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2024年3月13日水曜日

安価なドローンが化学テロの脅威となる理由

 今回は、タンク設備の事故ではなく、2023年暮れにThebulletin.orgHazmatnation.comに掲載された「Why cheap drones pose a significant chemical terrorism threat」(安価なドローンが重大な化学テロの脅威となる理由)を紹介します。

< はじめに >

■ 2023年初め、英国警察は、イラクやシリアで領土を支配していたテロ組織イスラム国に提供するためにドローン(無人航空機)を設計・製造したとして、モハマド・アル・バレド(Mohammad Al-Bared)を逮捕した。3Dプリンターで作られたドローンは化学兵器や爆発物を運ぶように設計されており、アル・バレドの自宅を捜索したところ、化学式や化学兵器の製法が書かれたノートが発見された。当局によると、機械工学の博士課程に在籍していた研究とは無関係だという。アル・バレドは、偽装会社を使って製造していた武器を紛争地帯に運ぶ計画を立てていた。  

■ アル・バレドはテロ行為準備罪で9月に有罪が確定したが、ドローンの使用を計画した最初のテロリスト予備軍ではない。このような計画の歴史は、日本の終末カルト集団であるオウム真理教が1993年頃に化学兵器や生物兵器を使った攻撃を想定し、遠隔操作のヘリコプターを使った実験を行ったことに遡る。ドローンは1935年に英国で開発され、1980年代には民間でも活用され始めていた。結局、オウム真理教のグループは、ドローンを使わずに神経ガスのサリンを東京の地下鉄に散布し、死者14人、負傷者約6,300人を出すテロ攻撃を行った。オウム真理教はドローンを使うことができなかったが、それ以降、世界のドローンの技術は著しく進歩している。

■ 比較的安価なドローンは、ウクライナ戦争からガザ地区でのイスラエルとハマスの紛争に至るまで、戦争や紛争の主役になりつつある。ドローンはかつては富裕で強力な軍隊のものだったが、今では安価な民生用ドローンを戦闘に使用することが可能になっている。少し手を加えれば、高度な防空網さえもすり抜けることができる。アル・バレドの事件が示すように、ドローンは化学テロの脅威になっている。ドローンは、噴霧器を装備して化学兵器になり得るし、化学プラントへの爆弾攻撃に使われる可能性もある。また、ドローンは有力な攻撃支援を提供することができ、たとえば、攻撃を計画・実行する際の偵察業務を支援したり、治安機関の対応状況をモニタリングしたり、テロ活動の宣伝に使うこともできる。

< 安価に化学攻撃 >

■ ドローンは化学兵器を運ぶのに優れた手段である。野外コンサートやスタジアムなど混雑した場所の上空を飛行し、集まった人々に化学兵器を散布することが可能である。商用ドローンの積載量は小さいため被害は限定的だが、低空飛行で密集した人たちを標的にすることは大きな脅威となる。

■ 特に商用の農業用ドローンは化学兵器を運ぶのに適した設計になっている。農薬散布用のドローンはケミカルタンク、ポンプ、ホース、ノズルなどが装備されており、有毒な化学物質の液体を扱えるようになっている。テロを企てる者にとっては、何の憂いもなく完ぺきな製品を手に入れることができる。ドローンは最低1,500ドル(22万円)という低価格で購入でき、入手に当たって特別な認可を必要としない。

■ ドローン技術の向上によって、ドローンは化学兵器の運搬システムとしての実効性を高めている。インターネットによる電子商取引サイトのアマゾンで数千ドルで入手した趣味用の簡易なドローンでさえ、基本的なウェイポイント・ナビゲーション(Waypoint Navigation)が可能で、GPSGlobal Positioning System;全地球測位システム)によって誘導して事前に決められたルートを自律飛行できる。テロリスト組織は、集まった群衆の上に散布するルートを事前に計画し、化学物質を散布するドローンを飛ばせばよい。さらに、テロリストはおとりドローンを組み込むかもしれない。おとりドローンとは、化学兵器による攻撃から治安機関の注意をそらすため、武器を装備していない簡素なドローンである。また、現在では、商用ドローンであっても自律モードで作動し、オペレーターと直接やりとりせずに目標まで飛行できるため、ドローンとオペレーター間の接続を妨害する防御策は役に立たない。

■ 言うまでもなく、テロリストがドローンで化学兵器を使用する以前に、直面する大きな課題がある。化学兵器の入手である。サリン、VX、マスタードガスのような化学兵器をテロリストが入手するのは容易なことではない。テロリストはそれらを取り扱う知識だけでなく、専門的な機器、化学物質の材料、施設を必要とする。しかし、ハーバード大学医学部(Harvard Medical School)の研究者や私が指摘してきたように、鎮痛剤として使用されているフェンタニル(Fentanyl)は、従来の兵器用薬剤に代わる致死性のある代替品となる可能性がある。1990年代、国防総省と司法省はフェンタニルを無力化剤(催涙ガスのように一時的で生命を脅かさない作用のみを引き起こす薬剤)として研究したが、標的を無力化するか殺害するかの差は非常に小さいため、フェンタニルは安全ではないと結論づけた。現在、フェンタニルは闇市場においてそれほど難しくなく入手可能である。 実際、米国では麻薬としてフェンタニルを入手して過剰摂取による事故が増えているという。

< 弱点が多く隙すきだらけの対応策 >

■ ドローンは化学兵器を運ぶために使用する以外にも、直に化学施設を攻撃するという方法がある。

1984123日、インドのボパールにあるユニオン・カーバイド・インディア・リミテッド(Union Carbide India Limited UCIL)の殺虫剤工場において、安全上の欠陥によって猛毒のイソシアン酸メチル40トンが放出してしまう事故が発生した。インドのマディヤ・プラデシュ州政府は、この事故によって3,787人が死亡し、574,366人が負傷したと報告した。他の推計では、死者数は16,000人にのぼるという。

