今回は、2025年6月16日(月)、米国テキサス州ジェファーソン郡ポートアーサーにあるアムロン・ゴールデン・トライアングル社の廃水処理施設の貯蔵タンクに落雷があり、4基が火災になり、うち1基はタンク屋根が噴き飛ぶほどの爆発があった事故を紹介します。
< 発災施設の概要 >
■ 発災があったのは、米国テキサス州(Texas)ジェファーソン郡(Jefferson County)ポートアーサー(Port Arthur)にあるアムロン・ゴールデン・トライアングル社(Amlon Golden Triangle)の廃水・廃棄物処理施設である。施設は産業顧客から廃水・廃棄物を引き取って化学物質を除去し、廃水は市のシステムを通じて安全に流れるようにしている。
■ 事故があったのは、プロクター通り沿いにある廃水・廃棄物処理施設内にある貯蔵タンクである。
<事故の状況および影響>
事故の発生
■ 2025年6月16日(月)午後3時過ぎ、廃水処理施設内の貯蔵タンクに落雷があり、火災になって黒煙が空高く舞い上がった。
■ 発災にともない、消防隊が出動した。
■ 火災はFRP製(Fiber
Reinforced Plastics;繊維強化プラスチック)の貯蔵タンク1基が炎上し、さらに隣接していた2基のタンクに延焼した。非有害性廃水を入れていたタンクは燃え続けた。 FRP製タンク自身が火災の燃焼源となった。
■ 貯蔵タンク3基が火災に見舞われたあと、別な貯蔵タンク1基が爆発した。 この爆発で貯蔵タンクの屋根が噴き飛んだ。
■ 1マイル(約1.6km)以上離れたところからも見えた火災は、近隣住民に不安を与え、施設内にいた作業員は避難を余儀なくされた。
■ 消防隊は地域住民に対し緊急事態に備えて、「家の中に入り、ドアと窓を閉めてください。外の環境に身をさらさないようにしてください」といい、「車に乗る場合や道路を歩く場合は、風上にいくようにしてください。煙の風下に立たないようにしてください」と予防措置を講じるよう注意を促した。
■ 消防隊は250ガロン(950リットル)の泡消火剤を使用して火災の鎮火に努めた。
■ 消防署によると、現在、タンクには水しか入っていないが、油分が残留しているという。
■ ユーチューブでは、タンク火災の状況を伝える動画が投稿されている。
●Youtube、「Lightning
sparks storage tank fires at Port Arthur business」(2025/06/18)
●Youtube、「Lightning strikes a tank, adding to
the chaos of industrial fire」(2025/06/18)
●Youtube、「Beaumont Police, fire, EMS respond to major wreck along Fannett Rd」(2025/06/17)
被 害
■ 廃水処理施設内の貯蔵タンク4基が火災で損壊した。内部の油が焼失した。
■ 負傷者は出なかった。
< 事故の原因 >
■ 貯蔵タンクへの落雷によって引火したものとみられる。
< 対 応 >
■ 当局が中規模火災と分類した火災は約1時間半燃え続けた。
■ アムロン・ゴールデン・トライアングル社は、発災日の6月17日(火)、つぎのような声明を出した。
「本日午後3時15分頃、テキサス州ポートアーサーにあるアムロン・ゴールデン・トライアングル施設において、悪天候による落雷により火災が発生しました。タンクには非有害性廃水が貯蔵されており、このタンクはグラスファイバーで製造されており、これが火災の燃料となりました。従業員は全員無事で、負傷者もいませんでした。
消防署は迅速に対応し、事態は速やかに鎮圧されました。現在、被害状況を調査しており、関係当局および緊急対応当局に全面的に協力しています。タンクファームからの排水、消防署が使用した水や泡消火剤は完全に封じ込められています。当社の最優先事項は、従業員と周辺地域の安全です」
補 足
■「米国テキサス州」(Texas)は、米国南部にあってメキシコ湾岸に面し、メキシコと国境を接する人口約3,050万人の州である。
「ジェファーソン郡」(Jefferson County)はテキサス州の東部に位置し、人口は約25万人の郡である。
「ポートアーサー」(Port Arthur)は、ジェファーソン郡の東に位置し、人口約56,000人の町である。近隣のボーモントやオレンジとともに「ゴールデン・トライアングル」と呼ばれる都市圏を形成している。
