2014年3月25日火曜日

米国ワシントン州の放射性廃液タンクの漏れリスク増大

 今回は、米国ワシントン州にあるハンフォード・サイトと呼ばれるエネルギー省管轄の放射性廃棄物保管施設にある二重壁型の放射性廃液タンクから漏れがあったほか、二重壁型タンク28基のうち20基は漏洩のリスクが高いという情報について紹介します。
二重壁型タンクAY-102は1969年に建設されたもので、2012年に放射性廃液が内殻から漏れ、外殻との間のアニュラーエリアに流れ出た。                         
 (写真および解説はTri-CityHerald.comから引用
<状 況> 
■ 米国ワシントン州にあるハンフォード・サイトの核保有施設は西半球で最も大きな放射性廃棄物保管施設である。そして、米国内で大きな環境問題となっているが、そこで何が起こっているかについてはあまり知らされていなかった。ここにきて、福島の災害をきっかけに注目されるニュースになっている。

■ 2014年3月1日、AP通信は入手した資料から、ハンフォード・サイトの放射性廃棄物保管施設にある比較的新しい二重壁型の放射性廃液タンクから漏れがあったほか、6基については漏洩に至る恐れのある“重大な建設時の欠陥”があるという情報を流した。
ハンフォード・サイト
(図はエネルギー省ハンフォードのウェブサイトから引用)
タンク所の配置
(図はエネルギー省ハンフォードのウェブサイトから引用)
■ ハンフォード・サイトの二重壁型放射性廃液タンク28基には、米国本土で最も放射能汚染のひどい核兵器施設の中で、最もひどい放射性廃液を保管している。2012年に、この大型タンクの1基から漏洩していることが分かった。さらにその後、二重壁型タンクについて米国エネルギー省がハンフォード・サイトの請負会社の一社に委託した追跡調査によって、将来漏れに至るタンクには少なくとも6つの共通的な欠陥のあることがまとめた資料で分かった。資料によれば、13基のタンクに漏れ発生の恐れがあるという。
二重壁(ダブル・シェル)型地下タンクの構造例 
 (図はエネルギー省ハンフォードのウェブサイトから引用)
■ 貯蔵タンクに関する課題は、ワシントン州南東部における放射性廃液のクリーンアップ作業の実施が危ぶまれていることである。ハンフォード・サイトのクリーンアップには、すでに年間20億ドル(2,000億円)の税金が投入されている。ロン・ワイデン上院議員はエネルギー省アーネスト・モニス長官宛の2月28日金曜の書簡の中で、「エネルギー省にとって、ハンフォードの状況が有効に管理されているという隠し球(実態隠し)や偽りをやめる時期は今でしょう」と述べている。 

■ エネルギー省ワシントン州リッチランド支部の担当官は、当局としては徹底した検査を継続して実施しているし、検査周期は増やしていると語っている。エネルギー省タンク地区の部長補佐であるトム・フレッチャー氏は、「タンクの使用は5年~7年で見直しています。現在、3年間の時間枠に移行しつつあります」と語った。フレッチャー氏によると、エネルギー省では、2012年に漏洩が発見されて以降、分析されていなかった二重壁型タンク8基について検査工程に入っているという。フレッチャー氏は、新たな漏れは見つかっていないといい、「タンク地区において潜在するリスクの把握や、これまでの経験に基づいて実施してきた管理手法について変更や改善の必要があれば、私どもは取り組んでいきますよ」と語った。さらに、エネルギー省では、ハンフォード・サイトに新しい貯蔵タンクの建設可能性について検討を継続していると、フレッチャー氏は付け加えた。

■ 放射性廃棄物の排出や漏洩の問題は、ワシントン州だけに限られたものではない。2週間前には、ニューメキシコ州の核廃棄物地下処分場で働いていた作業員13名が被爆するという事故が起こった。地上における放射線量は廃棄物隔離パイロット施設の操業を停止させるもので、当局は漏洩の原因と作業員の健康への影響について調査を行っている。 

■ 市民監視グループ「ハンフォード・チャレンジ」のトム・カーペンター氏は、二重壁型タンクから漏れの起こる危険性が高いという話は驚くようなことではないと言い、「タンクには設計寿命というものがあります。悪いのは、タンクを新しく建てて管理しようとしないことです」と語った。カーペンター氏は、さらに、タンクを新しくすることは安くはないが、漏れてクリーンアップするようになったら、もっと高くつくと言い、「この廃棄物が一旦外へ出てしまい、汚染された環境をクリーンアップするための費用は計りしれないものになります」と語っている。

■ ハンフォード・サイドには、核兵器用のプルトニウム製造過程から出た高レベルの放射性廃液が5,300万ガロン(20万KL)保管されている。この放射性廃棄物は177基の地下貯蔵タンクに保管されているが、その多くは1940年代の第二次世界大戦時に建設された一重壁型である。これらの一重壁型はあとから製作された二重壁型に比べて補強性に欠けており、すでに多くの漏れが見つかっている。28基の二重壁型タンクは1960年代から1980年代にかけて建設されており、それでも30年~50年を経過している。
 新しいプランでは、130億ドル(1兆3,000億円)を掛けて廃液の処理施設を建設する一方、放射性廃液は、漏れのある一重壁型タンクから新しい大型の二重壁型タンクへ移し換えて保管する計画であった。しかし、処理施設は設計上の問題に悩まされ、建設は中断している。

■ 2012年10月のニュースが流れるまでは、ハンフォード・サイトの状況が悲惨なものと思われていなかった。2012年10月、AY-102と呼ばれる最も古い二重壁型タンクから漏れていることが分かった。これが28基ある二重壁型タンクの最初の漏洩事故になった。このとき、エネルギー省は、漏れたタンクだけにあった建設時の問題のせいにし、他の二重壁型タンクで漏れる可能性は“考えにくい”と発表した。

