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2022年11月28日月曜日

群馬県の香料工場の円筒タンクで一酸化炭素中毒、死傷者3名(原因)

 今回は、2022915日(木)、群馬県板倉町にある食品用香料の工場で香料の製造作業に従事していた社員3人が死傷する事故がありましたが、1111日(金)に事故原因と再発防止策が発表されたので、その内容を紹介します。事故直後の状況については、「群馬県の香料工場の円筒タンクで一酸化炭素中毒、死傷者3名」202210月)を参照。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、群馬県板倉町大蔵にある食品用香料などを製造する長谷川香料株式会社の板倉工場である。

■ 事故があったのは、板倉工場抽出第一工場の蒸留装置内にあるクッションタンクと呼ばれる直径約120cm×高さ約170cmの円筒タンク(円柱タンク)である。タンクは、蒸留装置で焙煎されたコーヒー豆に水蒸気を送って香気を得た留出液を貯留するためのものである。このタンクには、上部に直径約45cmの開閉式のふたが付いており、外から薬剤などを導入するために付いている。


<
事故の状況および影響
>

事故の発生

■ 2022915日(木)午前11時頃、工場内で香料の製造作業に従事していた社員3人が体調不良になったという消防署への119番通報があった。

■ 通報にもとづき消防署が出動し、3人の社員は病院へ搬送された。いずれも男性で、48歳の男性が死亡し、30歳の男性は意識不明の重体で、41歳の男性社員は体調不良を訴えた。

■ 3人は、コーヒー豆を蒸留させたベーパーを冷却して香り付きの液体にし、タンクに移す工程で作業していた。 ふたりの男性社員がタンク内に倒れていた。通常はタンク内に入ることはないという。

■ タンク内から高濃度の一酸化炭素が検出されており、警察署は中毒になったとみて調べている。  

■ 1111日(金)、長谷川香料は自社のウェブサイトに事故の経緯について調査結果を掲載した。これによると、事故発生当日は4日間連続的にコーヒー水蒸気蒸留を行う工程の3日目だった。

 ● 48歳の男性社員はクッションタンクに貯まった留出液を次の工程用のタンクに送液した後、空になったクッションタンクに次の留出液を貯める準備を行う工程の作業中、(何らかの理由で)空のタンク内に入り、意識を失った。

 ● 30歳の男性社員は、48歳の男性社員を救出するためにクッションタンク内に入り、タンク内から大声で助けを求めた。

 ● この声を聞いて駆けつけた社員数名が、意識を失った48歳の男性社員をクッションタンク外に引き上げて運び出した。この間に、タンク内に救出に入っていた30歳の男性社員も意識を失った。

 ● 救助に駆け付けた社員がクッションタンク内に空気を送り込み、酸素濃度が18%以上になったことを確認した後、41歳の男性社員がタンク内に入り、タンク内で意識失った30歳の男性社員を救出したのち、自力でタンク外に出たが、頭痛とめまいの症状を訴えた。

 ● タンク内に入った3名の男性社員は救急車で病院に搬送された。48歳の男性写真は同日病院で死亡が確認された。意識を失った30歳の男性社員は治療を終え、その後、職場復帰した。41歳の男性社員は治療を終え、自宅療養している。 

被 害

■ 一酸化炭素中毒で男性従業員3名の死傷者が出た。1名が死亡し、1名は意識不明の重体で、1名は体調不良で病院へ搬送された。意識不明だった男性従業員は治療を終えて、その後、職場復帰した。

< 事故の原因 >

■ 死傷者が出た原因はタンク内に存在していた一酸化炭素の中毒である。通常、香料の製造作業中にタンク内に入ることはなく、当時、なぜ入槽したかの事故要因を調べたが、特定できなかった。

< 対 応 >

■ 916日(金)、長谷川香料は、「亡くなられた社員のご冥福を心よりお祈りするとともに、治療中の社員の一刻も早い回復を願っております」という声明を出した。さらに、板倉工場の社員らで構成する事故調査委員会を立ち上げると発表した。長谷川香料は、関係省庁に全面的に協力しながら 「早期に事故の原因究明と再発防止策を検討していく」としている。長谷川香料は自社のウェブサイトにもプレスリリースを掲載している。

■ 916日(金)、労働基準監督署は工場の立入り調査に入り、安全管理に問題がなかったかを調べる。

■ 916日(金)、長谷川香料によると、板倉工場は事故が発生した設備を除き、稼働を再開しているという。

■ 1111(金)、長谷川香料は自社のウェブサイトに事故の原因と再発防止対策について調査結果を掲載した。

1) 原因物質の特定

 ● 亡くなった48歳の男性社員に一酸化炭素中毒の痕跡が確認されたことから、原因物質として一酸化炭素が疑われたため、再現テストを行った結果、クッションタンク内からは30,000ppmの一酸化炭素が検出された。

