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2019年6月27日木曜日

スペインのカタルーニャ州でアンモニア・タンクから漏洩、死傷者15名

 今回は、2019年5月31日(金)、スペインのカタルーニャ州タラゴーナの北のラ・ポブラ・デ・マフメットにあるカルブロス・メタリカス社の化学工場にあるアンモニア・タンクで漏洩があり、死傷者15名を出した事故を紹介します。
漏れたアンモニアと見られる白煙
(写真はDiaridetarragona.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、スペイン(Spain)カタルーニャ州(Catalunya)タラゴーナ(Tarragona)の北のラ・ポブラ・デ・マフメット(La Pobla de Mafumet)の町にあるカルブロス・メタリカス社(Carburos Metálicos)の化学工場である。

■ 発災があったのは、化学工場の充填場にある容量20KL(20,000リットル)のアンモニア・タンクである。
           カルブロス・メタリカス社の化学工場付近 (矢印が発災場所) 
(写真はGoogleMapから引用)
ラ・ポブラ・デ・マフメットにあるカルブロス・メタリカス社の工場(充填場) 
(写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2019年5月31日(金)午前9時頃、化学工場にあるアンモニア・タンクから漏洩事故があった。

■ 発災に伴い、事故発生の通報が消防署にあった。 

■ 漏洩はプラント外に設置された充填場のタンクの1基で起こった。さらに、アンモニアの有毒なヒュームが漏れたことによって小爆発が生じ、2人の作業員が負傷した。

■ 容量20KLのタンクにあった800リットルのアンモニアが500~600リットル漏れたとみられる。

■ 事故に伴い15名の死傷者が出た。 39歳の作業員が亡くなり、もうひとりの作業員も危篤状態で、バルセロナの病院にヘリコプターで搬送された。14名の負傷者のうち3名は消防士だった。

■ この事故によって、カルブロス・メタリカス社の工場にいた従業員は避難を余儀なくされた。一方、近隣の工場の作業員は建物内に留まり、この地域の住民も家から出られなかった。

■ カタルーニャ州市民保護局は緊急事態を宣言し、地元住民には工場に近づかず、窓をすべて閉めておくよう勧告された。

■ 消防隊は有毒な雲が構外へ流れていかないよう水噴霧カーテンを配置した。消防隊と緊急事態対処メンバーの処置によって、地域に有毒な雲が広く漂うのを防いだ。しかし、それでも工場から少し離れたところでアンモニアの強烈な臭いがした。  
■ アンモニアの漏洩は午前11時30分停止した。緊急事態は警戒段階に下げられ、午後1時45分に警戒は解除された。

被 害
■ アンモニア・タンクから内部のアンモニアが500~600リットル流出した。

■ アンモニア・タンクまたは関連設備は損傷を受けていると思われるが、詳細は不詳である。 

■ 死者1名、負傷者14名が出た。 近くの工場や住民に避難勧告が出された。

< 事故の原因 >
■ 死傷者が出たのは、アンモニア・タンクの漏洩によるアンモニアの人体への影響である。タンクからの漏洩原因は調査中である。
                散水と思われる白い霧 (写真はEltriangle.eu から引用)
(写真はElperriodico.comから引用)
(写真はAbc.esから引用)
< 対 応 >
■ 地方治安裁判所は、事故に関して司法調査を開始した。

