このブログを検索

2016年7月25日月曜日

JXエネルギー根岸製油所で浮き屋根式タンクから出火

 今回は、2016年6月24日、神奈川県横浜市のJXエネルギー(株)根岸製油所の貯油施設にある浮き屋根式貯蔵タンクから出火した事例を紹介します。
         タンク固定泡消火設備と消防車からの泡放射の状況  (写真はMainichi.j pから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 発災施設は、神奈川県横浜市磯子区にあるJXエネルギー(株)根岸製油所である。
 根岸製油所は、1964年に操業を開始し、面積220万m2、周囲約12kmの敷地に270,000バレル/日の原油処理能力をもつ製油所である。最大時には385,000バレル/日の精製能力を有していた。貯油施設は、原油タンク17基で1,253,000KL、製品・半製品タンク31基で82,760,000KLの能力を有する。

■ 発災があったのは、貯油施設の原油貯蔵タンクで、容量約48,000KL、直径約70mの浮き屋根式タンクである。
                    横浜市磯子区根岸付近    (写真はグーグルマップから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2016年6月24日(金)午後1時45分頃、横浜市のJXエネルギー(株)根岸製油所の貯油施設にある貯蔵タンク1基から出火した。

■ 火災は、タンク浮き屋根上部から黒煙が発生したものである。発災当時、原油タンクはメンテナンスのため、内部の原油を抜く作業が行われていた。浮き屋根上で安全確認をしていた作業員が出入口を開けたところ、黒煙が上がったという。

(写真はRingosha.jpから引用)
■ 発災に伴い、JXエネルギー社の自衛消防隊のほか横浜市消防局の消防隊が出動した。現場は首都高湾岸線沿いで横浜港に面しており、多数の消防車やヘリコプターが出動するなどして、周囲は一時騒然としたという。

■ 現場からは大量の黒煙が大きく立ち上っており、その煙は遠くからでも目視できるほどであった。火災現場の周辺では、上空にヘリコプターが飛び交うなど、騒然としていた。インターネット上では、「石油爆発?」、「大丈夫か」、「石油タンクから黒煙が・・・」、「防災メールがきた、心配」、「爆発しないといいけど」などという心配の声が多数見られた。 

■ 浮き屋根式原油タンクの固定泡消火設備から消火泡を放出させるとともに、消防車から泡放射が行われた。この消火活動の結果、午後2時43分に鎮圧され、午後3時42分に鎮火が確認された。

被 害
■ 事故に伴う負傷者は無かった。
■ 浮き屋根式タンクの浮き屋根部の一部が焼損した。被災の範囲や程度は不明である。
           火災の黒煙と上空を飛ぶヘリコプター (写真はTwitter,com.yokohamanoriから引用)
< 事故の原因 >
■ 原因は不詳である。(公表されていない)

< 対 応 >
■ 事故発生に伴い、JXエネルギー社根岸製油所から横浜市消防局へ通報された。

■ 横浜市消防局は消防車等31台とともに現場に出動したほか、ヘリコプター1機を監視用に飛ばした。JXエネルギー社自衛消防隊は消防車等6台で対応に当った。

■ 消火活動の結果、午後2時43分に鎮圧され、午後3時42分に鎮火が確認された。
(写真はMainichi.j pから引用)  
(写真はRingosha.jpから引用)
補 足
■ 「横浜市」は、神奈川県の東部に位置し、同県の県庁所在地で、政令指定都市の一つであり、18区の行政区を持ち、人口は約373万人である。
 「磯子区」は、横浜市の東南に位置し、根岸湾に面する区で、人口約166,000人である。沿岸部の低地の大半は埋立地であり、化学工業地帯となっている。

横浜市消防局の消防ヘリコプターの例 
(写真はCity.yokohama.lg.jpから引用)
■ 「横浜市消防局」は、1948年、神奈川県警察部消防部から分離し、自治体消防の横浜市消防局として発足した。一時、横浜市安全管理局と改称された時期があるが、現在は横浜市消防局に再改称されている。横浜市18区を管轄しており、消防署18箇所に職員約3,300人を擁する大きな組織体である。特別高度救助部隊(スーパーレンジャー)を編成しており、東日本大震災時に緊急消防援助隊を派遣したり、福島第一原子力発電所事故にも応援出動している。遠距離大容量送水装置など特殊車両を保有しており、今回、出動したようにイタリアのアグスタ社製の消防ヘリコプターを2機保有している。

