このブログを検索

2022年12月24日土曜日

ロシアの2箇所の石油貯蔵施設を無人航空機(ドローン)で攻撃、タンク被害

 今回は、20221116日(水)と126日(火)にロシアの2つの石油貯蔵施設で無人航空機(ドローン)による攻撃があり、燃料タンクが火災や破損した事例を紹介します。

< 発災施設の概要(その1 >

■ 発災があったのは、ロシア(Russia)オリョール州(Oryol)スタルノイコン村(Stalnoy Kon)にある石油企業のトランスネフト社(Transneft)が操業する石油貯蔵所である。

■ 事故があったのは、石油貯蔵所の燃料タンクである。

<事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 20221116日(水)午前4時頃、無人航空機(ドローン)がオリョール州スタルノイ コン村にある石油貯蔵所を攻撃し、貯蔵タンクが損傷した。

■ 発災に伴い、消防隊が出動し、現場で対応した。

■ 発災に伴う死傷者は出なかった。村の道路には警察がパトロールを実施している。

■ 攻撃により、タンク側板の上部が破損し、穴が開いた。タンクには容量の四分の一(25%)しか油が入っていなかったため、火災は生じなかったと報じられている。

■ 別な報告によると、ドローンによる攻撃で深さ約12フィート(3.6m)のクレーターが残ったという。

■ この石油貯蔵所は、ロシアの石油企業であるトランスネフト社が操業しており、ロシアの石油を欧州に輸送するドルジバ・パイプライン(Druzhba Pipeline)のネットワークの一部である。ロシアによるウクライナ侵攻以降、パイプラインの機能は数回中断されていたが、1123日(水)、トランスネフトは操業を一部再開したと発表した。

< 発災施設の概要(その2 >

■ 発災があったのは、ロシア(Russia)クルスク州(Kursk)のクルスク・ ボストーチヌイ空港(Kursk Vostochny Airport)である。

■ 事故があったのは、空港区域にある石油貯蔵施設の燃料タンクである。

<事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2022126日(火)午前5時頃、クルスク・ ボストーチヌイ空港の区域にある石油貯蔵施設で、無人航空機(ドローン)攻撃によって燃料タンクで火災が発生した。

■ 火災はタンクから渦巻く炎と黒煙が空に向かって上がった。

■ 発災に伴い、消防隊が出動した。消防士は500㎡にわたる炎に取り組んで消火活動を行っていると報じられている。市当局によると、モスクワ鉄道が3台の消火用列車を派遣した。各車両には 240トンの水と5 トン以上の消火泡を積んでいるという。

■ 発災により、近くの二つの村の学校では授業が中止された。

■ 126日午前10時時点で火災はまだ猛威を振るっており、さらに約10時間経過しても燃え続けている。火災の面積は約5,500㎡に拡大し、新たな消防隊が現場に出動した。

■ 事故に伴う死傷者は出ていない。

■ 127日(水)、燃料タンクの火災は消火された。クルスク地域の消防隊から200名以上が24時間以上にわたって消火活動を行った。

■ 空港は軍民共用だが、ロシアのウクライナ侵攻後は民間機は受け入れていない。クルスク・ボストーチヌイ空港には、スホーイSu-30SM戦闘機をもつ第14護衛戦闘航空連隊が駐屯している。

■ 攻撃はロシアの重要な戦略的軍事施設の脆弱性を示しており、無人航空機が軍事施設に近づくことができたという防空の有効性について疑問を投げかけている。

■ その前日の125日(月)の朝、ウクライナ国境から400km以上ロシア側に入ったリャザン州のディアギレボ空軍基地とサラトフ州のエンゲリス空軍基地が無人航空機(ドローン)に攻撃された。

 リャザン州のジャギレボ空軍基地では爆発が起き、燃料タンク車などが炎上し、3人が死亡した。ロシアは、旧ソ連製の無人航空機(ドローン)によるウクライナ軍の攻撃だったと指摘した。

 サラトフ州のエンゲリス空軍基地では、基地にいた兵士3名が死亡、4名が負傷したほか、 Tu-95 爆撃機2機に損傷を受けた。

 ウクライナは、いずれの攻撃についても正式には認めていない。しかし、ウクライナの高官は、攻撃に関与した無人航空機(ドローン)はウクライナの領土から発射され、少なくとも1回の攻撃は基地近くの特殊部隊の助けを借りて行われたと述べた。


補 足

■「ロシア」(Russia)は、正式にはロシア連邦といい、ユーラシア大陸北部に位置し、人口約14,600万人の連邦共和制国家である。

「オリョール州」(Oryol)は、ロシアの西部に位置し、モスクワからは南南西へ360kmの距離にあり、人口約86万人である。

「クルスク州」 (Kursk)は、ロシア西部に位置し、人口約123万人の州で、州都はクルスク市である。

■「トランスネフチ社」(Transneft)は、1993年にロシア連邦政府によって設立され、ロシアを拠点とする石油とガス輸送を行う会社である。約70,000kmのパイプラインと500以上のポンプ場を運営し、バルチックパイプラインシステム、バルチックパイプラインシステム-2、東シベリア太平洋石油パイプライン、パープサモトラーパイプラインシステムなどの石油輸送システムを運営する。ポーランド、ハンガリー、スロバキア、ラトビア、中国、ウズベキスタン、ベラルーシなど、国内外の市場でサービスを提供し、国内に多数の子会社がある。

