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2019年2月2日土曜日

イエメンでディーゼル燃料タンク爆発、薄層ボイルオーバーか、負傷15名

 今回は、2019年1月11日(金)、イエメンのアデンにある国営のアデン・リファイナリー社のアデン製油所で起こったディーゼル燃料用貯蔵タンクの爆発・火災事故を紹介します。
(写真はDebriefer.netから引用)
 < 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、イエメン南部の港湾都市アデン(Aden)にある国営のアデン・リファイナリー社(Aden Refinery Company)の製油所である。製油所は、2015年3月に反政府武装組織フーシ派によって占領され、操業を停止したが、7か月後に奪還されて運転が再開された。しかし、技術的な問題などによって生産は再び中断されている。製油所の貯蔵タンクは、2016年以降、イエメンの石油商人に賃借りされているという。

■ 発災があったのは、アデン製油所のタンク地区にある貯蔵タンクである。発災した貯蔵タンクはディーゼル燃料用で容量7,000トンであるという。
                          イエメンのアデンにあるアデン製油所付近 (矢印は発災したタンク) 
(写真はGoogleMapから引用)
                     アデン製油所のタンク地区付近 (矢印が発災タンク) 
(写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2019年1月11日(金)午後7時頃、アデン製油所で貯蔵タンク1基が爆発して火災となった。爆発音はアデンのブライガー地区でも聞こえた。

■ 貯蔵タンクにはディーゼル燃料が約7,000トン入っていた。貯蔵タンクの火災は、その前に配管が火災になり、延焼して爆発したという情報があるが、真偽は不詳である。

■ 発災に伴い、自衛消防隊のほか、民間防衛軍が消火のために出動した。3時間の消火活動を行ったが、火災の封じ込めはできなかった。

■ 1月12日(土)の昼過ぎ、内部液がタンク底部に近づいたとき、貯蔵タンクが爆発を起こした。
 
■ この2度目の爆発事故により、消火活動に従事していた消防隊員と火災を見ていた作業員が少なくとも15名負傷した。これはタンク火災を封じ込めようとして失敗し、新たな爆発が起こったため、負傷者が出た。負傷者は近くの病院に搬送された。

■ 1月12日(土)中には、タンクの火災は消えるものと見込まれている。衛星写真によると、1月13日(日)には、火が見えないので、消火されたものとみられる。
(写真はNthnews.netから引用)
(写真はDebriefer.netから引用)
(写真はThestar.comから引用)
被 害 
■ ディーゼル燃料タンクが爆発・火災によって損壊した。また、内部の燃料油が消失した。

■ 2度目の爆発で少なくとも15名が負傷した。

< 事故の原因 >
■ 事故の原因は調査中で不詳である。

■ 初期の情報で、火災事故は武装勢力による破壊活動の可能性が高いという見方があった。しかし、その後、イエメン内務省は否定している。
 貯蔵タンクの火災は、その前に配管が火災になり、延焼して爆発したという情報があるが、真偽は不詳である。 また、油タンクが砲撃を受けたとか、電気的な短絡によって爆発を引き起こしたなどいろいろな情報ある。

< 対 応 >
■ アデン治安部隊准将は、製油所で起きた爆発・火災の原因を明らかにするよう犯罪捜査部のチームに命じた。

■ 治安部隊は、事故がテロ攻撃らしいという情報を受け、構内で働くすべての人が構内から出ることを禁止し、調査を開始した。

■ アデンは国際的に認められたイエメン政府の支配下にある。サウジアラビアと西側に支えられた政府は、イランと同盟を結んだ反政府の武装組織フーシ派と戦っている。イエメンでは、何万人もの人々が殺され、経済が荒廃し、何百万人の人々が深刻な飢餓に直面している。国連は、この4年間続いている戦争を終わらせようと、先月、和平会談を開始した。しかし、逆にそれ以来、緊張が高まっている。

