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2018年3月14日水曜日

米国ノースダコタ州で石油タンク出口配管系のポンプから出火

 今回は、2018年2月18日(日)、米国ノースダコタ州キャス郡のウェスト・ファーゴにあるマゼラン・パイプライン社のタンク・ターミナルにおいてディーゼル燃料用貯蔵タンク付近で起きた火災事故を紹介します。
(写真はTechlinkcenter.orgから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国ノースダコタ州(North Dakota)キャス郡(Cass County)のウェスト・ファーゴ(West Fargo)にあるマゼラン・パイプライン社(Magellan Pipeline Company)のタンク・ターミナルである。マゼラン・パイプライン社は、石油物流会社であるマゼラン・ミッドストリーム・パートナーズ社(Magellan Midstream Partners)の子会社である。

■ 発災があったのは、ウェスト・ファーゴのEメイン通り沿いにあるタンク・ターミナルの容量43,000バレル(6,800KL)の低硫黄ディーゼル燃料用の貯蔵タンクで、当時30,000バレル(4,770KL)を保有していた。
             ウェスト・ファーゴのタンク・ターミナル付近 (矢印が発災場所)
(写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2018年2月18日(日)午前5時15分頃、ディーゼル燃料油タンクの外壁付近から火の手が上がり、真っ黒い煙が空に昇った。
(写真はMyndnow.comから引用)
■ 発災に伴い、消防署が出動し、数十人の消防士が消火活動に従事した。マゼラン・パイプライン社はタンクターミナルの操業を停止し、運転員はタンクにある油の移送作業を行った。

■ 午前中の間、ウェスト・ファーゴのEメイン通りや東9番通りからは施設のタンク群の間から火柱が上がるのが見えた。一方、タンク・ターミナルから立ち昇る大きな黒煙は、町を横切るように流れ、遠くからも見えた。法執行チームが飛ばしたドローンからの映像には、白いタンクの片面が火炎によって黒く焦げている状況を撮していた。

■ 消防活動のため、ウェスト・ファーゴのEメイン通りは9番から17番までの間、道路が閉鎖された。

■ 当局は半径5マイル(8km)以内の住民に室内の安全な場所に待機するよう勧告を出した。近隣の住民には、自動電話で状況を聞くことができるようにした。勧告は午後1時前に解除された。

■ 警察と消防は煙について「危険ではあるが、毒性ではない」と説明していた。ファーゴ・キャス保健所は、煙を過度に吸うと、鼻、喉、肺、気道に炎症を引き起こす恐れがあり、特に幼児、高齢者、呼吸器疾患のある人にとって危険だと勧告した。公衆衛生当局は大気(空気質)をモニタリングしており、午後1時に大気は問題なく「良好」な状態だと発表した。

■ 火災は発災から約7時間後の午後12時45分に鎮火した。

■ 事故によるけが人は無かった。また、避難する住民もいなかった。

■ 火災は、タンクに接続されていた配管系から漏れ出した油に引火して起ったものとみられる。マゼラン・パイプライン社によると、漏れて火災になった油の量は約1,200バレル(190KL)と発表していたが、のちに638バレル(100KL)だったと修正した。

被 害
■ ディーゼル燃料タンクの側板の一部が変形するほど焼けた。移送用ポンプおよび関連配管が焼損した。

■ 負傷者は出なかった。地域住民は室内の安全な場所に待機するよう勧告が出された。
(写真はKfgo.comから引用)
(写真はJamestownsun.comから引用)
< 事故の原因 >
■ 火災の原因は、タンクの出口配管に設置されている移送用ポンプの機械的故障によるものだと発表された。ポンプの機械的故障の部位および引火原因は分かっていない。
            事故前の貯蔵タンク付近 (矢印がポンプとみられる)
(写真はGoogleMapから引用)
< 対 応 >
■ 出動したのは、ウェスト・ファーゴ消防署のほか、ファーゴ消防署とハズマット隊、ヘクター国際空港の消防隊、バーリントン北部サンタフェ鉄道の消防隊、ノースダコタ州兵が支援で駆けつけた。また、グランドフォークス市の法執行チームは4機のドローンを用意し、そのうち3機を飛ばして緊急事態対応の消防隊などに撮影した火災のライブ映像を提供した。残りの1機は予備として待機した。
 なお、ファーゴ市にもドローンのチームが結成され、ドローン機を保有しているという。現在、複数のチームが連邦航空局の免許を取得するためトレーニング中である。

■ 消防隊は発災タンクの防油堤を補強し、消火活動で使用する泡と水が確実に保持されるように図った。消防隊は、正午前に泡による消火活動を開始した。ウェスト・ファーゴ消防署が保有していた泡薬剤の量は200ガロン(750L)ほどだったので、近隣の消防隊から泡薬剤の提供を受けた。使用した泡薬剤は約500ガロン(1,890L)、水は約400,000ガロン(1,500KL)だった。泡消火を始めると、すぐに変化が起った。黒かった煙は白色に変わり、火炎の勢いが弱まった。火災は2月18日(日)午後12時45分に鎮火した。消火活動中、ドローンの映像は有用で3時間ほど使用されたという。

■ 2月19日(月)、マゼラン・ミッドストリーム・パートナーズ社は、事故によって近隣住民や市民にご迷惑をかけたことに陳謝する声明を発表した。

■ 2月19日(月)、タンク・ターミナルの現場では、マゼラン・パイプライン社の従業員や請負会社の作業員など40人が油で汚れた堤内の清掃と土壌浄化を始めた。清掃が終われば、貯蔵タンクの補修にとりかかる予定である。タンクは側板がひどく焼け焦げており、部分的には熱によって変形している箇所がある。火災にあったタンク、ポンプ、配管類は系統から縁切りし、安全な状態になっているという。