 同じように化学物質の放出を引き起こせば、テロリストにとって大量殺戮を目的とした化学攻撃を実行する最も簡単な方法である。テロリストは一般に出回っていない特別な化学物質を入手する必要はなく、化学施設において災害を引き起こすのに十分な量の爆弾を爆発させるだけでよい。米国サイバーセキュリティ・インフラストラクチャ・セキュリティ庁(Cyber​​securityInfrastructure Security AgencyCISA)は、米国内の高リスク化学施設を3,200箇所指定した。

■ 米国議会は2006年に化学施設テロ対策基準を可決し、サイバー・セキュリティ対策や物理的セキュリティ対策、人の身元確認、適合性調査など化学施設におけるセキュリティ対策を全国的に義務付け、施行していたが、この法律には航空攻撃に対して最小限の要件しかない。しかし、2023728日、米国議会は化学プラントをテロから守るための法律のひとつを失効することを認めた。米国サイバーセキュリティ・インフラストラクチャ・セキュリティ庁はもはや化学施設のコンプライアンス(適合性)すらモニタリングできず、期限切れとなった法律の最低限の要件でさえも執行できなくなった。

 注記;失効になったのは化学施設テロ対策基準の規制“6 CFR Part 27”で、スクリーニング閾値量や濃度を超える化学物質を保有する施設に適用されるもので、失効の影響は, EPA Chemical Facility Anti-Terrorism Standards Lapse」(February 21, 2024)を参照。

■ ドローンによる施設への攻撃は容易になっている。たとえば、ドローンはフェンス、車止めポール(ボラード)、ゲートなど施設の物理的な障壁の上を飛行して、化学物質の貯蔵タンクに爆弾を投下すれば、化学物質を放出することができる。現在の連邦法では、民間部門がドローン撃破システムを運用することを認めていないため、化学プラントの事業所は脅威を特定し、連邦法執行機関に連絡し、警察官の到着を待つ必要があり、それから携帯式妨害装置などによって脅威を無力化することになる。趣味用のドローンでさえ時速100マイル(時速160km)以上で飛行できるので、積極的な攻撃者であれば目的を成就する可能性が高い。

■ テロリストがドローンを使って化学施設への攻撃を準備する可能性もある。たとえば、2019年にニュージーランドのクライストチャーチで51人が死亡した襲撃事件では、テロリストのブレントン・タラントは事前にドローンを使って偵察を行っていた。同様に、化学プラントの攻撃を計画するテロリストが施設のまわりをドローンで飛行させ、警備員の動きを探り、周辺の地図を作成し、監視カメラの位置を探したりして、ドローンによる攻撃の経路を見出すことができる。施設の管理者がドローンを発見しても、ドローン趣味者の不注意か、法律に疎い人の仕業と片づけてしまうかもしれない。

< 何をすべきか >

■ テロの脅威を軽減するために、議会は化学施設テロ対策基準プログラムを再び認可する必要がある。化学プラントは健全でしっかりしたセキュリティ基準を持っておく必要があり、連邦政府機関によって実行性をモニタリングされるべきである。また、議会は、センサ・通信ユニット・コントローラといった機器を用いたセンサネットワークの確立や、連邦航空局の無人交通管理システム計画のような情報共有化システムへの参加など、航空状況把握に関する新たな要件を入れた基準に更新すべきである。商用ドローンが幅広く普及するにつれ、化学施設の所有者や運営者にドローンに関する情報を提供することは、懸念する必要のないドローンを知る上で役に立つ。

■ また、議会は、重量55ポンド(25㎏)を超える農業用ドローンを買う人に購入前に連邦航空局の認証を受けることを義務付けるべきである。すでに農業用ドローンの操縦にはPart137UAS認証が義務付けられているので、正規の購入者への影響は最小限にとどまる。さらに、州・地方・連邦の法執行機関は、農業用ドローンに関して過激派の関心を監視すべきである。すでに知られているテロリスト集団が農業用ドローンや市販の多機能なドローンを入手しようとしている場合、危険信号を発して捜査できるようにすべきである。これには、プレシジョンホーク社(PrecisionHawk)やハイリオ社(Hylio)のようなドローン製造者と提携して、不審な取引に関する情報を共有することも含まれる。また、国際社会は、大規模な石油タンク基地を有する国への農業用ドローンの輸出規制と監視を検討すべきである。これは、化学兵器や生物兵器の拡散を防ぐために、米国を含む国々間で輸出規則を調整しているオーストラリア・グループのような国際協定になっていくかもしれない。


■ 隠れた化学テロリストにとってドローンは非常に都合の良いものである。ドローンは安価で、斬新的で且つ効果的な運搬システムとしての機能をもっている。地上の警備設備の上を飛び越えて化学施設を攻撃することもできるし、攻撃前の偵察や攻撃結果の撮影をすることもできる。化学テロを阻止するためには、ドローンの進歩や用途拡大を考慮した新たな取り組みを必要とするだろう。大規模なドローン配送などの業務を可能にする規制や技術の進歩と同様、新たな取り組みの実現には時間がかかるかもしれない。

少なくとも政策立案者は、化学施設を攻撃から守るためにせっかく制定した米国のプログラムを失効させるなどして、化学テロリズムのリスクを増大させることは避けるべきである。とはいえ、最近の議会をみていると、これは難しい注文かもしれないが。