■ カタルーニャ州市民保護局は、アンモニア漏洩事故が上水道の飲料水に影響していないと発表した。

■ タラゴーナ地区の石油コンビナートでは、近年、つぎのような7件の事故が起こっているという。
 ● 2013年11月10日、「レプソル・キミカ社の爆発事故」
   ラ・ポブラ・デ・マフメットにあるレプソル・キミカ社の低密度ポリエチレン工場において、 87秒間で270kgのエチレンが倉庫から流出し、爆発・火災となった。
(写真はDiaridetarragona.comから引用)
 ●  2010716日、「アセカ社の火災事故」
   ラボラル大学の近くにあるアセカ社の工場で火災があり、2人が負傷した。火災の激しい黒煙は周辺の会社を包み込むほどだった。
(写真はDiaridetarragona.comから引用)
 ● 2009年12月11日、「ヘラクレス・キミカ社の火災事故」
   フランコリ工業団地にあるヘラクレス・キミカ社で労働者の作業によって火災を起こした。けが人はなかった。
(写真はDiaridetarragona.comから引用)
 ● 2009年7月22日、「エルクロス社硝酸プラントで窒素酸化物の流出事故」
   ポリゴン・スッドにあるエルクロス社の硝酸プラントで圧縮機のバルブの不調によって窒素酸化物の雲を引き起こし、自治体は市民保護のための対処に追われた。 
(写真はDiaridetarragona.comから引用)
 ● 2005年5月19日、「バイエル社でタンク清掃中、中毒症状」
   ポリマー製造施設エリアで従事していた4人の作業者がバイエル社のタンクを清掃していたとき、作業手順が間違って中毒症状にかかった。
(写真はDiaridetarragona.comから引用)
  ● 200459日、「レプソル社のブタジエン漏洩事故」
   レプソル化学の球形タンクから可燃性の高いブタジエンを11.6トン流出させた。
(写真はDiaridetarragona.comから引用)
 ● 2004年6月8日、「クラリアント社の流出事故」
   ポリゴン・スードにあるクラリアント社で、高い可燃性製品である酸化プロピレンを8トン流出させた。けが人は無かった。
(写真はDiaridetarragona.comから引用)
補 足 
■「スペイン」(Spain)は、正式にはスペイン王国で、南ヨーロッパのイベリア半島に位置し、人口約4,650万人の立憲君主制国家である。
 「カタルーニャ州」(Catalunya)は、スペインの北東部に位置し、人口約750万人の自治州である。カタルーニャ州は独自の歴史・伝統・習慣・言語を持ち、カタルーニャ人としての民族意識を有している。2010年代にはカタルーニャ独立運動が盛んになり、独立派と中央政府との対立は大きな社会問題となっている。2017年10月に独立宣言をした時点から、カタルーニャ州の企業が州外に本社を移転させるという動きが出ているという。
 「タラゴーナ」(Tarragona)は、タラゴーナ県(人口約81万人)の県都で、人口約14万人の市である。
 「ラ・ポブラ・デ・マフメット」(La Pobla de Mafumet)は、タラゴナ県の北に位置し、人口約3,900人の町である。
スペインのタラゴーナの位置  GoogleMapから引用)
タラゴーナとラ・ポブラ・デ・マフメットにあるカルブロス・メタリカス社 (写真はGoogleMapから引用)

■「カルブロス・メタリカス社」(Carburos Metálicos は、1897年に設立され、酸素、窒素、水素、アルゴン、ヘリウムなど幅広く産業用のガスや化学製品を製造している化学会社である。1995年以降、米国に本拠を置くエアー・プロダクツ(Air Products)グループの一員となっている。
カルブロス・メタリカス社のラ・ポブラ・デ・マフメット充填場 
(写真はGoogleMapから引用)
■「アンモニア」(NH)は、常温では無色の強い刺激臭をもつ気体で、空気中に放出されると白煙となる。アンモニアは粘膜に対する刺激性が強く、濃度0.1% 以上のガス吸引で危険症状を呈する。液体状のものが飛散した場合は非常に危険で、特に目に入った場合には失明に至る可能性が非常に高い。高濃度のガスを吸入した場合、刺激によるショックが呼吸停止を誘発することがあり、血中アンモニア濃度が高くなると、中枢神経系に強く働き、意識障害が生じる。
 加圧・冷却により容易に液化し、液化したものは液化アンモニアと呼ばれる。アンモニアが液体から気体になる時に周囲から吸収する熱は水の次に大きく、種々の物質をよく溶かす性質がある。液化アンモニアは、通常、タンクローリー、パイプライン、タンカーで運ばれたり、ボンベ詰めにして供給される。液化アンモニアは空気と混合したり、強い酸と接触すると爆発する性質がある。しかし、アンモニアは広く使用されており、用途と製造方法の例を図に示す。
        アンモニアの用途 (図はJaf.gr.jpから引用)
アンモニアの製造方法の例 (図はJaf.gr.jpから引用)
■「発災タンク」は、容量20KL(20,000リットル)と報じられているが、型式や大きさは分からない。グーグルマップで調べると、発災場所は化学工場の装置やタンク施設エリア外で、独立した充填場だとみられる。この地区には球形タンクや横型または竪型タンクがある。容量から見れば、型式は横型または竪型タンクではないかと思われる。容量20KLの大きさは直径2.5m×長さ5.0m程度だと思われるが、発災タンクだと断定できる材料はない。

