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2019年5月24日金曜日

茨城県常総市のリサイクル廃材置き場で火災、6日間燃え続ける

 今回は、2019年5月15日(水)、茨城県常総市のリサイクル業者立東商事の中古家電製品を回収する廃材置き場で起こった火災事故を紹介します。
(写真はAsahi.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、茨城県常総市坂手町のリサイクル業者の立東商事(りっとう商事)の廃材置き場である。

■ 発災があったのは、常総市坂手町にある中古の家電製品を回収する廃材置き場である。発災当時、廃材置き場では約7,500㎡のエリアに、高さ10mほどに電子レンジや冷蔵庫が約50,000㎥積まれていた。
           茨城県常総市(枠内)と周辺地域 (写真はGoogleMapから引用)
常総市坂手町の廃材置き場周辺 (矢印が発災場所)
(写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2019年5月15日(水)午前6時頃、廃材置き場から火が出ているのを出勤してきた従業員が見つけ、消防署に通報した。

■ 発災に伴い、消防隊が出動し、消防車15台が出て消火活動に当たった。付近には金属などの燃える臭いが立ち込め、マスクを装着した消防隊員らが消火に当たった。

■ 廃材置き場には冷蔵庫や扇風機などの家電製品が高さ10mほどに積み上げられていて、発生から5時間ほどがたっても、黒煙や炎が激しく立ち上っている。県が、現場から50mの場所で採取した空気を調べたところ、有害物質のベンゼンが環境基準を上回っていたという。しかし、現時点では、周辺の住民に健康上の影響はないとしている。

■ 火災原因はわかっていないが、常総警察署によると、発災現場は廃品となった家電や金属類を解体する場所で、敷地内に積まれていた電子レンジや冷蔵庫などから出火したとみられる。 

■ 火災発生に伴うけが人は出ていない。

■ 現場は常総市の南にある工場や農地が点在する地域で、この火事を受けて常総市は市内にあるすべての小中学校などに対して、屋外での活動を控え、窓を閉めるように通知した。近くの小学校に通う小学生24人と幼稚園児1人の合わせて25人が、登校中に煙を吸うなどして、のどや目の痛みを訴えているという。

■ 5月16日(木)から消防隊は、重機2台を投入し、廃材をかき出しながら消火活動を行っており、17日(金)も継続して作業を続行している。消火のめどは立っていないという。消防隊によると、燃えているのは廃家電などの金属くずやプラスチック類で、保管量は推定で約50,000㎥に上る。現場周辺は、終日、黒い煙と臭いが立ち込めた。現場で消火活動に従事している隊員のひとりは、「煙でマスクが黒くなり、目も痛む。気温も高いので、体力的に厳しい」と語っている。一方、近くの住民は「洗濯物を外には干さないようにしている」という。

■ 5月16日(木)、煙の影響で、目や喉の痛みを訴える児童生徒がこの日も相次ぎ、常総市で41人、隣の坂東市で39人に上った。

■ 5月17日(金)の朝の時点で、目や喉の痛みを訴える児童生徒が相次ぎ、常総市と坂東市合わせて53人に上った。 

■ 火災は続き、発生から6日目、130時間以上を経過した5月20日(月)午後6時半過ぎ、消防隊は火の勢いが収まり、これ以上の延焼はないと判断し、鎮圧したと発表した。
515日(1日目)の火災状況(まだ柵から遠い)
(写真はNews.tv-asahi.co.jpから引用)
廃材の火災と放水の状況
(写真はNhk.or.jpから引用)
               火災状況(柵内はすべて火に包まれている)
(写真はAsahi.comから引用)
(写真はAsahi.comから引用)
(写真はAsahi.comから引用)
夜の火災の状況
(写真はYoutube.comから引用)
被 害
■ 廃材置き場にあった約50,000㎥の廃家電製品が焼損した。

