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2023年3月28日火曜日

メキシコの地下石油備蓄基地で爆発・火災、死傷者8名

 今回は、2023223日(木)、メキシコのペメックス社の地下石油備蓄基地であるトゥザンデペトル戦略貯蔵センターにおいて8名の死傷者を出した爆発・火災事故を紹介します。


< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、メキシコ(Mexico)のベラクルス州(Veracruz)イシュアトラン市(Ixhuatlán)にある国営石油会社であるペメックス社(Pemex)のトゥザンデペトル戦略貯蔵センター(Tuzandépetl Strategic Storage Center)である。トゥザンデペトル戦略貯蔵センターは、ペメックスの国内最大の原油貯蔵施設で、地下岩塩層タンクである。貯蔵センターには、石油を貯蔵する地下岩塩層タンクが14 基あり、そのうちの2基は2021年に建設された。

■ 事故があったのは、戦略貯蔵センターの地下岩塩層タンクの地上設備である。



<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 2023223日(木)午後340分頃、ペメックス社のトゥザンデペトル戦略貯蔵センターで爆発・火災が起こった。

■ 現場では、巨大な黒煙が空高く立ち昇った。黒煙は数km離れた遠いところからも見ることができた。

■ 爆発後に起きた火災の炎は全方向に少なくとも 500mに広がっていたため、貯蔵センターの構内にいた人は必死になって逃げた。

■ 発災に伴い、ペメックス社の自衛消防隊が現場に出動した。地域相互応援協定を構成する25社の石油・化学会社のうち5社が、消防活動を支援するために、救急車を備えた消防隊と医療部隊を派遣した。 

■ 事故に伴い、行方不明者が5名出たほか、負傷者が3名発生し、病院に搬送された。負傷者はいずれも重度の火傷を負っていた。 

■ 当局は、予防措置として現場から2kmに位置するベラクルス南東部工科大学に避難指示を出した。この近くの住民少なくとも100世帯が避難した。

■ ペメックス社によると、戦略貯蔵センター内に設置されたリグ(作業櫓)が原因不明の爆発を起こしたという。リグの近くにいた5名の作業員が行方不明になった。当時、トゥザンデペトル‐331のキャビティ(空洞)の保守作業を実施していたPM-119のリグ(作業櫓)で火災が発生したという。

■ 一部のメディアが報じているのだが、別な作業員によると、トゥザンデペトル‐331のキャビティ(空洞)の保守作業を実行するために、内部の原油は空にされていたという。しかし、発災後に他のキャビティに影響が至ったため、火災が広がったという。一方、キャビティ1基は容量100 万バレル(16KL)だったが、燃えたのは 1 基だけだったと報じているところもある。

■ 225日(土)、行方不明だった作業員のうち2名の遺体が回収され、34日(土)、火災の焼け跡から残りの3名の遺体が回収された。

■ 発災の状況は、ユーチューブに投稿されている。

 YouTubeExplota almacén de petróleo de Pemex en Veracruz2023/2/24

 ●YouTubeAsí iniciaron las explosiones en las instalaciones de Pemex, en Veracruz2023/2/25





被 害

■ トゥザンデペトル戦略貯蔵センターのリグ(作業櫓)が焼損したほか、関連の地上設備が焼損した。

■ 岩塩層内の石油が噴出して焼失した。

■ 死傷者が8人発生した。内訳は死亡者5人、負傷者3人だった。

■ 近くの大学や住民が避難した。

< 事故の原因 >

■ 戦略貯蔵センターのトゥザンデペトル‐331のキャビティ(空洞)の保守作業を実施していたPM-119のリグ(作業櫓)が何らかの要因で火災が発生し、爆発を起こしたとみられる。

< 対 応 >

■ 消防隊の消火活動には、消火泡と水が使用された。

■ 火災は223日(木)午後9時頃に鎮圧された。 

補 足

■「メキシコ」(Mexico)は、正式にはメキシコ合衆国で、北米の南部に位置し、北は米国と接する人口約129百万人の連邦共和制の国である。

「ベラクルス州」(Veracruz)は、メキシコの南部に位置し、メキシコ湾を面した人口約806万人の州である。

「イシュアトラン市」(Ixhuatlán)は、ベラクルス州の中部の位置し、人口約20,000人の都市である。

■「ペメックス社」(Petroleos Mexicanos Pemex)は1938年に設立された国営石油会社で、原油・天然ガスの掘削・生産、製油所での精製、石油製品の供給・販売を行っている。ペメックス社はメキシコのガソリンスタンドにガソリンを供給している唯一の組織で、メキシコシティに本社ビルがあり、従業員数約138,000人の巨大企業である。

 ペメックス社の関連事故は、つぎのような事例を紹介した。

 ● 20147月、「メキシコのペメックス社でタンク火災、負傷者も発生」

 ● 20147月、「メキシコで原油パイプラインからの油窃盗失敗で流出事故」

 ● 20173月、「メキシコのペメックス社の石油ターミナルで爆発、死傷者8名」

 ● 20176月、「メキシコのペメックス社の製油所で浸水による火災で死傷者9名」

 ● 20178月、「メキシコの石油パイプラインで油窃盗中に爆発、死傷者6名」

 ● 20191月、「メキシコの石油パイプラインで違法な油採取中に爆発、死者99名」

 ● 20217月、「メキシコ・ペメックス社のタンクターミナルで落雷によるリムシール火災」

■「トゥザンデペトル戦略貯蔵センター」(Tuzandépetl Strategic Storage Center)は、1986年にプロジェクトが始められ、貯蔵する岩塩層の洞窟を作るために井戸が掘削され、1992年に原油の貯蔵を開始した。その後、貯蔵容量は840万バレル(133KL)で、12基の岩塩層の洞窟が建設された。マヤ原油用の6基、イストモ原油用の4基、オルメカ原油用に 2基の岩塩層洞窟がある。さらに、2021年に150万バレル(23KL)の岩塩層タンク2基が建設され、300万バレル(47KL)の貯蔵容量が増えた。この内液は液化天然ガス(LNG)という情報もある。

