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2020年10月30日金曜日

米国ワシントン州のアスファルト・プラントで爆発・火災、タンクへ延焼

  今回は、 20201011日(日)、米国ワシントン州ピアース郡タコマ(Tacoma)にあるガードナー・フィールド社のアスファルト・プラントで爆発・火災が起こり、アスファルト・タンクに延焼した事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 事故があったのは、米国ワシントン州(Washington)ピアース郡(Pierce)タコマ(Tacoma)北東部のテーラー通りにあるアスファルト会社のガードナー・フィールド社(Gardner Fields)である。

■ 発災があったのは、アスファルト・タンクを含むガードナー・フィールド社のアスファルト・プラントである。

事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 20201011日(日)午前4時頃、アスファルト・プラントで爆発があり、火災となった。

■ 発災に伴い、タコマ消防署の消防隊が出動した。 消防隊が現場に到着すると、爆発音が聞こえ、大きな炎が立ち昇っていた。

■ 消防隊には、ハズマット隊のメンバーが加わった。何度も爆発があり、消防隊は何が燃えているのかを判断するため、現場から距離をおいて準備した。

■ 当初、消防隊は防御的消火戦略をとり、火災の拡大回避策をとった。

■ 火災は、70トンの入ったアスファルト・タンクから火が出た。

■ ワシントン州エコロジー局とタコマ環境部は、流出する消火水などの液が近くの海域に入らないようにするために行動した。燃焼するアスファルトは危険な化学物質を大気に放出する可能性がある。ワシントン州エコロジー局とタコマ環境部は、近くの住民にしばらく屋内にとどまるよう勧告した。

■ 住民の中には、火災から出る濃い煙が有毒ではないかと心配した。ひとりの女性は、「私はすぐに起きて窓を閉め、開いていた他の窓も閉めました。タコマ消防署のツイッターによると、火災はアスファルト・プラントで、アスファルトは石油からできているという話でした。それで、地元にどんな危険がもたらされるのか心配です」と話した。

■ 消防隊は、泡消火を始める準備として、プラント内の天然ガスと電力の供給を止めさせた。その後、消防隊は泡放射による消火活動を実施し始めた。

■ 発災現場から流れていた黒煙は上昇していて、住宅街には落下していないようだった。風は住宅街ではなく、海側に向かう風だった。

■ その後、黒煙は目に見えて減少していった。

被 害

■ アスファルト・タンクや配管などプラント内の設備が焼損した。

■ 負傷者はなく、人的被害は無かった。

< 事故の原因 >

■ 事故の原因はアスファルト・タンクの供給配管とバルブの機械的な故障だとみられている。しかし、どのようにして火災が始まったかははっきりしていない。 

< 対 応 >

■ タコマ消防署の消防隊は、消火するまでに時間がかかったが、ハズマット隊(Hazmat)の支援によって環境への影響を最小限に抑えた。

1011日(日)午後の早い時間までに、火災は消された。

■ 火が消えたあと、消防隊はプラント内に残っているホットスポットを手動放水銃ですべて消した。

■ 環境保全の請負業者はこの時点でもう一度現場の状況を確認した。消火泡の混合液が流出したときのため、請負業者は、オイルフェンスを展張していた。しかし、プラントの防油堤から流出するものは無かった。

■ 火災が消火された時点で、近くの住民に屋内にとどまるよう出されていた勧告は解除された。   

■ 調査中ではあるが、事故の原因はアスファルト・タンクの供給配管とバルブの機械的な故障だとみられるという。


補 足

■「ワシントン州」(Washington)は、米国の北西端に位置する州で、人口約672万人である。

「ピアース郡」(Pierce)は、ワシントン州の西部に位置し、人口約80万人の郡である。

「タコマ」(Tacoma)は、ピアース郡の西に位置し、コメンスメント湾に面した人口約20万人の都市で、郡庁所在地である。

 なお、ワシントン州では、 202010月になって「米国ワシントン州でポンプ故障でタンクからガソリン流出」に続いて 2件目の事故である。

■「ガードナー・フィールド社」(Gardner Fields)は、アスファルトを取り扱う会社で、ガードナー・ギブソン社( Gardner-Gibson )の系列である。ガードナー・ギブソン社は道路・屋根・防水コーティング材、コーキング材、壁紙用接着材を製造・販売しており、タコマのアスファルト・プラントは、北米における13箇所の施設のひとつである。

■ 火災になったアスファルト・タンクは、70トンが入っていたという情報のほかには、タンクの大きさなどの仕様は報じられていない。グーグルマップで調べると、タコマのアスファルト・プラントには、高さは異なるが、直径が約2.5m3.7mの同じようなタンクがある。直径約3.7m×高さ約16mのタンクは容量が170KLほどである。直径約3.4m×高さ約10mのタンクは容量が90KLほどである。直径約3.0m×高さ約5mのタンクは容量が35KLほどで、直径約2.5m×高さ約5mのタンクは容量が24KLほどである。被災写真を見ると、も最も高いクラスのタンクは火災になっていないとみられる。従って、火災になったと報じられたタンクは、直径約3.4m×高さ約10m×容量約90KLの中程度に高いタンクではないでろうか。

■「ワシントン州エコロジー局」(Washington Department of Ecology)は、1970年に設立されたワシントン州の環境行政機関で、レーシーに本部があり、職員数約1,600人の組織である。水質、水源、大気、海岸線管理、有害物質のクリーンアップ、核廃棄物、有害廃棄物などの環境保全を担当しており、流出事故の対応も所管する。他の州と異なり、環境保全という名称でなく、エコロジー(生態学)という名称を使っている。