■ しかし、ワイデン上院議員によると、技術的な見直しを行なった結果では、6基の二重壁型タンクについて建設時の重大な欠陥があることがわかり、漏れたタンクと本質的に同じだという。ワイデン上院議員は、最近まで上院エネルギーおよび天然資源委員会の委員長を務めており、同議員の書簡では、6基のタンクに約500万ガロン(3,500KL)の放射性廃液が入っているという。
 ワイデン上院議員の入手した資料によれば、例えば、あるタンクには1次底部および2次底部に膨れがあることが分かった。また、このタンクは検査官によって不合格にされた溶接部が相当な数あり、建設時に再溶接されている。見直しの結果によると、13基の二重壁型タンクについては、漏れのあったタンクより多少マシな程度だということが分かった。「しかし、溶接の不合格率でわかるように、二重壁型タンクには建設時の問題点のあることが明らかで、これが懸念されるところであるとともに、“長期的なタンク健全性の不確実性”が高い」とワイデン上院議員は述べている。このことは、ハンフォード・サイトにおける28基の二重壁タンクのうち20基は憂慮されるレベルにあることを意味する。
 
■ ハンフォード・サイトに新しい貯蔵タンクを建設すべきだとするワシントン州とオレゴン州の両知事が行なった提案にエネルギー省は耳を傾けるべきだと、ワイデン上院議員は語った。タンク建設には、それぞれ1億ドル(100億円)以上のコストが掛かるとみられる。また、二重壁型タンクの建設時の欠陥について言及することなく、ハンフォード・サイトのクリーンアップ計画の枠組みを9月に発表したエネルギー省に対して上院議員は批判した。上院議員は、これを“インディフェンシブル”(防御否定)と呼び、「コロンビア川流域に暮らしている住民は、ハンフォード・サイトのタンクで何が起こっているのか全てのことを知る権利がある」と述べている。ワイデン上院議員は、エネルギー省に対して45日でアクション・プランの回答をするよう申し入れている。

■ 当局は、漏れた廃液が地下水系に達するにはおそらく何年もかかるので、廃液の漏洩は公共の安全や環境へすぐにリスクをもたらすことはないと語っている。
 AP通信のレポートが出された後、ドク・ヘイスティング下院議員(ワシントン州選出)は、“我々のコミュニティーや環境に対して新たな脅威ではない”といい、ハンフォード核廃棄物問題にとって“新しい貯蔵タンクも決して万能の方策ではない”という声明を出した。

■ 漏れのあったAY-102タンクの処置についてワシントン州エコロジー局核廃棄計画部のジェーン・ヘッジス部長は、「このタンクの廃液を移送する必要性についてずっと強く言ってきました。私たちは本当に憂慮しているのです」と語った。ワシントン州は、1月に廃液の監視計画について要請していたが、状況が悪化しなければ、何らアクションをとらないエネルギー省へ対して批判していた。3月7日(金)、エネルギー省はAY-102タンクからの移送計画を発表した。

■ エネルギー省ハンフォード・サイトが隔週毎に行っている検査によって、地下タンクのアニュアル部、すなわち内郭と外郭の間のスペース部にかなり大きな乾いた廃棄物のあることがわかった。アニュアル部をアクセスできるようにしたライザーに設置したビデオカメラは、底部の何もないところに影を撮し出していた。明らかに新しい乾いた廃棄物である。この新たしい乾いた廃棄物の大きさは、長さ7フィート×幅21インチ×厚さ1インチ以下(長さ210cm×幅530cm×2.5cm以下)と推測された。2012年、同じライザー部で撮影されたビオカメラの映像には何もなく、きれいな箇所だった。エネルギ-省は、タンクのアニュアル部に“条件の変化があっている”としか答えていない。ハンフォード・サイトの関係者は、いろいろな可能性をいい、内郭から複数の漏れが起こっているかどうかは分からないと言う。内郭と外郭の底部はセラミック耐火材であり、内郭はこの上に載っている。この内郭と外郭の間の円環部は冷却空気の通風路であり、廃液が漏れたときの逃げ場になっている。タンクの直径は75フィート(22.5m)である。廃液がタンク下の土壌部に達してはいないとみられている。
二重壁型タンクの内郭と外郭の間の空間         二重壁型タンクの内郭からの漏れ廃液 
 (写真はエネルギー省ハンフォードのウェブサイトから引用)
ビデオ撮影による検査  (上:2012年異常なし 下:2014年廃棄物らしいもの) 
 (写真はエネルギー省ハンフォードのウェブサイトから引用)
■ エネルギー省は1969年~1980年代半ばに掛けて二重壁型タンクを建設したが、これは漏れやすい古い一重壁タンクを空にするためであった。その後、少なくとも一重壁型タンクの1基からは土壌部に廃液が漏れたとみられており、149基のうち67基の一重壁型タンクは、廃液の移送が行われる前に、漏れがあっているのではないかと疑われている。漏れのあったAY-102タンクは1969年に建設され、40年の設計寿命を超えて廃液を保管していた。

■ エネルギー省は、二重壁型タンクから廃液移送のためのポンプを設置してきた。しかし、タンク内には、151,000ガロン(570KL)の放射性汚泥と冷却用を兼ねている680,000ガロン(2,570KL)の廃液が入っている。放射性汚泥は放射性崩壊による熱を発生し、熱はタンク内の腐食率を増大させるとともに、可燃性の水素ガスが形成する可能性に寄与する。
 エネルギー省が年初に見込んだところによると、 AY-102タンクから汚泥を移送するための準備に18~20か月かかるという。しかし、州条例では、漏れや異常が発見されてから24時間以内に原因究明のための検査を行なうようエネルギー省に求めている。州によれば、この時間には、検査をするために必要な汚泥の移送を含んでいるという。

■ ワシントン州は1月にエネルギー省へ出した書簡の中で、エネルギー省は漏れの明確な箇所、漏洩の速さ、漏洩部の条件について把握していないし、漏れがいつ、どのようにして悪化していくかも把握していないと指摘している。タンクを空にするまでの待ち時間の間にもリスクがあると、州は述べている。漏れは通風路の妨げになる可能性があり、タンク内の熱を緩和する能力を損ない、タンク底部の腐食性を増大させてしまうことになる。

■ デジタル・ジャーナルのカレン・グラハム氏は、ハンフォード・サイトの問題について記事を書いたあと、最後につぎのような所見を述べている。「私たちは、日本の発電所の混乱について、実際問題、気取った態度で見ている場合ではありません。私たちは同じ沈没前の船に乗っているようなものです」