■「地下貯蔵タンク」は、日本では強固な岩盤を掘削する水封式岩盤貯蔵であるが、一般的には様々な種類の地下石油貯蔵施設がある。模式化すると、岩塩層(Salt Caverns)、旧鉱山(Mines)、帯水層(Aquifers)、枯渇貯留層(Depleted Reservoir)、岩盤掘削(Hard Rock Caverns)などである。岩塩層の貯蔵施設の多くはメキシコ湾岸にある塩のドーム層に開発されており、米国、 カナダ、欧州、アジア、オセアニアには燃料を貯蔵するための洞窟が約600以上あるといわれている。


 日本の地下石油備蓄は、従来、原油を地下に備蓄していたが、近年、液化石油ガス(LPG)の備蓄基地もある。建設方法は岩盤掘削方式であり、ユーチューブに建設記録「倉敷国家石油ガス備蓄基地建設の記録 地下岩盤に築く」が投稿されている。

所 感

■ 事故の要因は、戦略貯蔵センターの岩塩層の保守作業を実施していたリグ(作業櫓)が何らかの要因で火災を発生し、爆発を起こしたとみられる。

 今回の事故は、断片的な状況ではあるが、1978年に起きた「米国の岩塩層戦略石油地下備蓄基地の爆発・火災事故」の状況に似ている。(下記の概要を参照) 岩塩層のタンクであること、岩塩層の保守作業を行なっていたこと、リグを操作していたこと、岩塩層の地下タンクから油が流出(噴出)したこと、リグに関わっていた複数の作業員が死傷したことなどである。米国の事故を鑑みると、岩塩層の地下タンクの事故というより、石油掘削作業における事故に類似しており、保守作業の単純ミスや作業手順の不備などが原因だとみられる。

■ 地下石油備蓄基地の火災は稀である。消防活動については動員された消防隊の編成と泡消火が使用されたという情報だけであり、どのような対応(積極的戦略、防御的戦略、不介入戦略)がとられたか知りたいところである。

 火災の状況を写真で見ると、初期の段階は黒煙がひとつになって空に立ち昇っているが、火災の勢いが弱まった状態では、3つの火災源が見られる。消火活動によって収まりつつあるというより、燃料源(火災源)の供給が最盛期より少なくなったと思われる。 

米国ルイジアナ州のウェスト・ハックベリー岩塩層戦略石油地下備蓄基地の爆発・火災事故

■ 1978921日に起きた岩塩層戦略石油地下備蓄基地の爆発・火災事故は、岩塩層に水を入れ岩塩を溶出させ、その中に原油を送入して塩水と置き換える地下タンク方式で、油出口の井戸ケーシング上部から原油が噴出し、爆発・火災となった事例である。井戸ケーシングの取出し作業を行うために設置していたリグ(作業櫓)の作業員2名が死傷し、火災が5日間続いた。

■ 事故のあった岩塩層地下タンクは、高さ153フィート(46m)、最大径839フィート(255m)で天井と底面はほぼ平坦で、容積は1,220万バレル(194KL)だった。岩塩溶出時、16インチ地表ケーシングの長さは1,640フィート(50m)だった。

■ 1978913日に岩塩層の性能を維持する保守作業(ワークオーバー作業)のためにリグ(作業櫓)が井戸に据え付けられた。保守作業は井戸の5‐1/2インチのケーシングの抜出しと、漏洩のあった抗口装置(ウェルヘッド)の修理のためである。 5‐1/2インチのケーシングはブラインの注入または取出しで、抗口装置は事故前の19777月に付けられていた。

 1978921日の事故当日、 5‐1/2インチのケーシングの取出し作業が行われていたが、井戸から14本目のケーシングを取り出した後、 5‐1/2インチのケーシング内のマッドが井戸ケーシング上部から流出し始めた。 5‐1/2インチのケーシングから流出したマッドを作業員では押さえきれず、膨張接触材のバッカーが噴出し、原油が流出し始めた。流出した油のミストとベーパーが空気中に飛散し、リグ(作業櫓)に使用していたディーゼルエンジンの空気取入れ口に吸込まれ、エンジンがオーバースピードを起こした。近くにいた数人の作業員のうち、2人はエンジンを停止しようとし、他の作業員はその場から避難し始めた。エンジンの停止作業を行っているとき、午後355分頃、爆発・火災が起こった。2人の作業員のうちひとりは死亡し、ひとりは重度の火傷を負った。火災現場にいた2人の作業員は火傷を負ったが、車に乗って脱出した。 

■ 事故は石油掘削作業における事故に類似したもので、保守作業(ワークオーバー作業)の単純ミス、作業手順の不備、リグ(作業櫓)の不適格な安全弁、現場における不適格な緊急用装備と防災活動指針が原因であるとしている。事故の内容は「アメリカ岩塩層戦略石油地下備蓄基地の爆発・火災事故報告概要」を参照。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

     Reuters.com,   Pemex hit by fires at three facilities in one day,  February  24,  2023

      Telesurenglish.net, Mexico Reports Fire at Pemex Pipeline in Veracruz,  February  24,  2023

      Tankstoragemag.com, Huge blaze hits Mexico’s largest facility,  March  14,  2023

      Usnews.com,  Pemex Hit by Fires at Three Facilities in One Day,  February  23,  2023

      Worldoil.com,  Several injured in three separate fires at Pemex oil facilities,  February  23,  2023

      Expatguideturkey.com, Terrible Explosion in Mexico! Oil Plant Caught Fire,  February  24,  2023

      Hazardexonthenet.net, Two fires break out at Pemex facilities on same day, four workers dead and three missing,  February  27,  2023

      Pemex.com, Extingue PEMEX incendio en Cavidad Tuzandepetl-331 de Veracruz,  February  23,  2023

      Mazatlanweekly.com, They report fires in 2 Pemex plants in Veracruz; there are at least 5 injured,  February  23,  2023

      Infobae.com, Se reportó una explosión en el Centro de Almacenamiento de Pemex en Ixhuatlán, Veracruz,  February  24,  2023

      Jornada.com.mx, Incendio en Ixhuatlán deja 3 trabajadores heridos: Pemex,  February  23,  2023