 ● 連続的な蒸留工程であることを考慮すると、事故当時のタンク内には30,000ppm以上の一酸化炭素が滞留していたものと推定される。

 ● 計測された一酸化炭素濃度は、厚生労働省のガイドラインで示されている一酸化炭素の吸入時間と中毒症状の関係で13分間で死亡するとされる1.28%(12,800ppm)を超えており、当時のクッションタンク内は一酸化炭素中毒による死亡リスクがあったことが判明した。

2) 直接的経緯

 ● 水蒸気蒸留により焙煎コーヒー豆から放出された一酸化炭素がクッションタンク内に蓄積され、タンク内には高濃度の一酸化炭素が滞留していた。

 ● 亡くなった48歳の男性社員は、クッションタンク内で一酸化炭素中毒の症状を引き起こし、意識不明となった。男性社員がタンク内に入った経緯は特定できず、不明である。

 ● タンク内に入って意識不明となった48歳の男性社員を救出するため、30歳の男性社員がクッションタンク内に入り、一酸化炭素中毒によって意識不明となり、二次災害となってしまった。

 ● さらに、安全基準を上回る濃度の一酸化炭素が滞留していたクッションタンク内に倒れた社員を救出しようと、41歳の男性社員が入ったことによって一酸化炭素中毒を発症した。

3) 間接的経緯

 ● 製造中に一酸化炭素が発生することに加え、クッションタンクのふたの部分の見えやすい位置に一酸化炭素が滞留している注意喚起も表示していたものの、蒸留装置内に致死量の一酸化炭素が発生また滞留するという危険レベルの実態把握が十分にできておらず、一酸化炭素発生の危険レベルに合わせた教育も十分ではなかった。

 ● また、タンク内へ入る際の注意事項や二次災害防止の重要性は認識されていたが、緊急時の一酸化炭素滞留に対する注意事項は整備されていなかった。

■ 事故の発生した設備は発災後にただちに稼動を停止したが、再発防止対策の関係機関の確認が完了した後の20221114日(月)頃を予定しているという。

< 再発防止対策 >

■ 長谷川香料は、1111(金)、再発防止策について検討した結果をつぎのように発表した。

1)一酸化炭素の滞留に対する是正

 ● 製造中にクッションタンクのふたを開ける必要がないよう薬剤(塩)の投入工程を変更した。

 ● さらに、クッションタンクのふたは製造中には施錠し、単独での開錠を禁じることとした。

 ● 加えて、工場内の作業エリアには、送気や局所排気を行い、一酸化炭素の曝露が発生する箇所を無くす対策を講じた。

 ● 焙煎コーヒー豆から一酸化炭素の放出を防ぐ対策はできないが、蒸留装置内へ窒素を供給することによってクッションタンク内の一酸化炭素を500ppm以下にまで滞留の抑制ができた。

 ● これら蒸留装置内外の一酸化炭素の滞留に対する是正と併せて、一酸化炭素の濃度測定器を常設し、滞留の抑制状況を確認すること、呼吸用保護具を準備し、一酸化炭素の発生リスクがある工程には警報装置、監視カメラなどにより、危険を察知できる対策を講じることとした。

2)一酸化炭素に対する危険性や二次災害防止に関する対策

 ● 製造工程での一酸化炭素の危険レベルを評価した上で、今回の検証結果の開示や雇入れ時の教育・職場教育を見直し、改善した作業手順の周知により、危険レベルに応じた安全衛生教育を行うこととした。

 ● また、二次災害防止の観点から、一酸化炭素による事故時における適切な応急措置および退避措置の教育や訓練を実施し、教育内容の周知を徹底する。

 ● これらの注意喚起や教育用資料を整備し、安全教育を実行する。  

補 足

■「群馬県」は、日本列島の内陸東部に位置し、関東地方の北西部にあり、人口約191万人の県である。

「板倉町」(いたくらまち)は、群馬県邑楽郡(おうらぐん)にあり、県の南東部最東端に位置する 人口約13,700人の町で、関東大都市圏に入る。

■「長谷川香料株式会社」は、1903年の長谷川藤太郎商店創業に始まり、1961年に長谷川香料株式会社として設立された。 東京都中央区に本社を置く日本の香料メーカーで、国内2位のシェアを誇り、特に飲料用に圧倒的シェアを持っている。

 「板倉工場」は、1984年に食品部門の香料製造のために建設された。敷地面積:171,316㎡、従業員:231名の工場である。

■「香料の生産方法」は、原料、工程、素材、製品によって各種方法があり、概要を図に示す。


 素材は一般に天然香料と合成香料に分類され、天然香料は動植物から抽出、圧搾、蒸留などの物理的手段や酵素処理して得る。蒸留は「水蒸気蒸留」(Steam Distillation for Essential Oil Extraction)が一般的であり、採油する目的のもの(水に溶けやすいものが少ないもの)を水蒸気蒸留釜に詰め、水蒸気を吹き込み加熱し、熱水と精油成分が留出してくるので冷却して液体に戻し、精油を分離する。香料の水蒸気蒸留プロセスの概念図と水蒸気蒸留装置の例は図に示す。



