,  April  17,  2020
    ・Military.com, Marine general apologizes for massive firefighting foam leak on Okinawa,  April  17,  2020
    ・Whs.mil, US Marines host Okinawa Vice-Governor Jahana,  April  17,  2020
    ・Stripes.com, Marines grant Japan’s request to collect water samples after firefighting foam leak on Okinawa,  April  23,  2020
    ・Dvidshub.net, US Marines host Okinawa Vice-Governor Jahana,  April  17,  2020
    ・Okinawatimes.co.jp, 自衛隊、21年度までにPFOS処理へ 泡消火薬剤約39万リットル保有,  February  7,  2020
    ・Asahi.com, 普天間消火剤流出、米軍が土壌除去 県・市には提供せず,  April  24,  2020
    ・Mainichi.jp, 泡消火剤流出 放置の米軍に重い責任/沖縄,  April  25,  2020
    ・Ryukyushimpo.jp, 米軍、土壌採取を拒否 県申請に「調整つかず」 泡消火剤流出,  April  25,  2020
    ・Ryukyushimpo.jp, 普天間流出の泡消火剤に多量有害物 宇地泊川で米指標の6倍超 本紙・京大調査,  April  24,  2020
    ・Qab.co.jp, 米軍泡消火剤流出事故 県が基地内視察し抗議,  April  17,  2020


後 記: 今回の立入り調査について沖縄や日本の主要メディアが報じるのは当然でしょう。しかし、目立ったのは、米国の軍関係の報道メディアが積極的だったことです。 Washington Headquarters Servicesのほか、 Stars&Stripes、 Military.com、 Dvidshub.netなどが報じていますし、在日海兵隊のツイッターで多くの写真が投稿されています。このあたりは、さすが情報や記録好きな米国だと感じました。一方的な米軍側の見方の記事ですが、日本国内のメディアが普天間飛行場に入れない中で非常に参考になりました。事実らしいことが分かると、さらに疑問が出てきますが、今後の進展(事故報告書の公表、日米地位協定の見直し)を期待したいと思います。
(表はRyukyuheiwa.blog.fc2.com から引用)


2020年4月24日金曜日

神奈川県の東亜石油の重質油熱分解装置で火災(原因)


 今回は、 2019年12月24日(火)、神奈川県川崎市にある東亜石油(株)京浜製油所の重質油熱分解装置(フレキシコーカー装置)で起こった火災事故の原因について紹介します。貯蔵タンクの事故ではないですが、年末の首都圏で起きた事故でテレビでも取り上げられ、当ブログでも「神奈川県の東亜石油の重質油熱分解装置で火災、負傷者1名」として紹介しましたので、区切りとして掲載します。
(写真はSankei.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 発災があったのは、神奈川県川崎市川崎区水江町にある東亜石油(株)の京浜製油所である。

■ 事故があったのは、重油を熱分解して付加価値のあるガソリンなどを取り出す重質油熱分解装置(フレキシコーカー装置)である。事故のあった装置は、3年に一度行われる2か月間の定期点検を終えて12月から再稼働していた。
            川崎市川崎区水江町付近(矢印が発災場所) (写真はGoogleMapから引用)
      川崎市水江町の東亜石油(株)重質油分解装置付近 (写真はGoogleMapから引用)
<事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2019年12月24日(火)午前7時05分頃、東亜石油京浜製油所の重質油熱分解装置(フレキシコーカー装置)で火災が発生した。

■ 消防署には、東亜石油の設備で煙があがっているという通報が相次いで寄せられた。黒煙は、一時、大量に立ち昇った。
(写真はNhk.or.jp から引用)
■ 発災に伴い、自衛消防隊と消防署の消防隊が消火に当たった。公設消防署は消防車16台が出動した。

■ 事故に伴い、従業員1名が負傷した。負傷は手首と足に火傷を負ったもので、病院に搬送され、治療を受けたが、意識はあるという。負傷した人は「作業中に重油を浴びた」と話しているということで、火傷の程度は重いとみられる。当時、装置を担当する部署の従業員は十数人いたという。

■ 発災に伴い、東亜石油(株)は関連の装置を停止した。ガソリン、軽油、灯油などの石油製品の出荷は停止しているが、在庫や他の製油所から代替供給しており、石油製品供給への影響はないという。

■ 東亜石油(株)は、24日(火)、事故発生の状況とともに、近隣住民や取引先などへのお詫びを同社のウェブサイトに発表した。

■ 火災は、約3時間半後の24日(火)午前10時45分に鎮火した。

■ 現場は、羽田空港国際線ターミナルの南西約4.5kmのところにあるが、国内線・国際線ともに運航への影響はなかった。
 (写真はAasahi.comから引用)
被 害
■ 人的被害として、1名が負傷した。

■ 重質油熱分解装置の一部が焼損した。範囲や程度は不詳である。

< 事故の原因 >
■ 2020年4月21日(火)、東亜石油は、火災の発生原因について、重質油熱分解装置(フレキシコーカー装置)において漏洩した油が静電気により着火し、火災に至ったことを発表した。詳細については公表されていない。

