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2016年11月18日金曜日

石油貯蔵タンク火災時の備えは十分ですか?

 今回は、2016年、イタリア化学工学協会の会報に掲載された「 Liquid Hydrocarbon Storage Tank Fires – How Prepared is your Facility?」(炭化水素液貯蔵タンク火災ーあなたの施設ではどのように備えていますか?)の情報を紹介します。
< 概 要 >
■ 液体炭化水素(油や燃料)を貯蔵している施設では、大きな火災が起こるのはありうることである。同様に、2005年のバンスフィールドの爆発事例を考えれば、大量の炭化水素貯蔵施設では、大きな爆発事故の起こることは考えられる。 (炭化水素貯蔵に関わる火災事故よりはありえないが)
 確かに、油/燃料の貯蔵タンクの大きな火災・爆発事故というものは、頻繁に起こるというものではない。それにもかかわらず、人間・資産・環境へ大きな影響を与えうるというリスクが常に付きまとっているといってよい。この種のハザードに適切に対処するには、よく体系化されて確立した火災ハザード管理(Fire Hazard Management: FHM)による進め方によるとともに、緊急事態対応への備えが満足できるレベルにしておく必要がある。事故対応計画(人員、設備、資機材に関する)が良好なレベルにあった上で、実際的な火災ハザード管理(FHM)による防止策やコントロール/緩和方法がとられれば、関連する石油貯蔵タンク火災のリスクを合理的で実行可能な低減、すなわちアラープ(ALARP: As Low As Reasonably Practicable)レベルまで軽減することは容易であろう。

■ 歴史的に見て、タンク全面火災に対する消火や抑制の成功率は相対的に低いといえよう。特に、直径30mを超えるような大型タンクではそうである。大型タンクの火災で消火できたのは、2001年のオリオン製油所のタンク火災(直径約82m)だけである。石油タンク火災を抑制するということは簡単な仕事ではない。事に当たって火災の抑制を成し遂げるためには多くの要素が必要で、例えば、リスクへの認識、評価、訓練、マネジメントなどの要因が適正になされていなくてはならない。リスク認識が乏しいと、現場あるいは会社経営の盲点になる。例えば、タンク火災は遠いよその出来事だと思ったり、固定消火設備や移動式消火設備で十分だと思ったり、消防署に依存していればよいということになる。大量の石油貯蔵施設を管理するマネージャーに必要なことは、石油タンク火災のハザードがいかに大きいかということを認識することである。これには、タンクの破壊/崩壊、爆発、ボイルオーバーといった知識だけでなく、壊滅的な事故をマネージメントするために必要な挑戦意欲や能力・資質などを含む。

■ 従って、本資料では、石油貯蔵タンクの火災によって人間、資産、経営の継続性、環境にもたらされる脅威の大きさに焦点を当て、主要なタンク火災ハザードについて述べるとともに、石油貯蔵タンクの火災の防止や抑制に関わる成功や失敗に影響する主要因について言及する。

< 1.はじめに >
■ 石油貯蔵タンク火災は独特なハザードを有しており、施設のオーナーやマネージャーは石油貯蔵火災や爆発事故に関連するリスクをマネージメントするために、適切な防止策、防護策、緊急事態対応計画に関して相当に勉強する必要がある。石油貯蔵タンク火災の発生頻度は多くない。それにもかかわらず、タンク火災は依然として、突然、発生している。NFPA(米国防火協会)やAPI(米国石油協会)で規格や基準が制定され、過去の火災事故から学んで改善されたエンジニアリングや防護策があるにもかかわらず、タンク火災は起こっているのである。

■  石油貯蔵施設における火災への安全性をマネジメントするには、既存の安全レポート、安全対策、設計時にとられた有効な安全仕様(例えば、固定消火設備/移動式消火設備やタンク過充填防止装置)をさらに越えて進めなければならない。リスク・アセスメントをクリアするような安全設計、運転方法、安全レポートは極めて大事なことではあるが、それにもかかわらず、過去の経験では、間違った防止策によって石油タンク火災が起きている。あるケースでは、火災対応計画と緊急事態対応計画が適切でなかったために、火災が壊滅的な状況へ進んでしまったこともある。

■ 適切なメンテナンスを行って施設の健全性について十分な配慮を払うとともに、実態にあった緊急事態対応計画が策定されていれば、おそらく、歴史的な石油タンク火災のうちいくつかは、防止できたかもしれないし、被害を軽減できたかもしれない。緊急事態対応計画は特に妥当性を見極めて策定し、初期の封じ込めに関連するタンク、配管、過充填防止、バルブ(閉止弁はファイアーセーフ型か?)、通気系統、屋根シール、腐食モニタリング、ポンプなどに問題がないことを確認する。このほかに緊急事態対応計画の策定で重要なことは、兵站面(ロジスティクスと資機材、すなわち装置、水、泡、人員)と指揮面(事故ハザードの識別、火災対応計画、対応隊員へのタンク火災の訓練や教育)である。