■ 火災に伴う煙による大気汚染があった。近くの児童・生徒など住民に目や喉の痛みを訴える被害が出た。

■ 事故に伴うけが人は無かった。住民への避難指示は出なかった。  

< 事故の原因 >
■ 火災の原因は調査中である。

■ 事故の要因は特定されていないが、敷地内に積まれていた電子レンジや冷蔵庫などから出火したとみられる。

< 対 応 >
■ 5月15日(水)午後、常総広域消防本部は、近隣広域消防本部、埼玉県、福島県防災ヘリコプター等を応援要請した。茨城県の防災ヘリコプターが定期整備に入っていたため、埼玉県などに防災ヘリコプターの応援を要請した。

■ 5月16日(木)、常総広域消防本部は、消防車両19台を投入するとともに、埼玉県、栃木県の防災ヘリコプターが前日に引き続いて加わり、空からの放水を繰り返した。
防災ヘリコプターによる消火活動
(写真はSankei.comから引用)
■ 517日(金)午前530分、茨城県広域応援隊が到着した。17日は県内16の消防本部から応援隊が入り、消防車両は20台、人員は延べ約170人に増強された。

■ 5月17日(金)、取手市消防本部は消防隊を応援に出した。同消防隊によると、火災は鎮火に至っておらず、不眠不休の消火活動が行われているという。今回の火災では、堆積している廃材の下に火が回っているため、重機で堆積物を除去して消火を行わなければならず、消火活動に時間を要しているという。
消火活動の状況 
(写真は、左;Ibarakinews.jp、右;City.toride.ibaraki.jpから引用)
■ 発災から75時間が経っても火災が収まらず、煙が広がっていることから、518日(土)、常総市は健康への影響や農作物の被害などの相談を受けるための窓口を設置した。

■ 5月18日(土)午後2時時点で、茨城県広域応援隊13隊が消火活動中である。さらに、福島県、埼玉県、栃木県の防災ヘリコプターが空中消火を行っている。出動している消防車は19台で、消火活動を行っている。

■ 茨城県県民生活環境部において大気影響調査を行っている。5月18日(土)午後2時時点で、常総保健所などの固定観測点では大気について異常はなく、移動系については15日採取分の結果に加え、16日採取分(常総市内2か所など)の分析の結果、住民への健康影響はないという。

■ 5月17日(金)、茨城県廃棄物対策課が明らかにしたところによると、2018年8月に現場にあった廃家電の保管状況が廃棄物処理法の施行規則に違反しているとして改善指導していたという。この資材置き場は野積みした廃家電などの高さを5mより低くしなければならないが、県が立入り検査したところ、実際には10mほどに達していた。茨城県の指導に対して、立東商事は、2018年9月、約7か月かけて保管量を減らすとの改善計画書を提出していた。その後、県は検査に入っておらず、2019年5月22日(水)に状況を確認する予定だったという。

■ 発生から6日目、130時間以上を経過した5月20日(月)午後6時半過ぎ、消防隊は、消火活動の結果、火の勢いが収まり、これ以上の延焼はないと判断し、鎮圧したと発表した。鎮火には至っていないため、再燃の可能性を除去するために、冷却のための放水活動等を継続している。

■ 5月20日(月)までに県内からの応援を含め、消防隊員など1,000人以上が従事し、消防車やポンプ車は延べ160台以上、ヘリコプターが13機が出動したという。

消防広域応援隊の解散式
(写真はTwitter.comから引用)
■ 5月21日(火)、火災が鎮圧したのを受け、消防広域応援隊の解散式が水海道総合体育館で行われた。地元を除く県内23の全ての消防本部で結成され、発生2日後の17日午前から消火活動に当たっていた。解散式では、常総地方広域事務組合管理者の守谷市市長が「5日間にわたる皆さんの活動で火災を鎮圧できた」と謝辞を述べ、常総市市長も「夜通し活動してくれたことに、市民も感謝している」と語った。一方、現場では、常総広域消防本部が再発火防止の放水を継続しており、鎮火まではあと数日かかる見通しである。

■ 5月22日(水)、今回の火災は改正廃棄物処理法の基準を超えて廃家電を積み上げるなど不適切な保管が被害を拡大させた可能性があることから、茨城県は県内同業他社に対する調査に乗り出した。茨城県内の同業者は約70社あり、このうち県に届け出を済ませたのは発災事業所を除く13社という。残りは保管方法の基準強化を受け、廃業を申し出たが、処分が終わっていない事業者もあるとみられる。このため、改めて約70社の確認調査に乗り出し、保管の高さや火災防止策が講じられているかなどを調べる。