■「アムロン・ゴールデン・トライアングル社」 (Amlon Golden
Triangle)は廃棄物処理会社で、産業顧客から廃水・廃棄物を引き取って化学物質を除去し、廃水は市のシステムを通じて安全に流すようにしている。施設は、貯蔵設備や処分施設を含めた集中廃棄物処理プラントを通じて、廃水と産業廃棄物の処理とリサイクルをしている。腐食性廃棄物の処理、油汚染水の処理、産業機器の洗浄を専門としている。1日あたり最大10万ガロン(379KL)の産業廃水を処理できる能力を備え、9,000平方フィート(836㎡)の屋根付き密閉式洗浄施設で、年間を通して専門的な洗浄業務を提供している。
■「発災タンク」は、廃水処理施設の貯蔵タンクである。グーグルマップでアムロン・ゴールデン・トライアングル社の施設を調べたが、該当するようなタンク群は見当たらなかった。一方、アムロン・ゴールデン・トライアングル社のウェブサイトを調べると、新設の廃水処理施設とともに発災タンク群が写っているサイトがある。(サイトは以下の写真を参照) タンクの大きさが分からないが、直径4~6m、高さを5~7mと仮定すると、容量は63~198KL程度の円筒型タンクである。廃水用のタンクはFRP製であるが、爆発でタンク屋根が噴き飛んでいるので、油用タンクは炭素鋼製だと思われる。
所 感
■ 火災の原因は貯蔵タンクへの落雷によるものとみられる。
■ 被害施設は、当初、石油生産関連の塩水処理施設だと思った。しかし、事業者は“塩水処理施設”という言葉を使わず、産業顧客から廃水を引き取って化学物質を除去し、処理した水は市のシステムを通じて安全に流れるようにした廃水処理施設だという。
このことから油を含んだいろいろな廃水を処理する施設であるが、貯蔵タンク群を見ると、複雑なシステムをとっているように思えない。施設における貯蔵タンク内のガス濃度は引火性の高い雰囲気になっているのではないだろうか。これを前提にした安全管理システムになっていないように感じる。
■ 消火戦略には積極的戦略・防御的戦略・不介入戦略の3つがあるが、FRP製タンクの場合、火災の熱によって容易に燃えていくので、塩水処理施設の火災では、不介入戦略をとり、燃え尽きさせる方法をとることが多い。今回の火災では、泡消火剤を使用したことになっているが、消防活動を撮った写真では、隣接タンクの冷却散水による防御的戦略をとっているように見える。消火活動は1時間半で制圧したと報じられているが、タンク内液の油量が比較的少なかったか、実際はもっと火災が続いているのだろう。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Kfdm.com, BREAKING: Lightning
sparks storage tank fires at Port Arthur business, June
16, 2025
・12newsnow.com, Lightning strike sparks tank fire at Amlon Golden
Triangle facility, June 16,
2025
・Firehouse.com, Lightning Strikes Port Arthur, AL, Tank Farm, June
18, 2025
・Cool925.iheart.com, Lightning Strike Causing Tank Fires, June
17, 2025
・Fox4beaumont.com, BREAKING: Lightning sparks storage tank fires at
Port Arthur business, June 17,
2025
後 記: 最近の事例で感心するのは、どんなころでも動画が撮られていることです。今回のタンク火災でも貯蔵タンクの屋根が噴き飛ぶ決定的映像が撮られています。メディアの記事では、このことに触れているものはありません。初めは別な被災写真ではないかと思いましたが、タンク1基に爆発があったというので、写真や動画は実際のものだと判断しました。今回もテキサス州の報道は冷めていると感じました。というより、この程度(?)のタンク火災の事故報道は現場に行かず(あるいは確認せず)、記事が書かれていることが分かりますね。