補 足                                                         
■  「ワシントン州」は、米国西海岸最北部に位置し、人口約670万人で、州都はオリンピアであるが、規模や経済の面で中心都市はシアトルである。 
 放射性廃棄物保管施設のハンフォード・サイトはワシントン州東南部のベントン郡にある。ハンフォードという町は、核生産施設の土地を確保するため、1943年、当時小さな農業の町だったが、強制的に立ち退かされ、現在は存在しない。町があった場所は、現在、ハンフォード・サイトの100F区域とされている。
ハンフォード・サイトのタンク地区 (上部にコロンビア川が見える) 
 (写真はエネルギー省ハンフォードのウェブサイトから引用)
ハンフォード・サイトの処理施設 
 (写真はエネルギー省ハンフォードのウェブサイトから引用)
■  「AP通信」(Associated Press)は、1846年5月に米国で設立された世界的な通信網を持つ大手通信社である。 243の支局を持ち、121か国で世界各国のスタッフが活動している。 AP通信は米国内の放送局や新聞社の協同組合で、各メディアはAP通信から記事の配信を受けたり、AP通信を通して自社の記事を配信している。

■ 「ロン・ワイデン上院議員」はオレゴン州選出の上院議員(民主党)である。
 ワイデン上院議員は2012年4月に来日し、東京電力福島第1原子力発電所の視察を行っている。ウォール・ストリート・ジャーナルは、同年4月18日付けで「福島第1原発は非常に危険 米議員が燃料棒について警鐘」と題して使用済み燃料プールのリスクなどについて、つぎのように報じている。
 「視察を行った米上院エネルギー委員会の有力メンバー、ロン・ワイデン議員によると、非常に危険だという。ワイデン氏は藤崎駐米大使に宛てた16日付の書簡で、同原発の原子炉建屋が再び地震や津波に見舞われれば、崩壊し、“当初事故よりも大規模な放射性物質放出” が起こる恐れがあると警鐘を鳴らした。特に、日本は動きが遅く、危険な核燃料棒を原子炉から取り出していない。米国はスピードアップに向けた支援をすべきだ。ワイデン氏は、藤崎大使のほか、米国エネルギー省長官、米国国務省長官、国際原子力規制委員会(NRC)委員長への書簡でも、こう訴えている。東京電力の広報担当者は、書簡についてコメントできないと述べ、同社としては行程表を着実にこなすことしかできないと説明した。外務省はコメントを控えた」
 
(写真はFinanceGreenWatch.comから引用
■ 「ニューメキシコ州の核廃棄物地下処分場の作業員13名が被爆」とは、2014年2月14日(火)、米国ニューメキシコ州にある米国エネルギー省が管轄している核廃棄物隔離試験施設で起こった放射能漏れ事故で、当初は人体に影響がないとしていたが、その後の検査で13名(その後、17名に増えた)の従業員が被爆していたことが分かったものである。当該施設は1999年に操業された放射性廃棄物貯蔵施設で、廃棄物の大半は防衛関係の研究や核兵器製造で用いた使用済みプルトニウムである。施設は地下655mの古代岩塩層に設置された処分室に試験的に貯蔵されている。放射性物質が検知されたのは、2月14日(火)午後11時30分頃で、大気中への放出を防ぐための換気システムが自動的にろ過モードに切り替わった。施設責任者は、放射能漏れは最小限度で、健康への影響もさらに調査が必要と語っている。

所 感
■ ハンフォード・サイトにおける一重壁型タンクの漏洩問題については、当ブログの2013年3月に「長崎原爆製造後の放射性廃液が貯蔵タンクから漏洩」として紹介した。今回は、二重壁型タンクの漏洩が問題視されたものである。二重壁型タンクの構造は、設計上、よく考えられているようだが、建設当時の溶接技能(技術)が付いていかなかったものと思われる。しかし、すでに設計寿命40年を越しており、石油工業における貯蔵タンクを考えれば、問題が出ても何らおかしくない。

■ ここで感じるのは、放射性廃液(廃棄物)が何と厄介なものかいうことである。放射性汚泥を含む放射性廃液を一旦タンクに貯蔵したら、開放検査することは難しい。プルトニウム(239)の半減期は2万4千年で、無害化まで10万年を要すという。設計寿命40年のタンクに貯蔵するとしたら、2,500回建て直す必要がある。保管数量を減らして長期保管するための処理施設は建設段階で目処が立っていない。現在は解決策がなく、意図的でないにしても情報を隠したがり、問題点の先送りをしているという状態である。

■ ハンフォード・サイトにおける不信感に満ちた「米国エネルギー省ーワシントン州ー住民」の関係は、数年後の「経済産業省(環境省)ー福島県ー住民」の関係を見るような感じである。すなわち、福島第1原子力発電所では、放射性汚染水だけでも貯蔵タンクや処理施設(ALPS)に問題があるのに、これからメルトダウンした原子炉の廃炉段階に入れば、ますます課題は深刻化し、情報は公開されず、問題は先送りされる状態になるだろう。
 注記:当ブログで取り上げた東京電力福島第1原子力発電所の放射性汚染水の問題

 備 考
  本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいてまとめたものである。
         ・FoxNews.com,  Concerns Raised about Nuclear Waste Tanks at Haford,  March 01, 2014
         ・RT.com, Construction Flaws in Six Hanford Nuclear Waste Tanks, 13 More May BE Compromised, March 01, 2014   
         ・DigitalJournal.com, Op-Ed:Hanford- The Most Contaminated Nuclear Waste Site in America,  March 01, 2014
         ・NTI.org, Leak Risk Seen in Washington State Nuclear-Waste Containers, March 03, 2014
         ・FireDirect.net, USA-Radioactive Leak at Nuclear Waste Facility,  March 06, 2014
         ・Tri-CityHerald.com, More Leaking Waste Found at Hanford Tank,  March 06, 2014
         ・NWCN.com, Leak in Massive Hanford Nuclear Waste Tank Getting Worse,  March 06, 2014
         ・NBCRightNow.com, Department of Energy Releases Pump for Tank AY-102,  March 08, 2014
         ・ KING5.com, DOE Criticized for Delay in Emptying Hanford Tank,  March 10, 2014
         ・Hanford.gov, 241-AY-102 Pumping Plan, March 07, 2014
         ・Asahi.com,   米核廃棄物処分施設、13人内部被曝か ニューメキシコ, March 01, 2014
         ・FinanceGreenWatch.com , 米ニューメキシコの核廃棄物地下貯蔵施設の放射能漏れ、従業員13人の被爆明らかに,  February  28, 2014  