 長谷川香料()によると、今回、事故のあった抽出第一工場の蒸留装置では、焙煎コーヒー豆を投入した抽出装置に水蒸気を送り、得られたコーヒー香気は熱交換器を通して冷却され、その留出液はクッションタンク(事故発生タンク)に貯められる。クッションタンクのふたを開けて薬剤(塩)を投入して攪拌し、溶解した留出液は次工程用のタンクに送られる。抽出装置では、蒸留終了毎に焙煎コーヒー豆の残滓を排出し、次の焙煎コーヒー豆を投入する。クッションタンクでは、送液終了後の空のタンクに、次の留出液を貯める準備をする。製造工程中にタンク内での作業はない。

 報道では、「3人は、コーヒー豆を蒸留させたベーパーを冷却して香り付きの液体にし、タンクに移す工程で作業していた」とあり、抽出装置の水蒸気蒸留に関わる作業をしていたものである。

■ 抽出法によるコーヒー豆から発生した一酸化炭素で中毒した事例がある。事例は、わかりやすく他社の人向けに作成された資料がある。


 一酸化炭素ではないが、このブログでは、硫化水素などの中毒や酸素欠乏症で起こった
タンク関連の人身災害について紹介しており、つぎのような事例がある。

 ●「石川県の製紙工場において溶剤タンクで死者3名」20186月)

 ●「大阪府のカーペット製造会社でタンク清掃時に転落、2名死亡」20192月)

 ●「北海道のでんぷん工場で男性が点検中にタンクへ転落か、死亡確認」 202010月)

 ●「日本製紙岩国工場においてタンク洗浄中に硫化水素中毒2名」 202112月)

所 感(今回)

■ 前回は、報道記事によって微妙に状況が異なるので、これまでの類似事例から事故状況を類推した。今回は長谷川香料の調査結果にもとづき、感想を述べてみる。

 ● 48歳の男性社員はクッションタンクに貯まった留出液を次の工程用のタンクに送液した後、空になったクッションタンクに次の留出液を貯める準備を行う工程の作業中、空のタンク内で意識を失った。・・・「タンク内にいた理由は分からないというが、タンク内に何らかの支障の出るものを見つけ、それを解消させようとタンク内に入ったのではないだろうか。日本人によくみられる善意の行動が裏目に出たと思われる」

 ● 30歳の男性社員は、48歳の男性社員を救出するためにクッションタンク内に入り、タンク内から大声で助けを求めた。・・・「これもすぐに救出しなくてはという善意の行動だったとみられる」

 ● この声を聞いて駆けつけた社員数名が、意識を失った48歳の男性社員をクッションタンク外に引き上げて運び出した。この間に、タンク内に救出に入っていた30歳の男性社員も意識を失った。・・・「ここで二次災害になってしまった。もし、タンクがもっと大きければ、複数の社員がタンク内へ入り、二次災害が拡大した恐れがあった」

 ● 救助に駆け付けた社員がクッションタンク内に空気を送り込み、酸素濃度が18%以上になったことを確認した後、41歳の男性社員がタンク内に入り、タンク内で意識失った30歳の男性社員を救出したのち、自力でタンク外に出たが、頭痛とめまいの症状を訴えた。・・・「空気を送り込んだ措置は間違いではなかったが、一酸化炭素中毒ではなく、酸素欠乏の対応だった。ここでも、はやく救出しなくてはという善意の行動が先に立っている」

■ 一酸化炭素は、無色・無臭で感知しにくい気体であり、空気比0.967と空気とほぼ同じ重さの強い毒性を有している。前回の類推では、「消防署が駆け付け、タンク内の空気をガス検知器で確認、タンク内から高濃度の一酸化炭素が検出されたので、消防署員は防毒マスクを装着して倒れたふたりを救出した」と思った。しかし、実際は事業所の社員が防毒マスクなしに救出している。直径約120cm×高さ約170cmの円筒タンク内で倒れたふたりを直径約45cmの開閉式のふたから救出するのはかなり難しい作業だったと思う。再現テストによって、クッションタンク内の一酸化炭素の濃度は30,000ppm3%)だったという。濃度3,200ppm0.32%)でも、510分で頭痛・めまい、30分で死に至るといわれており、非常に危険な救出行動だった。