■ 2月19日(月)の午後3時から、マゼラン・パイプライン社はタンク・ターミナルの操業を再開し、タンクローリーの荷役作業を始めた。

■ 2月23日(金)、マゼラン・ミッドストリーム・パートナーズ社は、火災の原因はタンクの出口配管に設置されている移送用ポンプの機械的故障によるものだと発表した。

■ ウェスト・ファーゴ消防署によると、火災原因の予備調査はマゼラン・ミッドストリーム・パートナーズ社が進め、その後、パイプライン・危険物安全局(PHMSA)と共同で進められるという。
(写真はValleynewslive.comから引用)
(写真はFiredirect.netから引用)
(写真はWestfargopioneer.comから引用)
補 足
■ 「ノースダコタ州」(North Dakota)は、米国の北部に位置し、カナダに接する州で、人口約75万人である。州都はビスマルク市である。ノースダコタ州はシェールオイルの生産による石油ブームが続いており、石油生産量はテキサス州につぐ全米第2位になっている。
 「キャス郡」(Cass County)は、ノースダコタ州の南東部に位置し、人口約17万人の郡である。
 「ウェスト・ファーゴ」(West Fargo)は、キャス郡の東部にある郡庁所在地であるファーゴ(人口約9万人)に隣接する郊外市で、人口約35,000人の町である。全米の中でも急成長している町のひとつである。ウェスト・ファーゴの寒い季節は、11月下旬から3月上旬までの3か月で、1日当たりの平均最高気温は -0℃未満である。1年で最も寒い日は1月中旬で、平均最低気温は-16℃、最高気温は -7℃である。

■ 「マゼラン・パイプライン社」 (Magellan Pipeline Company)は、ガソリン、ディーゼル燃料、液化石油ガス、航空燃料などの石油製品をパイプラインによって輸送を行う物流会社である。以前はウィリアムズ・パイプライン社と称していたが、2002年に設立され、オクラホマ州タルサに拠点を置いて展開しており、マゼラン・ミッドストリーム・パートナーズ社(Magellan Midstream Partners)傘下の会社である。

■ 発災(被災)タンクは、容量43,000バレル(6,800KL)の固定屋根式タンクである。グーグルマップによると、発災タンクの直径は約35mである。従って、タンク高さは約7.0mであり、発災時のタンク貯油量(4,770KL)の液面高さは約4.9mとなる。タンク出口配管系からの油流出量は約100KLである。この量はタンク液面の約10cmに相当する。
 タンクまわりの防油堤は、盛土式で表面に何らかの被膜が施されているとみられるが、その被膜に多数のひび割れが見られる。消防隊が泡消火の放射前に防油堤を補強したと報じられているが、この被膜のひび割れの補修を指すものだと思われる。
 
ラインポンプの例
(写真はJp.nsslurrypumps.comから引用)
■ 発災ポンプの型式は発表されていない。日本では、一般に防油堤外に設置されるが、今回の事故では、タンク出口直近の配管に設置されているラインポンプだとみられる。立型でポンプ上部に電動機が取り付けられ、バルブと同様に配管の一部品のように設置できる。当該タンク・ターミナルでは、他のタンクにも設置されており、標準のポンプ配置方法になっていると思われる。


              発災タンクの隣接タンクの例 (矢印がラインポンプ)
(写真はGoogleMapから引用)
所 感 
■ 火災の原因は、タンク出口配管系統に設置された移送ポンプの機械的故障だという。しかし、まだつぎのような疑問点がある。
 ● 機械的故障がポンプのどの部位か分からない。火災に至るような機械的故障といえば、第一にポンプのメカニカル・シールの破損が考えられる。一方、メカニカル・シール以外では、軸受の破損またはポンプ自体の破損が考えられる。ポンプ型式はラインポンプと見られるが、この型式による特殊性が関係している可能性もある。 
 ● 発災が午前5時過ぎという早い時間帯であるが、ポンプが運転されていたか分からない。メカニカル・シールや軸受の破損であれば、静止中に破損することは考えにくく、運転中だと思われる。早朝出荷の運転に関連しているのかも知れない。
 ● タンク周辺には雪が積もっており、発災場所の気候からすれば、気温はマイナスであろう。ディーゼル燃料の引火点は45~70℃ほどであり、容易に火がつく環境ではない。引火へのプロセスは単純でなく、複数の要因が重なったものではないかと思われる。

■ 消防隊の消火戦略・戦術は冷静にとられた印象をもつ。
 ● 燃料(燃焼源)の供給状況を確認したとみられる。事故後であるが、漏れた油の量は7時間で約100KLと確認されており、これはタンク液位約10cm相当で、どんどん大量に流出しているという状況ではなかった。
 ● 消火戦略は積極的戦略をとることで進められた。しかし、泡薬剤保有量および防油堤(ひび割れ)に課題があると判断し、まずその準備作業を行った。この間は防御的戦略(冷却)をとったと思われる。
 ● 準備作業として防油堤を補強し、消火活動で使用する泡と水が確実に保持されるように図った。
 ● それとともに、近隣の消防隊に泡薬剤の提供を要請した。
 ● この準備作業が終った後、泡放射による消火活動を開始した。
 使用した泡薬剤は約1,890Lで、水は約1,500KLだったと報じられているが、このデータのままだと泡の混合比率は0.1%泡とかなり低すぎる値であるので、水量は冷却に使用されたものを含むと思われる。
 ● 消火活動中、ドローンによる映像を有効に活用している。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Magellanlp.com, Media Advisory,  February  18-19,  2018
    ・Firedirect.net,   USA – Large Fuel Storage Tank Fire,  February  19,  2018
    ・Westfargopioneer.com,  Investigators Zero in on What Caused West Fargo Fuel Tank Fire,  February  18,  2018
    ・Kvrr.com,  West Fargo FD Says Fire is Out, Will Monitor For Hot Spots,  February  18,  2018
    ・Kvrr.com, West Fargo Tank Fire Still Under Investigation, Magellan Begins Cleanup,  February  19,  2018
    ・Valleynewslive.com,  Fire Officials Say Investigators Looking into Possible Mechanical Failure Related to West Fargo Tank Fire,  February  20,  2018
    ・Westfargopioneer.com, Investigators Pinpoint Cause of Fuel Tank Fire in West Fargo, Company Says,  February  23,  2018
   


