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2015年7月25日土曜日

中国 山東省の液化石油ガスタンク群で爆発・火災

 今回は、2015年7月16日、中国山東省日照市にある山東石大科技石化の石油タンク地区にあった液化石油ガス貯蔵用球形タンクが爆発・火災を起こした事例を紹介します。
(写真はSplash24から引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、中国山東省(さんとう省)の日照市(にっしょう市)嵐山区にある山東石大科技石化有限公司の工場である。山東石大科技石化の日照市の工場には、石油精製、石油化学などのプラントがある。

■ 発災したのは、石油タンク地区の液化石油ガスの貯蔵用球形タンクである。液化石油ガスタンク区域には、容量2,000m3 の球形タンク3基、容量1,000m3の球形タンク9基の合計12基の球形タンクがあった。
         山東省日照市の石大科技石化の工場付近 (中央の白い設備が球形タンク)
(写真はグーグルマップから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2015年7月16日(木)午前7時過ぎ、タンク地区にあった容量1,000m3の液化石油ガス貯蔵用球形タンクから可燃性ガスが漏洩し、午前7時40分頃に引火し、火災となった。

■ その後、爆発が発生し、午後2時までに4回の爆発が起った。施設内にあった4基の球形タンクが爆発したものとみられる。最初に爆発したタンクはプロパン用だったと報じられている。

■ 爆発が起こると巨大なファイヤーボールが現れ、その後にエリアを覆い尽くすような大きな黒煙が立ち上った。爆発の影響は、600m離れた建物の窓ガラスが割れるほどだった。

■ 発災に伴い、地元消防局のほか、近隣の青島市の消防隊も応援に駆けつけ、対応に当たった。

■ 火災は、約24時間続き、17日(金)午前7時20分過ぎに消えた。
(写真News.mydrivers.com から引用)
事故による被害
■ 爆発事故によって消防隊員2名が軽傷を負い、病院に搬送された。

■ 球形タンク地区にあった球形タンク12基のうち、爆発・火災によって9基の球形タンクおよび関連配管などが被災した。

■ 爆発の爆風力によって、構外の建物の窓ガラスが割れるなどの被害が出ている。被害の範囲や程度は不明である。

■ 爆発・火災に伴い、現場周辺の炭化水素(非メタン炭化水素)の濃度が基準値の2倍以上に上昇したため、タンクから半径2km以内の住民と従業員が避難した。

< 事故の原因 >
■ 液化石油ガス貯蔵用球形タンクから可燃性ガスが漏洩し、引火して火災となったことが、タンクの爆発の誘因である。

■ タンクからの漏洩原因は調査中である。

< 対 応 >
■ 発災に伴い、地元消防局が出動したほか、近隣の青島市の消防隊も応援に駆けつけ、対応に当たった。地元消防局は、消防士138名と消防車23台を出動させた。

■ 当日の夕方になっても火災を制圧できず、消火活動に当たっている消防隊は、消防士約300名、消防車両50台以上にのぼった。

■ その後、青島以外の近隣の市から消防隊が出動し、消火活動に消防士700名、消防車両118台、遠隔消火水供給システム4台が投入され、消火用の泡薬剤は224トンが準備された。

