このブログを検索

2020年3月28日土曜日

新型コロナウイルスの伝染性は高い? 低い?


 今回は、202031日(日)に “HazmatNation”のインターネット情報に掲載された「現時点、新型コロナウイルス(COVID-19)はどのくらい伝染性があるのか?」(原題: Just how contagious is COVID-19? )を紹介します。貯蔵タンク事故情報ではありませんが、いま世界で関心の高い話題ですので、 「新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な流行)に備えて知っておくべきこと」202031日)に続いて載せることとしました。
< はじめに >
■ 世界中の学者、医療専門家あるいは医政担当の人たちは、中国湖北省で猛威を振るっている新しい呼吸器疾患がどのように広がるのか、そしてそれが世界の他の地域にとってどれほど悪い影響を及ぼすのかを理解しようと研究しています。この取組みのひとつが疫学、すなわち、感染が集団の中をどのように伝わっていくのか、そしてそれをいかにコントロールしていくかということです。

■ 疫学は感染症の蔓延について解き明かそうと、地理学から数理科学まであらゆる専門知識を取り入れています。パニックや誤った情報、 あるいはゼノフォビア(外国人嫌悪)を乗り越え、新たに出現した感染症について話し合うことができるように疫学に関する基本的な概念について以下に示します。

< 感染の広がり方 >
■ 感染症がどのように集団を介して広がるかを把握するために用いる指標のひとつに、R0とも呼ばれる「基本再生産数」(Basic Reproduction Number)というものがあります。この数字は、各感染者が平均して何人に感染させるかを示しています。R0は、感染症の致死率を示すものではありませんが、新型感染症がどれほど伝染性があるかを示す指標であり、政府や医療機関が実施する感染症コントロール戦略の指針となります。 

■ R0が1.0未満の場合、標準的に感染症は死に絶えるといえます。すなわち、各感染者がさらに別な人に感染させる可能性は低くなるということです。R0が1.0より大きい場合、各感染者は少なくとも別なひとりに感染させることを意味し、感染症が全人口に広がるまで他の人に感染させる可能性があるということです。たとえば、標準的な季節性インフルエンザのR0は約1.2です。すなわち、この感染症は、感染者の5人ごとに平均して新しい6人に広がり、つぎつぎに他の人に伝染します。

■ 麻疹(ましん:はしか)は、この点で最も高い感染症で、麻疹のR0は、通常、12.0~18.0の間にあります。すなわち、麻疹の各感染者はワクチン接種を受けていない12~18人の新しい人たちに感染させます。ワクチン接種が普及する前の時代では、学校の全こどもが容易に麻疹にかかる可能性がありました。こどもには予防接種をさせることが大事です。

■ 集団免疫(Held Immunity)もまたR0に依存します。人間社会の中で病気に対して免疫をもっている人が多いほど、感染する人は少なくなります。予防接種を行ったり、新しく感染する人が自然に少なくなることで免疫が臨界レベルに達すると、感染症は枯渇します。感染症が容易に広がらないため、RO値が低いと集団免疫を達成しやすくなります。

■ しかし、特定の人間集団の中でチェックされずに放置された場合、感染症がどのように広がるかについて、R0は統計的推定値であることを理解しておくことが重要です。 SARS(重症呼吸器症候群)とMERS(中東呼吸器症候群)は、いずれも季節性インフルエンザより高いR0値(2.0〜5.0)ですが、世界的な流行になるほど広まることはありません。 一方、インフルエンザは、基本再生産数が比較的小さいにもかかわらず、常に広まっています。米国疾病対策センター(CDC)の推定では、米国人口の3〜11 %が毎年インフルエンザにかかっています。

■ 話をCOVID-19といわれている新型コロナウイルスに戻します。この感染症は医学的にはかなり新しいため、研究者は最新のR0を計算するために必要なデータを現在も集めています。 2020年2月19日の時点で、R0の推定値は1.4より大きく、4.0より小さく、SARSのような他のコロナウイルスの範囲内に収まっています。
(COVID-19とR0に関する問題についてさらに詳しく知りたければ、ウェブメディアのライフハッカー;Lifehackerの記事を参照してください)

< 致死率 >
■ 感染症を理解するために別な重要な指標は「致死率」(Case Fatality Rate:CFR)です。すなわち、感染症にかかった人の何%が死亡するかということです。 極端な例としては狂犬病があります。狂犬病は治療しないと99%の死亡率になります。もう1つは風邪です。風邪は比較的高いR0をもっていますが、ほとんど死に至ることはありません。(例外はほとんどが免疫不全の人です) 季節性インフルエンザの致死率(CFR)は小さいのですが、毎年多くの人が亡くなっています。米国疾病対策センター(CDC) によれば、2019年10月から2020年2月の間に30,000人ものアメリカ人が季節性インフルエンザで死亡したと推定されています。

■ 同様に、麻疹は非常に感染性が高いのですが、死に至ることは極めて稀です。(ただし、免疫系への悪い影響によっては、感染者が他の生命を脅かす病気にかかりやすくなります) 天然痘はR0(基本再生産数)が5.0〜7.0で感染力として高くはありませんでしたが、CFR(致死率)が約30%であったため、社会は壊滅的な打撃を受けました。麻疹は、それほど深刻な病気ではありませんが、感染率が非常に高いため、適切な集団免疫を形成するためには、極めて多くのワクチン接種を行う必要がありました。天然痘ワクチンでは、はるかに低い率で集団免疫を達成し、1980年までにこの感染症を完全に一掃しました。

■ 新型コロナウイルス(COVID-19)のような新しい感染症のCFR(致死率) は、関係するデータが比較的少ないため、正確に推定するのが非常に困難です。2020年2月8日の予備計算では、CFRが約1.4%(1,000人のうち14人が死亡する)と推定されています。しかし、これは中国政府のデータが不確かなため、中国以外のケースのみに基づいています。値は、今後、数週間や数か月経てば変ってくる可能性があります。しかし、新型コロナウイリス(COVID-19)のCFR(致死率) はSARSやMERSよりも低いとみられます。しかし、中国のひとつの地域に症例が集中しているため、医療インフラに大きなストレスがかかっています。これが感染症の大流行に関する懸念事項です。

< 疑問に思うことへの答え >
■ 疫学は、“もしも~だったら”という仮定と“出てきた結果はあくまで近似” によるゲームです。CFR(致死率)や基本再生産数(Basic Reproduction Number)などの数値は、感染症の数理モデルを用いて現実に起こっているデータから導き出します。 感染症は天候や休日移動などの条件が複雑に絡み合っているため、同じウイルスによって2回の発生があっても、異なる流行のように見えるかも知れません。 そういうわけで、R0(基本再生産数)は、通常、幅をもった値として与えられます。これは数理モデルが悪いからではなく、現実そのものが複雑だからです。

■ 疫学は感染症の謎を解くと同時に、 私たちに対処法を導いてくれます。今の国際化した時代に感染症が国から国へジャンプしていくモデルをつくり、都市レベルの隔離や移動制限が感染の広がりを縮小させることを示します。一方、経済社会の中で感染していない人たちの生活を深刻な混乱に陥れます。

■ そして最後に、疫学では、新型コロナウイルス(COVID-19)をこれまでの感染症の流行と比較して、現在の状態がどのくらい悪いのか、そして、もし政府が適切に処理しなかった場合にどのくらい広がるかを示すことができます。 私たちはまだ新型コロナウイルスについてすべてを知っているわけではありませんが、疫学による知識は新型コロナウイルスを撃退するのに何が必要かを理解するのに役立ちます
(図はHazmatnation.com から引用)