所 感
■ 出火の原因は不詳であるが、「浮き屋根上で作業員が出入口を開けたところ、黒煙が上がった」という状況から考えられる要因はつぎのとおりである。
 ● 屋根のマンホール裏に付着した硫化鉄が発火し、火災となった。
 ● 屋根の裏面側の空間が爆発混合気の雰囲気になっており、マンホールを開け、何らかの作業(内部計測時の静電気あるいは不安全工具の使用による火花)によって着火した。
 ● ポンツーンに割れがあり、内部に油が浸入して爆発混合気の雰囲気になっていた。このポンツーンのマンホールを開けた際、何らかの作業(不安全工具の使用による火花など)によって着火した。
 硫化鉄による問題はアスファルトタンクで事故があっているが、ほかのタンクでも事例(「製油所排水タンクに着火性硫化鉄が発生してマンホールの開放時に火災」「室蘭製油所№242タンク火災事故原因調査報告書」を参照)がある。
 
■ 横浜市消防局では、人命救助を主目的として消防ヘリコプターを保有している。今回、この消防ヘリコプターが出動しているが、消防活動の観察手段として役立ったかどうか言及されていない。火災の詳細な状況はわからないが、リムシール火災ではないので、タンク固定泡消火設備からの泡放出は有効ではなかっただろうし、消防車からの泡放射によらなければならなかったと思われる。地上では状況の把握が困難で、標題の写真のようにタンク上空(上部)から観察しない限り、的確な泡放射箇所を指示することはできない。
 最近紹介した「米国バトンルージュの貯蔵タンク複数火災における消火活動」でも、「ヘリコプターを使用して発災状況を鳥瞰(ちょうかん)的に把握できたことが役立った」とあるように、タンク火災ではヘリコプターあるいはドローンを活用すべき時代である。
(ドローンがタンク火災の上を飛んだ事例としては、「サモアの石油貯蔵施設で石油タンクが爆発して死者1名」を参照)


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Fdma.go.jp,  JXエネルギー株式会社根岸製油所の火災について(第2報), June 24, 2016   
    ・Mainichi.jp,  横浜・製油所火災 原油タンクから出火、2時間後に鎮火, June 24, 2016
    ・Breaking-news.jp,  石油タンクから黒煙 根岸製油所付近で火災発生 横浜市中区千鳥町, June 24, 2016
    ・Noe.jx-group.co.jp,  根岸製油所内の火災について(お詫び), June 27, 2016
    ・Ringosya.jp,   JX根岸で火事 神奈川県横浜市のJX日鉱日石エネルギー根岸製油所で石油タンクから黒煙発生, June 24, 2016
    ・Christiantoday.co.jp,  JXエネルギー根岸製油所の石油タンクから煙、火事か, June 24, 2016
    ・Stacknews.net,   製油所のタンクから煙 横浜, June 24, 2016
    ・Ikemenhage.blog.jp,  JXエネルギー根岸精油で火災・火事か 神奈川県横浜市, June 24, 2016



後 記: 今回の事例は公表されている情報をもとに素案を作成していました。日本で起ったので、当然、原因調査の結果が公表されると思い、1か月待ちました。実は、原因に関する話を得たのですが、一般には公表されないようなのです。未確認の情報をもとに書くわけにはいきませんので、火災が起ったという事実(と状況からの推測)の中途の内容で投稿に踏み切りました。
 今回の事例で感じるのは、「失敗は隠れたがる」(失敗学のすすめ)ということです。火災情報は当該会社や所管官庁からウェブサイトで公開されましたが、原因(失敗)に関することは出てきません。一般に組織体ができると、経営方針では、CSR活動、内部統制システム、透明性の確保、社会的責任などの文言が並び、りっぱなことが書かれていますが、失敗が出ると、「無かったことにする」という意識が働くようです。これでは失敗が活かされず、世の中では失敗を繰り返すことになるでしょうね。


