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2015年9月29日火曜日

イタリアで含油排水タンクが蒸気雲爆発(1999年)

 今回は、フランス環境省(現:フランスエコロジー・持続可能開発・エネルギー省)がまとめているARIA(事故の分析・研究・情報)の中のひとつで、1999年、イタリアで起きた「炭化水素含有の排水貯蔵タンクで形成したガソリン蒸気雲の爆発」(Explosion of a Gasoline Vapour Cloud Formed in a Hydrocarbon Loaded Effluents Storage Tank)の資料を紹介します。
< 施設の概要 >
■ 施設は、イタリア北西部に位置するアルクアータ・スクリービア(Arquata Scrivia)にある石油タンク基地で、石油製品とLPGの受入れ、貯蔵、出荷を行っている。入出荷はパイプラインおよびタンクローリー車によって行われている。施設はセベソ指令に基づいており、セーフティ・レポート(安全報告)の提示を行う条件になっている。

■ 貯蔵能力はつぎのとおりである。
   ● ガソリン    200,000トン
   ● ディーゼル燃料 360,000トン
   ● LPG       4,300トン
                               アルクアータ・スクリービア付近(現在)    (写真はグーグルマップから引用)
< 発災設備の概要 >
■ 発災のあった設備は、ガソリンタンクとディーゼル燃料タンクからのドレン水を一時的に保管するプラントだった。(水には若干の油分を含んでいる)

■ 図にプロセスと設備を示す。貯蔵タンクからのドレン水は、重力によって直接、排水溜タンクへ流れ、ここからドレン水タンクへポンプで移送される。プロセス排水と一所になって水処理プラントへ供給されるが、その前にドレン水の中のMTBE(メチル・ターシャリー・ブチル・エーテル)を除去するため、ドレン水をエア・ストリッピング装置に通す。水処理プラントの目的は、油分を除去することと、ソーイング・システムへ供給できる水質にすることである。水処理プラントへ供給する前に、含油水は沈降ピットと貯蔵タンクへ送られる。
排水系統のプロセス図
■ 事故が起ったときに貯蔵プラントで運転されていた設備は、無鉛ガソリンタンク、排水溜タンク、ドレン水タンク、エア・ストリッピング装置、沈降タンク、水処理供給タンク、水処理プラント、ソーイング・システムだった。

■ 排水系統の運転はオペレーターによってマニュアル(手動)で行われていた。このため、つぎのバルブが順番に開けられていた。
 ● 排水溜タンクの入口配管バルブ
 ● ポンプ吐出バルブ
 ● ポンプ吸込バルブ
 ● ガソリンタンク底にある水溜めポットからの出口バルブ

■ オペレーターは、水に代わってガソリンが排水溜タンクへ流れていることに気が付き、上記の最後のバルブを閉めて運転を停止した。そのとき、排水溜タンクの高液位信号によって自動的に抜出しポンプがスタートし、含油水がドレン水タンクへ送り込まれた。

■ ドレン水タンクは浮き屋根式で、最大容量3,000KL、タンク直径16m×高さ14.5m、最大屋根高さ12mだった。タンクには、防油堤がなく、まわりのエリアは土と砂利で、浸透防止の処理はされていなかった。タンクは、底部の位置に内部スチーム加熱コイルが設置されていた。

■ 浮き屋根の実際の高さを監視する目的のため、TVモニタリング・システムが設けられていた。この映像は計器室に送られるようになっていた。高液位警報は11mと12m(運転条件)の2点に設定され、13mの設定で供給ポンプを自動停止してブロックするシステムが設けられていた。
■ さらに、タンクには、この型式のタンクに必要な消防設備が設けられていた。

< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 事故当時、ドレン水タンクの液位は3.4mで、これは約680KLに相当する。液の上部には約10cm厚の油層があったと推定され、約20KLの油が入っていたことになる。無鉛ガソリンタンクの水排出作業は、ドレン水を排水溜タンクへ送ることによって始められていた。このとき、廃水処理プラントは定常運転のような連続的な稼働状態ではなかった。

■ 約20KLの油は、ドレン水タンクの浮き屋根上にあるセーフティ・ベントから放出された。油は、屋根の雨水排水用配管を通じて地上へ流れていった。タンク近くに油溜まりができた。タンク屋根上の油溜まりと地上の油溜まりから炭化水素の蒸発によって蒸気雲が形成した。この蒸気雲は、約60m離れていた隣接道路に達した。気象条件は晴天で無風だった。

