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2021年4月24日土曜日

タンク火災への対応に関する計画およびトレーニング

 今回は、“Industrial Fire World”の2021331日に掲載された「タンク火災のための計画立案」(Planning for Tank Fires)について紹介します。内容は、タンク火災の計画策定やトレーニングに関する検討ステップなどのほか、新型コロナウイルスの感染防止、有害な有機フッ素化合物を含む泡消火薬剤への配慮、仮想トレーニングやオンライン会議の活用、現実的なトレーニングなど興味深い話になっています。

< 背 景 >

■ タンク火災の専門的な訓練はあまり関心をもたれない特殊な対応分野だと見られていると、消防署副署長で産業緊急事態対応の専門家のシェーン・スタンツ氏は語っている。 

■ スタンツ氏は、消防士がタンク火災に直面する前に、火災に立ち向かうための準備として訓練と演習を行う必要性を語る熱意あふれる提唱者である。

■ タンク火災には、対応に大きな影響を与えるような事項がある。例えば、つぎのような事項である。

 ● 火災時のタンク内液の性質、内液に関する特別な危険性はないか

 ● タンクの構造(内部浮き屋根式、外部浮き屋根式など)

 ● 供給可能な消火用水の有無

 ● 消火用泡薬剤に関する管理能力

 ● 既設施設に固定泡消火システムまたは半固定泡消火システムがあるか

 ● タンク側板頂部越えの消火方法が使えるか 

■ 気象条件によって対応の戦略方針が変わる可能性があり、大気モニタリングへの配慮によって消防士がとるべき消火戦術やその展開方法に影響することがある。 

■ タンク火災の対応に配慮すべきリスクのひとつは、有害な有機フッ素化合物を含んだ消火泡薬剤に関するものである。人や環境へのリスクが潜在するため、土壌や水源を汚染する前に、消防隊は消火排水の流出を管理し、泡があふれ出ないような確実な方法を要求される。これには事前の計画が必要である。 

■ 泡消火戦術の展開を決める前に、戦術を実行するときに生じるリスクを上回る価値があるか判断するため、対応コーディネーターはいくつかの要因を評価する必要がある。対応コーディネーターは実際の状況下で意志決定を迅速に行わなければならないが、事前の計画、訓練、緊急対応の演習を行うことによってリスクを大幅に減らすことができる。

< 適正な訓練の手順 >

■ タンクの火災対応の計画を立てる際、推奨するステップは、つぎのとおりである。

 ● 対象とするタンクの全部についてサイズ、設計、内容物を評価する。

 ● 貯蔵タンク地区を訪れ、現地における消火用水などの兵站(ロジスティクス)を評価する。例えば、人員や資機材の配置が火災と戦うために適当なところを確保でき、タンクへのアクセスと退避経路がとれるような場所を決める。

 ● 事前計画案を作成したら、反復練習や演習を実施して計画の有効性をテストし、必要な改善や見直しを明確にする。

 ● 資機材をどのように配備するか決め、火災と戦うために最も効果的な設備がいつでも利用できることを確認する。

 ● 最悪の事態を処理するのに十分な訓練を受けた消防士が配置されていることを確認するため、スタッフの規模、経験、能力を評価する。

 ● 訓練を受けた緊急事態対応者が24時間対応できるようなスケジュール管理になっており、相互応援の仕組みやスタッフなど緊急時に呼び出すことのできるシステムになっていることを確認する。

■ 消防隊が有害な有機フッ素化合物の一種であるPFOS(ピーホス)と呼ばれるペルフルオロ・オクタン・スルホン酸を含んだ消火泡薬剤を使用している場合は、つぎのような事項を追加して検討する。

 ● 実施可能な場合は、封じ込めと処分方法を考慮した消火水の流出管理計画を設計しておき、そのような人員・機材が、現場所有者側であるか請負い契約であるかにかかわらず、24時間いつでも準備ができていることを確認する。

 ● 消防士は曝露されるリスクを認識し、防護しておくべきである。 

 ● 事前の計画や比率混合の戦術はテストしておく。この際、有機フッ素化合物製でなく、訓練用の泡を使用して管理されたエリアで行う。

■ 訓練用の泡でさえ、放出の反復練習を実施するための許可を得るのは非常に難しい。そのための計画を立てるには、リーダーシップ力を発揮し、環境グループと協力して行う必要がある。そして、実施に当たっては、NFPA11(消火泡に関する米国規格;Standard for Low- Medium- and High-Expansion Foam)による業界の基準を使って設備やスタッフへの訓練を行う。

■ 訓練用泡薬剤を使用できる場合でも、泡薬剤が地下水や生態系に影響を与えないように、流出制御対策を行って訓練することが重要である。環境保護に加えて、消防隊は第一線の対応者、施設の従業員、地域住民の安全を確保するという使命感が必要である。

■ 現在の新型コロナウイルスの世界的流行を考えると、多くのチームメンバーといっしょに出かけて訓練するということは簡単なことではない。新型コロナウイルスへの感染予防対策を実施し、さらに必要な個人用保護具(PPE)を装着し、感染や熱にさらされる隊員を隔離し、消毒プロセスを展開する必要がある。

< 仮想トレーニングの活用 >

■ 新型コロナウイルス感染の懸念によって身体を使った訓練ができなくなったとしても、トレーニングをまったく行わないよりも仮想トレーニングを行うのがよい。

■ 理想的な方法ではないが、仮想トレーニングは事故が起こったときの対処方法を考える能力をつけるのに役立つ。この方法で訓練を実施すると、状況を判断して対応する能力が大幅に向上する。

は、消防隊はZoomTeamsなどのオンライン会議を使ってキーパーソンと演習を行い、実際の緊急時にとるべき行動について話し合う。

■ 仮想計画は、現場で必要な現実的な視点から外れることはないが、演習と訓練方法に新しい活動を加える。仮想トレーニングでは、参加している人たちにどのようにして状況に対応するかを考えさせる。

医療訓練を入れた状況では、傷をリアルに見せるためにムラージュ(医学教育用模型)を使用すると役立つ。火災の訓練では、事故時における火災の音響を流したり、反応に対する時間のプレッシャーを加えることで、現実感を出すことができる。

■ トレーニング演習を現実味があるようにすることで、毎回、トレーニング体験を実りのあるものにすることができる。

■ 緊急時の対応計画は決してひとりでできるわけではない。それは常にあらゆる要素を理解している対象分野の専門家グループによって案をつくり、そのあと、ある人が決定を下すべきである。便宜上、誰かが決定を行うような形になることが多い。