2016年7月14日木曜日

米国カリフォルニア州で今年も原油パイプラインから流出事故

 今回は、2016年6月23日、カリフォルニア州ベンチュラ郡のホール・キャニオンと呼ばれる小さな峡谷で、クリムゾン・パイプライン社の原油パイプラインから原油が流出した事故を紹介します。
(写真Sandiegouniontribune.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 発災施設は、米国カリフォルニア州にあるクリムゾン・パイプライン社(Crimson Pipeline, LLC)の原油パイプラインである。クリムゾン・パイプライン社は2005年に設立された株式非公開企業で、カリフォルニア州ロサンジェルスを中心に1,000マイル(1,600km)のパイプラインを保有し、1日当たり20万バレル(32,000KL/日)の油移送業務を行っている。

■ 発災のあったのは、カリフォルニア州ベンチュラからロサンジェルスへの原油パイプラインで、呼び径10インチの埋設配管で、1941年に敷設されている。原油は原油・天然ガス掘削会社のアエラ・エナージ社(Aera Energy LLC)が生産したものである。

■ カリフォルニア州では、13か月前にサンタバーバラ郡でプレインズ・パイプライン社(Plains Pipeline, LP)の原油パイプラインから約2,500バレル(400KL)の原油が漏洩し、海上に流出する事故が起こっている。 2015年6月8日、「米国カリフォルニア州で原油パイプライン漏洩による海上流出」を参照)
               ベンチュラ付近 (写真はグーグルマップから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2016年6月23日(木)午前5時半頃、カリフォルニア州ベンチュラ郡(Ventura)ベンチュラ市のホール・キャニオン(Hall Canyon)と呼ばれる小さな峡谷で、埋設されたパイプラインから原油の漏洩しているのが発見された。

■ ホール・キャニオン地区は住宅地になっており、住民のアトウォータさんが原油の臭いと流れる音を感じ、緊急通報911に連絡した。「ひどい臭いがしてきて、それが何であるかすぐわかりました」と語っている。アトウォータさんはバイクで峡谷の方へ向かって走っていくと、地下ピットからまるで消火栓から放出される水のように油が噴き出しているのを見つけた。アトウォータさんはパイプライン会社の電話番号を調べ、漏れの状況を報告した。

■ クリムゾン・パイプライン社では、カリフォルニア州ロングビーチにある計器室でパイプラインの移送を司っているポンプの運転を停止するとともに、点検員を派遣した。

■ 前日まで乾いていたホール・キャニオンの谷底部が流れ出た油で真っ黒に汚れていた。

■ 発災に伴いベンチュラ消防署が対応に出動した。消防士およびハズマット隊は油が広がらないよう防止堤を構築した。堤構築にはブルドーザー1台が使用された。漏洩箇所はベンチュラ郡の海岸沿いを走る高速道路101号線近くで、原油は1/2マイル(800m)ほど流れたが、道路を横切る雨水排水溝を通って海に流れ込むことはなかった。

■ 当初、推定漏洩量は5,000バレル(800KL)と発表されたが、後に500バレル(80KL)に変更された。

被害
■ 事故に伴う負傷者は無かった。油流出部は鹿などの野生動物のけもの道になっており、懸念されるが、影響を受けた動物の報告はないという。

■ 油漏洩発見の通報が早かったために、海へ流出するまでに至らなかったとみられている。
(写真Zimbio.comから引用)
(写真Foxnews.comから引用)
< 事故の原因 >
■ 漏洩はパイプライン中のバルブ付近で起っているが、原因は調査中である。
 (調査はカリフォルニア州および連邦政府機関による調査チームによって行われている)
 
■ クリムゾン・パイプライン社によると、前日の6月22日(水)にパイプラインを停止し、バルブ交換の工事を行ったという。 このため、発災時には通常運転に入っておらず、漏洩警報システムは作動しなかった。漏洩要因のバルブが開いていたという情報もあり、バルブに何らかの問題があったとみられる。

■ 2006年以来、クリムゾン・パイプライン社による油の漏洩または事故の件数は11回あり、漏洩した油の合計は313,000ガロン(1,180KL)である。2008年に起きた事故では、280,000ガロン(1,060KL)の油が漏洩している。事故の1/3は設備不良であった。漏洩原因の4件は腐食によるもので、2件は埋設時の損傷によるものだった。