■ 5月22日(水)、対応にあたった常総広域消防本部の消防長は、長引いた消火活動に対して、「燃えた量が膨大だった。消火したがれきを敷地外に運び出したかったが、出せる場所もなかった」といい、「発生当初は黒煙で全く前が見えない状態だった。その後、重機が入り、隊員たちが突入できる道を作り、一つ一つの山を重機で崩しながら放水して、冷やしたがれきを別のところによける、という作業を繰り返した」と語っている。
消火活動の状況
(写真はTwitter.comから引用)
(写真はAsahi.comから引用)
5162日目)の火災の状況
(写真はAbema.tvから引用)
5173日目)の火災の状況
(写真はNews.livedoor.comから引用)
5206日目)の火災の鎮圧状況
(写真はNewstopics.jpから引用)
5228日目)の鎮圧後の冷却作業の状況
(写真はIbarakinews.jpから引用)
補 足
■ 「常総市」(じょうそう市)は、茨城県南西部に位置し、東京都心から約50km、茨城県の県庁所在地である水戸市からは約70kmの圏内にあり、人口約60,300人の市である。

■ 「立東商事」(りっとう商事)は「リサイクル業者」としたが、メディアによっては「古物業」といい、茨城県では「集積物 雑品,プラスチック類,金属等」となっている。立東商事は株式会社の法人登録をしているが、会社の詳細は分からない。

■ 「常総広域消防」は常総地方の広域事務組合に属する広域消防で、つくばみらい市、守谷市、常総市(旧水海道市地区)を管轄地域とする。消防本部は水海道消防署内に設置されている。

油圧ショベルの例
写真Ja.wikipedia.orgから引用)
■ 今回の火災の消火活動で使用された「重機」は、映像で見ると「油圧ショベル」だとみられる。2017年12月にあった「豪州のリサイクル施設で車の燃料タンクが爆発して火災、負傷2名」で使用されたのは「エクスカべーター」(Excavator)という名称だったが、映像を見ると、同じ種類の重機である。豪州の火災事故では、「金属スラップ置き場にはいろいろな種類の材料が置かれており、その中には潜在的に燃え得る性質のものもあり、結果として燃焼したものとみられる。幸い、当該スラップ置き場は細かく区切られており、火災の消火作業にとっては若干有利な条件だった。しかし、消防隊は、一晩中、重機のエクスカべーターを使ってスクラップの山を崩しては火元を露出させて消火活動を行わなければならなかった」とあり、リサイクル施設や廃材置き場の消火活動には、油圧ショベルのような重機が必要である。

所 感 
■ 発災現場が廃品となった家電や金属類を解体する場所で、敷地内に積まれていた電子レンジや冷蔵庫などから出火したとみているようだ。通電していない電気機器からの出火はありえるのかという疑問は出る。しかし、冷蔵庫の冷媒ガスは、従来フロンが使用されてきたが、地球温暖化対策の代替フロンとして2002年以降から可燃性の炭化水素系ガス(イソブタン)が使用されているものがある。冷媒フロンは回収・適正処理の義務があるが、炭化水素系の冷媒は義務付けられていない。経年劣化した冷媒系統でイソブタンが漏れ、何らかの引火源があれば、出火する可能性は否定できない。
 また、考えにくいことであるが、廃材の中に油を拭いたウェスがあれば、酸化重合して発熱し発火する可能性はあるし、木くずなどの有機物が堆積して発酵が促進され、酸化反応が起こり、自然発火する可能性もある。廃材置き場は長年放置されてきていると思われ、自然発火物質が形成したこともありうる。 

■ さらに、冷蔵庫の断熱材発泡剤には炭化水素系のシクロペンタンが使われているものがある。近年、断熱材に代替石綿(アスベスト)材として繊維系断熱材のグラスウールやロックウールなどに代わり、さらに発泡プラスチック系断熱材が使用されるようになっている。2018年7月に起こった「多摩市の建設中のビルでウレタン製断熱材の火災、死傷者48名」のように炭化水素系の断熱材は一旦火が付くと急速に広がり、被害を大きくする。このように廃材置き場の廃材の物質をよく調べる必要のある事例といえよう。