所 感

■ 今回の事故は報じられている内容だけでは状況がよくつかめず、アスファルト配管やバルブの異常があっても、火災に至る要因は思いつかない。一方、まわりが暗い朝方の被災写真では、地上付近で火炎が上がっており、当初は、アスファルトの加熱に使用する天然ガス配管で火災が起きたのではないだろうか。

 最近は、配管やポンプを起点とする爆発・火災事故が起こっている。新型コロナウイルスの所為ではないだろうが、現場の点検・検査が甘く、抜けが出ていないことを確認する必要があるように感じる。   

■ 消火活動は、つぎのような点で適切な判断をしている。

 ● ハズマット隊を出動させ、火災の燃料源を特定しようとしたこと。

 ● 爆発が数回続いており、二次災害を避けるため、最初は防御的消火戦略をとったこと。

 ● 天然ガスの供給を止めた後、積極的消火戦略をとり、泡消火を始めたこと。

 ● 消火後、プラント内に残っているホットスポットを手動放水銃で消したこと。

 一方、タコマ消防署は環境への影響を最小限に抑えたと言っているが、火災は午前4時~午後早い時間まで続いている。アスファルトという消火の困難でない液体であり、プラントの配置もアクセスが比較的容易な現場の火災に対して、消火までに10時間以上費やしたことになる。消防資機材の課題か、消火水や泡薬剤の供給課題か、発災現場で想定外のことが発生か、何か問題があったのではないだろうか。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    King5.com, Crews battle flames, explosions at Tacoma asphalt plant,  October 11,  2020

    Komonews.com, Cause of early morning fire at NE Tacoma asphalt plant ruled accidental,  October 12,  2020

    Powderbulksolids.com, Multiple Explosions, Fire Reported at Asphalt Plant,  October 12,  2020

    Unews.com, Mechanical Problems Likely Cause of Industrial Plant Fire,  October 12,  2020

    Industrialfireworld.com, Crews Battle Flaming Asphalt Plant in Washington State,  October 12,  2020

    Kiro7.com, Fire, explosions erupt at asphalt plant in Tacoma, causing damage,  October 11,  2020

    Ien.com, Fire, Explosions at Asphalt Plant Likely Caused by Mechanical Failure,  October 17,  2020

    Manufacturing.net, Fire, Explosions at Asphalt Plant Likely Caused by Mechanical Failure,  October 16,  2020


後 記: 今回の事故は、情報量が少ないということはありませんでしたが、メディアによって少しずつ内容が違っており、状況が今一つはっきりしませんでした。ワシントン州では、202010月になって2件目の事故です。以前、メディアが新型コロナ対応でテレワークを主体とする取材になっているため、内容が希薄になったと書きましたが、メディアだけでなく、現場も点検・検査が希薄になっていないか憂慮して、あえて所感に書きました。









2020年10月25日日曜日

タイの石油精製所で機器のテストラン中にタンク爆発、死者2名

  今回は、 2020929日(火)、タイの中部にあるサムットサーコーン県にあるGRDエナジー社の石油精製所の建屋内にあるオイルタンクが爆発して、火災になり、死者が2名出た事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、タイの中部にあるサムットサーコーン県(Samut Sakhon)にあるGRDエナジー社(GRD Energy Co.)石油精製所である。サムットサーコーンは首都バンコク(Bangkok)の南西約30kmにあり、石油精製所は2か月ほど前にできたばかりで、使用済のモーターオイルを代替燃料に精製する。

■ 事故があったのは、石油精製所の建屋内にあるオイルタンクである。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2020929日(火)午前8時頃、石油精製所の建屋内で新しい設備をテストしているときに爆発が起こり、火災となった。

■ 929日(火)に新しい設備のテストを行うため、朝から社内の技術スタッフ8名が石油精製所で作業を行っていた。45歳と27歳の技術スタッフは、蒸留ユニットの隣にあったオイルタンクの前に立っていた。そのとき、爆発が起こって火災となり、火災に巻き込まれてふたりは死亡した。そのほかの技術スタッフは別な場所にいて、けがは無かった。

■ 発災は、容量800リットルのオイルタンクと蒸留ユニットの接続部で起こったとみられる。蒸留ユニットはオイルタンクの油を200℃以上に加熱するためのもので、接続部が損傷していた可能性があり、内部の圧力が爆発を引き起こしたとみられている。損傷でなく、溶接していなかったと報じているメディアもある。

■ テストランは、数週間前に設置された2台の新しいマシン(設備)について行われていた。

■ 爆発によって、幅1.5m×長さ3mの蒸留ユニットの蓋が飛び散り、建屋の屋根と壁の一部が剥がれ落ちた。

■ 発災に伴い、消防隊が消防車2台とともに出動した。

被 害

■ 爆発・火災によって2名の従業員が死亡した。

■ 石油精製所のオイルタンクなどの設備が損壊した。所有者によると、全損害額は1,000万バーツ(320,000米ドル=3,500万円) になるとみられている。

■ 設備のほか、石油精製所の建物の壁や屋根の一部が剥がれ落ちた。  

< 事故の原因 >

■ 事故の原因は調査中である。

■ 発災はオイルタンクと蒸留ユニットの接続部で起こったとみられるが、接続部が損傷していた可能性があり、内部の圧力が爆発を引き起こしたとみられている。損傷でなく、溶接していなかったという情報もある。

< 対 応 >

■ 火災は消防隊によって20分ほどで消された。 

■ 地元タイにおける事故のテレビ放送の情報はユーチューブに投稿されている。Youtubeถังเครื่องกลั่นน้ำมันโรงงานระเบิดไฟคลอกดับ 2」を参照)