< 2.貯蔵タンクの種類 >
■ 地上式常圧貯蔵タンクは、通常、屋根の型式によって分類されるか、保有液の物性によって分類される。可燃性液体または燃焼性液体を貯蔵するために使用されるタンクは主に3つの種類がある。
 (1) 固定屋根式タンク(コーンルーフ)
 (2) 外部浮き屋根式タンク(上部開放)
 (3) 内部浮き屋根式タンク(上部カバー)
 可燃性液体は、一般に、浮き屋根式タンクに貯蔵される。燃焼性液体は、一般に、固定屋根式、すなわちコーンルーフ式タンクに貯蔵される。

■ 固定屋根式タンクは立型円筒の側板を有しており、固定式のコーン形屋根で覆われる。屋根部は側板の頂部で溶接される。屋根と側板の溶接部はAPI規格によって意図的に弱く作られ、内部爆発時に屋根がタンク立型円筒の側板から外れるようにして、タンク底板の溶接部が破壊しないようにされている。このような設計にする必要性は、内部爆発時に生じるアップリフト、すなわちタンク底板と側板の上昇する力を防いで、タンク内液を保持しようというものである。しかし、この結果、可燃性液体が全面的に曝されて火災になることもある。

■ 外部浮き屋根式タンク(上部開放)は立型円筒の側板を有しており、タンク内液は浮き屋根で覆われる。浮き屋根は、タンク液位の上下に従い側板に沿って移動する。浮き屋根はポンツーンまたはダブルデッキの浮力機能をもったパン構造で構成されており、可燃性液体の表面に浮いている。浮き屋根には全周にリム・シールが設置され、浮き屋根とタンク側板の間のスペースを覆って、タンクからベーパーが放出しないようにする。

■ 内部浮き屋根式タンク(上部カバー)は、固定屋根と外部浮き屋根を組み合わせたタンクである。内部浮き屋根が外部浮き屋根と大きく違う点は、大気からタンク内液を保護するため、外部浮き屋根に固定屋根を付け加えた構造である。この種のタンクは、通常、ガソリンやナフサのような可燃性の高い石油製品を貯蔵するのに使用される。そして、内部浮き屋根式タンクは、屋根接続部からすぐ下のタンク側板に大気用開口部のベントが付いているので、外見上すぐに識別できる。

< 3.事故の発生要因 >
■ タンク火災による事故の規模は、軽微なハザードから壊滅的なハザードまでいろいろなケースがある。石油貯蔵施設における事故の規模の典型的な例を示す。
(1) 爆発; 固定消火設備の機能を喪失させることがある。この場合、対応は移動式消火設備によるしかない。
(2) ボイルオーバー; 原油タンク火災が長引いたときに起こる激しく破壊的な事象である。6.6項を参照。
(3) リムシール火災; 外部浮き屋根式タンク(上部開放)で一般的に起こる事象であるが、上部カバーのある内部浮き屋根式タンクでも起こることがある。爆発で屋根が損壊したり、消火活動時に過剰に水を投入して屋根を沈下させることがなければ、通常、リムシール火災の制圧は難しくない。
(4) ベント火災; ベント火災はコーンルーフ式など上部カバーのタンクで起こり、通常、ベント部から放出する石油ベーパーに落雷などによって着火して生じる。
(5) プール火災(過充填による地上火災); プール火災は貯蔵タンクの種類に関わらず共通して起こり、過充填防止装置の故障やオペレータのミスで生じるタンク過充填の結果として起こる。防油堤に問題がなく、タンク過充填の発見が遅れなければ、漏洩した油は防油堤内に限定され、火災はプール火災として対応できる。しかし、防油堤の壁に問題があったり、閉止弁に問題があったりすれば、燃焼している油が防油堤から流れ出して、火災が拡大する可能性がある。
(6) 全面火災(障害物なし); 浮き屋根が沈降したり、固定屋根が噴き飛んでしまった場合に起こる。
(7) 全面火災(障害物あり); 屋根が壊れて、燃焼面へのアクセスが360°でできない場合に起こる。

< 4.事故対応の事前計画 >
■ 有効な消火戦略を持たずに攻撃すれば、タンク火災は恐るべき反撃で拡大し、壊滅的な結果を迎えるだろう。事故対応計画は定期的に訓練による見直しを行い、防止策や緩和策が十分実行可能なものにしておかなければ、実際のタンク火災の消火活動時で成功に導くことはできない。事故の事前計画には、つぎのような項目を明確にしておくべきである。すなわち、施設の配置、施設へのアクセス、施設内のアクセス、タンク仕様(基数、直径、高さ)、保有液の種類と容量、環境条件(天候ー気温、雨;豪雨、風)、地形ー設備の配置段差と水の流れ、火災の想定(最悪ケースを含む)、消火設備(固定消火設備、移動式消火設備)、施設の設置場所ー公設消防/相互支援との近さ・遠さ、自衛消防隊、泡薬剤の供給体制、消火用水と給水体制(石油タンク火災の抑制に関して最重要因子)である。

■ 机上で事前に作成する事故対応計画の主な点は、つぎのような事項を含めるべきであるが、これだけに限定されるものではない。
(1) 緊急時の事前準備事項、想定した事故(タンク火災、堤内火災、タンク破壊など)に基づくハザード内容とリスク評価
(2) 水/消火泡の必要量、既存システム(固定消火設備/移動式消火設備)の能力、有効な人員資機材(材料、装置、人員)の能力
(3) 施設に合った消火戦略・戦術の決定方法; 固定式設備または移動式設備による火災への攻撃、タンク内液のポンプによる排出、燃え尽きさせる判断、隣接タンクの保護など  