■ この事業所の職場は“善意の行動”が目立っていると思う。“善意の行動”が備わっている人や職場は良いことである。しかし、たとえ“善意の行動”であっても職場で人身災害を起こさないという信念をマネージャーがもつことが肝要で、そのためには、①「ルールを正しく守る」、②「危険予知活動を活発に行う」、③「報告・連絡・相談(報連相)により情報を共有化する」の三つの事項を徹底することだと思う。

  (注;事故の未然防止のための三つの事項は何度も紹介したが、例えば、当ブログの「太陽石油の球形タンク工事中火災の原因」20132月)の所感を参照)


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

   Jomo-news.co.jp, 香料工場事故3人死傷 製造作業中、CO中毒か 群馬・板倉町,  September 16,  2022

    T-hasegawa.co.jp, 当社社員死亡事故について(長谷川香料株式会社),  September 16,  2022

    Mainichi.jp, 香料工場で男性作業員死亡 一酸化炭素中毒か 群馬・板倉,  September 15,  2022

    Jomo-news.co.jp, 会社が事故調査委 板倉の香料工場3人死傷事故,  September 17,  2022

    Sankei.com, 香料工場で1人死亡 群馬、一酸化炭素中毒か,  September 15,  2022

    T-hasegawa.co.jp,  当社社員死亡事故について(事故原因、再発防止対策及び稼働状況)(長谷川香料株式会社),  November  11,  2022


後 記: 今回の事故について発災事業所はウェブサイトにプレスリリースを投稿していますので、続報が出ることを期待しました。2か月後、プレスリリースに続報が発表されました。被災者が死亡し、状況を把握している人がいないため、調査は難航したでしょう。続報を期待していたと言いましたが、実は心の中では出ないのではないかと思っていたので、続報が出されたことにびっくりしました。日本人は熱しやすく、冷めやすいと言われ、時が経てばこのような事故情報は意図的に続報を出さないことがあります。(これは日本人に限ったことではないですが) この点、発災を出したとはいえ、長谷川香料(株)の情報公開の経営はりっぱだと思います。

2022年11月23日水曜日

米国テキサス州バンザント郡の貯蔵タンクが落雷で火災

 今回は、2022714日(木)、米国のテキサス州バンザント郡の郡道1106号線と郡道1107号線の交差点近くにあるタンク施設で落雷によって貯蔵タンクが火災になった事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、米国のテキサス州(Texas)バンザント郡(Van Zandt)の郡道1106号線と郡道1107号線の交差点近くにあるタンク施設である。

■ 事故があったのは、タンク施設内にある貯蔵タンクである。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2022714日(木)の朝、施設内のタンクに落雷があり、火災となった。タンクからは黒煙が立ち昇り、大きな炎が上がった。

■ 発災に伴い、各所から消防署が出動した。出動したのは、エッジウッド署(Edgewood)、フルートベイル署(Fruitvale)、南バンザント署(South Van Zandt)の各消防隊である。

■ 事故に伴う死傷者はいなかった。

被 害

■ タンク3基が火災で焼損した。タンク内に入っていたオイルが焼失した。 

■ 負傷者はいなかった。

< 事故の原因 >

■ 事故の原因は落雷とみられる。

< 対 応 >

■ 消防隊の消火活動によって、火災は鎮火した。


補 足

■「テキサス州」(Texas)は、米国の南部に位置し、人口約2,900万人の州である。

「バンザント郡」(Van Zandt)は、テキサス州の北東部に位置し、人口約52,500人の郡である。郡庁所在地はカントン市である。

「エッジウッド」(Edgewood)は、バンザント郡にある人口約1,600人の町である。「フルートベイル」(Fruitvale)は、バンザント郡にある人口約430人の町である。

■「発災タンク」の仕様や内液の情報は報じられていない。グーグルマップで調べると、郡道1106 号線と郡道1107号線の交差点近くにタンク施設がある。同じ大きさのタンクが3基あり、直径は約3.6mであり、高さを5mと仮定すると、容量は50KLクラスのタンクである。固定屋根式(コーンルーフ式)タンクであるが、テキサス州のほかのタンク施設の例からみて油井施設とみられ、内液は原油と水であろう。被災写真を見ると、北側または真ん中にあるタンクの屋根は噴き飛び、近くに落下している。

所 感

■ 貯蔵タンクが落雷によって火災になったものだが、油井施設のタンクと思われる。原油・天然ガスの採掘で近年多用されている水圧破砕法(フラクチャリング) の関連タンクで、内液は原油と水ではないだろうか。かなり激しい落雷だったようで、タンクの屋根が噴き飛んでいる。

■ 米国テキサス州のボランティア型の消防署による消火活動だったようで、消火活動の写真もみられるが、水ノズルによる冷却を主とした消火活動である。泡消火を行ったかどうかわからないが、おそらく燃え尽きる消火戦略がとられたのではないだろうか。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Wkrg.com, VIDEO: Oil storage tank fire in Texas started by lightning strike,  July  15,  2022