 後 記: 今回の事故では、冷静な消火活動を感じます。目の前に火を見れば、全体を考えず、すぐに泡放射をしそうなところです。もしかしたら火が消えたかもしれませんが、そうでなければ、泡薬剤が途切れ、長時間の火災になり、さらにタンクへの延焼という状況もあったでしょう。
 一方、もっとも興味をひかれたのは、ドローンの活用です。以前、「中国河北省の原油備蓄タンク基地で防災訓練」(2016年3月)でドローンが活用された例を紹介した際、「補足」に日本の消防機関におけるドローン採用例を記載しました。今回、実際の火災時にドローンが活用されたという情報は初めてです。しかも、3機のドローンを飛ばし、上空からのライブ映像が有効だったといいます。平昌オリンピックの開会式で1,218機のドローンの群体飛行によるライトショーには驚きましたが、いよいよドローンの時代が来たと感じます。ドローンは普通のこととして消防に携わる部署に配置される時代になったと思います。



2018年3月7日水曜日

沈没した石油タンカーの流出油が奄美・沖縄の島々に漂着

 今回は、2018年1月に東シナ海で石油タンカーが衝突・炎上し、漂流後に沈没して油が流出したが、1月27日(土)、鹿児島県トカラ列島宝島の海岸で油の漂着が発見され、その後、奄美大島や沖縄の島々につぎつぎと油の漂着が確認された事例を紹介します。
奄美大島の海浜に流れ着いた油漂着物
(写真はAsahi.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 発災施設は、イランのナショナル・イラニアン・タンカー社が運営管理しているパナマ船籍の石油タンカーのサンチ号(Sanchi)である。サンチ号は2008年に建造され、全長約274mで、総トン数約85,000トン、載貨重量約164,000 DWTで、イラン人30名とバングラデシュ人2名の計32名の乗組員が乗船していた。サンチ号はイランから韓国への石油を輸送していた。油種はコンデンセートと呼ばれる軽質原油の一種で、136,000トンを積んでいた。
 
■ 2018年1月6日(土)、中国・上海の東300kmの沖合で石油タンカーのサンチ号が香港船籍の貨物船CFクリスタル号と衝突し、サンチ号は衝突後すぐに爆発があり、火災を起こした。 サンチ号の乗組員32名は全員が死亡した。石油タンカーは火災を起こしながら、日本の奄美大島の西方の排他的経済水域(EEZ)付近を漂流していたが、1月14日(日)正午頃、突然、石油タンカー内で爆発を伴う激しい火災が発生し、横転して、午後5時頃に沈没した。

■ 石油タンカーに積載されていたコンデンセート136,000トンの一部が火災によって焼失したほか、残りは石油タンカーとともに海中を沈んだ。また、石油タンカーには、機関用燃料の重油が1,900トン積まれていた。焼失しなかった油は周辺海域を汚染するととともに、流出した油が漂流した。
(石油タンカーの衝突・沈没事故については、「イランの石油タンカーが東シナ海で衝突・炎上、漂流後、沈没、死者32名」を参照)

< 油漂着の状況および影響 >
事故の発生
宝島に流れ着いた油漂着物
(写真はAsahi.comから引用)
■ 2018年1月27日(土)、鹿児島県トカラ列島宝島の海岸で油の漂着が確認された。油状の固まりが約7kmにわたって見つかった。
■ 21日(木)午前には、鹿児島県奄美大島で油の漂着が確認された。油は奄美大島の北部から西部にかけて直線距離で50km以上にわたって点在していた。朝仁(あさに)海岸に500mにわたって打ち上げられたものは、人のこぶし大の黒い漂着物で触ると弾力があり、表面を崩すと油の臭いがした。海岸を犬と毎日散歩するという女性によると、犬といっしょに砂浜に入ったら、足が油だらけになり、犬の足の油はしばらく取れなかったという。

■ 2月1日(木)以降、奄美大島のほか周辺の喜界島、徳之島、沖永良部島でも油漂着が確認された。2日(金)の漂着量は前日より増加した。
石油タンカーの沈没位置と油漂着場所 (海上保安庁)
(図はKaiho.mlit.go.jp から引用)
被害にあったオオウミガメ
(写真はSankei.comから引用)
■ 26日(火)には、奄美大島の知名瀬海岸でオオウミガメの死骸が発見され、鹿児島県が死骸を回収して調べて結果、口の中に油が付着していたことから、周辺で漂着が続く油の影響で死んだと発表した。同日、環境省は、23日(土)に奄美大島で油の付いたヒヨドリの死骸が確認されたと発表した。しかし、釣り糸がからまり、油漂着で死亡した可能性は低いと述べ、現地調査を検討していると説明した。