■ そのため、計画を立ててもひとつの本に残すようなことはできない。消防隊は訓練を通して常に検討を加えて実践しなければならない。この検討と実践のサイクルをまわすことである。

■ 事前に潜在する状況を理解して作業を行わなければならないときには、このようなプロセスについて精通している人を知っていれば、事故が発生する前に相談することができる。前以て質問すべきことを整理しておき、タンク火災で混乱する前に、助言してくれる専門家を知っておくことは非常によいことである。

< 現実味のあるトレーニング >

■ トレーニングが実際の火災と近い状況になるほど、そこから得られる経験はより有益になるだろう。

■ しかし、挑戦的に模擬訓練の規模を大きくしようとすれば、訓練自体が実際的ではない。

■ それでもテキサスAMのような消防学校は、プロセス関連の緊急事態を作り出す際に実際の事故に近づけた状況を通じて受講生を教育している。加えて、受講生に挑戦させるような訓練の方法と演習は、あらゆる緊急事態に対する自信を得させるやり方である。この事故シナリオを数回経験すれば、規模にかかわらずあらゆる事故に対する管理能力や戦術の意思決定プロセスを基本的に身につけることができる。

■ シミュレーションによる方法は効果のある選択肢ではある。しかし、現実味のあるプロセス装置やタンクの火災が効果的だと考えても、火災訓練シミュレーションでは誰も何にも曝露されていないことを認識しておくことである。現実の事故における活動では、訓練時に無いようないろいろな要素が存在する。感性的な要素を模擬訓練に付加すれば、消防隊の隊長や班長が実際の事故時に生じている不安感や緊張感があることを参加している受講生は気づくだろう。

■ 医療訓練を入れた状況では、傷をリアルに見せるためにムラージュ(医学教育用模型)を使用すると役立つ。火災の訓練では、事故時における火災の音響を流したり、反応に対する時間のプレッシャーを加えることで、現実感を出すことができる。

■ トレーニング演習を現実味があるようにすることで、毎回、トレーニング体験を実りのあるものにすることができる。

 

■「Zoom」や「Teams」は、オンライン会議を実現するのに使うツール類である。テレワークの需要が高まる中、いずれもリモートでコミュニケーションをとるのに便利なツールといわれている。 「Zoom」と「Teams」の主要機能の比較(表)や使い方の例は、TeamsZoom比較!テレワークなどで気付いたTeamsのポテンシャルとは?を参照。

■「テキサスAM」はテキサスA&M大学のことで、同大学のTEEXThe Texas Engineering Extension Service)では火災訓練を行っている。ウェブサイトによれば、火災緊急対応について、現在、23の訓練プログラムがある。訓練プログラムは、TEEXのウェブサイトのFirefighting Training Propsを参照。また、訓練が一般に公開されたときの映像がユーチューブに投稿されている。(YouTube Municipal Fire School Demo Night 2015」を参照。

 TEEXの各種訓練には、米国内の企業や公的機関が参加しているほか、世界中から多くの訓練生が受講している。日本でも、旧石油公団(現JOGMEC)が主催して「備蓄技術者海外研修」として訓練に参加し始め、多くの訓練経験者がいる。「石油公団備蓄技術者海外研修について」19972月号)を参照。  

 「米国ウィスコンシン州の製油所でアスファルト・タンク火災」20154月)では、スーペリア消防署の消防士4名が、事故の前年、テキサスで行われている石油関連火災への高度な訓練に派遣されており、消防署のゴードン隊長によると、今回の火災ほど大きくはなかったが、訓練で同様な火災を体験していたという。

所 感

■ タンク火災の計画策定やトレーニングに関する検討ステップなどは参考になったほか、最新の社会状況を踏まえた興味深い内容だと感じた。

■ 消防隊が有害な有機フッ素化合物の一種であるPFOS(ピーホス)と呼ばれるペルフルオロ・オクタン・スルホン酸を含んだ消火泡薬剤を使用している場合、泡の封じ込めと処分方法を考慮した消火水の流出管理計画について米国では考えていることが分かった。泡消火薬剤に関する事例は、「沖縄の米軍普天間飛行場の泡消火剤流出事故(原因)」20204月)で紹介したが、米国だけでなく、日本も状況は同じであり、対応策が必要である。

■ 新型コロナウイルスの世界的流行を考えると、多くのチームメンバーといっしょに出かけて訓練するということは簡単なことではないが、感染予防対策を実施して訓練を行うという最近の話題に触れている。

■ 現実味のあるトレーニングを推奨しており、テキサスAMのような消防学校では、実際の事故に近づけた状況を通じて教育を実施しているという。自衛隊の模擬戦闘訓練と同様、日本の消防機関でも現実味のあるトレーニングを行う必要があろう。テキサスAM大学のTEEX による訓練や成果については「米国ウィスコンシン州の製油所でアスファルト・タンク火災」20154月) を参照。

■ トレーニングでは、事故時における火災の音響を流したり、反応に対する時間のプレッシャーを加えることで、現実感を出すことができるとし、医療訓練を入れた状況では、傷をリアルに見せるためにムラージュ(医学教育用模型)を使用すると役立つという。アイデアが素晴らしい。

■ 一方、現実味のあるトレーニングだけでなく、仮想トレーニングやZoomTeamsなどの活用したオンライン会議についても言及しており、米国のトレーニングの対する取組み方の一旦が分かる。 


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Industrialfireworld.com, Planning for Tank Fires, by Ronnie Wendt ,  March  31,  2021    


後 記: 「タンク火災のための計画立案」(Planning for Tank Fires)という題だったので、一般的なタンク火災の対応に関する内容だと思っていました。しかし、新型コロナウイルスの感染防止、有害な有機フッ素化合物を含む泡消火薬剤への配慮、仮想トレーニングやオンライン会議の活用、現実的なトレーニングなど興味深い話を含んだ内容でした。現実味のあるトレーニングを実施するだけでなく、仮想トレーニングやオンライン会議の活用への積極的な姿勢は米国らしいデジタル化だと感じました。すでに消防分野では、VR(Virtual Reality)によるトレーニング・システムが出ており、遊びの世界を越えています。最近の事故例では、米国の質が落ちているように感じていましたが、創造的なデジタル化についてはさすがに米国だと思います。

2021年4月14日水曜日

横浜市の小柴貯油施設跡地の覆土式地下タンクに工事中に転落(原因)