補 足
■「中国による新型コロナウィルスに関する大規模調査」が行われ、2020年2月17日(月)に公表されました。それによると、感染者の80.9%は軽度に分類され、13.8%が重度、4.7%が致命的です。死亡率は、10代、20代、30代がそれぞれ0.2%、40代が0.4%、50代が1.3%、60代が3.6%、70代が8%と、年齢層が上がるにつれ徐々に上昇しています。
  中国による新型コロナウィルスに関する大規模調査結果(一部)  (表はNote.comから引用)
■ ドイツ首相と英国首相が、3月上旬、新型コロナウイルスの問題に触れ、最終的には国民の60~70%が感染する可能性があるという見方を明らかにしましたが、この根拠が「疫学」の数理モデルにもとづくものだと思われます。日本(政府)では、このような国民全体の感染率を明らかにしていませんが、「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」の3月19日(木)の提言の中で、つぎのように述べています。
大規模流行時の新規感染者の予測(10万人あたり)
(表はMhlw.go.jpから引用)
 「日本のある特定地域(人口10万人)に、現在、欧州で起こっているような大規模流行が生じ、さらにロックダウンに類する措置などが講じられなかったと仮定した場合、基本再生産数(R0)を欧州(ドイツ並み)のR0=2.5 程度であるとすると、症状の出 ない人や軽症の人を含めて、最終的に人口の 79.9%が感染すると考えられる」

■「集団免疫」(Held Immunity)とは、医学的理由により予防接種を受けることができず、免疫を持たない人びとの保護を目的にした考え方です。ある感染症に対して集団の大部分が免疫を持っていれば、免疫を持たない人を保護できます。今回の新型コロナウイルスに当てはめると、感染する人が増えれば、治る人も増え、治った人にはウイルスに対する免疫力が生まれます。免疫力がある人が増えれば、ウイルスに感染しなくなります。人口の約60~70%の人が感染後に回復すれば、大流行の確率は大幅に下がり、集団免疫が成立するというものです。実際、英国では、当初、この集団免疫を新型コロナウイルス対策の戦略としましたが、ワクチンのない状況下で、多大な人的犠牲を払う策だと批判が噴出し、方針を封じ込め策に変更しました。
   集団免疫のモデル (図はJa.wikipedia.orgから引用)
■ 新型コロナウイルス対策について各国で「社会距離戦略」(封じ込め)が行われています。現在、注目されているのはシンガポールです。少し前まで感染が比較的緩やか(流行曲線の平坦化)だったのは日本とシンガポールでした。シンガポールの対応は早くから“戦略”にもとずき、さらに医療インフラが整っているといわれています。日本の対応は戦略がなく、場当たり的な戦術をとっており、東京都の外出自粛策でどれほどの効果があるかは見通せません。現時点では、ドイツの新型コロナウイルス対策が参考になります。
              新型コロナウィルスの患者数の推移 (図はNews.yahoo.comから引用)
 ドイツでは、322日(日)に発表したガイドラインはつぎのとおりです。
 ● 同居家族等以外の他人との接触は絶対に必要な最低限とすること。(後日、3人に制限と発表)
 ● 公共空間において,他人との距離を必ず最低1.5
m可能であれば2m以上とること。
 ● 公共空間における滞在は、単身か、または家族以外の
1名、または家族の同伴に限り認められる。
 ● 職場への通勤、緊急時ケア(託児,高齢者介護等)、買い物、通院、試験や会議等重要な日程、他者の支援、個人によるスポーツ、屋外での新鮮な空気を吸うための運動やその他必要な活動のための外出は、引き続き認められる。
 ● ドイツにおける深刻な状況に鑑み、グループによるパーティーは、公共の場所か私的な空間(住居)かを問わず許容されない。秩序局または警察が取り締まり、違反行為には罰則が適用される。
 ● すべての飲食店は閉鎖する。ただし、配達サービスや持ち帰り等により、個人が自宅で飲食するための料理の販売は例外。
 ● 理髪業、美容サロン、マッサージ業、タトゥー業など、身体のケアに関わるサービス業は、近距離での身体の接触を避けられない職種であり、本ガイドラインに合致しないため、すべて閉鎖する。ただし、医療上必要な治療は引き続き認められる。
 ● 人々との接触があり得るすべての現場については、公衆衛生に関する規則を守り、従業員や訪問客に対する効果的な保護措置を実施することが重要である。
 ● 上記の措置の適用期間は最短
2週間とする。

所 感
■ 感染症の分野では、“戦略”を考える際、重要な専門知識に疫学という学問があることを初めて知りました。そして、新型コロナウイルスが急速に広がり始め、世界保健機関(WHO)がパンデミック(世界的な流行)を宣言して以降、各国は「社会距離戦略」(封じ込め)をとり始めましたが、今回の資料でその背景になる基本的な知識を知ることができました。

■ 一方、“戦術”を考えるときに重要なことが、自らの戦力とロジステック(兵站)です。感染症対策では、医療インフラです。今回、日本の 「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」 の提言(3月19日)に歯切れの悪さを感じましたが、背景にあるのが、日本の医療インフラが感染症に対して意外に脆弱だったことです。感染者が増えると医療崩壊が起こるので、PCR検査に積極的でない訳が理解できました。何とか持ちこたえている状態と言っていましたが、東京で感染経路のわからない感染者が増え始め、 3月25日(水)、都知事は“外出自粛” を要請しました。
 ダイヤモンド・プリンセス号の隔離策、中国の入国制限時期、大規模イベントの自粛要請、全国一律の小中学校・高校の一斉休校など一連の施策について“戦略”“戦術”の観点から振り返れば、日本の新型コロナウイルス対策の戦略が一貫性に乏しく、ズレているといえます。そして、ここに来て東京の一極集中の欠点が出てきたといえるでしょう。東京は外出自粛で済まないでしょう。 社会距離戦略(封じ込め)の施策で見れば、ドイツの方法が参考になると思います。

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
   ・Hazmatnation.com,  Just how contagious is COVID-19? , March  01, 2020
    ・Newsphere.jp,  犠牲やむなし、イギリス独自のコロナ対策 「集団免疫」で収束狙う,  March  17, 2020
    ・Japan.diplo.de,新型コロナウイルス感染に関するメルケル首相のメッセージ,  March  16, 2020
    ・Cnn.co.jp,  新型コロナウイルス、総人口の6〜7割に感染の恐れ 独首相,  March  12, 2020
    ・Newsweekjapan.jp,  イギリス、他国に続き封鎖政策へ 「集団免疫」戦略から一転,  March  23, 2020
    ・Actuaries.jp,  感染症の数理,  March  18, 2009
    ・Mhlw.go.jpActuaries.jp,  新型コロナウイルス感染症対策専門家会議 「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(2020 年 3 月 19 日,  March  19, 2020
   Yahoo.co.jp, 専門家会議メンバーが明かす、新型コロナの「正体」と今後のシナリオ, February  26, 2020
   ・Dus.emb-japan.go.jp, 緊急ドイツにおける新型コロナウイルス対策(2020年3月22日付,  March  22, 2020
   Wired.jp,  新型コロナウイルス対策で、いまシンガポールに注目すべき理由,  March  22, 2020


後 記: 「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」の「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」中で、日本の感染状況が欧州や米国と異なり持ちこたえているのは、「一連の国民の適切な行動変容」によっていると述べられています。確かに町中ではマスクをしている人が多くなりましたし、不自由な生活をじっと耐えていると感じます。中には、マスクをしないで運動をしている人がいるとおかしいという過剰なほどの反応もあります。
 このような状況を見て思い出したのは、「世界最強の軍隊をつくるには、アメリカ人の将軍、ドイツ人の将校、日本人の下士官兵を集めればいい」という世界のジョークです。(もっと簡単に「アメリカ人の将校と日本人の兵隊」というのもある) 最近のアメリカは当てはまらないように感じますが、日本人の下士官兵(兵隊)は健在なような気がします。こんな状況で続きを言うにはやや不謹慎ではありますが、「世界最弱の軍隊をつくるのは簡単で、中国人の将軍、日本人の将校、イタリア人の下士官兵を集めればいい」というオチがあります。




2020年3月20日金曜日

豪州における山火事の被害(2019~2020年)