補 足

■「タイ」(Thailand)は、 正式にはタイ王国で、東南アジアに位置し、人口約6,680万人の立憲君主制の国家である。首都は人口約825万人のバンコクである。

「サムットサーコーン県」(Samut Sakhon)は、タイの中部に位置し、タイランド湾に面した人口約52万人の県である。

 タイにおけるタンクの事故としては、つぎのような事例がある。

 ● 20104月、「タイで石油タンクに擲弾(てきだん)によるテロ攻撃(2010年)」

■「GRDエナジー社」(GRD Energy Co.)は、タイのクリーンエネルギー会社である。 検索すると、住所は、19/16, . พระราม 2 Khok Krabue, Mueang Samut Sakhon District, Samut Sakhon 74000 Thailandと表示されるが、このあたりに該当するような建物は見当たらないし、会社の詳細を示す情報は出てこない。報道では、この会社の石油精製所(Oil Refinery)は2か月ほど前にできたばかりで、使用済のモーターオイルを代替燃料に精製するとあり、大々的な製油所ではなく、廃油の再生設備、すなわち廃油の蒸留による燃料製造を行っていると思われる。

■ 発災した「廃油の蒸留による燃料製造装置」がどのような製造フローか分からないが、廃油をディーゼル燃料に精製する装置の例を図に示す。(この動画は、ユーチューブのDOING waste oil to diesel oil refining distillation machineを参照)

■「発災タンク」は容量800リットルのオイルタンクとあるが、常圧式円筒タンクではなく、横型の圧力タンクではないかと思う。容量からすれば、直径0.7m×長さ2mほどの容器である。被災写真の中に、鏡板が噴き飛んだ横型タンクがあるが、これが発災のオイルタンクではないだろうか。

所 感

■ 今回の事故は今一つ状況がはっきりしないが、つぎのような推測をした。

 ● 事故があったのは、廃油の再生設備、すなわち廃油の蒸留による燃料製造装置と思う。

 ● テストランの目的は2台の新しい機械だったが、運転は廃油の蒸留による燃料製造装置全体について実施されていた。

 ● オイルタンクは常圧式円筒タンクではなく、横型の圧力タンクと思う。

 ● 発災は「オイルタンクと蒸留ユニットの接続部の損傷」とある。一方、被災写真をみると、鏡板が噴き飛んだ横型容器があり、これがオイルタンクではないかと思う。このような破裂状況はオイルタンク本体(鏡板と胴体)の溶接不良ではないだろうか。

 ● 被災写真によると、横倒しになった機器が多く見られ、オイルタンクの爆発とその後の火災で被災したものだろう。建屋の壁がはげ落ち、一部の屋根が吹き飛んだ状況が見られ、爆発時の激しさがうかがえる。

■ 消火活動時間は20分ほどだったというが、これも状況がはっきりしない。消防車2台ということで、消防隊は数人ほどではないだろうか。また、公的な消防署か、会社または地区の消防隊なのかは分からない。消火活動の写真が報道されており、石油火災に対して水噴霧で対応しているようにみえるが、これは最終段階だと思われる。火災は燃料源が尽きたことで消火されたものだと思う。 

備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

      Thethaiger.com, Explosion at new oil refinery kills 2 technicians,  September  29,  2020

      Hazardexonthenet.net, Explosion kills two at recently opened refinery in Thailand,  September  30,  2020

      Industrialfireworld.com, Explosion at Used Oil Refinery in Thailand Kills 2,  October  07,  2020

      Poandpo.com, Explosion kills two in recently opened refinery in Thailand,  September  30,  2020

      Thairath.co.th, แค่เปิด "ทดลอง" เครื่องกลั่นน้ำมันเครื่องเก่าบึม ย่างสด 2 คนงาน,  September  30,  2020

      News.thaipbs.or.th, ระทึก! ไฟไหม้โรงงานกลั่นน้ำมันเก่า เสียชีวิต 2 คน,  September  29,  2020

      Khaochad.com,ไฟไหม้โรงงานกลั่นน้ำมันทางเลือก คนงานถูกย่างสดตาย 2 ศพ คาดสาเหตุเกิดจากรอยเชื่อมทำให้ฝาถังกลั่นน้ำมันเกิดการระเบิดระหว่างการทดลองเครื่อง,  September  29,  2020


後 記: 今回の事故は、“タイの製油所でタンク爆発”という情報から、最初は屋外のタンク地区の事故だと思いました。事故写真を見て屋内事故だと分かりました。しかし、情報を整理したのですが、事故状況ははっきりしませんでした。意図的に事故を隠そうとしているのではなく、情報公開はオープンですが、理解が十分でない関係者のコメントを聞いて、理解が十分でない記者が記事を書いたという印象を持ちました。世界報道自由度ランキング2020では、タイは日本(66位)より悪い140位ですが、事故情報に限れば、被災写真を見る通り、日本よりオープンのような気がします。消防活動のノズルマンをサポートするホースマンを近くの別な工場の人がやっているのは、タイの国情を表しているのでしょうね。

2020年10月20日火曜日

兵庫県加古川市で解体中のタンクが爆発、死傷者2名

 今回は、2020年10月1日(木)、兵庫県加古川市にある繊維会社のオーミケンシ社の加古川工場で、現在は使用していなかった二硫化炭素の入ったタンクを解体中、爆発し、死傷者2名が出た事故を紹介します。
< 発災施設の概要 > 
■ 事故があったのは、兵庫県加古川市尾上町池田にある繊維会社のオーミケンシ社の加古川工場である。 

■ 発災があったのは、加古川工場内にある現在は使用していなかったタンクである。このタンクは二硫化炭素が入っていたもので、二硫化炭素はレーヨンを作る際の原料として使っていた。