< 対 応 >
■ クリムゾン・パイプライン社は清掃専門会社に依頼し、6月23日(木)の午後から流出エリアのクリーンアップ作業を始めた。クリーンアップ作業には100名の人たちが動員され、吸収マットやバキューム車のほか、谷底部の油溜まりの清掃には回収ポンプとタンクローリー車が投入された。

■ 当局では、クリーンアップ作業の工程表を提示できなかった。カリフォルニア州は、クリーンアップ作業の状況をモニタリングするため、クリムゾン・パイプライン社と協同で作業を行うこととした。クリーンアップ作業は少なくとも週末まで続くだろうと報じられる一方、クリーンアップに携わっている人によると、峡谷は岩だらけで作業しにくく、どのくらいの日数がかかるか分からないという。
 
■ ベンチュラ消防署によると、2週間前に消防隊はクリムゾン・パイプライン社や清掃会社と合同で流出油対応の訓練を行っていたという。この訓練では、流出防止堤の構築を含んでいた。

■ ベンチュラ市は、7月5日(火)、クリムゾン・パイプライン社に対してパイプラインのメンテナンス、補修、検査に関するすべての記録を7月18日(月)までに提出するよう命じた。また、パイプラインを再開するまでに、流出量およびクリーンアップ工程と結果に関する情報の提示を要請した。
(写真Zimbio.comから引用)
(写真は左:KCLU.org、右: LAtomes.comから引用)
(写真Zimbio.comから引用)
写真はグーグルマップから引用
(写真Metroforensics.blogspot.jpから引用)
(写真は左:Metroforensics.blogspot.jp、右:Breakingnews.comから引用)
補 足
■ 「カリフォルニア州」は、米国西部に位置し、太平洋岸の州で、人口約3,880万人である。州都はサクラメントである。 
 「ベンチュラ郡」(Ventura)は、カリフォルニア州南部に位置し、人口約85万人の郡である。
 「ベンチュラ市」は、正式にはサン・ブエナベンチュラ(San Buenaventura) といい、ベンチュラ郡の首都で、人口約10万人の都市である。

■ クリムゾン・パイプライン社(Crimson Pipeline, LLC)のウェブサイトには、パイプライン系統図が紹介されている。しかし、今回の事故に関するニュースについての掲載はない。
        クリムゾン・パイプライン社のパイプライン系統図 (写真Crimsonpl.comから引用)
所 感
■ 漏れの原因はバルブにあるとみられるが、このバルブの種類がパイプラインの開閉弁なのか、空気弁なのかはっきりしていない。状況からみて可能性としては空気弁の方が高く、パイプラインの通油を始めた際に空気弁が開き放しになったのではないだろうか。いずれにしても、バルブを交換したあとの漏れの有無確認は通油時に行うべきであり、当該バルブ箇所に立会者がいなかったのが、漏洩の大きな要因のひとつであろう。パイプラインのメンテナンス方法や運転方法に問題があると思われる。

■ 発見者の通報が早く、海上への油流出にならなかったのは幸いだったといえる。しかし、クリーンアップは乾燥状態にある峡谷という作業困難な場所であり、岩などにこびりついた油が1週間程度で終わるとは思われない。さらに、雨が降れば、未清掃の油分が海上へ流れる可能性があり、時間にも余裕はなく、大動員をかけるか、小型の重機を導入して付着の岩や土砂を運び出す方法などをとる必要があろう。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・ABCNews.go.com, Pipeline Spews Crude in California But None Reaches Beach, June 23, 2016   
    ・Usnews.com,  California Oil Spilled near Pipeline Valve, June 23, 2016
    ・LAtimes.com,  Ventura Oil Spill Misses The Ocean, But Damage on Land Is Unclear, June 23, 2016
    ・TheAtlantic.com,  An Oil Spill in California, June 23, 2016
    ・Foxnews.com, Pipeline Spews Crude in California But None Reaches Beach, June 23, 2016
    ・CBS8.com,  Up to 210,000 Gallons of Oil Spills from California Pipeline, June 24, 2016
    ・Firedirect.net,  29,000 Gallons of Crude Spews from California Pipeline, June 30, 2016
    ・KCLU.org,  Oil Spill Cleanup in Ventura County Will Continue at Least through Weekend, June 24, 2016
    ・Sandiegouniontribune.com,  Ventura Subpoenas Oil Spill Records,  July 05, 2016