 今回は、2019年9月から始まり、2020年2月に収束した豪州の山火事に関する情報について紹介します。
写真Static01.nyt.comから引用)
< 発災地域の概要 >
■ 発災があったのは、豪州東部を中心とした全土の森林、低木、灌木などのほか、住宅や建物である。

■ 豪州では、気温が高く乾燥する10月から3月までは、法律で山火事危険時期と定められている。国内の森林で最も多いユーカリの葉は油成分が多くて燃えやすい。強風にあおられると、時速50km以上で広がることもある。大規模になると高温の炎で上昇気流が発生し、天候を変えるほどの威力を持つ。
             豪州の各州 (図はTravel-zentech.jpから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2019年9月初め頃から、豪州南東部のニューサウスウェールズ州を中心に山火事が頻発するようになった。9月6日(金)、州北部が激しく燃え上がる山火事の脅威に見舞われた。

■ 11月12日(火)には、約600万人が暮らすニューサウスウェールズ州の各地で山火災が続き、シドニー郊外にまで火の手が迫った。この日の気温は35℃、風の強さは時速80キロ(風速22m/s)に達した。 州内の山火事の数は、約100か所から約300か所にまで拡大した。 600校以上の学校が閉鎖された。
 
■ 11月12日(火)時点で、クイーンズランド州では、55か所で山火事が発生したことをうけ、非常事態が宣言された。

■ ニューサウスウェールズ州では、3,000人の消防士が北部沿岸で約1,000kmにわたる山火事の消火活動にあたった。他の州や豪州国防軍のほか、ニュージーランドからも応援に入った。当局によると、複数個所で、それぞれ10万ヘクタール以上延焼しているという。火の手がシドニー中心部から15km以内に到達したため、消防は航空機を使って赤色の難燃剤を散布した。

■ 豪州東部で山火事が続き、11月11日(月)、シドニーを州都とするニューサウスウェールズ州とクイーンズランド州は非常事態宣言を出し、消防当局などが消火に当たった。山火事は9月上旬から徐々に広まり、多くの面積が焼失し、希少動物のコアラが350頭以上焼死した可能性があるという。

■ 2019年11月13日(水)、ニューサウスウェールズ州では、火災状況が悪化した11月8日(金)以降、3人が死亡し、住宅170棟以上が全焼した。当局は、「この国がこれまでに直面した中で最も危険な山火事」だとしている。9月以降、ニューサウスウェールズ州では約100ヘクタールが焼けた。複数の専門家は、今回の火災を、173人が犠牲になった2009年のビクトリア州での森林火災「ブラック・サタデー」と比較している。

■ 2019年12月17日(火)、全国平均気温は観測史上最高の40.9℃を記録。さらに翌18日には41.9℃に達し、記録を塗り替えた。

■ 2019年12月19日(木)、長期的な山火事に見舞われているニューサウスウェールズ州南東部では、記録的熱波で事態が悪化する恐れがあるとして、7日間の非常事態を宣言した。同州の非常事態宣言は、先月に続いて2度目である。ニューサウスウェールズ州では、約100か所で山火事が発生しており、当局が対応に追われた。

■ 2019年12月19日(木)には、ニューサウスウェールズ州バーゴー近郊で、消防士3人が炎に包まれ、重度の火傷を負った。また、同州シドニーの南西約100kmのバクストンでは、消火活動のボランティア消防士が乗った地元消防局の車両が木に衝突して横転する事故が発生し、運転手と助手席に乗っていた2人が死亡、ほかに3人が負傷した。
■ 年末年始にかけても、深刻な山火事が続き、沿岸部を中心に多くの家屋が焼失した。ビクトリア州では少なくとも43棟、ニューサウスウェールズ州では176棟が破壊された。同州では、ここ数日で5人が亡くなった。ビクトリア州マラクータでは、20191231日(火)に火災が市街地を囲んだため、逃げられなくなった住民や観光客数千人が海岸へと避難した。その後、この火災は勢いが弱まり、 202011日(水) には主要道路が2時間のみ通り抜け可能となった。ビクトリア州では、45件の山火事警報が出された。ニューサウスウェールズ州では、元日も112件の山火事が確認された。

■ 2020年1月4日(土)に自宅から避難した同州イーデン在住の住民のひとりは、「50m先も見えない状況で、空からは広い灰や塵がたくさん降ってきた」といい、「空はまだ赤い。私たちはまだ危機を脱していない」と話していた。

■ 2020年1月5日(日)、首都キャンベラでは大気汚染が悪化し、世界の中で最悪のレベルに達した。年明け最初の週末、各地の被害は深刻で、数百棟の家屋が破壊された。大都市や農村部では空が赤く染まり、煙や灰が立ち込めた。5日午後には、ビクトリア州やニューサウスウェールズ州で小雨が降ったほか、気温や風速も穏やかになり、火災の広がりは落ち着いた。

■ 1月5日(日)、豪州全土では、200件近くの山火事が確認されており、全ての州・準州に影響が出ている。これまでに1,200棟以上の家屋が破壊されたほか、数百万ヘクタールが焼失した。ニューサウスウェールズ州では、数万世帯が停電に見舞われ、先週から今週にかけて数千人が避難した。

■ 2020年1月5日(日)、豪州首相は、同国各地で猛威を振るっている山火事が今後数か月続く見込みがあると警告した。また、火災によって家や職を失った人を援助する復興局の設置を発表した。

■ 2020年1月8日(水)、豪州で消火活動に当たっているのは、対価をもらっていないボランティア型消防士である。あるボランティア型消防士は、「情熱と同胞愛があるからやっている」と話した。

 (写真はAbc.net.auから引用)
■ 2020年1月になっても山火事は収まらず、火災で2,000棟近くの家屋が破壊され、少なくとも25人が死亡した。また、数億匹の動物が犠牲になったとみられている。

■ 2020年1月23日(木)、C-130大型消防用航空機が消火用水を積んだまま、クーマ近くで墜落し、米国の乗組員3名が亡くなった。

各地の山火事の状況
ニューサウスウェールズ州
■ 2019年9月6日(金)、州北部で発生した山火事から始まった。ドライク(Drake)近くで発生した山火事は10月末まで燃え続け、2名が死亡、43棟の住宅が焼失した。テンターフィールド(Tenterfield)の郊外で発生した山火事では、ひとりが重傷を負い、1棟の住宅が焼失した。エバー(Ebor)近くで発生した山火事では、11月12日(火)まで燃え続け、7棟の住宅が焼失した。

■ 10月26日(土)、州中部のポート・マッコリー(Port Macquarie)では雷雨によって山火事が始まった。消火活動の遅れや風の急変によって、10月29日(火)には、ポート・マッコリーと周辺地区は濃い煙で覆われ、翌週には空がオレンジ色に輝くほどの山火事になった。このほか、リンドフィールド公園(Lindfield Park)の山火事が起こるなどして、4,500ヘクタールが焼失した。

■ 州中部のキャライ(Carrai)では、場所が荒野で且つ十分な資機材がなく、消火活動が困難だったため、クームスギャップ(Coombes Gap)など東方に火災が広がった。この山火事で40,000ヘクタール超が焼失し、多くの住居が損壊し、3名が亡くなった。

■ 10月28日(月)、州中部のハリントン(Harrington)の北西部で発生した山火事は北へ広がり、12,000ヘクタール超を焼失し、1名が亡くなった。

■ ヒルビル(Hillville)で発生した山火事は強風によって拡大し、タリー(Taree)の町の方に迫り、混乱が生じた。11月9日(土)には、火災は沿岸側のオールド・バー(Old Bar)などに達した。最終的に31,268ヘクタールを焼失した。

■ 州北部のタピン・トップス国立公園(Tapin Tops National Park)付近で発生した小さな火災が大規模な山火事になり、ボビン(Bobin)の村に影響を与えた。多くの住宅とボビン公立学校が火災で破壊された。
 ニューサウスウェールズ州の山火事(1 
ニューサウスウェールズ州の山火事(2
■ 201912月下旬、州中部のクーパーノック(Coopernook)地区を通るパシフィック・ハイウェイの両側で山火事が始まった。制圧されるまでに278ヘクタールが焼失した。