■ 2月6日(火)、鹿児島県は奄美大島の油漂着状況を発表したが、これによると、島の北西側に片寄っている。一方、2月9日(金)に発表された喜界島の油漂着状況では、島の北西側だけでなく、南東側にも油漂着が確認されている。また、 2月16日(金)に発表された徳之島の油漂着状況でも、油漂着は島のまわりに片寄りなく点在している。

■ 2月7日(水)、鹿児島県屋久島の海岸でも油のようなものが漂着しているのが見つかった。鹿児島県は、二次汚染防止のため、漂着物にはむやみに触らないよう呼びかけた。

■ 2月7日(水)、沖縄本島北部の今帰仁村と本部町で油漂着物が確認された。

■ 2月14日(水)、沖縄本島北部の海岸で油漂着物が発見されて以降、新たに那覇港や恩納村、伊平屋島、伊江島、座間味島の海岸などでも油漂着物が相次いで確認され、本島北部のほか、本島中南部や周辺離島の広範囲に広がった。

(図はOkinawatimes.co.jpから引用)
■ 2月15日(木)、沖縄本島北部などに油の塊などが相次いで漂着しているが、海流に詳しい専門家は、先月の石油タンカー沈没事故で流出した重油が黒潮に流されていったん本州向けに北上した後、南西諸島に沿って吹く北風に押し戻されたと推測している。
 鹿児島大学の中村啓彦教授(海洋物理学)は、沈没した石油タンカーから流出した油の経路をシミュレーションした結果、1月下旬から2月中旬に強い北風が吹いた影響で重油が黒潮を横切り、そのまま南下していたと推測している。外洋には奄美大島に漂着した油より多い量がまだ残っており、沖縄でも奄美大島と同じことが起こるのではないかという。 一方、3月上旬頃までの北風の強さで漂着量は増減するとした上で、奄美群島は1か月程度で、しばらくすれば沖縄も収束するとの見方を示した。
 
■ 2月15日(木)、黒潮に乗って油汚染が日本の広範囲に広がり、生態系や漁業に悪影響を与える危険性を指摘する英国の研究者らの意見に対して、環境汚染に詳しい鹿児島大の宇野誠一准教授は冷静な対応を呼び掛ける。さらさらした重油が海中のごみを取り込みながら粘性の高い塊になったとみて、「有害物質は漂流中に風化して減り、塊の中に閉じ込められてもいるので溶け出しにくい。速やかに回収されれば、生態系に壊滅的な影響を与えることは考えづらい」と話している。
 
■ 2月27日(火)、沖縄本島北部の海岸を中心に油漂着物が相次いで見つかっている中で、新たに宮古島の海岸でも黒い塊が確認された。宮古島の東に位置する高野海岸で油のような塊が漂着しているのを巡回中の宮古島海上保安部の職員が発見したという。

■ 2月28日(水)、宝島で油の漂着が確認されてから1か月を経過した。油漂着は宝島、奄美群島、沖縄本島に拡大し、2月27日(火)時点で24の島で確認されている。

被 害
■ 油漂着は宝島、奄美群島、沖縄本島に拡大し、2月27日(火)時点で24の島で確認された。見つかった油漂着物や油付着物は人による清掃作業で回収する必要がある。  

■ 生態系への悪影響が懸念される。現在のところ、オオウミガメ1匹が漂着油で死んだほかはわかっていない。

■ いまのところ漁業被害はない。けが人や健康被害も出ていない。  

< 事故の原因 >
■ 沈没した石油タンカーの機関用燃料の重油が流出して一部が漂着したものとみられる。  

< 対 応 >
■ 1月17日(水)、第十管区海上保安本部は、沈没現場周辺で船を走らせ、スクリューで軽質原油を揮発、拡散させる作戦を進め、油膜は拡散して消滅しつつあると発表していた。

■ 中国政府は、船や人工衛星で拡散状況を調べており、1月末時点で、沈没海域延べ約80万平方kmを監視し、360箇所の水質検査で11箇所から基準値を超す油関連物を検出したとして、「環境に一定の影響がある」とみていた。1月下旬の水中調査では、沈んだタンカーの船体に最大35mの穴が見つかっている。甲板の通風口なども大部分が損壊しており、さらなる油の流出の懸念があるという。

■ 2月2日(金)、鹿児島県奄美大島の海岸に黒い油のようなものが漂着しているのが見つかったことを受け、鹿児島県、奄美海上保安部、地元市町村が集まり、対策会議を開いて対応を協議した。

■ 2月2日(金)、日本政府は、奄美大島の沿岸で油の漂着を確認したことから、首相官邸の危機管理センターに情報連絡室を設置し、情報を収集して対応策を検討すると発表した。 同日、環境省は九州地方環境事務所長をチーム長とする油汚染対策現地対策チームを設置した。

■ 2月3日(土)、奄美大島の朝仁海岸では、油漂着物の除去作業をする住民や島外からのボランティアの姿がみられた。一方、鹿児島県大島支庁は、ボランティアによる除去作業に対して「行政の準備が整うまで待ってほしい」と呼びかけた。油と砂やゴミなどを混ぜて回収すると、処理がしにくくなったり、費用がかさんだりする恐れがあるという。鹿児島県と地元市町村は、2月5日(月)に回収の手順や開始時期、ボランティアの受入れなどについて話し合う予定だという。2月3日(土)に福岡から来島し、朝仁海岸での作業に加わったボランティアの男性は「手伝いたい人はたくさんいるはずなので、受入れの窓口や情報提供をきちんとしてほしい」と話した。
                  奄美大島の油漂着マップ   (図はMaps.amami.camera から引用)
                       油漂着状況  (写真はMaps.amami.camera から引用)
■ 2月6日(火)、第十管区海上保安本部は、宝島、奄美大島、喜界島に漂着した油につい て分析した結果、C重油または原油相当だと発表した。油種が特定できなかったのは、油が海外製で技術的に困難だったという。