後 記: 今回の情報をみていると、過去に随分漏洩などの事故が起こっています。油流出事故対応の訓練をやっているようですが、ある面、漏洩事故に対して信じられないくらい(米国民が)鈍いように思います。原油が身近に出る国で、パイプラインを張り巡らしている国だからでしょうか。今回の発災場所を特定しようとグーグルマップをなめるように見ていったところ、パイプラインは峡谷を架空横断しています。防護策や補強が十分なのか首を傾けたくなる状態のように思いました。カリフォルニア州は、日本と同様、活断層による地震の多い州ですが、原油パイプラインは大丈夫なのでしょうか。熊本地震による阿蘇大橋の倒壊を見ているので、余計に感じます。


2016年7月7日木曜日

英国バンスフィールド油槽所タンク火災における消火活動(その2)

 前回はウィリアムズ・ファイア&ハザード・コントロール社の見た英国バンスフィールド火災の消火活動の情報でしたが、今回は引き続きバンスフィールド火災の消火活動に関して当時の報道や事故後の調査などの情報をまとめてみました。
(写真はHerdfords.gov/policeから引用)
< 火災との戦い >
12月11日(日)
■ 英国では、いかなる事故時にも、マネジメントとコーディネーションを考慮した次の3つのレベル、すなわち、①戦略レベルーゴールド部隊、②戦術レベルーシルバー部隊、③戦闘レベルーブロンズ部隊を設定する基本方針に基づき、各部隊を編成した。
■ バンスフィールド事故では、すべての機関から代表(環境部門を含む)を召集して“ゴールド部隊”と呼ぶ「戦略調整グループ」を編成し、ミーティングによる対応アローを通じて基本戦略が決められた。 「戦略調整グループ」は基本戦略を実行するため、“戦術部隊(シルバー部隊)”と“戦闘部隊(ブロンズ部隊)”の出動を決定した。 「戦略調整グループ」は12月15日(木)午後6時半まで設置された。なお、初期対応は緊急対応部門(消防署・レスキュー隊・警察署)が行った。
■ 計画では、12月11日(日)夜から泡消火を始める予定で準備を進めたが、最後の段階で、泡消火の排水が河川と地下水へ流れ込んで汚染することを防ぐための堤構築を優先し、泡消火活動の延期を決断した。特に、当該地域の地下水がロンドンの水道に使用されており、水質汚染の懸念から消火の際に生じた汚水を敷地内に留めることを環境当局が強く求めた。このため、消火用水の冷却水としてのリサイクル利用や健全なタンクの防油堤内に貯留させるなどの対策がとられた。
■ ハートフォードシャー州消防本部によると、発災後まもなく堤内火災の状態となり、最初に1日(24時間)はほとんど消火に手をつけることができなかったと語っている。 必要量の消火薬剤と応援要請した大容量送水装置(High Volume Pump:HVP)の準備を整えるに費やしたという。 
油槽所と周辺地区  (図はHSE.gov.uk から引用)
1212日(月)
■ 午前8時20分から、消防隊は約180名の消防士と消防車両20台によって火災との戦いを始めた。
■ 6台の大容量送水ポンプを使って32,000 L/minの消火水と1,200 L/minの泡薬剤を使用して泡消火を行った。20個所の火災の半分が正午までに鎮圧できた。さらに午後430分までで2個所の火災までに鎮圧できた。大容量送水ポンプは結局、全国から15台を投入したという。
■ しかし、以前鎮圧したタンクの一つが破裂し、再火災を起こし、隣接タンクの爆発を誘因する危険性があった。このため、近くの高速道路M1線を再び閉鎖し、避難勧告の居住区域を広げ、消防士の一時避難措置がとられた。
■ 消火活動は午後8時頃に再開された。火災はすべて夜のうちに鎮圧できるという観測だった。
消火活動の概況  (図はBBC.co.ukから引用)
12月13日(火)
■ しかし、朝の早い時間帯に貯蔵タンクの一つが発災した。一番大きなタンクはまだ燃えていたが、正午までに3個所の火災を残して制圧できた。火災による黒煙はかなり小さくなり、水の蒸発と一緒になって、煙の色は灰色がかってきた。 消防隊は、残りの火災個所をこの日のうちに鎮圧できると確信していた。 小さな火は残っていたが、タンク火災は午後4時45分に鎮圧できたと報告された。                   
■ ハートフォードシャー州の消防士の75%が動員され、他から支援で出動した16の消防隊ともに、消火活動が行われた。交代要員を含む消防士の総動員数は1,000名にのぼった。
■ 調査報告書では、主要な火災は消火活動を始めてから32時間で消火されたとなっている。ただし、一部の小型タンクの火災は続いているとされている。