< 5.適用規格による基準 >
■ 貯蔵タンクの固定泡消火設備またはセミ固定泡消火設備の大部分は、米国防火協会のNFPA11「Standard for Low-, Medium-, and High-Expansion Form」(低・中・高発泡泡消火設備の規格)によって設計され、設置される。固定消火設備が設けられて損傷を受けなければ、リムシール火災に対して適切な装置といえる。しかし、貯蔵タンクの事故において火災の前に爆発が起これば、固定消火設備は損傷を受ける可能性が高く、火災を抑制することができない。この場合、代替の消火システム(移動式消火設備)を必要とする。

■ NFPA11による基準の限界について簡単に示すと、つぎのとおりである。
 ● 直径18mを超える固定屋根式タンクを防護する手段としてのモニターノズルは考慮されていない。 (泡モニターと接続配管の設計基準)  
   ● 小型タンク、特にシール部火災の条件でのみ固定消火システムは有用であろう。
 ● 固定消火システムの設計はシール部火災だけを対象にしており、全面火災は対象外である。
 ● 全面火災の場合には、モニターノズルで抑制するとだけある。
 ● 全面火災を含め、NFPAの基準を越えるような貯蔵タンクの消火活動については、燃え尽きさせることになる。

■ 従って、貯蔵タンクの火災防護を固定消火システムだけに頼っていると、システムが爆発で機能を失うと、火災に対処できなくなる。爆発を伴う火災のような状況では、消防車の泡モニターだけでは対応できない場合がある。特に、全面火災では、火災を制圧するために適した大量の消火泡を作る必要がある。

■ 移動式消火設備(大容量泡放射砲と供給配管)が無い場合、タンク火災は緊急事態対応部隊の能力を越えた激しいものになるかもしれない。そして、ボイルオーバーの可能性のある油種(例えば、原油や幅広い沸点をもった炭化水素混合液)では、ボイルオーバーに至ることもありうる。

< 6.貯蔵タンク火災のハザード >
6.1 防油堤の役目
■ 石油貯蔵タンクのハザードについてよく検討しておくべき事項は、火災の予防策と拡大抑制である。このために基本的なことは、タンク内液はどのようなことがあっても封じ込めておき、構外に流出させてはならない。緊急事態時に1次封じ込め設備または2次封じ込め設備以内に液を保持することができなかったら、施設にいる人や施設の近くにいる住民を危険に曝すことになる。また、誤った設備保全や運転ミスによって2次封じ込め設備内に留めることができず、油を拡散してしまい、爆発や火災の危険に陥りさせたりする。

6.2 熱流束および放射熱(輻射熱)
■ 貯蔵タンク火災に伴う熱流束と放射熱(輻射熱)は、人間や施設に重大なハザードをもたらす。燃焼する油(油自身と火炎の表面積)からは大量の熱が放出され、対象物(人や設備)と火災との距離や風速の状況によっては、人間(緊急事態に対応する部隊やオペレーター)や隣接の設備はタンク火災時に出る熱流束と放射熱による影響を受けるかもしれない。人が放射熱に曝され続けると、重度の火傷を負い、死に至ることがある。一方、施設が放射熱に曝されると、材料の強度が低下し、構造物が壊れて、危険性物質を封じ込めなくなるかもしれない。

■ 5kW/㎡以上の放射熱を受けると、FEMA(米国連邦緊急管理局)によれば、曝露時間60秒間で人はⅡ度の火傷を負い、助からない恐れがある。10kW/㎡以上の放射熱を受けると、60秒以内で致命的な火傷を負う恐れがある。放射熱レベルと受熱用量(サーマル・ドーズ;thermal dose) との関係は表1に示す。
表1 熱放射レベルと影響(素肌状態)
■ 放射熱に対する制御方法として、熱感受性の高い設備(例えば、槽や配管とそのサポート類)についてはウォーター・カーテンや固定式冷却水を供給することが適しているとみられる。このような制御方法は、各施設で策定される緊急事態対応方法の中で検討する事項である。構造物の崩壊や封じ込め設備の機能喪失というハザードは何としても避けなければならない。事故時に熱のハザードに曝される可能性のある消防士などの人間については、安全に対応できる放射熱レベルのしきい値を設定するほか、脱出経路(非常口)や保護冷却の方法を決めて管理しなければならない。

■ 受熱用量(サーマル・ドーズ)と致死可能性の関係は表2に示す。表2に示す値を超えると死に至る可能性がある。このため、熱に曝される人にとって熱流束のレベルを許容できるような距離に保つよう管理する必要がある。
表2 受熱用量の致死率に関する推定値
6.3 熱ストレス(ヒート・ストレス)
■ 消火活動あるいは蒸し暑い環境において生じるハザードのひとつが熱ストレスである。そのような状況では、身体に備わっている冷却機能が損なわれ、熱中症を引き起こす。火災などから放射される熱のほか、身体は物理的作業や運動を行うことによっても熱を発生する。