■ スクラップ置き場の消火作業が困難だということは、「豪州のリサイクル施設で車の燃料タンクが爆発して火災、負傷2名」(2017年12月)で分かった。当事例では、最初から積極的消火戦略をとり、スクラップ置き場の下部で起こっている火災を消火するために、重機のエクスカべーター(油圧ショベル)を使ってスクラップの山を崩して火元を露出させながら対応しなければならなかった。このため、一晩中かかって17時間の消火活動を余儀なくされた。しかし、今回の廃材置き場の消火活動は鎮圧までに132時間かかっており、消防隊にとっては大変な作業だったと思う。

■ 一方、今回の廃材置き場の消火活動には、つぎのような分からない点がある。廃材置き場は日本中にあり、貴重な経験や知見は他部署に残してもらうことを期待したい。
 ● 廃材置き場の消火活動は、油圧ショベルを使用して廃材の下部にある火元を掘り出しながら消火を進める必要があると思われる。油圧ショベルの使用判断の時期や台数は適正だったか。運転者は消防隊員だったのか。今回の教訓と知見は何か。
 ● 6日間に及ぶ長期の消火活動では、隊員の休息が必要であると思われる。当初から応援要請されており、2日目(5月17日)に170名に増強されたが、消防隊の体制(編成)をどのようにとったか。また、6日間という長期になることを想定されたか。今回の教訓と知見は何か。
 ● 消火は水に頼るしかないと思われる。放水ノズルはどのようなタイプがもっとも有効だったか。高所放水車(スクアート車)は使用されたか。大容量(泡)放射砲システムの放水砲を使用すれば、有効だったか。
 ● 大量の消火水を消費することになると思われる。消火水が構外へ出ることへの排水対策はどのような方法をとったか。(消火泡でないので、水質は悪化しなかったか)
 ● 当初から防災ヘリコプターの使用を計画されていたと思われる。山火事と異なり、防災ヘリコプターの効果は薄かったのではないか。(特に初期は火災の熱風と黒煙の上を避けるように消火剤を撒くことになる)


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Asahi.com, 資材置き場の廃材燃える 児童ら25人がのどや目の痛み,  May  15,  2019
   ・Nhk.or.jp,  常総市資材置き場火災 消火続く,  May  15,  2019
    Nagoyatv.com ,  学校の屋外活動が中止に廃材置き場で火事 茨城,  May  15,  2019
    Nishinippon.co.jp, 資材置き場で家電燃え黒煙、茨城 小学生ら約20人が目や喉の痛み,  May  15,  2019
   ・City.joso.lg.jp , [速報・鎮圧報]坂手町その他火災対応状況,  May  20,  2019
    Ibarakinews.jp,  常総火災 廃家電保管で業者指導 県が昨夏、改善怠った可能性も,  May  16,  2019
    Ibarakinews.jp,  常総・廃材火災 鎮火めど立たず 24時間態勢、消火活動続く,  May  16,  2019
   ・Ibarakinews.jp,  常総・廃材火災 応援入り消火続く 夜通し活動、隊員疲弊,  May  18,  2019
    News.tv-asahi.co.jp, 茨城の廃材火災まだ消えず 有害物質の値も上がる,  May  17,  2019
   News.tv-asahi.co.jp, 廃材火災、4日目も消えず 大気中の有害物質は・・・,  May  18,  2019
   ・Tokyo-np.co.jp, 常総火災 廃家電保管で業者指導 県が昨夏、改善怠った可能性も,  May  17,  2019
   ・Headlines.yahoo.co.jp, 廃材置き場火災4日目鎮火めどたたず 茨城,  May  18,  2019
   ・News.tv-asahi.co.jp,  130時間以上が経って・・・廃材置き場の火災ほぼ鎮火,  May  21,  2019
    City.toride.ibaraki.jp, 常総市坂手町の火災応援出場,  May  20,  2019
   Ibarakinews.jp,  常総の廃材火災 広域応援隊解散 守谷市長ら謝辞,  May  22,  2019
   Mainichi.jp, 常総の火災6日目で鎮圧 鎮火まではあと数日も,  May  22,  2019
    Ibarakinews.jp,  常総火災1週間 廃材の山、消火阻む  保管不備、被害拡大か,  May  23,  2019