■ 2月7日(水)、鹿児島県は安全に漂着油の除去作業ができるよう回収作業マニュアルを作成し、ウェブサイトに公開し、除去作業を行う場合に配慮するよう呼びかけた。

■ 2月8日(木)午後、鹿児島県大島支庁は職員約25名で奄美大島の朝仁海岸で漂着油の回収作業を行った。5本の200Lドラム缶が用意され、回収量は約160kgだった。 200Lドラム缶は今後、130本準備される予定である。
一杯になった漂着油回収ドラム缶
(写真はGreenpiece.orgから引用)

■ 2月9日(金)午後、鹿児島県奄美市は職員約50名で奄美大島の朝仁海岸で漂着油の回収作業を行った。回収量は約1,950kgだった。回収した漂着油は鹿児島県が用意した200Lドラム缶が一杯になったため、ビニール袋に仮保管した。来週から計画的に実施していきたいとし、一般市民のボランティアも受け入れたいという。油漂着物の回収作業にボランティアで参加した人によると、漂着物の中には、砂に埋まって見えなくなっており、漂着物の量はかなりあり、たくさんの人でやらなければ終わらないと語った。

■  2月5日(月)から2月9日(金)にかけて、環境省大気環境局水環境課・大気環境課は、国立環境研究所と連携して漂着地域における環境モニタリングのため、現地踏査と海水・大気等の試料採取を実施した。

(図はCas.go.jpから引用)
■  2月9日(金)、海上保安庁は、油汚染範囲を明らかにするため、1月29日(月)から2月2日(金)にかけて沈没周辺海域および沖縄近辺から南九州沿岸の海水を採取したと発表した。

■ 2月9日(金)、水産庁は、国立研究開発法人「水産研究・教育機構」に対し、沈没事故で流出した油による水産資源や漁場への影響調査を委託した。同調査は、海水や動物プランクトンを採取して分析調査を行い、魚類等に油類が与える毒性を明らかにする。調査は2月16日(金)~3月12日(月)まで行われ、結果は4月上旬に公開される予定である。

■ 2月9日(金)、徳之島では、役場職員、建設業協会、地元漁協、青年会議所などが漂着油の回収作業を行った。
徳之島の油漂着場所(鹿児島県徳之島事務所)
(写真はPref.kagoshima.jp から引用)
■ 29日(金)、喜界島では、観光客などが訪れる中里のスギラビーチと池治海水浴場で鹿児島県喜界事務所と喜界町の職員など約20人が参加して漂着油の回収作業が行われた。約2時間の作業でドラム缶6個分を回収した。喜界島では、回収作業を実施した2つの海浜を含めて16か所で油の漂着が確認されている。
喜界島の油漂着場所(鹿児島県喜界事務所)
(写真はPref.kagoshima.jp から引用)
■ 211日(日)、沖永良部島で、鹿児島県沖永良部事務所や和泊町職員ら有志によるボランティア約70人で漂着油の回収作業が行われた。1時間半の作業で約60kgの漂着油を回収した。回収作業は、試験的な意味を込めて行政職員のみで実施されたもので、今後の対応は今回の作業を踏まえ、検討していくという。
沖永良部島の油漂着場所(鹿児島県沖永良部事務所)
(写真はPref.kagoshima.jp から引用)
■ 2月14日(水)、環境省環境副大臣が奄美大島の油漂着状況の視察のため現地を訪問した。油漂着物回収作業の今後の予定は明らかにしなかった。

沖縄のおける油漂着場所
(図はRyukyushimpo.jpから引用)
■ 2月14日(水)、沖縄県、沖縄北部地区の10市町村、第十一管区海上保安本部は、相次ぐ油漂着を受け、名護市で緊急対策会議を開いた。出席者は漂着物の情報を共有し、今後の対応を話し合った。

■ 2月15日(木)、鹿児島県知事が奄美大島の油漂着状況の視察のため現地を訪問した。油漂着物回収作業の今後の予定は明らかにしなかった。

■ 2月16日(金)、環境省九州地方環境事務所は、奄美大島への油漂着による沿岸域の生態系への影響把握のため、5箇所の地区(笠利半島海域公園地区、大島海峡海域公園3地区、摺子崎海域公園地区)について目視による調査を行った結果を公表した。その結果、4箇所の海岸において油状の物の漂着を確認した。なお、海面における浮遊はなかった。イシサンゴ類等への付着は確認されず、現時点ではイシサンゴ類、海藻海草類、貝類、ウニ・ヒトデ類(棘皮動物) の生息・生育には特に異変がないとみられる。

漂着した油の状態
(写真はGreenpiece.org から引用)
■ 2月16日(金)、環境保護団体グリーンピース・ジャパンは、2月12日(月)~14日(水)に奄美大島の油漂着現場を見てきた状況をウエブサイトに掲載した。主な内容はつぎのとおりである。
 ● 油の漂着は東シナ海に面する北西の海岸で広がっている。一方、油が漂着している浜と、していない浜で差がある。地元のテレビ局と映像関係者が協力して自主的な調査に基づく油漂着マップを作成している。(注記:地元のテレビ局と映像関係者とは、奄美テレビ放送とあまみカメラである)
  ● 朝仁海岸の回収作業は進んでいた。集められた油漂着物は専用のドラム缶に回収されている。ウミガメの産卵地である大浜海浜公園は回収作業が行われるところで、海岸への立入りを控えるよう看板が設置されていた。大浜の近くの知名瀬海浜では回収が始まっておらず、油の漂着物はそのままの状況だった。知名瀬海岸で海鳥オオミズナギドリの死骸が発見された。捨川(すてご)海浜には、油の塊が浜に広がっていた。
 ● 北西の海岸の中でも、モズク漁が行われる龍郷町芦徳(とのり)では、油の漂着はこれまで確認されていない。大和村国直(くになお)の浜辺では、油の漂着物は少なく、住民のボランティアで片付けられる規模だった。