 
後記: 本文中には散漫になるので、情報を記載しませんでしたが、米国オバマ政権は国家予算の歳出削減に取り組んでおり、ハンフォード・サイトの予算もカットしています。科学的な議論でなく、ますます政治化する問題のようです。
 ところで、日本の福島第一原子力発電所の汚染水の処理設備“ALPS”も問題が顕在化してきました。3月18日に性能が大幅に低下するトラブルで停止し、調査の結果、汚染水処理の障害になる塩分を取り除くフィルターが十分機能していなかったことが分かったそうです。しかし、3月24日午後に処理を再開しましたが、すぐに設備内のタンクから水が漏れる別のトラブルが見つかり、再び処理を停止したというニュースが3月25日に流れています。ALPSについては、当ブログの「汚染水処理施設のタンク不具合について」(2013.9.28)で「完成度としてはまだまだの感である。運転も強アルカリ性と中和を繰り返すなど調整の難しいかなり厳しい運転条件があり、今後の試運転にもいろいろな課題が出てくると思われる」と所感を述べましたが、最近では、この分野の学者の中にもALPSは役に立たないという人も出ています。
 今回の情報の最後にカレン・グラハム氏が述べた「私たちは、日本の発電所の混乱について、実際問題、気取った態度で見ている場合ではありません。私たちは同じ沈没前の船に乗っているようなものです」という言葉が印象的です。 
         


 

2014年3月16日日曜日

ニュージーランドの石油ターミナルで地すべりによる油流出

 今回は、2014年3月5日、ニュージーランドのカンタベリー地方クライシスチャーチ市にあるモービル社リトルトン・ターミナルで、豪雨によって丘が地すべりで崩れ、ジェット燃料油のタンクが激しい損傷を受けて、油が漏洩し、一部が海へ流出した事故を紹介します。
ニュージーランドのモービル社リトルトン・ターミナルで発生した地すべりと被災タンク 
 (写真はTvnz.co.nzの動画から引用)
<事故の状況> 
■  2014年3月5日(水)午後2時頃、ニュージーランドのカンタベリー地方クライシスチャーチ市にある石油ターミナルで油が漏洩する事故があった。事故があったのはクライシスチャーチ市の港にあるモービル社のリトルトン・ターミナルで、豪雨によって丘が地すべりで崩れ、ジェット燃料油のタンクが激しい損傷を受けて、油が漏洩し、一部が海へ流出した。
                                             クライシスチャーチ市付近   (写真はグーグルマップ から引用
■ 3月4日の夜、この地方に嵐と猛烈な豪雨が襲った。3月5日(水)午後2時頃、ターミナルに接する丘が地すべりを起こし、大量の岩と土砂が斜面を滑落して燃料タンク2基に衝突した。ジェット燃料油タンク内には約1,200KLの油が入っており、地すべりによる損傷を受け、内部の油が漏洩した。被災したタンク2基のうちガソリンタンクも損傷を受けたが、漏れは無かった。

■ 大量のジェット燃料油がタンクから漏洩し、タンクの防油堤内に溜まった。モービル社はただちに緊急事態対応の体制をとり、消防署および警察と協力して作業を始めた。消防署の広報担当によると、消防隊はモービル社とともに漏れた油をポンプで回収し、ターミナル内の別なタンクに移送しているという。

■ 消防隊はターミナルの地面に漏れたジェット燃料油をポンプで回収したが、すでに港湾内に約1,500リットルの油が流出してしまった。エンビロンメント・カンタベリー(Ecan)の女性広報担当は、損傷を受けたタンク近くの雨水排水系統を3月6日に封止したと語った。雨水排水系統から約40KLの油を回収したが、まだ少量の油が残っているという。海へ流出した油を回収するため、雨水排水系統の出口部まわりにオイルフェンスが展張され、特殊な装置で回収された。 Ecanの女性広報担当はつぎのように語っている。
 「いくつかの場所で灯油による虹色のキラキラが観察されるので、これらの場所ではわずかですが、灯油留分がまだ存在していることになります。これらは極めて薄く、おそらく自然に拡散してしまうでしょう」 

リトルトンの住宅地の豪雨被害状況 
 (写真はNewstalkzb.co.nz から引用)
■ 警察は、地すべり再発の予防措置として近くの住民の避難を実施した。 3月7日時点で、地すべりによって避難した19世帯のうち11世帯は帰宅を許可されなかった。カンタベリー地方は嵐により4,500世帯が停電になったが、3月7日時点で50世帯を下回った。

■ Ecanの海上流出油対応チームは、クエイル島に焦点を当てた第2回目の水質評価を3月6日午後に実施し、 島周辺にジェット燃料油の兆候が無いことを確認した。 Ecanの女性広報担当によると、初回の水質および大気の分析評価では、野鳥類に影響を受けた兆候は見られなかったという。さらに監視を継続し、分析評価を実施するという。 

■ モービル社は、これ以上水系に油が出ないようにすることを最優先としているという。ウールストーン・パイプラインは3月6日に検査が行われ、嵐による被害は受けていないことが確認され、午後3時頃に運転が再開された。
            モービル社リトルトン・ターミナルで発生した地すべり状況 (写真はTvnz.co.nzの動画から引用
<モービル・ニュージーランドの声明> 
 (3月6日木曜午後6時時点)「リトルトン・ターミナルにおける油漏洩の対応」 
■ モービル社は、リトルトン・ターミナルで起きたジェット燃料油の漏洩について関係機関とともに対応に当たっています。34日(火)の夜に襲来した嵐に伴う激しい豪雨によって、ターミナルに接する丘が地すべりを起こし、タンク1基が損傷しました。