■ 1999年12月10日、蒸気雲に引火し、自由空間蒸気雲爆発(Unconfined Vapor Cloud Explosion:UVCE)が起った。引火源は、おそらく道路を走っていた2台のローリー車によるものと思われる。

■ 蒸気雲爆発の起った2・3秒後、別な爆発が2回続けて起った。フラッシュバックの火炎によって油溜まりに引火し、さらにドレン水タンク内の油が燃え、近くの沈降ピットの油へと燃え広がった。
(写真はARIA資料から引用)
事故による被害 
人の被害
 ● 人への被害は限定的だった。2台のローリー車の運転手は軽い火傷を負ったが、7~15日で快復した。

設備被害
 ● 設備への被害は大きかった。ドレン水タンクと沈降ピットの損傷は激しかった。近くの建物は窓ガラスが壊れるなどの被害を受けた。ローリー車2台のほか別な車両が損害を受けた。
経済的損失
 ● 直接の設備被害額は500万ユーロ(650百万円)にのぼった。
 ● 事故対応、代替保管料、清掃などの費用は350万ユーロ(455百万円)だった。
 
欧州基準による産業事故の規模
■  1994年2月、セベソ指令を司るEU加盟国管轄庁の委員会は、事故の規模を特定するために18項目のパラメーターを用いる評価基準を適用した。わかっている情報をもとに検討された結果、当該事故は4つの分類項目に対してつぎのように評価された。
■ 半径330m以内にあった建物の窓ガラスの10%が壊れるほどの爆発による影響があったことによって、「危険物質の放出」はレベル1と評価された。これはTNT火薬100kgに相当する。
 ローリー車の運転手2名が負傷する被害が出たので、「人および社会への影響」はレベル3と評価された。
 環境に関して目に見える被害が出なかったので、「環境への影響」は評価されなかった。
 事故に伴う構内の設備的な損害が500万ユーロ(650百万円) にのぼったほか、事故対応、代替保管料、清掃などの費用は350万ユーロ(455百万円)だったので、「経済損失」はレベル3と評価された。

< 事故の原因 >
■ 事故の起きたタンクには、タンク底部に内部スチーム加熱コイルが設置されていた。この目的は、冬季に内部温度を20~30℃に保つためと、次工程のエア・ストリッピングのため予熱しておくためであった。

■ 事故当日、加熱コイルの破損によって、タンク内に生スチームが入っていた。破損の原因は腐食だとみられている。タンク内の温度は少なくとも60℃まで上昇していた。このため、軽質留分の蒸発が始まっていた。浮き屋根の裏面部にあふれる凝縮スチームと内部の過圧によって、浮き屋根上のセーフティ・ベントが開き、上部の油層部分が浮き屋根上に放出してしまった。

< 対 応 >
■ ただちに、社内の緊急事態対応計画に従って対応が開始された。プラントの緊急シャットダウンが実行され、固定冷却水システムが作動された。社内の自衛消防隊による初期活動が実施された。その一方で、消防署、救急隊、警察への通報が行われた。

■ 15分後における公的機関の対応はつぎのとおりである。
 ● 消防署は火災の消火活動に入った。(1時間半後に消火に至った)
 ● 警察は地元の通行規制を行い、現場近くの道路の交通遮断を行い、事故現場に近い住宅や作業場の避難要否の事前調整を行った。
 ● 救急車が到着し、けが人の応急手当を行った後、病院へ搬送した。

< 教 訓 >
■ この事故から学ぶべき教訓は、物理的な要因や直接的な原因に関することより、むしろ管理上の問題点であろう。この種の事故を恒久的に防止するためには、実施すべき具体的な行動に結びつくことのできる最初の判断が重要である。

■ この理由およびセベソⅡ指令の基本理念にもとづき、特別な検討方法がイタリアで開発され、適用された。それは、セーフティ・マネジメント・システムにおいて問題点となる主な事項に沿って事故の分析を行うというものである。すなわち、事故に直接的に関係している事項、あるいは事故に関する事象や状況によって示された事項をもとに事故分析が行われる。