■「アンモニアに関する事故」には、つぎのようなものがある。
    1996年6月にフランスで起きた事故で、液化アンモニア・タンクの接続配管のフランジをオペレータが緩めていたとき、別なオペレータがタンクの隔離していたバルブを誤って開けたため、5時間半の間にタンク内部に貯蔵されていた3.8トンすべてが漏れ出て、11名が被災した。
    2018年12月に神奈川県環境科学センターでまとめられたもので、全国で起きた化学物質関連の事故事例を596件掲載した事例集である。その中で、アンモニア関連の事例は56件(9.3%)ある。

所 感
■ 今回の事故情報は漠然とは理解できるが、事故原因を考えるような情報が無いという印象の事例である。作業員2名が死傷を負っているところをみると、設備的な問題が生じて点検しているときに漏洩が起きたのかも知れない。 

■ 漏洩事故が起こってから、アンモニア・フュームの拡大阻止策として水噴霧カーテンを実施し、効果を得たといわれている。(実際には、アンモニアの白煙が構外に流れている) しかし、もっとも関心のある漏洩部の漏れ止めはどうしたのだろうという疑問が残る。また、消防士3名を含む13名の負傷者はどのような行動をとったのか、そしてどのようにして被災したのかという点は教訓として残していくべきだと感じる。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Hazardexonthenet.net, One Dead, 14  Injured in Spanish Ammonia Tank Explosion,  June  03,  2019
    ・Businessinsurance.com, Ammonia Tank Explodes at Spanish Factory,  June  04,  2019
    ・Firedirect.net, Spain – One Dead, 14 Injured In Ammonia Tank Explosion Including FireFighters,  June  06,  2019
    ・Tellerreport.com, One Worker Dies from An Ammonia Leak and Another Is in Critical Condition in Tarragona,  June  01,  2019
    ・Alamy.com,  Tarragona, Spain. 31st May, 2019. Members of the Emergency,  May  31,  2019
    ・Diaridetarragona.com, Crónica del trágico accidente en el complejo químico de La Pobla de Mafumet,  June  01,  2019
    ・Lasprovincias.es, Un trabajador muerto y otro crítico por una fuga de amoniaco en Tarragona,  May  31,  2019
    ・Diaridetarragona.com, 7 accidentes de los últimos años en el complejo químico de Tarragona,  June  01,  2019