補 足

■ 日本におけるドローンによる事件としては、2015年の首相官邸無人機落下事件がある。2015422日に内閣総理大臣官邸の屋上に放射性物質を搭載したドローンが落下した。発見されたドローンは中国企業のDJI社製のPhantomであり、同機種は2015126日に米国で泥酔したシークレットサービス職員がホワイトハウスに落下させた機種である。 犯人は福井県に住む元航空自衛隊員(当時40歳)で福井県警察に自首し、反原発を訴えるために福島の砂100gをドローンを使って飛行させたと自供した。さらに驚くことにはドローンを飛ばしたのは49日で、首相官邸が発見したのは13日後の422日だった。この事件を契機にドローンの法整備の必要性が高まり、航空法は改正された。しかし、2016年に施行されたドローン規制法では、内閣総理大臣官邸などの国の重要施設、外国公館、原子力事業所の周辺地域の上空でドローンを飛行させることが禁止されただけである。

所 感

■ ドローンは有益な機器であり、このブログでもつぎのような事例を紹介した。

  20204月、「ドローンによる貯蔵タンク内部検査の活用」

 ● 20213月、「危険物質の事故対応で、もはやドローンは欠かせない!」

 ● 20222月、「欧州における自律型ドローンによる石油ターミナルの検査」

 ● 20235月、「欧州ベルギーの港湾施設において自律型ドローンのネットワークを構築」

■ 一方、ドローン(無人航空機)が戦争に使用され始め、貯蔵タンクへのテロ攻撃の観点から取り上げてきた。主な事例はつぎのとおりである。

  20199月、「サウジアラビアの石油施設2か所が無人機(ドローン)によるテロ攻撃」

 ● 20235月、「ロシアの石油貯蔵施設が2日連続で無人航空機(ドローン)攻撃によりタンク火災」

 ● 20241月、「ロシアの石油貯蔵施設が無人航空機(ドローン)攻撃によるタンク複数火災」

 過去の事例を見てくると、ドローン(無人航空機)による貯蔵タンクへの攻撃性が進化し、戦術上も進化している。特に、20241月の事例は容量1,500KLクラスと比較的小型タンクであるが、一度に4基が被災している。

■ 今回の資料は、貯蔵タンクだけでなく、化学施設へのテロ攻撃として広くとらえ、その脅威を指摘している。他国の戦争時の話として軽んじやすいが、オウム真理教の事件や首相官邸無人機落下事件を見ていると、日本でドローンによるテロ攻撃は起こらないとはいえない。ドローン(無人航空機)が急速に進歩している時代に、ドローン規制法が首相官邸上空でのドローンを飛行禁止にしているだけでは対応が不十分で、テロリストを念頭にしたテロ対策基準が必要なことを認識させる。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Thebulletin.org, Why cheap drones pose a significant chemical terrorism threat, By Zachary Kallenborn, November 21, 2023

     Hazmatnation.com, Why cheap drones pose a significant chemical terrorism threat,  December 14, 2023

     Williamsmullen.com, EPA Chemical Facility Anti-Terrorism Standards Lapse, February 21, 2024

     Counterterrorism.police.uk, Man found guilty of terror charge after building drone to give to ISIS,  September 28, 2024

     Armscontrolwonk.com, DEATH CULT DRONES, MAYBE, May 26, 2022

     Drone-tech-academy.jp,  ドローン武器化を違法行為として取締り制度, August 29, 2019

    Mainichi.jp,  ドローン官邸落下から5年 進んだ法整備、広がる活用 安全管理にはなお課題, May  23, 2020


後 記: 本論では化学施設へのテロ対策基準が必要なことを指摘していますが、最後に米国議会がひどくて情けない状況の憂いで終えているのが考えさせられます。(米国議会だけでなく、日本の国会も同じでしょうという声が聞こえてきそうですが)

 まとめに当たっては、最近の専門用語について勉強を兼ね、少し補足するような文章を入れました。また、過去の事例などにも画像を入れて関心をもってもらうよう工夫しました。たとえば、1995年のオウム真理教地下鉄サリン事件は30年も前のことなので、若い人(といっても40歳くらいでも)には記憶にない昔話でしょう。4月に事件がありましたが、私自身は3月まで霞が関を通る地下鉄を利用していたので、早い時期に事件が決行されていたら、遭遇していたかも知れないという怖い思い出があります。

2024年3月3日日曜日

ブラジルのペトロブラス社の石油生産施設で爆発・火災、負傷者1名

 今回は、202426日(火)、ブラジルのバイーア州アラサースにあるペトロブラス社の石油生産施設で爆発があり、炎上し、負傷者が1名出た事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、ブラジル(Brazil)のバイーア州(Bahia)アラサース(Araçás)にある石油会社;ペトロブラス社(Petrobras)の石油生産施設である。アラサースには国営企業の生産油井がある。

■ 事故があったのは、石油生産施設内にある石油設備である。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 202426日(火)朝、ペトロブラス社の石油生産施設で爆発があり、火災となった。

■ 濃い黒煙が空に広がる中、石油設備は炎につつまれた。

■ 発災に伴い、ペトロブラス社の自衛消防隊が出動したほか、公的消防が出動した。

■ 通報があった消防署の消防隊が現場に到着したときには、すでに火災は制圧されていた。

■ 事故に伴う負傷者は出なかったと報じられている。一方、労働組合によると、消火活動中に民間消防士1名が負傷し、アラゴイニャス市の病院に搬送されたという。負傷の程度は軽く、元気にしているという。

■ ペトロブラス社によると、この地域では火災の歴史はなく、同社の事業は国際安全基準に従っており、国内で施行されている管轄機関や法律に関連する基準を満たしていると報告した。