■ 人間、特に緊急事態対応の最前線に立っている人にとって、防護服の性能や物理的作業の継続によって熱ストレスは大いに違ってくる。熱ストレスによる徴候を感じ取って、医療的緊急事態である熱中症の進行を抑えるよう行動し、熱ストレスや熱中症による健康への影響を最小にすることが大切である。熱ストレスの徴候については表3を参照。(OHSCO「オンタリオ州労働安全衛生協議会」の資料から引用) おおまかに言うと、作業中に熱中症状が出る前に、水分補給を十分に行い、休憩をとることが肝要である。
表3 熱ストレスの症状
6.4 爆発による過圧(爆風圧)
■ 爆発による過圧(爆風圧)は、爆発で放出されるエネルギーによる爆発の衝撃波である。爆発による過圧は瞬時に音速で伝わる。爆発による過圧は、爆心地から放射状に放出され、負傷の程度を増大させる。過圧の大きさと影響は表5に示す。(NOAA「米国海洋大気局」の資料から引用)
 爆発による過圧の大きさと影響
6.5 有害物質
■ 火災事故には有害物質が発生し、消防士など緊急事態時の対応部隊にとって非常に危険な状況が生じることがある。煙やフュームの有害性は、油種や火災に含まれる物質によって異なり、燃焼時に消費される酸素量にも左右されるだろう。特に原油火災の場合、煙の中には、二酸化炭素、一酸化炭素、窒素酸化物、二酸化硫黄、揮発性有機化合物、多環芳香族炭化水素類、硫化水素、煙霧質、煤などの有害物質や微粒子を含んでいる。これらは健康被害へ影響を及ぼし、呼吸困難、身体機能の喪失、意識混乱など慢性的な中毒症状や生命に直結する危険性をもたらす。 

6.6 ボイルオーバー
■ ボイルオーバーは貯蔵タンク火災に関連した現象である。ボイルオーバー現象では、高温の燃焼した油がタンク底の水に接触した際、燃焼していた油(原油または炭化水素液の混合物)がタンクから爆発的に放出する。ボイルオーバーは原油タンクの火災事故の中で最悪の事態である。原油や広範囲の炭化水素留分をもつ混合油では、長時間の火災の最終段階でボイルオーバーを起こす可能性がある。

■ ボイルオーバーの起こす油種においてヒートウェイブがタンク底の水の層に近づいたら、現場指揮者はタンク周辺から人を避難させることを考えなければならない。「LASTFIRE」の指針では、タンクの壁温やノイズによってヒートウェーブの移動跡を決める方法を示していないが、赤外線熱画像カメラがヒートウェーブの位置を見つけるのに役立つかもしれない。さもなければ、タンク火災の状況によるが、事前検討としてホットゾーン位置を概略予測するには、ホットゾーンの降下速度を1.5m/hとして見積もるのがよいだろう。

■ 原油における標準的なボイルオーバーはつぎのとおりである。
(1) ボイルオーバーの影響範囲はおよそタンク直径の10倍以上に及ぶ。(「LASTFIRE」による)
(2) タンク上部からタンク底部へ向かうヒートウェーブの降下速度は約0.6~1.0m/hである。
図1 ボイルオーバーのメカニズム
< 7.教 訓 >
■ 2005年バンスフィールド火災の事故直後の時期、炭化水素液貯蔵施設の経営者やタンク・オペレータはこの事故の教訓を学んでいた。しかし、その後も大きなタンク火災が起き続けている。それは、警戒を怠ったり、危険予知の不足が露見したり、犠牲者が出ることへの無関心さがあるに違いない。
 バンスフィールド火災事故後に起きた主なタンク火災を挙げると、つぎのとおりである。
  ● 2009年、「インドのジャイプールの貯蔵施設でタンク火災、11名死亡」

■ 多くの炭化水素貯蔵タンク火災事故から学ぶべき教訓の主な事項を挙げると、つぎのとおりである。 
 ● 米国防火協会(NFPA)基準の限界 ー タンクの防火システムに関して限界があることを認識すること。例えば、固定消火設備は爆発・火災によって機能を喪失したことがあるし、全面火災を対象にしていない。全面火災との戦いについては専用の消火資機材を準備すること。
 ● ロジスティクス(兵站) ー 消防におけるロジスティクスは最も重要で難しい課題事項である。移動式で放射距離の長い大容量泡放射砲、大容量の消火水ポンプと大口径ホース、火災想定の検討結果に基づく消火薬剤の保有または供給体制、消火用水の供給源の確保といった事項は、火災を制圧する上で欠かせないものである。 
 ● 泡薬剤の品質 ー 泡薬剤は消火活動に有効な唯一の資材である。泡薬剤の品質は長期にわたって効果的であり、それが証明されていなければならない。泡薬剤の品質をチェックするための泡の性能試験を実施したり、泡薬剤メーカーへの確認を行うことは大切である。品質の悪い泡薬剤では、すぐに泡が消えたり、弱い風でも泡が壊れたりして、消火活動時間が長くなり、消防士を危険な状況に至らせてしまう。
 ● 緊急事態の事前検討 ー 封じ込め設備(1次および2次)、ロジスティクス、火災想定、油タンク火災への訓練など緊急事態時の対応計画については広範囲の内容を定期的に見直す。

