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2017年2月25日土曜日

インド・ジャイプールのインディアン石油でタンク火災(2009年)

 今回は、2009年10月29日、インドのジャイプールのシータプル工業地区にあったインディアン石油のタンク施設で起ったタンク火災事故を紹介します。
 写真Dailymail.co.uk から引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、インド(India)ジャイプール(Jaipur)のシータプル工業地区にあるインディアン石油(Indian Oil Corp.)のタンク施設である。施設はインディアン石油のグジャラート製油所(Gujarat Refinery)で精製したガソリン、ケロシン(灯油)、ディーゼル燃料の石油製品をパイプラインで受入れ、他の石油施設へ出荷するターミナル機能を有していた。また、ドラム缶で輸送されてきた潤滑油を地元へ供給していた。

■ 発災したタンク施設には貯蔵能力5,000~20,000KL級の石油貯蔵タンクが11基あり、総貯蔵能力は約113,500KLだった。発災時の貯蔵量は約60,000KLだった。発災のきっかけになったタンク(No.401)はガソリン用で、直径約24m×高さ約15m、貯蔵能力約6,100KLの浮き屋根式タンクだった。
                                           タンク施設の配置図  (写真はSlideplayer.comから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2009年10月29日(木)午後7時半過ぎ、ジャイプールにあるインディアン石油のタンク施設で爆発があり、火災となった。タンク火災で立ち昇る黒煙によって周辺は真っ暗になった。火災規模が大きく、現場から10km離れたところからも火災を確認できた。

■ インド気象庁では、最初の爆発が起こった午後7時36分頃、マグニチュード2.3の地震動を記録していた。爆発によって施設内と周囲の建物が激しく壊され、爆発の影響は2km離れたところでも家の窓が壊れるほどであった。 

■ 爆発火災によって11名の死者と150名以上の負傷者が出ており、ジャイプール市内の病院へ搬送された。

■ インディアン石油の近くの工場で働いていた人は、「私たちは爆発の起こる前にインディアン石油でサイレンが鳴るのを聞きました。まわり中に油の臭いがしていました。なぜ、その時、予防策がとられなかったのでしょう」と語っており、工場は火災に遭い、彼自身も負傷して病院に入院した。

■ 市当局は、火災拡大の恐れがあるため周辺住民を避難させたほか、この地域の電力供給を停止した。市当局は大規模な火災を制御するためインド軍の派遣を要請し、ムンバイから軍の特別チームが現地へ入った。

■ 火災は、その日のうちに、施設内の全タンク11基に延焼した。この火災被害を拡大させた要因のひとつは、消火設備の機能が喪失したことである。爆発の影響で消火ポンプ室が破壊され、消火用水配管の大半が破損した。このため、消火系統が使用不能となり、固定消火システムが使えないまま輻射熱に曝され、次々とすべてのタンクに延焼していった。

事故の発生経緯
■ 事故は10月29日(木)夜のシフト勤務中に起った。当時、インディアン石油はタンクを管理する操油課とパイプラインを管理するパイプライン課に分かれており、隣接するバーラト石油(Bharat Petroleum Co.)の貯蔵所にガソリンと灯油(ケロシン)を移送する予定だった。通常、操油課は4名の直で定常業務を行っていたが、午後5時30分頃、業務についていたのは3名のみだった。一人は私的な用事で不在だった。
■  午後5時50分頃、容量5,000KLのガソリンタンクNo.401Aが移送のためラインアップされた。タンクの出口配管には、標準通り、直列に3台のバルブが設置されていた。タンク元のバルブは電動弁、次のバルブがハンマーブラインド・バルブ(Hammer Blind Valve) 、最後のバルブが手動弁であった。
                        配管図  (図はSlideplayer.comから引用)
ハンマーブラインド・バルブの例
(図はCampomexicano.gov.mxから引用 
■ ハンマーブラインド・バルブは、移送運転を行うときに石油製品のコンタミ(混合汚染)を防ぐため、縁切り用として当該個所に使用されていた。 タンクは共通マニホールドを通じてポンプと接続されているので、ハンマーブラインドはバルブを通じての漏れによる石油製品のコンタミ(混合汚染)を防ぐため、標準的な基準として設置されていた。
 一方、ハンマーブラインド・バルブは、構造上、タンク元のバルブが確実に閉止されていなければ、ブラインド位置からハンマーブラインド・バルブを開方向に回すに従ってバルブ上部から石油製品が漏れ出てくる可能性のあるリスクを内在していた。