■ ユーチューブなどでは、火災などの映像が投稿されている。主なものはつぎのとおり。

  Youtubena boa esperança Araçás BA2024/02/07

 ● InstagramURGENTE: na manhã dessa terça-feira (6),・・・・」 (2024/02/07

被 害

■ 石油生産施設の石油設備が損傷した。被害の対象や程度は分からない。

■ 消防活動中の消防士1名が負傷した。

< 事故の原因 >

■ 火災の原因はわからない。

< 対 応 >

■ ペトロブラス社の従業員が石油(ガス)をタンクに移送するバルブ(チャンネル)を閉止した。これで火は鎮火した。

■ 27日(水)、労働組合は、消火活動を監視しており、事故を調査するための調査委員会の設置を要求し、石油労働者の健康と安全が確実に確保されるよう安全規則の順守を求めた。

補 足

■「ブラジル」(Brazil)は、正式にはブラジル連邦共和国で、南アメリカに位置する人口約21,340万人の連邦共和制国家である。州はブラジル連邦単位(Unidades Federativas do Brasil) から成り立っており、ある程度の自治権 (自治、自主規制、自己徴収) を備えた組織で、独自の政府と憲法を備えており、これらが集まって連邦共和国を形成している。ブラジルには26の州があり、各州政府は行政府、立法府、司法府をもっている。

「バイーア州」(Bahia)は、ブラジルの東部に位置し、人口約1,414万人の州である。ブラジル26州の中で、面積ではブラジルで5番目に広く、人口では4番目に多い。

「アラサース」(Araçás)は、バイーア州の東部にあり、バイーア州にある417の自治体のひとつである。アラサースには、陸上原油の生産施設が数多くある。

■「ペトロブラス社」(Petrobras)は、1953年にアマゾンのウルクー油田開発のために設立され、現在は南半球最大の石油掘削会社で広く石油産業に携わっている。ブラジルのリオデジャネイロ市に本社を置き、慣例としてブラジル石油会社あるいはブラジル石油公社と表記されることのある半官半民企業である。

■「発災設備」は、石油タンクと報じられているが、はっきりしない。火災写真を見ても、石油タンクが燃えていると判断しがたい。また、「ペトロブラス社の従業員が石油(ガス)をタンクに移送するバルブ(チャンネル)を閉止した。これで火は鎮火した」と報じられており、石油タンクが爆発して炎上したのであれば、このような作業はありえない。石油生産施設内の石油タンク以外の設備(配管または容器)が爆発・炎上したのではないだろうか。バルブ閉止で火災が制圧できたのでれば、原油の液化ガス系が燃焼源であると思われる。

所 感

■ 今回の設備火災の燃料源や要因はわかっていない。石油生産施設内の石油タンク以外の設備(配管または容器)の石油液化ガスが爆発・炎上し、バルブ閉止で火災が制圧できたのではないだろうか。

■ 今回の事例では消火活動の状況もわからない。メディアによっては、消防隊による放水作業の写真を入れているところがあるが、今回の消火作業を示していると判断しがたい。このブログでは、消火作業の写真は採用しなかった。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

     G1.globo.com, Tanque de óleo da Petrobras pega fogo no interior da Bahia, February 07,  2024

     Seligaalagoinhas.com.br, Incêndio de grandes proporções atinge planta da Petrobras em Araçás,  February 06,  2024

     Midiabahia.com.br, URGENTE: incêndio de grandes proporções atinge planta da Petrobras em Araçás,  February 06,  2024

     Ibirataianoticias.com.br, Tanque de óleo da Petrobras pega fogo em Araçás cerca de 116 quilômetros de Salvador, February 08,  2024

     Sindipetroba.org.br, Incendio atinge estacao de petroleo em Aracas e Sindipetro Ba cobra apuracao do acidente, February 07,  2024 


後 記: 今回の事故に関する記事はあまり多くなかったので、内容は薄くなりますが、まとめは楽に終わると思いました。ところが、意外に時間がかかりました。まず、発災場所です。「ブラジルのバイーア州アラサースにあるペトロブラス社のファゼンダ・ボア・エスペランサ基地」としたのですが、グーグルマップで調べると、アラサースとボア・エスペランサは州が異なり、まったく別な場所でした。また、場所の特定として参考にしたのが、消防活動の写真です。放水の最終段階とはいえ、発災場所や焼けた跡が写っていませんし、石油生産施設としては珍しい球形タンクが写っています。結局、消防活動の写真は参考にしないこととしました。なにかモヤモヤした事例でした。

2024年2月26日月曜日

コロンビアの石油貯蔵所でガソリンタンクが爆発火災、死傷者4名

 今回は、1年ほど前の20221221日(水)、南米コロンビアのバランキージャにあるブラボー・ペトロリアム社の石油貯蔵所でガソリンタンクが爆発・炎上し、死傷者4名を出した事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、コロンビア(Colombia)のカリブ海に面したバランキージャ(Barranquilla)にあるブラボー・ペトロリアム社(Bravo Petroleum Co.)の石油貯蔵所である。

■ 事故があったのは、石油貯蔵所内にある4基の貯蔵タンクのうち、ガソリン用貯蔵タンクである。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 20221221日(水)午前430分頃、バランキージャにある石油貯蔵所でガソリン貯蔵タンクが爆発し、炎上した。

■ 近くの住民は、爆発の大きな音で目を覚ました。しばらくすると、火災を報せるサイレンが鳴り始め、外を見ると、頭上に煙が立ち昇っているのが確認できた。 住民のひとりは、「爆発を感じて怖かったです。外に出ると真っ暗な空が見え、煙の匂いがとても強くて、かなり濃かったです」と語っている。