< 8.まとめ >
■ タンク火災は頻繁に起こるというものではないが、バンスフィールド火災事故以降でさえタンク火災が起こっており、中には壊滅的な結果に至っている。最近のタンク火災を見ても、予防策について組織的な間違いがあっている。例えば、1次/2次封じ込め設備に関する不適切なメンテナンスによる健全性の不備、安全システムの設計ミスなどである。

■ さらに、組織的な間違いとしては、不適切な運転制御、不十分なロジスティクス、火災想定の欠如、訓練不足から露見した下手な消火戦術などからタンク火災が拡大し、人の安全、資産、環境、経営の継続性に問題が生じてしまった。

■ 石油タンク火災時の緊急事態は建物火災時とは完全に違ったものである。従って、タンク火災を実効的に制圧するためには、タンク火災との戦いに関する知識と経験をもった有能なメンバーが介入する必要がある。オリオン製油所のタンク火災の消火活動では、ウィリアムズ・ファイア&ハザード・コントロール社(Williams Fire & Hazard Control)が、タンク火災の緊急事態時における知識と経験が重要だということを示した。(NFPAの泡消火基準を越えた大容量ポンプと大容量泡モニターの使用)

■ 従って、タンク火災の緊急事態時にオペレータや組織がうまく対応するためには、火災の事前想定、教育訓練、緊急事態対応計画の検討、対応計画に関する定期的なテストについて十分に気を配り、最善なものにしていかなければならない。

補 足
■ 筆者のディリ・ヌワブエザ氏(Dili O. Nwabueze)はナイジェリアのエニ社(Eni-Nigeria)の所属である。
 「エニ社」(Eni)は、イタリアの半国有の石油企業で、イタリア最大の工業会社であり、70か国に展開している。1926年、イタリア政府が60%出資して設立したイタリア石油公団(Agip)が母体である。当初は100%国有だったが、現在は政府保有率は30%である。社名のEniは炭化水素公社(Ente Nazionale Idrocarburi) の略である。 ナイジェリアにはエ二社の傘下企業であるNAOC(Nigerian Agip Oil Company)がある。 
 なお、エニ社関連のタンク火災事故としては、2014年9月の「イタリア・シチリア島の製油所でタンク火災」がある。

■ 「受熱用量」(サーマル・ドーズ・ユニット:Thermal Dose Unit)は、石油・ガス産業で使用される熱の測定単位で、放射熱の曝露を測定するものである。放射熱と曝露時間の関数でつぎのように表される。
  1 TDU = 1 (kW/m2)4/3s
 受熱用量(サーマル・ドーズ・ユニット:TDU)による曝露レベルと症状(米国による定義)はつぎのようになる。 
受熱用量(TDU)による曝露レベルと症状(結果
所 感
■ 今回の資料は、タンク火災についてこれまで紹介してきたつぎのような設備論、戦略論、爆発評価論などと少し視点を変え、タンク火災時の拡大防止と人身災害防止に焦点を当てた興味深い内容になっている。
 ● 「タンク火災への備え」(2012年9月)

■ 特に、放射熱(輻射熱)による人への配慮について、日本ではなじみのない「受熱用量」(サーマル・ドーズ)で細かく管理しようという概念は興味を感じた。2004年9月の北海道十勝沖地震後の製油所タンク火災では、消火活動中に消防車両の塗装や樹脂部品などが損傷するほどの放射熱を受けている。負傷者は報告されていないが、過酷な環境だった。放射熱による人への配慮を定量的に把握して管理する手法の参考になる。

■ ボイルオーバーに関するヒート・ウェーブの降下速度は 0.6~1.0 m/hとしているが、事前検討の見積もりでは、1.5 m/hとおくのがよいとしている。これらは妥当な考え方だと思う。例えば、液面高さ15mの原油タンクが全面火災になった場合、約15~25時間でボイルオーバーの起こる可能性が高いが、消防隊や消防設備の配置は約10時間でボイルオーバーが起こると考えて計画する必要があるということである。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Aidic.it,  Liquid Hydrocarbon Storage Tank Fires – How Prepared is  your Facility? , Chemical Engineering Transactions, Vol.48, The Italian Association of Chemical Engineering, 2016         Dili O. Nwabueze , Eni Nigeria


後 記: 今回の資料では、放射熱の項でサーマル・ドーズ(Thermal Dose)やサーマル・ドーズ・ユニット(Thermal Dose Unit)というなじみのない言葉が出てきて悩みました。「Thermal Dose」の適切な日本語がありません。「Dose」とは、薬などの「服用量」を意味します。熱照射量や熱用量という言葉を考えましたが、人が放射熱を受けるので、「受熱用量」という言葉にしました。このため、これまで「Thermal Radiation」は「輻射熱」という言葉を使っていましたが、ここでは「放射熱」の方が適しているように思いましたので、「放射熱(輻射熱)」としました。