■ 6日(木)午前11時、モービル社は、タンクまわりのコンクリート製防油堤内に留まっているジェット燃料油の回収作業を開始しました。回収した油はターミナル内の別なタンクに移送しています。さらに現時点では、ポンプ2台を追加配備し、回収作業を早めるよう努めています。貯蔵タンクの防油堤内に溜まった油を全量回収するには、数日を要するとみております。 

■ 損傷したタンクから港への油漏れは現時点では無く、実質的にターミナル構内に留まっています。
 現在、私どもが最優先にしていることは、ターミナル構外から海へ油がさらに流れ出ることがないようにすることです。このため、港長の支援を受けながら作業を進めています。

■ 今回の件でご迷惑とご不便をお掛けしていることを心からお詫び致します。私どもの経営方針は従業員、協力会社および地元の皆様の安全確保であることに変わりはありません。

■ 私どもの石油給部門は、これまで長年、供給契約をして戴いてきたお客様とは密接に連絡をとって対応しております。今回の嵐でウールストン・パイプラインが被害を受けていないことを確認するため、同パイプラインの検査を実施致しました。パイプラインは6日午後3時に送油を再開致しました。
リトルトン・ターミナルの被災タンクと防油堤内の状況 
 (写真はStuff.co.nz から引用)
  (3月7日金曜午後4時30分時点)「リトルトン・ターミナルにおける油漏洩の対応」
■ 現場の対応
 ● モービル社リトルトン・ターミナルでは、猛烈な嵐に伴い発生した地すべりによってタンクが損傷を受け、ジェット燃料油が漏洩しましたが、現場ではこの対応に努めております。
 ● タンクのコンクリート製防油堤内に留まったジェット燃料油の回収作業を続行しています。 回収した油はターミナル内の別なタンクに移送しています。
 ● 私どもは、できる限り迅速に回収作業を行なうよう努めており、これまでに半分程度を移送しました。私どもは安全に終えるよう作業を継続しています。
 ● 防油堤内の油をタンクへの移送完了には数日間かかるとみております。
 ● 今回の事故は、異常気象による稀で予想外の事故でした。しかし、今回のクリーンアップ作業や嵐によって発生した供給中断などのご迷惑についてお詫びします。

■ 港湾の対応
● 2次防止エリアから港湾へのジェット燃料油の漏れは封じ込めました。雨水排水系統からわずかに漏れ出る油は排水口に吸収型オイルフェンスを張って回収しています。さらに、追加の予防措置として、港湾への雨水排水口を網羅するオイルフェンスを展張しています。
● 私どもは、港湾の対応を指揮する港長と密接に連絡をとって対応しております。現在のところ、水を回収する必要のある作業はありません。
● 現場の状況はつぶさに監視しつづけています。私どもは、構内から燃料油が漏れ出ることのないようにすることを目下の最優先事項としております。

■ ターミナルの操業
● ターミナルでは燃料供給の操業を実施しています。このターミナルは、カンタベリー地方、さらにサウス・アイランド全島への燃料供給の重要拠点になっています。
● 私どもの石油供給部門は、これまで長年、供給契約をして戴いてきたお客様とは密接に連絡をとって対応しております。 クライシスチャーチの市場において供給が不足することはありません。 
● 今回の嵐でウールストン・パイプラインが被害を受けていないことを確認するため、同パイプラインの検査を実施致しました。パイプラインは6日午後に送油を再開致しました。
● 私どもは当面の課題解決に集中しておりますが、つぎに損傷を受けた2基のタンクについて詳細な評価を行なう予定です。

■ 調 査
● 安全が確保できた段階で、モービル社として全面的に調査を行います。現時点でははっきりしていませんが、地すべりが擁壁(ようへき)に対してどのように損傷を与えたかという点についても調べます。
                                     手前がモービル社リトルトン・ターミナル (写真はStuff.co.nz から引用
  (3月11日火曜)「リトルトン・ターミナルにおけるジェット燃料油の回収作業」 
■ モービル社リトルトン・ターミナルでは、先週、猛烈な嵐に伴い発生した地すべりによって受けた被害について、現場では対策本部が対応に努めております。損傷したタンクから漏れ、防油堤に留まったジェット燃料油の回収作業を続けています。

■ 地すべりによって深刻な損傷を受けたタンクには、約1,200KLのジェット燃料油が入っておりました。このため、燃料油はタンクまわりにあるコンクリート製の壁に囲まれた防油堤内へ流れ出ました。また、一部のジェット燃料油はリトルトン港へ通じる排水系へ流れました。クリーンアップ作業を実施中で、影響が残ることがないように努めております。そして、環境アドバイザーによって現場の環境影響評価を実施しております。

■ 燃料油は安全に貯蔵タンクへ回収されつつあり、もはや消防機関の待機も必要がないと評価されております。

■ ターミナルでの燃料油供給の操業を、一時、中断致しました。ウールストン・パイプラインの検査を実施し、今回の嵐で被害を受けていないことを確認しましたので、パイプラインは、先週、送油を再開致しました。

■ 私どもの石油供給部門は、これまで長年、供給契約をして戴いてきた広範囲の業界やお客様と密接に連絡をとって対応しております。目下のところ、ジェット燃料油、ディーゼル燃料油、ガソリンについて供給不足が生じることはありません。ただし、供給は非常にタイトな状況です。

■ 安全が確保でき次第、モービル社として全面的な調査を行います。

■ モービルオイル・ニュージーランド統括本部長のアンドリュー・マクノートは、厳しい条件下にあったにもかかわらず、2次災害もなく、安全に対応作業ができたことに感謝し、つぎのように述べています。
 「私どものクリーンアップ作業でご迷惑をお掛けすることになり、モービル社として住民の方々へお詫びを申し上げます。ジェット燃料油の臭気は、モービル社による回収作業によって少なくなりました。しかし、私どもがクリーンアップ作業を行なった地域においては、時々臭いがすることがあると思います。しかしながら、ジェット燃料油の臭気による人の健康へのリスクは無いといえます。
 雨水排水系統の水に油が若干残っているかもしれませんが、排水口には吸収型オイルフェンスを張っており、大部分は捕捉できるでしょう。さらに、追加の予防措置として、港湾への雨水排水口を網羅するオイルフェンスを展張しています。私どもはエンビロンメント・カンタベリーと連絡を取り合い、海洋の対応を実施しています」