12月14日(水) 
■ しかし、12月14日早朝、再び火災が発生した。 消防士は、この火災を消すことが、石油ベーパーを再着火させ、爆発する危険性があるという見方をした。 従って、火災をうまく限定させ、燃焼し尽くすこととした。

発災エリアと消火戦術
■ ハートフォードシャー州消防本部によると、消火に際しては、おおまかにエリア1からエリア4の順番で段階的な消火活動を行ったという。
 ●エリア1(南): 小規模な火災(リムシール火災など)の消火活動が行われた。
 ●エリア2(西): 泡薬剤と大容量送水ポンプ(HVP)による送水の準備が整った12月12日(月)午前8時30分から6台の泡放射砲と消防車の泡モニターによる消火活動を開始した。タンクT912は消火することによって新たな可燃性蒸気の放出による再爆発の危険性があることから、しばらく放置し、12月15日(木)昼までに消火した。
 ●エリア3(東・西): 支援で出動した石油会社トタール社(Total)の消防車も使用して消火活動を実施した。
 ●エリア4(北): 爆発の影響による道路の通行障害や火炎によって最もアプローチが困難だったタンクT12の消火を12月13日(火)の昼までに終了させた。
発災エリア区分 (図はSafety &Tomorrow から引用)
使用した泡薬剤の種類 >
■ ハートフォードシャー州消防本部によると、使用した泡薬剤は消防機関や泡薬剤メーカーのアンガス社(ANGUS)などから調達し、その種類は水性膜泡(AFFF)、多糖類添加耐アルコール泡(AR-AFFF)、フッ素たんぱく泡(FP)だったという。フッ素たんぱく泡(FP)で下地を作り、その上に水性膜泡(AFFF)や多糖類添加耐アルコール泡(AR-AFFF)を供給したと語っている。