後 記: スペインにおける事故を紹介するのは初めてです。(正確にいうと、 2017年3月の「ベルギーで硝酸タンクの漏洩によって全村避難」の補足「硝酸」の中で、「2015年2月、スペインの化学プラントで硝酸による爆発が起き、有毒ガスが大量に大気へ放出されて多くの住民が屋内避難した事例がある」と写真付きで紹介したことがあります) それでは、スペインでは事故がないかというと、タラゴーナ地区の石油コンビナートの事故例の中にもタンク事例が2件あったように、事故がないのではなく、情報のアンテナが小さいということでしょう。
 ところで、今回の事故は発災写真や事後写真が無く、どのようなタンクで起きたものか分からない事故でした。写真は慌ただしく工場前に集まった人や車両のものしかないと思いました。その中で、流れるアンモニアの白煙という写真がありました。しかし、写真の撮影場所が判然としません。最近は、別な写真を発災写真と思わせるものがときどき出ます。グーグルマップで発災場所付近のストリートビューを眺めているうちに、白煙を撮った場所に似たところがありました。再び、ストリートビューをじっくり見てみました。白煙の写真と見比べていくと、まわりの風景から撮影した場所と判断することができました。ついでに、散水と思われる写真もストリートビューと見比べてみて、これも撮影場所が分かりました。このことから、2枚の写真は事故当日の発災事業所付近で撮られたものとして扱うことにしました。しかし、残念ながら、ここまでが限界で発災タンクを特定することはできませんでした。
 作家の沢木耕太郎氏の著書の中に、戦争写真家キャパの撮った写真を現地に赴き、人に聞きながら、当時と同じ構図の写真を撮っていくという「キャパへの追走」(文集文庫)があります。面白い発想と実際には現地が分からない苦労や彼独特の感性のある文章で綴られた作品です。著者に感化されていて、知らず知らずに撮影場所を探る行動をしたのかも知れないと感じています。


2019年6月21日金曜日

米国ルイジアナ州の油井用タンク施設で消火活動中にタンク噴き飛ぶ

 今回は、2019年6月7日(金)、米国ルイジアナ州ボージャー教区のプレイン・ディーリング郊外にある油井用のタンク施設でタンク火災があり、その消火活動中に別なタンクが空高く噴き飛んだ事故を紹介します。
(写真はHazmatnation.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国ルイジアナ州(Louisiana)ボージャー教区(Bossier Parish)のプレイン・ディーリング(Plain Dealing)郊外にある油井用のタンク施設である。

■ 発災があったのは、ワイズ通りの南で、ルイジアナ州高速3号線(ハイウェイ)の10800区近くで未舗装の道路沿いにあるタンク施設である。施設には、石油タンクが3基あった。
ブレイン・ディーリング郊外のルイジアナ州高速3号線10800区付近 
(写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2019年6月7日(金)午前6時頃、タンク施設で石油タンクの1基に火災が起こった。

■ 発災に伴い、プレイン・ディーリング消防署の消防隊が出動した。消防隊は、あとの2基のタンクの冷却放水を行うとともに森林地区へ延焼しないように努めた。
(写真はArklatexhomepage.comから引用)
■ そのとき、爆発が起こった。消防士は地面に叩きつけられ、タンク1基が空高く噴き飛んだ。プレイン・ディーリング消防署の消防隊長によると、「非常に高くまで飛び、まるで空中を舞う50ガロン樽(189リットル)のようにだった」と語っている。現地の道路にいた保安官によると、交通整理をしていたとき、爆発を見たといい、「最初に煙が見え、それからタンクが空高く飛んでいた。そのとき頭をよぎったのは、消防士の身に何かが起こったのではないかと思った。しかし、奇跡的に何も起こっていなかった」と語った。

■ タンクはルイジアナ州高速3号線から離れたところに落下した。爆発は消防隊の資機材の一部に損傷を与えた。消防士たちは無事だったが、さすがに動揺していた。

■ 爆発事故による負傷者は出なかった。

■ 近くの住民や道路にも影響は無かった。タンクの所有者は現場に来ていた。

■ その後、タンクの火災は消された。(鎮火時間は報じられておらず、分からない)