後 記: 20223月、2年ぶりに油井施設のタンク火災事故(「米国テキサス州バールソン郡の油井用タンクが火災」)を紹介しました。 今回の事故も「テキサス」を検索語にして出てきたローカルのタンク事故情報です。新型コロナウイルス感染拡大によってこの種のローカルのタンク事故は報道されなくなっていましたが、3月に続いて7月にもタンク事故が報道されるところをみると、米国のメディアが活動し始めたかな? しかし、私の方の感度が鈍って事故情報を見逃し、11月になって初めて情報を知りました。ところが、いくつかローカルメディアが伝えていましたが、内容は同じで深掘りできるものではなく、まだまだという感じですね。

2022年11月19日土曜日

ノルドストリーム海底パイプラインの漏れは強力な爆発によるパイプ破断

 今回は、2022926日(月)にデンマーク沖のボルンホルム島周辺で起こったガス漏れについて、海底パイプラインのノルドストリームで強力な爆発によって生じたことが確認され、水中ドローンのカメラによってパイプラインの損傷状況が判明した情報を紹介します。事故直後の情報は本ブログの「ロシア‐ドイツ間の天然ガス用海底パイプラインの漏れは止まった?を参照。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、欧州のバルト海(Baltic Sea)ボルンホルム島(Bornholm)のデンマーク(Denmark) とスウェーデン(Sweden)沖の海底である。

■ 事故があったのは、海底パイプラインのノルドストリーム(Nord Stream)の敷設場所付近である。ノルドストリームはロシア(Russia)のガスプロム社(Gazprom)が所有し、ロシア・サンクトペテルブルク近くの沿岸からドイツ北東部まで約1,200kmにわたる天然ガスパイプラインである。


<事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2022926日(月)の夜、ノルドストリーム2パイプラインのオペレーターは、105バールからわずか7バールまで急激に圧力が低下したことを確認した。その後、バルト海の海面にガスで泡立っていたのが確認された。

■ 927日(火)、デンマーク国防司令部は、バルト海にあるボルンホルム島沖の3か所でガス漏れが確認されたことを明らかにした。ガス漏れ源は天然ガスパイプラインのノルドストリームだとみられる。ガス漏れは、2本あるパイプラインのうち、ノルドストリーム1の2か所、ノルドストリーム2の1か所で起き、ガス漏れが原因とみられる泡(最大のものは直径1km)が海面に発生している。海面のガス漏れによる泡の状況は映像が公開され、ユーチューブに投稿されている。YouTubeFootage shows Russia's Nord Stream gas pipelines leaking under Baltic Sea2022/09/28)を参照)

■ スウェーデンとデンマークの地震学者はガス漏れの近くで2つの爆発の可能性を記録したが、爆発は海底ではなく、水中で発生したとみられるという。英国の防衛関係筋は、爆発はおそらく計画的で、水中地雷やその他の爆発物を使用して遠くから爆発させたとみられると語っている。 

■ 101日(土)、デンマークのエネルギー庁は、バルト海で破裂した2本の天然ガスパイプラインのうちの1本の漏出が止まったようにみえると述べた。ノルドストリーム2を運営している会社から、ロシアからドイツまで走るパイプラインの圧力が安定したようにみえると知らされたという。これは、ノルドストリーム2のパイプラインでガスの漏れが止まったことを示しているとみている。

■ 102日(日)、デンマークのエネルギー庁は、ノルドストリーム1とノルドストリーム2のパイプラインからの漏れが止まったと語った。


被 害

■ 海底パイプラインのノルドストリーム1とノルドストリーム2が、ボルンホルム島沖の海底で破損した。

■ 海底パイプライン内の天然ガス(主にメタンガス)8億㎥が海中へ漏出して、海面から大気へ放散し、環境汚染を引き起こした。  

< 事故の原因 >

■ パイプラインが強力な爆発によって破損した。 

デンマークとスウェーデンは水中検査を行い、パイプラインの破損状況を確認した。爆発物による破壊工作の疑いがあるというが、両国ともそれ以上は語っていない。

< 対 応 >

■ 海底パイプラインのノルドストリーム1とノルドストリーム2が破壊工作を受けた疑いがあることを受け、欧州各国は、928日(水)、石油・天然ガス関連施設周辺のセキュリティを強化すると発表した。一方、EU(欧州連合) に加盟していないノルウェーは、石油と天然ガスの施設を保護するために軍隊を配備すると述べた。石油が豊富な国で、欧州最大の天然ガス供給国でもあるノルウェーは、陸上・海上設備のセキュリティを強化するとエネルギー相は述べた。

■ 101日(土)、ロシアの国営ガス会社のガスプロム社は、「8億㎥のガス漏れが起きていると思われる。漏れたパイプラインには、8億㎥のガスが入っていると推定され、これはデンマークの3か月間の消費量に相当する」と明らかにした。