      Diariopuntual.com, VIDEOS. INCENDI0 en ducto de Pemex en Ixhuatlán, Veracruz; evacúan universidad,  February  24,  2023

      Excelsior.com.mx, Hallan cuerpos carbonizados de dos trabajadores de Pemex tras incendio en Ixhuatlán,  February  24,  2023

      Jstage.jst.go.jp, アメリカ岩塩懸戦略石濾地下備蓄基地 爆発・火災事故報告概要, 安全工学, VoL.18, No.3,  1979


後 記: 今回の戦略貯蔵センターの事故はこれまでで一番まとめの難しい情報でした。最初はパイプライン爆発やタンク事故だと思い、グーグルマップで調べると、地上の貯蔵タンクがなく、地下備蓄タンクの関連事故だと分かりました。ところが、発災写真を見ると、写っている池が既存設備の近くにある2つの池ではないことがわかりました。2021年に計画された場所の写真によって既存の設備の西側にある池の近くにできる予定らしいことが分かり、発災場所が特定できたと思っていましたが、よく見ると池の形が違うようです。グーグルマップでイシュアトラン市のいろいろな池を探しましたが、該当しそうな池はありません。結局、発災場所を特定できず、2021年に計画された場所と思うしかありませんでした。

 発災場所だけでなく、事故状況もはっきりしません。ペメックス社から公表された事故要因がよく理解できないだけでなく、メディアで報じられている記事が明確ではありません。日本の地下備蓄タンクと異なる岩塩層の予備知識不足も感じました。不確かな情報を外したら、中身のないスカスカのブログになってしまいますので、もう一度、編集し直してブログをまとめました。

2023年3月18日土曜日

インドネシアの燃料油貯蔵所でガソリン火災、民家に延焼して死者21名

 今回は、202333日(金)、インドネシアのジャカルタにあるプルタミナ社の燃料油貯蔵所でガソリン配管の漏洩から火災となり、事業所外の民家に延焼し、死傷者21名を出した事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、インドネシア(Indonesia)ジャカルタ(Jakarta)のプランパン(Plumpang)にあるプルタミナ社(Pertamina)の燃料油貯蔵所である。この貯蔵所の貯蔵容量は約30KLで、インドネシアの燃料需要の25%を供給している。

■ 事故があったのは、プランパン燃料油貯蔵所である。同燃料油貯蔵所は、ジャカルタのタナメラ地区の人口密集地域の近くにある。


<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 202333日(金)午後8時頃、プランパン燃料油貯蔵所で火災が発生した。

■ 火災が始まった直後、大きな爆発音が聞こえた。黒煙とオレンジ色の炎が夜空に立ち昇った。

■ プランパン燃料油貯蔵所の境界外側には民家が密集しており、火災が燃料油貯蔵所から民家側に広がった。複数の家屋を焼き払い、人口密集地域の住民はパニックに陥り、持ち物を持って逃げた人も出た。 住民のひとりは、「現場は大騒ぎで混乱し、身体に火傷を負った人とともに逃げ惑い、パニックを引き起こしていました」と語った。

■ 発災に伴い、消防署に通報があり、現場に51の部隊が出動した。少なくとも260人の消防士と52台の消防車が火災を封じ込めようと活動した。

■ 300人以上の人が自宅から避難し、近くのモスクに避難した。避難した人のためにテントが4つ建てられた。その後、避難した住民は1,300人以上になり、10の政府機関、赤十字の指揮所、スポーツ・スタジアムが避難場所になった。

■ 発災に伴い、少なくとも17人が死亡し、こども1人を含む50人が負傷した。死亡した中には、こども2人が含まれるという。314日(火)、死亡者は21人になったと報じられた。

■ 負傷した人のほとんどはやけどを負っていた。政府は負傷者の治療費を負担するという。

■ プルタミナ社は、33日(金)発災直後ウェブサイトで事故の原因は分かっておらず、現在、避難の努力が進行中であると述べた。また、同社は、他の石油ターミナルからの供給を計画しているため、ジャカルタ地域の燃料供給は引き続き確保できると語った。

■ 火災はタンクではなく、プランパン燃料油貯蔵所の燃料配管から発生したとみられる。

■ 火災は、3日(金)午後1030分頃に制圧された。しかし、その後も住民の家のまわりで火災が見られた。 火災は34日(土)午前220分頃に消火された。

■ 消防士が遺体袋を運んでいる貯蔵所の近くでは、大勢の住民が詰めかけた。


■ 発災時の状況や避難の状態などがユーチューブの動画に投稿されている。

   Indonesia: Deadly fire breaks out at Pertamina fuel storage station in Jakarta | Oneindia News2023/03/04

  ● Moment flames shoot up at petrol depot explosion in JakartaThe Sun)」2023/03/04

  ● Fire at Indonesian fuel storage depot kills at least 18, displaces over 1300 in JakartaGlobal News)」 2023/03/05

被 害

■ 燃料油貯蔵所内の燃料配管などの設備が焼損した。また、燃料油貯蔵所近くの民家に延焼した。

■ 死傷者は71人以上だった。内訳は死亡者21人、負傷者50人だった。

■ 近くの住民1,300人以上が避難した。

< 事故の原因 >

■ 火災の要因は、ガソリン配管からの漏洩から何らかの引火源によって火災になったものとみられる。漏洩に至った要因は調査中で分かっていない。 

< 対 応 >

■ プルタミナ社は、34日(土)のウェブサイトで自衛消防隊と公設消防隊によって火災は午後10時頃に消火したと発表した。その後に出したウェブサイトでは、燃料受入れパイプライン・エリアの火災処理は3時間(午後8時~午後11時)で消火したと発表した。

■ 公設消防は、今回の消火活動について、プランパン地域の水源が比較的遠くにあり、水の確保に苦慮したと語っている。また、すぐに火を消すのが難しかったのは、消防士が下から放水した場合、風化した建物が倒壊する恐れがあったため、建物の側面から散水する方法をとったからだという。