  今回は、 2020825日(火)、神奈川県横浜市の小柴貯油施設跡地の旧覆土式地下タンクに工事中の男性が重機ごと転落して死亡した事故について労働基準監督署が2020324日(水)に書類送検したので、これにもとづく原因を紹介します。 事故後に掲載してきた前回のブログは「横浜市の小柴貯油施設跡地の覆土式地下タンクに工事中に転落(その後の情報)」202010月)、前々回のブログは「横浜市の小柴貯油施設跡地の覆土式地下タンクに工事中に転落」20209月)を参照してください。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、神奈川県横浜市金沢区の旧米軍施設「小柴貯油施設跡地」である。 現在、跡地は日本に返還され、横浜市が公園整備を進めている。

■ 「小柴貯油施設跡地」は、旧日本海軍が燃料貯蔵基地として建設し、戦後は米軍が航空機燃料の備蓄基地として使用しており、敷地内には地上タンクが5基、覆土式地下タンクが29基ある。事故があったのは、直径約45m×深さ30mの地下タンクの1基である。

<事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2020825日(火)夕方、小柴貯油施設跡地の現場で、ダンプカーから降ろした土を重機(バックホー)でならす作業をしていた男性の行方が操縦していた重機ごと分からなくなった。 ダンプカーの運転手は午後1時頃に重機を確認していたが、およそ2時間後に重機がいなくなっているのに気付いたという。

■ 工事施工者は、重機と共に男性の姿が見えなくなっていることを消防へ119番通報した。工事は横浜市が発注し、飛島・奈良・センチュリー建設共同企業体が施工する西部水再生センターの下水道工事であり、工事で出た建設発生土を小柴貯油施設跡地の公園整備事業の盛土用の土として搬入していた。

■ 男性は下水道工事で現場付近に仮置きした残土を、重機で整地する作業をしていたが、近くに地下タンクがあり、上部の天蓋(屋根部)の一部が崩落していた。このため、男性は地下タンクに転落したとみられている。周囲に柵はなく、男性が操縦していた重機は重量が20トンほどあり、重機が進入してタンク天蓋(屋根部)に乗った際に壊れた可能性がある。地下タンクには、深さ約9mの雨水などが溜まっているとみられる。

被 害

■ 地下タンク近くで作業をしていた男性1名が、深さ約30mの地下タンクに重機(バックホー)ごと転落し、死亡(内部に溜まっていた水による溺死)した。

■ 戦前に建設された覆土式地下タンクの天蓋(屋根部)が一部崩落した。

< 事故の原因 >

■ 事故の直接原因は、覆土式地下タンクの天蓋部(屋根部)に進入し、屋根部が重機の重み(約20トン)で崩落し、天蓋部(屋根部)に居た作業者が重機ごと地下タンクに転落したとみられる。転落した作業者は覆土式地下タンクの存在を認識していなかった。

■ 間接原因は、発注者の横浜市が建設発生土の搬入作業の元請け会社(飛島建設・奈良建設・センチュリー工業JV)に渡した現場の図面に、事故のあったタンク跡の位置を記載しておらず、元請け会社はタンク跡に対する認識が希薄で充分で無かった。また、元請け会社は、下請け業者に作業を請け負わせるに当たり、作業場所の巡視の義務があるにもかかわらず、615日(月)以降、事故当日まで現場の巡視を行わなかった。

< 対 応 >

■ 排水作業を行いながら捜索していたが、828日(金)、警察と消防は地下タンク内で行方不明となっていた男性を発見したが、すでに死亡していたことが確認された。市消防局によると、同日午前1045分頃、地下タンク内で重機の一部が見つかり、救助隊員が潜水して捜索するなどして午後535分頃、水の中にあった重機の操縦室内で男性を発見した。発見時、重機は横倒しになった状態で、窓ガラスは割れていたという。

■ 工事を発注した横浜市は、工事施工者に地下タンクを避ける形で作業場所を指定していたという。しかし、天蓋(屋根部)の縁ギリギリまで盛られた土が崩れていることなどから、横浜市は、男性が覆土式地下タンクの天蓋(屋根部)の上で作業をしていたのではないかとみている。

■ 91日(火)、神奈川県警は、横浜市の公園造成現場で重機ごと深さ約30mの地下タンクに転落し、遺体で見つかった男性を司法解剖した結果、死因は溺死と発表した。 

■ 92日(水)、横浜市によると、男性は地下タンクの近くでダンプカーが運んできた土砂を重機でならす作業を担当しており、作業場所は当初、覆土式地下タンクの天蓋(屋根部)より5mほど低かったものの、土砂をならすうちに高低差がなくなったとみられるという。この事故に関連して、横浜市長は、記者会見で、工事の指示書では土砂を置く場所は、地下タンクの縁から10m以上離れた地点を指定していたと明らかにし、現場にどのような指示が伝わっていたのか、調べる考えを示した。

 横浜市によると、今年5月、土砂の搬入が始まる前に、市の担当者や工事施工者が立ち会って現場で土砂を置く場所を検討したという。この時、地下タンクの縁から少なくとも14m離れたおよそ2,300㎡の場所を置き場に指定したという。しかし、横浜市によると、事故のあと、指定された場所の外側にも土砂があることが分かったということで、横浜市では、当時、現場にどのような指示が伝わっていたのか調べることにしている。

■ 925日(金)、事故発生から1か月を迎える。重機の重みでタンク跡の天蓋(屋根部)が崩落したとみられるが、横浜市は、「あらかじめ決められたルート以外は通らない指示になっていた」という。横浜市議会で転落事故に関する質疑があり、横浜市は、工事を受注した工事施工者側に示した図面にタンク跡の位置が明記されていなかったことを明らかにした。

■ 928日(月)、25日に行われた横浜市議会の質疑応答で分かったことは、つぎのような事項である。

 ● 西部水再生センターの下水道工事で発生した建設発生土は、当初、南本牧ふ頭に搬出予定だったが、20205月初めに小柴貯油施設跡地に残土置き場を設けることに変更した。

 ● 514日(木)に現場で立会いの打合せを行った。その際、横浜市の下水道担当者、公園担当者、工事施工者で搬入ルートや仮置き場所の位置などについて確認をした。その際の資料は、横浜市の公園部局の職員が作成して提供した。

 ● その打合せで使用した資料は下記の図である。この資料では、残土置き場はBを指定したもので、事故が起きた残土置き場Aを指定したものではなかった。これは、当初、Bの所に残土を置くためのもので、その後、Bが一杯になったので、Aの方に置くように横浜市が指示した。

 ● 写真は残土を積む前のAの様子であるが、タンクは見えない状況だったし、地図上にも示されていなかった。タンクの位置をどのように伝えたのか、現場でどのようなやり取りがあったかについては、現在捜査中という理由で回答はなかった。