■ 午後6時10分頃、オペレータのひとりがタンクNo.401Aのバルブを操作し始めた。操作したのはハンマーブラインド・バルブで、開方向に回すに従って、バルブ上部からガソリンが外へ噴出してきた。タンクに接続されている上流側の電動弁は閉まっていなかった。操作していたオペレータは、噴出するガソリンから蒸発するベーパーに耐えきれず、気を失ったとみられる。この状況を見て、別なオペレータが現場へ駆けつけたが、同じように倒れた。結局、二人ともガソリンベーパーのために亡くなっている。

■ 午後6時20分過ぎから、他の部門のオペレータたちがつぎつぎに現場へ急行したが、猛烈に噴出するガスに阻まれ、他社から借りてきた自給式呼吸器や防火服が役に立つ状態ではなく、ただ傍観するだけだった。この状況から午後6時24分、施設構外への最初の通報が出された。午後6時30分過ぎ、施設内のサイレンが鳴らされた。

■ 10~12m径の噴泉からガソリンベーパーが広がるように流出し、75分のちにはガソリンの蒸気雲は半径250mに達した。

■ 午後7時30分頃、蒸気雲に着火して大爆発が起った。爆発の引き金になった着火源は特定されなかったが、1台の自動二輪車あるいはベーパーが広がった半径内のキッチンの火などによるものとみられる。

■ 蒸気雲の爆発と同時に、タンク施設にあった9基の石油タンクが爆発して火災となった。少し離れた場所にあった2基の石油タンクにも数時間後に延焼し、その日のうちに施設内のタンク11基がすべて火災になった。

■ 発災時、タンク施設にはインディアン石油の従業員は約40名ほどいた。しかし、操油課の直内にスタッフは置いておらず、上級管理者は現場に到着していなかった。爆発が起こるまでに漏洩は75分間続き、ガソリンの漏洩量はおよそ1,000トンと推測された。これはTNT火薬20トン分に相当する。また、当時、タンク周辺の防油堤は開放系の出口とつうつうだったので、漏れを封じ込めることができなかった。
(写真はSlideplayer.com から引用)
(写真はNewshopper.Sulekha.Com から引用)
                               全タンク11基の火災状況  (写真はSlideplayer.comから引用)
被 害
■ 爆発によって11名(インディアン石油の従業員6名、外部5名)の人が死亡したほか、150名を超す負傷者が出た。

■ 10月29日から始まった火災事故は11日間続き、全タンク11基が損壊したほか、施設にあった建物や設備が損壊した。インディアン石油が被った被害総額はおよそ280クロールルピー(56億円)にのぼり、石油製品の焼失量は約60,000KLであった。

■ このほかに構外の2km先の建物の窓枠が壊れるほどの損傷が出たが、被害の詳細は不詳である。

< 事故の原因 >
■ 事故発生の直接原因は、現場にあるハンマーブラインド・バルブの操作ミスにより、バルブからガソリンが噴出し、蒸気雲を形成した後、爆発したものである。
 (ハンマーブラインド・バルブが開方向にされたとき、タンク本体とハンマーブラインドの間に設置されていた電動弁が確実に閉まっていなかった。さらに、オペレータが噴出するガソリンベーパーに耐えきれず、ガソリンの流出を阻止できなかった)

■ 大爆発に至った間接的な要因はつぎのとおりである。
 ● 現場用の基準となる操作手順書が不備だった。
 ● 遠隔から配管を遮断する設備が不備だった。
     石油産業安全局は、2003年の監査においてジャイプールタンク施設の遠隔遮断装置が機能
    しなかったことを発見した。しかし、調査によると、監査の指摘にもかかわらず、遠隔遮断装置
    を過去6年間作動試験をしていなかったことがわかった。
 ● 災害やリスクとその結果に関する理解が不十分だった。
     漏洩が始まったあとでも、安全対策が計器室からとれていれば、事故は制御できた。計器室に
    上級管理者が不在で、かつ75分間緊急事態時の対応ができなかったため、制御不可能な爆発に
    つながった。
                               発災箇所の被災後の状況  (写真はSlideplayer.comから引用)
< 対 応 >
■ 事故発生後、少なくとも20台の消防車と30台の救急車が現場へ出動した。