使用した消火排水の処分 >  
■ 表層水と地下水を汚染した量ははっきりしていないが、使用された消火排水は、火災以降、最初の3週間をかけて現場から回収した。その後、雨水に混じって出てきた汚染水や洗浄作業で出てきた汚染水は、タンクローリー車を使用して現場から回収し、消火排水と一緒に全国のいろいろな場所に溜められた。
■ 消火排水は仮に溜められているだけであり、重要なことはそれを処分することである。 当局も理解していることは、先例のない大量の消火排水を処理し、環境保全に適した水へ戻すためには、数回のプロセスを通さねばならないということである。いくつかの石油会社でこれを達成させる方法を開発中であり、環境庁で評価後、排水を処理する予定である。 
■ 2006621日、約800KLの汚染水が不注意によって貯留タンクから汚染処理装置へ通され、装置出口からコルネ川とテムズ川に流れてしまったと環境庁は発表した。環境庁は、テムズ川管理会社の協力を得て、調査を行った。                                      
(写真はHerdfords gov/policeから引用)
消火活動の状況   (写真API.org から引用)
  消火活動の状況   (写真API.org から引用) 
消火活動の状況   (写真API.org から引用) 
消火活動の状況   (写真API.org から引用)  
消火活動の状況   (写真API.org から引用) 
消火活動の状況   (写真API.org から引用)  
消火活動の状況   (写真API.org から引用) 
消火活動の状況   (写真API.org から引用) 
再火災時の状況 (写真BBC.co.uk から引用) 
鎮火後の状況 (写真HSE.gov.uk から引用)
補 足
■ 英国の大容量送水ポンプ(High Volume Pump:HVP)は、オランダのハイトラント社の大容量送水装置である。ポンプは5.5リットルのディーゼルエンジンにより水流を発生させ、これにより水中ポンプを駆動するメカニズムで、送水能力は8,000 L/minである。大容量送水ポンプはコンテナ化され、車両に直径150mm(6インチ)ホース1,000mのユニットを1個積載するタイプと2個積載するタイプがある。
 英国の大容量送水ポンプは、水害時における排水、消火用水の確保、汚水の輸送などを主な用途として、全国に配備されている。仕様は共通で、統一した教育訓練を英国の消防大学などで行う。このため、訓練さえ受けていれば、どの消防機関の大容量送水ポンプでも操作が可能となっている。バンスフィールド火災時には、現場近隣にある消防機関の大容量送水ポンプを配備し、操作人員は比較的遠方の消防士を投入することができたといわれる。
英国の大容量送水ポンプ(HVP)の例  (図はSafety &Tomorrow から引用)
所 感
■ バンスフィールド火災は公式には32時間で鎮圧したということになっているが、実際は23基のタンク火災に対して3日間かかった難航の消防活動だった。前回のウィリアムズ・ファイア&ハザード・コントロール社の経験した消火活動の話に引き続き、当時の報道や事故後の調査などの情報をまとめてみると、ゴールド部隊”である「戦略調整グループ」が適切に機能したのか疑問が残る。過去に例のない複数タンク火災に対して、石油タンク火災について経験・知見が豊富といえない州の公設消防が主導していかなければならなかったのは、確かに無理があっただろう。しかし、「32時間で鎮圧できた」という考え方からは、教訓が得られないと思う。また、“戦術部隊(シルバー部隊)”と“戦闘部隊(ブロンズ部隊)”も公設消防や石油会社の消防隊など混成チームであり、帰還後に戦術と戦闘に関する意見を求めるなどして、この貴重な経験を将来に活かすべきであった。

■ 泡薬剤の性能は火災実験などによって評価しているが、今回のような実火災時の実績が極めて重要である。しかし、州消防本部の話に「フッ素たんぱく泡(FP)で下地を作り、その上に水性膜泡(AFFF)や多糖類添加耐アルコール泡(AR-AFFF)を供給した」というが、実際にはそのような理屈めいた話ではなかったと思われる。また、API(米国石油協会)の会議で紹介された堤内火災用の中発泡発生装置が使用されたようであるが、その効果はどうだったかという評価についても言及してほしかった話である。
 消火体制だけでなく、いろいろな消防用資機材についても実火災にもとづく評価を行う良い機会を逸したように思う。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報などに基づいてまとめたものである。
  ・HSE.gov.uk,  「The Buncefield Incident 11 December 2005」, The final report of the Major Incident Investigation Board,  2008
  ・HSE.gov.uk,  「The Buncefield Incident 11 December 2005」, The final report of the Major Incident Investigation Board,  Volume2, 2008
      ・Jniosh.go.jp,  「英国バンスフィールド油槽所で発生した爆発火災について -バンスフィールド事故調査委員会調査報告書(第 1 報) より抜粋」, 藤本康弘, 労働安全衛生研究(Vol. 1, No. 1), 2008
      ・「英国バンスフィールド油槽所タンク火災について」, 雑誌「Safety &Tomorrow 」(2006.5月号), 消防庁白石、2006
     ・API.org,  The Buncefield Incident,  API Storage Tank Conference,  2006



後 記: 前回、ウィリアムズ社が公開している資料による英国バンスフィールド火災の消防活動について紹介したあと、10日ほど家をあけている間に、英国がEUを離脱するという大きなニュースが世界に流れていました。国民投票を行うという政治戦略のミスですね。 10年前に起ったバンスフィールド火災ですが、今回、改めて消防活動についてまとめ直してみて、当時あまり感じていなかった消火戦略上の問題が内在していたように思いました。英国では、戦略に関する思想や考え方がしっかりしていると思っていましたが、実行が伴わなくなっているのではないでしょうか。