■ 州中部にあるウォレマイ国立公園(Wollemi National Park)のゴスパーズ山(Gospers Mountain)で大規模な山火災が2019年11月に発生し、496,976ヘクタール超が焼失し、リスゴー(Lithgow)地区などの住宅が危険にさらされた。ゴスパーズ山の火災からブルーマウンテンを守ろうとして、 12月14日(土)、消防士は、マウント・ウィルソン地区などで予め枯葉などを燃やすバックバーニング(逆火法)を試みた。しかし、火災の勢いが強く、不安定な気象条件によって、バックバーニングは制御不能となり、地区の住宅に危険が及んだ。

■ 12月19日(木)、ゴスパーズ山の火災はダーリング・コーズウェイ(Darling Causeway)に飛び火し、さらにグロース・バレー(Grose Valley)に影響を与え、グロース・バレー火災とゴスパーズ火災の2つに分かれた。12月21日(土)、グロース・バレー火災はブラックヒース(Blackheath)やベル(Bell)などに影響を及ぼし、数十棟の住宅を破壊した。さらに、グロース・バレー火災とゴスパーズ火災の双方がクラジョン(Kurrajong)の方へ向かって燃え続けていった。クラジョン周辺地区では、バック・バーニング(逆火法)を実施し、町の危険から守ろうとした。

■ 12月15日(日)までに、ゴスパーズ山火災は350,000ヘクタールまで拡大し、豪州史上最大の森林火災となった。ゴスパーズ山火災は、12月27日(金)時点で、500,000ヘクタール超を焼失させた。 2019年10月26日(土)に落雷によって発生した山火事は、リスゴー、ホークスベリー(Hawkesbury)などの地方自治体全体で512,000ヘクタールを焼失させ、2020年1月12日(日)に収束した。
ニューサウスウェールズ州の山火事(3
ニューサウスウェールズ州シドニー大都市圏
■ 州中部にあるシドニー地域では、11月12日(火)、気象条件が最悪の中、レーン・コーブ国立公園(Lane Cove National Park)で山火事が発生した。強風と高い気温の中、火災は急速に広がり、制御できない状況で、ターラマラ(Turramurra)の郊外にまで迫った。C-130消防航空機による難燃剤が散布され、火災は数時間後に制圧された。

■ シドニー大都市圏は、周辺地域で発生する山火事によって12月は数日間、煙霧に悩まされ、大気質は危険レベルの11倍に達するほどだった。12月10日(火)、シドニー郊外のナタイ(Nattai)周辺に山火事が迫り、続いてオレンジヴィル(Orangeville)などの北側の町に迫り、多くの住宅が危険にさらされ、ビルディング一棟が破壊された。
 山火事は散発的に燃え続け、12月14日(土)・15日(日)には森林から出て南のバックストン(Buxton)の住宅地に迫った。山火事は南東に移動し、バーゴー(Bargo)などのシドニー南西部の住宅地を襲った。この火災では、いろいろな被害があったが、特に何台かの消防車が火災の中に行き過ぎ、数人の消防士が病院へ搬送され、うち二人は重傷だった。また、その夜遅く、樹木が道路上に倒れ、消防車が横転し、消防士2名が死亡し、3名が負傷した。
 12月21日(土)には、山火事の状況が悪化し、 バルモラル(Balmoral)などで大きな被害となった。12月31日(火)には、ミタゴン(Mittagong)などの町が山火事の被害に遭った。

■ 12月31日(火)、シドニー西方のプロスペクト・ヒル(Prospect Hill)では、傾斜地の森林で火災が発生し、ペマルウィー(Pemulwuy)の工業団地が午後9時30分に火災が制圧されるまで脅威にさらされた。山火事で10ヘクタールが焼失し、歴史的なペムルウィの木が焼けてしまった。

■ シドニーでは、花火をすることについて特別免除が継続していた。当局からの警告にもかかわらず、シドニー南西部にあるセシル・ヒルズ (Cecil Hills)の山火事のように違法な花火による火災が多発していた。

■ 2020年1月4日(土)、シドニーの西にあるペンリス(Penrith)では、気温が48.9℃を記録し、当日の地球上で最も暑い場所となった。

■ 2020年1月5日(日)、シドニーの南西にあるボヤジャーポイント(Voyager Point)で山火事が発生し、強い南風によって急速に広がり、ハモンドヴィル(Hammondville)地区で多数の住宅が影響を受けた。山火事が北方へ移動したため、当局は煙の状態を見てM5高速道路を閉鎖し、ニューブライトン(New Brighton)の住宅団地への影響に備えた。空中消火の支援を受けた地上の消防隊は、高速道路の南側で食い止め、60ヘクタールを焼失させた火災から住宅地を守った。
ニューサウスウェールズ州シドニー大都市圏の山火事 
ニューサウスウェールズ州シドニー以南地域
■ 201910月下旬、シドニーの南西にあるカナングラ・ボイド国立公園(Kanangra-Boyd National Park)の森林地帯で多くの火災が発生した。この地域は人里から離れたところで、起伏が多く、近づきにくい地形だったが、密生した森林地帯に山火事が広がり始めたため、消防隊は火災の封じ込めに苦労した。複数の山火事が最終的にいっしょになり、グリーン・ワットル・クリーク(Green Wattle Creek)の山火災になった。

■ 火災の規模と強さは大きくなり、イエランデリー(Yerranderie)の町に向かって燃え始めた。防災ヘリコプターや防災用航空機が火災の広がりを抑え込む一方、地上の消防隊は町のまわりをバックバーニング(逆火法)で延焼を防いだ。山火事はイエランデリーを越え、国立公園を通過してシドノーの南西部の方に向かって燃え続けた。厳しい気象条件のもとで12月5日(木)に、火災はバラゴラン湖(Lake Burragorang)を飛び越え、人口の集中する区域の方に向かって燃え始めた。

■ 2019年12月19日(木)、火災はヒューム・ハイウェイ(Hume Highway)の方へ東に燃え続け、ヤンデラ(Yanderra)の町に影響を与えた。山火事が南東に向かって進んだ数日間、イエリンブール(Yerrinbool)とヒルトップ(Hill Top)の2つの町が火災の脅威にさらされた。火災は南と東に広がっただけでなく、西の方向にも広がり、オベロン(Oberon)の町に向かった。2020年1月2日(木)、歴史的なジェノラン洞窟(Jenolan Caves)周辺で山火事が発生し、地元の消防署を含めた複数の建物が焼失した。
 ニューサウスウェールズ州シドニー以南地域の山火事 
ニューサウスウェールズ州サウスコースト地域
■ 2019年12月19日(木)、州南部地域で気象条件が劇的に悪化し、デウア・リバー・バレー(Deua River Valley)、バジャ(Badja)などの地域で大きな山火事が発生した。一方、消防隊はすでにカロワン(Currowan)、パララン(Palerang)、クライド・マウンテン(Clyde Mountain)の山火事の対応に追われていた。サウスコーストの気温は41℃に達すると予想され、2020年1月2日(木)、ニューサウスウェールズ州知事は7日間の緊急事態宣言を発表した。

■ カロワンで始まった山火事は、プリンセス・ハイウェイを越えて海岸線を上って行き、ターメイル(Termeil)周辺に脅威を与えた。 バウリー・ポイント(Bawley Point)やキオロア(Kioloa)などの住民は別な町へ避難する人もいれば、家を守ろうと残った人もいた。

■ 2019年12月26日(木)までに、クライド・マウンテンの山火事は、キングス・ハイウェイ(Kings Highway)の南側で燃えており、バッケンボウラ(Buckenbowra)とラニーフォード(Runnyford)の地域に入っていった。12月31日(火)、山火災はモゴ(Mogo)近くのプリンセス・ハイウェイ(Princes Highway)を越えたので、ベイトマンズ・ベイ(Batemans Bay)とモルーヤ(Moruya)間のハイウェイを閉鎖せざるを得なくなった。