被 害
■ タンク1基が焼損し、別なタンク1基が爆発で破損した。内部の油が焼失した。

■ 事故に伴う負傷者は出なかった。 

< 事故の原因 >
■ 最初のタンク1基目の火災原因は分からない。

■ 爆発原因は、1基目のタンク火災の炎が2基目のタンクのベーパー部に引火したものだとみられる。
(写真はBossierpress.comから引用)
(写真はBossierpress.comから引用)
(写真Bossierpress.comから引用)
             爆発して落下したタンク破片 (写真はBossierpress.comから引用)
< 対 応 >
(写真はKtbs.comから引用)
■ 鎮火後、消防士たちは集まり、「神は手を差し伸ばし、タンクを私たちから遠ざけてくれた」と祈りを捧げた。

 補 足
■「ルイジアナ州」(Louisiana)は、米国の南部のメキシコ湾に面しており、人口約453万人の州で、州都はバトンルージュで、最大の都市はニューオリンズである。
 「ボージャー教区」(Bossier Parish)は、日本ではボージャー郡とも呼ばれ、ルイジアナ州北西部に位置し、人口約125,000人の郡である。
       ルイジアナ州の位置  (写真はNizm.co.jpから引用)
 「プレイン・ディーリング」(Plain Dealing)は、ボージャー教区の北部に位置し、人口約1,000人の町である。夏季は暑いところで、過去には46℃(1936年)を記録した。
 なお、ルイジアナ州では、つぎのような事故や対応事例がある。
  
■ 油井用タンク施設の所有者は報じられていない。現場に来ていたというので、個人の独立会社と思われる。

■ 「発災タンク」の仕様(大きさ)は報じられていない。グーグルマップで発災場所を調べてみると、ルイジアナ州高速3号線(ハイウェイ)10800区近くにタンク施設があるが、2基のタンクと別に南に1基のタンクがある。ここより南に約500mほどのところに3基並んだタンクがある。発災時の写真と見比べると、まわりの状況が少し異なり、この3基が発災タンクと断定ができない。ルイジアナ州高速3号線10800区近くのタンク施設に最近になってタンクが増設された可能性はある。
       ルイジアナ州高速3号線10800区近くにあるタンク施設 (写真はGoogleMapから引用)
 発災タンクが3基並んだタンクと仮定すれば、グーグルマップによるとタンク直径は約3.5mである。高さを4.5mとすれば、容量40KL級タンクとなる。被災写真を見ると、発災タンクはこのクラスだと思われる。
 一方、消火活動中のタンク3基の写真と鎮火後のタンク2基の写真を見比べると、右端にあったタンクが噴き飛んだものとみられる。しかし、2つの写真をよく見ると、燃焼によるタンク外板の変色具合が一致しない。
消火活動中のタンク3基と鎮火後のタンク2
(写真は、左;Hazmatnation.com、右; Shreveporttimes.comから引用)
所 感
■ 初めのタンク火災の要因については何ら言及されていない。「NASAによる世界の雷マップ」によれば、ルイジアナ州は、テキサス州などと並び、雷の多い地域であり、落雷による火災または静電気による火災とみるのが通常だろう。一昨年8月の「米国ルイジアナ州の油井用タンク施設で落雷による火災」の所感に、「米国の原油・天然ガスの油井施設が好調の背景から、メキシコ湾岸でのタンク火災の頻度の高まる可能性があるのではないだろうか」と記載したが、2018年8月、2019年2月に引き続き3件目のタンク火災が起こったという印象である。

■ タンクが爆発して噴き飛んだ事故を紹介した例は、つぎのとおりである。
 消火活動中に噴き飛ぶというめずらしいタンク火災である。報道でも、このような事故で負傷者が出なかったことに焦点が当たり、なぜ爆発が起きてしまったかという消防活動中の反省や教訓が聞かれない。
 タンク間距離がほとんど無い3基並んだタンクの配置から考えれば、延焼するのは当然であろう。噴き飛んだタンクはおそらく油がわずかで、空間に可燃性蒸気が充満していたために爆発して飛んだものと思われる。消防隊はタンク保有者からどんな情報を受け取っていたのだろうか。
 