 ● 写真は残土置き場Bで残土が積みあがっている様子で、高さが約4mである。残土置き場Aも同じように積み上げられていたが、横浜市が行った写真での確認では、概ね5m程度と推測される。

 ● 事故の検証は、現在、警察の捜査および労働基準監督署の調査が進められており、横浜市としては協力しており、捜査に関わることについては回答できないという。

■ 1225日(金)、メディアの日経コンストラクションは、発注者の横浜市が建設発生土の搬入作業の元請けである飛島建設・奈良建設・センチュリー工業JVに渡した現場の図面に、事故のあったタンク跡の位置を記載していなかった疑いがあると指摘した。警察と労働基準監督署は202012月時点でも事故の捜査や調査を継続しており、横浜市はそれを理由に事故の詳細な説明を拒否し、事故の発生原因など全容は明らかになっていない。また、飛島建設も取材依頼に「監督署と警察署の判断が出ていない状況での取材は断る」と答えている。それでも、横浜市担当者の市議会での答弁や、市が工事再開に先立って発表した安全対策の状況から、明らかになったのは、発注者としての横浜市と、元請けとしての飛島建設JVが、いずれも必要な務めを果たしていなかった疑いがあると指摘している。

■ 2021324日(水)、横浜市南労働基準監督署は、労働安全衛生法違反の疑いで、東京都港区の土木・建築工事業者と現場責任者(40代男性)を書類送検した。書類送検容疑は、2020615日(月)~824日(月)の間の計35日間、現場の巡視を行わなかったとしている。労働安全衛生法では、下請け業者に作業を請け負わせるに当たり、元請け業者に作業場所の巡視を義務付けている。当時、現場責任者は横浜市戸塚区の現場に常駐していたという。労基署は認否したかを明らかにしていない。

補 足

■「神奈川県」は、日本の関東地方に位置する人口約920万人の県である。

「横浜市」は、神奈川県東部に位置し、県庁所在地で人口約375万人の政令指定都市である。

「金沢区」は、神奈川県南端部に位置し、三浦半島の東側にあり、人口約197,000人の行政区である。

■「小柴貯油施設」は、戦前(1937年頃)に旧日本軍が燃料の貯蔵基地として建設されたものである。第二次世界大戦後に進駐した連合国軍が、市内中心部や港湾施設などを広範囲に接収し、接収された土地は市全体で最大で1,200ヘクタールあり、小柴貯油施設は米軍が航空機燃料の備蓄基地に使っていた。敷地内には地上タンクが5基、覆土式地下タンクが29基ある。
 米軍の接収地は、解除を求める運動の機運が高まり、1952年には大桟橋や今の横浜スタジアムなどの土地が返還されている。その後、断続的に返還され、今回、事故が起きた53ヘクタールの金沢区の旧「小柴貯油施設」は、戦後60年の2005年に返還され、国が横浜市に現況のまま全面積を無償貸し付けし、現在、横浜市が公園整備を進めている。

■ 横浜市が策定した「小柴貯油施設跡地利用基本計画」(20203月)の表紙写真は、つぎのとおりである。この写真に限らず、横浜市が作成した小柴貯油施設跡地の図には、地下タンクの場所が示されている。一方、9月に横浜市議会で明らかになった「(仮称)小柴貯油施設跡地公園 土砂搬入場内案内」では、なぜか地下タンクの位置が示されていない。ただし、過去に爆発火災を起こして天蓋部(屋根部)が無くなった地下タンクだけは図に位置が示されている。



■ 「覆土式地下タンク」は、直径約45m×深さ30mで、屋根部は鉄製の桁(けた)の上にコンクリート製の蓋が載せられ、その上に土がかぶされていると報じられている。しかし、横浜市作成の「小柴貯油施設跡地利用基本計画」(20203月、横浜市返還施設跡地利用プロジェクト)では、貯油タンクの概要について、つぎのようになっており、事故のあった地下タンクは、5号タンクと称し、直径38m×高さ28m、内空体積34,006㎥となっている。「直径約45m×深さ30m」のデータも横浜市が提示しており、コンクリートの厚さを含めたものと思われる。  

所 感(前々回;2020917日)

■ 今回の事故の直接要因は、重機操縦者が亡くなっているので分からないだろう。間接要因は、盛り土の形成状況から重機操縦者の“善意の行動”だと感じる。事前の打ち合わせでは、建設発生土(残土)の置き場は「地下タンクの縁から少なくとも14m離れたおよそ2,300㎡の場所」に指定されたとある。2,300㎡は(たとえば、20m×100mに相当するかなり広い空地である。このような空地に残土が置かれ、盛り土を形成することはむずかしくはない。まして、重機操縦者は下水道工事を請け負った工事施工者の作業員である。ところが、盛り土は傾斜地で地下タンクの縁まで積み上げられている。推測だが、重機操縦者はどこに使う残土だろうという疑問をもち、地下タンクの埋め立てに使うらしいということを知ったのではないだろうか。重機操縦者は自分の技量を発揮して、地下タンクの縁の方へ残土を運んだのではないだろうか。“善意の行動”の発意ではあったが、残念なことに地下タンクの位置を知らなかったので、覆土式地下タンクの天蓋部(屋根部)にまで進入してしまった。

■ 事故の未然防止のためには、①「ルールを正しく守る」、②「危険予知活動を活発に行う」、③「報連相(報告・連絡・相談)により情報を共有化する」の3つが重要である。重機操縦者には、これらのいずれかが欠けていたために事故となったと思われる。

 一方、今回の事故では、盛り土の形成状況を見ると、相当な時間が経過していると思われ、工事施工者および発注者の階層(所長、マネージャー、担当者など)ごとの「ルール」の観点、「危険予知活動」の観点、「報連相」の観点の失敗要因について分析・対応を考える必要があると思う。

所 感(前回;20201013日)

■ 前回、「事故の間接要因は、盛り土の形成状況から重機操縦者の“善意の行動”だと感じる」と書いた。しかし、今回の情報(残土置き場の場所を示す図面に地下タンクの表示なし)で、重機操縦者は覆土式地下タンクの存在をまったく知らなかったのではないかという考えが浮かんだ。横浜市が 「地下タンクの縁から少なくとも14m離れた場所」という指示については、工事施工者(あるいは重機操縦者)は、発災のあった覆土式地下タンクではなく、天蓋部(屋根部)のない地下タンク(6号タンク)と理解する可能性がある。