■ この事故をもとにして、大きな教訓や知見となるべき事項はつぎのとおりである。
 ● 事故防止学を考慮しながら、徹底した詳細なリスク分析を行わなければならない。
 ● 計装で表示すべきパラメーター(温度、油層厚さなど)に不足がなく、明らかにされたリスクに合致した計装とし、異変や危険な状態を発見できるようにする。
 ● 事故や暴走を回避するために必要な検出器(温度、液位、圧力など)は確実に設けて、安全の確保に万全を期す。
 ● 腐食の可能性のあるスチーム・コイルは、定期的な検査、完全な修理あるいは部品交換について最適なメンテナンス方法を考慮して実施しなければならない。
 ● タンクに関して技術的な追加変更が検討されているときには、つぎのようなことに配慮しなければならない。
   ○ どこに危険性が潜んでいるか、そしてその関係で生まれる事故のリスクに関する評価
   ○ 安全規則や安全基準への遵守性の確認
   ○ 設計修正への最終確認
 ● 安全審査は、セーフティ・マネジメント・システムの基準への適合性を評価するために役に立つし、効率性があり、本来、上記で述べられたようなマネジメントの問題点を浮き彫りにすべきである。

補 足
■ 「アルクアータ・スクリービア」(Arquata Scrivia)は、イタリア北西部に位置するピエモンテ州アレッサンドリア県にあり、人口約5,800人の町である。
イタリアのアルクアータ・スクリービアの位置(ポイントマーク部)
(写真はグーグルマップから引用)
■ 発災のあった施設は、イタリアのエネルギー会社であるERG社の石油貯蔵タンク基地とみられる。アルクアータ・スクリービには、1967年、イタリアで最初の石油物流基地がある。
アルクアータ・スクリービアの石油貯蔵タンク基地
(写真はNotavterzovalico.infから引用)
■  「フランス環境省 : ARIA」(French Ministry of Environment : Analysis, Research and Information on Accidents)は、フランス環境省(現:フランスエコロジー・持続可能開発・エネルギー省 French Ministry of Ecology, Sustainable Development and Energy)がフランスにおいて発生した事故について情報を共有化し、今後に活用するため、1992年から始めた事故の分析・研究・情報のデータベースである。有用な海外事故も対象にしている。

所 感
■ 「発災設備の概要」を読んでも、事故の予想ができなかっただけでなく、「事故の発生」を読んでも、蒸気雲爆発へのプロセスが推測できなかった。「原因」を読んで、初めて納得した。含油排水タンクの加熱コイルのチューブ開口と蒸気雲爆発の結びつきは、結果論として当然であるし、リスク分析で事前検討されていても当然の結果になろう。しかし、実際の当時の現場では、そのような危険予知の意識は無かったと思われる。
 
■ 推測を交えて考えれば、つぎのような小さな失敗が重なって、最終的に、道路を走っていたタンクローリー車の運転手が負傷する大きな事故になっている。
 ● ガソリンタンクの水切り作業で多量(20KL)のガソリンを流してしまったが、下流に油が流れても、水処理系統で分離・回収されるので、問題ないと考えたかもしれない。
 ● ドレン水タンクの加熱コイルのチューブが開口していたが、水の中に水蒸気が入るだけだから、問題ないと考えたかもしれない。
 ● ドレン水タンクの運転状態(温度60℃)の潜在危険性を認識できなかったが、通常より多少暖かい程度で、問題ないと考えたかもしれない。
 ● ドレン水タンクのTVモニターでガソリンが屋根の雨水排水管から流れ出ていたが、無色の油だったため、識別しずらかったかもしれない。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Aria.development-durable.gouv.fr, Explosion of a Gasoline Vapour Cloud Formed in a Hydrocarbon Loaded Effluents Storage Tank, 10 December 1999,  Arquata Scrivia, Italy,  DPPR / SEI / BARPI - No. 21967, Sheet updated: July 2012 



 後 記: ARIAの資料には、国によって内容に差異(評価)があるという話をしたことがあります。イタリアの事例では、「イタリアの製油所でアスファルト貯蔵タンクの破壊事故」(2015年4月投稿)に続いて2件目ですが、前回に続いてややわかりづらい事例内容でした。表面的な事象だけの記述になっているので、人や組織の姿が見えないからです。責任を追及するつもりではありませんが、どこかの国の「国立競技場建設」や「エンブレム審査」と同じような気がしました。事故というものは、これまでまったく知られていなかった未知の領域で起ったものを除けば、人や組織が何らか関与しています。この点を曖昧にしたままだと、事故の本当の教訓は活きてこないように思います。というわけで、所感の中で「人の弱さ」を想像して書いてみました。