 
< 事故の状況および影響 > 
事故の発生 
■ 2020年10月1日(木)午前11時30分頃、加古川工場のタンクが爆発を起こした。 

■ 加古川工場の工場関係者から、「タンクが爆発して火災になっている」と消防署へ通報があった。

■ この事故に伴い、工場従業員の男性ふたりが被災した。爆発によって、ひとりの男性が背中にやけどを負うなどして倒れており、その後死亡した。音を聞いて現場に駆け付けた別の男性は、喉に痛みを訴えて搬送されたが、軽傷である。 

■ 死亡した被害者は、当時、工場2階でタンクを電動のこぎりで解体し、配管を切断する作業中だった。タンクや配管には引火性の二硫化炭素が残っていたとみられるが、約10年間使われておらず、入っていない前提で作業していたという。工場では更地にするための解体作業をしていた。 

■ 現場は、山陽電鉄尾上の松駅から南に約600mで、付近に住宅街がある。 

被 害 
■ 工事中の従業員が爆発のため死亡した。 

■ 旧レーヨン製造装置のタンクや配管が爆発して損壊した。 

< 事故の原因 > 
■ 事故の原因は、タンクや配管に引火性の二硫化炭素が残っており、電動のこぎりの火花で着火し、爆発したものとみられる。 

■ タンクや配管は約10年間使われておらず、内部に可燃性液体などが入っていないという前提で作業していた。 

< 対 応 > 
■ オーミ ケンシ社は、10月2日(金)、従業員死亡事故について発生状況と関係者へのお詫びをウェブサイトに掲載した。警察および労働基準監督署によって原因調査されており、全面的に協力しながら原因究明に取り組んでいく旨を表明した。 
補 足 
■「兵庫県」は、近畿地方の西方に位置し、人口約546万人の県である。県庁所在地および最大の都市は神戸市(人口約152万人)である。  
「加古川市」は、兵庫県の南部にあり、人口約261,000人の市である。 
■「オーミケンシ㈱」は、彦根市の近江絹綿(おおみけんし)として1917年に創業した会社である。主要業務はレーヨン綿・糸など繊維であり、加古川に1965年に工場を新設した。しかし、2020年5月、取締役会で事業再構築策を決議し、レーヨン綿・糸の生産や関連事業の不採算部門を撤退することを決定した。この決定にもとづき、全従業員を対象として勇退勧奨(退職日は2020 年10月末日)が行われている。一方、継続する事業分野は不動産賃貸事業、環境問題に対応する研究開発、ホームファニシング・化粧品事業、食品事業、ソフトウェア開発である。
 
■「二硫化炭素」は、化学式CS2で、無色、揮発性の液体で、密度1.26g/c㎥、蒸気密度(空気を1として)2.62、引火点‐30℃で非常に燃えやすい。人への中毒性がある。比重が重いので、液表面を水で覆うと安全である。主にセロハンやレーヨンの製造工程の溶剤として利用されている。 

■「レーヨンの製造方法」は、木材パルプを原料として、パルプの中の天然セルロースをアルカリ(苛性ソーダ)処理した後、二硫化炭素と反応させてセルロース誘導体をつくる。これをアルカリ溶液に溶解させて原液(ビスコース)とし、この原液を細い孔の多数ある口金から酸性浴中に押し出し、繊維を形成させながら化学反応させて、セルロースを再生する。 
■「発災タンク」の大きさなどの仕様は分かっていない。 

所 感 
■ このところ、取り上げている事故情報は、つぎのように「一人作業」による人身災害が続いている。  
今回の事故も一人作業によるもので、被災者が亡くなっているので、詳しい事故状況は分からないだろう。 

■ 今回の事故の間接要因でまず誰もが気づくのは、つぎのような事項だろう。  
 ● タンクと配管の解体作業を従業員がなぜ一人で行っていたのだろうか。  
 ● 解体に際して、なぜガス検知を行わなかったのだろうか。  
 ● 作業を行う前の危険予知はやっていたのだろうか。  
 しかし、 事業所のことを調べていたら、2020年5月に取締役会で事業再構築策を決議し、レーヨン綿・糸の生産や関連事業の不採算部門を撤退することを決定し、この決定にもとづき、全従業員を対象として勇退勧奨(退職日は2020年10月末日)が行われていることを知った。被災者がどのような立場にいたのか分からないけれども、自覚と責任をもった行動をとらなければならないと安易に言えない事例である。
 

備 考  
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。 
・Nikkei.com, タンク爆発か、男性死亡 兵庫のオーミケンシ工場, October, 01, 2020 
・Tokyo-np.co.jp, 兵庫でタンク爆発か、男性死亡 繊維会社の工場、1人軽傷, October, 01, 2020 
・N-seikei.jp, オーミケンシ加古川工場でタンク爆発火災一人死亡 なんと二硫化炭素タンク解体中, October, 02, 2020 
・Kobe-np.co.jp, 兵庫でタンク爆発か、男性死亡 繊維会社の工場、1人軽傷, October, 01, 2020 
・Fp-ins-info.com, 兵庫県加古川市の「オーミケンシ」でタンク解体作業中に爆発事故, October, 01, 2020 
・Omikenshi.co.jp, 弊社従業員死亡事故について, October, 02, 2020 