 トランスネフチ社は、20224月、ブリャンスクにある石油貯蔵所がテロ攻撃で被災している。「ロシアのふたつの石油貯蔵所でタンク爆発・火災、テロ攻撃か」を参照。 

■ オリョール地方スタルノイコン村にあるトランスネフト社の石油貯蔵所には、グーグルマップで調べると、大きなタンクが4基、中規模のタンクが3基、小さなタンクが7基以上ある。大きなタンクの直径は約33mであり、高さを20mと仮定すれば、容量は17,000KLクラスである。中規模のタンクの直径は約27mで、高さを20mと仮定すれば、容量は11,000KLクラスである。 「被災タンク」は被災写真から中規模のタンクの最も南側にあるタンクとみられる。

■ クルスク州のクルスク・ ボストーチヌイ空港をグーグルマップで調べると、同じ規模のタンクが5基ある。「被災タンク」は北側のタンク3基のうちのいずれかとみられる。これらのタンクの直径は約8mで、高さを8mと仮定すれば、容量は400KLクラスである。火災の面積は約5,500㎡に拡大しているので、北側タンクの3基全部が被災したとみられる。

所 感

■ オリョール州スタルノイコン村にあるトランスネフト社の石油貯蔵所におけるタンク被災はよく分からないことが多い。攻撃により、タンク側板の上部が破損し、穴が開いているが、タンクには容量の四分の一(25%)しか油が入っていなかったため、火災は生じなかったと報じられている。タンク側板には大きな穴が開いているが、確かに火災跡はみられない。このような大きな損傷を受けて火災が発生しなかったとは考え難い。おそらく、タンクが空だったのではないだろうか。

 一方、タンクの火災と消火活動の写真(下部)があるが、これは別な要因の事故だという。

しかし、20221223日(金)に無人航空機(ドローン)攻撃の疑いで火災になったことを裏付けるビデオが投稿された。ビデオはぼかしなどで状況ははっきり分からない。記事によると、タンク群に対して2回の別々の攻撃が行われており、飛行速度の遅い無人航空機(ドローン)が爆弾を2回投下しているという。

 当初からタンク火災の写真がインターネットに出ており、2回のうちのいずれかの無人航空機(ドローン)による攻撃でタンク火災があったと思われる。もう1回の攻撃がタンク側板の上部破損の事故ではないだろうか。

■ クルスク州のクルスク・ ボストーチヌイ空港の石油貯蔵施設のタンク火災は、無人航空機(ドローン)攻撃により1基が火災になり、堤内火災によってほかの2基も火災になったものとみられる。消防活動の状況は分からないが、比較的小型(400KLクラス)のタンクではあるが、堤内火災を引き起こしているので、極めて難しい消火活動だったと思われる。無人航空機(ドローン)の攻撃が激しいタンク火災になることを知ることのできる事例である。


備 考

 本情報はつぎの情報に基づいてまとめたものである。

    Nikkei.com,  ウクライナ、ロシアをまた無人機攻撃 石油タンクで火災,  December  07,  2022

     Mainichi.jp,  ロシア南西部の軍用空港にもドローン攻撃か 近くの石油施設炎上,  December  07,  2022

     Sankei.com,  6日も無人機攻撃? ウクライナ、露を長距離攻撃か,  December  06,  2022

     Bbc.com, Ukraine war: Russian military airfields hit by explosions,  December  05,  2022

     Theguardian.com, Drone attack hits oil storage tank at airfield in Russia’s Kursk region,  December  05,  2022

     Aerotime.aero,  New drone attacks target Russian oil depots in Kursk and Bryansk,  December  06,  2022

     Reuters.com, Drone strikes oil tank at airfield in Russia's Kursk region,  December  06,  2022

     Euromaidanpress.com,  Oil depot on fire after drone attack on airfield in Russia’s Kursk: VIDEOS ,  December  06,  2022

     Thedrive.com, Russian Airfield In Kursk Set Ablaze By Apparent Ukrainian Drone Strike,  December  06,  2022

     Tass.com, Fire at oil depot near Kursk airfield extinguished — governor,  December  07,  2022

     Saudigazette.com.sa,  Drone strike hits third Russian airfield near Kursk,  December  06,  2022

     Dailymail.co.uk, 'Ukraine drone attack' hits ANOTHER Russian airbase a day after strike damaged two nuclear bombers,  December  06,  2022

     Scmp.com, 3 killed in Ukraine drone attacks on airbases deep inside Russia,  December  06,  2022

     Kommersant.ru, 3Беспилотник долетел до нефтенакопителя,  December  06,  2022

     360tv.ru, Появилось видео повреждений нефтебазы в Орловской области после атаки беспилотника,  November  16,  2022

     Neftegaz.ru, Украинский БПЛА ударил в нефтяной резервуар Транснефти в Орловской области,  November  16,  2022

     Freepresskashmir.news, Drone strikes oil depot in Russia’s Oryol Region: Governor Andrey Klychkov,  December  06,  2022

     News.am, Drone 'allegedly' blows up oil depot in Oryol Oblast,  November  16,  2022