2015年9月22日火曜日

フランスで内部浮き屋根式タンクの清掃工事中に爆発(2001年)

 今回は、フランス環境省(現:フランスエコロジー・持続可能開発・エネルギー省)がまとめているARIA(事故の分析・研究・情報)の中のひとつで、2001年、フランスで起きた「炭化水素貯蔵タンクの爆発」(Explosion of a hydrocarbon storage tank)の資料を紹介します。
< 発災施設の概要 >
■ 施設はフランスのレスピナスにある石油貯蔵タンク基地である。基地は1972年に操業を開始し、当時の従業員数は9名だった。現場は、レスピナスの北方に位置し、ガロンヌ川と並行に流れている運河の間にあり、西に鉄道、東に国道RN20高速道路がある。施設はセベソ指令に基づいており、セーフティ・レポート(安全報告)の提示を行う条件になっている。

■ 施設には9基のタンクがあり、固定屋根または内部浮き屋根付きの固定屋根のいずれかであった。石油製品は鉄道で供給され、そしてトラックで出荷される。施設の許可容量は約57,000KLである。
                 レスピナス石油基地付近(発災前)   (写真はImpel.euから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 事故のあった対象タンクは容量5,000KLで、1991年に建設された。タンクの型式は内部浮き屋根付きの固定屋根タンクだった。事故当時、タンクは清掃作業中だった。タンクは、通常、プレミアム・ガソリンを貯蔵していたが、事故当日は空だった。

■ 清掃作業は外部の請負会社の作業員によって実施されており、残留していた沈殿物を除去するため、タンク底部のこすり落とし作業をしていた。タンクの浮き屋根部は約1.2mの高さところにあった。この場合、作業スペースとしては限界だった。 

■ 2001年2月20日午後4時頃、爆発が起った。タンク内には請負会社の作業員が2名おり、重傷を負った。ふたりは自力でタンクから出てくることができたが、救急隊が到着した後、病院へ搬送された。ふたりとも火傷を負ったが、特にひとりは重度だった。

■タンクは完全に壊れていた。タンク基地は約2か月間操業が停止された。事故に伴うドミノ効果は生じなかった。

事故による被害
人の被害
 ● 請負会社の作業員2名が重傷を負った。

経済的損失
 事故に伴う損失費用はつぎのとおりである。
 ● 施設の被害額    100万ユーロ(130百万円)
 ● 操業損失           60万ユーロ( 78百万円)
 ● 解体作業費用     20万ユーロ(  26百万円)

欧州基準による産業事故の規模
■  1994年2月、セベソ指令を司るEU加盟国管轄庁の委員会は、事故の規模を特定するために18項目のパラメーターを用いる評価基準を適用した。わかっている情報をもとに検討された結果、当該事故は4つの分類項目に対してつぎのように評価された。

■ 爆発の影響が会社構内に限定されたので、「危険物質の放出」はレベル1と評価された。
 爆発によって請負会社の作業員2名が重傷を負う被害が出たので、「人および社会への影響」はレベル2と評価された。
 事故に伴う物質的な損害が120万ユーロ(156百万円)にのぼったので、「経済損失」はレベル2と評価された。
 環境に関して目に見える被害が出なかったので、「環境への影響」は評価されなかった。

< 事故の原因 >
■ 事故の起きたタンクには、マンホールが1箇所しかなかった。清掃工事はつぎのような状況下にあった。
 ● ベントはすべて開ではなかった。
 ● 燃料のベーパー分を排除するための換気装置は、入槽に邪魔になるため、停止されていた。
 ● 可燃性ガス濃度がLEL(爆発下限界:Lower Explosive Limit)の10%未満になる前に、作業が開始された。

■ 好ましい状態でないスペースの中で、作業員が動くには限界だった。

■ 引火源として作業員の工具類(金属製スクレーパー、靴底のピン、金属製フックなど)だった可能性が高い。爆発性雰囲気の中では、これらのいずれかが引火源となって、爆発が起ったものとみられる。

< 対 応 >
■ 事業者は、社内の緊急事態対応計画に基づいて行動した。消防隊が現場に到着し、45分後には事故を制圧した。近くを走っている高速道路の通行は2・3分止まっただけだった。