2016年11月9日水曜日

中国黒竜江省で実タンクによる火災の消火訓練

 今回は、2015年6月26日、黒竜江省の大慶油田の訓練基地で行われた容量20,000KLの実タンクを使用した火災の消火訓練について紹介します。
              三相射流消防車による消火活動   (写真はDqdaily.comから引用) 
< 防災訓練のあった施設の概要 >
■ 防災訓練があったのは、中国黒竜江省(ヘイロンチャン/こくりゅうこう省)大慶市(ダーチン/たいけい市)にある大慶油田有限責任公司の天然ガス分公司の訓練基地である。

■ 大慶油田有限責任公司は大慶油田で知られている石油会社であるが、中国の3大石油企業のひとつである中国石油天然気(ペトロチャイナ)の傘下にある。 
                        黒竜江省大慶市付近 (訓練のあった場所は不明)  (写真はグーグルマップから引用)
< 訓練の状況 >
■ 2015年6月26日、黒竜江省の大慶油田有限責任公司の天然ガス分公司の訓練基地でタンク火災の消火活動の訓練が行われた。訓練は黒竜江省、大慶市、大慶油田有限責任公司の共同で開催された。

■ 訓練は容量20,000KLの原油タンクで漏洩があり、火災が起きたという想定のもとに、実際にタンク火災を起こした実戦形式で行われた。

■ 訓練に先立ち、消火戦術が紹介され、訓練状況の映像が大型スクリーンで映し出された。

■ 訓練には、高さ25mから放射できる三相射流消防車(三相射流消防车)と呼ばれる特殊スクアート車、新型の泡消火剤、ドライケミカルなどが使用されたほか、無人偵察機による観察・監視が行われた。約20分の消火活動によって火災は鎮火した。三相射流消防車は、液体、気体、粉末の3種の消火剤を使用し、25mの高さから高速で放射する消防車である。 訓練では3台の三相射流消防車が使用され、淡い緑色の消火剤が噴射されると、瞬時にタンク上部を覆った。

■ 訓練には、大慶市消防隊、大慶原油の消防隊のほか、地方の消防署などから消防士300名と50台の消防車両が参加した。
(写真はDqdaily.comから引用)
(写真はDqdaily.comから引用)
(写真はDqdaily.comから引用)
(写真はMgxf.com から引用)
(写真はHlj.sina.com.cnから引用)
補 足
■ 「黒竜江省」(ヘイロンチャン/こくりゅうこう省)は、中国(中華人民共和国)東北部にある行政区で、ロシアと国境を接し、人口約3,800万人で、省都はハルピン市である。
 「大慶」(ダーチン/たいけい市)は黒竜江省の西南に位置する地級市で、市街人口約86万人である。市名は1959年に発見された大慶原油に由来する。油田発見が建国10周年直近であったため「大慶原油」と命名され、市の名前につながった。
黒竜江省と大慶市の位置   (図はPlaza.rakuten.co.jpから引用)
■ 防災訓練があったのは、大慶市の大慶油田有限責任公司の天然ガス分公司の訓練基地とあるが、詳細番地が分からず、グーグルマップでの場所の特定はできなかった。
  2007年頃から大慶原油の生産量は減ってきており、天然ガスの生産にシフトしているという。訓練に使用した円筒タンクは、余剰になった大慶原油用のタンクだと思われる。大慶原油は高流動点原油で、貯蔵には内部加熱器と外部保温が必要であり、不要な用役(蒸気)を省くため、貯蔵タンクは必要最低基数にされることから、訓練用に転用されたものと思われる。訓練の写真では、タンク外面は保温を撤去した跡のように見える。タンク容量が20,000KLとあるので、直径36m×高さ20m程度のものと思われる。この大きさのタンク全面火災では、放射能力10,000L/minクラスの大容量泡放射砲システムを必要とする。

■ 「三相射流消防車」は液体、気体、粉末の3種の消火剤を使用し、高さ25mから高速で放射する消防車とある。三相射流消防車は英語名でTriphase Jet Flow Fire Truckと称し、安徽省(アンホイ/あんき省)明光市(ミングァン/めいこう市)にある消防車メーカーである明光浩淼安防科技股份公司(Minggang Haomiao Protection Technology Corporation)が製作したもので、三相射流技術(Triphase Jet Flow Technology)を採用した消防車という。
 同社のウェブサイトによると、25m三相射流消防車(Benz 25M Triphase Jet Flow Fire Truck)は、粉末消火の放射能力が流量5kg/s×放射距離18m、泡消火の放射能力が400L/min×放射距離25mとある。(別な表では、粉末;30kg/s、泡混合液;80L/sというデータあり) ノズルは2個付いており、泡混合液と粉末消火剤を別々に放射させるほか、三相で放射させることができるとみられる。(詳細は同社ウェブサイトの「三相射流消火技術」を参照) 
 泡薬液と粉末消火剤を搭載した消防車としては、オーストリアの消防車メーカーであるローゼンバウアー社(Rosenbauer)が空港用化学消防車を製作しているが、技術の差異は不詳である。
25m三相射流消防車(Benz 25M Triphase Jet Flow Fire Truck   
(写真はMgxf.com から引用)
三相射流消防車による消火実験の状況   (写真はMgxf.com から引用)
所 感
■ 20,000KLの実タンクを使って火災の消火訓練を行うというアイデアと実現性(費用面、準備面、環境面、住民の理解面)は、さすがに中国だという感じである。
 放水だけの訓練では生まれない消防士の緊張感は相当なものだろうと思う。特に、タンク火災の経験のない消防士にとって貴重な経験になる。
 一方、消火技術や消火資機材の性能確認という面では、割り引いて考えざるを得ないだろう。訓練写真を見ると、火炎や黒煙の状況は実際のタンク全面火災のように激しいものではない。実タンクを使用して全面火災を再現するのではなく、訓練では、タンクの屋根部に工夫してリムシール火災または部分屋根火災を作り出し、タンク内には石油ではなく、水が入れられているものと思われる。