■ インディアン石油は、消火設備が機能しないこともあり、早い段階で燃え尽きさせる消火戦略をとらざるを得なかった。 

■ 石油・天然ガス省は事故原因の究明のため、専門家による調査委員会(7人委員会)を発足させた。2010年2月、 7人委員会は事故調査報告書を石油相に提出した。委員会は事故原因とともにつぎのような対応策を要請した。
   ● 安全のバックアップシステムを確認すること。
 ● 人為ミスを起こさないようにするための改善を行うこと。
 ● 遠隔場所から緊急時の対応がとれるようにすること。
 ● 有効性のある現場用の基準となる操作手順書の整備と遵守させること。
 さらに、運転訓練を改善すること、通信手段を改善すること、保護具の使用に関して教育を徹底することが付け加えられた。

■  委員会は、タンク施設におけるエンジニアリング関連、運転関連、防火対策関連、経営管理関連など広範囲に合計113項目の推奨事項を提起しており、主な事項はつぎのとおりである。
エンジニアリング関連
 ● 縁切りシステムは採用すべきであるが、ハンマーブラインド・バルブはやめて、圧力バランス型のプラグ弁やボール弁に変えるべきである。
 ● タンク直近の第1バルブは遠隔操作方式とし、計器室から操作できるようにするとともに、防油堤外から開閉の操作ができるようにすべきである。第1バルブはファイア・セーフ型でフェイル・セーフにすべきである。
 ● 現場の作業場所は適切な照明を確保すべきである。最小照度は、タンク地区・道路:20ルクス、主要な作業場所・パイプラック:60ルクス、ポンプ室・スイッチ操作場所:100ルクス
 ● 防油堤内の配管設計は、作業時のアクセス性を容易にするよう配慮すべきである。
 ● 防油堤内にあるバルブの開閉位置は計器室で確認できるようにするため、必要なハードウェアや計装を設けるべきである。
 ● パイプライン輸送系統では、システムインテグレータを備えた流量計器を設置すべきである。タンク基地管理システムは常に最新なものにするよう努めるべきである。
 ● タンク液面管理では、レーダー式液面計器による高液位警報を備えるとともに、別な取出しによる高液位警報を設けるべきである。
 ● 食堂を含めタンク基地の運転に関連しない建物は、プラント区域外に配置すべきである。
 ● 建物や構造物は、できる限り、卓越風向の風上になるようにする。計器室、消火用水タンク、消火ポンプ室はタンク区域からできる限り遠い位置に配置すべきである。
 ● 非常口の門は正門から離れた場所とし、 緊急事態時に人が避難することができるようにしておく。

運転関連
 ● 運転基準書は、作業時だけでなく、オペレータが必要と思ったときにすぐ見ることができるように配備しておくべきである。 
 ● 重要な運転時には、作業手順を計器室の見えやすいところに表示しておくべきである。
 ● 手順を変更すべき状況になった場合、変更管理の手続きをただちにとるべきである。これには、ただちにシャットダウンする対応を含むべきである。
 ● 緊急事態対応手順には、主な事故時にとるべき対応方法を記載し、すべての従業員が認識しておくようにしなければならない。
 ● タンク基地で働く全従業員に研修所で火災訓練を受けさせておくべきである。
 ● 直の人員配置は常に維持され、不足がないようにしておかねばならない。

防火対策関連
 ● タンク火災に備えて遠隔操作型で流量可変の長距離泡モニター(3,700 L/min以上)を配備しておくべきである。
 ● タンク基地でガソリンのような危険物を貯蔵する浮き屋根式タンクには、リムシール火災の検知器および消火設備を設置する方がよい。
 ● 揮発性の高い液体が漏洩した場合に蒸気雲の形成を回避するため、中発泡の泡発生器を配備しておく方がよい。
 ● タンク基地の消火用水の必要量は、製油所の場合と同様、同時に2つの火災が起こることを考慮して設定するのがよい。
 ● 緊急事態時の対応のための安全資機材として防火服、漏洩箇所の閉塞器具、油分散剤・油吸着剤、リフティング・ジャッキ(挟まれた作業者の救出用)、危険地区で使用できる強力照明灯などは、タンク基地内ですぐに使用できるようにしておくべきである。
 ● 近くに別な会社のタンク基地がある場合、緊急時対応センターを設置し、消火資機材や人員の訓練について協力して行うことによって費用節減を図るべきである。
   ● タンク区域や主要な場所には、監視カメラを設置すべきである。監視カメラの機能には、通常の状況と異なるような場合に警報や警告を表示できるものを導入すべきである。
 ● ガソリンのような危険物が漏洩する可能性のある場所(例えば、タンク防油堤内、タンクのマニホールド部など)には、ガス検知器を設置しておくべきである。
 ● オペレータには、全員、無線設備を携帯させるべきである。