■ 事故当日に現場への立入りを行った類別施設検査官の提案では、操業を再開する前に、つぎのような緊急措置を実施することを要請するという長官の意向を伝えた。
 ● 事故の正確な原因と状況の検討
 ● 今回のような事象の再発を防止するための方法の決定
 ● 隣接設備を含め関連設備の安全性の確認

< 改善策 >
■ 事業者は、当該施設に対して、つぎのような事故の再発防止策をとった。
 ● 石油タンクの内部におけるメンテナンスおよび作業に関する手続きの見直し
    ○ 現場への立入りおよびタンク内への入槽の許可方法を見直した。 (一概にタンクと
      言っても、すべてのタンクが設備状況に関して同一というわけでなく、作業前の事前確認
      の方法について見直された)
    ○ 清掃作業・ガス除去作業(デガッシング)は、基地のマネージャーまたは代理者による
      承認後に、実施する。
    ○ タンク内でメンテナンスや作業を実施する前に、基準で規定されたベーパー濃度に
      なってこと。(推測の禁止)
    ○ 換気方法について、配管接続部の開放、バルブの取外し、ほかのマンホール部の
      開放などを 行うという改善
    ○ 開放期間中は強制換気を実施
 ● タンクのメンテナンスや作業を実施する外部請負者の安全優先を基本とする考え方の徹底

< 教 訓 >
■ 事故を受けて、フランス石油化学工業協会はワーキンググループを設け、新たなルールを策定した。このルールをもとに「石油製品供給ターミナルのための安全指針」という冊子を作り、内部浮き屋根を有する固定屋根のガス除去作業時に適用するようにした。その概要はつぎのとおりである。
 ● ベーパー濃度を低レベルまで排除すること、できれば強制換気が望ましい。
 ● 毎時必要換気回数を2回とし、換気のための流入速度は20m/s以上とする。
 ● 圧縮空気用電源設備は、コンジット装備とし、タンク構造物とともに接地設備を有するものとする。
 ● 屋根部および浮き屋根部は開放系になっていること。
 ● 自給式呼吸器を使用した作業は許可制とする。ただし、気温が低く、爆発下限界(LEL)が10%未満であること。
 ● ガス検知器での測定は計測場所に十分留意すること。(スラリーより30cm上方、マンホールから遠い所など)

■ まとめると、対象空間における個々の安全性は、火気許可のための基準書などを用いて、作業エリアの空気条件の確認を適切に行うことによって確保されるということである。作業の行われている期間中、作業環境についてモニタリングを行い、管理されている状態にしなければならない。

補 足
■ 「レスピナス」(Lespinasse)は、フランス南西部のオートガロンヌ県(Haute-Garonne)にあり、人口約2,400人の町である。

■ 発災のあった石油貯蔵タンク基地は、トタール社(Total)の「レスピナス石油基地」(Dépôt pétrolier de Lespinasse)である。同社のウェブサイトによると、現在の総貯蔵能力は54,700KLとなっている。当時、施設のタンク基数は9基となっているが、グーグルマップによると、現在も9基のタンクを保有している。タンク直径が44m×1基、28m×1基、22m×1基、19m×3基、16m×2基、14m×1基の計9基であるので、25,000KL級×1基、10,000KL級×1基、5,000KL級×1基、3,000KL級×3基、2,500Kl級×2基、2,000KL級×1基のタンク基地である。総貯蔵能力は56,000KL級となり、本資料に記載されている57,000KLと符号する。なお、 5,000KL級タンクとみられる跡地があり、爆発で損壊した5,000KLタンクが撤去され、別なエリアに新たに1基追加したものとみられる。
                       現在のレスピナス石油基地     (写真はグーグルマップから引用)
■  「フランス環境省 : ARIA」(French Ministry of Environment : Analysis, Research and Information on Accidents)は、フランス環境省(現:フランスエコロジー・持続可能開発・エネルギー省 French Ministry of Ecology, Sustainable Development and Energy)がフランスにおいて発生した事故について情報を共有化し、今後に活用するため、1992年から始めた事故の分析・研究・情報のデータベースである。有用な海外事故も対象にしている。

所 感
■ 工事中のタンク事故は多い。「貯蔵タンク事故の研究」によると、1960〜2003年までの43年間に起こった242件の貯蔵タンク事故のうち、原因が保全・工事の事故件数は32件と全体の13%に相当する。原因別の割合では、落雷(80件:33%)に次いで2番目に多い。タンクの工事中における人身事故が減らないことから、米国CSB(化学物質安全性委員会)は安全資料「タンク内外の火気工事における人身事故を防ぐ7つの教訓」(2010年2月)をまとめている。
 