■ 火災は、約24時間後の17日(金)午前720分過ぎに消えた。

■ 山東石大科技石化は、7月21日(火)のウエブサイトで事故について声明を発表した。事故後の対応として、事故現場の状況を監視し、排水システムの監視を強化し、継続的な水冷、温度・圧力の計測を行うとともに、残存している液化石油ガスの抜き取りの処理を行うとしている。 7月24日(金)には、原因究明と対策を検討していくことを表明した。
(写真Usudknow.com から引用)
(写真はScmp.com から引用)
(写真Usudknow.comから引用)
(写真Dailymail.co.ukから引用)
(写真はDailymail.co.ukから引用)
(写真はPolitics.people.com から引用)
(写真はNtdtv.com.tw の動画から引用)
(写真はNews.hexun.com の動画から引用)
(写真Ntdtv.com.tw から引用)
補 足
■ 「山東省」(さんとう省/シャントン省)は、中華人民共和国の西部にある省で、北に渤海、東に黄海があり、黄河の下流に位置する。人口は約9,500万人、省都は済南で、他に青島、泰安などの主要都市がある。  「日照市」(にっしょう市/リーヂャオ市)は山東省南部に位置する地級市で、黄海の海州湾に面し、管轄地区人口約287万人、市区人口約28万人である。日照市は北海道室蘭市と国際交流の友好都市を締結している。
(図はKnak.jpから引用)
■ 石大科技石化有限公司」(通称「石大公司は、石油精製、石油化学、研究センター、大学を運営する産学一体の会社で、山東省日照市嵐山区の黄海に面した場所にある。
 日本では、発災事業所が「日照石油化学技術」、「日照石大科技石化」、「山東志田技術石油化学」という会社名で報じているものもあるが、山東石大科技石化のウェブサイトに今回の事故について掲載しているので、発災事業所は同社に間違いない。
石大科技石化の液化石油ガス球形タンク地区付近
(写真はグーグルマップから引用)
■ 液化石油ガス球形タンクの設置場所はグーグルマップで特定できた。大きい球形タンクは3基あり、直径約17mで、容量は2,000m3級である。小さい球形タンクが9基あり、直径約12mで、容量は1,000m3である。しかし、最初に爆発したタンクは特定できなかった。火災写真は少なくないが、撮影された時間や方向が分からず、2列の球形タンク群の真ん中当たりだと思われる。火災初期と見られる写真では、タンクの下部当たりから火炎が上がっており、タンク底部の割れあるいは配管部からの漏洩ではないだろうか。
 2011年3月11日に発生した東日本大震災時に起こったコスモ石油千葉製油所の液化石油ガスタンクの爆発・火災事故の発端は、支柱の折れた球形タンクが倒壊し、下敷きになった配管群が破断して液化石油ガスが漏洩・拡散したことである。この事故についてはつぎの資料を参照。

所 感
■ 今回の事故をみると、 2011年3月11日東日本大震災時に起こったコスモ石油の液化石油ガスタンクの爆発事故を思い出す。山東石大科技石化の事故とコスモ石油の事故は、双方ともファイヤーボールを発生する爆発であるが、コスモ石油の事故では、BLEVEにより球殻の裂けたタンクや倒壊したタンクが目立ったが、山東石大科技石化の事故では、倒壊したタンクはあるが、球殻の裂けたタンクは見られず、全体的に原型が残っている。爆発時の写真でも、地表を拡散した可燃性ガスが一気に爆発的な燃焼をしたような印象を受ける。爆発・火災の形成条件が違っているのかも知れない。しかし、液化石油ガス球形タンクの1基が火災を起こすと、つぎつぎに隣接のタンク群へ延焼(爆発)していく事故になる可能性は高いといえよう。

■ 液化石油ガスタンク火災の消火戦略は、「積極的戦略」ではなく、「防御的戦略」が基本である。火災状況によって危険性が高い場合は「不介入戦略・退避」をとる。今回の事故では、爆発が複数回起こっている割に、消防士2名の軽傷で済んでいる。消防士(車)がかなりタンクへ近づいて活動を行っている火災写真もあり、この点は信じられないことである。コスモ石油の事故時の証言には、「球形タンク安全弁の吹く音と普段聞き慣れない音がするのを確認、爆発のおそれを感じ、全員退避を指示」とあるので、今回も事前の兆候を感じて退避したのかもしれない。詳細は分からないが、消防活動としては妥当な消火戦略がとられたと思われる。

参 考
■ 消火戦略についてはつぎの資料を参照。
 ● 「東日本大震災時のLPGタンク火災・爆発事故における防災活動」(危険物保安協会機関紙「Safety & Tomorrow」2012年5月)