後 記: 今回の火災はテレビなど多くのメディアで大きく報道されました。このブロブの対象である貯蔵タンクに関係する事故ではないようでしたが、 2017年12月にあった「豪州のリサイクル施設で車の燃料タンクが爆発して火災、負傷2名」の火災事故でリサイクル施設の廃材置き場における火災事故が困難なことを理解していましたので、調べることとしました。
 調べ始めたのは、火災が鎮圧されつつある頃からですが、発災から1週間も経たないのに、インターネットでは、エラーメッセージ(「ページを表示できません」という)になるサイトが多いのにがっかりしました。日本人は「熱しやすく、冷めやすい」国民性だと言われますが、当たっているように感じます。外国の報道サイトでは、エラーメッセージが出てくるものは極めて稀です。( 「ページを表示できません」というような記事は最初からサイトに出さないからかも知れません) また、記事の内容について言えば、深みがないというか、表層的だと感じました。例えば、地元の声を記事にしたものが極端に少なかったですし、もっとも苦労した現場の消防士の記事が無かったですね。だた、東京に近いため、報道ヘリはよく飛ばされていましたが、ドローンによる映像は無かったですね。
 結局、参考になったのは、地元の茨城新聞であり、常総市のウェブサイトでした。火災が消えたので、これで終わりということでなく、今回の火災事故の教訓を残してほしいという希望で締めくくりました。


2019年5月20日月曜日

米国テキサス州でバージがLPGタンカーと衝突して損傷、ガソリンが海上流出

 今回は、2019年5月10日(金)、テキサス州ベイポートのヒューストン可航水路において、パナマ船籍のLPGタンカーのジェネシス・リバー号と、カービー・インランド・マリン社のタグボートであるボイジャ号が押航していた2隻のバージ(はしけ)が衝突し、バージがひどい損傷をうけ、積載していたガソリンを海上流出するという事故を紹介します。
               衝突して損傷したバージ  (写真はGalvnews.comから引用)
 < 発災施設の概要 >
■ 発災施設は、テキサス州(Texas)ベイポート(Bayport)のヒューストン可航水路において航行していたパナマ船籍のLPGタンカーのジェネシス・リバー号(Genesis River)およびカービー・インランド・マリン社(Kirby Inland Marine)のタグボートであるボイジャ号(Voyager)である。タグボートは2隻のバージ(はしけ)を押航していた。
 
■ 発災があったのは、ジェネシス・リバー号とタグボートで押航されていた2隻のバージがヒューストン可航水路で衝突したことによって起った。
 ジェネシス・リバー号は2018年建造の総トン数46,794トン(載貨重量53,697DWT)、全長755フィート(230m×37mLPG船で、液化天然ガスを運んでいた。タグボート(Tugboat)のボイジャ号は、米国ではトウボート(Towboat)と呼ばれる押船で、1975年建造で1,350馬力ディーゼル機関を搭載している。2隻のバージには、それぞれ、リフォーメイトと呼ばれるガソリン・ブレンドを約25,000バレル(3,975KL)積載していた。事故があったとき、ジェネシス・リバー号は出港中で、バージは入港中だった。

■ ジェネシス・リバー号は川崎汽船が傭船し、最近、ヒューストンに入港し、5月末にエジプトへ到着する予定だった。カービー・インランド・マリン社は、米国にある4,000隻のバージのうち約4分の1を保有し、この水路では大きな存在であった。
      ヒューストン可航水路周辺と衝突場所  (✖マーク部 (写真はGoogleMapから引用)