■ 1015日(土)、ドイツの放送局アード(Ard)によると、ドイツ政府の情報源を引用して、ノルドストリーム・パイプラインに生じた損傷は爆発によってのみ説明されるという。これはドイツ政府の調査団が水中ドローンによって撮影された写真を調べた後、調査官が到達した結論である。水中ドローンで撮影した写真には、長さ8mの切り傷が記録されていたという

■ 1018日(火)、デンマークの警察は、バルト海のデンマーク沖にある2本のノルドストリーム・ガスパイプラインの損傷に関する予備調査の結果、ガス漏れは強力な爆発によって引き起こされたことが判明したと発表した。警察によると、調査では、パイプラインに広範囲の損傷があることが確認されたという。

 デンマークの国防相は、「これは極めて由々しき問題であり、決して偶然の一致ではない。計画的というだけでなく、非常によく計画されている」とインタビューで述べた。

■ 1018日(火)、ノルウェーのロボット企業であるブルーアイ・ロボティクス社(Blueye Robotic)は、スウェーデンの新聞社Expressenと協力して、水中ドロ-ンのカメラを使って水深80mのノルドストリーム・パイプラインの損傷部を撮影した映像を発表した。この映像によると、ノルドストリーム1のパイプが破断している様子が見てとれる。ブルーアイ・ロボティクス社によると、損傷を受けたと思われるパイプラインの大部分が海底に埋もれているか、完全に失われているという。

 撮影は午前11時頃から始められたが、最初、パイプラインの敷設ルートを示す位置にはパイプは映っていなかった。しかし、海底には強い変化を示していた。突然、ノルドストリーム1の厚さ数十ミリの鋼管のねじれた残骸が画面に表示された。パイプライン外側の保護コンクリーから曲がった鉄筋とともに、ぽっかりと開いたパイプの切り口が見えた。パイプの一部は真っ直ぐで鋭いエッジがあり、他の部分ではパイプが大きく変形していた。視界は悪いが、カメラが近づくと、パイプ内側に赤い部分があることがわかる。カメラをパイプ内に入れると、底には泥の薄い層があった。

 パイプ周辺の海底への影響が非常に大きかったことがわかる。パイプが敷設されていた海底には大きな溝があり、パイプの部品のように見える破片を見ることができた。パイプラインの爆発例では、爆発の圧力によってパイプに沿って長い亀裂が生じる場合があるという。カメラで周辺を捜索したが、パイプ断面の反対側の端を見つけることはできなかった。少なくとも50mが失われているか、海底の下に埋まっていると思われる。

 この撮影時、上空で航空機が近づいてくるのが聞こえ、スウェーデンの沿岸警備隊が船の周りを数周した。船の西側にはデンマークの軍艦が残っていた。厳重に監視され、セキュリティ・ポリシーの重要な場所にいることを感じたという。

■ 1025日(火)、ブルーアイ・ロボティクス社で水中ドローンの担当者は、インタビューでつぎのように語っている。

 ● パイプが破裂すると、3,200psi218bar)の高圧のガスが海底を乱し、損傷した一部を埋めているように見えた。

 ● 西に向かうパイプラインの一部がまだ海底に埋もれており、東に向かうパイプラインの端が海底から持ち上がっているのを見たと思う。

 ● このエリアの残骸は少ないようにみえた。おそらく、ガスの噴流で押し流されたか、すでに捜査しているスウェーデンの調査団によって撤去されたのではないか。




■ スウェーデン治安当局は、103日(月)に捜査のための専門船を現地に派遣しており、106日(木)に水中調査を終えた後、現場で証拠物を押収したと述べた。しかし、スウェーデン当局の調査で現場エリアをどのように変えたのかは明らかではない。スウェーデンは調査によって破壊工作の疑いが裏付けられたと発表した。

■ デンマークは、専門船によって実施するパイプラインの捜査について1021日(金)までに完了予定で、結果は11月初めまでに判明する予定だという。

■ デンマークは、スウェーデンやドイツなどとの国際協力の枠組みについてはいくつかの要因に左右されるため、何かを言うのは時期尚早だと述べている。爆発物が故意の妨害行為に使用されたことを認める以外に、捜査官は調査結果の詳細をほとんど明らかにしていない。デンマーク、スウェーデン、ドイツはパイプラインの破壊箇所を調査しているが、誰がどのような理由で損傷を引き起こしたのかについては固く口を閉ざしている。

■ 112日(水)、スイスに拠点をおき、ノルドストリーム1を実質的に運営していたノルドストリームAG社(Nord Stream AG)は、スウェーデン沖のパイプライン損傷の場所で調査していたが、初期データ収集を完了したと発表した。予備的な結果によると、海底に深さ35mの人工的なクレーターを発見したという。クレーターは互いに約248m離れていた。クレーター間のパイプの部分が破壊されており、少なくとも半径250mのエリアにパイプの破片が拡散していた。