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
   ・News.TBS.co.jp, 中国の石油化学工場で爆発事故、消防隊員2人けが, July 16, 2015  
    ・Nstimes.com, 中国で石油タンクが爆発!ネット「テロ」か, July 16, 2015    
    ・Exite.co.jp,  山東省南部で液体水素タンク爆発、容量1000立方米が炎上, July 21, 2015   
    ・China-anzen.jugen.jp, 山東・日照の化学工場で爆発、住民ら避難, July 17, 2015
   ・Splash24/7,  Authorities Seed Clouds to Douse Giant Chemical Tank Explosion at Rizhao Port , July 16, 2015
    ・Dailymail.co.uk,  By-standers Scramble for Safety after Fuel Leak Fire Becomes Massive Explosion at Factory Leading to Mass Evacuation, July 16, 2015
    ・9news.com.au,  Firefighters Battling Massive Blaze Following Chinese Petrochemical Plant Explosion, July 16, 2015
    ・RT.com,  Huge Blaze after Blast Rocks Petrochemical Plant in E China, July 17, 2015
    ・Plastmart.com,  Fire Follows Explosion at Chinese Petrochemical Plant , July 17, 2015
    ・Telegraph.co.uk,  Footage Shows Moment Huge Explosion Rocks Petrochemical Plant in China, July 17, 2015
    ・Epochtimes.com,  山東一石化液化烴球罐連環爆炸 現場封鎖, July 17, 2015
    ・Macaodaily.com,  魯化工廠爆炸塌兩氣罐July 17,  2015
    ・Sdkjrz.cn,  公司全力处置球罐区泄漏燃爆事故July 21,  2015



後 記: 「フランスに続いて中国!」という見出しがつくような衝撃的なタンク火災が7月に続いて起こりました。中国に関する事故情報は正確性に疑問のある記事が多く、全体を把握するのに整理が必要です。まず、発災事業所(名称)を特定するのにいろいろ調べることになります。 今回、初めて「中国安全情報局」が日本語で安全に関する情報をインターネットで配信していることを知りましたが、今回の事故情報(中国報道を引用する形ですが)も報じており、正確な会社名に比較的早くたどり着きました。

 ところで、今年の世界遺産では、石の文化が強いという気がしました。九州の炭鉱跡が登録されましたし、山口県でも萩反射炉(レンガ造り)、造船所跡(石積み護岸)が登録されました。それに比べ、石油施設は可哀想なものです。地元周南市(旧徳山)では、戦前に海軍燃料廠がありましたが、完全に取り壊され、跡地に出光徳山製油所が建設されました。日本経済への貢献という点では、反射炉や造船所と比べものにならないほど、当時は最先端のプラントでした。しかし、その徳山製油所も閉鎖され、精製プラントも多くが解体されました。日本遺産(?)の話も無く、今また旧徳山製油所佐保充填所跡地にゆめタウン(スーパーマーケット)の建設が8月から始まる予定です。おそらく、門の表札もいずれ金属スクラップとして処理され、無くなるでしょう。



2015年7月20日月曜日

フランスの製油所で仕掛けられた爆弾によってタンク火災

 今回は、2015年7月14日、フランスのベールレタンにあるリヨンデルバゼル社の製油所にあるタンクに爆弾が仕掛けられて、石油貯蔵タンク2基が火災となった事例を紹介します。
(写真Telegraph.co.ukから引用)
< 製油所の概要 >
■ 事故のあった製油所は、フランス南東部マルセイユ近郊のベールレタンにあるリヨンデルバゼル社所有の工場である。リヨンデルバゼル社(LyondellBasell Industries)はオランダの化学大手企業で、ニューヨーク株式市場に上場し、従業員11,000人を擁して世界的に展開する会社である。リヨンデルバゼル社は、2007年にバセル社(Basell)とリヨンデル社(Lyondell Chemical)が合併して誕生した。
 ベールレタンの製油所はマルセイユ空港の近くにあり、 1929年に建設され、2008年にロイヤル・ダッチ・シェルからリヨンデルバゼル社が取得した。石油化学プラントの一つとして精製能力80,000バレル/日の製油所を有し、従業員は約1,000名で、請負会社の社員が同じほどの人数いる。

■ 発災のあったのは、製油所のタンク地区にある貯蔵タンクである。
         ベールレタン付近(中央上部が発災のあったタンク地区) (写真はグーグルマップから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2015年7月14日(火)午前3時、フランスの革命記念日であるパリ祭の日に、製油所のタンク地区にある2基の貯蔵タンクで同時に爆発があり、火災が発生した。発災のあった貯蔵タンクはガソリン用とナフサ用で、これらの2基のタンクは互いに500mほど離れていた。2基のタンクとも、ほぼ満杯の状態だった。

■ フランスで2番目に大都市近郊の空には、巨大な煙の柱が立ち、炎は数km先からも見ることができた。黒煙は、北西の風に乗って、マリグナネ、レ・ペンヌ=ミラボー、サン=ヴィクトレの町の方へ広がっていった。