■ 容量40KL級のタンク火災であれば、積極的消火戦略をとってもよかったはずである。泡薬剤が無かったためか積極的消火戦略はとらず、消極的消火戦略が選択され、冷却放水を実施している。しかし、発災写真を見る限り、中途半端な冷却放水だった。この種の油井用タンク火災では、燃え尽きさせる不介入戦略をとることがある。冷却放水を行うにしても、無人の固定ノズルを用いて人を近づけないように配慮する。幸い、人身事故が無く良かったといえるが、消火戦略上、積極的消火戦略・消極的消火戦略・不介入戦略の選択が適切に行われず、消防戦術も適切で無かったように感じる。

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Hazmatnation.com,  Plain Dealing Tank Fire Sends Oil Tank into Air,  June 07,  2019
    ・Arklatexhomepage.com,  Oil Tank Catches Fire in Plain Dealing Area,  June 07,  2019
    ・Fairfieldsuntimes.com,  Oil Tank Catches Fire, Explodes near Plain Dealing,  June 07,  2019
    ・Shreveporttimes.com,  Fire Causes Explosion at Oil Well Site in Bossier Parish,  June 10,  2019
    ・Bossierpress.com, Video and Photos: Disaster Averted after Oil Well Explodes in North Bossier Parish,  June 08,  2019
    ・Ktbs.com,  Oil Tank Catches Fire, Explodes near Plain Dealing,  June 07,  2019


後 記: 厳しい所感を書きましたが、プレイン・ディーリングの町は人口約1,000人で、おそらく消防署はボランティア型消防署でしょう。今回のようなタンク火災では、ボージャー教区(人口約125,000人)の消防署の資機材に頼らざるを得ないと思います。
 今回のタンク火災や報道を通じ、米国(の地方かな)との認識の落差を感じます。米国の経済が良好を保っている要因のひとつは、原油・天然ガス生産が輸出できるくらい好調だからです。しかし、今回の発災写真を見れば、油タンクのまわりは木々というより森林の状態です。まさに開拓時代と同じです。日本だと、こんな状態を放っておくことはないでしょう。貴重な石油という日本人の感覚ではなく、どこからでも湧き出る石油は薪になる森林の木と同じなのでしょうか。事故の報道を見ても、地表火くらいの感覚で、原因は深く追求されず、火が出ても日常の当たり前と言った感じです。事故が無かったことを神に感謝の祈りを捧げるのは米国らしさを感じる良いことですが、その前にやらねばならないことがあるだろうと考えるのは、日本人の島国根性なのでしょうかね。

2019年6月17日月曜日

徳島市の油槽所で油受入れ中の灯油タンクが爆発

 今回は、2019年5月16日(木)、徳島県徳島市の徳島石油㈱の油槽所にある灯油用の貯蔵タンクで爆発・火災が発生した事例を紹介します。
(写真Topics.or.jpから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、徳島県徳島市末広1丁目の徳島石油㈱のタンク施設である。タンク施設には、10基の貯蔵タンクがあった。

■ 発災があったのは、徳島石油末広油槽所にある灯油用の貯蔵タンクである。タンクは直径約8.8m×高さ約9.1m、容量500KLで、事故時にはタンクの半分ほどの灯油が入っていた。
徳島市の徳島石油末広油槽所付近 (矢印が発災タンク)
(写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2019年5月16日(木)午前7時40分頃、油槽所にある灯油用の貯蔵タンク1基で爆発・火災が発生した。タンクから黒煙が上がった。