■ 今回の事故は換気不足が原因で10年以上前に起った事例であるが、米国CSBがまとめた安全資料の中でも、「たとえ作業エリアが可燃性雰囲気の予想されない場合でも、火気工事前と工事中には、正しく校正されたガス検知器で作業エリアの可燃性ガスをモニタリングすること」ということが教訓のひとつに挙げられている。そして、タンク型式が違うが、2012年には、日本において「たとえ作業エリアが可燃性雰囲気の予想されない場合」に該当するような事例「太陽石油の球形タンク工事中火災」が起こっている。事故に古い、新しいはないと感じる。

■ 今回の事例の中で、興味ある事項は「教訓」に述べられている「毎時必要換気回数を2回とする」ことである。工事前(中)のタンクの換気に関して定量的に毎時の必要換気回数について言及しているものはない。屋内での塗装工事などにおける必要換気をもとに設定したものと思われるが、ひとつの参考データである。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Aria.development-durable.gouv.fr, Explosion of a hydrocarbon storage tank, 20 February, 2001,  Lespinasse ,  France,  DPPR / SEI / BARPI - No. 19979 , Sheet updated: October 2006 
   ・ Impel.eu, Lessons Learnt from  Industrial Accident,  Classified installations / IMPEL inspectors, Meeting – Bordeaux, June, the 11th and 12th, 2002



後 記: 最近、タンク関連の事故が続いていましたが、落ち着いたようですので、再び、ARIAの資料による事故情報を紹介しました。今回の事故では、爆発によってタンクが完全に損壊しましたが、グーグルマップによると、タンクを解体したらしい跡地には何も立っていません。事故の跡地に再びタンクを設置する気持ちにはならないのでしょう。このように事故のあったタンク跡地をそのままにしている例は他にも見ます。人間のゲンかつぎの意識は国が変わっても同じなのでしょうかね。(意外にドライで、単にタンク再建の工期短縮が理由だったりするかもしれませんが)
 それにしても、インターネットの検索能力は素晴らしいと思います。ARIA資料では会社名が書かれていませんが、検索していくと会社名までたどり着きました。事故の教訓が大事で、会社がわかっても大きな意義はありません。ある面、自己満足ではありますが、文章に「不明です」と書かなくても済むので、気持ちはすっきりしますね。


2015年9月16日水曜日

米国アリゾナ州の再生油工場の貯蔵施設で火災・爆発

 今回は、2015年9月9日、米国アリゾナ州フェニックスにあるSRCオイル・アンド・フューエル社の再生油工場の貯蔵施設で起った火災・爆発事故を紹介します。
(写真は12news.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国アリゾナ州フェニックスにあるSRCオイル・アンド・フューエル社(SRC Oil and Fuel LLC)の再生油工場である。取扱い液として使用済みのモーターオイルやブレーキオイルのほか、廃ガソリン、廃溶剤、廃ディーゼル燃料などいろいろなオイルを再生している。

■ 発災は、フェニックスのブロードウェイ道路沿いにある再生油工場の貯蔵施設で起った。貯蔵施設には、55ガロン(200リットル)ドラム缶および4,000ガロン(15KL)タンクがあった。ドラム缶にはいろいろな油種が入っており、4,000ガロンタンクはモーターオイルだったとみられる。
             フェニックス南部の下町付近  (矢印が発災場所)
(写真はグーグルマップから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2015年9月9日(水)午後1時45分頃、フェニックスのブロードウェイ道路沿いにあるSRCオイル・アンド・フューエル社再生油工場で火災が発生した。フェニックスの下町に大きな黒煙の柱が立ち昇った。黒煙はかなり遠くの場所からも見えた。

■ 発災の通報を受け、フェニックス消防署の消防隊が出動した。出動した隊の中には、 HazMat(化学機動隊)もいた。火災規模を示すカテゴリーはスリー・アラーム・ファイヤー(Three-Alarm Fire)だった。