経営管理関連
 ● 会社組織としての安全機能を強化するため、幹部の質を改善するとともに、上司へ直接報告するようにすべきである。
 ● 内部監査機能の強化のため、クロスチェックすることやプロの安全監査トレーニングを行うようにすべきである。

< 教 訓 >
■  この事故は、大量の可燃性液体を貯蔵して取扱うプラントの安全を考えるとき、運転の安全ルールを固く守ることと、緊急事態時の適切な対応と訓練がいかに重要であるかということを教えてくれる。

■ もし、タンクNo.401Aに設置されていた電動弁に防油堤の外から遠隔で操作できるスイッチが付いていたならば、あるいは漏れ出たガソリンのプールをタイムリーに蒸発抑制のための防護発泡剤(中・高発泡の泡)で覆うことができたならば、このように悲惨な事故は避けることができたかもしれない。

■ ハンマーブラインド・バルブの代わりに高差圧プラグ弁を使用すれば、油が外に漏れる恐れがなく、ハンマーブラインド・バルブと同じ機能を果たせるので、事故を防ぎ得ただろう。一方、過去のいくつかの事例を見ると、大きな損害を与えた事故は機械の故障より、むしろ人為ミスで起こっている。
                ケロシン(灯油)およびガソリンタンクの火災状況  (写真はSlideplayer.comから引用)
                                ガソリンタンクの火災状況  (写真はSlideplayer.comから引用)
                                   座屈したガソリンタンクの火災状況  (写真はSlideplayer.comから引用)
                         ケロシン(灯油)タンクの火災状況  (写真はSlideplayer.comから引用)
                              ディーゼル燃料タンクの火災状況  (写真はSlideplayer.comから引用)
潤滑油ドラム缶の被害状況 (噴破した缶が多数見られる) 
 (写真はSlideplayer.comから引用)
                                        配管の被災状況  (写真はSlideplayer.comから引用)
                                       消火ポンプ室の被災状況  (写真はSlideplayer.comから引用)
                                             計器室の被災状況  (写真はSlideplayer.comから引用)
                                     本館事務所の被災状況  (写真はSlideplayer.comから引用)
                                 構内の車両の被災状況  (写真はSlideplayer.comから引用)
                                            走る地元住民  (写真はSlideplayer.comから引用)
補 足
インドのジャイプールの位置
(図はHashim.travel.coocan.jp から引用)
■ 「インド」(India)は、正式にはインド共和国(Republic of India)で、南アジアに位置し、インド亜大陸を占める連邦共和国で、イギリス連邦加盟国である。首都はニューデリーで、人口は約13億1,000万人で世界第2位である。
 ジャイプールは、インドの北西部に位置するラジャスタン州の州都であり、人口は約305万人の都市である。
 
■ 「インディアン石油」(Indian Oil Corporation ; IOC)は、1964年に設立された国営の石油会社で、ニューデリーに本社を置き、従業員は約34,000人である。インドの大統領が会社の78%の株を有しており、国家統制されている。インディアン石油グループは、国内に11箇所の製油所を持ち、年間8,000万トンの精製能力を有し、139箇所の石油貯蔵ターミナルを有している。 ジャイプールには、燃料供給基地としてのタンク施設を保有していた。発災したタンク施設には、石油貯蔵タンクが11基あり、総貯蔵能力は約113,500KLだった。当時のタンク設備はつぎのとおりである。現在は、タンクが撤去され、遊休地になっている。なお、現在は新しいジャイプール・ターミナルが別な場所に設置されている。
ジャイプールのタンク設備一覧  (表はJstage.jst.go.jp から引用)
                          現在のジャイプールのタンク施設跡 (写真はGoogleMapから引用)
■ ハンマーブラインド・バルブ(Hammer Blind Valve)は、縁切り用の仕切り板の機能を持たせた特殊バルブである。日本国内での使用例は聞かないが、インドの製油所ではかなり使われていると思われる。ハンマーブラインド・バルブの使い方についてはメーカーの一つである「Shreepad Engineering Co.」のウェブサイトに掲載されている。使いこなせれば、ハンマーブラインド・バルブは省力化でコンタミ(混合汚染)を防止できる設備ではあるが、当該事故の調査委員会や損害保険会社はリスクの高い設備という指摘をしている。
(図はShreepad.comから引用)
(図はShreepad.comから引用)
所 感
■ 当該事故は、通称「ジャイプール火災」(またはシータプル火災)としてよく知られたタンク火災事故である。例えば、このブログで紹介した最近の石油貯蔵タンク火災からの教訓」(2012年5月)では、英国バンスフィールド火災(2005年)、プエルトリコ火災(2009年)、インドのシータプル火災(2009年) の蒸気雲爆発の3つの事例にひとつとして分析の対象とされている。
 (火災の状況は、YouTubeMassive fire erupts at Indian Oil depot in Jaipur(2015年9月公開)を参照)