■ 発災に伴い、消防隊が出動した。

■ 炎は強風にあおられて舞い上がり、消防士の活動を困難にした。タンクからは火災によって真っ黒い煙が立ち昇っていた。

■ 石油貯蔵所周辺の道路は交通制限のため閉鎖された。

■ 消火活動を始めてから数時間後、火災タンクから延焼し、隣接タンクが爆発した。

■ この爆発によって消火活動中の消防士2名が負傷した。負傷者は市北部にある診療センターに搬送された。そのうちのひとりの消防士(53歳)は爆発時に転倒し、頭部に重傷を負い、医療を受けている間に死亡した。このほかに消防士2名が負傷し、死傷者は4名となった。

■ 火災が完全に制圧されるまで、バランキージャ港での操業は停止された。

■ 石油貯蔵所の発災現場から1km以内の地区の住民には避難指示が出た。

■ 火災に対処するには、陸上からは火災の規模が大きく、近づくことができないため、バランキージャ港の海上から消火銃を備えたタグボートを出動させた。

■ 1222日(木)、発災から2日目になっても、現場では高さ30m以上の11階建てビルほどの火柱が上がっていた。

■ ユーチューブなどでは、火災状況の映像が投稿されている。主なものはつぎのとおり。

  YoutubeOil tank in Colombia‘s Barranquilla explodes into flames, one dead2022/12/22

 ● FacebookMultiple gasoline storage tank fire at BRAVO PETROLEUM in Barranquilla, Colombia 2022/12/21

被 害

■ ガソリンタンク2基が損壊した。内部のガソリンが焼失した。(全量焼失として9,337KL)

■ 4名の死傷者が出た。内訳は死者1名、負傷者3名である。

■ 石油貯蔵所周辺の道路が閉鎖され、近隣住民に避難指示が出た。バランキージャ港での操業が一時停止された。

■ 火災による黒煙によって大気が汚染された。

< 事故の原因 >

■ 火災の原因は分かっていない。

< 対 応 >

■ 1221日(水)、消防隊は、消火戦略として防御的戦略をとってタンクへの延焼を防ぎ、燃えているタンク内の燃料がすべて消費されるのを待つこととした。このため、消火活動は34日かかる可能性があるという。

■ 消防活動は、コロンビア海軍とカリブ海地域の消防隊の支援を受けて、火災を免れて残っている2基のタンクが火災にならないよう冷却が続けられた。

■ 1222日(木)、火災現場では、60人の消防士と9台の消防車が休む間もなく活動している。1基目のタンクの消火の成功の鍵は、消防隊による泡薬剤の泡を使用したことにあるといわれている。

■ カルタヘナ港湾協会はバランキージャの火災対応に55ガロン(208リットル)の泡薬剤を提供した。

■ 1223日(金)、バランキージャ港は部分的に業務を再開した。

■ 1223日(金)、エネルギー大臣は、発災事業所のブラボー・ペトロリアム社が適切なリスク管理計画を提示していないと非難した。

■ 1223日(金)、消防隊は100人の消防士と少なくとも10台の消防車と5隻のボートを使用して戦い続けた。午前中に冷却を強化するため、3隻の消火銃を備えたタグボートを同時に作業させた。石油貯蔵所には4基のタンクがあるが、このうちの2基が火災になり、1基のタンクは燃え尽きて火災は消えた。 しかし、もう1基のタンクは燃え続け、消防隊は2日以上消火活動を続けた。

■ 消防隊は、泡放射では火元に到達することはできなかったといい、「泡の膜を生成するには、5060分間の連続放射が必要です。防御的戦略による火災の制御ができており、燃料が消費尽きるまで数時間の問題です」と語っていた。

■ 火災は約60時間燃え続け、1223日(金)の午後に鎮火した。

■ 鎮火後、火災の状況についてつぎのように報じられている。

 ● 火災は4,700バレル(747KL)の燃料が入ったタンクで発生し、高温にさらされた結果、54,000バレル(8,590KL)以上の燃料が入った2番目のタンクに引火した。

 ● 冷却制御されていたが、航空機燃料39,600バレル(6,300KL)以上入った3番目のタンクについても同様の影響を引き起こす恐れがあった。表面の温度は200℃に達しており、いつ爆発してもおかしくなかった。

 ● もう1基のタンクは空であったが、残留油によるガスが入っていた。

■ 通常、火災の要因はすべて短絡(ショート)から始まっているとされ、今回の火災原因は小さな火花が燃料タンクに接触し、燃料タンクが爆発したものと思われるという話が発災当初にあったが、バランキージャ市長は、「事前に短絡の話があるが、これはまだ調査の対象になっていない」といい、「緊急事態は終了するが、実質的にあと1日続く。その後、数日かかる環境計画を立ち上げ、その後、原因に関する資料の収集・調査が行われる」と付け加えた。

補 足

■「コロンビア」(Colombia)は、正式にはコロンビア共和国で、南アメリカ北西部に位置する人口約5,090万人の共和制国家である。南アメリカ大陸で唯一、太平洋と大西洋のふたつの大洋に面した国で、首都はボゴタ(人口約770万人)である。コロンビアは多様な環境、文化、民族(88の部族と200の言語集団)を持つ国であり、欧州、中東、アジアからの移民が19世紀から20世紀の間に多く移住したが、それ以前からの先住民族と混在している。

「バランキージャ」(Barranquilla)は、正式にはバランキージャ特別工業港湾地区で、カリブ海に注ぐマグダレナ川の西岸に位置し、人口約1,330万人の都市である。 コロンビアのカリブ海地域における文化、政治、経済の中心地である。

■「ブラボー・ペトロリアム社」(Bravo Petroleum Company)は、 2011年に設立され、南米を中心に石油の貯蔵と輸送を専門とした会社で、本社はバランキージャにある。バランキージャの石油貯蔵所の詳細は分からないし、タンク基礎だけが建設されている背景も分からない。なお、2022年の火災事故後に被災タンクを復旧しておらず、被災状況のままになっている。