(写真は、左; Towboatgallery.com、右; Inews.jpから引用)
米国におけるバージの押航方法の例
(写真は、左;Sec.gov、右;Vanwertalumni.comから引用)
事故の発生
■ 2019510日(金)午後330分頃、ヒューストン可航水路で大型タンカーと2隻のバージを押航するタグボートが衝突し、1隻のバージはひどい損傷を受け、もう1隻のバージは転覆した。これによって約9,000バレル(1,430KL)のガソリンが水路に流出した。

■ カービー・インランド・マリン社によると、大型タンカーの船体がバージを仕切っている4つの貯蔵タンクのうち2つを破損させたという。タンカーの船首がバージの左舷タンクを突き破り、右舷タンクまで達した。このため、漏れを食い止める方法が無かった。これらの2つのタンクの油は海へ直接流出してしまった。
(写真はAbcnews.go.comから引用)
■ 空からの映像では、バージの1隻には三角形の深い損傷が見られ、海上に油膜が見られた。一方、ジェネシス・リバー号の船首には擦った跡がある。転覆したバージはそのままになっているが、ガソリンが流出するとは考えられていない。タグボートには4名の乗組員がいたが、タグボートに損傷は無かった。


■ 連邦政府、州、海運関係者で組織されているベイポート水路衝突事故対応グループ(Bayport Channel Collision Response )は、大気監視システムでは“至急対応レベル”を検出していないと発表した。一方、シーブルック(Seabrook)市は、衝突によって漂ってくる臭いを感じると述べた。しかし、現時点では、住民が対応をとる必要はないと発表した。
(写真はGalvnews.comから引用)
■ 米国沿岸警備隊はサールベージ・チームを現地に配備した。

■ 緊急対応グループは、5月11日(土)朝の時点で、3,800フィート(1,160m)超のオイルフェンスを展張し、さらにバージの周囲などに12,150フィート(3,700m)を展張する予定だという。

■ ヒューストンの水路沿いには、米国の国内総生産の12%を処理する9つの製油所がある。この水路はヒューストンとメキシコ湾を結ぶ53マイル(85km)の商業水路で、海上交通に影響を与えた流出事故が続いており、この2か月間で、今回の事故が2回目である。前回は、2019年3月17日(日)、テキサス州ディア・パーク市にあるインターコンチネンタル・ターミナル社のタンク施設で起こった「米国テキサス州で13基の貯蔵タンクが6日間火災」で海上汚濁した事故である。

■ ヒューストン可航水路は部分的に船の航行を制限された。5月11日(土)の午後には、33隻の船が入港できるのを待ち、27隻の船が出航できるのを待ち、91隻がアンカーを下ろして停泊していた。

(写真はKhou.comから引用)
■ テキサス州は、事故のあった場所近くで、かもめの死体が2羽、アライグマの死体が1匹のほか、多数の死んだ魚が発見されたことを明らかにした。しかし、海水は人間にとって危険な状態ではなく、水路の再開を優先し、5月12日(日)に再開した。ヒューストン可航水路は米国内でもっとも混雑している水路のひとつであり、閉鎖されたままでいると、港のコストは高くなるのも事実である。

■ 512日(日)、事故から2日が過ぎ、ガルベストン湾の海岸線沿いには油膜が現れて影響するところが出始め、封じ込めを要する区域が広がっている。湾には、クリーンアップ作業の請負者によって約20,000フィート(6,100m)のオイルフェンスが展張された。この作業のため、カキ養殖は一時的に停止された。カービー・インランド・マリン社は、クリーンアップにあと2日はかかるとみている。
■ 事故の状況がユーチューブに投稿された主なものは、つぎのとおりである。

被 害
■ ガソリン約25,000バレル(3,975KL)を積載したバージ1隻が船体を大きく損傷し、もう1隻が転覆した。

■ ガソリン約11,276バレル(2,140KL)が海上へ流出し、大半が消失した。

■ ガソリン流出により海が汚濁された。このため、かもめ、アライグマの死体が発見されたほか、魚に被害が出た。また、近くの住民がガソリン臭による臭気被害が出た。

■ 総トン数46,794トンのLPGタンカーの船首部分が損傷した。
(写真はGalvnews.comから引用)
(写真はGalvnews.comから引用)
< 事故の原因 >
■ 衝突の原因は調査中である。