■ 火災の発生に伴い、消防署の消防隊が出動した。ガソリン貯蔵タンクの火災は比較的早く消すことができた。鎮火時間は午前6時30分頃とみられる。ナフサ貯蔵タンクの火災には手こずった。当初は、製油所の自衛消防隊によって消火活動が行われていたが、公設消防隊による消火活動が必要となった。公設消防隊は液面上に“泡による巨大カーペット”を放射した。ナフサタンク火災は14日午前中まで数時間にわたって燃え、その後、消火された。鎮火時間は午前10時30分頃とみられる。

■ 「互いに500mほど離れているタンクで同時に爆発があったということは、技術的な問題による事故とは考えにくい。犯罪の意図がはっきり感じられる」とリヨンデルバゼル社の関係者は語っている。

■ 7月15日(水)に爆発・火災現場で、起爆装置とみられる電子機器が見つかった。

被 害
■ 被災したのは、ガソリン貯蔵タンクとナフサ貯蔵タンクの2基である。燃焼した油の量は数千KLとみられる。

■ 事故後の調査で、発災タンクにあった起爆装置とみられる電子機器と同様の機器が、別な3番目のタンクで見つかった。これは爆破に失敗したものとみられている。

■ 爆発・火災に伴う、死者や負傷者は出ていない。

■ 発災現場から立ち昇る印象的な巨大な煙がはっきりと見え、地元ラジオでは、発災現場から半径1.5km以内のエリアでは大気汚染の恐れがあると報じた。地元当局は、人の健康にただちに影響することはないと語った。

■ 近くにあるマルセイユ空港の旅客機発着に支障は出ていないという。マルセイユ空港は事故のあったベールレタンの町から11.5kmしか離れておらず、フランスで5番目に発着数の多い空港である。

■ 製油所の操業には影響せず、製油所施設は通常どおり運転している。
(写真はBBC.com から引用)
(写真はTelegraph.co.uk から引用)
(写真はBBC.com の動画から引用)
(写真はBouches-du-rhone.gouv.fr から引用)
< 事故の原因 >
■ 2基の貯蔵タンクの爆発・火災の原因について、警察は犯罪行為による可能性が高いとみている。

■ 7月15日(水)に爆発・火災現場で、起爆装置とみられる電子機器が見つかった。現場には、事件に関連するとみられる不審物が残されていたが、損傷が激しいという。

■ 検察官は、電子機器と同様の機器が別な3番目のタンクで見つかったことを明らかにした。また、タンク近傍の外周フェンスに穴が開いているのが見つかっており、こちらも捜査が進められている。

■ 事件の1週間ほど前に、製油所から30kmほど離れたミラマの軍事施設でプラスチック爆弾、起爆装置、手りゅう弾が盗まれる事件が起きており、テロ対策当局が調べているという。
プラスチック爆弾と起爆装置の盗難があった軍事施設
(切断されたフェンスの前にいる警察車両)
(写真はTelegraph.co.ukから引用)
< 対 応 >
■ 発災に伴い、消防署は120名の消防隊と50台の消防車を現場に出動させた。

■ 当局によると、消防隊は町や地元に火災活動による汚染の影響を防止するため、特別な方法である「予防ダム」をとったという。この予防ダムは消火用水と関係する炭化水素汚染を防止するため、工場近くの町に設置された。

■ ガソリン貯蔵タンクの火災は比較的早く消すことができ、鎮火時間は午前6時30分頃とみられる。

■ ナフサ貯蔵タンクの火災には手こずった。当初は、製油所の自衛消防隊による消火活動が行われていたが、公設消防隊による消火活動が必要となり、液面上に“泡による巨大カーペット”を放射する消火活動が行なわれた。ナフサタンク火災は午前中半ばまで燃え、その後、消火された。鎮火時間は午前10時30分頃とみられる。