■ 2月16日(金)、環境保護団体グリーンピース・ジャパンは、日本政府に対して生態系や住民への影響を最小限にとどめるために、早急で適切な対応を取るよう、つぎの事項を要望した。
 ● 事故現場および油類が漂着した場所の生態系への影響を見極めるために、中長期的なモニタリング体制を構築し、影響を除去・緩和するための計画を作成して実施すること。
 ● 目視できる漂着油を除去した後も、炭化水素が砂に入り込んだ箇所、岩などに油がこびりついた箇所は汚染物質の100%除去は困難であるため、当該地域では継続的なモニタリングの実施と得られたデータの情報を公開すること。
 ● 海洋生態系および海水調査の結果を地元住民に積極的に公開すること。
 ● 国際的な調査チームをつくり、調査データを他国と共有すること。

■ 2月18日(金)、奄美大島の奄美市は、ボランティアを募って市内28か所の海岸で一斉に漂着した油を回収した。参加した市民らは約1,840人で、約3時間で回収した漂着物は約43.5トンだった。この回収作業には、環境省(九州地方環境事務所、那覇自然環境事務所、奄美自然保護官事務所)の職員11名が参加した。
油漂着物の回収作業の状況(奄美市)
(写真はChinaplus.cri,cn から引用)
回収された油漂着物 (奄美市)
(写真はFacebook.comから引用)
■ 221日(水)、第十管区海上保安本部は、サンチ号沈没位置付近で117日(水)に採取した浮流油、28日(木)に沖永良部島に漂流・漂着した油状物、28日(木)に与論島に漂着した油状物につい て成分分析を行った結果、C重油または原油相当だと発表した。また、それぞれは構成する成分や比率が類似しているという。

■ 2月21日(水)、海上保安庁は、 1月29日(月)から2月2日(金)にかけて行った海水の分析結果を公表した。採取した14箇所の海域の海水の油分の測定した結果、すべての採水箇所において、海水中の油分は事故以前に測定された値と比較して変わらない値となり、今回測定した箇所における油による汚染は確認されなかった。
海水の調査場所と分析結果
(図はKaiho.mlit.go.jp から引用)
■ 2月23日(木)、海外メディアのAFPによると、海上保安庁は、鹿児島県の沖永良部島と与論島に漂着した油について、東シナ海で沈没した石油タンカー「サンチ号」から流出したものとみられることを明らかにした。海上保安庁の報道官によると、両島に漂着した油を採取して分析したところ、サンチ号の燃料に使われていたものと成分が似ていた。事故海域で原油流出を伴う海難事故は他に把握していないため、沖永良部島と与論島に漂着した油はサンチと関係がある可能性が高いと結論付けたという。沖永良部島と与論島以外の島々に漂着した油のサンプルはそれぞれ異なる成分を示していた。サンチ号は各種のタンクや装置でさまざまな重油を使用していた可能性もあると指摘した。同報道官は、分析を続けているところであり、他の島々に漂着した油について結論を出すのは時期尚早と考えていると述べた。
漂流する油 116第十管区海上保安部撮影)
(写真はAfpbb.comから引用)
漂流する流出油
(写真はRferl.org から引用)
■ 2月28日(水)、第十管区海上保安本部は、東シナ海におけるタンカー衝突事故について海上保安庁の対応状況について公表した。
 ● 1月15日(月)、現場海域に浮流油を確認した。
 ● 1月15日以降、浮流油の調査、行方不明乗組員の捜索および油防除作業を開始した。
 ● 2月22日(木)、サンチ号沈没位置付近の漂流油状況を確認した。沈没位置から南西へ約500mを基点として、南へ長さ約700m×幅約20mの油膜が浮流している。なお、2月16日(金)~22日(木)までの状況は特段の変化はない。また、付近では引続き中国巡視船等が行方不明者捜索および油防除作業中である。  
 ● 2月28日(水)、サンチ号沈没位置付近の漂流油状況を確認した。沈没位置付近から長さ約500m×幅約20mの範囲に浮流油を認めた。浮流油は末端から拡散消滅している状況とみられる。

■ 2月28日(水)、宝島で油の漂着が確認されてから1か月を経過した。油漂着は宝島、奄美群島、沖縄本島に拡大し、2月27日(火)時点で24の島で確認され、各地で回収作業が進められている。
 宝島では、これまでに島民が回収作業を行っているほか、2月14日(水)から清掃作業会社約30人が加わり回収作業を行っている。しかし、漂着している範囲が広く、完全に取り除くには数か月はかかる見込みだという。島の住民からは今後、水質への影響や島の経済についての不安の声が聞かれた。
 一方、夏は多くの海水浴客でにぎわう奄美大島の大浜海岸では、奄美市から管理を委託されている清掃作業会社がほぼ毎日、油の回収作業を続けている。当初に比べ、表面上の油は目立たなくなったが、砂に埋もれたり、石に付着した油がまだ残っている。油漂着は広範囲で、それぞれの島が回収作業を進めているが、手作業のため回収の長期化や影響への不安が広がっているという。