■ マクノート本部長は、モービル社を代表して、ご支援を戴いたニュージーランド消防、警察、エンビロンメント・カンタベリー、リトルトン港、クライシスチャーチ市議会に対して感謝致しております。マクノート本部長はつぎのように述べています。
 「先週の嵐によって受けた被害を復旧させる際、地元の皆様のご理解と辛抱強さに対してありがたく思っております」

補 足                                                         
■ 「ニュージーランド」は、南西太平洋のオセアニアのポリネシアに位置し、立憲君主制国家で、イギリス連邦加盟国である。国は二つの主要な島と、多くの小さな島々からなり、人口約440万人である。
(写真はグーグルマップ から引用)

塔が倒壊したクライシスチャーチ大聖堂
 「カンタベリー地方」は、ニュージーランドのサウス・アイランドにあり、ニュージーランド最大の平野が広がる地方である。
 「クライシスチャーチ」は、カンタベリー平野の東海岸側に位置し、人口約34万人で、国内で2番目、サウス・アイランドでは最大の人口を有する。街の中心部には19世紀に建てられたネオゴシック建築のクライシスチャーチ大聖堂がある。2011年2月22日、クライシスチャーチのリトルトン付近を震源とするモーメントマグニチュード6.1の地震があり、クライシスチャーチ大聖堂の塔が崩壊したほか、地元テレビ局カンタベリー・テレビの入ったビルが倒壊し、語学学校の留学生らが巻き込まれ、日本人28名が亡くなった。

■  「エクソンモービル社」(ExxonMobile Corp)は米国テキサス州に本拠地をもつ総合エネルギー会社で、スーパーメジャーの一つである。世界200ヵ国以上で展開し、21ヵ国に37の製油所を持ち、生産能力540万バレル/日、販売量640万バレル/日の巨大企業である。1999年、エクソン社とモービル社の合併で生まれた会社であるが、元々二社ともロックフェラーが1870年に設立したスタンダードオイルの流れをくむ企業である。
 ニュージーランドにおけるエクソンモービル社が「モービル・ニュージーランド」(Mobile New Zealand)で、1896年に設立されたニュージーランドで最も歴史のある石油会社である。石油製品の販売だけでなく、製油所を保有し、ニュージーランド需要の20%を精製している。また、国内に6箇所の石油ターミナルとパイプラインを保有し、事故のあったリトルトン・ターミナルはクライシスチャーチ市街地から南に位置する郊外の湾岸部にある。リトルトン・ターミナルから市街地のウールストーンまで約6.4kmのパイプラインが敷設されている。
                   被災前のモービル社リトルトン・ターミナル   (写真はグーグルマップのストリートビューから引用
■ 「被災タンク」はグーグルマップから推定すると、1基は直径約26m×高さ約15m×容量8,000KLクラスのコーンルーフ型で、もう1基は直径約13m×高さ約16m×容量2,000KLクラスのコーンルーフ型である。いずれのタンクから漏れたかは分からない。被災前の写真(グーグルマップのストリートビュー)を見ると、地すべりのあった丘とタンクの間には壁(擁壁)が設置されているが、落石程度を考慮したもので、大規模な土砂崩れを想定されたものではない。
                                                  被災前のタンクおよび擁壁     (写真はグーグルマップから引用)
■ 「エンビロンメント・カンタベリー」(Environment Canterbury: Ecan)は、カンタベリー地方の環境に関する地域協議会で、大気、水、土地の環境保全管理を行っている。

所 感
■ 近年、記録的な豪雨による被害が世界的に起こっており、2013年7月には、「中国陝西省で地すべりによってパイプラインから原油流出」事故が2件起こっている。この事故を紹介したとき、地すべりによる石油パイプラインの破損という稀な原因であるが、今は想定外ということはありえず、どこでも事故の可能性はあると所感で述べた。今回はついに、地すべりでタンク本体(または配管)が損傷し、油流出の事故が起こった。まさにマーフィの法則(起こる可能性のあることは、いつか実際に起こる)どおりに起こってしまったという思いである。

■ タンクは平地に建設されることが多いが、湾岸部で平地の少ない場所では、斜面を造成して建設されることは少なくない。これまでの降雨強度であれば問題は起こらないが、最近のような時間雨量100mmを超すような猛烈で長時間の豪雨の場合、丘陵地に建設されたタンクでは、今回のニュージーランドで起こった事故の可能性は否定できない。豪雨時における防油堤内の雨水排水系バルブの開閉処置についてレビューしてみる必要があるし、地すべりによるタンク直撃の想定について危機管理が必要である。

■ 今回の事故(災害)は、油漏洩が構外の海へ流出してしまうという最悪のシナリオだった。モービル・ニュージランドは、事故後の対応状況を同社のウェブサイトに日々情報公開している。詳細な対応作業や体制はわからないが、危機管理の観点から参考になる。

備 考
  本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいてまとめたものである。
       ・Scoop.co.nz,  Fuel Leak at Lyttelton Terminal,  March 05, 2014
       ・Stuff.co.nz, Spilled Fuel Escapes into Lyttelton Harbour, March 07, 2014   
       ・3News.co.nz, Fuel Spill in Lyttelton Harbour,  March 07, 2014
       ・Stuff.co.nz, 1500-litre Jet Fuel Leak into Harbour, March 07, 2014
       ・NewsTalkzb.co.nz, Fuel Cleanup May Take Some Days,  March 07, 2014
       ・Mobil.co.nz, 6pm update: Response to Fuel Leak at Lyttelton Terminal,  March 06, 2014
       ・Mobil.co.nz, 4:30pm update: Response to Fuel Leak at Lyttelton Terminal,  March 07, 2014
       ・Mobil.co.nz, Jet Fuel at Lyttelton Terminal Recovered,  March 11, 2014 