■ 英国BBCは、カスヌーブ氏の談として、フランス全土には危険性物質を扱っている施設が1,100箇所ほどあり、セキュリティを強化する必要があると報じた。

補 足
■ ベールレタン(Berre-l‘Etang)はブーシュ・デュ・ローヌ(Bouche du Rhone)県にあり、フランスで2番目の大都市であるマルセイユ(Marseille)の北方約20kmにある。
(図はグーグルマップから引用)
■ 発災したナフサ貯蔵タンクは火災写真から場所が特定でき、タンク地区の中央部にある直径約60mの浮き屋根式タンクである。貯蔵容量は50,000KL級と思われる。一方、ナフサ貯蔵タンクから500m離れた位置にあるタンクは南側に何基か見られる。火災になったのはガソリン貯蔵用であり、浮き屋根式と思われるので、西端にあるタンク2基のいずれかと思われる。この2基のタンクは、直径が約35mと約32mであり、10,000KL級と思われる。
発災のナフサ貯蔵タンクと半径500mの円
(写真はグーグルマップから引用)
直径32m35mの浮き屋根式タンク           発災のナフサ貯蔵タンク(直径約60m
(写真はグーグルマップから引用)
■ ナフサ貯蔵タンクの火災を火災写真で見ると、全面火災ではなく、リムシール火災から屋根火災に近いものと思われる。爆弾は、タンク下部でなく、屋根上に仕掛けられたものと思われる。爆破によってどのような損傷があったのか情報はない。被災程度としては激しいものではないと思われるが、浮き屋根上にナフサが漏れ出た可能性は高い。

■ ナフサタンク火災の消火活動は、公設消防隊による液面上に“泡による巨大カーペット”(Massive Carpet of Foam)を放射する戦術がとられたと報じられている。断定はできないが、これは大容量泡放射砲によるもの思われる。欧州の大容量泡放射は、米国のフットプリント方式などと異なり、泡放射量10L/㎡/min以上でタンク側板に沿って投入する方法をとる。直径60mのタンクでは、28,300L/minの放射能力を有する泡モニターが必要である。複数台の大型化学消防車(スクワート車)による一斉放射では、10台分に相当し、消防車の配置上難しい。おそらく、大容量泡放射砲によって消火させたものと思われる。

■ 火災活動に入る前に特別な「予防ダム」をとったと報じられており、大量の消火排水による地表水系への汚染防止のために構築された仮設堤と思われるが、実態はよく分からない。

所 感
■ テロ攻撃や戦争行為によるタンク火災は少なくない。このブログで紹介した「貯蔵タンクの事例研究」(2011年8月)によると、1960年~2003年までに起こった242件のタンク事故のうち、「故意の過失」は5番目に多い原因で18件を数え、うち15件がテロ攻撃または戦争行為である。最近でも、つぎのような事例がある。
 これまでは、政情の不安定な国でロケット弾、迫撃砲、手りゅう弾といった戦闘行為によるものだったが、今回の事例はフランスという先進国で、起爆装置を使った悪質な犯罪行為である。明らかに世の中の動きが変わって来ているという印象の事例である。

■ 一方、報を聞いて感じたのは、製油所のセキュリティの甘さである。フランス国内でもテロ事件が続く中で、フェンスを破って複数のタンクに爆弾を仕掛けられている。工場の正門に「テロ対策中」という看板が掛かっていたかどうかは分からないが、所内ではテロへの警戒心はあっただろう。それがいとも簡単に破られている。
 しかし、このようなセキュリティの弱点を有する事業所は、リヨンデルバゼル社のベールレタン製油所だけに限ったものではないだろう。テロリストや悪質な犯罪者が意図をもって攻撃する可能性のあることを前提に、施設のセキュリティを考えなければならない。先進国のフランスで起きており、日本では起こらないという保証はどこにもないのである。

参 考
■ 日本人が巻き込まれたテロ攻撃の悲惨な例として、2012年のアルジェリア人質事件がある。この世界的に注目された事件の情報の中から、プラントの警備に関する事項をブログで紹介したことがある。今回のような犯罪行為やテロ攻撃を念頭にして読むと、セキュリティを考える参考になろう。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
      ・UK.Reuters.com,  Criminal Intent Seen in Petrochemical Fire on French Bastille Day,  July  14,  2015
      ・Telegraph.co.uk,  Two Blasts in French Chemical Plant Caused by Malicious Act,  July  14,  2015
      ・RT.com,  2 Blasts Rock Oil Refinery in Southern France 10km from Marseille Airport,  July  14,  2015
      ・BBC.com,  France Explosions: Devices Found near Berre-L’Etang Plant,  July  15,  2015
      ・Breithart.com,  There Was a Significant Terrorist Attack in France This Week and The Mainstream Media Hasn’t even Bothered Telling You,  July  15,  2015
      ・RT.com,  France Blasts:  Foul Play Suspected as Electronic Device Found at The Scene,  July  15,  2015
      ・News.NNA.jp,  マルセイユ近郊の製油所爆発、起爆装置発見,  July  16,  2015
      ・Mainichi.jp,フランス:マルセイユ近郊の工場 薬品タンク二つ同時爆発,  July  16,  2015
      ・Tokyo-np.co.jp, 仏工場で同時爆発 現場近くで起爆装置?発見,  July  16,  2015
      ・Chunichi.co.jp,仏南部の工場で同時爆発 発火装置?発見,  July  16,  2015