■ 2月28日(水)、奄美市はこれまでに約48トンの油漂着物を回収した。いまのところ漁業被害はないという。鹿児島県によると、県内では2月18日(日)までに約90トンを回収したという。
 一方、回収した油の処理が問題化している。現在はドラム缶やブルーシートに包んで保管しており、鹿児島県は環境などへの配慮から離島での焼却は見送り、九州本土に運搬して処分する方法を検討している。また、回収費などは通常、原因となった船主に請求するが、そのためには、漂着した油と船の燃料などの成分が類似していることを証明する必要があり、自治体などは第十管区海上保安本部の漂着物の分析を注視している。

■ 3月1日(木)、環境省は、 2月8日(木)に奄美大島の6つの海岸で採取した海水の水質分析の結果を公表した。その結果、いずれの調査地点においても環境基準値等を超える項目は無かった。

■ 3月1日(木)、フェースブックに奄美大島知名瀬海岸における油漂着情報が投稿された。これによると、ペットボトルやロープなどの人工漂着物にへばりついた油や、砂地に点在した油塊などが多くみられた。大きさや粘度は様々で、大きいもので50cm程度のものもある。中にはまだ柔らかくて光沢のある油塊もあり、その状態から漂着して時間が経っていない印象を受けたという。

■ 環境省奄美自然保護官事務所は、奄美大島の用海岸、大瀬海岸、大浜海岸・小浜、知名瀬、ヒエン浜、大棚の6地点を重点監視ポイントとして巡視等を実施しており、日々の巡視状況をウェブサイトに掲載している。3月1日(木)知名瀬で確認された油漂着物(バケツ4杯分)は回収された。3月4日(日)は知名瀬で新しい油漂着物が見られたほか、用海岸で少量が回収され、6地点の油漂着量は少なくなっている。
 一方、徳之島でも、4地点を重点監視ポイントとして巡視等を実施しており、日々の巡視状況をウェブサイトに掲載している。それによると、2地点では油漂着が多量に残っている。沖縄を含めてその他の地域の油漂着量と回収量は明確にされていない。
環境省奄美自然保護官事務所よる奄美大島の巡視・回収状況
(写真はKyushu.env.go.jp から引用)
所 感
■ 日本の島に油漂着が発見されてから約1か月間余、いろいろな部署が動いているが、油がどのくらい漂着し、どのように対応し、回収量がどのくらいになったのかという全体像が分からないという状況である。

■ 結局、日本政府および鹿児島県の危機管理対応の能力不足を露呈してしまったということは否めない。主な問題点はつぎのとおりである。
① 危険予知の感性が不足し、初動対応が遅い
 ● 1月14日(日)の奄美大島西方で起った石油タンカー沈没に対して、 日本の島々への油漂着に関する予測(危険予知)がなされていなかった。1月27日(土)、鹿児島県宝島で油漂着が確認された後、迅速な対応(回収作業の開始)がとられていない。鹿児島県と日本政府がそれぞれ会議を開催したのは2月2日(金)で、この間一週間が経過している。

② 現場指揮所(災害対策本部)が設置されなかった
 ● 首相官邸に設置されたのは危機管理センターに情報連絡室を設置しただけで、政府内の対応組織を明確にしなかった。このため、従来の官庁縦割り組織のまま、環境省、農林水産省(水産庁)、国土交通省(海上保安庁)の関係機関がそれぞれ行動した
 ● 緊急事態対応時には、本来、各機関を司る指揮所(本部)を設置し、権限をもつ指揮所長(本部長)を配置する必要があるが、この基本的な対応がとられなかった。また、政府(中央官庁)と鹿児島県庁の連携が悪く、対応組織が一元化されなかった。
 ● 鹿児島県庁は対応組織を明確にせず、県庁の組織(各島事務所)内だけで行動した。このため、地元市町村はそれぞれが行動した。

③ 油流出対応の戦略・戦術が欠如していた
 ● 戦略を立てるには、「敵」(漂流して襲ってくる油)を明確にする必要があるが、各部署のテリトリー内の場当たり的な対応になってしまった。 本来、「敵」の行動を戦術に活かすために行う各機関の調査や分析の結果を出すのが遅く、対応に活かされていない。
 ● 日本には、「海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法令」があり、いろいろな部署で「海上災害対策」の基準があるが、対応は船主第一責任のもとに行われる。今回のように漂着する油の持ち主が明確でない場合、回収作業を命じる相手がなく、対応が後手後手にまわった。
 ● 過去の船舶による海上流出事故の経験をもとに「海上災害防止センター」が設立されたが、今回の対応で活動しておらず、忘れられた組織になっている。
日本周辺で発生した船舶起因の主な流出油事故
(図はMlit.go.jpから引用)
■ 今回の対応の中で目立ったのはボランティアの活動である。奄美大島に油漂着が確認された翌日の2月3日(土)には、ボランティアによる回収作業が行われているし、2月18日(金)に行われた回収作業には1,840人が参加している。 日本にボランティア精神が定着したと感じる。
 一方、今回のような漂着油の回収は、人による手作業の人海戦術をとるしかない。迅速に清掃作業会社の作業員を配置し、計画的で早い回収作業を行わなければならない。その中でボランティアの人の手をどのように活用するのかという対応が必要である。