■ 火災の最中に爆発が起った。近くの事務所で働くマーク・フォルティさんは、「大きな爆発があったとき、体に熱を感じました。こんな体験は初めてです。実際、恐ろしかったね」と語っている。従業員は、発災後、直ちに貯蔵施設エリアから避難し、無事だった。爆発の瞬間をとらえた映像が、YouTube 「Crews battling fire, explosions at propane tank farm」に投稿されている。

■ フェニックス消防署のラリー・スーバヴィ署長によると、複数の貯蔵タンクを巻き込んだ火災になり、早い段階で全部で100名ほどの人の避難を実施したという。モーターオイルや部品洗浄用の再生溶剤などが保管されていた貯蔵エリアで何度も爆発があり、ドラム缶が発射体のように空に打ち上げられ、1個は消防隊のすぐ近くに落下したという。初期情報では、プロパンタンクの火災という話もあった。

■ 施設内のドラム缶やタンクに貯蔵されていた燃焼性のオイルによって火炎は猛威をふるった。爆発は55ガロンドラム缶が熱せられて起ったものとみられる。このような状況時には、ホースによる放水は荒れ狂う火炎に対して効果がないように見えた。すすで真っ黒になって火炎になめられているドラム缶やタンクがあれば、爆発の大きな力で破壊され、バラバラになっているものもあった。爆発は約30回ほどあったという。消防隊はたゆまぬ努力を続け、複数地点から放水銃で水をかけ続けた。発災から1時間を越えたあたりから、消防隊の努力の甲斐あって、燃え上がっていた設備まわりの火炎が弱まり始めた。

■ ゴミや泡薬剤を含んだ消火排水が道路の方へ勢いよく流れ出ており、消防隊は排水系統へ流れ込むのを阻止しようと努めた。火災との戦いの間には、濃い煙に阻まれてはしご車を後退させたときもあった。午後2時55分、火炎と煙の勢いが明らかに弱まり、消防隊は火災を制圧下に入れた。消火後も、しばらく施設には水を掛け続けた。

■  SRCオイル・アンド・フューエル社のマイケル・ヒランボーロさんは、発災後、「私どもは地元の人たちに知ってもらいたいのですが、今回、タンク群からオイルは流れ出なかったことです。消火放水などの状況をご覧になったでしょう」といい、施設の構造設計図を示しながら、「そのように作ったのです。このような設計にしていなければ、オイルはすべて道路へ流れ出たでしょう」と語った。
■ その日の午後の遅い時間に、消防隊は空気中の汚染の有無を調べ、施設の焼け跡にホットスポットがないか点検した。フェニックス消防当局は現場近くの雨水系を閉止し、ケミカルの汚染水が雨水系へ流入しないようにした。現場で作業していた消防士に聞いたところ、汚染水が火災現場から流れ出ることは阻止されているし、消防隊は米国環境保護庁(EPC)と共同で作業しているという。
(写真はRT.com から引用)
(写真はKTRA.com から引用)
被 害 
■ 事故に伴う負傷者は無かった。
■ 貯蔵施設にあった55ガロン(200リットル)ドラム缶や4,000ガロン(15KL)タンクの多くが火災によって損傷している。被災の程度や範囲はわかっていない。

< 事故の原因 >
■ 火災の原因について消防署から推定の話も出ておらず、原因は調査中である。
  (地元のアスファルト・プラントから炎が飛んできたとという話や、ディーゼル発電ボイラーから始まったという情報があるが、真偽は分からない)

■ なお、フェニックス消防署スーバヴィ署長によると、 過去、SRCオイル・アンド・フューエル社で火災になった事例はないという。

< 対 応 >
■ 火災発生の通報を受け、出動した消防隊の消防士は約50名だった。 HazMat(化学機動隊)は20名だった。火災カテゴリーはスリー・アラーム・ファイヤー(Three-Alarm Fire)として対応された。

■ 消防隊は複数地点から放水銃で水をかけ続けた。発災から1時間を越えたあたりから、燃え上がっていた設備まわりの火炎が弱まり始めた。発災から約1時間10分後の午後2時55分、火炎と煙の勢いが明らかに弱まり、消防隊は火災を制圧下に入れた。消火後も、しばらく施設には水を掛け続けた。

■ 鎮火後、消防隊は空気中の汚染の有無を調べ、施設の焼け跡にホットスポットがないか点検した。また、消防隊は現場近くの雨水系を閉止し、ケミカルの汚染水が雨水系へ流入しないようにした。フェニックス消防署と米国環境保護庁(EPC)は共同で作業した。
(写真は12news.comから引用)
(写真は12news.comから引用)
(写真は12news.comから引用)
(写真は12news.comから引用)