■ プルタミナ社は、 「犠牲者の家族に深い哀悼の意を表します。この事件についてお詫び申し上げます」という声明を出した。

■ プルタミナ社は、 34日(土)のウェブサイトで、火災が33日(金)午後8時頃に受入れ配管の1本から発生したという。また、33日(金)の午後733分頃、燃料受入れ配管に漏れが発見され、その後住宅地で火災が発生したため、プルタミナ社は直ちに緊急事態を宣言したという。

■ 予備調査の一報によると、大雨が降っている最中に燃料油パイプラインが破裂した。落雷による可能性があるという。インドネシア政府は、プルタミナ社に対して事故原因調査と施設を監査することを要求した。

■ 近くに住んでいる人によれば、「火災が起こる約30分前に燃料の臭いがした」と語った。別な目撃者は「息ができないほど強い臭いがした」と話している。

■ インドネシア政府は、今回の火災事故によってプランパン地域が地元地域にとって安全ではないことを示しており、燃料油貯蔵所の火災の近くに住む住民を移転するか、燃料油貯蔵所を移すか検討するという。

■ 34日(土)、国家警察署長が火災のあった燃料油貯蔵所を訪問した。その際、事故はバロンガンから移送されるガソリンを燃料油貯蔵所で受入れまたは充填しているときに発生したといい、この時、技術的な問題で過剰な圧力が発生し、その後、火災が起こったと説明した。火災の原因や火元がどこにあったのかなどはチームによって調査中だという。バロンガンには、製油所と貯蔵所があり、210kmのパイプラインを介してプランパン燃料油貯蔵所に石油製品を供給している。

■ 35日(日)、救助隊と消防士は、焼け焦げた家や建物のがれきの中をまだ行方の分からない3人を捜索した。

■ 2014年には、同じ燃料油貯蔵所で火災が発生し、少なくとも40棟の家屋が焼失したが、死傷者は出ていない。







補 足

■「インドネシア」(Indonesia)は、インド洋と太平洋の間にある東南アジアとオセアニアに属し、スマトラ島、ジャワ島、ボルネオ島(カリマンタン)など17,000以上の島々で構成される人口約27,000万人の国である。

「ジャカルタ」(Jakarta)は、ジャワ島北西の海岸に位置するインドネシアの首都で、人口約1,050万人の都市である。

■「プルタミナ社」(Pertamina)は、 1957年に設立され、インドネシア政府が株式を所有する国有の石油・天然ガス会社である。国内に6箇所の製油所を持ち、5,000箇所以上のガソリンスタンドを有している。

 プルタミナ社の事故を紹介したのは、つぎのとおりである。

    201610月、「インドネシアの製油所でアスファルト・タンクが爆発・火災」

  ● 20183月、「インドネシアのボルネオ島で海底パイプラインから油流出、死者5名」

   20213月、「インドネシア西ジャワ州で製油所の大型ガソリン・タンクが複数火災」

   20216月、「インドネシア中部ジャワ州で製油所のベンゼン・タンクが火災」

   202111月、「インドネシアの製油所でアルミニウム製ドーム型浮き屋根タンクが火災」

■「プランパン燃料油貯蔵所」 は、1974年に約48,000ヘクタールの面積で60,000KLのタンク容量で操業を開始した。1978年には貯蔵容量が80,000KLに、1987年には200,000KLに増加し、現在、324,000KLに達している。元々、燃料油貯蔵所には周辺に緩衝地帯があり、1987年までは周囲に広大な空き地があった。しかし、時間が経つにつれて、現在のようなプランパン周辺地域は人口が密集してきた。

所 感

■ 事故発生に関する断片的な情報を整理すると、つぎのようになる。

 ● 事故の前に、移送されてくるガソリンを燃料油貯蔵所で受入れまたは充填していた。

 ● 午後733分頃、燃料受入れ配管に漏れが発見された。(その後住宅地で火災が発生した)

 ● 火災が起こる約30分前に住宅地で燃料の臭いがした。

 ● 技術的な問題で過剰な圧力(過圧)が発生した。(その後、火災が起こった)  

 ● 火災は午後8時頃に受入れ配管の1本から発生した。

 このような経緯で事故が起こったとすれば、原因の推測はつぎのようになる。

 ● ガソリンの受入れ配管に経年劣化の腐食孔による漏れまたはフランジ継手の漏れが発生した。

 ● このガソリンの漏れを事業所作業員が発見した。その旨、計器室へ連絡した。

 ● ガソリン漏洩はかなり多く、ベーパーが事業所境界を越えて民家に達した。

 ● 民家側に流れて行ったガソリンベーパーが住宅地の何らかの引火源(裸火など)で火災が発生した。

 ● 計器室で漏洩の報告を受けたオペレーターは、配管の流れを停止する操作を行った。

 ● タンク受入れ配管の遮断弁を閉止した。

 ● 当時移送されていたガソリンは長距離のパイプラインを介していた。このため、高い圧力で運転されていたため、バルブ閉止で水撃現象の過剰な圧力(過圧)が発生した。

 ● 受入れ配管に過剰な圧力がかかったため、配管が破裂またはフランジ継手が緩み、大量のガソリンが噴出した。

 ● 大量のガソリンベーパーが構内の電気機器などの引火源または発生していた火災の裸火によって爆発した。

 今回の事故は、計装システムや運転マニュアルに問題がありそうであるが、事業所の幹部やオペレーターの判断力にも課題があるように感じる。

■ インドネシアは落雷の多いところであるが、今回の事故では引火源が落雷の可能性は低いと考える。タンク事故であれば、落雷が引火源となることはあるが、低い場所にある配管に対してピンポイントで落雷することは考えにくい。

■ 消防活動の概況は報じられているが、活動の詳細は分からない。特に“鎮火時間”が情報によってバラバラである。この要因は、プルタミナ社の発表が事業所内の火災の消火時間を指しているからだといえる。事業所境界から民家側は確かに社外であり、事業所の消防活動の適用外であるが、もともと民家の火災もガソリン漏れによるものである。火災に境界はなく、この点を認識して情報を発表すべきである。