     Dailymail.co.uk, Ukraine 'blows up Russian oil depot 190 miles from Moscow in drone strike' hours after Putin's forces launched barrage of 90 missiles,  November  16,  2022

     English.nv.ua, Video of alleged drone attack on Russian oil depot appears online,  December  23,  2022


後 記: 今回の事故情報によってはっきりしたことがあります。ひとつはロシアが完全に戦時下の情報管制になってしまって、事実が語られないことです。大体、州知事の記者発表がベースになっているので、州や国に不都合なことはいわないのでしょう。

 もうひとつは、無人航空機(ドローン)によるタンク攻撃が進化しています。無人航空機(ドローン)が何百kmも離れたところから発射され、重要施設に容易に近づくことができるという防空の脆弱性があるのはロシアだけの問題ではないでしょう。そして攻撃側が発表しなければ、誰が攻撃したのか特定はできないという新たな問題が出てきています。日本は、日本海のすぐそばに原子力発電所があり、石油備蓄基地などの重要施設があります。今回の事故情報を教訓にすれば、従来の個人携行式の武器によるテロ攻撃を想定していた日本のテロ対策を見直す(無人航空機によるテロへの対策)方が、敵基地攻撃云々より先のように思いますが・・・

2022年12月14日水曜日

オランダの輸送車両施設のタンクから有毒物質が漏洩、負傷者8名

  今回は20221123日(水)、オランダのノールトブラバント州のムルダイク工業団地にあるGCA社の輸送車両施設で有毒物質が漏洩し、体調不良者が発生した事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、オランダ(Netherlands )ノールトブラバント州(Noord-Brabant )のムルダイク工業団地(Moerdijk industrial estate)にあるGCA社の輸送車両施設である。

■ 事故があったのは、輸送用タンク(コンテナ)とみられる。


< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 20221123日(水)午前850分頃、 GCA社の輸送車両施設から有毒物質が漏洩した。

■ 漏洩物に出くわした作業員8名が体調不良となり、病院へ搬送された。うち1名は重傷だという。当初、負傷者は5名と報告されたが、後に8名に修正された。

■ 事故発生に伴い、救急車、消防署、警察、ヘリコプターの外傷班が現場に出動した。

■ 化学物質はGCA社の輸送用タンクに関連した保守作業中に放出されたとみられる。

■ ムルダイク工業団地には、多数の化学会社の本拠地がある。漏洩の影響は、隣接するストールスヘブン社(Stolthaven)にも及んだ。

■ 漏洩した有毒物質は、殺虫剤などに使われる三塩化リンとみられる。三塩化リンは、腐食性があり、無色発煙性のある透明な液体で、眼、皮膚、呼吸器官に刺激を与え、深刻な肺疾患を引き起こす可能性がある。

■ 当局は、タンク内に有毒物質があったのかや、どのようにして漏れたかについてはまだ確定していないと述べている。

被 害

■ 負傷者(毒性物資による体調不良)が8名あった。うち1名は重傷である。 

■ 隣接する工場へも影響があった。影響度は不明である。

< 事故の原因 >

■ 負傷者が発生した原因は、有毒物質の三塩化リンが漏洩したためとみられる。

■ 三塩化リンが漏洩した原因は分かっていない。

< 対 応 >

■ 漏洩した有毒物質の対応や処理は報じられていない。

■ ムルダイク工業団地は、南ホラント州(Zuid-Holland)との国境にあるホランズ・ディエップ(Hollands Diep)に位置し、多くの化学会社が立地しているが、事故は今回だけでない。20146月、ムルダイク工業団地にあるシェル社(Shell)で大爆発があった。その衝撃はユトレヒト(Utrecht)やザ・ハウジ(The Hauge)でも感じられた。爆発は、反応器内の物質間の予想外の化学反応によって起こった。2人が負傷した。シェル社は、重大な事故を防ぐために十分な対策を講じなかったとして、250万ユーロの罰金を科された。

補 足

■「オランダ」(Netherlands)は、 西ヨーロッパに位置し、東はドイツ、南はベルギーと国境を接し、北と西は北海に面し、人口約1,740万人の立憲君主制国家である。

「ノールトブラバント州」(Noord-Brabant)は、オランダ南端部に位置し、人口約241万人の州である。

■「GCA社」は、1956年に設立した欧州の輸送会社で、主にバルク輸送、 鉄道輸送、 道路輸送、 タンク(コンテナ)輸送を事業の柱としている。オランダにあるGCA Nederlandは、Charles Andre Group (GCA) の子会社であり、欧州の化学、液体、ガス業界にバルク・ロジスティクス・サービスを提供している。ムルダイク工業団地(Moerdijk) に専用の車両施設がある。

 GCA社は、石油化学、危険物、非危険物について客先のニーズに応じた輸送を行っている。 また、化学物質 (危険物かどうかに関係なく)、食品、ドライバルク製品を輸送したロードタンカー、タンクコンテナなどの内部洗浄も手がけている。

 GCA社のブランドムービーがユーチューブに投稿されている。(YouTubeGCA Nederland brandmovie 2019/03/21を参照)

■「三塩化リン」は、リンの塩化物のひとつの無機化合物で、化学式はPCl3である。毒性、腐食性を持ち、常温・常圧において液体である。水と激しく反応する。工業的に重要な化合物であり、除草剤、殺虫剤、可塑剤、油への添加剤、難燃剤の製造に使われている。毒物および劇物取締法で毒物に指定されている。