■ 三相射流消防車という名前は初めて聞く。訓練写真によると、初期消火には泡混合液が使用され、途中で粉末消火剤が使用されたとみられる。三相で放射させることによる効果はよくわからない。
 放射性能から見て、大型タンクにおける全面火災時の大容量泡放射砲システムの代替にはならないと思われる。しかし、石油化学プロセス装置の火災や航空機火災(空港用化学消防車)への適用はできるように思う。 

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである
    ・Dqdaily.com,全省大型油罐火灾扑救跨区域实战拉动演练在大庆举行,  July 30,  2015 
  ・119.china.com.cn,黑龙江举行大型油罐火灾扑救跨区域实战演练,   June 29,  2015
    ・Mgxf.com, 25米举高喷射三相射流消防车完成演练任务,  July 07,  2015


後 記: 今回の情報1年以上前の話題ですが、たまたま実タンクを使ったらしい消火訓練の写真があったので、調べ始めたものです。10月に紹介した「中国河北省の原油備蓄タンク基地で防災訓練」と同様のきっかけです。初めは実タンクを使っただけのものかと思っていたら、三相射流消防車という初めて聞く消防車の存在が分かり、この点も調べることにしました。三相射流という技術は中国のようですが、車体はベンツ製ですので、共同事業ということでしょうね。メーカーである明光浩淼安防科技股份公司のウェブサイトは中国語だけでなく、英語版を出していますので、海外への販路を視野に入れているようです。たくましいですね。

2016年11月1日火曜日

東亜石油京浜製油所のアスファルトタンク火災事故(2006年)

 今回は、10年前の2006年5月21日(日)、神奈川県川崎市にある東亜石油京浜製油所のアスファルトタンクが爆発して火災となった事例を紹介します。
(写真はYomiuri.co.jpから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、神奈川県川崎市川崎区水江町にある東亜石油京浜製油所の水江工場の石油貯蔵タンク施設である。

■ 東亜石油は1924年に設立され、川崎市水江町に精製能力70,000バレル/日の製油所を有している。
 発災があったのは、石油貯蔵タンク施設にある直径約26m×高さ約14.5mの容量6,500KLのアスファルトタンクTK-3である。貯蔵タンクはボイラー用の燃料としてアスファルトが入っており、タンク内に蒸気式加熱器が設置され、通常、150~170℃の範囲で温度調節されていた。
東亜石油京浜製油所の周辺(現在)  (写真はGoogleMapから引用)
東亜石油京浜製油所の配置(発災当時)  (図はToaoil.co.jpから引用)

< 事故の状況および影響 >
事故の発生
(写真はAsahi.comから引用)
■ 2006年5月21日(日)午後3時頃、東亜石油京浜製油所水江工場の石油タンク1基が爆発して、火災となった。タンク内にはボイラー用の燃料としてアスファルト約4,000KLが入っていた。

■ ドーンという爆発音は2km先まで響いたという。爆発時の衝撃でタンクの屋根がめくれ、中から激しく黒煙や白煙が立ち昇った。爆発炎上により屋根は破損し、上部から三分の一ほどがタンクの内側に折れ曲がった。

■ 発災に伴い、川崎市消防局の化学消防車などが出動し、消火活動が行われた。

■ 火災は約4時間後の午後644分に鎮火が確認された。事故に伴うけが人は出なかった。

被 害
■ アスファルト用貯蔵タンク1基が爆発・火災で損壊した。

■ 発災に伴う負傷者は無かった。
 (写真はPref.kanagawa.jpから引用)
< 事故の原因 >
■ 原因は、作業の確認ミスにより高温のアスファルト内に軽質油が入って、爆発混合気が形成され、タンク内壁の付着物質の自然発火によって爆発を起こしたものとみられる。
(1) アスファルトタンクへ軽質油混入の要因
  装置運転開始に伴う減圧残渣油(アスファルト)のタンク切替え作業時に、本来閉めておく小径配管のバルブの確認不足によって開いたままのバルブを通じて小径配管から軽質油がタンク内に入った。

(2) 可燃性ガスの発生要因
  軽質油(軽油相当)が高温のアスファルトタンクに混入したため、タンク温度は管理温度(170℃)を超える183℃まで上昇した。軽質油が混入したアスファルトは120℃から酸化・熱分解が始まるといわれており、燃焼下限界を超える濃度の可燃性ガスがタンク内に滞留したとみられる。   