■ 1月10日(木)に、アデンの隣県ラハイで実施されたイエメン政府軍事パレードにフーシ派のドローン攻撃が行われ、数人が死亡するという事件が起きている。1月11日(金)には、サウジアラビアと西側の連合軍が無人飛行機を使ってフーシ派の基地を破壊した。 
(写真はThenational.aeから引用)
(写真はXinhuanet.comから引用)
                              112日(土)の航空写真      (写真はTwitter.com.から引用)
                              113日(日)の航空写真         (写真はTwitter.com.から引用)
補 足 
■ 「イエメン」は、正式にはイエメン共和国(Republic of Yemen)で、中東のアラビア半島の南端部に位置し、人口約2,350万人の共和制国家である。
 現在、イエメン全土では,イエメン政府と反政府勢力との戦闘、イスラム過激派組織によるテロ、誘拐事件が発生しており、日本の外務省が提供している危険レベルでは、もっとも高いレベル4(退避勧告、渡航禁止)である。イエメン日本国大使館は、治安悪化のため2015年2月15日をもって一時閉館し、在サウジアラビア日本国大使館内に臨時事務所を設けている。
             イエメンと周辺国  (写真はGoogleMapら引用)
■ 「アデン製油所」(Aden Refinery Company)は、1952年に設立されたイエメン国営の製油所で、精製能力は12万バレル/日である。 元々は石油メジャーの旧BPThe British Petroleum Company によって設立され、運営されていたが、1978年にイエメン政府に所有権と支配権が引き渡された。現在、プロセス装置の操業は中断されている。

■ 「発災タンク」はディーゼル燃料用で容量7,000トンだったと報じられている。グーグルマップで調べてみると、固定屋根式タンクで直径約18mである。隣接している同じ大きさのタンクから推測すると、高さは直径と同じくらいであり、高さを18mと仮定すると、容量は4,500KL級となる。7,000トンを7,000KLと読み替え、直径約18mのタンクでは、高さは約27mとなり、細長い印象のタンクとなる。ありえない形状ではないが、直径約18m×高さ約18mの容量4,500KL級のタンクだったとみるのが妥当であろう。
            発災タンク(矢印)   写真はGoogleMapから引用)
■ 「火災したタンク」に関する報道情報はいろいろあり、発災したタンクは2基あるというのが、大半だった。しかし、発災したディーゼル燃料用タンクまわりに火災を起こした痕跡のあるタンクがない。航空写真によると、12日(土)に爆発したはずの2基目のタンク火災は、13日(日)には消えている。このことから、「内部液がタンク底部に近づいたとき、貯蔵タンクが爆発を起こした」という情報が妥当だと考える。

■ ディーゼル燃料用タンクの2回目の爆発は「薄層ボイルオーバー」ではないかと思われる。「ボイルオーバーの事例と最近の研究」(危険物研究所報告第117号)の中で「軽油のように長時間燃焼を続けても燃料層内に高温層が形成されないが、燃焼末期には水が激しく沸騰する現象で、一種のボイルオーバーのような現象が起こる」という古積博士らの指摘に符号する。
 今回の事例では、タンク火災の時系列がはっきりしないが、第1回目の爆発を1月11日(金)午後7時とし、第2回目の爆発を1月12日(土)13時(昼過ぎ)とすれば、燃焼時間は18時間である。ディーゼル燃料用タンクの発災写真によると、屋根の一部が噴き飛んでいるので、「障害物あり全面火災」の様相を見せている。仮に液面降下速度(燃焼速度)を20cm/hとすると、18時間後の液面降下は3m60cmである。
 タンクの大きさ(高さ)や液面高さのはっきりしたデータはないが、発災時の液面高さを18mとすれば、残油の高さは14.4mで、液面高さを10mとすれば、残油の高さは6.4mで、液面高さを5mとすれば、残油の高さは1.4mである。これらから考えられることは、発災時の液面高さは意外に高くなかったのではないかということである。当初の液面高さを5mとすれば、直径約18mのタンクでは、1,270KLの油が入っていたことになる。