■「発災タンク」については“貯蔵用タンク” と報じられているだけで、詳細な仕様は伝えられていない。GCA社が輸送事業を行っていることから、タンクコンテナなどの輸送用タンクとみられる。

所 感

■ 事故の状況や対応については、あまり報じられていないので、類推になってしまうが、つぎのようなことが考えられる。

 ● 輸送用タンク(コンテナ)保守のため、ドレン弁を開けた際、残っていた三塩化リンが漏れ出した。この処理をしようと水をかけたため、激しく反応して有毒ガスが発生した。

 ● 輸送用タンク(コンテナ)の洗浄を行うためタンク内部に水を入れた際、三塩化リンが激しく反応し、有毒ガスが発生した。

 ● 輸送用タンク(コンテナ)を洗浄しようと、内部に入った際、残っていた三塩化リンが水と激しく反応して有毒ガスが発生した。

 ● 保管している輸送用タンク(コンテナ)から漏洩した。

 ● 輸送用タンク(コンテナ)の保守メンバーは三塩化リンの毒性や物性について基本知識が不足していた。

 印象としては、輸送車両施設で働いている人が多種の化学物質や毒性物質について知識を持たなければならないということに対する盲点があったように思う。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Nltimes.nl,  Eight hospitalized in chemical workplace incident; One in critical condition,  November  23,  2022

      Dutchnews.nl,  Eight hospitalised after chemical leak from storage tank in Moerdijk,  November  23,  2022

      Tankstoragemag.com, Eight hospitalised after chemical leak,  November  24,  2022

      Transport-online.nl,  Acht mensen onwel door giftige stof op industrieterrein Moerdijk,  November  23,  2022

      Ruetir.com, Eight people injured due to release of toxic substance at Moerdijk industrial estate,  November  23,  2022


後 記: 今回の事故は、工業団地の貯蔵用タンクで起こったらしいという認識でした。それにしては、取り上げるメディアが少ないなぁと思っていました。 GCA社は化学会社と思い込んでいましたから、殺虫剤製造プロセスと三塩化リンの関係を調べたりしました。ところが、GCA社は輸送会社らしいという情報が出ても、三塩化リンと結びつきませんでした。 GCA社について調べていくと、輸送車両のタンクやコンテナの洗浄を業務のひとつとして行っていることが分かりました。これで、三塩化リンとの関係が類推できました。

2022年12月10日土曜日

ロシアの石油貯蔵所で無人航空機によって燃料タンク3基が火災

 今回は、20221130日(水)、ロシアのブリャンスク州スラジスキー地区にある石油貯蔵所でディーゼル燃料用の貯蔵タンクが無人航空機(ドローン)によって攻撃された事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、ロシア(Russia)のブリャンスク州(Bryansk)のスラジスキー地区(Surazhsky district)にある石油貯蔵所である。

■ 事故があったのは、石油貯蔵所内にあるディーゼル燃料用の貯蔵タンクである。

<事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 20221130日(水)午前6時頃、石油貯蔵所内で貯蔵タンクが火災を起こした。タンクの容量は5,000トンで、発災時は満杯であった。

■ 火災は、正体不明の無人航空機(ドローン)がディーゼル燃料タンクの1基に爆発物を落とした後に始まった。その後、容量5,000トンの燃料タンク2基に延焼した。

■ 発災に伴い、消防隊と救助隊が出動した。現場に出動した隊員は80名を超え、車両は30台にのぼった。また、緊急事態省の航空機動部隊も現場に派遣された。

■ 火災発生直後に撮影されたテレグラム・チャンネル(Telegram channels)のビデオでは、2 基の燃料タンクが黒煙と炎を噴き出していることがわかる。少なくとも1基は爆風による損傷の兆候を示しており、金属製の側板が外側に曲げられている。

■ 火災エリアは1,800㎡に及び、その後、さらに3,000㎡のエリアに広がった。

■ 事故に伴う死傷者は無かった。

■ ユーチューブにタンク火災の映像が投稿されている。

 ●В Брянській області загорівся резервуар з нафтопродуктами(ブリャンスク地方で石油製品のタンクが火災)(2022/11/30

 ●Fire at an oil storage tank in the Bryansk region of the Russian Federation2022/12/03

■ ロシアのウクライナ侵攻(ロシアのウクライナでの特別作戦)に関連して202210月以降、ブリャンスク地方などは中レベルの対応体制(黄色レベルのテロの脅威)が導入され、公の秩序の保護の強化、国家施設の運営のための特別体制、および出入りの制限がとられていた。

被 害

■ 貯蔵タンク1基が攻撃によって破損し、さらにタンク2基が火災によって被災した。内部の燃料油が焼失した。このほか、堤内火災によって設備被害が出ているが、詳細は分からない。

■ 負傷者は出なかった。

< 事故の原因 >

■ 原因は、無人航空機(ドローン)による攻撃である。

< 対 応 >

■ 1130日(水)、燃え広がった火災は制圧され、3時間後に鎮火したと報じられている。

補 足

■「ロシア」(Russia)は、正式にはロシア連邦といい、ユーラシア大陸北部に位置し、人口約14,600万人の連邦共和制国家である。

「ブリャンスク州」(Bryansk)は、ロシアの北西部に位置し、人口約128万人の州である。行政の中心地はブリャンスク市で、20224月には「ロシアのふたつの石油貯蔵所でタンク爆発・火災、テロ攻撃か」の事故があった。