■ 残土置き場が変更になったという情報を知って、残土置き場が写った写真を調べた。そうすると、当初の残土置き場Bは高さ約4mで整然と積まれ、いっぱいになっている。このため、残土置き場がAに変更になったとみられるが、この置き場は一部がすでに別な残土が積まれ、スペースが限られている。このため残土置き場Aはかなり無理な積み上げ方をしており、覆土式地下タンクの法面を埋める形で積まれている。当初は善意の行動でタンク埋め立てに便利なように積んだのではないかと思っていた。これは覆土式地下タンクのことを知っていたという前提だが、重機操縦者は覆土式地下タンクの存在をまったく知らなかったのではないかという気もする。

■ 事故の未然防止のためには、①「ルールを正しく守る」、②「危険予知活動を活発に行う」、③「報連相(報告・連絡・相談)により情報を共有化する」の3つが重要であるが、今回の事故では、「報連相(報告・連絡・相談)により情報を共有化する」がポイントであろう。(重機操縦者が亡くなっているので、解明はむずかしい)

所 感(今回)

■ 今回の情報で分かったことは、重機操縦者が覆土式地下タンクの存在をまったく知らなかったということである。そして、元請け会社も現場巡視を怠っており、重機操縦者に覆土式地下タンクの存在と危険性を知らせていない。その要因は、発注者である横浜市が元請け会社に覆土式地下タンクの存在と危険性を伝えた気になっていた(実際には伝わっていない)ということである。

■ 事故の未然防止のためには、

 ① 「ルールを正しく守る」

 ② 「危険予知活動を活発に行う」

 ③ 「報連相(報告・連絡・相談)により情報を共有化する」

3つが重要であるが、今回の事故では、発注者、元請け会社、作業者(重機操縦者)がまったく報連相(報告・連絡・相談)による情報を共有化していなかったという最悪の状態だった。

 今回の事故は、発注者および元請け会社が、①「ルールを正しく守る」、②「危険予知活動を活発に行う」、 ③「報連相(報告・連絡・相談)により情報を共有化する」の3つのうち、いずれかを感度よく行っていれば、未然防止できた事例である。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

   Asahi.com,  米軍跡地で重機転落、男性不明 穴に大量の水、救助難航,  August  26,  2020

    Nhk.or.jp,   横浜 重機転落事故 地下タンクの水を抜き作業員救助へ,  August  26,  2020

    Kanaloco.jp,  男性作業員落下、捜索再開も発見できず タンクには重機跡,  August  26,  2020

    Tokyo-np.co.jp,  重機ごと男性が地下タンクに転落か 横浜の米軍施設跡地,  August  26,  2020

    Kanaloco.jp,  地下タンクに落下の作業員、死亡を確認 重機操縦室で発見,  August  28,  2020 

    Jcp.or.jp,  重機地下タンク落下調査,  September  01,  2020

    Anzendaiichi.blog.shinobi.jp,  2020825日、横浜市で米軍燃料基地返還後の・・・,  September  01,  2020

    Sankei.com,  横浜のタンク転落、死因は溺死 重機操作の男性,   September  03,  2020

    City.yokohama.lg.jp, (仮称)小柴貯油施設跡地公園 基本計画

    City.yokohama.lg.jp, 小柴貯油施設跡地利用基本計画, March, 2020

    Shippai.org,   隣接タンク工事の火花による米軍覆土式地下石油タンクの火災

    City.yokohama.lg.jp,  小柴貯油タンクの爆発事故の真相究明を横浜市に要求, December  19, 2019

    Img.p-kit.com,   西柴団地の歴史

    Jstage.jst.go.jp, JP4」タンク火災における輻射熱,  安全工学,Vol23,No.4,  1984

    Furuya-yasuhiko.com, 横浜市が打ち合わせ時に示した地図には事故のあったタンクは描かれていなかった・・・ ,   September  28,  2020

    Mainichi.jp,  重機転落1か月、ふたの上走行、なぜ 土かさ増し、行き来容易に、横浜市「想定外」を強調,   September  25,  2020

    Mainichi.jp,  重機転落死 穴の位置、図に記さず、横浜市、JVに提示,   September  26,  2020

    Kanazawa-chikurengo.jp,  金沢区町内会連合会定例会(令和2年9月),   September,  2020

    XKtech.nikkei.com,  深さ30m落とし穴に重機が転落,   December  25,  2020

    Kanaloco.jp,  横浜・貯油施設跡地のタンク転落死亡事故 業者と現場責任者を書類送検,  March  24,  2021


後 記: 今回の事故は、労働基準監督署が労働安全衛生法違反の疑いで元請け会社(と現場責任者)を書類送検したので、法廷上の争いになってしまいました。(不起訴になる可能性もあり) 発注者と元請け会社間で「言った」、「聞いていない(記憶がない)」という論争になっても、被害者(重機操縦者)が亡くなっているので、事故原因ははっきりしないでしょう。しかし、ここではこれまでの情報から間接原因を含めてはっきりさせました。それは、これから同じような事故が起こらないように願うからです。

2021年4月11日日曜日

インドネシア西ジャワ州で製油所の大型ガソリン・タンクが複数火災

  今回は、2021329日(月)、インドネシア西ジャワ州インドラマユ県バロンガンにあるプルタミナ社のバロンガン製油所で落雷によるとみられるガソリン貯蔵タンクが爆発・火災を起こし、同じ防油堤内にあった他の貯蔵タンク3基も火災になった事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、インドネシア(Indonesia)西ジャワ州(West Java)インドラマユ県(Indramayu)バロンガン(Balongan)にあるインドネシア国営石油会社;プルタミナ社(Pertamina)のバロンガン製油所である。バロンガン製油所は首都ジャカルタの東200kmほどの場所に位置し、精製能力は125,000バレル/日である。

■ 事故があったのは、製油所の貯蔵地区のあるガソリン貯蔵タンク(機器番号; T‐301G)である。発災時には、約23,000KLのガソリンを貯蔵していた。なお、この貯蔵タンクのエリアは2ヘクタールの面積に4基(T-301ET-301FT-301GT-301H)のタンクがあり、共通の防油堤で囲まれている。


<事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2021329日(月)深夜の午前045分頃、バロンガン製油所で爆発があり、大規模な火災が発生した。

■ 住民のひとりは、「ものすごい轟音(ごうおん)が聞こえて、炎が異常な高さに噴き上がっているのが見え、空に向かってそそり立つようだった」と語った。

■ 火災はガソリン貯蔵タンク(T-301G)で発生し、近くの2基のタンクに延焼し、貯蔵タンク3基が燃え、タンクの上空には、厚い黒煙が立ち昇った。

■ 発災に伴い、バロンガン製油所の自衛消防隊のほかインドラマユ地区消防局の消防隊が出動し、消防活動を行った。

■ 事故に伴い、 15人が負傷した。負傷者の中には、火災発生時に近くを通りかかり、やけどを負った人もおり、病院で治療を受けた。現地の災害当局によると、爆発後に心臓発作でひとりが死亡した。なお、3人が行方不明となっているという情報もある。