(3) 着火要因
  アスファルトタンクの内壁には、アスファルトから発生する微量のフューム(蒸気)が冷却され、タンク供用中に付着・蓄積する。このタンク内壁の付着物質が自然発火したものとみられる。
 (同社の類似タンクにおいて酸化発熱・蓄熱した付着物質を採取して確認したところ、230℃付近で発火温度に達した)
発災の燃焼メカニズム  (図はToaoil.co.jpから引用)
< 対 応 >
■ 事故発生に伴って出動した車両は、川崎市消防局の化学消防車など23台だった。

■ 東亜石油は、5月21日(日)、原因究明のため第三者の専門家を入れた火災事故対策委員会を設置した。

■ 5月22日(月)、川崎市消防局と神奈川県警が合同の立入り調査を行った。

(写真はAsahi.comから引用)
■ 発災したアスファルト・タンクの原因究明のため、タンクの液抜き・清掃が行われた。この際、発災から10日ほど経った時点でも、タンク内が約72℃と高温で、人が近づけない状況だった。固まる前に残留しているアスファルトをタンクから抜きとる必要があるので、内部の温度を計測するため、大型クレーン車に温度計を吊り下げて、油温を計測した。発災時に183℃だったタンク内の温度は低下しているが、ペースは極めてゆっくりだったことが分かった。

■ 東亜石油は7月28日に中間報告を発表するとともに、つぎのような安全対策をとることとした。
(1) 誤操作の防止
   ・非定常作業時の再確認方法を実施する。
(2) タンク温度上昇防止
   ・監視用温度計の追加設置と軽質油の逆流防止対策を実施する。
   ・タンク最高管理温度(170℃)の設定と管理を強化する。
(3) タンク油量管理の徹底
(4) 類似箇所への水平展開 

補  足
■ 「東亜石油」は1924年に設立された石油会社で、現在は昭和シェル石油グループの石油精製会社である。本社および拠点の京浜製油所は、川崎市川崎区にあり、精製能力は70,000バレル/日である。現在の工場のほかに精製能力120,000バレル/日の扇町工場があったが、2011年に閉鎖された。なお、発災のあった年の前年(2005年)に東亜石油はTPM優秀賞を受賞している。

■ 「アスファルトの取扱い」についてAPI(米国石油協会)では、つぎのような趣旨のリコメンドしている。
(1) タンク内の付着物は177℃を越える温度で酸化により発熱し、190℃を越える温度で自然発火する可能性がある。
(2) タンクに177~232℃の温度範囲で貯蔵する場合、タンク内に不活性ガス導入による不活性化は付着物の酸化を防止する一方、硫化鉄のような自然発火物の生成に適した環境を形成する。このため、タンク内に不活性ガスを導入するか否かは、施設のオーナーが選択する。
(3) タンク内の不活性ガス導入による不活性化は、自然発火性の付着物の生成を助長しやすくする。これを避けるために、約5%の酸素を含む不活性ガス(例えば、煙道ガス)を導入すれば、自然発火性の付着物の生成を最小にすることができる。

■ アスファルトタンクにおける最近の事故事例は、「インドネシアの製油所でアスファルトタンクが爆発・火災」の補足の項を参照。 

所 感
■ アスファルトタンクにおいて注意すべき項目は、これまでの事例紹介の際につぎのように述べてきた。
   ① 水による突沸
   ② 軽質油留分の混入
   ③ 運転温度の上げ過ぎ
   ④ 屋根部裏面の硫化鉄の生成
 今回の事例は、「軽質油留分の混入」が事故の原因である。混入に至ったのは複雑な要因によるものでなく、小径配管のバルブ1個の開閉確認のミスである。この対策として「誤操作の防止」について「非定常作業時の再確認方法を実施する」こととしている。そのとおりであるが、この対応を風化させずに継続して実行することは容易とはいえない。
 このような作業時の失敗を防止するには、つぎの3つを実行する以外にない。
   ① ルールを正しく守る
   ② 危険予知(KY)活動を活発に行う
   ③ 報連相(報告・連絡・相談)によって情報を共有化する 

備 考
 本情報はつぎの情報に基づいてまとめたものである。
  ・Toaoil.co.jp,  京浜製油所水江工場の減圧残渣油(アスファルト)タンク火災事故,  May  23,  2006  
  ・Toaoil.co.jp,  京浜製油所水江工場の減圧残渣油(アスファルト)タンク火災事故原因,  July  28,  2006  
  ・Toaoil.co.jp,  TOA OIL 2007 Corporate Social Responsibility Report,  March,  2007  
  ・Yomiuri.co.jp, 川崎市の製油所タンクが爆発、けが人なし,  May  21,  2006
  ・「産業と保安」,  東亜石油タンク火災事故,  June  22,  2006   


後 記: 今回の事例は、10年前に入手した情報をもとにまとめ直したものです。あらためてインターネットで検索して関連情報がないか調べてみましたが、無いということがわかりました。当時に報じられた新聞記事のリストが出てきましたが、すでに記事の公開はすべて打ち切られていました。それでは、この事例が事故情報としてまとめられ、インターネットで見られるかというと、これもありません。唯一、東亜石油の「2007 CSR レポート」に記載があるのみでした。