 事業所内外の区別を明確にするような事故は日本で起こらないと考えてはならないと思う。いま南海トラフ地震の話が出ているが、2011年の東日本大震災のときのように地震被害が広範囲になると、貯蔵タンクだけでなく、パイプラインや桟橋設備からの発災で事業所外への影響が出ることを想定しておく必要があろう。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

      Reuters.com, Fire at Indonesia's Pertamina fuel storage station kills 17,  March  04,  2023

      Tankstoragemag.com,  17 killed at Indonesian fuel storage,  March  06,  2023

      Apnews.com,  Fire at Indonesian oil depot kills 17; thousands evacuated,  March  04,  2023

      Aljazeera.com, Hundreds evacuated as Pertamina fire kills at least 17 in Jakarta,  March  04,  2023

      Time.com, Indonesia Fuel Depot Fire Kills 18. More Than a Dozen Remain Missing,  March  04,  2023

      Thejakartapost.com, Government to relocate residents or move fuel facility after fire,  March  05,  2023

      Ndtv.com, In Pics: Homes "Completely Destroyed" In Massive Indonesia Fire,  March  04,  2023

      Pertamina.com, Pertamina Focuses on Providing the Best Handling for Victims,  March  03,  2023

      Pertamina.com,  Moving Swiftly, Pertamina Focuses on Providing the Best Handling for Victims,  March  04,  2023

      Pertamina.com, Emergency Team Extinguished the Fire in 3 Hours, Fuel Distribution Back in Operation,  March  04,  2023

      Pertamina.com, Visiting the Plumpang Fuel Terminal, the National Police Chief Ensures Refugees' Handling and Needs Are Fulfilled,  March  04,  2023

      Dailypioneer.com, 19 killed in fuel depot fire in Indonesia,  March  06,  2023

      Channelnewsasia.com, Explainer-Indonesia's Pertamina faces pressure to move oil terminal after deadly fire,  March  10,  2023

      Cnbcindonesia.com, Dugaan Ahli: Ini yang Jadi Pemicu Kebakaran Depo BBM Plumpang,  March  06,  2023

      Kompas.id, Relokasi Terminal BBM Plumpang dari Lokasi Strategis Tidak Disarankan,  March  05,  2023

      Suarasurabaya.net, Dirut Pertamina: Insiden Kebakaran di Depo Plumpang Bukan dari Tangki BBM,  March  05,  2023

      Antaranews.com, Korban jiwa kebakaran depo Pertamina Plumpang menjadi 21 orang,  March  14,  2023

      Manado.antaranews.com, Lokasi kebakaran terminal BBM Plumpang ditinjau Wapres Ma‘ruf Amin,  March  04,  2023

      Megapolitan.kompas.com, Dinginkan Depo Pertamina Plumpang Usai Api Padam, Damkar: Agar Tak Ada Panas Penyebab Kebakaran Lagi,  March  04,  2023


後 記: インドネシアの事故情報を調べるのは、掛けた時間の割に内容が薄いと感じます。インターネット記事はあり過ぎるほどたくさんあります。第一報の記事を読むと、とにかく時間や死傷者数などがメディアによってバラバラだし、どのように発災しているのかよく分かりませんでした。この点、毎度のことですが、理解の手助けになったのは上空からの発災写真でした。また、特に今回のように亡くなった人が大勢出ると、どうしても死傷者や避難者の記事になります。このブログで必要な事故の原因につながる内容の記事を見つけるのは、時間を掛けた割に少なかったですね。今回の事故が夜に起こっているので、さらに発災事業所自身が曖昧な情報しか持っていないのではないかと思ってしまいます。結局、頭の体操として断片的な情報から事故要因を推測する機会を得た(?)といえる事故でした。

2023年3月11日土曜日

ノルドストリーム海底パイプラインの漏れは人為的な爆発による破断(推測原因)

 今回は、2022926日(月)にロシア‐ドイツ間の天然ガス用海底パイプラインであるノルドストリームが強力な爆発によって破壊され、天然ガスが流出した事故について、202337日(火)、ニューヨークタイムズは実行者が親ウクライナ派の攻撃だった可能性と報じたことを紹介します。

 これまでの経緯は、つぎのブログを参照。

ロシア‐ドイツ間の天然ガス用海底パイプラインの漏れは止まった?2022年10月6日)

ノルドストリーム海底パイプラインの漏れは強力な爆発によるパイプ破断」(2022年11月19日)

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、欧州のバルト海(Baltic Sea)ボルンホルム島(Bornholm)のデンマーク(Denmark) とスウェーデン(Sweden)沖の海底である。

■ 事故があったのは、海底パイプラインのノルドストリーム(Nord Stream)の敷設場所付近である。ノルドストリームはロシア(Russia)のガスプロム社(Gazprom)が所有し、ロシア・サンクトペテルブルク近くの沿岸からドイツ北東部まで約1,200kmにわたる天然ガスパイプラインである。


<事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2022926日(月)の夜、ノルドストリーム2パイプラインのオペレーターは、105バールからわずか7バールまで急激に圧力が低下したことを確認した。その後、バルト海の海面にガスで泡立っていたのが確認された。

■ 927日(火)、デンマーク国防司令部は、バルト海にあるボルンホルム島沖の3か所でガス漏れが確認されたことを明らかにした。ガス漏れ源は天然ガスパイプラインのノルドストリームだとみられる。ガス漏れは、2本あるパイプラインのうち、ノルドストリーム1の2か所、ノルドストリーム2の1か所で起き、ガス漏れが原因とみられる泡(最大のものは直径1km)が海面に発生している。海面のガス漏れによる泡の状況は映像が公開され、ユーチューブに投稿されている。YouTubeFootage shows Russia's Nord Stream gas pipelines leaking under Baltic Sea2022/09/28)を参照)

■ スウェーデンとデンマークの地震学者はガス漏れの近くで2つの爆発の可能性を記録したが、爆発は海底ではなく、水中で発生したとみられるという。英国の防衛関係筋は、爆発はおそらく計画的で、水中地雷やその他の爆発物を使用して遠くから爆発させたとみられると語っている。 