後 記: 以前、日本中に散見する「テロ対策中」という看板は抑止力にはなるだろうと皮肉めいたことを言いましたが、プラントやタンク施設へのテロ攻撃の恐れが現実味を帯びてきた時代になったと思います。マーフィの法則(「起こる可能性のあることは、いつか実際に起こる」)を感じざるを得ません。最近では、ドローンという新しい機器を警備の対象として考えなければならなくなりました。対策としてドローン対ドローンという漫画なような話も笑っておられませんね。
 フランス政府は、今回の事件について「テロ」という言葉を使うには早いといっています。(メディアの中には「テロ」という言葉を使っていましたが) 「テロ」の定義はともかく、今回、爆弾が大きなタンク損傷に至らなかったので、大火災にならず、消火することができました。幸いといってよいでしょう。どこに仕掛けたのだろうか、一番の弱点はどこだろうなどと詰まらない(?)ことを想像しながら、まとめました。

2015年7月12日日曜日

中国南京市の製油所装置の爆発によって貯蔵タンクへ延焼(2014年)

 今回は、2014年6月9日、中国江蘇省南京市にある中国石油化工揚子江石油化学の製油所の硫黄回収装置で起った爆発によって近くにあった貯蔵タンクが延焼した事故を紹介します。
(写真はXinhaunet.com  から引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、中国江蘇省(こうそしょう)の省都である南京市(なんきんし)にある中国石油化工揚子江石油化学(Sinopec Yangzi Petrochemical Co.)の製油所である。
 SINOPEC揚子江石油化学はSINOPEC(中国石油化工)の子会社で、原油処理能力は900万トン/年、エチレンの生産能力は65万トン/年である。
 
■ 発災したのは製油所の硫黄回収装置で、近くにはケミカル貯蔵タンクと原油貯蔵タンクが設置されていた。
                                   江蘇省南京市の化学工業地域付近    (写真はグーグルマップから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2014年6月9日(月)午後12時40分頃、製油所で引き裂くような爆発が起った。爆発があったのは、製油所の硫黄回収装置とみられている。

■ この爆発によって、近くにあったケミカル貯蔵タンク3基と、ほかに原油貯蔵タンク1基が火災になった。プラントまわりの大気中には、鼻を刺激するような臭気が充満していた。
 (情報の中には、「近くにあった8基の原油タンクのうち3基が倒れるように傾き、火災になった」というのがあるが、真偽が分からない)

■ 火災発生に伴い、消防署が現場に出動し、消防ホースを展張して消火活動を行なった。

■ 9日午後4時20分頃に、火災は制圧されたかにみえた。なお、隣接するタンクの冷却は継続して行なわれた。

■ しかし、数時間後、タンク内の燃焼性物質に引火し、再び、炎が舞い上がった。10日(火)朝の時点でも、火災は続いていた。製油所の関係者によると、再燃したのは、タンク内の燃焼性物質の化学反応によって燃え上がったという情報もある。
(その後、時間は不明だが、鎮火したとみられる)

事故による被害
■ 事故に伴う負傷者は報告されていない。

■ 南京市環境保護局によると、事故によって硫化水素が大気中に放出されたが、環境調査結果では、この地区の毒性ガスレベルは国内基準値以内だったという。爆発事故による水質汚染への影響は無かった。