■ 2020年1月2日(木)時点で、カロワンの山火事は、南はベイトマンズ・ベイ、北はナウラ(Nowra)、西はブレードウッド(Braidwood)で燃えていた。山火事は258,000ヘクタール以上焼失させ、制御不能だった。カロワン山火事は、ナウラの南西にあるモートン国立公園(Morton National Park)のティアンジャラ(Tianjara)の山火災と一緒になった。
ニューサウスウェールズ州サウスコースト地域の山火事(1) 
■ 1231日(火)、山火災はベイトマンズ・ベイ南側に迫り、10個所の事業所を焼失させ、多くの人に被害を与えた。山火災は、プリンセス・ハイウェイを越え、カタリナ(Catalina)の郊外住宅やブルーリー(Broule)などの海岸沿いを焼失させた。住民や行楽客たちはビーチに逃げざるを得なかった。さらに、2010123日(木)、この山火事は緊急事態レベルに拡大し、これまで山火事の影響を受けていなかったモルーヤ(Moruya)の町に迫っていった。

■ コンジョーラ湖(Lake Conjola)周辺では、山火事の燃え殻が湖を越えて家などに落下し、多くの住宅が焼失し、ある通りではわずかな家しか残っていなかった。2020年1月2日(木)時点で、ふたりが死亡し、ひとりの女性が行方不明になった。ベンダロング(Bendalong)やマンヤーナ(Manyana)などの孤立した集落の山火事では燃え広がり、行楽客は2020年1月3日(金)には避難得ざるを得なかった。2020年1月6日(水)時点でも、山火事の勢いは続いていた。

■ 2020年1月5日(日)、ベガ・バレー・シャイア(Bega Valley Shire)自治体では、ビクトリア州北東部で始まった州境の山火災が、ニューサウスウェールズ州北部のイーデン(Eden)の町に向かって燃え、さらにキアー(Kiah)、ロワー・トゥワンバ(Lower Towamba)、ボイドタウン(Boydtown)を含む周辺地区などに被害を与えた。山火事の一部は、近づくことが難しい場所で燃え、ボンバラ(Bombala)に向かって北西方向に進み、ネザーコート(Nethercote)の南では北の方向へ燃え続けた。山火災は60,000ヘクタール以上を焼失し、制御不能な状況だった。ベガ・バレー・シャイア自治体では、 2020年2月2日(日)時点で177,000ヘクタールを焼失させた州境の山火事が北に進み、南西部にあった3つの山火事がひとつになった。この地域での34日間の山火事によって400棟以上の家屋が焼失した。  
ニューサウスウェールズ州サウスコースト地域の山火事(2) 
ニューサウスウェールズ州南部
■ 2019年12月30日(月)、アルベリー(Albury)東方の山火事は前日から始まったが、異常な地域条件によって、スノーウィ・バレー(Snowy Valley)では前例のない山火事に進展した。煙の高さは推定8,000mに達し、火災積雲が発生した。このため、山火事は猛火となり、地上の風速が100km/h(27m/s)を超え、火災の前線よりも5km先に飛び火(スポット・ファイアー)が発生した。木々がなぎ倒され、消防車をひっくり返したのは、火災旋風によって発生した竜巻だと消防士たちは思ったという。消防士1名が亡くなり、複数の消防士が負傷し、このうち3名は救急用航空機で搬送された。

■ 2019年12月28日(土)にアデロング(Adelong)近くで発生した山火事は、松林に雷が落ちたことよって始まったとみられている。この山火事は制御不能で、130,000ヘクタール以上が焼失した。バットロー(Batlow)とワンダルガ(Wondalga)地域の住民に避難命令が出された。コジオスコ国立公園(Kosciuszko National Park)の住民や来訪者は避難し、国立公園は閉鎖された。タンバランバ(Tumbarumba)近くにあるマンヌス矯正センターにいた155名の受刑者も避難した。

■ 2020年1月3日(金)、バットロー(Batlow)から始まった山火事はコジオスコ国立公園に燃え広がり、公園の北側の大部分が焼失した。 山火事は、セルウィン・スノー・リゾート(Selwyn Snow Resort)の町に大きな被害を与えた。カブラマラ (Cabramurra)の建物を焼失させ、遺産登録地区や豪州スキー発祥の地であるキアンドラ(Kiandra)の町を完全に破壊してしまった。2020年1月11日(土)までに、3つの山火事がひとつになり、600,000ヘクタールを焼失する“メガ・ファイアー”(大規模森林火災)になった。 
ニューサウスウェールズ州南部地域の山火事 
ビクトリア州
■ 2019年11月21日(木)、ビクトリア州では、イースト・ギプスランド(East Gippsland)地域で落雷による山火事が続いて起こった。最初は、バカン(Buchan)やバカン・サウス(Buchan South)などの地区が危険にさらされた。12月20日(金)、山火事は、マーサベール(Marthavale)やバーマウス・スプール(Barmouth Spur)に広がり、さらに、タムボ・クロッシング(Tambo Crossing)の地区が危険にさらされた。

■ 2019年12月30日(月)、イースト・ギプスランド地域では、3つの山火事が発生し、130,000ヘクタールを焼失させた。ウォルワ(Walwa)近くの山火事は南東に進み、カッジワ(Cudgewa)の方に向かって焼失させていた。カッジワと同様、歴史ある古い森林のあるグーンジェラ(Goongerah)の町では避難警告が出された。同日、メルボルン(Melbourne)の北東にあるプレンティ・ジョージ公園(Plenty Gorge Parklands)では山火事が発生し、被害が出た。

■ 山火事は、2019年12月31日(火)の朝にマラコータ(Mallacoota)の町まで迫った。イースト・ギプスランド地域には、避難警告が出ているにもかかわらず、約30,000人の行楽客はこの地域に留まっていた。マラコータでは、約4,000人の人たちが留まっていたが、山火事は町に迫り、道路を遮断していた。2020年1月3日(金)、約1,100人の人たちが海軍の艦艇で避難した。

■ 2020年1月2日(木)、ビクトリア州知事は、イースト・ギプスランド地域、マンスフィールド(Mansfield)、ウォンガラッタ(Wangaratta)など山火事の危険が迫っている地域に緊急事態を宣言した。50件の山火事が燃えており、コリヨング(Corryong)近くでは、100,000ヘクタールが焼失した。2020年1月3日(金)、イースト・ギプスランドの山火事で2名が死亡したことが確認された。

■ 2020年1月6日(月)時点で、ビクトリア州の山火事は東部と北東部において120万ヘクタールを焼き、、200棟の住宅を焼失させた。2020年1月13日(月)、気象条件は比較的穏やかだったが、ビクトリア州では2つの山火事によって緊急レベルの勢いで燃えていた。ひとつはアビーヤード(Abbeyard)の東にあった山火事であり、もうひとつはイースト・ギプスランド地域にあってタンブーン(Tamboon )などに被害を与えた山火事である。
ビクトリア州の山火事 
■ 2020123日(水)時点で、ビクトリア州ではなおも12件の山火事が続いており、特にイースト・ギプスランド地域と州北東部の山火事ははげしかった。イースト・ギプスランド地域のブルダー(Buldah)火災は監視して対応をしているものの、残りの山火事は様子を見るだけだった。雨の少ない乾燥雷によって発生した44件の山火事の大半は消防隊によって素早く対処された。メルボルン(Melbourne)地域に大雨が降ったが、山火事になった区域にはほとんど恩恵にならなかった。雨は、地すべりなどの恐れがあり、消防隊にとっては新たな危険をもららすことがあるという。

■ 2020年1月30日(木)~31日(金)には、ニューサウスウェールズ州や南オーストラリア州ととも、ビクトリア州の気象は異常高温となり、いくつも制御不能な山火事が発生し、危険な状態となった。1月30日(木)には、ベンドック(Bendoc)などに対して緊急警告が発せられた。