■ 102日(日)、デンマークのエネルギー庁は、ノルドストリーム1とノルドストリーム2のパイプラインからの漏れが止まったと語った。


被 害

■ 海底パイプラインのノルドストリーム1とノルドストリーム2が、ボルンホルム島沖の海底で破損した。

■ 海底パイプライン内の天然ガス(主にメタンガス)8億㎥が海中へ漏出して、海面から大気へ放散し、環境汚染を引き起こした。  

< 事故の原因 >

■ パイプラインが強力な爆発によって破損した。 

デンマークとスウェーデンは水中検査を行い、パイプラインの破損状況を確認した。爆発物による破壊工作の疑いがあるというが、両国ともそれ以上は語っていない。

■ 202337日(火)、ニューヨークタイムズは、つぎのように報じた。

 ● 米国当局の精査した情報では、親ウクライナ派がノルドストリーム・パイプラインへの攻撃を行ったことを示している。

 ● 当局者によると、実行者はウクライナ人またはロシア人、あるいはその両方である可能性が高いと考えているという。


< 対 応 >

■ 海底パイプラインのノルドストリーム1とノルドストリーム2が破壊工作を受けた疑いがあることを受け、欧州各国は、928日(水)、石油・天然ガス関連施設周辺のセキュリティを強化すると発表した。一方、EU(欧州連合) に加盟していないノルウェーは、石油と天然ガスの施設を保護するために軍隊を配備すると述べた。石油が豊富な国で、欧州最大の天然ガス供給国でもあるノルウェーは、陸上・海上設備のセキュリティを強化するとエネルギー相は述べた。

■ 101日(土)、ロシアの国営ガス会社のガスプロム社は、「8億㎥のガス漏れが起きていると思われる。漏れたパイプラインには、8億㎥のガスが入っていると推定され、これはデンマークの3か月間の消費量に相当する」と明らかにした。

■ 1015日(土)、ドイツの放送局アード(Ard)によると、ドイツ政府の情報源を引用して、ノルドストリーム・パイプラインに生じた損傷は爆発によってのみ説明されるという。これはドイツ政府の調査団が水中ドローンによって撮影された写真を調べた後、調査官が到達した結論である。水中ドローンで撮影した写真には、長さ8mの切り傷が記録されていたという。 

■ 1018日(火)、デンマークの警察は、バルト海のデンマーク沖にある2本のノルドストリーム・ガスパイプラインの損傷に関する予備調査の結果、ガス漏れは強力な爆発によって引き起こされたことが判明したと発表した。警察によると、調査では、パイプラインに広範囲の損傷があることが確認されたという。

■ 1018日(火)、ノルウェーのロボット企業であるブルーアイ・ロボティクス社(Blueye Robotic)は、スウェーデンの新聞社Expressenと協力して、水中ドロ-ンのカメラを使って水深80mのノルドストリーム・パイプラインの損傷部を撮影した映像を発表した。この映像によると、ノルドストリーム1のパイプが破断している様子が見てとれる。ブルーアイ・ロボティクス社によると、損傷を受けたと思われるパイプラインの大部分が海底に埋もれているか、完全に失われているという。

 撮影は午前11時頃から始められたが、最初、パイプラインの敷設ルートを示す位置にはパイプは映っていなかった。しかし、海底には強い変化を示していた。突然、ノルドストリーム1の厚さ数十ミリの鋼管のねじれた残骸が画面に表示された。パイプライン外側の保護コンクリーから曲がった鉄筋とともに、ぽっかりと開いたパイプの切り口が見えた。パイプの一部は真っ直ぐで鋭いエッジがあり、他の部分ではパイプが大きく変形していた。視界は悪いが、カメラが近づくと、パイプ内側に赤い部分があることがわかる。カメラをパイプ内に入れると、底には泥の薄い層があった。

 パイプ周辺の海底への影響が非常に大きかったことがわかる。パイプが敷設されていた海底には大きな溝があり、パイプの部品のように見える破片を見ることができた。パイプラインの爆発例では、爆発の圧力によってパイプに沿って長い亀裂が生じる場合があるという。カメラで周辺を捜索したが、パイプ断面の反対側の端を見つけることはできなかった。少なくとも50mが失われているか、海底の下に埋まっていると思われる。

■ 1025日(火)、ブルーアイ・ロボティクス社で水中ドローンの担当者は、インタビューでつぎのように語っている。

 ● パイプが破裂すると、3,200psi218bar)の高圧のガスが海底を乱し、損傷した一部を埋めているように見えた。

 ● 西に向かうパイプラインの一部がまだ海底に埋もれており、東に向かうパイプラインの端が海底から持ち上がっているのを見たと思う。

 ● このエリアの残骸は少ないようにみえた。おそらく、ガスの噴流で押し流されたか、すでに捜査しているスウェーデンの調査団によって撤去されたのではないか。


■ スウェーデン治安当局は、
103日(月)に捜査のための専門船を現地に派遣しており、106日(木)に水中調査を終えた後、現場で証拠物を押収したと述べた。しかし、スウェーデン当局の調査で現場エリアをどのように変えたのかは明らかではない。スウェーデンは調査によって破壊工作の疑いが裏付けられたと発表した。

■ デンマークは、専門船によって実施するパイプラインの捜査について1021日(金)までに完了予定で、結果は11月初めまでに判明する予定だという。

■ デンマークは、スウェーデンやドイツなどとの国際協力の枠組みについてはいくつかの要因に左右されるため、何かを言うのは時期尚早だと述べている。爆発物が故意の妨害行為に使用されたことを認める以外に、捜査官は調査結果の詳細をほとんど明らかにしていない。デンマーク、スウェーデン、ドイツはパイプラインの破壊箇所を調査しているが、誰がどのような理由で損傷を引き起こしたのかについては固く口を閉ざしている。

■ 112日(水)、スイスに拠点をおき、ノルドストリーム1を実質的に運営していたノルドストリームAG社(Nord Stream AG)は、スウェーデン沖のパイプライン損傷の場所で調査していたが、初期データ収集を完了したと発表した。予備的な結果によると、海底に深さ35mの人工的なクレーターを発見したという。クレーターは互いに約248m離れていた。クレーター間のパイプの部分が破壊されており、少なくとも半径250mのエリアにパイプの破片が拡散していた。