< 事故の原因 >
■ 地方政府の合同チームによる原因調査を開始したと報じられたが、その後の情報はわからない。

< 対 応 >
■ 事故に伴い、地元の10箇所の消防署が出動した。当初、出動した防士は100名を超していた。その後、消火活動に従事した消防士はおよそ200名で、出動した消防車は20台に達した。
(写真はEconomictimes.indiatimes.com から引用)
(写真はScmp.com から引用)
(写真はScmp.comから引用)
補 足
■ 「江蘇省」 (チャンスー ション/こうそしょう)は、中国東部にあり、人口約7,800万人の省である。江蘇省は長江の河口域であり、黄海に面している。
 「南京」(ナンジン/なんきん)は、江蘇省の西に位置する省都で、人口約335万人の中華人民共和国の副省級市である。

■ 硫黄回収装置は、気体状の硫化水素から単体硫黄を生産する工業プロセスである。原料の硫化水素には、水素化脱硫装置や合成ガス製造装置の副生物のガスを使用することが多い。これらの装置では、反応によって生じた硫化水素を主成分とする酸性ガスを、アミン水溶液を用いて吸収分離して高濃度の硫化水素を含むガスを生成する。硫化水素を25%以上含むガスであれば、硫黄回収装置の原料ガスとして使用できる。
 硫黄回収装置は熱反応部と触媒反応部からなる。熱反応部では、850℃を超える温度で原料ガスを燃焼する。触媒反応部では、加熱、触媒反応、凝縮を順次行う。凝縮によって生成した液体硫黄は、溶け込んでいる硫化水素などのガス分を脱ガス設備で除去してから後工程を経て製品となる。
 硫黄回収装置の火災事故としては、つぎのような事例がある。
  ● 2007年1月、「第20硫黄回収装置 反応炉火災事故」(PEC-SAFER)

■ 発災タンクの仕様は分からない。発災写真によると、座屈したタンクがみえるが、火災の熱による座屈とは異なる状況であり、一部の情報として「3基のタンクが倒れるように傾き、火災になった」という話があり、爆風による影響が考えられないこともない。

所 感
■ 発災は、製油所の硫黄回収装置において何らかな要因でガス爆発が起こり、近くにあったタンクに引火したものと思われる。このところ、中国では、化学プラントのプロセス装置の爆発によって貯蔵タンクへの延焼事故が起こっている。
 しかし、1年前に、同様にプロセス装置の爆発によって貯蔵タンクへの延焼事故が起こっていたことになる。かなり大きな爆発が起ったものと推測できるが、貯蔵タンクまで巻き込むのは、装置の配置あるいは貯蔵タンクの配置に問題があるのではないだろうか。

■ 複数のタンク火災で、しかも内容物が違っており、消火活動としては難しい条件ではあっただろう。しかし、一端、火災を制圧したとみられた後、再燃させてしまっており、この点では消火活動として失敗である。タンクが倒壊あるいは座屈した場合、障害物に隠れたところのダメ押しが不足したためと思われる。このような配慮事項はなかなか経験することはできないので、過去の事例から疑似体験するしかない。

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
   ・Xinhuanet.com, Explosion Rips Through Refinery in East China,  June 06, 2014  
    ・Tus.fire.com, China Fire out in East China Refinery,  June 09, 2014   
    ・Apimages.com, China Jiangsu Nanjing Oil Refinery Blaze,  June 09, 2014   
    ・Chinadaily.com.cn, Fire Reignites at Eest China Refinery,  June 10, 2014
    ・Scpm.com, Blaze Strikes Nanjing State Oil Refinery for The Second Time in Hours after Initial Blast,  June 10,  2014
    ・Ogj.com, Investigation under Way into Chinese Plant Explosion,  June 13,  2014



後 記: 今回の事例は、実は事故の起った昨年(2014年)にキャッチできていなかった事例です。今年(2015年)、南京市であった火災事例を調査していると、ほぼ一年前にあった今回の事故情報が検索されてきて、分かった次第です。おそらく、日本のメディアだと1年前の事故情報は消されてしまって、分かっていないかも知れません。新華社など中国のメディアは、国内事故を英文で報じていますし、思わぬ海外の国の情報を英文で報じていることがあります。報道内容はお世辞にも良いと言えません。これは情報源である地方政府の関係機関が、意図的あるいは理解不足で正しい情報を出さないためだと思います。これを補うため、中国のメディアは発災写真に積極的な姿勢を感じます。疑問点の多い事故情報ですが、あえてブログでの紹介対象としました。