(写真は12news.comから引用)
補 足 
■ 「アリゾナ州」は米国南西部にあり、人口は約673万人である。銅と綿花の生産で発展したが、1990年代に入ってからハイテク産業の一大拠点となっており、カリフォルニア州からの企業流入が多いといわれている。マリコパ郡にある 「フェニックス」が州都であり、人口約145万人のアリゾナ州最大都市である。
 なお、アリゾナ州では、2013年6月、州都フェニックスから北に135km離れたヤーネルヒルで落雷とみられる山火事が発生し、広大な面積を焼失したほか、消火活動に参加した “ホットショット”と呼ばれるエリート消防士19人が死亡するという事故があった。この事故は当ブログ「米国アリゾナ州の山火事で消防士19名死亡」で紹介した。
(写真はグーグルマップから引用)
■ 「SRCオイル・アンド・フューエル社」(SRC Oil and Fuel LLC)は、廃モーターオイル、廃ガソリン、廃溶剤、廃ディーゼル燃料などいろいろな廃油を再生する工場で、フェニックスを拠点として25年以上操業している。開設しているウェブサイトでは、施設能力や貯蔵能力についての記載がなく、詳細は分からない。
 なお、当ブログで再生油工場の事故情報として紹介したのは、2013年11月に起った「千葉県野田市の廃油処理施設の爆発事故」(2015年4月投稿)がある。
フェニックスのSRCオイル・アンド・フューエル社付近(発災前)
(写真はグーグルマップから引用)
SRCオイル・アンド・フューエル社の貯蔵施設エリア(発災前)
(写真はグーグルマップから引用)
所 感 
■ 発災源が特定されていないため、原因を推測しようがない。発災映像では、かなり激しい堤内火災の様相を呈しているように見える。しかし、燃焼時間は約1時間10分で、爆発を伴う火災としては比較的短い時間で消火に至っている。おそらく、ドラム缶から漏れた液による堤内火災が主で、漏洩量はそれほど多くなかったものと思われる。溶剤またはガソリンの入ったドラム缶が火炎の熱で爆発して、飛翔したものと見られるが、ほかのタンクを損傷させることが少なく、災害の規模が最小限にとどまったとみられる。

■ 消火活動としては、3つの戦略である「積極的(オフェンシブ)戦略」、「防御的(ディフェンシブ)戦略」、「不介入戦略」のうち、積極的戦略というより防御的戦略をとったように思う。映像によると、貯蔵施設エリアには、タンクやドラム缶のほかいろいろな構造物が輻輳しており、泡で覆い尽くすことが難しく、水による冷却を主にしたものと思われる。その理由としては、燃焼物の量(漏洩量)がそれほど多くないことと、ドラム缶が突然爆発するような状況では、火炎に接近することができないので、遠くからの泡放射では、泡が吹き飛び、効果がないと判断したと思う。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
   ・12News.com,  Crews Battle Fire, Explosions at Propane Tank Farm,  September 09, 2015  
    ・RT.com,  Explosions Reported as ‘Hazardous Material’ Fire Rages in Phoenix,  September 09, 2015
    ・KTAR.com,  Storage Yard Fire Sends Plume of Smoke over Phoenix,  September 09, 2015   
    ・ABC15.com,  Tanks with Motor Oil Explode in South Phoenix, Business Says It Could Have Been Worse,  September 10, 2015
    ・Azfamily.com,  Motor-oil Drums Explode in Huge Industrial Fire South of Downtown Phoenix,  September 10, 2015



後 記: 今回の事例は、情報が速報レベルで正確性に欠けるものでした。プロパンタンクという話はともかく、燃焼している再生油の油種さえはっきりしません。情報では、モーターオイルやブレーキオイルというのが多かったのですが、再生油工場の取扱い油種や映像から判断して、もっと燃焼性の高い液と思われ、総合的に考えて本文のような表現にしました。アリゾナ州の州都で起った事故ですので、もっとメディアに取り上げられてもよいように思いますが、意外に報じたメディアは少なく、発災翌日を過ぎると、情報が出てくることはありませんでした。米国では、けが人が無く、住民への影響がなく、環境汚染の問題がなければ、大きく扱わないので、これが限度だろうとあきらめざるを得ませんでした。