所 感
■ ディーゼル燃料(軽油)は爆発・火災を起こしにくい油であるが、このブログで紹介したものだけでも、つぎのような類似事例がある。
 今回、テロ攻撃という情報もあるが、過去の事例からいえば、石油について安易な取扱いをし、タンク内にディーゼル燃料だけでなく、廃ガソリンのような揮発性の高い油を混合した場合、何らかの引火源があれば容易に爆発・火災を引き起こす。
 
■ 今回のタンク火災では、補足の中で紹介した「軽油のように長時間燃焼を続けても燃料層内に高温層が形成されないが、燃焼末期には水が激しく沸騰する現象で、一種のボイルオーバーのような現象(薄層ボイルオーバー)」が起こったのではないかと思われる。
 発災写真を見ていて気になったことは、消防活動に関係しているとは思えない人が火災タンクの近くで火災を見物していることである。危険範囲(退避距離、ハザード・ゾーン)を設定し、直接、消火活動に従事している消防士以外は現場から遠くにいるべきである。まして、ボイルオーバーの起こる可能性のあるディーゼル燃料(軽油)ではなおさらのことである。


備  考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである
    ・Reuters.com,  Yemeni Refinery Fire Spreads to Second Storage Tank: Sources,  January 13, 2019
    ・Thenational.ae, Violent Explosion Shakes Yemen's Aden Refinery,  January 11, 2019
    ・English.alarabiya.net,  Violent Explosion Shakes Yemen’s Aden Refineries,Mmassive Fire Breaks out,  January 11, 2019
    ・Efe.com, Firefighters Battle to Extinguish Yemen Fire after Blast Rocks Key Refinery,  January 12, 2019
    ・Thebaghdadpost.com,  Explosion Sparks Fire at Aden Refinery in Yemen,  January 12, 2019
    ・Xinhuanet.com, 15 Injured in Fresh Explosion at Oil Refinery in Yemen's Aden,  January 13, 2019
    ・Tasnimnews.com, Refinery Fire in Yemen’s Aden Spreads to 2nd Storage Tank: Sources,  January 13, 2019
    ・Arabnews.com, Six Injured as Blaze Spreads after ‘Sabotage’ Blast at Aden Refinery,  January 13, 2019
    ・Debriefer.net, Yemen`s Aden Refinery Confirm Fire Decline, End of Gravity,  January 13, 2019
    ・English.almasirah.net, Fire Spreads in Aden Refinery Again,  January 13, 2019
    ・Middleeasteye.ne, Yemen Oil Refinery Fire Spreads to Second Storage Tank,  January 14, 2019
    ・Yemen-rw.org,  Huge Fire Breaks out in Yemen’s Aden Refineries,  January 11, 2019
    ・Thenational.ae , Firefighters Were Already Working to Contain a Blaze Which Broke out on Friday,  January 12, 2019
    ・Arabtradeunion.org , Yemen: The Injury of 15 Workers, Following The Explosion of One of The Aden’s Oil Refinery Tanks and The Union Calls for an Investigation,  January 14, 2019



後 記: 今回のタンク事故情報は量的には多かったのですが、何が真実(に近い)なのか訳がわからないほどいろいろな情報がありました。まず、イエメンが内戦中であり、反政府の武装組織によるテロ攻撃の情報が多くありました。私もてっきり砲撃かドローンによるものだと予断してしまいました。つぎに発災の経緯ですが、これまた、いろいろな情報が出ていて、一時は複数の説を併記しようかと思いました。しかし、発災写真を見ていくと、どの説もしっくりいきませんでした。もう一度、情報源を調べ直すと、発災タンクの2度目の爆発が同じタンクだという記事が出てきました。タンク事故情報としては不十分ですが、複数説は止めて真実と思われる説でまとめることとしました。
 ところで、イエメンの危険レベルはレベル4(退避勧告)なので、取材に制限があると思いますが、真偽は別として意外に多くの報道記事があるということに驚きました。アジアでは、中国の新華社が報道記事や写真を出しており、戦場記者や戦場カメラマンが行っているのでしょう。その背景には、最近の探鉱入札案件では、中国企業が進出しているといいます。

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