■「発災タンク」はガソリン用ということ以外、詳細仕様はわからない。グーグルマップでも被災後のタンク写真なので、はっきりはしないが、貯蔵所にあった4基のタンクは同じ大きさだとみられる。グーグルマップで推測すると、発災タンクの直径は約24mで、高さを24mと仮定すれば、容量は10,800KLとなる。火災になった2基目のタンクには8,590KL以上の燃料が入っていたという記事があるので、貯蔵所のタンクは10,000KLクラスのドーム型固定屋根式円筒タンクとみられる。

 発災タンクは747KLの燃料が入っていたという記事があるので、タンク液位は1.8m前後だと思われる。ガソリンの燃焼速度が0.33m/hで全面火災であれば、5.4時間で燃え尽きることになる。しかし、タンク屋根がドーム型であり、屋根と側板の接続部がコーン型のように爆発時に切れて屋根が噴き飛ぶことなく、屋根が部分的な損壊となったと思われる。このため燃焼速度は遅くなり、燃え尽きるのも遅くなったとみられる。2基目のタンクの液位は20m前後と思われ、60時間の火災時間(正確には2基目の爆発時以降の時間であるが)とすれば、逆に燃焼速度は0.33m/hとなるので、全面火災に近い燃焼だったと思われる。

所 感

■ 今回のタンク火災の原因は分かっていない。発災時間が午前430分頃で、10,000KLクラスのドーム型固定屋根式円筒タンクに747KLしかガソリンが入っていなかった状況からすれば、タンクの入出荷などの運転に関わる事項ではないだろうか。それにしてもガソリンタンクと公道の距離がタンク直径分くらいしか離れていないのは驚きであり、タンク通気口から多量漏洩があれば、公道の車両やタバコが火元になる危険性のある貯蔵所である。

■ 消火戦略には積極的戦略・防御的戦略・不介入戦略の3つがあるが、今回の当初の対応は積極的戦略で消火しようとしたと思われる。しかし、消防資機材が整っていないのと、2基目の爆発で死傷者が出たことによって、ほかのタンク設備への冷却に集中する防御的戦略に変更したとみられる。

 日本では、直径24mクラスのタンクであれば、大容量泡放射砲システムは不要で、三点セット(大型化学消防車、大型高所放水車、泡原液搬送車)で良いことになっている。しかし、タンク規模が大きくなくても、複数タンク火災の場合、予想以上に消火が困難であることを示す事例である。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Reuters.com,  Oil tank in Colombia‘s Barranquilla explodes into flames, one dead, December 22, 2022

    Carandbike.com, Oil Tank In Colombia's Barranquilla Explodes Into Flames, One Dead, December 30, 2022

    Es.euronews.com, Tanque de combustible estalla en llamas en ciudad caribeña de Colombia, un muerto, December 21, 2022

    Semana.com, Tanques que se incendiaron en Barranquilla contenían gasolina para aviones JET-A1, ¿qué tipo de combustible es y qué tan peligroso puede ser?, December 23, 2022

    Swissinfo.ch,  Un bombero muere tras explosión de depósito de combustible en Barranquilla, December 21, 2022

    Publimetro.co, La tragedia ambiental que deja el incendio de tanques de gasolina en el Puerto Barranquilla, December 21, 2022

    Bnamericas.com,  Colombia investiga mortal incendio en terminal de combustible de Barranquilla, December 23, 2022

    Bluradio.com, Bomberos apagaron un tanque del incendio en Barranquilla y luchan por evitar que dos más se prendan, December 22, 2022

    Elheraldo.co, “Se escuchó un fuerte estruendo”: habitantes de Las Flores, December 22, 2022

    Portalportuario.cl, Logran controlar incendio en Compas Barranquilla luego de tres días de emergencia, December 23, 2022


後 記: 今回の事例は1年ほど前のタンク火災ですが、メディアの報道記事は結構多く残っていました。コロンビアとしては過去最悪のタンク火災事故であったためでしょう。しかし、メディアによって発災時間や経過がバラバラで、事故内容をまとめるのに時間がかかりました。それでも、1基目が鎮火した時間などは分かりませんでした。推測は付くのですが、あえて曖昧な表現(記事どおり)にしました。鉄道時間に代表されるように正確な時間にこだわるのが日本人ですので、南米コロンビアでは枝葉にこだわらないという国の風土を知った事例でした。

2024年2月15日木曜日

燃焼を制御して火災の煤煙を減少させる新しい方法

 今回は、20242月にカナダのアルバータ州で火災から出る煤煙を減少させる方法について実験を行っていることについて紹介します。

< はじめに >

■ 2024130日(火)に起こったカナダのアルバータ州にある原油生産施設でタンク4基が火災になった事故があったが、この現場から数分のところで、研究者と消防士が火災から出る煤煙を減少させる方法を実験していた。研究者たちは20242月初めにバーミリオンの町はずれに集まり、油流出事故で燃えている油の煤煙を減少できる新しい技術をテストしていた。

< 火災の煤煙を軽減する技術 >

■ 131日(水)、消防士らはディーゼル燃料に点火して火災を発生させた後、カナダのケベック州にある企業のドラゴーISIDrago-ISIが開発した消火砲を使用してアルカリ性添加剤を含む水を噴霧した。マール・コンサルティングMerl Consultingのブライアン・ミッチェル氏Brian Mitchellは、「私たちの考え方は炎の中で煤煙(すす)を燃やして、煤煙が炎の外に出て煙柱を形成しないようにするということです」といい、「添加剤が帯電した煤煙粒子(すす粒子)を中和するため、煤煙粒子は成長して大きくなるのではなく、小さいままで燃え尽きます」と語る。