■ 消防署に複数の周辺住民から「タンクが爆発した」との通報が相次いだ。

■ 発災により、市消防局の消防隊が消防車13台を伴い出動した。

■ 現場は住宅地に隣接した商業施設が集まる地域で、周辺道路は警察による交通規制や周辺住民に対する避難誘導がおこなわれ、一時、騒然となった。

■ 消防隊は、タンクを冷却するとともに、泡薬剤で消火に努めた。その結果、発災から約1時間45分後の午前午前9時25分までに鎮火した。

■ 事故による負傷者は出なかった。また、周辺の建物への被害も無かった。

■ 出火当時、油槽所近くの新町川に止まっていた船から、地下配管を通じて油槽所に燃料を移送する作業が行われていた。

被 害
■ 容量500KLの灯油タンク1基が爆発・火災で破損した。内液の灯油が焼失していると思われるが、量などは不詳である。

■ 事故に伴う負傷者はいなかった。

< 事故の原因 >
■ タンクの爆発原因は調査中である。
(写真Twitter.comから引用)
(写真Topics.or.jpから引用)
< 対 応 >
      現場検証 写真Topics.or.jpから引用)
■ 5月17日(金)、市消防局や県警は現場検証を始めた。近くの新町川岸壁からタンクに伸びる送油管の状況などを確認した。総務省消防庁消防研究センターの職員を含む約30人が現場検証に当たった。タンカーを新町川岸壁に接岸させて燃料油出口を調べたほか、岸壁に設置された注入口やタンクに至る送油管の敷設状況に異常がないかなどを調査した。18日(土)以降は爆発したタンク付近を確認する。
 
■ 徳島石油の関係者も現場検証に立ち会った。報道関係者の取材に対して「近隣住民にご迷惑をお掛けしたことは申し訳ない。現時点では原因が分からないのでお話しできることはない」と話した。なお、徳島市は施設の使用停止命令を出した。

補 足
■ 「徳島県」は、四国北東部に位置し、人口約73万人の県である。
 「徳島市」は、徳島県の東部に位置し、人口約25万人の都市で県庁所在地である。
           徳島県の位置 (図Jmap.jpから引用)
■ 「徳島石油㈱」は、1931年に設立し、徳島市と高松市を中心に東四国全体をネットワークする石油製品の総合商社で、直営サービスステーション32箇所などを擁し、ガソリン、灯油、軽油、重油、LPGを供給する。徳島市末広に、地上式貯蔵タンク9基、総容量2,450KLの油槽所を保有している。
              徳島石油末広油槽所(事故前) (写真GoogleMapのストリートビューから引用)
発災タンク(中央) 
写真はAnzendaiichi.blog.shinobi.jpから引用)
■ 発災のあった「灯油タンク」は、直径約8.8m×高さ約9.1m、容量500KLで、事故時にはタンクの半分ほどの灯油が入っていたと報じられている。グーグルマップで確認すると、直径は報じられた値であり、容量500KL級の固定屋根式タンク(コーンルーフ・タンク)である。被災写真を見ると、タンク屋根は噴き飛んでおらず、屋根の一部が側板から外れているだけのように見える。従って、故意に接続部を弱くするタンクの設計どおりであり、また爆発力はそれほど大きなものでは無かったと思われる。

タンクの静電気発生を示す 
Law.resource.orgから引用)
■ 「灯油」は、比重0.79~0.85、引火点40~60℃、燃焼範囲が1.1%~6.0%の可燃性流体であり、灯油ストーブに使用され、同種類のケロシンはジェット機の燃料にも使われ、ガソリンなどに比べて比較的に安全な石油製品である。一方、石油製品は導電率が低く、静電気が生じやすい流体であり、特に灯油は静電気が蓄積しやすいといわれている。
 貯蔵タンクでは、この静電気対策がとられ、ひとつは接地で静電気が蓄積しないように大地へ流す。もうひとつはできるだけ静電気が生じないように入荷配管の流速を制限する。米国では、従来、各社ごとに流速制限を設け、例えば、液深さが6フィート(1.8m)になるまで流入液の流速を3フィート/s(0.9m/s)に抑えるといった対策例である。
 現在、API(米国石油協会)の静電気対策の推奨基準であるAPI RP 2003「Protection Against Ignitions Arising Out of Static, Lightning, and Stray Currents」では、つぎのような基準を推奨している。
 ● 受入時の初期流速は、充填配管の直径の2倍または61cmの深さ(どちらか小さい方)に浸漬するまで、1m/sに制限する。
 ● 初期流速の制限が終われば、受入流速を増加してもよいが、静電気の蓄積を最小にするため、最大流速は7m/s~10m/sとするのがよい。