「スラジスキー地区」 (Surazhsky district)は、ブリャンスク州にある27 の地区の1つである。州の西部に位置し、人口は約27,200人で、行政の中心地は スラーズ市である。

 ■「発災タンク」は、ディーゼル燃料タンクで容量5,000トンと報じられている。グーグルマップで調べてみると、スラジスキー地区には規模の大きい石油貯蔵所がある。固定屋根式(コーンルーフ)で直径が同じタンクが40基とやや直径の小さいタンク4基の計44基で構成されている。40基タンク群は直径約22mであり、高さを13mと仮定すれば、容量は5,000KLとなる。総貯蔵容量は5,000KL×40基=20KLクラスである。

タンク所有者の名前は報じられていないが、 20224月の「ロシアのふたつの石油貯蔵所でタンク爆発・火災、テロ攻撃か」の事故や、ブリャンスクがウクライナとの国境の北東154kmの地点にあり、ウクライナ侵攻でロシア軍の兵たん拠点の一つといわれており、軍事施設の石油貯蔵所とみられる。

所 感

■ タンク火災の原因は無人航空機(ドローン)による爆発物の攻撃である。20224月の「ロシアのふたつの石油貯蔵所でタンク爆発・火災、テロ攻撃か」の事故以降、ロシアでの攻撃がエスカレートしている。ブリャンスク州は中レベルの対応体制(黄色レベルのテロの脅威)が導入され、公の秩序の保護の強化、国家施設の運営のための特別体制、および出入りの制限がとられていたにもかかわらず、無人航空機(ドローン)による攻撃を受けており、石油貯蔵所がこの種の無人航空機(ドローン)の攻撃に対する防御に脆弱であるのが理解できる。

■ 今回の石油貯蔵所の規模(貯蔵タンク44基)に比べ、被災タンクが3基と報じられており、意外に少ないと感じる。その理由として、つぎのようなことが考えられる。

 ● 実際には被災範囲はもっと広いが、意図的に小さく報じられている。

 ● 無人航空機(ドローン)による爆発物の威力がそれほど大きくなかった。

 ● タンクの内液が軽油(ディーゼル燃料)で、ガソリンのような引火点の低い油でなかった。

 ● タンク間距離がタンク直径分とられ、またタンク24基でひとつの防油堤に囲まれており、タンクの配置計画が適切だった。

■ 消防活動は、出動人員・車両台数以外、報じられていない。火災写真も少ないが、主な被災のひとつは堤内火災である。これまでロシア国内の消火体制や消火資機材が充実していないことをうかがわせる事例が少なくなかったが、堤内火災は、高発泡の泡消火が有効であり、今回はこの種の消火資機材が整っていたのかも知れない。一方、タンク屋根または側板が破壊されている被災写真があり、鎮火まで3時間という報道は早すぎるという印象である。


備 考

 本情報はつぎの情報に基づいてまとめたものである。

   Tankstoragemag.com, Fire breaks out at Russian oil storage tank,  November  30,  2022

     JP.Reuters.com, Fire at oil storage tank in Russia's Bryansk region – governor,  November  30,  2022

     Mil.in.ua, Fire at an oil storage tank in the Bryansk region of the Russian Federation,  November  30,  2022

     Tass.com, Oil storage facility on fire in western Russia’s Bryansk Region,  November  30,  2022

     Ukranews.com, Tanks With Fuel On Fire In Bryansk Region. Russian Authorities Claim Ammunition Dropped From Drone, November 30, 2022

     Dailymail.co.uk, 'Ukraine drone attack' sparks inferno at Russian oil depot: Giant blaze hits critical resupply route for Putin's invading forces,  November  30,  2022

     Pravda.com.ua, Another large-scale fire at oil depot in Russia,  November  30,  2022

     Neftegaz.ru, В Суражском районе Брянской области загорелись резервуары с нефтепродуктами,  November  30,  2022

     Nangs.org, Губернатор сообщил о локализации пожара на брянском нефтехранилище,  November  30,  2022


後 記: 今回の石油貯蔵所に関する事故情報はロシアの報道規制がかかっているようです。前回の20224月のタンク事故では、ロシアのインターネットメディアのマッシュ(Mash)に投稿された動画やロシアのソーシャル・ネットワーキング・サービスのVKには、ロシア国営のイタル・タス通信の無味乾燥な報道にない自由さが残っていると感じましたが、今回はビデオ映像があるものの、報道の自由さは感じられません。タンク事故情報だけを調べているだけですが、ロシア-ウクライナの戦況を感じ取ることができます。

2022年11月28日月曜日

群馬県の香料工場の円筒タンクで一酸化炭素中毒、死傷者3名(原因)

 今回は、2022915日(木)、群馬県板倉町にある食品用香料の工場で香料の製造作業に従事していた社員3人が死傷する事故がありましたが、1111日(金)に事故原因と再発防止策が発表されたので、その内容を紹介します。事故直後の状況については、「群馬県の香料工場の円筒タンクで一酸化炭素中毒、死傷者3名」202210月)を参照。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、群馬県板倉町大蔵にある食品用香料などを製造する長谷川香料株式会社の板倉工場である。