■ この事例は、原因がハンマーブラインド・バルブという特殊な縁切り用バルブの操作ミスということで、日本では「対岸の火事」という意識があるが、 人為ミスによる事故を無くすという観点から見たり、タンク施設のあるべき姿(エンジニアリング関連、運転関連、防火対策関連、経営管理関連)という観点から見れば、「他山の石」としての事例になりうると思う。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである
       ・Thetimeofindia.com, 12 Killed in Jaipur IOC Depot Fire, Army Called,  October 30,  2009  
  ・Thetimesofindia.com, Jaipur Fire:Rs500 Crore Goes up in Flame,  October 31,  2009  
  ・Thaindian News.com, Massive Fire at Indian Oil Depot in Jaipur,  October 29,  2009   
    ・Businessline.com, None-Observance of Safety Norms Caused Jaipur Oil Depot Fire,  February 02,  2010
  ・Thehindu.com,  Poor Safety Norms Caused Fire in Jaipur IOC Depot,  February 03,  2010
  ・Smetimestradeinindia.com, Human Error Caused Jaipur IOC Terminal Fire,  February 03,  2010   
    ・Gicrenews.com,  Vapour Cloud Explosion at Indian Oil Corporation Distribution Terminal Jaipur,  General Insurance Corporation of India,  December 05,  2009  
      ・Jstage.jst.go.jpインドJaipurでの石油タンクの大規模火災事故,  圧力技術,  Vol.51, No.2,  2013
    ・Slideplayer.com,  Presentation on Jaipur Terminal Fire of 29.10.2009, By SK Roy, Indian Oil Corp.
      ・Slideshare.net, Case study: Fire in IOC terminal Jaipur & IOC terminal Hazira,  March 20,  2014
      ・Oisd.nic.in, IOC Fire Accident Investigation Report, Executive Summary,  April  28,  2016     



後 記: 今回の事故は、当時、大きなタンク火災として世界的に報道されました。その後、原因が判明し、日本でもまとめられ、「インドJaipurでの石油タンクの大規模火災事故」としてインターネットで見ることができます。今回、このブログでも、発災直後の情報をもとに紹介することとしました。このため、再度、インタネットで検索して情報を調査してみました。その結果、インディアン石油の人が発表している資料(パワーポイント)が出てきました。発災時の写真は多くのメディアが発信していましたが、発表資料では、タンク火災の油種が説明されていたり、これまで見たことのなかった構内の被災状況を撮した写真がありました。予想をはるかに越える壊滅的な爆発だったことがわかりました。
 それから、当時、大きな間違いをしていたことが分かりました。インドのメディアから分かりやすいタンクの配置図が出されており、すっかり信じていましたが、これが発災施設でなく、隣接していた別な石油貯蔵所のタンク配置だったことが分かりました。(図を参照) よく似ている配置でしたので、勘違いしたのでしょう。事故について「人為ミス」と非難できないですね。


2017年2月17日金曜日

大砲がタンク火災の消火活動に使用されていた!?