■ 2020年2月20日(木)、3か月間にわたって燃え続けたイースト・ギプスランド山火事が制圧されたと宣言された。しかし、ビクトリア州の東方で複雑な山火事になったスノーウィの火災が唯一なおも燃えていた。

クイーンズランド州
■ 2019年9月7日(土)、クイーンズランド州の南東部や北部において複数の山火事が発生し、ビーチモント(Beechmont)で11棟、スタンソープ(Stanthorpe)で7棟、マリーバー (Mareeba)で1棟の住宅が焼失した。翌日、ビナ・ブッラ(Binna Burra)にある豪州の自然を象徴して遺産登録されたロッジなどが山火事で破壊された。

■ 2019年9月9日(月)、ペリージャン・ビーチ(Peregian Beach)地域では大きな山火事によって深刻な被害を被り、10棟の住宅が焼失した。ペリージャン・スプリングスなどの地域では、火災に遭った住宅こそ無かったが、 2019年12月に2度目の山火事の脅威にさらされた。

■ 2019年11月8日(金)、ジムナ(Jimna)の町の西にある森林地帯で山火事が発生し、クイーンズランド州消防局の監視下に入り、対応がとられた。火災によって町の住民が避難せざるを得ない状況になった。

■ クイーンズランド州は火災条件の悪化によって家屋が脅かされる状況になり、 2019年11月9日(土)、州内の42の地方自治体に火災緊急警報が出された。11月中旬には、イェップーン(Yeppoon)地区の14棟の住宅が焼失した。

■ 2019年11月11日(月)、レイブンズボーン(Ravensbourne)地域で発生した山火事は、数日間にわたって20,000ヘクタールを焼き、6棟の住宅を焼失させた。人口約220万人の都市であるブリスベン(Brisbane)では、PM2.5(微小粒子状物質)の状況がかってないほど悪化し、 238μg/m3を記録した。住民には、屋内にとどまり、できるだけ身体を動かさないよう促された。

■ 2019年11月13日(水)、ペチェイ(Pechey)地区で消火活動をしていた防災ヘリコプターが墜落した。ヘリコプターは全壊だったが、パイロットは軽傷で済んだ。

■ 2019年12月6日(金)、バンダンバ(Bundamba)の町で1棟の家が火災になり、あっという間に近くの草原地帯に延焼し、その日の午後にはクイーンズランド州消防局による監視下におかれることになった。翌日、状況が悪化し、山火事は緊急警報レベルに上がり、地元の住宅に危険が迫り始めた。山火事は花火を積んだ輸送用コンテナを破壊し、立入禁止区域が設けられ、3平方キロメートル以内の住民に避難指示が出された。
クイーンズランド州の山火事 
南オーストラリア州
■ 2019年11月11日(月)、ポート・リンカーン(Port Lincoln)において制御不能な山火事が迫ってきたため、町に緊急警報が発令された。南オーストラリア州消防局は、現場に消防士を派遣するとともに空中消火機を出動させた。

■ 2019年11月20日(水)、 ヨーク半島(Yorke Peninsula)において大規模な山火事が発生し、ヨークタウン(Yorketown)やエディスバーグ(Edithburgh )の町に迫った。少なくとも11戸の住宅を破壊され、5,000ヘクタールを焼失させた。山火事は変圧器の火花から始まったとみられる。エディスバーグの町を守るため、南オーストラリア州の防災用航空機を出動させたほか、ニューサウスウェールズ州から防災用航空機の支援を受けた。

■ 2019年12月20日(金)、アデレード・ヒルズ(Adelaide Hills)地域で山火事が始まった。最初、南東の風で火災の進む先にロベサル(Lobethal)などの町があったが、翌朝、風が北北西に変わり、ほかの町が危険になった。この山火事で1名が死亡し、7棟以上の住宅が燃え、400件の小屋と200台の車が破壊された。また、12月20日(金)には、アングル・ベール(Angle Vale)の制御不能な山火事は、高速道路のノーザン・エキスプレスウェイ(Northern Expressway)付近から始まり、ガウラー・リバー(Gawler River)を越え、バックフェルド(Buchfelde)を焼き払った。異常気象条件のもとで火災は猛威を振るい、ヒラー(Hillier)、マノ・パラダウンズ(Munno Para Downs)などの町に緊急警報が発せられた。この火災で住宅1棟が焼失した。
南オーストラリア州の山火事 
■ 201013日(木)、カーズブルック(Kersbrook)では、山火事が発生したため、新たな緊急警報が出された。数日前にカッドリー・クリーク(Cudlee Creek)の山火事に対する警報が出ており、この地域と重なるところがあった。暗くなるまで防災用航空機が何度も往復し、地上では消防隊150名が消火用水や土木用重機で対応し、火災の進行を妨げ、焼失面積を18ヘクタールにとどめた。

■ カンガルー島(Kangaroo Island)にあるフリンダーズ・チェイス国立公園(Flinders Chase National Park)から始まった峡谷の山火事は15,000ヘクタール以上燃え続け、2020年1月3日(金)に緊急警報が発せられ、山火事はビボンヌ・ベイ(Vivonne Bay)に向かって進み、パーンダーナ(Parndana)の町は避難せざるを得なかった。 1月4日(土)には、2名の死亡が確認された。1月6日(月)時点で、島の約3分の1にあたる170,000ヘクタールが焼失した。山火事は制御不能なまま燃え続けた。週の後半には暑い風の吹く天候が予想されており、消防隊はその前に火災を制圧しようと努めた。飲料水処理施設への火災の影響により、住民は水を節約したり、島外から水を運んだりした。黒い光沢のあるテリクロオウムやコアラなど絶滅の危機に瀕した野生生物が懸念される状況だった。

西オーストラリア州
■ 2019年11月13日(水)、ジェラルトン(Geraldton)で2件の山火事が発生し、住宅などが損害を受けた。12月11日(水)には、 ヤンチャップ(Yanchep)で山火事が発生し、ヤンチャップのほかトゥー・ロックス(Two Rocks)の町に非常警報が発せられた。火災により、ガソリンスタンドが爆発した。 12月12日(木)には、気温が40℃を超え、火災の状況が悪化し、緊急警報の対象地域は2倍に広がり、ギルダートン(Guilderton)やブレントン・ベイ(Breton Bay)を含むエリアになった。 12月13日(金)、気温が上昇した結果、焼失面積は5,000ヘクタールを超え、火災の前線の長さは1.5kmとなった。12月16日(月)までに山火事は制御下に入ったとみられ、監視と対応のレベルが下げられた。この間、焼失面積は13,000ヘクタールとなった。

■ 2020年12月、ノースマン(Norseman)周辺の地域での火災により、エア・ハイウェイ(Eyre Highway)が閉鎖された。 2019年12月26日(木)から2020年1月1日(火)の間、落雷によって発生した山火事は州南部にあるスターリング・レンジ国立公園(Stirling Range National Park)の半分にあたる40,000ヘクタールを焼失させた。火災積雲は80km先離れた場所からも見えた。2020年の元旦までに、山火事の対応に従事していた200人の消防士は原隊に戻った。公園管理建屋やハイキング用通路は破壊されたが、人命や住宅に被害は出なかった。しかし、西オーストラリア州にすむ貴重なクアッカワラビーなど希少な動植物への影響が危惧されている。
西オーストラリア州の山火事 
タスマニア州
■ 2019年10月下旬、島内のスキャマンダー(Scamander)、エルダースリー(Elderslie)、ラックラン(Lachlan)の近くで4件の山火事が発生した。 近隣の町では緊急警報が発せられた。スワンシー(Swansea)近くで発生した山火事は4,000ヘクタールを焼失させた。タスマニア州南西部では、落雷によって次々と山火災が発生した。

■ 2019年12月20日、州北東部で発生した山火事は15,000ヘクタールを焼失させたほか、住宅1棟が焼けた。なお、この山火事を起こしたとするひとりの男性が起訴された。