後 記: 発災事業所が事業再構築策を決断したのは5月で、新型コロナウイリスの影響がどの程度あったか分かりませんが、世の中は倒産やリストラするところが増え、変わってきているのは確かです。Go To ○○に代表される政策やニュースで、「昨年と比べて…」、「元のように回復…」という言葉が使われていますが、これは上がるにしても、下がるにしても、リニア(線形)で物事を考えているといえるでしょう。新型コロナウイリスは戦争にたとえられますが、太平洋戦争が終わった8月15日を境にして人々の生活や価値観はリニアではなく、すべてがガラッと変わりました。リニア(線形性)の変化でなく、ある日を境にしてノンリニア(非線形性)の変化です。現在、人は意識しているか、意識していないかに関わらず、物事はノンリニア(非線形)で変化していくでしょう。過去の事例をひもとき、今後に活かそうというブログで、こんなことを書く世の中になるとは。

2020年10月16日金曜日

北海道のでんぷん工場で男性が点検中にタンクへ転落か、死亡確認

  今回は、 2020104日(日) 、北海道網走郡美幌町にある美幌地方農産加工農業協同組合連合会の家畜飼料用でんぷん工場内にあるタンクにおいて、男性従業員が亡くなるという人身災害事故を紹介します。

発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、北海道網走郡美幌町報徳にある美幌地方農産加工農業協同組合連合会の家畜飼料用でんぷん工場である。

■ 事故があったのは、でんぷん工場内にある原料の水溶液が入ったタンクで、大きさは縦4m×4m×高さ4mである。



< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2020104日(日)午前1時頃、でんぷん工場の原料の水溶液(水に溶かしたでんぷん)が入ったタンクの底に、男性従業員が意識不明の状態で沈んでいるのを同僚が発見し、消防署へ通報した。

■ 事故に伴い、消防署が出動した。被災者は救助され、病院に搬送されたが、間もなく死亡した。

■ 午前0時過ぎに機械に不具合が起き、被災者となった男性従業員はひとりで点検に行った。戻るのが遅いため、同僚が様子を見に行ったという。発見当時、タンク上部にある出入り口のふた(約60㎝四方)が開き、タンク内の攪拌(かくはん)装置も作動していた。同僚がタンクの中身を抜いて確認したところ発見された。

被 害

■ 男性従業員が人身災害で死亡した。

< 事故の原因 >

■ 事故原因は調査中であるが、被災者はタンク点検中に誤って転落したものとみられる。

< 対 応 >

■ 警察は誤って転落した可能性があるとみて調べている。


補 足

■「北海道」は、 日本列島を構成する主要4島のひとつで日本の北部に位置し、人口約524万人である。道庁所在地および最大の都市は札幌市である。

「網走郡」(あばしり)は、美幌町(びほろ)、津別町(つべつ)、大空町(おおぞら)の3町を含み、人口約30,500人の郡である。

「美幌町」(びほろ・ちょう)は、網走郡の中央に位置し、阿寒摩周国立公園のある人口約19,000人の町である。

■「美幌地方農産加工農業協同組合連合会」は、1966年に設立され、北海道網走郡美幌町報徳50にあり、業種は農林水産協同組合の飼料製造業である。

■「でんぷん工場」の製造フローの例を図に示す。原料がじゃがいもではないが、写真付きのさつまいものでんぷん製造工程を合わせて示す。「事故のあったタンク」は、二次ノズルセパレータの後工程になる貯槽または屋外でんぷんタンクに相当する設備ではないかと思う。

でんぷんの製造フロー
(写真はAlic.go.jpから引用)



でんぷんの製造工程写真はFurusato-tanegashima.net)
所 感

■ 今回の事故は、タンク関連の人身災害であるが、つぎのような硫化水素などの中毒や酸素欠乏症ではない。

 ● 20186月、「石川県の製紙工場において溶剤タンクで死者3名」

 ● 20192月、「大阪府のカーペット製造会社でタンク清掃時に転落、2名死亡」

類似例としては、むしろ、つぎの事故だと思う。

 ● 20151月、「海外で報道される東電福島原発の水タンクからの墜落死亡事故」

■ 今回の事故は、最近起きた「横浜市の小柴貯油施設跡地の覆土式地下タンクに工事中に転落(その後の情報)」2020825日)と同様、ひとりで作業をしていたときの死亡事故なので、事故時の状況は類推するしかない。今回、被災者となった男性従業員は点検に行っているが、発見当時、タンク上部にある出入り口のふた(約60㎝四方)が開いていたという。

「東電福島原発の水タンクからの墜落死亡事故」では、つぎのような作業口の設計不良だとみている。

 ● 100cm×80cmの開口部に対して人の墜落防止策が考慮されていない。

   ● 重量51kgの蓋の位置・構造が、人間の動作を考慮したものになっていない。(持ち上げるためには、人が最も不安定で腰に悪い姿勢になる)

 ● 蓋を持ち上げるための足元のスペースが配慮されていない。(屋根用の梁が足場の邪魔になる)

 ● 安全帯のフックを掛ける場所がない。(タンク屋根外周の手すりは遠すぎる)

今回の出入り口のふた(詳細な情報は不詳)についても、長年問題なくやってきたという考えでなく、安全の視点から見直すのがよいと思う。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Hokkaido-np.co.jp,  でんぷん工場で男性1人死亡 美幌,  October  04,  2020

    Htb.co.jp,でんぷん工場のタンクに転落か 男性作業員が死亡,  October  04,  2020

    News24.jp,  美幌で作業事故 1人死亡,  October  04,  2020


後 記: 今回の事故は「でんぷん工場のタンクで死亡」という一報から気になり、調べました。しかし、北海道の中でも札幌から遠い美幌町のことなのでしょうか、事故の状況はほとんど分かりませんでした。また、事故の起こったでんぷん工場の製造工程も分かりませんでした。じゃがいもではありませんが、さつまいものでんぷん製造工程がわかったので、これから類推することにしました。タンクというので、円筒タンクを想像していましたが、どうやら角形貯槽ではないかと思うようになりました。