■ 事故があったのは、板倉工場抽出第一工場の蒸留装置内にあるクッションタンクと呼ばれる直径約120cm×高さ約170cmの円筒タンク(円柱タンク)である。タンクは、蒸留装置で焙煎されたコーヒー豆に水蒸気を送って香気を得た留出液を貯留するためのものである。このタンクには、上部に直径約45cmの開閉式のふたが付いており、外から薬剤などを導入するために付いている。


<
事故の状況および影響
>

事故の発生

■ 2022915日(木)午前11時頃、工場内で香料の製造作業に従事していた社員3人が体調不良になったという消防署への119番通報があった。

■ 通報にもとづき消防署が出動し、3人の社員は病院へ搬送された。いずれも男性で、48歳の男性が死亡し、30歳の男性は意識不明の重体で、41歳の男性社員は体調不良を訴えた。

■ 3人は、コーヒー豆を蒸留させたベーパーを冷却して香り付きの液体にし、タンクに移す工程で作業していた。 ふたりの男性社員がタンク内に倒れていた。通常はタンク内に入ることはないという。

■ タンク内から高濃度の一酸化炭素が検出されており、警察署は中毒になったとみて調べている。  

■ 1111日(金)、長谷川香料は自社のウェブサイトに事故の経緯について調査結果を掲載した。これによると、事故発生当日は4日間連続的にコーヒー水蒸気蒸留を行う工程の3日目だった。

 ● 48歳の男性社員はクッションタンクに貯まった留出液を次の工程用のタンクに送液した後、空になったクッションタンクに次の留出液を貯める準備を行う工程の作業中、(何らかの理由で)空のタンク内に入り、意識を失った。

 ● 30歳の男性社員は、48歳の男性社員を救出するためにクッションタンク内に入り、タンク内から大声で助けを求めた。

 ● この声を聞いて駆けつけた社員数名が、意識を失った48歳の男性社員をクッションタンク外に引き上げて運び出した。この間に、タンク内に救出に入っていた30歳の男性社員も意識を失った。

 ● 救助に駆け付けた社員がクッションタンク内に空気を送り込み、酸素濃度が18%以上になったことを確認した後、41歳の男性社員がタンク内に入り、タンク内で意識失った30歳の男性社員を救出したのち、自力でタンク外に出たが、頭痛とめまいの症状を訴えた。

 ● タンク内に入った3名の男性社員は救急車で病院に搬送された。48歳の男性写真は同日病院で死亡が確認された。意識を失った30歳の男性社員は治療を終え、その後、職場復帰した。41歳の男性社員は治療を終え、自宅療養している。 

被 害

■ 一酸化炭素中毒で男性従業員3名の死傷者が出た。1名が死亡し、1名は意識不明の重体で、1名は体調不良で病院へ搬送された。意識不明だった男性従業員は治療を終えて、その後、職場復帰した。

< 事故の原因 >

■ 死傷者が出た原因はタンク内に存在していた一酸化炭素の中毒である。通常、香料の製造作業中にタンク内に入ることはなく、当時、なぜ入槽したかの事故要因を調べたが、特定できなかった。

< 対 応 >

■ 916日(金)、長谷川香料は、「亡くなられた社員のご冥福を心よりお祈りするとともに、治療中の社員の一刻も早い回復を願っております」という声明を出した。さらに、板倉工場の社員らで構成する事故調査委員会を立ち上げると発表した。長谷川香料は、関係省庁に全面的に協力しながら 「早期に事故の原因究明と再発防止策を検討していく」としている。長谷川香料は自社のウェブサイトにもプレスリリースを掲載している。

■ 916日(金)、労働基準監督署は工場の立入り調査に入り、安全管理に問題がなかったかを調べる。

■ 916日(金)、長谷川香料によると、板倉工場は事故が発生した設備を除き、稼働を再開しているという。

■ 1111(金)、長谷川香料は自社のウェブサイトに事故の原因と再発防止対策について調査結果を掲載した。

1) 原因物質の特定

 ● 亡くなった48歳の男性社員に一酸化炭素中毒の痕跡が確認されたことから、原因物質として一酸化炭素が疑われたため、再現テストを行った結果、クッションタンク内からは30,000ppmの一酸化炭素が検出された。

 ● 連続的な蒸留工程であることを考慮すると、事故当時のタンク内には30,000ppm以上の一酸化炭素が滞留していたものと推定される。

 ● 計測された一酸化炭素濃度は、厚生労働省のガイドラインで示されている一酸化炭素の吸入時間と中毒症状の関係で13分間で死亡するとされる1.28%(12,800ppm)を超えており、当時のクッションタンク内は一酸化炭素中毒による死亡リスクがあったことが判明した。

2) 直接的経緯

 ● 水蒸気蒸留により焙煎コーヒー豆から放出された一酸化炭素がクッションタンク内に蓄積され、タンク内には高濃度の一酸化炭素が滞留していた。

 ● 亡くなった48歳の男性社員は、クッションタンク内で一酸化炭素中毒の症状を引き起こし、意識不明となった。男性社員がタンク内に入った経緯は特定できず、不明である。