< 対 応 >
■ 514日(火)、川崎汽船は同社が傭船したLPG船ジェネシス・リバー号がヒューストン港を出港した後、バージと衝突したことをウェブサイトで発表した。発表によると、乗組員(インド人14 名、フィリピン人15 名、合計 29 名)は全員無事で、積載貨物にも損傷が無いことを確認したが、船体の一部には損傷が確認されたという。現在、当局の調査に全面的に協力をしているという。

■ 514日(火)、LPGタンカーのジェネシス・リバー号とボイジャー号押航のバージの衝突の状況をAISAutomatic Identification System自動船舶識別装置)によるアニメーションで示したユーチューブが投稿された。Youtube Tanker “Genesis River” Collided with Barge near Houston |May 10, 2019」を参照。
 このアニメーションでは、タグボートのボイジャー号に押航していたバージの船体寸法を入れて調整されたものである。すなわち、ボイジャー号はバージの長さ90m×32mを加えたものとした。 

■ 515日(水)、タンカーと衝突した2隻のバージは、中身を入れたまま他の船で浮揚させて移動した方が安全だと判断され、約4時間をかけて作業が行われた。衝突で損傷したバージはヒューストン可航水路近くにあるサウスウェスト造船所に運ばれ、転覆したバージは油抜取りを実施するバーバース・カット・ターミナルに運ばれた。これで、難破していたバージまわりに設定されていた安全注意区域も解除され、ヒューストン可航水路は完全にオープンした。

■ 516日(木)、連邦政府や州を含め現地で対応とクリーンアップに従事している人は334名にのぼっているという。クリーンアップのため20,000フィート超(6,100m)のオイルフェンスと8台のスキマーが使用された。バージからの流出量は当初の予想から増え、11,276バレル(2,140KL)と推定されている。
                 被災したバージの曳航    写真はhoustonchronicle.comから引用)
                  オイルフェンスの運搬     写真はKoamnewssnow.comから引用)
                     バージの衝突傷  写真はHoustonchronicle.comから引用)
           LPGタンカージェネシス・リバー号の衝突傷  写真はYoutube.comから引用)
所 感