■ 事故に伴い、近隣の5つの村落(バロンガン村、スカレハ村、ラワダレム村、スカウリップ村、テガルルン村)が影響を受け、住民約950人が避難した。こうした中、プルタミナ社と警察は連携し、地元の住民や従業員の避難を促し、緊急避難テントを設置した。新型コロナウイルス対策によって煩雑な救援活動が必要で、複数の異なるキャンプに避難した。  

■ プルタミナ社によると、火災は悪天候の中で起き、「原因は不明だが、当時、激しい雨と雷が発生していた」と述べている。

■ プルタミナ社は、火災について防油堤内に限られており、周囲への延焼は防げるとしているが、製油所の操業を停止し、火災の拡大を防ぐための措置を講じている。燃料供給への影響は生じていないという。

■ ユーチューブでは、爆発時の状況やドローンによる火災時の映像が流されている。主な2件はつぎのとおりである。

 YouTube,Video Viral! Ledakan Keras Dari Kilang Minyak Pertamina Balongan, Terdengar Dari Radius 10 KM2021.3.29

 ●YouTube,KEBAKARAN | Loji Penapis Minyak Terbakar, Ratusan Dipindahkan2021.3.29

被 害

■ 人的被害は負傷者15名である。爆発後に心臓発作でひとりが死亡した。なお、3人が行方不明となっているという情報もある。近隣の村の住民約950人が避難した。

■ ガソリン貯蔵タンク4基が損壊し、内部のガソリンが焼失した。焼失量は94,500KLとみられる。


< 事故の原因 >

■ 事故原因は調査中である。プルタミナは事故原因の追及するため、インドネシア当局と協力して調査チームを結成した。

■ 暫定的には、雷を伴った大雨の中で、落雷により火災が発生したとみられている。

■ 一方、西ジャワ州の警察は、火災前に現場で漏洩があったという情報に注目している。漏洩の処理をしている間に落雷があったというので、何が引火して火災になったのか調べているという。 

< 対 応 >

■ 330日の火曜日中に、2基のタンク火災が消えたという情報が流れているが、実際は防油堤内のタンク4基の火災が続いている。

■ 331日(水)午前130分頃、タンク1基の火災が消えた。午前630分頃に燃焼していたタンク1基の火災が消え、つづいて午前830分頃にタンク1基の火災が消えた。消防隊は火災が消えた3基のタンクの冷却を続ける一方、残ったタンク(T-301F)の消火活動を行った。331日(水)午後までに4基のタンクはすべて火災が消えた。

■ プルタミナ社によると、 331日(水)午後までに、影響を受けた4基の貯蔵タンクの火災は鎮火したという。消火活動には泡消火剤が使用された。火災が消えた後、被災箇所の冷却過程に入っている。

■ 被災したのは貯蔵タンクのある地区の一部で、全貯蔵量135KLのうち7%(94,500KLに相当)が失われた。精製を行うエリアの被害はなかった。

■ 製油所の操業は45日後に再開する見通しである。

■ 331日(木)に火災が消えたといわれていたタンク1基が、木曜の午後8時頃、再燃したという。

■ ユーチューブでは、ドローンによる鎮火後の映像が流されている。

 YouTube,Potret Kondisi Terkini Kilang Minyak Balongan2021.4.2)


補 足

■「インドネシア」(Indonesia)は、正式にはインドネシア共和国といい、インド洋と太平洋の間にある東南アジアとオセアニアに属し、スマトラ島、ジャワ島、ボルネオ島(カリマンタン)など17,000以上の島々で構成される人口約27,000万人の国である。

 「西ジャワ州」(West Java) は、ジャワ島の西部にあり、人口約4,990万人の州である。

 「インドラマユ県」(Indramayu)は、西ジャワ州の北に位置し、人口約170万人の県である。

 「バロンガン」(Balongan )は、インドラマユ県の西に位置し、人口約38,000人の町である。

■ 「プルタミナ社」(Pertamina)は、1957年に設立され、インドネシア政府が株式を所有する国有の石油・天然ガス会社である。国内に6箇所の製油所を持ち、5,000箇所以上のガソリンスタンドを有している。

「バロンガン製油所」は、プルタミナ社の保有する6つの製油所のひとつで、1994年に操業を開始した。リアウ州のドゥリ油田(Duri)とミナス油田(Minas)からの原油を処理し、ジャカルタとジャワ島西部地域に燃料を供給している。製油所内には、72基のタンクがあり、総容量は135KLである。

 プルタミナ社の事故例は、つぎのとおりである。

 ● 201610月、「インドネシアの製油所でアスファルト・タンクが爆発・火災」

■ 国有石油会社のプルタミナが保有する6箇所の製油所の製油能力は合計85万バレル/日で、現時点ではまだ国内消費量の半分にしか対応できていない。インドネシアは、2015年、国内の製油所の機能拡張や建設工事を国家戦略プロジェクトに認定し、総額450億米ドル(約5兆円)を投じて製油能力を倍増させると意気込んだが、実際には計画の遅れが目立ち、多くが一時保留あるいは白紙化しつつあるという。このため既存の製油所に頼らざるを得ない状況が続いている。

■「発災タンク」 (T‐301G)は事故時にガソリンを23,000KL保有していたという情報だけで、容量やサイズは報じられていない。グーグルマップで調べると、直径約55mである。高さを18mと仮定すれば、容量は40,000KL級の外部式浮き屋根タンクである。従って、発災時の液位は10mだったとみられる。この防油堤内には同じ径のタンクが4基あるが、いずれも火災になっており、どのタンクが最初に発災したかは分からない。   焼失したガソリン量は全部で94,500KLといわれている。発災タンクの23,000KLを除けば、残り3基のタンクには平均23,800KL入っていたことになる。