 今回は、最近のタンク事故情報でなく、初期の原油採掘時代に大砲がタンク火災の消火活動に使用されていたという話題を紹介します。
(写真はFoxtoledo.comから引用)
< 大砲が油タンクの消火活動に寄与していた >
■ 2010年に起きたメキシコ湾の原油漏洩を止めるため、石油産業界ではいろいろな試みが行われ、その中には驚くような方法もあった。しかし、そのような異例と思う試みは、この産業界の中では特に新しいものだったわけではない。

■ 石油産業界では、初期の油井掘り時代に創造的な解決方法がとられていた。オハイオ州ウッド郡ボーリング・グリーンにあるウッド郡歴史・博物館にバックアイ・パイプライン社から「石油リグ用大砲」(Oil Rig Cannon) が寄贈された。大砲はノース・バルチモアで鋳造され、サイグネットで1920年代に使用され、その後ノースウッドに持ってこられたという。ウッド郡歴史・博物館でマーケティング・広報活動を担当しているケリー・クリング氏はつぎのように語った。
 「それは非常に興味深いことでした。最初に聞いた時、私は本当かなと疑いました。石油会社が大砲を何に使うのだろうかと」
 
■ 昔は、油井で掘られた原油は木製のタンクに貯蔵されていた。原油貯蔵タンクは、落雷にあったり、蒸気エンジンの火花によって火災を起こすことがよくあった。タンクへ落雷があると、木は火災を起こし、内部の油は火炎の燃料となった。火災は消火することが困難なときがあり、油が全量燃えるまで火炎が猛威をふるった。このようなときに大砲が使われた。大砲を使用してタンク側板に孔をあけ、準備した受皿(容器)や浅い堀に油を流し込み、消火に役立てたという。
バトラー郡歴史センター&カンザスオイル博物館の所蔵写真
雷が油井やぐらに落ち、火災が貯蔵タンクに拡大することがたびたびあった。
(写真および解説はAoghs.orgから引用)
< 大砲は油井地区に配備されていた >
■ マサチューセッツ工科大学の1884年12月の新聞では、「石油火災を大砲によって戦う」と題する記事が掲載されている。当時、油田の油井やぐらに雷が落ちることがあり、配管を通じて近くのタンク群に火がつくことがあった。タンクが火災になり、油が過熱して泡立ち始めると、大きな破壊へ至る原因になる。これを回避するため、油をタンク外に排出し、地上で薄い状態で燃えさせる方が好ましい。このため、3インチ砲が油井地区に配備された。実際に鋼製のタンク火災にも使われた。最初は鋼板をかすめるように当たるだけだったが、何発か打っていると貫通させることができたという。
大砲で燃えているオイルタンクの下部に弾を打ち込むことによって、油を排出できる可能性があった。
(写真および解説はAoghs.orgから引用)
■ これらの大砲は、現在、オクラホマ州石油博物館、テキサス州コルシカナ公園、オクラホマ州バートルズビル油井跡のディスカバリー・ワン・パークなどで展示されており、見学することができる。
オクラホマ州石油博物館に展示されている大砲
(写真はAoghs.org から引用)
テキサス州コルシカナ公園に展示されている大砲
(写真はAoghs.org から引用)
オクラホマ州バートルズビル油井跡の
ディスカバリー・ワン・パークに展示されている大砲
(写真はAoghs.org から引用)
補 足
■ ウッド郡歴史・博物館(Wood County Historical Center and Museum)は米国オハイオ州(Ohio)のウッド郡(Wood County)ボーリング・グリーン(Bowling Green)にある地元の歴史博物館である。地元の歴史ある建物や物品を残していこうというもので、多くが寄贈されたものである。
 ウッド郡の人口は約125,000人、ボーリング・グリーンは郡庁所在地で人口は約31,000人で、米国の地方らしいゆったりとした町である。 
             オハイオ州のウッド郡歴史・博物館   (写真はGoogleMapから引用)
■ 大砲を寄贈したバックアイ・パイプライン社(Buckeye Pipe Line Company, L.P.)の親会社はバックアイ・パートナーズ社(Buckeye Partners, L.P.)で中部大西洋地域を中心に業務展開している石油流通企業である。