■ 2019年12月29日(日)には、州北東部のフィンガル(Fingal)の渓谷で山火事が発生した。12月30日(月)には、州中央にあるペラム(Pelham)で山火事が発生した。2020年1月16日時点で、フィンガルの山火事は20,000ヘクタールを焼失させ、ペラムの山火事では2,100ヘクタールが焼失した。
タスマニア州の山火事 
オーストラリア首都特別地域
■ オーストラリア首都特別地域の首都キャンベラ(Canberra)は、2020年元旦、ニューサウスウェールズ州で発生した山火事によって火災から流れてきた煙で覆われた。その日、キャンベラの大気質は世界中の都市の中で、危険とみなされるしきい値の約23倍と最悪だった。1月2日(木)、劣悪な大気質に関連して死亡した人が出た。翌日も状況は続き、オーストラリ郵便公社は従業員を煙から守るために首都特別地域内での郵便配達業務を停止した。1月2日(木)、首都特別地域は警戒態勢をとっていたが、1月12日(日)まで延長された。山火事は州境から7kmまで燃えていた。山火事による煙は1月中、断続的にキャンベラの大気質に深刻な影響を与え続けた。

■ 2020年1月6日(月)、ナマッジ国立公園(Namadgi National Park)のホスピタル・ヒル近くで山火事が始まった。この山火事は1月9日(木)に消えた。

■ 2020年1月22日(水)、ピアリーゴ・レッドウッド・フォレスト(Pialligo Redwood Forest)で始まった山火事は緊急レベルに達し、ビアード(Beard)などの町に迫った。翌日、2番目の山火事が発生し、その日のうちに山火事はひとつになった。山火事は、モロングロ川(Molonglo River)を越えて、ビアードのほかハーマン(Harman)などの町に迫り、424ヘクタールを焼失させた。キャンベラ空港は一日閉鎖された。火災によって施設1軒、小屋4軒、車両3台が被害を受けた。

■ 2020年1月27日(月)、ナマッジ国立公園(Namadgi National Park)のオローラル・バレー(Orroral Valley)で山火事が始まった。地上の消防隊を支援するため、軍のヘリコプターを使用して定期的な空中偵察と地上のクリアランス作業を行っていたが、ヘリコプターの着陸灯によって火災が発生した。1月28日(火)の朝までに、火災は2,575ヘクタールを焼失させ、サーワ(Tharwa)の町から9kmほどに迫っていた。サーワと首都キャンベルの南部郊外に緊急警報が出された。 1月31日(金)、首都特別地域に緊急事態が出された。 2003年にキャンベラ山火事が起こったが、今回の火災はキャンベラ住民にとってそれ以来の脅威になった。 その後、状況は最悪の状況を回避でき、2月5日(水)には監視レベルになり、2月27日(木)に山火事は消えたと宣言された。
オーストラリア首都特別地域の山火事 
ノーザンテリトリー州
■ ノーザンテリトリー州は、他の州で発生した異常な山火事の規模と比較してすれば、相対的には年間の平均的な山火事シーズンだった。しかし、それでも焼失面積は約680万ヘクタールで、これは豪州の山火事による被害の三分の一に相当する。ノーザンテリトリー州では、山火事によって5軒の住宅が失われた。

被 害
■ 2020年2月13日(木)時点での、豪州各州の焼失面積、被害住宅、死者数は表のとおりである。 
豪州の山火事(20192020年)の被害
(表はWikipedia.orgから引用)
< 事故の原因 >
発火源
■ 2019年~2020年のニューサウスウェールズ州とビクトリア州のおける山火事の発火源は、主に落雷とみられている。

■ 放火による山火事は、ニューサウスウェールズ州で約1.0%、ビクトリア州では約0.3%であり、全体の割合からすれば大きな原因ではなかった。 しかし、24人が放火の嫌疑を受けている。一方、クイーンズランド州警察は、1,068件の山火事のうち114件(約10%に相当)が「故意または悪意」により点火された」と報告している。

干ばつと気温
■ 大規模の山火事に至った間接要因としては、豪州東部で起こった干ばつで、火災被災地では記録的で深刻なものだった。201910月までの36か月間、月間平均気温が記録破りの高温の連続で、雨が少なく干ばつを悪化させてしまった。この高温と干ばつが重なって、草木の水分保有が小さくなった。
 豪州は数千年にわたって降雨量の変化が大きく、夏季は暑い気候となってきたが、 1900年以降、年間平均気温は約1.0℃上昇し、1990年以降、豪州南東部では平均降雨量が減少し、21世紀にはいって今回は最悪の干ばつを記録した。

気候変動
■ 気候や火災の専門家は、気候変動が豪州の東部と南部で火災の頻度や激しさを増加させている要因であるという。これが2019~2020年の豪州における山火事の唯一の原因だと考えるべきではないが、気候変動が前例のない広範囲で深刻な山火災に寄与した可能性は非常に高いと考えられている。

< 消火活動 >
消防機関
■ ニューサウスウェールズ州には、「ファイア&レスキューNSW」( Fire and Rescue NSW)と「ニューサウスウェールズ州地方消防局」(New South Wales Rural Fire Service)の2つの消防機関がある。主要な都市の消防・救急業務を行うのが「ファイア&レスキューNSW」であり、335の消防署で6,800人の消防士を擁している。一方、ボランティア消防士を主体とし、地方の消防業務を行うのが「ニューサウスウェールズ州地方消防局」である。これまで州の山火事に対応するのは「ニューサウスウェールズ州地方消防局」の役目であった。しかし、今回の山火事では、両方の機関が対応し、数千人の消防士と数百台の消防車両が動員された。また、オーストラリア航空やシドニー鉄道などから消防の人員・資機材が提供された。

■ ボランティア消防士は、通常、無給だが、豪州政府は2019年12月24日(火)、山火事に従事したボランティアの消防士に20日間の有給休暇を提供するとした。さらに、12月29日(日)には、10日以上従事したボランティア消防士に金銭的補償を受けることができると発表した。

国防軍
■ 2019年12月5日(木)、豪州国防軍 (Australian Defence Force;ADF)は、政府の消防業務を支援する目的で山火事支援作戦を開始した。軍が行った活動には、空軍の輸送機による消防士や資機材の輸送、陸軍と海軍のヘリコプターによる消防士の移送、夜間の火災地図作成、救難者の捜査や救助飛行、情報センターとして軍の施設の開放、消防士の賄いや宿泊施設の提供、防災用航空機による消火活動や給油活動、火災によって寸断された道のう回路の確保、人道支援物資の提供などである。

■ 2019年12月31日(火)、国防軍は、孤立したビクトリア州のイースト・ギップスランド(East Gippsland)地域に支援のため、海軍艦艇、軍用輸送機、ヘリコプターを出動させた。 2020年1月1日(水)、国防軍はビクトリア州へ追加の軍隊を派遣した。 1月3日(金)、上陸船などを使ってマラコータ(Mallacoota)の孤立していた民間人を避難させた。

■ 2020年1月4日(土)、豪州政府は、作戦を遂行する目的で、最大3,000人の要員をフルタイムで配備するため陸軍予備役を呼び出した。
国際支援
■ 隣国であるニュージーランド、パプアニューギニア、フィジーは軍隊や消防士の派遣などの支援を行った。イギリス連邦のカナダ、シンガポールも軍隊の派遣などの支援を行った。このほか、フランス、インドネシア、マレーシア、フィリピン、アラブ首長国連邦、アメリカが人的派遣などの支援を行った。このほか、デンマーク、ルーマニア、トルコ、ウクライナなどの国は人の派遣などの申し出をしている。