■ 研究者らは、消火砲による強力な水の噴霧流が立ち昇る煤煙を抑えているように見える光景を撮影し、写真に収めた。研究は初期段階にあるが、ミッチェル氏は煙が消えていくのを見て興奮したと語った。21日(木)には、別の材料を使用したテストが行われた。

■ ミッチェル氏と彼の妻である研究者のアンカ・フロレスクーミッチェル氏Anca Florescu-Mitchellは、アルバータ州での実験に参加するため、フランスのレンヌRennesにある自宅からカナダへ渡った。彼らは、カナダのエドモントン市にあるレイクランド大学Lakeland Collegeの科学者メルブ・フィンガス氏Merv Fingasと米国のコンサルタントのカート・ハンセン氏Kurt Hansenと協力してこの研究プロジェクトに取り組んでいる。この研究プロジェクトは、カナダ天然資源省のマルチパートナー研究イニシアチブNatural Resources Canada‘s Multi-Partner Research Initiativeから25万ドル(2,750万円)、研究パートナーから25万ドル(2,750万円)の資金提供を受けている。

< ドラゴーISI社(Drago-ISI)の消火砲 >

■ カナダのドラゴーISIDrago-ISIは、 2008 年に設立され、消火設備の開発・設計・製造を専門とする会社である。同社のドラゴ” Dragoと呼ばれる消火砲は、水/空気/消火剤の分散や放射を制御する機能を有し、効率が優れ、水の使用を最適化し、対応時間の改善が図れるという。

■ 130日(火)の夜、ミッチェル夫妻は、アルバータ州の原油生産施設における火災の煙によって大気汚染警報が発令されたことを携帯電話で知った。住民には自宅に退避して避難の準備を行うよう呼び掛けられたが、その夜遅くに警報は解除された。「もし実験で使用した消火砲と特別な添加剤があったなら、実際の油火災でテストできており、本当に興味深かっただろう」とミッチェル氏は語っている。原油生産施設の火災は午前中に発生し、鎮火するまでに半日かかった。火災の原因はまだ調査中である。

 注記;2024130日(火)の事故は「カナダのアルバータ州の原油生産施設でタンク火災と堤内火災」を参照。

< 今後の予定 >

■ レイクランド大学緊急訓練センターLakeland College‘s Emergency Training Centreの主任であるウェイン・ローズ氏Wayne Roseは、火災をよりクリーンに燃焼させることで煤煙の除去に役立ち、消火活動を容易にし、大気汚染を軽減できると語っている。「この研究から我々が学べることはたくさんある。もちろん、この種のテクノロジーがあれば、将来火災と戦うために役立つだろう」とローズ氏は語った。

■ 研究者らは研究結果を科学雑誌に発表する予定で、ミッチェル氏は20245月に米国ルイジアナ州のニューオーリンズで開催される国際油流出会議International Oil Spill Conferenceでこのプロジェクトに関する論文を発表する。

所 感

■ 燃焼を制御して火災の煤煙を減少させる方法という興味深い実験である。偶然であろうが、カナダのアルバータ州にある原油生産施設で発生した火災の煤煙の状況を見ると、研究の目的が理解できる。このような火災は海外での話で日本ではないだろうと思う人もいるかも知れないが、 20187月に起こった「多摩市の建設中のビルでウレタン製断熱材の火災、死傷者48名」の事故では、猛烈な煙による大きな災害が起こっている。

■ 今回の実験で使用されたドラゴ-ISI社の消火砲ドラゴを見て思ったのは、煤煙を減少させるために用いられたようであるが、石油タンクの堤内流出時に油面を覆うのにも活用できるのではないだろうか。通常の泡モニターでは、中発砲の泡で消えるのが速く、高発砲泡の泡モニターが必要であるが、水/空気/消火剤の分散や放射を制御する機能がある消火砲ドラゴであれば、高発砲の泡を放出できそうである。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Cbc.ca, Testing new ways of reducing smoke emissions from controlled burns, February 02, 2024

    Drago-isi.com,  About, February 13, 2024


後 記: 今回の情報は「カナダのアルバータ州の原油生産施設でタンク火災と堤内火災」の事故を調べていて、カナダのメディアCBCが事故のニュースを報じていましたが、別な記事で伝えているのをたまたま知ったからです。ドラゴーISI社の消火砲ドラゴも興味ある消火砲です。これを芋づる式というのでしょうね。


 

2024年2月10日土曜日

カナダのアルバータ州の原油生産施設でタンク火災と堤内火災

 今回は、2024130日(火)、カナダのアルバータ州ミンバーン郡にある原油生産施設で火災が発生し、4基のタンク設備が被災した事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災施設は、カナダ(Canada)アルバータ州(Alberta)ミンバーン郡(Minburn)にある原油開発会社ライコス・エナジー社(Lycos Energy Inc.)の原油生産施設である。

■ 事故があったのは、 ハイウェイ881号線と619号線沿いにある原油生産施設のタンク設備である。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2024130日(火)午前1140分頃、原油生産施設で火災が発生した。

■ 火災による黒煙は何マイルも離れた遠いところからも確認することができた。

■ ライコス・エナジー社は、アルバータ州エネルギー規制当局(Alberta Energy Regulator)へ火災発生の通報をした。

■ 原油開発会社へ土地を貸している住民は、火曜の朝遅くにコーヒーを飲んでいたとき、黒煙が自宅のある南東に向かって流れていることに気がついたという。住民は、クリスマスの前から原油開発会社が掘削しているのは知っていたが、しばらく様子を見たあと、普通ではないので車で行ってみたと話している。現場では、土地の一部から火が噴き上がっていたという。

■ 近くの農場の住民のひとりは、牛にエサをあげていたとき、緊急車両が行き交うのを目にしたといい、「大量の煙が出ているのを見たんですが、真っ黒でした。時折、大きな炎が上がっているが見えました。びっくりするような出来事でした」と語っている。