■ ユーチューブには、ブルーアイ・ロボティクス社の撮影したパイプラインの破損状況の一部映像がメディから投稿されている。代表例はつぎのとおりである。

YouTube,Nord Stream pipeline damage captured in underwater footage2022/10/18)を参照)

 詳細な映像は、スウェーデンの新聞社Expressenのインターネット誌Första bilderna från sprängda gasröret på Östersjöns bottenを参照。

■ ユーチューブには、2010年に実施されたフルスケールのガス配管に関する爆発試験の映像が投稿されている。ブルーアイ・ロボティクス社が指摘している「パイプラインの爆発例では、爆発の圧力によってパイプに沿って長い亀裂が生じる場合があるという」のが理解できる。

YouTube,FORCE Technology Full scale burst testing of gas pipes」(2010/02/22)を参照)

■ 202337日(火)、ニューヨークタイムズはパイプラインの天然ガス流出について取材を通じて、つぎのように報じた。

 ● 米国当局の精査した情報では、親ウクライナ派がノルドストリーム・パイプラインへの攻撃を行ったことを示している。

 ● 当局者によると、実行者はウクライナ人またはロシア人、あるいはその両方である可能性が高いと考えているという。

 ● ウクライナ政府と軍の諜報当局者は攻撃には関与しておらず、誰が実行したかは分かっていないと述べている。

 ● 爆発物は、軍や情報機関でない経験豊富なダイバーの助けを借りて仕掛けられた可能性が高いという。しかし、実行者が過去に国の専門的な訓練を受けていた可能性はある。

 ● 米国の当局者は、これからの新しい情報を精査することによって、実行者について確固たる結論に達することができるという。そのプロセスにどのくらいの時間がかかるかは不明である。米国の当局者は、最近、この事件の捜査を行っている欧州の関係者と情報交換を行った。

■ 38日(水)、通信社ロイターは、ニューヨークタイムズが、米国当局の照査によって親ウクライナ派グループがノルドストリーム・パイプラインを攻撃したことを示していると報じたことを伝えた。このほか、世界のメディアが同様にニューヨークタイムズの記事を紹介している。

■ 38日(水)、英国のBBCは、ニューヨークタイムズによる記事を紹介したあと、この破壊をめぐってはドイツ紙ディ・ツァイトも、爆発物を仕掛けるために使われた小型船を捜査当局が特定したもようだと伝えた。爆発物を仕掛けるのに使われた小型船はポーランドの会社が貸したヨットだと分かったと報じ、所有者は2人のウクライナ人だったという。破壊を実行した人物の国籍は不明だとした。ドイツ捜査当局はまだ誰が破壊を命じたのかの証拠を発見していない。また、ウクライナに責任をなすりつける偽旗作戦の可能性も残されているという。

補 足

■「バルト海」(Baltic Sea)は、欧州の北に位置する地中海で、ヨーロッパ大陸とスカンディナビア半島に囲まれた海域である。ユーラシア大陸に囲まれた海域ともいう。 西岸にスウェーデン、東岸は北から順にフィンランド、ロシア、エストニア、ラトビア、リトアニア、南岸は東から西にポーランド、ドイツ、デンマークが位置する。

「ボルンホルム島」(Bornholm)は、バルト海上にあるデンマーク領で、人口約4万人の島である。スウェーデン、ドイツ、ポーランドに挟まれており、行政面ではデンマーク首都地域のボルンホルム基礎自治体を成している。ボーンホルム島と表記されることもある。

■ 「ノルドストリーム」 (Nord Stream)は、ロシアの国営企業ガスプロム社(Gazprom)が所有し、ロシア・サンクトペテルブルク近くの沿岸からドイツ北東部まで約1,200kmにわたる天然ガスパイプラインである。パイプラインは長さ12mのパイプ約20万本で構成され、直径48インチ径で厚さ約40mmの鋼製ラインパイプで、厚さ110mmのコンクリートの被覆が施されている。 

 名称のノルドには「北」、ストリームには「流れ」という意味がある。ノルドストリームは大きく2本あり、それぞれ「ノルドストリーム1」「ノルドストリーム2」と称している。ノルドストリーム1は、2012108日に開通し、全長1,222kmで世界最長の海底パイプラインとなった。2018年から2021年にかけてノルドストリーム2の敷設が行われ、20219月に完成した。

 ノルドストリーム・プロジェクトは、パイプラインが欧州におけるロシアの影響力を強めるという懸念や、中・東欧諸国の既存パイプラインの使用料が連鎖的に削減されるという理由から、米国、中・東欧諸国から反対を受けていた。ロシアがドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国を承認すると表明したことを受けて、この決定が領土保全と国家主権の尊重という国際法の原則に反する行為であるとして、ドイツの首相は2022222日にノルドストリーム2の認証作業を停止した。

 2022224日(木)のロシアによるウクライナ侵攻以降の影響は、つぎのとおりである。

 ●「ノルドストリーム2」はまだ一度も稼働したことはない。ロシアによるウクライナ侵攻の直前にドイツにより運用開始が延期された。しかし、20229月の時点で、パイプライン内に3億㎥の天然ガスが入っていたという。

 ● 稼動していた「ノルドストリーム1」は、20226月に輸送量が 75%削減され、1日あたり 17,000万㎥が約 4,000万㎥になった。

 ● 20227月、 「ノルドストリーム1」は定期的な点検作業を理由に10日間停止された。再開したとき、流量は 1日あたり2,000万㎥と半分になった。

 ● 20228月下旬、「ノルドストリーム1」は機器の不具合を理由に完全に閉鎖された。それ以来、パイプラインは稼動していない。

所 感 (前回)

■ バルト海のガス漏れの事象は、ノルドストリーム・パイプラインから発生したことがはっきりした。さらに、その原因は強力な爆発によってパイプが破断したことも分かった。デンマークやスウェーデンは10月初旬から水中カメラなどの調査(捜査)によってパイプラインの損傷状況を把握しているとみられる。