■ 船が切断されかかっているような激しい衝突の損傷写真を見て驚くとともに、なぜこのようなことが起こったのか疑問に思った。LPGタンカーのジェネシス・リバー号とボイジャー号押航のバージの衝突の状況をAISアニメーションで示したユーチューブの映像「Tanker“Genesis River” Collided with Barge near Houston | May 10, 2019」を見ると、つぎのようなことがいえる。 (番号は図に示した順番)
 ● ジェネシス・リバー号は衝突前にほかの船(DWオーク号)と接近しているが、このときは船の通行規則どおりに右側通行ですれ違っている。①
 ● そのあと、ジェネシス・リバー号はボイジャ号に近づくが、なぜかわずかに左に進路を変えている。このとき、ボイジャ号の進行方向は北寄りであり、衝突の恐れが出てきた。 ②
 ● さらに両船は近づくが、そのままの状況では、お互いが左側通行の進路になる。 ③
  ボイジャー号はやや左に進路を変更する。(左側通行の進路になるが、衝突回避のためか?) ③
 ● ジェネシス・リバー号は右に進路を変更する。(右側通行の形にするためか?) ④
 ● ボイジャー号はさらに進路を左にとる。(この段階では、衝突回避のためとみられる) ⑤
 ● ジェネシス・リバー号の船首がボイジャー号の押航するバージ船体側面に突っ込み、衝突したものと思われる。 ⑥
 この航跡によって衝突の経緯は上記のようで、まず間違いないだろう。あとはそれぞれの時点での判断がどうだったかである。ただ、この航跡によると、バージの右舷に衝突したことになる。報道では、「タンカーの船首がバージの左舷タンクを突き破り、右舷タンクまで達した」とあるが、右側通行を基本とするため、右と左を間違ったのではないだろうか。また、転覆したバージは直接ジェネシス・リバー号との接触によるものでなく、激しい衝突の影響で転覆したのではないかと思う。
LPGタンカー「ジェネシス・リバー号」とタグボート「ボイジャ号」の航跡
(写真はYoutube.comの動画から引用)
■ 一方、この事故のつぎのような背景を考えると、「起こる可能性のあることは、いつか実際に起こる」(マーフィの法則)と思わざるを得ない。 
 ● ヒューストン可航水路は米国内でもっとも混雑している水路のひとつで、事故の起こる恐れの高い水路である。
 ● 米国では、大型のバージを使用し続けており、乾貨物だけでなく、油タンク用がある。
 ● バージの安全対策はとられているが、所詮、推進動力をもっていない船である。
 ● 慣れていない新しいタンカーが混雑水路を航行する。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
    ・Reuters.com, Tanker Collision, Gasoline Spill Closes Portion of Houston Ship Channel,  May  13,  2019
      ・Firedirect.net , USA – Major Gas Product Spill After Tanker & Barges Collide,  May  13,  2019
      ・Cbsnews.com, Barges and Oil Tanker Collide in Houston Ship Channel,   May  10,  2019
      ・Foxnews.com, Barge and Tanker Collide, Leaking Gas Product into the Houston Channel,  May  11,  2019
      ・Abcnews.go.com, Tanker Collision Sends Thousands of Gallons of Gas Product Leaking into Houston Shipping Channel,   May  11,  2019
      ・Chron.com, Houston Ship Channel Remains Closed after Tanker Collision Spills Gasoline,  May  11,  2019
      ・Gcaptain.com , Major Gas Product Spill on Houston Ship Channel After Tanker and Barges Collide,  May  11,  2019
      ・Click2houston.com , Ship Collides with Barges, Causing Massive Gas Product Spill in Houston Ship Channel,  May  10,  2019
      ・Washingtonpost.com, Busy Texas Waterway Remains Partially Closed after Collision,  May  11,  2019
      ・Abc13.com, Barge Crash Cleanup Extends to Galveston Bay Two Days after Collision,  May  13,  2019
      ・Oilprice.com, Oil Tanker Collision In Houston Causes Leak, Closes Critical Port,  May  13,  2019
      ・Edition.cnn.com, Cleanup Continuing in Houston Ship Channel after Vessels Collide and Spill Gas Product,  May  12,  2019
      ・Khou.com, Houston Ship Channel Fully Open after Barge Collision; ‘Safety Zone' Lifted,  May  15,  2019
      ・Houstonchronicle.com ,   Barges involved in Houston Ship Channel Collision Are Removed,  May  15,  2019
      ・Response.restoration.noaa.gov, OR&R Responds to Barge Collision in Houston Ship Channel,  May  16,  2019
      ・Kline.co.jp, LPG運搬船 「GENESIS RIVER」衝突事故について,  May  14,  2019
      ・Nippon.zaidan.info, 米国内航バージ輸送の実態等調査報告書,  シップ・アンド・オーシャン財団,  February,  2002



後 記: 2018年1月に起こった異常な衝突事故「イランの石油タンカーが東シナ海で衝突・炎上、漂流後、沈没、死者32名」を本ブログで紹介しましたが、今回は異常な損傷状況の事故が報じられたので、調べることとしました。
 船はAIS(自動船舶識別装置)によって航跡を一般に調べられるようになっていることを前回の事故で知りましたが、今回はアニメーションで示したユーチューブの映像が投稿されており、よく分かりました。近くの工場より遠洋の船の方が各種データのほかリアルタイムに把握できるということです。それでも、場所を特定できるとまずい自衛隊や海上保安庁の取締り船は停波しているそうですが、このような衝突事故があれば、有用な情報源だと思います。
 今回、調べていてびっくりしたのは、LPGタンカーのジェネシス・リバー号を傭船したのが、日本の川崎汽船だったことです。 2019年3月に起こった「米国テキサス州で13基の貯蔵タンクが6日間火災」の発災事業所のインターコンチネンタル・ターミナル社が日本の三井物産の所有する施設だったことに続いてのびっくりです。日本の企業が世界的に活躍するのはいいのですが、資金だけ出して事故に関係するのは興ざめですね。