後 記: 3月14日金曜午前2時過ぎ、ドンという響きとともに揺れが始まり、目が覚めました。ゆさゆさと長い地震の揺れで、これ以上大きな揺れが来たらどうなるのだろうと思っていましたが、揺れは大きくならずに収まりました。テレビを付けると、震源は伊予灘で、我が家のある山口県周南市から近いところでした。隣接する下松市と防府市で震度5弱ということですから、結構大きな地震だったのです。その後、小さな余震が一回あり、寝覚めの悪い朝を迎え、一日を過ごすことになりました。
 山口県は全般的に自然災害が少なく、地震の発生も少ないところですが、びっくりさせられる地震は日本どこでも起こることを改めて認識しました。私の中では、1987年千葉県東方沖地震、2003年北海道十勝沖地震に次ぐ大きな地震経験でした。あとから分かったことですが、周南市は震度4でした。隣接する下松市と防府市が震度5弱ですから、よほど揺れを感じにくい場所に地震計が設置してあるのでしょう。しかし、同じ市内に住んでいる孫が目を覚まさなかったということですから、大人は過剰に感じるのかも知れませんね。

2014年3月9日日曜日

バングラデシュの石油貯蔵所で火災によって死傷者9名

 今回は、2014年2月28日、バングラデシュのチッタゴン市にあるジャムナ・オイル社の石油貯蔵所で火災があり、工事作業員9名が死傷した事故を紹介します。
バングラデシュのチッタゴン市で起こった火災事故の現地と搬送先の病院 
 (写真はBdnews24.comおよびTheDailyStar.netから引用
<事故の状況> 

■  2014年2月28日(金)午後6時過ぎ、バングラデシュのチッタゴン市にある石油貯蔵所で火災があり、死傷者が発生する事故があった。火災事故があったのはチッタゴンのパテンガ地区にあるジャムナ・オイル社の石油貯蔵所で、工事作業員9名が被災した。
                              チッタゴン市パテンガ地区付近 (写真はグーグルマップ から引用
■ チッタゴンEPZ警察署のアブル・マンスール氏によると、火災は、 228日(金)午後615分、チッタゴンのカルナフリ川沿いの国営製油所の石油貯蔵所であるジャムナ・オイル社で発生したという。この事故に伴って負傷者が発生し、チッタゴン医科大学病院に搬送された。
 負傷したのは、アブドゥル・ラヒムさん(45歳)、クハエル・アーメドさん(50歳)、シャムス・ハクさん(50歳)、ムドゥ・ナジムさん(40歳)、ジャムセドさん(45歳)、ハッサンさん(50歳)、ロクマンさん(55歳)、ジャマールさん(55歳)、ジャビルさん(40歳)の9名である。医者によると、被災者のうち5名の容態は重症だという。全員、石油貯蔵所の従業員だという。その後、3月5日(水)にシャムス・ハクさんが病院で亡くなった。 

■ 火災発生に伴い、消防隊が出動した。消防・民間防衛部のジャシム・ウッディン次官は、火災は消防隊によって1時間ほどで鎮火したと語った。ウッディン次官によると、防油堤内の石油供給ラインで溶接を行っているときに火が出て、9名の作業員が負傷したという。火災がすぐに消されたので大事故に至ることが回避できたと、ウッディン次官は語った。

■ デイリー・スター誌は、石油貯蔵所の石油タンクが爆発して火災となり、けが人が出たと報じている。目撃者および負傷者のひとりであるラヒムさんによると、夕方、タンクNo.11のゲートの下で作業を行っていたとき、突然、爆発が起こり、タンクの屋根が噴き飛んだという。火がまわりに燃え上がり、作業員9名が巻き込まれたと、ラヒムさんは付け加えている。

■ 消防関係の情報源によると、当初、火災が溶接の火花から発生したのではないかと思われていたという。チッタゴンEPZ消防署のバハール・ウッディン署長は、現在のところ原因は分かっていないと答えている。
当局によると、チッタゴンEPZ消防署管内から2つの消防隊が現場に出動し、午後7時30分頃、火災は消火したという。

■ ジャムナ・オイル社業務執行取締役のアリム・ウッディン・アーメド氏は、午後6時10分頃、石油貯蔵所のタンクNo.11で溶接作業を行っているときに火災が発生したと語っている。火災は空だったので、火は20分も経たずに制圧することができた。

■ チッタゴン消防・民間防衛部のモハマド・ヤヒア次官によると、火はタンクNo.11のパイプラインの外側で噴き出したという。パイプラインまわりに滲み出していた油に何らかの火花で着火して火災になったのではないかと、ヤヒア次官は付け加えた。炎は、まわりの油がこぼれて滲み出ていたところに広がった。ヤヒア次官によると、現場に出動したのは、チッタゴンEPZのバンダルとアグラバドの消防隊、海軍および空軍の消防隊で、午後6時35分に鎮火したという。

■ EPZ消防署のモハマド・バハルディン署長がダッカ・トリビューン誌に語ったところによると、タンクNo.11において溶接作業を行っていたときに最初の火災が起きたという。午後6時20分頃、ガソリンタンクで火災が発生し、つぎに付近の2箇所の地面上で燃え上がり、9人が巻き込まれた。ジャムナ・オイル社の取締役によると、タンクの中にガソリンは入っていなかったので、火災は強いというものでなかったという。タンク壁はガソリン分で濡れてはいたが、溶接の火花でなぜ火災に至ったのかはわかっていない。3月1日時点では、損害規模は分かっていない。

■ 関係当局からの話によると、火災発生には石油貯蔵所の管理者および(保全関係)エンジニアの業務責務上の過失があったとみられている。負傷した熟練工たちは現場にいたものみられるが、石油貯蔵所の石油計測機器について手動式から自動式に換えるという危険な作業中に被害に遭ったと、ジャムナ・オイル社の関係者が匿名を条件に語っている。さらに、そのような危険な交換作業は夕方の時間帯に行うべきでないと述べ、調査の必要がある事項だと語った。

■ 28日(金)の火災事故が及ぼしたかもしれない影響の大きさを説明しようと、ジャムナ・オイル社とバングラデシュ・ペトロリアム社(BPC)は、火災を制圧するため、当時、有効な処置がとられていなければ、隣接する他の石油貯蔵所は大混乱に陥った可能性があると述べている。さらに、その及ぼす被害は甚大で、国の石油供給に大きな支障を来たしただろうと付け加えた。公式な記録によれば、この国営の石油配送会社の石油貯蔵所では、現所長の在籍期間、この1年半の間に職員の過失による火災事故が3件起きている。