■ ユーチューブには、ブルーアイ・ロボティクス社の撮影したパイプラインの破損状況の一部映像がメディから投稿されている。代表例はつぎのとおりである。

YouTube,Nord Stream pipeline damage captured in underwater footage2022/10/18)を参照)

 詳細な映像は、スウェーデンの新聞社Expressenのインターネット誌Första bilderna från sprängda gasröret på Östersjöns bottenを参照。

■ ユーチューブには、2010年に実施されたフルスケールのガス配管に関する爆発試験の映像が投稿されている。ブルーアイ・ロボティクス社が指摘している「パイプラインの爆発例では、爆発の圧力によってパイプに沿って長い亀裂が生じる場合があるという」のが理解できる。YouTube,FORCE Technology Full scale burst testing of gas pipes2010/02/22)を参照)

補 足

■「バルト海」(Baltic Sea)は、欧州の北に位置する地中海で、ヨーロッパ大陸とスカンディナビア半島に囲まれた海域である。ユーラシア大陸に囲まれた海域ともいう。 西岸にスウェーデン、東岸は北から順にフィンランド、ロシア、エストニア、ラトビア、リトアニア、南岸は東から西にポーランド、ドイツ、デンマークが位置する。

「ボルンホルム島」(Bornholm)は、バルト海上にあるデンマーク領で、人口約4万人の島である。スウェーデン、ドイツ、ポーランドに挟まれており、行政面ではデンマーク首都地域のボルンホルム基礎自治体を成している。ボーンホルム島と表記されることもある。

■ 「ノルドストリーム」 (Nord Stream)は、ロシアの国営企業ガスプロム社(Gazprom)が所有し、ロシア・サンクトペテルブルク近くの沿岸からドイツ北東部まで約1,200kmにわたる天然ガスパイプラインである。パイプラインは長さ12mのパイプ約20万本で構成され、直径48インチ径で厚さ約40mmの鋼製ラインパイプで、厚さ110mmのコンクリートの被覆が施されている。 

 名称のノルドには「北」、ストリームには「流れ」という意味がある。ノルドストリームは大きく2本あり、それぞれ「ノルドストリーム1」「ノルドストリーム2」と称し、2020年時点の概要は表のとおりである。

 ノルドストリーム1は2012108日に開通した。全長1,222kmのノルドストリーム1は、ランゲルド・パイプラインを上回る世界最長の海底パイプラインとなった。2018年から2021年にかけてノルドストリーム2の敷設が行われ、20219月に完成した。

 ノルドストリーム・プロジェクトは、パイプラインが欧州におけるロシアの影響力を強めるという懸念や、中・東欧諸国の既存パイプラインの使用料が連鎖的に削減されるという理由から、米国、中・東欧諸国から反対を受けていた。ロシアがドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国を承認すると表明したことを受けて、この決定が領土保全と国家主権の尊重という国際法の原則に反する行為であるとして、ドイツの首相は2022222日にノルドストリーム2の認証作業を停止した。

 2022224日(木)のロシアによるウクライナ侵攻以降の影響は、つぎのとおりである。

 ●「ノルドストリーム2」はまだ一度も稼働したことはない。ロシアによるウクライナ侵攻の直前にドイツにより運用開始が延期された。しかし、20229月の時点で、パイプライン内に3億㎥の天然ガスが入っていたという。

 ● 稼動していた「ノルドストリーム1」は、20226月に輸送量が 75%削減され、1日あたり 17,000万㎥が約 4,000万㎥になった。

 ● 20227月、 「ノルドストリーム1」は定期的な点検作業を理由に10日間停止された。再開したとき、流量は 1日あたり2,000万㎥と半分になった。

 ● 20228月下旬、「ノルドストリーム1」は機器の不具合を理由に完全に閉鎖された。それ以来、パイプラインは稼動していない。


所 感

■ バルト海のガス漏れの事象は、ノルドストリーム・パイプラインから発生したことがはっきりした。さらに、その原因は強力な爆発によってパイプが破断したことも分かった。デンマークやスウェーデンは10月初旬から水中カメラなどの調査(捜査)によってパイプラインの損傷状況を把握しているとみられる。

■ パイプラインへの攻撃という破壊工作の疑いが裏付けられたとしているが、誰が行ったかという決定的な証拠が確認されるまで、詳細は発表されないとみられる。

■ ノルウェーのロボット企業であるブルーアイ・ロボティクス社とスウェーデンの新聞社Expressenが協力して、水中ドロ-ンのカメラを使ってパイプラインの損傷部を撮影した映像が発表された。この映像を見ると、厚さ40mmのパイプラインが破断されるほどの爆発の威力を知ることができる。