< 対 応 >
■ 消防署など関係機関が調査を行った。しかし、その内容は公表されていない。

■ 東亜石油の装置は40年以上にわたって使用されており、1991年に同様の火災が1件発生していたという。 

■ 2020年4月21日(火)、東亜石油は、火災事故により稼働を停止していた京浜製油所の復旧工事が4月7日(火)までに完了し、4月20日(月)に 全装置の稼働を再開したと公表した。

補 足
■「川崎市」は神奈川県北東部に位置する政令指定都市で、7区の行政区をもつ人口約153万人の市である。

「東亜石油(株)」は、1924年に日本重油株式会社として設立し、1942年に日米砿油を合併し、東亜石油株式会社に社名を変更した石油会社である。その後、共同石油グループ、昭石シェル石油グループを経て、現在は出光興産の子会社である。
「京浜製油所」は、原油精製能力70,00バレル/日で、分解装置装備率が高く、一般的な製油所が処理する原油だけでなく、他製油所から重質原料油(原油を処理した後に発生する残渣油)を受け入れ、処理することができる。装置の構成は図を参照。
         東亜石油京浜製油所の装置構成 (図はToaoil.co.jpから引用)

(表はPref.chiba.lg.jpから引用)
■「重質油分解装置」は、C重油基材やアスファルトの原料である減圧残渣油を高温で熱分解し、付加価値の高い白油(ガソリン、灯油、軽油)を生産することができる。装置はフレキシコーカーと称し、日本では東亜石油の装置が唯一の設備であり、40年以上の稼働実績がある。
 フレキシコーカーは分解率(白油化指数)が98%と分解装置の中では最も高い。日本で多く見られる流動接触分解装置(FCC)の2層流動層に足して、コークのガス化(燃料化)を目的に3層流動層のプロセスとなっている。しかし、分解油の安定性が悪くコークス・低カロリーガス等の処分の課題があり、なかなか選択されにくい。この点を改善するため、東亜石油では、2003年に水江発電所を建設し、副生される燃料を有効活用する電力供給事業に参画している。
                  フレキシコーカーの例 (図はSlideserve.comから引用)
                 重質油の処理プロセス (表はPref.chiba.lg.jpから引用)
          東亜石油(株)の水江発電所の構成 (図はToaoil.co.jpから引用
■ 事故原因は、「重質油熱分解装置(フレキシコーカー装置)において漏洩した油が静電気により着火」としか発表されていないが、同種の装置で起こった火災事故には、つぎのような事例がある。

所 感
■ 火災の原因は、重質油熱分解装置(フレキシコーカー装置)において漏洩した油が静電気により着火し、火災に至ったという。発災箇所は重質油分解装置というだけで、どの部分から発災したか発表されていない。
 前回の所感では、「負傷した人が作業中に重油を浴びたと語っているようなので、重質油分解装置の原料配管または塔底部ではないだろうか。定期点検を終えて12月から再稼働していたというので、装置立ち上がりの高温移行時のフランジなどからの漏れではないかと思われる」と書いた。
 今回の発表をみると、腐食やエロ―ジョンなど重大な欠陥は無かったとみられ、上記の推測で間違いないと思う。ただ、 40年以上の稼働実績があるのに、なぜホット・ボルティングやガスケットの締付け管理などの作業に抜けが出たかの疑問は残る。

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Okinawatimes.co.jp,川崎の製油所で火災、男性やけど 東亜石油、重油分解装置から出火, December  24,  2019
    ・Toaoil.co.jp,  当社 京浜製油所の火災発生について(第二報), December  24,  2019
    ・Tokyo-np.co.jp,  川崎の製油所で火災、男性やけど 東亜石油、重油分解装置から出火, December  24,  2019
    ・Jiji.com, 石油工場で火災、1人負傷 重油分解中に出火か―川崎, December  24,  2019
    ・Sankei.com,  出光、川崎のコンビナート火災で陳謝, December  24,  2019
    ・Nhk.or.jp, 石油精製設備で火災 煙は収まる 社員1人重いやけど 川崎, December  24,  2019
    ・Kanaloco.jp, 製油所の工場から出火、男性1人重傷 過去にも同様の火災, December  24,  2019
    ・Asahi.com,  川崎の石油工場で火災 30代の男性1人がけが, December  24,  2019
    ・Toaoil.co.jp,  当社 京浜製油所の運転再開について(最終報), April  21,  2020
   

後 記: 今回の事故は首都圏で年末に起こったものでした。しかし、それから4か月しか経っていませんが、世の中は大きく変貌しました。東京など新型コロナウイリス感染者が多い地域だけでなく、いまだに感染者ゼロの県を含めて全国に緊急事態宣言が出されました。わたしの住んでいる山口県は、現在、感染者が31名ですが、ほとんどが県外へ行った人が帰ってきてうつしています。県内外からの移動自粛要請が出され、わたしもどこにも行っていません。石油製品の需要が落ち、ガソリン価格は11週連続で下落しています。こんな中で、東亜石油は全装置の稼働を再開したと発表しました。玉手箱をあけた浦島太郎のような状況ですね。
 ところで、通常、緊急事態宣言は“発令” または“発動”されますが、今回は“発出”だそうです。なじみの無い官僚用語(?)なので、辞書で調べると、“起こること”とあり、ある物事や状態が現れ出ることだそうです。オブラートで包んだ他人事のような緊急事態の宣言だという気がします。