■ 日本では、「木製の油タンク」は見られないが、米国では最近まで使用されている。また、タンク本体ではなく、屋根に木が使用されたタンクもあり、事故例としては、1986年10月に「ニューポート-86の火災事故」がある。
                   木製の油タンクの例  (写真はWilliamsfire.comから引用)
 写真は1935年に製作された木製の油タンクで、2007年までテキサス州で使用されていた。タンクはサイプレス(ひのき系)製で、鉄製のバンドが巻かれている。 オイルと塩がタンク裏面側から木材を保護し、長期間の使用に耐えるものと思われる。タンク上部にサボテンが生えているが、これは鳥が運んできた種が発芽して育ったものである。
< ニューポート-86の火災事故 >
発災データ
 ● 発災日             1986年10月1日
 ● 場  所               米国オハイオ州ニューポート
 ● 着火原因          落雷
 ● タンク形式         木製屋根タンク
 ● タンクの大きさ   直径29m、高さ8.5m、表面積660 ㎡
 ● 油  量               5,500KL
 ● 油  種               ペンシルベニア原油

消火活動データ
 ● 消火設備            泡モニター1基、手動ノズル2台
 ● 泡薬剤の種類     多糖類添加耐アルコール泡(AR-AFFF)3M社“Light Water”)
 ● 予燃焼時間        約5時間
 ● 泡放射量            3.95 L/㎡/min
 ● ノックダウン時間 約20分
 ● 消火活動時間     約40分
 ● 泡薬剤の消費量    3,200リットル

消火活動の状況
■ 1986年10月1日午後5時15分頃、原油を貯蔵しているタンクに落雷があり、火災が発生した。タンクは1930年代に建設されたもので、木製の屋根構造だった。発災時、油レベルはトップから約125mmだった。 

■ 当初、消火水で油表面を冷却する方法をとった。ノズルが調整可能な泡モニターのデッキガン(Deck Gun)を使用し、流量3,785 L/minの霧状放射を行った。午後10時頃、約1分ほどの短い時間だが、火勢がわずかに弱まったのが観測されたので、この機会を逃さず、ただちに泡放射を開始することを決めた。

■ 午後10時20分、デッキガン1基と手動ノズル2台を使った泡放射を開始した。デッキガンは手動調整で流量1,890 L/minとし、これに応じた泡混合比率で放射した。360 L/min級手動ノズル2台は、1,890L/minの泡放射流を補助する形で、デッキガンと同じ着水域に同じ方向から放射した。20分ほど経過したとき、火災の強さは目に見えて弱まった。泡放射を始めて40分後の午後11時頃、火災は鎮火した。
■ 消火活動に用いた泡薬剤は多糖類添加耐アルコール泡(AR-AFFF)の3M社“Light Water”で、約3,200リットル使用した。このほか、安全確保のため2,300リットルを使用した。油に混じっていた泡消火水を分離したのち計測すると、焼失せずに助かった原油の量は約5,000 KLだった。

所 感
■ 興味深い話題である。油タンクの火災を目の前にして、大砲による消火戦術が効果あるのではないかと考えた発想は素晴らしい。このような発想力や創造力が自由の国、アメリカの根幹だと思う。
■ 木製の油タンクだけででなく、鋼製の油タンクにも大砲が使用されていたという。推測になるが、原油タンク火災のボイルオーバーという壊滅的な事象を経験し、これを回避させるために用いられたのではないだろうか。荒っぽい方法ではあるが、これは油井火災に対して爆薬を使って瞬時に火を消す方法と通じるように思う。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Foxtledo. com, Cannon  Had  Role  in  Oil  Tank  Firefighting, January  19, 2011
  ・Woodcountyhistory.org. An  Unusual  Fire  Extinguisher, Wood County Historical Center,  Autumn 2010
      ・Aoghs.org,  Oilfield  Artillery  Fights  Fires,  The American Oil & Gas Historical Society (AOGHS)
      ・Rib.msb.se,  Tank Fires Review of fire Incidents  1951–2003, Henry Persson, Anders Lönnermark,  2004


後 記: 今回の情報は、2011年にローカルな話題として報じられたものです。面白い話(実際の火災では真剣だったでしょうが)なので、事故情報が無いときに紹介しようと思い、その後の情報を調べていたら、鋼製の油タンクにも使用されており、大砲もいろいろなところで展示されていることが分かりました。
 木製の油タンクを紹介するついでに、浮き屋根に木材が使用されていた原油タンクの火災について補足で紹介しました。この火災の消火活動はデータの揃った成功例として知られています。メインの泡モニターを補助する形で消火ノズルを使用し、同じ着水域に泡を打込んむ方法はウィリアムズ社のフットプリント法ですよね。この火災の3年前のルイジアナ州のテネコ火災でウィリアムズ社が採った消火方法が活かされているようです。