■ ジャムナ・オイル社の石油貯蔵所で起きた火災の背後要因についてバングラデシュ・ペトロリアム社に質問しても、同社は石油貯蔵所の石油計測機器について手動式から自動式に換える作業中に火花によって火災が起こったと答えるのみである。パドマ・オイル社とメグナ・オイル社の石油貯蔵所では、作業経験のない職員や請負業者を雇い、油を盗んだり、わいろの金が横行しているという申し立てもあっている。

■ 3月1日(土)、バングラデシュ・ペトロリアム社は、火災事故の原因を調査して報告書をまとめるため、マーケット部門執行役員のレズワン・ホサイン氏を長とする5人の委員会を3月2日に結成すると発表した。消防・民間防衛部のジャシム・ウッディン次官によると、消防部門に強力な調査委員会が設けられたという。

補 足
■ 「バングラデシュ」は、正式にはバングラデシュ人民共和国で、人口約15,000万人である。首都はダッカで、イスラム教徒主体の国であるが、イギリス連邦の加盟国である。南はインド洋に面し、ベンガル湾に注ぐガンジス川があり、豊富な水資源を有する。
 「チッタゴン」は、バングラデシュ南東部に位置し、市域人口は約250万人である。チッタゴンは国内最大の港があり、バングラデシュで2番目に大きい都市である。チッタゴンEPZは、チッタゴンの輸出加工区(Export Processing Zone)で、パテンガ地区の近くにある。
■ 「バングラデシュ・ペトロリアム社」(Bangladesh Petroleum Corp.BPC)は、バングラデシュの国営石油会社である。BPC100%子会社であるイースタン・リファイナリー社(Eastern Refinery Ltd)が運営するチッタゴン製油所がバングラデシュ唯一の製油所である。この製油所で精製される石油製品のほかは海外からの輸入に頼っている。このために石油貯蔵所が多い。
 「ジャムナ・オイル社」(Jamuna Oil Co.)は、1964年に設立されたBPC傘下の石油会社で、石油製品の販売を行い、チッタゴン製油所近くのパテンガ地区に石油貯蔵所を有している。
 「パドマ・オイル社」(Padma Oil Co.)はラングーン・オイル社という歴史ある石油会社であるが、1985年にBPCの傘下になり、現在の名称になった。「メグナ・オイル社」(Meghna Oil Co.)もBPC傘下の石油会社である。パドマ・オイル社とメグナ・オイル社の両社ともチッタゴンに石油貯蔵所を保有している。
 Wikimapiaの地図によると、イースタン・リファイナリー、パドマ・オイル、メグナ・オイルの場所は分かるが、ジャムナ・オイル社の石油貯蔵所の位置が判然としない。イースタン・リファイナリーのタンク地区がジャムナ・オイル社の石油貯蔵所としての位置付けになっているのではないかと思われる。
チッタゴン市パテンガ地区の製油所および石油貯蔵所 
 (写真はWikimapia.orgのマップ から引用
                                   チッタゴン市パテンガ地区付近     (写真はグーグルマップ から引用
所 感
■ 事故状況について多くの関係者の話があるが、食い違っており、信頼性に欠ける。ただ、総合すると、タンクは空であったこと、計測機器の交換で火気使用工事を行おうとしていたときに事故が起こったことは間違いないだろう。しかし、タンク内で爆発があったのか、タンク外だったのか分からないし、作業を行っていた被災者の近くに油があったのか、配管から流出したものなのか分からない。

米国アーカンソー州のテプコ社で工事中に爆発したタンク
■ このように稀な事故のように思えるが、類似事故はある。
 2009年5月12日、米国アーカンソー州にあるテプコ社の石油貯蔵所で開放中のタンクが爆発し、3名の工事作業員が死亡した。爆発したタンクは容量約1万KLのガソリン用だったが、事故当時は供用中でなく空だった。このタンクにオイルレベルを計測する新しい装置を設置する計画で、3人は爆発した日の午後にタンク内で新しい装置を取り付ける予定だったが、何らかの原因で着火し、タンクが爆発したものである。

■ タンクの工事中における事故が無くならないことから、米国CSB(化学物質安全性委員会)が2010年2月に安全資料「タンク内外の火気工事における人身事故を防ぐ7つの教訓」をまとめている。
 今回の事故は、危険性のあることが分かっていても、工事中の事故が無くならないことを改めて認識する事例である。

備 考
 本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいてまとめたものである。
      ・TheDailyStar.net,  9 Injured in Jamuna Oil Depot Fire,  February 28, 2014
      Bdnews24.com, 9 Injured in Jamuna Oil Depot Fire,  February 28, 2014   
      ・Bdnews24.com, Committee to Probe Jamuna Oil Depot Fire,  March 01, 2014
      ・DhakaTribune.com, Nine Receive Burns as Jamuna Oil Depot Catch Fire,  March 01, 2014
      ・Daily-sun.com, Jamuna Oil Depot Catches Fire in Chittagong,  March 01, 2014
      ・TheFinancialExpress-bd.com, Negligence Attributed to Jamuna Oil Depot Fire,  March 02, 2014
      ・Unbconnect.com,  Jamuna Oil Depot Fire Victim Dies,  March 05, 2014



後 記: 事故情報を読んでいくと、その国の国情が見えるときがあります。開発途上国の石油パイプラインの漏れ事故では、住民が群がって容器に油をすくい取る事例があります。今回の事例では、石油貯蔵所で油が盗まれたり、わいろが横行しているという話が出てきます。貧しさから来るのでしょうか。 東日本大震災から3年経ちますが、当時の混乱時に店への略奪などが無く、皆で助け合う人々に海外から驚きの声があったということを思い出します。
 ところで、今回は発災事業所の場所を探すのにいろいろ調べましたが、結局、はっきりとは分かりませんでした。その過程で、グーグルマップの機能が改善されていることを知りました。最初、戸惑いましたが、使ってみると面白い。例えば、平面図のビューを傾斜させる機能があります。今回のチッタゴン市パテンガ地区についてやってみると、下のように遠くにベンガル湾が見え、飛行機から見ているような気持ちになりました。
 (写真はグーグルマップ から引用