2020年10月13日火曜日

横浜市の小柴貯油施設跡地の覆土式地下タンクに工事中に転落(その後の情報)

  今回は、 2020825日(火)、神奈川県横浜市の小柴貯油施設跡地の旧覆土式地下タンクに工事中の男性が重機ごと転落して死亡した事故のその後の9月に出た情報を紹介します。新しい情報は主に「対応」の後半部以降にまとめています。(前回のブログは「横浜市の小柴貯油施設跡地の覆土式地下タンクに工事中に転落」を参照)

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、神奈川県横浜市金沢区の旧米軍施設「小柴貯油施設跡地」である。 現在、跡地は日本に返還され、横浜市が公園整備を進めている。

■ 「小柴貯油施設跡地」は、旧日本海軍が燃料貯蔵基地として建設し、戦後は米軍が航空機燃料の備蓄基地として使用しており、敷地内には地上タンクが5基、覆土式地下タンクが29基ある。事故があったのは、直径約45m×深さ30mの地下タンクの1基である。

<事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2020825日(火)夕方、小柴貯油施設跡地の現場で、ダンプカーから降ろした土を重機(バックホー)でならす作業をしていた男性の行方が操縦していた重機ごと分からなくなった。 ダンプカーの運転手は午後1時頃に重機を確認していたが、およそ2時間後に重機がいなくなっているのに気付いたという。

■ 工事施工者は、重機と共に男性の姿が見えなくなっていることを消防へ119番通報した。工事は横浜市が発注し、飛島・奈良・センチュリー建設共同企業体が施工する西部水再生センターの下水道工事であり、工事で出た建設発生土を小柴貯油施設跡地の公園整備事業の盛土用の土として搬入していた。


■ 男性は下水道工事で現場付近に仮置きした残土を、重機で整地する作業をしていたが、近くに地下タンクがあり、上部の天蓋(屋根部)の一部が崩落していた。このため、男性は地下タンクに転落したとみられている。周囲に柵はなく、男性が操縦していた重機は重量が20トンほどあり、重機が進入してタンク天蓋(屋根部)に乗った際に壊れた可能性がある。地下タンクには、深さ約9mの雨水などが溜まっているとみられる。

■ 県警と消防が捜索に当たったが、二次災害の危険があるとして25日(火)午後7時頃に中断した。救助活動を行うには、タンク内の水を抜く必要があり、翌26日(水)午後から排水ポンプを5台投入するための土台の設置や周辺の整地作業を進めた。

■ 826日(水)、県警と消防は、男性の捜索活動を再開したが、同日午後9時までに見つからなかった。地下タンクは水が溜まっており、排水して安全確認をした上で、捜索を本格化させるという。排水作業は27日(木)以降までかかる見込みで、県警などは、残った天蓋(屋根部)や新たな土砂の落下などの二次災害の懸念がなくなった段階で救助を始めるという。

被 害

■ 地下タンク近くで作業をしていた男性1名が、深さ約30mの地下タンクに重機(バックホー)ごと転落し、死亡(内部に溜まっていた水による溺死)した。

■ 戦前に建設された覆土式地下タンクの天蓋(屋根部)が一部崩落した。

< 事故の原因 >

■ 事故原因は、覆土式地下タンクの天蓋部(屋根部)に進入し、屋根部が重機の重み(約20トン)で崩落し、天蓋部(屋根部)に居た作業者が重機ごと地下タンクに転落したとみられる。

< 対 応 >

■ 排水作業を行いながら捜索していたが、828日(金)、警察と消防は地下タンク内で行方不明となっていた男性を発見したが、すでに死亡していたことが確認された。市消防局によると、同日午前1045分頃、地下タンク内で重機の一部が見つかり、救助隊員が潜水して捜索するなどして午後535分頃、水の中にあった重機の操縦室内で男性を発見した。発見時、重機は横倒しになった状態で、窓ガラスは割れていたという。

■ 工事を発注した横浜市は、工事施工者に地下タンクを避ける形で作業場所を指定していたという。しかし、天蓋(屋根部)の縁ギリギリまで盛られた土が崩れていることなどから、横浜市は、男性が覆土式地下タンクの天蓋(屋根部)の上で作業をしていたのではないかとみている。

■ 91日(火)、神奈川県警は、横浜市の公園造成現場で重機ごと深さ約30mの地下タンクに転落し、遺体で見つかった男性を司法解剖した結果、死因は溺死と発表した。 

■ 92日(水)、横浜市によると、男性は地下タンクの近くでダンプカーが運んできた土砂を重機でならす作業を担当しており、作業場所は当初、覆土式地下タンクの天蓋(屋根部)より5mほど低かったものの、土砂をならすうちに高低差がなくなったとみられるという。この事故に関連して、横浜市長は、記者会見で、工事の指示書では土砂を置く場所は、地下タンクの縁から10m以上離れた地点を指定していたと明らかにし、現場にどのような指示が伝わっていたのか、調べる考えを示した。

 横浜市によると、今年5月、土砂の搬入が始まる前に、市の担当者や工事施工者が立ち会って現場で土砂を置く場所を検討したという。この時、地下タンクの縁から少なくとも14m離れたおよそ2,300㎡の場所を置き場に指定したという。しかし、横浜市によると、事故のあと、指定された場所の外側にも土砂があることが分かったということで、横浜市では、当時、現場にどのような指示が伝わっていたのか調べることにしている。