■ パイプラインへの攻撃という破壊工作の疑いが裏付けられたとしているが、誰が行ったかという決定的な証拠が確認されるまで、詳細は発表されないとみられる。

■ ノルウェーのロボット企業であるブルーアイ・ロボティクス社とスウェーデンの新聞社Expressenが協力して、水中ドロ-ンのカメラを使ってパイプラインの損傷部を撮影した映像が発表された。この映像を見ると、厚さ40mmのパイプラインが破断されるほどの爆発の威力を知ることができる。

■ パイプラインと周辺の損傷状況は、ブルーアイ・ロボティクス社の映像のほかに、いくつかの取材による情報が出ている。これらの損傷情報がどこの位置を指すのかはっきり示されていないが、仮にブルーアイ・ロボティクス社の撮ったノルドストリーム1のパイプライン破断位置の周辺とみた場合のパイプラインの状況を図のように推測した。この状況について考えてみると、つぎのとおりである。

 ● パイプが破断して大量の天然ガスが放出されると、反動とパイプラインの拘束がなくなり、東(ロシア側)に移動したと思われる。

 ● クレーターは爆弾跡というより、天然ガスの放出によってできたのではないだろうか。

 ● クレーター間の距離(248m)はパイプラインの移動距離ではないだろうか。

 ● クレーター間に散乱していた破片はスウェーデンの調査(捜査)で回収されたとみられる。

 ● パイプラインにできた8mの切り傷はパイプラインの破断時または移動時に擦過したものではないだろうか。あるいは、破断部下流側にあれば、爆発の圧力によってパイプに沿って生じた長い亀裂かも知れない。

 ● パイプ内側にあった赤い部分は何か分からないが、爆弾の破裂時についたものではないだろうか。


所 感 (今回)

■ 関心の高い話題であるが、外交上の機微のある話から欧州各国は詳細を伝えていなかった。今回、米国のニューヨークタイムズが爆破実行者について報じると、すぐに各国のメディアが、“ニューヨークタイムズによる情報” として記事を出すという近年では珍しい報道になった。

■ 前回までは、パイプラインへの攻撃という破壊工作の疑いが裏付けられたが、誰が行ったかという決定的な証拠が確認されるまで、詳細は発表されないとみられると所感に書いた。今回の報道をきっかけに徐々に調査結果が出てくると思われる。


備 考

 本情報はつぎの情報に基づいてまとめたものである。

   Abcnews.go.com,  Nord Stream pipeline leaks caused by 'powerful explosions,' Danish police say,  October  18,  2022

     Newcivilengineer.com,  Nord Stream explosions caused 50m of damage to ruptured pipeline,  October  20,  2022

     Aljazeera.com,  Denmark confirms ‘extensive damage’ in Nord Stream pipelines,  October  18,  2022

     Expressen.se, Första bilderna från sprängda gasröret på Östersjöns botten,  October  18,  2022

     Upstreamonline.com, Investigations reveal severe explosive damage to Nord Stream gas pipelines,  October  18,  2022

     Theguardian.com,  Nord Stream 1: first underwater images reveal devastating damage,  October  18,  2022

     Cbc.ca, 50-metre section of Nord Stream gas pipeline missing, drone footage reveals,  October  18,  2022

     Nytimes.com , Three Inquiries, but No Answers to Who Blew Holes in Nord Stream Pipelines,  October  25,  2022

     Bbc.com,  Nord Stream blast 'blew away 50 metres of pipe’,  October  18,  2022

     Agenzianova.com,  German media: the damage to the Nord Stream can only be explained by an explosion,  October  15,  2022

     Gcaptain.com,  Journalists Film Nord Stream Blast Damage,  October  18,  2022

     Offshore-energy.biz,  Nord Stream operator finds ‘technogenic craters’ at damaged pipeline,  November  07,  2022

     Safety4sea.com, Watch: Underwater drone reveals damage of Nord Stream pipeline,  October  20,  2022

     English.alarabiya.net,  Fifty meters of Nord Stream 1 pipeline destroyed or buried under seafloor,  October  18,  2022

     Nytimes.com, Intelligence Suggests Pro-Ukrainian Group Sabotaged Pipelines, U.S. Officials Say,  March  07,  2023

     Reuters.com, U.S. says intel indicates pro-Ukrainian group sabotaged Nord Stream pipelines -NY Times,  March  08,  2023

     News.cgtn.com,  New intelligence points to pro-Ukraine group in Nord Stream attack: NYT,  March  08,  2023

     Edition.cnn.com,  Ukrainian government denies involvement in Nord Stream pipelines sabotage,  March  08,  2023

     Theguardian.com, Officials believe pro-Ukraine group may have sabotaged Nord Stream – reports,  March  08,  2023

     Bbc.com,  ノルド・ストリーム爆破、親ウクライナ勢力が実行かと米報道 ウクライナは否定,  March  08,  2023

     Edition.cnn.com,  Ukrainian government denies involvement in Nord Stream pipelines sabotage,  March  08,  2023


後 記: 英国メディアのガーディアンは、ドイツの新聞ディ・ツァイトの報道を引用して、親ウクライナの妨害工作員グループについてさらに詳細な情報を報じています。

 「ドイツの捜査官は、パイプラインへの攻撃は 6人のチームによって実行されたと考えており、実行に使われた船はポーランドで登録され、2 人のウクライナ人が所有する会社によって雇われていた。爆発物を現場に運ぶ作業には、船の船長、ダイバー 2 名、潜水助手2名、医師 1 名の 6名が関与した。6 名全員が専門的に偽造されたパスポートを使用していたとみられ、本当の身元はまだ不明である。船は20229 6 日(火)にドイツの港湾都市ロストックから出航した。作戦のための装備は配送トラックで港に運ばれていた。帰還後、捜査官は雇われた船内のテーブルのひとつに爆発物の痕跡を発見した。捜査官はパイプラインがどのように爆破されたかを大まかに再現できたものの、偽旗作戦がまだ行われており、誰がグループに攻撃を実行するように命じたのかについての証拠は見つかっていない」と記事で書いています。人員構成などかなり詳しい内容ですが、ほかのメディアはまだ伝えていませんので、本文には入れませんでした。