■ 消防活動の写真を見ると、「大口径ホース」と「大容量泡放射砲」が使用されている。放射能力は大きさから20,00030,000リットル/分ではないだろうか。

■ 発災が329日(月)午前045分頃で、最初に消火したのが331日(水)午前130分頃である。これが同一のタンクかどうか分からないが、同一タンクとすれば、全面火災時の「燃焼時間」は約49時間である。ガソリンの燃焼速度を33/hとすれば、液位10mは約30時間で燃え尽きることになる。最後に消えたタンクは331日(水)の午後であるので、燃焼時間は60時間ほどになる。この60時間で燃え尽きたとすれば、液位は約20mとなる。これらから、各タンクの液位は10m20mの間で、燃焼時間は4960時間だったと考えられる。(液位20mは最初の仮定高さ18mと異なるが)最初の発災タンクは屋根沈降で「障害物あり全面火災」という推定はあっても、残りの3基が「障害物あり全面火災」だったとは考えにくい。また、331日(木)に鎮火したタンク1基で再燃しているので、一部燃料が残っていたと思われる。

所 感

■ 火災の引火原因は落雷によるものだとみられる。配管の漏洩に落雷があったという見方もあるが、やはりタンクへの直雷の可能性の方が高いと思う。また、火災規模が大きいことを考えれば、豪雨で浮き屋根式タンクの浮き屋根が沈降したのではないか。浮き屋根沈降の例は、つぎのとおりである。

 ● 20178月、「テキサス州バレロ社のタンク浮き屋根沈降による環境汚染」

   ハリケーン・ハービーの豪雨によって、テキサス州でタンク浮き屋根が沈降した事例は少なくとも11件あったという。このほか、教訓として参考になる事例はつぎのとおりである。

 ● 20077月、「フランスで原油タンクのダブルポンツーン型浮き屋根が沈没」

 ● 201211月、「沖縄ターミナルの原油タンク浮き屋根の沈没事故」

 ● 20052月、「九州石油大分製油所のタンク浮き屋根の沈没事故」

■ NASAの雷マップ(データは最新でないが)によると、インドネシアのジャワ島付近は雷の多い地域のひとつである。通常、豪雨で浮き屋根の沈降があっても、環境問題は発生するが、引火してタンク爆発・火災になることは少なかった。しかし、最近は豪雨や雷の強さが大きくなっており、今回のように浮き屋根沈降が引き金になってタンク火災を起こす可能性があるように思う。

■ タンク火災の消火活動は困難だった。今回のように複数タンク火災(しかも4基)であれば、輻射熱が激しく、近寄ることさえ難しかっただろう。タンクの被災写真を見ると、いずれもタンク側板が内側に座屈しており、長い時間火炎に曝されていたことがわかる。燃焼時間からみると、消火活動によって消火させたというより、ガソリン燃料が燃え尽きるような状態になったあと、消火させたものとみられる。しかし、浮き屋根の下部に残っていたガソリンで再燃したタンクが1基あった。消火後も冷却していたらしいが、冷却が不十分だったと思われる。

■ 消火活動に大容量泡放射砲が使用されている。直径55m級のタンク全面火災であれば、日本の法律によると20,000リットル/分の大容量泡放射砲システムでよいことになる。使用された大容量泡放射砲はこれ以上の放射能力を有したものだったと思うが、複数タンク火災の輻射熱で放射距離がとれず、火災の盛んなときは有効に働いていないと考える。火災の勢いが弱まった以降に使用されているが、大容量泡放射砲を必要以上に長く放射すると、タンク屋根の浮力能力を超え、浮き屋根が沈降する恐れがある。この点、複数タンク火災時における大容量泡放射砲システムの運用方法(消火戦術)について考えさせられる事例である。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

  ・Jp.reuters.com,  インドネシアの製油所で大規模火災、5人負傷・950人避難,  March  29,  2021

    Jakartashimbun.com,  プルタミナ製油所で火災  鎮火まで3,  March  30,  2021

    Afpbb.com,  製油所で大規模火災、5人重傷・1000人避難 インドネシア,  March  29,  2021

    Nna.jp, プルタミナ製油所火災が鎮火、再開にめど,  April  01,  2021

    News.lifenesia.com, プルタミナのバロンガン製油所で火災、900人超が避難,  March  31,  2021

    Voi.id,  バロンガンのペルタミナ石油工場火災で3人が行方不明,  March  29,  2021

    Bbc.com, Indonesia fire: Massive blaze erupts at oil refinery,  March  29,  2021

    Thejakartapost.com, Fire at Pertamina's Balongan oil refinery will not impact operations: CEO,  March  29,  2021

    Ogj.com, Explosion, fire hit Pertamina’s Balongan refinery,  March  30,  2021

    Channelnewsasia.com, Indonesia's Pertamina puts out fire in Balongan refinery storage units,  March  31,  2021

    Aljazeera.com, Fire at Indonesia’s Balongan oil refinery prompts evacuations,  March  29,  2021

    Tankstoragemag.com, Pertamina Balongan fire is out,  April  01,  2021

    Pertamina.com, Pertamina Put Forth the Effort to Extinguish the Refinery Tank Fire Incident at the Balongan Refinery,  March  29,  2021

    Pertamina.com, Pertamina Accelerates Investigations to Ensure Incident handling at the Balongan Refinery,  April  01,  2021

    Reuters.com, Indonesia Pertamina aims to restarts refinery in days after blaze,  March  30,  2021

後 記: 今回、しばらくぶりの大型タンクの火災事故です。調べていくうちに、タンク所有者や消防機関に対して問題提起されるような課題のある事故だということが分かりました。発災の原因、複数タンク火災の要因、大容量泡放射砲システムの有効性などです。一方、新型コロナウイルスによる取材制限とインドネシアの国情によって状況の詳細情報がはっきりしません。負傷者の人数はもちろん、2番目以降のタンクが火災になった時間や鎮火した時間さえもメディアによってバラバラです。事実(らしい)事項を抽出しましたが、これからのタンク火災の原因追及と調査結果の公表を望みたいですし、今後の情報公開をウォッチングしておきたいと思いました。

2021年4月2日金曜日

米国オレゴン州のエタノール製造プラントで爆発・火災

  今回は、2021316日(火)、米国のオレゴン州ワシントン郡コーネリアスにあるサンダーボルト・レーシング・フューエル社のエタノール製造プラントで爆発・火災があり、当初は貯蔵タンクが火災になったと報じられた事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、米国のオレゴン州(Oregon)ワシントン郡(Washington County)コーネリアス(Cornelius)にある食品関連会社サミット・フーズ社(Summit Foods)の複合施設のサンダーボルト・レーシング・フューエル社(Thunderbolt Racing Fuel)である。

■ 事故があったのは、複合施設の中で北4番街の500ブロックにあるサンダーボルト・レーシング・フューエル社のエタノール製造プラントである。施設には数千ガロン(20,000リットル)の高燃焼エタノールを保有している。


< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2021316日(火)午後130分頃、プラントで爆発があり、火災になった。目撃者によると、爆発があった後、そびえ立つような炎を見たという。