 ● タンク内に入って意識不明となった48歳の男性社員を救出するため、30歳の男性社員がクッションタンク内に入り、一酸化炭素中毒によって意識不明となり、二次災害となってしまった。

 ● さらに、安全基準を上回る濃度の一酸化炭素が滞留していたクッションタンク内に倒れた社員を救出しようと、41歳の男性社員が入ったことによって一酸化炭素中毒を発症した。

3) 間接的経緯

 ● 製造中に一酸化炭素が発生することに加え、クッションタンクのふたの部分の見えやすい位置に一酸化炭素が滞留している注意喚起も表示していたものの、蒸留装置内に致死量の一酸化炭素が発生また滞留するという危険レベルの実態把握が十分にできておらず、一酸化炭素発生の危険レベルに合わせた教育も十分ではなかった。

 ● また、タンク内へ入る際の注意事項や二次災害防止の重要性は認識されていたが、緊急時の一酸化炭素滞留に対する注意事項は整備されていなかった。

■ 事故の発生した設備は発災後にただちに稼動を停止したが、再発防止対策の関係機関の確認が完了した後の20221114日(月)頃を予定しているという。

< 再発防止対策 >

■ 長谷川香料は、1111(金)、再発防止策について検討した結果をつぎのように発表した。

1)一酸化炭素の滞留に対する是正

 ● 製造中にクッションタンクのふたを開ける必要がないよう薬剤(塩)の投入工程を変更した。

 ● さらに、クッションタンクのふたは製造中には施錠し、単独での開錠を禁じることとした。

 ● 加えて、工場内の作業エリアには、送気や局所排気を行い、一酸化炭素の曝露が発生する箇所を無くす対策を講じた。

 ● 焙煎コーヒー豆から一酸化炭素の放出を防ぐ対策はできないが、蒸留装置内へ窒素を供給することによってクッションタンク内の一酸化炭素を500ppm以下にまで滞留の抑制ができた。

 ● これら蒸留装置内外の一酸化炭素の滞留に対する是正と併せて、一酸化炭素の濃度測定器を常設し、滞留の抑制状況を確認すること、呼吸用保護具を準備し、一酸化炭素の発生リスクがある工程には警報装置、監視カメラなどにより、危険を察知できる対策を講じることとした。

2)一酸化炭素に対する危険性や二次災害防止に関する対策

 ● 製造工程での一酸化炭素の危険レベルを評価した上で、今回の検証結果の開示や雇入れ時の教育・職場教育を見直し、改善した作業手順の周知により、危険レベルに応じた安全衛生教育を行うこととした。

 ● また、二次災害防止の観点から、一酸化炭素による事故時における適切な応急措置および退避措置の教育や訓練を実施し、教育内容の周知を徹底する。

 ● これらの注意喚起や教育用資料を整備し、安全教育を実行する。  

補 足

■「群馬県」は、日本列島の内陸東部に位置し、関東地方の北西部にあり、人口約191万人の県である。

「板倉町」(いたくらまち)は、群馬県邑楽郡(おうらぐん)にあり、県の南東部最東端に位置する 人口約13,700人の町で、関東大都市圏に入る。

■「長谷川香料株式会社」は、1903年の長谷川藤太郎商店創業に始まり、1961年に長谷川香料株式会社として設立された。 東京都中央区に本社を置く日本の香料メーカーで、国内2位のシェアを誇り、特に飲料用に圧倒的シェアを持っている。

 「板倉工場」は、1984年に食品部門の香料製造のために建設された。敷地面積:171,316㎡、従業員:231名の工場である。

■「香料の生産方法」は、原料、工程、素材、製品によって各種方法があり、概要を図に示す。


 素材は一般に天然香料と合成香料に分類され、天然香料は動植物から抽出、圧搾、蒸留などの物理的手段や酵素処理して得る。蒸留は「水蒸気蒸留」(Steam Distillation for Essential Oil Extraction)が一般的であり、採油する目的のもの(水に溶けやすいものが少ないもの)を水蒸気蒸留釜に詰め、水蒸気を吹き込み加熱し、熱水と精油成分が留出してくるので冷却して液体に戻し、精油を分離する。香料の水蒸気蒸留プロセスの概念図と水蒸気蒸留装置の例は図に示す。



 長谷川香料()によると、今回、事故のあった抽出第一工場の蒸留装置では、焙煎コーヒー豆を投入した抽出装置に水蒸気を送り、得られたコーヒー香気は熱交換器を通して冷却され、その留出液はクッションタンク(事故発生タンク)に貯められる。クッションタンクのふたを開けて薬剤(塩)を投入して攪拌し、溶解した留出液は次工程用のタンクに送られる。抽出装置では、蒸留終了毎に焙煎コーヒー豆の残滓を排出し、次の焙煎コーヒー豆を投入する。クッションタンクでは、送液終了後の空のタンクに、次の留出液を貯める準備をする。製造工程中にタンク内での作業はない。

 報道では、「3人は、コーヒー豆を蒸留させたベーパーを冷却して香り付きの液体にし、タンクに移す工程で作業していた」とあり、抽出装置の水蒸気蒸留に関わる作業をしていたものである。