■ 鹿児島県内で回収された量は、2月18日(日)までに約90トンだといい、現時点の回収全量ははっきりしていない。外洋には奄美大島などに漂着した油より多い量がまだ残っていると指摘されている。サンチ号には機関用の重油が1,900トン積まれていた。この量が出港時のものか、沈没時のものか分からないが、仮に半分(950トン)が流出して漂流しているとすれば、まだ相当量の油が陸地に漂着する可能性がある。今回の漂着では、北風に流されたと見る向きもあるが、東シナ海の海流は基本的には朝鮮半島(韓国)側に流れるし、黒潮に乗れば、太平洋側に流れる。いずれにしても、日本のどこかに漂着する可能性がある。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
   ・Mainichi.jp,  沈没タンカーから油 日中海洋当局が対応, January  17,  2018
       ・Aasahi.com,  油状固まり7キロ、⿅児島・宝島に タンカー事故関連か, February 01,  2018
     ・Nikkei.com,  奄美⼤島沿岸に油漂着、タンカー沈没と関連か 官邸に情報連絡室, February 02,  2018
       ・Sankei.com,  奄美⼤島「⿊い油」、対策会議で対応を協議 沈没タンカー流出?海上保安本部は成分分析, February 02,  2018
       ・Aasahi.com,  奄美の漂着油で県呼びかけ「除去待って」,  February 04,  2018
       ・Mainichi.jp,  東シナ海 原油流出1カ⽉、⽇本への影響は 被害懸念, February 06,  2018
       ・Youtube.com,  ティダニュース【02/07放送】奄美沿岸漂着油 油の分析結果発表, February 07,  2018
       ・Youtube.com,  ティダニュース【02/08放送】奄美沿岸に漂着油 続報 回収マニュアルを作成, February 08,  2018
       ・Youtube.com,  ティダニュース【02/09放送】奄美市が朝仁海岸で除去作業開始, February 09,  2018
       ・Nankainn.com, 22時間でドラム缶6個分 海水浴場などで漂着油回収 喜界町, February 11,  2018
       ・Nankainn.com, 沖永良部島でも漂着油回収, February 12,  2018
       ・Youtube.com,  ティダニュース【02/14放送】奄美沿岸に漂着油 渡嘉敷環境副大臣が視察, February 14,  2018
   ・Youtube.com,  ティダニュース【02/15放送】三反園県知事が朝仁海岸に現地視察, February 15,  2018
       ・Ryukyushimpo.jp,  油漂着 沖縄本島西海岸で拡大 県など緊急会議、11管調査, February 15,  2018
       ・Okinawatimes.co.jp,  どこまで拡大するのか 油の漂着物、沖縄県内8市町村・300個超え, February 15,  2018
       ・Sankei.com,  漂着油でアオウミガメ死ぬ 奄美⼤島の海岸、6⽇回収, February 08,  2018
       ・Nikkei.com,  漂着油でアオウミガメ死ぬ 奄美⼤島の海岸, February 08,  2018
       ・Hazardlab.jp,  奄美周辺の漂着油「重油と判明」沈没船の燃料流出か?海保が分析, February 08,  2018     
   ・Jcp.or.jp,  奄美沖タンカー沈没 漂着油 ⽣態系脅かす 国際NGO 政府に対策要望, February 19,  2018
       ・Mainichi.jp,  漂着物 奄美市で回収 ボランティア1,840人で43.5トン, February 19,  2018
       ・Env.go.jp,  奄美大島等における油漂着事案に関する環境省の対応について, February  23,  2018
       ・Afpbb.com,  沖永良部島と与論島の漂着油は沈没タンカーの燃料、海上保安庁, February  24,  2018
       ・Kaiho.mlit.go.jp,   奄美大島等における油状物関連情報, February  28,  2018
       ・Greenpeace.org,  奄美大島に漂着した油を見てきました, February  16,  2018
       ・Smbc.co.jp,  油漂着から1か月  回収作業に数か月かかる島も, February  28,  2018
       ・Buzzfeed.com,  日本の排他的経済水域に沈没したタンカー 原油の大量流出、その後の被害は, February  28,  2018
       ・Nishinippon.co.jp, 鹿児島、沖縄の油漂着24島に被害 発生1ヵ月 回収も処分も難題, February  28,  2018
       ・Rbc.co.jp, 油状の漂着物 宮古・八重山地方で初確認, February  28,  2018


後 記: 石油タンカーの衝突・沈没事故について当ブログで紹介しましたので、日本に油が漂着したことから調べてみました。情報はいやになるほどたくさんありました。しかし、断片的であり、総括できるような状況ではありませんでした。このため、漂着状況と対応をそれぞれ時系列でまとめることにしました。その中から分かったことは所感に書いたとおりです。
 前回の事故情報の後記の中で、「日本の排他的経済水域(EEZ)付近で漂流して沈没し、油流出による環境汚染や漁業への影響が懸念される状況でありながら、日本の海上保安庁、農林水産省、環境省などからの情報が聞こえてこないのはなぜでしょう。海上保安庁は巡視艇を派遣しているので、状況をつかんでいるはずですが、あまりにも情報公開に消極的です」と書きましたが、今回は別な観点の疑問があります。それは、海上保安庁の漂着油に関する曖昧な態度です。石油を扱っている人なら、C重油相当または原油相当という分析結果に疑問を持ちます。どこから原油相当という判定が出てくるのでしょう。これだけの状況が揃っていながら、なぜサンチ号の機関用重油だといわないのでしょうか。インターネットでは、中国に気を遣っているという話もありますが、サンチ号はイランのタンカー会社が運営管理しているパナマ船籍の石油タンカーです。イランは損害額が110百万ドル(121億円)で、内訳は石油60百万ドル(66億円)、タンカー本体50百万ドル(55億円)と言っています。これは損害保険で補填されるはずです。何を忖度しているのでしょう。このブログでは「沈没した石油タンカーの流出油が奄美・沖縄の島々に漂着」としました。