■ 発災に伴い、消防署の消防隊が出動した。当初は燃料タンクが火災になったという通報だった。

■ 消防隊は現場へ到着すると、エタノール・レーシング燃料を製造・保管されている一帯から大量の煙と炎が出ているのを認めた。消防ホースを展張し、消防活動を始めたが、1時間ほど過ぎて、爆発と不規則な火災状態のため、安全な距離をとるため一時的に配備位置を後方へ下げた。

■ 発災現場の向かい側に住む女性は、火災が始まったとき、車が家にぶつかったような音が聞こえたといい、「それから別な爆発が起こった後、消防隊がやってきて、皆の家のドアをノックし、すぐに避難しなさいといわれました。私は犬と一緒に家を離れました。とても怖かったです」と語っている。

■ 近くの住民約80戸に避難勧告が出された。消防署は避難勧告の範囲をインターネットで配信した。

■ 消防隊によると、燃焼しているのは高燃焼エタノールで、レーシングカー用だという。エタノールのレベルはかなり高く、ガソリンよりも高いので、かなり危険だという。

■ 火災はプラントだけでなく、建物や車両に広がった。

■ 発災による死傷者は出なかった。

■ 火災の状況についてメディアKGWからドローンによる空からの映像がユーチューブに配信されている。YouTube Watch: Sky 8 over large fire in Cornelius2021.3.16)を参照)

被 害

■ 製造プラント内の建物3棟と金属製ドラム缶が火災によって焼損した。

■ プラント内にあった車両と配達用トラックが数台延焼した。

■ 約80戸の住民が数時間避難した。



< 事故の原因 >

■ 事故の原因は、調査中である。しかし、火災調査官は、静電気が金属ドラム内で火災を引き起こし、急速に拡大したとみている。 

■ 当局者によると、サンダーボルト・レーシング・フューエルの従業員が、燃料をある金属製ドラム缶から別の金属製ドラム缶に移動させていたという。この過程で、従業員は激しい熱を感じ、ドラム缶の1つから火が出ているのを発見したという。

< 対 応 >

■ 消防隊は、ポートランド国際空港の泡搬送車を運び込み、明るい紫色の消火剤である“パー​​プルK” を噴霧し、午後7時頃、エタノール火災を鎮圧した。 

■ 午後7時過ぎに避難勧告は解除され、住民は自宅へ帰宅した。

■ 当局者によると、サンダーボルト・レーシング・フューエルの従業員が、燃料をある金属製ドラム缶から別の金属製ドラム缶に移動させていたという。この過程で、従業員は激しい熱を感じ、ドラム缶の1つから火が出ているのを発見した。従業員は消火器で炎を消そうとしたが、すでに火が大きくなりすぎていたという。火災調査官は、静電気が金属ドラム内で火災を引き起こし、急速に拡大したと考えている。


補 足

■「オレゴン州」(Oregon)は、米国の西部に位置し、太平洋に面した人口約383万人の州である。

「ワシントン郡」(Washington County)は、オレゴン州の北西部に位置し、人口約445,000人の郡で、農業、特に果樹の栽培が盛んである。

「コーネリアス」(Cornelius)は、ワシントン郡の中央部に位置し、人口約10,700人の市である。

■「サミット・フーズ社」(Summit Foods)は、1997年にオレゴン州コーネリアスに設立された食品関連会社である。リンゴを薄くスライスし、アップルチップのドライフルーツ製造を行っている会社である。

 10年前に最終的に埋立処分される食品加工製品や農業廃棄物をエタノール燃料に変換するプラントを建設した。これが複合施設である「サンダーボルト・レーシング・フューエル社」(Thunderbolt Racing Fuel)で、エタノール製造プラントを運営して地元のレーシング・チームに燃料を提供している。

■「パープルK」(Purple-K)は、米国の消火資機材メーカー;ケムガード社(Chemguard Inc.)が製造するドライケミカルの粉末消火剤である。火災の熱によって分解して不燃性ガスを発生し、噴射に用いた窒素ガスとともに空気中の酸素濃度を低下させて消火する。油火災のほか電気火災やガス火災にも有効で、消火後の清掃が容易で、火の及ばなかった機器を損傷することがないという特長を有している。パープルKの使用例は、つぎのブログを参照。

 ● 20154月、「米国ウィスコンシン州の製油所でアスファルト・タンク火災」

所 感

■ 初期の情報では、エタノール製造プラントから爆発があり、燃料タンクが火災になったというので、調べてみた。しかし、燃料タンクでなく、金属製のドラム缶から火が出たものとみられる。燃料の入ったドラム缶の取扱い方法に問題があったものと思われる。

■ 最終的に埋立処分される食品加工製品や農業廃棄物をエタノール燃料に変換するプラントを運営するという省資源を実践したことは称賛される。一方、エタノールやガソリンのような危険物質を取り扱うための安全について抜けが出たのだろう。10年間問題がなかったことから油断があったのかもしれない。

■ 一方、デジタル化が進んでいる米国と感じる事故情報である。わずか1万人ほどの市だが、ドローンによる映像が地元メディアからユーチューブで流され、避難勧告の地域範囲が消防署からインターネットで流されている。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

      Oregonlive.com, Fire, explosions at Cornelius ethanol facility prompt evacuation, March 16, 2021

      Usnews.com, Fire at Ethanol Plant West of Portland Prompts Evacuations, March 16, 2021

      Ktvz.com, Fire at ethanol plant west of Portland prompts evacuations, March 16, 2021

      Koin.com, Explosive ethanol fire guts business, vehicles in Cornelius, March 16, 2021

      Statesmanjournal.com, Fire at ethanol plant west of Portland prompts evacuations, March 16, 2021

      Industrialfireworld.com, Fire at Oregon Ethanol Plant Prompts Evacuations, March 17, 2021

      Kgw.com, Fire at Cornelius ethanol fuel facility likely started by static, March 17, 2021  


後 記: 今回の事故情報で感じたことは、早ければ良いというものでないことです。事故当日に多くのメディアが報じています。消防隊や近隣の住民の声を聴いたり、事故の緊迫感はあります。しかし、事故原因に関する情報はほとんでありません。翌日になって報じたメディアの中から、火元はエタノール製造プラントや貯蔵タンクではなく、金属製ドラム缶であることが分かりました。最近の報道ではめずらしく、初期の一過性の情報でないように努める姿勢を感じました。新型コロナウイルスの影響で通信社の出すような一報の情報だけで済ます記事が多かったのですが、米国は少し落ち着いて来たのかも知れません。