■ 抽出法によるコーヒー豆から発生した一酸化炭素で中毒した事例がある。事例は、わかりやすく他社の人向けに作成された資料がある。


 一酸化炭素ではないが、このブログでは、硫化水素などの中毒や酸素欠乏症で起こった
タンク関連の人身災害について紹介しており、つぎのような事例がある。

 ●「石川県の製紙工場において溶剤タンクで死者3名」20186月)

 ●「大阪府のカーペット製造会社でタンク清掃時に転落、2名死亡」20192月)

 ●「北海道のでんぷん工場で男性が点検中にタンクへ転落か、死亡確認」 202010月)

 ●「日本製紙岩国工場においてタンク洗浄中に硫化水素中毒2名」 202112月)

所 感(今回)

■ 前回は、報道記事によって微妙に状況が異なるので、これまでの類似事例から事故状況を類推した。今回は長谷川香料の調査結果にもとづき、感想を述べてみる。

 ● 48歳の男性社員はクッションタンクに貯まった留出液を次の工程用のタンクに送液した後、空になったクッションタンクに次の留出液を貯める準備を行う工程の作業中、空のタンク内で意識を失った。・・・「タンク内にいた理由は分からないというが、タンク内に何らかの支障の出るものを見つけ、それを解消させようとタンク内に入ったのではないだろうか。日本人によくみられる善意の行動が裏目に出たと思われる」

 ● 30歳の男性社員は、48歳の男性社員を救出するためにクッションタンク内に入り、タンク内から大声で助けを求めた。・・・「これもすぐに救出しなくてはという善意の行動だったとみられる」

 ● この声を聞いて駆けつけた社員数名が、意識を失った48歳の男性社員をクッションタンク外に引き上げて運び出した。この間に、タンク内に救出に入っていた30歳の男性社員も意識を失った。・・・「ここで二次災害になってしまった。もし、タンクがもっと大きければ、複数の社員がタンク内へ入り、二次災害が拡大した恐れがあった」

 ● 救助に駆け付けた社員がクッションタンク内に空気を送り込み、酸素濃度が18%以上になったことを確認した後、41歳の男性社員がタンク内に入り、タンク内で意識失った30歳の男性社員を救出したのち、自力でタンク外に出たが、頭痛とめまいの症状を訴えた。・・・「空気を送り込んだ措置は間違いではなかったが、一酸化炭素中毒ではなく、酸素欠乏の対応だった。ここでも、はやく救出しなくてはという善意の行動が先に立っている」

■ 一酸化炭素は、無色・無臭で感知しにくい気体であり、空気比0.967と空気とほぼ同じ重さの強い毒性を有している。前回の類推では、「消防署が駆け付け、タンク内の空気をガス検知器で確認、タンク内から高濃度の一酸化炭素が検出されたので、消防署員は防毒マスクを装着して倒れたふたりを救出した」と思った。しかし、実際は事業所の社員が防毒マスクなしに救出している。直径約120cm×高さ約170cmの円筒タンク内で倒れたふたりを直径約45cmの開閉式のふたから救出するのはかなり難しい作業だったと思う。再現テストによって、クッションタンク内の一酸化炭素の濃度は30,000ppm3%)だったという。濃度3,200ppm0.32%)でも、510分で頭痛・めまい、30分で死に至るといわれており、非常に危険な救出行動だった。

■ この事業所の職場は“善意の行動”が目立っていると思う。“善意の行動”が備わっている人や職場は良いことである。しかし、たとえ“善意の行動”であっても職場で人身災害を起こさないという信念をマネージャーがもつことが肝要で、そのためには、①「ルールを正しく守る」、②「危険予知活動を活発に行う」、③「報告・連絡・相談(報連相)により情報を共有化する」の三つの事項を徹底することだと思う。

  (注;事故の未然防止のための三つの事項は何度も紹介したが、例えば、当ブログの「太陽石油の球形タンク工事中火災の原因」20132月)の所感を参照)


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

   Jomo-news.co.jp, 香料工場事故3人死傷 製造作業中、CO中毒か 群馬・板倉町,  September 16,  2022

    T-hasegawa.co.jp, 当社社員死亡事故について(長谷川香料株式会社),  September 16,  2022

    Mainichi.jp, 香料工場で男性作業員死亡 一酸化炭素中毒か 群馬・板倉,  September 15,  2022

    Jomo-news.co.jp, 会社が事故調査委 板倉の香料工場3人死傷事故,  September 17,  2022

    Sankei.com, 香料工場で1人死亡 群馬、一酸化炭素中毒か,  September 15,  2022

    T-hasegawa.co.jp,  当社社員死亡事故について(事故原因、再発防止対策及び稼働状況)(長谷川香料株式会社),  November  11,  2022


後 記: 今回の事故について発災事業所はウェブサイトにプレスリリースを投稿していますので、続報が出ることを期待しました。2か月後、プレスリリースに続報が発表されました。被災者が死亡し、状況を把握している人がいないため、調査は難航したでしょう。続報を期待していたと言いましたが、実は心の中では出ないのではないかと思っていたので、続報が出されたことにびっくりしました。日本人は熱しやすく、冷めやすいと言われ、時が経てばこのような事故情報は意図的に続報を出さないことがあります。(これは日本人に限ったことではないですが) この点、発災を出したとはいえ、長谷川香料(株)の情報公開の経営はりっぱだと思います。