■ 発災に伴い消防隊が、約50名の消防士と15台の消防車を伴って出動した。ミンバーン郡消防署だけでなく、近隣のバーミリオンリバー郡消防署、ウェインライト町の消防署などが支援で出動した。

■ 消火活動は防御的戦略をとり、火災になっていないタンクへの冷却放水が行われた。消火用水が不足するので、民間の水輸送会社が手配された。

■ 火災は燃えていないタンクへ延焼し、火災となったのはタンク4基である。

■ 火災によって有害な煙が空気中に噴出し、大気質が悪化したため、アルバータ州ミンバーン郡は、130日(火)午後515分、マンビルの南東約23kmにある原油生産施設の近隣の町に緊急警報を発令した。エドモントンの東175kmにあるバーミリオンやウェインライトなどの地区に大気汚染警報が発令された。

■ 事故に伴う負傷者はいなかった。

 

■ 原油生産施設のタンク設備などが火災で被災した。内液が9時間にわたって焼失した。

■ 負傷者はいなかった。

■ 近隣の人々に大気汚染警報が発令された。

< 事故原因 > 

■ 事故原因はわかっていない。

< 対 応 >

■ 原油生産施設のトラブルに対し制圧する専門家がアルバータ州ブラックフォールズ(Blackfalds)から派遣された。

■ 午後645分頃、消防隊は原油生産施設の火災を制圧した。アルバータ州エネルギー規制当局(Alberta Energy Regulator) の査察官は現場に留まり、状況を監視し、緊急対応や地元当局と協力して公衆の安全を確保しているという。 

■ 午後7時過ぎ、アルバータ州ミンバーン郡は発令していた緊急警報を解除した。 当局は、火災から有害な煙はもう出ていないと述べた。しかし、屋内退避の指示は解除したが、状況を解決するために現場で作業している消防隊などの対応メンバー安全のため、一般の人々は引き続きこの地域を避ける必要があると述べている。

■ 火災は9時間近く続き、午後9時頃、消防隊などによって消された。

■ アルバータ州エネルギー規制当局は、規制上の責任に従って、用地を貸している所有者の土地について修復と浄化への取組みを監督することになっている。

補 足

■「カナダ」(Canada)は、北アメリカの北部に位置し、10の州と3つの準州からなる連邦立憲君主国家で、英連邦加盟国である。人口は約4,052万人で、首都はオンタリオ州のオタワである。

「アルバータ州」 (Alberta)は、カナダ西部に位置し、人口は約475万人である。肥沃な農業地帯が広がるが、第2次大戦後、石油が発見された産油地域でもある。近年はオイルサンド採掘で得られる重質原油の生産が主力になっている。

「ミンバーン郡」(Minburn)は、アルバータ州中央部に位置し、エドモントン市から東に143 kmの距離にあり、人口約3,000人の郡である。

■「ライコス・エナジー社」(Lycos Energy Inc.)は、2006年に設立した原油・天然ガスの探査・開発・生産に携わっているエネルギー会社で、本部は カナダのカルガリーにある。

■「発災タンク」の詳細仕様は報じられていない。グーグルマップでハイウェイ881号線と619号線沿いの原油生産施設を見ても、被災写真にあるような4基のタンクが設置されているところは見当たらない。クリスマス頃に生産井を掘削していたという情報があり、グーグルマップにはまだ掲載されていないのかも知れない。被災写真から大きさを推測すれば、直径約5m×高さ約8mで容量は150KLクラスである。

所 感

■ 事故の状況は原因を含めてよく分からない。被災写真では、炎がはっきりとした爆発的な写真もあれば、黒煙が激しく噴出している写真もある。火災は9時間続いており、爆発と火災を交互に繰り返していたのではないだろうか。被災したタンクの事故後の状況を見ると、タンク側板は長時間炎に曝されたときに生じるような座屈を起こしていない。このことから、タンクには水やケミカルなどが主で油分は少なかったとみられる。

 このような状況から、火災は油井から流出した油の堤内火災が主で、堤内にあったタンクに延焼したものだろう。原油生産施設のトラブルに対して制圧する専門家が派遣されているというので、油井の流出を停める方策に時間がかかったものと思われる。 

■ 消火戦略には積極的戦略・防御的戦略・不介入戦略の3つがあるが、今回の消火活動は放水によるタンクの冷却に集中する防御的戦略が優先されている。消防隊は、タンクの内部流体や油井からの油流出について情報が把握されていたと思われる。制圧には発災から9時間を要しているが、消火用水の不足を解消させるため、民間の水輸送会社を手配するなど冷静な判断が行われている。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

   Cbc.ca, Emergency alert cancelled for area near fire at central Alberta oil lease site,  January 30, 2024

   Edmonton.ctvnews.ca, Oilfield fire that caused toxic smoke alert under investigation,  February 01, 2024

   Globalnews.ca,  Air quality alert cancelled after fire at eastern Alberta oil lease site,  January 31, 2024

   Mylakelandnow.com, Dangerous oil lease fire sparks investigation in County of Minburn,  February 01, 2024


後 記: 今回の事故はメディアも発災場所について混乱していました。グーグルマップで最初に見た報道記事とあとから出てきた報道記事では、まったく違う場所でした。タウンシップ・ロードやレンジ・ロードの情報でしたが、エドモントン市の東側と西側に別れました。被災写真の風景を見ると、広大な土地であることが理解できます。事故現場の場所がはっきりしないことなど日本では考えられないことです。まあ、あの辺りで起きたということが分かればいいんでしょうね。しかし、懲りずに発災タンクの場所を特定しようと、グーグルマップを細かく見ていきましたが、やはり無駄な努力でした。