■ 925日(金)、事故発生から1か月を迎える。重機の重みでタンク跡の天蓋(屋根部)が崩落したとみられるが、横浜市は、「あらかじめ決められたルート以外は通らない指示になっていた」という。横浜市議会で転落事故に関する質疑があり、横浜市は、工事を受注した工事施工者側に示した図面にタンク跡の位置が明記されていなかったことを明らかにした。毎日新聞では、残土置き場の事故前後の状況を分かりやすく図に示した記事を掲載した。

■ 928日(月)、25日に行われた横浜市議会の質疑応答で分かったことは、つぎのような事項である。

 ● 西部水再生センターの下水道工事で発生した建設発生土は、当初、南本牧ふ頭に搬出予定だったが、20205月初めに小柴貯油施設跡地に残土置き場を設けることに変更した。

 ● 514日(木)に現場で立会いの打合せを行った。その際、横浜市の下水道担当者、公園担当者、工事施工者で搬入ルートや仮置き場所の位置などについて確認をした。その際の資料は、横浜市の公園部局の職員が作成して提供した。

 ● その打合せで使用した資料は下記の図である。この資料では、残土置き場はBを指定したもので、事故が起きた残土置き場Aを指定したものではなかった。これは、当初、Bの所に残土を置くためのもので、その後、Bが一杯になったので、Aの方に置くように横浜市が指示した。


 ● 写真は残土を積む前のAの様子であるが、タンクは見えない状況だったし、地図上にも示されていなかった。タンクの位置をどのように伝えたのか、現場でどのようなやり取りがあったかについては、現在捜査中という理由で回答はなかった。


 ● 写真は残土置き場Bで残土が積みあがっている様子で、高さが約
4mである。残土置き場Aも同じように積み上げられていたが、横浜市が行った写真での確認では、概ね5m程度と推測される。

 ● 事故の検証は、現在、警察の捜査および労働基準監督署の調査が進められており、横浜市としては協力しており、捜査に関わることについては回答できないという。

■ 9月に行われた金沢区町内会連合会定例会において、横浜市の事故概要説明において、タンク内には推定約 10,000㎥の水が溜まっていたことが分かった。 

補 足

■「神奈川県」は、日本の関東地方に位置する人口約920万人の県である。

「横浜市」は、神奈川県東部に位置し、県庁所在地で人口約375万人の政令指定都市である。

「金沢区」は、神奈川県南端部に位置し、三浦半島の東側にあり、人口約197,000人の行政区である。

■「小柴貯油施設」は、戦前(1937年頃)に旧日本軍が燃料の貯蔵基地として建設されたものである。第二次世界大戦後に進駐した連合国軍が、市内中心部や港湾施設などを広範囲に接収し、接収された土地は市全体で最大で1,200ヘクタールあり、小柴貯油施設は米軍が航空機燃料の備蓄基地に使っていた。敷地内には地上タンクが5基、覆土式地下タンクが29基ある。
 米軍の接収地は、解除を求める運動の機運が高まり、1952年には大桟橋や今の横浜スタジアムなどの土地が返還されている。その後、断続的に返還され、今回、事故が起きた53ヘクタールの金沢区の旧「小柴貯油施設」は、戦後60年の2005年に返還され、国が横浜市に現況のまま全面積を無償貸し付けし、現在、横浜市が公園整備を進めている。

■ 横浜市が策定した「小柴貯油施設跡地利用基本計画」(20203月)の表紙写真は、つぎのとおりである。この写真に限らず、横浜市が作成した小柴貯油施設跡地の図には、地下タンクの場所が示されている。一方、9月に横浜市議会で明らかになった「(仮称)小柴貯油施設跡地公園 土砂搬入場内案内」では、なぜか地下タンクの位置が示されていない。ただし、過去に爆発火災を起こして天蓋部(屋根部)が無くなった地下タンクだけは図に位置が示されている。

■ 「覆土式地下タンク」は、直径約45m×深さ30mで、屋根部は鉄製の桁(けた)の上にコンクリート製の蓋が載せられ、その上に土がかぶされていると報じられている。しかし、横浜市作成の「小柴貯油施設跡地利用基本計画」(20203月、横浜市返還施設跡地利用プロジェクト)では、貯油タンクの概要について、つぎのようになっており、事故のあった地下タンクは、5号タンクと称し、直径38m×高さ28m、内空体積34,006㎥となっている。「直径約45m×深さ30m」のデータも横浜市が提示しており、コンクリートの厚さを含めたものと思われる。  

所 感 (前回;917日)

■ 今回の事故の直接要因は、重機操縦者が亡くなっているので分からないだろう。 間接要因は、盛り土の形成状況から重機操縦者の“善意の行動”だと感じる。事前の打ち合わせでは、建設発生土(残土)の置き場は「地下タンクの縁から少なくとも14m離れたおよそ2,300㎡の場所」に指定されたとある。2,300㎡は(たとえば、20m×100mに相当するかなり広い空地である。このような空地に残土が置かれ、盛り土を形成することはむずかしくはない。まして、重機操縦者は下水道工事を請け負った工事施工者の作業員である。ところが、盛り土は傾斜地で地下タンクの縁まで積み上げられている。推測だが、重機操縦者はどこに使う残土だろうという疑問をもち、地下タンクの埋め立てに使うらしいということを知ったのではないだろうか。重機操縦者は自分の技量を発揮して、地下タンクの縁の方へ残土を運んだのではないだろうか。“善意の行動”の発意ではあったが、残念なことに地下タンクの位置を知らなかったので、覆土式地下タンクの天蓋部(屋根部)にまで進入してしまった。