所 感
■ 状況から考えると、事故の原因は灯油タンクへの受入れ中の流動帯電による静電気だと思われる。推測と疑問点を挙げるとつぎのとおりである。
 ● 受入れ始めの初期流速は1m/sを超えていたのではないか。事故当時はタンクに半分程度入っていたというが、受入れ始めのタンクはどういう状態だったか。「充填配管の直径の2倍または61cmの深さ(どちらか小さい方)に浸漬するまで、1m/sに制限する」は満足していたのだろうか。
 ● 油槽所は受入れ始めの初期流速の制限事項を知っていたのだろうか。 
 ● 初期流速の制限が終わったとして、その後の受入流速が速かったのではないだろうか。「最大流速は7m/s~10m/s」の範囲になっていたのだろうか。
 ● 油槽所は荷揚げ時の最大流速を定めていたのだろうか。「最大流速は7m/s~10m/s」の範囲にしていたのだろうか。
 ● タンクの接地はされていたのだろうか。接地されていても、正しく保全されていなかったのではないか。

■ 一方、タンク内の蒸気空間から考えてみると、受入れ前の蒸気空間はほとんど空気で、灯油ベーパーはわずかと思われる。(満杯のタンクから灯油を払い出しており、代わりに空気が流入している) 灯油を受入れ始めると、空気が出てゆき、灯油ベーパー成分が増えていく。灯油ベーパーの燃焼範囲は1.1%~6.0%であり、この範囲になったとき、蓄積していた静電気で火花を発し、引火して爆発したと思われる。

■ 消火活動については、タンクを冷却するとともに、泡薬剤で消火に努めた結果、発災から約1時間45分後に鎮火させている。タンクの固定泡消火設備の有無などが分からないが、よく消火させ、大きなタンク火災にならなかったという印象である。

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Rescuenow.net,  徳島市の徳島石油末広油槽所でタンク爆発火災、現在は鎮火,   May  16,  2019
    ・Topics.or.jp,  徳島市で石油タンク1基が爆発し出火、消防車13台が出動,   May  16,  2019
    ・Anzendaiichi.blog.shinobi.jp,  2019年5月16日 徳島市の油槽所で船から灯油を500KLタンクに荷揚げ中、タンクが爆発し火災発生、けが人なし,  May  23,  2019
    ・Nhk.or.jp , 油槽所のタンク火災 一時騒然,   May  16,  2019
    ・Eitokun.com , 徳島市末広でタンク爆発火事情報[今日の火災速報]ツイッター動画や画像で現在の場所は【2019年5月16日リアルタイム速報】,   May  16,  2019
    ・Topics.or.jp, 徳島市のタンク爆発 現場検証で送油管の状況確認,   May  18,  2019
    ・Kore-shiri.com, 徳島市末広1丁目徳島石油の火事原因や場所、被害は!画像動画を調査,   May  16,  2019


後 記: 日本におけるタンクの爆発・火災事故ですが、午前7時40分頃に発生し、午前9時半には鎮火している所為か、意外に情報が少ないという印象です。爆発して火災になったと報じられていますが、実際の火災に関するコメントや写真が無く、火災の程度はどうだったのでしょう? 事故自体は大きくなく、被害も限定的で良かったと思っていますが、原因については関心のあるところです。「タンク、灯油、受入れ中」という言葉が出れば、タンクに関係した人であれば、すぐに静電気が頭に浮かぶでしょう。ただ、状況を知ると、疑問が出てきます。日本には、油槽所や製油所などに多くの石油タンクが存在しています。総務省消防庁は現場検証に立会していますが、同庁の「平成31年 災害情報一覧」には災害としての記載もありません。教訓は広く開示してもらいたいものですね。