■ 日本政府は、2020年1月15日(水)、C-130航空輸送機など2機を伴い、山火事と戦う際の後方支援を行うため70名の自衛隊を派遣した。輸送機は小牧基地からニューサウスウェールズ州のリッチモンド基地に飛び、活動を開始した。なお、自衛隊の援助活動は2020年2月7日(金)に終了した。
< 対 応 >
■ 2019年11月、科学者や専門家は、気候変動の影響で豪州での山火事火災は長期化し、より激しくなっていると警告した。当局は、2018年と2017年が、豪州での観測史上3番目と4番目に暑い年だったと認めている。豪州気象局の2018年の報告書によると、気候変動が猛暑日の増加や干ばつなどの過酷な自然災害の増加につながっているという。2015年のパリ協定で米国など188か国は、世界の気温上昇を産業革命前から2℃より「かなり低く」抑えることを目標とし、さらに上昇幅を1.5℃まで抑えるべく努力すると合意した。しかし、それを実行したとしても、豪州は危険な新しい常態に直面していると科学者は指摘している。

■ 豪州南部で大規模な山火事の猛威が続いている中、豪州首相は家族を伴ってのハワイに出掛けていたが、 2019年12月22日(日)、休暇を切り上げて帰国した。記者会見で休暇に出かけた自身の判断が適切ではなかったとの認識を表明し、「国内に大きな不安を引き起こしたことは承知している」と語った。
 山火事対応の遅れを強く批判された豪州首相は、2020年1月4日(土)、消火活動に最大3,000人の予備役を動員すると発表した。首相はすでに、危機対応のためインド訪問を取りやめた。

■ 2020年1月8日(水)、豪州における山火事の状況が世界各国のニュースで大きく取り上げられ、豪州国内外の政治家や著名人がさまざまな方法で援助を募っている。一方で、当局は、一部の援助が内容によってむしろ妨害になったり、被災地域を困惑させるようなものだと警告した。

■ 被災地にはおもちゃや食料、家具などの寄付が殺到している。当局はこうした厚意は時として問題になると警告した。ニューサウスウェールズ州非常事態管理局(OEM)の広報担当者は、物資があふれることで“二次災害”が起きる可能性があると述べた。広報担当は、「残念ながら、被災地がすぐに寄付された物資で溢れかえるという事態は良くあることだ」と述べ、復興会議用の部屋が寄付物資で埋まってしまうことがあると話した。ビクトリア州でも同じような問題が起きており、当局は援助を申し出る場合は金銭で寄付や募金を行うか、被災地で直接ものを買うなどしてほしいとしている。

■ 2020年1月8日(水)、政界からは、フランス大統領、米国大統領、英国首相などが豪州首相に電話をかけ、連帯を表明した。イギリス王室のメンバーも、被災者に「祈りと思いを寄せている」と述べた。

■ 2020年2月6日(木)、豪州東部で大雨が降り、昨年から続いていた深刻な山火事が収まってきた。ニューサウスウェールズ州では、発生していた約60件の山火事のうち20件が雨によって消し止められた。

■ 2020年2月10日(月)、豪州東部のシドニーの4日間の雨量は391mmに達し、 ニューサウスウェールズ州で昨年9月から続く大型の山火事が鎮火した。消火するには大規模すぎるとされていた山火事の「カロワン・ファイヤ」と「ゴスパーズ・マウンテン・ブレイズ」も鎮火した。しかし、一方で洪水や交通網への混乱が起きている。

■ 2020年2月13日(木)、ニューサウスウェールズ州消防当局は、今回の雨ですべての火災が制圧下にあると発表した。
                                        
補 足
■  「豪州」(オーストラリア) は、正式にはオーストラリア連邦といい、オセアニアに位置し、人口約2,724万人の連邦立憲君主制国家である。イギリス連邦加盟国であり、英連邦王国の一国である。
 豪州は7つの州(準州を含む)と特別区域に分かれており、それぞれの州都と人口はつぎのとおりである。
 ● オーストラリア首都特別地域 キャンベル   390万人
 ● ニューサウスウェールズ州  シドニー    761万人
 ● ノーザンテリトリー州    ダーウィン    24万人
 ● クイーンズランド州     プリスベン  477万人
 ● 南オーストラリア州     アデレード  169万人
 ● タスマニア州        ホバート     51万人
 ● ビクトリア州        メルボルン       593万人
 ● 西オーストラリア州              パース            259万人

所 感
■ 豪州の山火事の原因は主に落雷だという。 「NASAによる世界の雷マップ」(2012年6月)によると、雷の多発地帯であるアフリカの赤道直下ほどではないが、豪州は落雷の多い地域が存在する。これは、過去に山火事(森林火災)について本ブログで紹介した米国やブラジルと同じである。
                       雷マップ (図はGeology.com,world lightning mapから引用)
 しかし、2014年のオセアニアの落雷密度分布をみると、赤道に近い西オーストラリア州、ノーザンテリトリー州、クイーンズランド州が落雷の多い地域で、今回の山火事の被害が大きかったニューサウスウェールズ州は北部を除けば落雷の多いところではない。まして、南極側のビクトリア州やカンガルー島のある南オーストラリア州は決して落雷の多いところではない。この点から見ても豪州の異常気候の影響があっているといえよう。

■ 豪州の山火事の消火活動をみると、米国とブラジルとは違っているところがある。米国では、“ホットショット”という専門職が存在し、ブラジルでは軍の支援のほか、数百人の臨時消防士を雇っている。豪州では、ボランティア消防士を主体とした地方消防局が山火事に対応する仕組みである。町のまわりをバックバーニング(逆火法)で延焼防止する消火戦術もあるようだが、活動写真を見ると、基本的に消防車などによる消火水を多用するようである。また、防災用航空機やヘリコプターによる難燃剤も多く使っていると思われる。ボランティア消防士は、通常、無給だが、今回の山火事対応では、有給休暇や金銭的補償を受けることができるようにした。山火事に慣れている豪州でも、今回の山火事が異常な状態だったといえよう。

備 
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである
   ・En.wikipedia.org , 2019–20 Australian bushfire season,  March 16,  2020
    ・Asahi.com,  豪州の山火事,  February 28,  2014
    ・Sankei.com,  豪州で山火事、シドニーに迫る,  November 12,  2019
    ・Bbc.com,  オーストラリアの森林火災、シドニー郊外まで火の手迫る,  November 13,  2019
    ・Bbc.com,   山火事続く豪州、2度目の非常事態宣言 記録的熱波で事態悪化の恐れ,  December 20,  2019
    ・Cnn.co.jp,  豪州の山火事続く、死者3人 首相も休暇から帰国,  December 23,  2019
    ・Bbc.com,  豪山火事、年末年始も家屋200軒以上が焼失,  January 01,  2020
    ・Bbc.com,  森林火災は「数カ月続く見込み」と豪首相 民間支援募金に大勢が協力,  January 06,  2020 
    ・Bbc.com,  オーストラリア森林火災、世界はどんな援助を? 何が必要? いらない援助とは?,  January 08,  2020
    ・Bbc.com,  森林火災に恵みの大雨、州内3分の1が鎮火 オーストラリア,  February 07,  2020
    ・Bbc.com,  豪シドニーで記録的豪雨、数千人避難 大型の森林火災が鎮火,  February 10,  2020


後 記:、山火事(森林火災)のブログは、「米国アリゾナ州の山火事で消防士19名死亡」 (2013年6月)、「ブラジルのアマゾン熱帯雨林で森林火災が多発」 (2019年8月)に次いで第3弾です。「米国アリゾナ州の山火事」 は映画になった所為か、今もときどき、映画を観てもう少し知りたいと思ってインターネットを調べてブログを見たというコメントをもらいます。ブログの主旨から外れる火災情報ではありますが、世界的なニュースになったので、第3弾として調べました。
 ところで、今回のブログのまとめで時間がかかったのが、なじみのない地名や場所名の日本語訳です。地図や観光情報などで見ると少しづつ違うことがあり、グールマップで採用している日本名に統一しようという考えのもと、地名が出てくるたびにグーグルマップを検索して確認していきました。また、各地の山火事の状況では、発災場所と火災の状況写真を一枚に収めることにしましたが、これが結構時間のかかる作業でした。しかし、豪州の山火事が9月から年をまたいで2月まであり、これに対応した消防士の活動を考えれば、大したことはないでしょうね。