■ 事故の未然防止のためには、①「ルールを正しく守る」、②「危険予知活動を活発に行う」、③「報連相(報告・連絡・相談)により情報を共有化する」の3つが重要である。重機操縦者には、これらのいずれかが欠けていたために事故となったと思われる。 一方、今回の事故では、盛り土の形成状況を見ると、相当な時間が経過していると思われ、工事施工者および発注者の階層(所長、マネージャー、担当者など)ごとの「ルール」の観点、「危険予知活動」の観点、「報連相」の観点の失敗要因について分析・対応を考える必要があると思う。(階層ごとの失敗要因と対策の解析例は、「太陽石油の球形タンク工事中火災(2012年)の原因」および「三井化学岩国大竹工場の爆発事故(2012年)の原因」を参照)

所 感 (今回)

■ 前回、「事故の間接要因は、盛り土の形成状況から重機操縦者の“善意の行動”だと感じる」と書いた。しかし、今回の情報(残土置き場の場所を示す図面に地下タンクの表示なし)で、重機操縦者は覆土式地下タンクの存在をまったく知らなかったのではないかという考えが浮かんだ。横浜市が 「地下タンクの縁から少なくとも14m離れた場所」という指示については、工事施工者(あるいは重機操縦者)は、発災のあった覆土式地下タンクではなく、天蓋部(屋根部)のない地下タンク(6号タンク)と理解する可能性がある。

■ 残土置き場が変更になったという情報を知って、残土置き場が写った写真を調べた。そうすると、当初の残土置き場Bは高さ約4mで整然と積まれ、いっぱいになっている。このため、残土置き場がAに変更になったとみられるが、この置き場は一部がすでに別な残土が積まれ、スペースが限られている。このため残土置き場Aはかなり無理な積み上げ方をしており、覆土式地下タンクの法面を埋める形で積まれている。当初は善意の行動でタンク埋め立てに便利なように積んだのではないかと思っていた。これは覆土式地下タンクのことを知っていたという前提だが、重機操縦者は覆土式地下タンクの存在をまったく知らなかったのではないかという気もする。

■ 事故の未然防止のためには、①「ルールを正しく守る」、②「危険予知活動を活発に行う」、③「報連相(報告・連絡・相談)により情報を共有化する」の3つが重要であるが、今回の事故では、「報連相(報告・連絡・相談)により情報を共有化する」がポイントであろう。(重機操縦者が亡くなっているので、解明はむずかしい)

備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

   ・Asahi.com,  米軍跡地で重機転落、男性不明 穴に大量の水、救助難航,  August  26,  2020

    Nhk.or.jp,   横浜 重機転落事故 地下タンクの水を抜き作業員救助へ,  August  26,  2020

    Kanaloco.jp,  男性作業員落下、捜索再開も発見できず タンクには重機跡,  August  26,  2020

    Tokyo-np.co.jp,  重機ごと男性が地下タンクに転落か 横浜の米軍施設跡地,  August  26,  2020

    Kanaloco.jp,  地下タンクに落下の作業員、死亡を確認 重機操縦室で発見,  August  28,  2020 

    Jcp.or.jp,  重機地下タンク落下調査,  September  01,  2020

    Anzendaiichi.blog.shinobi.jp,  2020825日、横浜市で米軍燃料基地返還後の・・・,  September  01,  2020

    Sankei.com,  横浜のタンク転落、死因は溺死 重機操作の男性,   September  03,  2020

    City.yokohama.lg.jp, (仮称)小柴貯油施設跡地公園 基本計画

    City.yokohama.lg.jp, 小柴貯油施設跡地利用基本計画, March, 2020

    Shippai.org,   隣接タンク工事の火花による米軍覆土式地下石油タンクの火災

    City.yokohama.lg.jp,  小柴貯油タンクの爆発事故の真相究明を横浜市に要求, December  19, 2019

    Img.p-kit.com,   西柴団地の歴史

    Jstage.jst.go.jp, JP4」タンク火災における輻射熱,  安全工学,Vol23,No.4,  1984

    Furuya-yasuhiko.com, 横浜市が打ち合わせ時に示した地図には事故のあったタンクは描かれていなかった・・・ ,   September  28,  2020

    Mainichi.jp,  重機転落1か月、ふたの上走行、なぜ 土かさ増し、行き来容易に、横浜市「想定外」を強調,   September  25,  2020

    Mainichi.jp,  重機転落死 穴の位置、図に記さず、横浜市、JVに提示,   September  26,  2020

    Kanazawa-chikurengo.jp,  金沢区町内会連合会定例会(令和2年9月),   September,  2020


後 記: 今回の事故は首都圏で起こったので、事故当初はいろいろなメディアやSNSで取り上げていました。その後、横浜市議会で質疑応答が行われ、新たに分かった情報が出ましたが、私が知る限り、メディアでは毎日新聞だけが報じています。(地方紙や地方版は?ですが) 熱しやすく、冷めやすい典型の日本人的で、大手メディアからこれですから、なんとかならないでしょうかね。

 ところで、前回の後記に周南市(旧徳山市)にある旧日本海軍が建設した覆土式地下タンク(最大は内径88m×深さ10m×容量50,000KL)について書きましたが、108日付け朝日新聞山口版に「周南緑地今なお戦時の油」と題して旧日本海軍の覆土式地下タンクに関する記事が掲載されました。副題は「旧海軍の地下タンク跡から流出か」、「大雨で川へ」、「根本的改善策なし」ということで、建設時のことと現状のことが書かれていました。その中で、「周南緑地に残る巨大な貯油タンクの跡」の写真が載っていました。さっそく見に行ってきました。サッカー場の東端にあり、なんども見ていましたが、これが地下タンク跡とは思ってもいませんでした。