■ パイプラインと周辺の損傷状況は、ブルーアイ・ロボティクス社の映像のほかに、いくつかの取材による情報が出ている。これらの損傷情報がどこの位置を指すのかはっきり示されていないが、仮にブルーアイ・ロボティクス社の撮ったノルドストリーム1のパイプライン破断位置の周辺とみた場合のパイプラインの状況を図のように推測した。この状況について考えてみると、つぎのとおりである。

 ● パイプが破断して大量の天然ガスが放出されると、反動とパイプラインの拘束がなくなり、東(ロシア側)に移動したと思われる。

 ● クレーターは爆弾跡というより、天然ガスの放出によってできたのではないだろうか。

 ● クレーター間の距離(248m)はパイプラインの移動距離ではないだろうか。

 ● クレーター間に散乱していた破片はスウェーデンの調査(捜査)で回収されたとみられる。

 ● パイプラインにできた8mの切り傷はパイプラインの破断時または移動時に擦過したものではないだろうか。あるいは、破断部下流側にあれば、爆発の圧力によってパイプに沿って生じた長い亀裂かも知れない。

 ● パイプ内側にあった赤い部分は何か分からないが、爆弾の破裂時についたものではないだろうか。


備 考

 本情報はつぎの情報に基づいてまとめたものである。

   Abcnews.go.com,  Nord Stream pipeline leaks caused by 'powerful explosions,' Danish police say,  October  18,  2022

     Newcivilengineer.com,  Nord Stream explosions caused 50m of damage to ruptured pipeline,  October  20,  2022

     Aljazeera.com,  Denmark confirms ‘extensive damage’ in Nord Stream pipelines,  October  18,  2022

     Expressen.se, Första bilderna från sprängda gasröret på Östersjöns botten,  October  18,  2022

     Upstreamonline.com, Investigations reveal severe explosive damage to Nord Stream gas pipelines,  October  18,  2022

     Theguardian.com,  Nord Stream 1: first underwater images reveal devastating damage,  October  18,  2022

     Cbc.ca, 50-metre section of Nord Stream gas pipeline missing, drone footage reveals,  October  18,  2022

     Nytimes.com , Three Inquiries, but No Answers to Who Blew Holes in Nord Stream Pipelines,  October  25,  2022

     Bbc.com,  Nord Stream blast 'blew away 50 metres of pipe’,  October  18,  2022

     Agenzianova.com,  German media: the damage to the Nord Stream can only be explained by an explosion,  October  15,  2022

     Gcaptain.com,  Journalists Film Nord Stream Blast Damage,  October  18,  2022

     Offshore-energy.biz,  Nord Stream operator finds ‘technogenic craters’ at damaged pipeline,  November  07,  2022

     Safety4sea.com, Watch: Underwater drone reveals damage of Nord Stream pipeline,  October  20,  2022

     English.alarabiya.net,  Fifty meters of Nord Stream 1 pipeline destroyed or buried under seafloor,  October  18,  2022


後 記: 今回の報道でパイプライン破損状況の映像が出たときには、デンマークやスウェーデンの調査団から流れてきたものと思いました。しかし、それにしては小さなボートで少人数のクルーです。調べると、スウェーデンの新聞社が計画したものらしいことが分かりました。政府や警察が情報公開すれば、国際的(外交的)にいろいろ問題がありそうですので、裏を読んでしまいます。映像が出てきたので、もう少し待てばいろいろな情報が出てくるのではないかと思っていましたが、かん口令が出ているようで1か月経ってもほとんど出てきませんでした。というわけで、ガス漏れ事故の続報としてパイプライン破損状況の情報だけに焦点を絞ってまとめてみました。

2022年11月10日木曜日

タンク洗浄と環境汚染制御の作業を統合して大幅改善

 今回は、2022830日付けのTank Storage Magazineに載った“Integrated tank cleaning and emission control”(統合されたタンク洗浄と環境汚染の制御)について紹介します。

< はじめに >

■ 米国デバスク社(USA DeBusk)のクリスティン・ジョンソン氏(Cristin Johnson)が、タンク洗浄の関する一連の作業を統合して一体化した計画と実施について説明していく。

■ タンク洗浄方法は、過去20年以上にわたって、スラッジなどの除去物質の処理法、入槽しない洗浄法(非立入洗浄)、スラッジなどの対象物質の特別な除去方法、環境汚染ベーパーの制御法や排除方法について発展を遂げてきた。人体への曝露を回避する入槽しない(非立入)タンク洗浄方法が一連の技術開発の原動力となっている。世界の企業がタンク洗浄の規制要件に準拠するだけでなく、二酸化炭素排出量を最小限に抑えることにも目を向けるようになっているため、地上式貯蔵タンクの洗浄作業における環境汚染ベーパーの排出制御方法は一段と重要な役割を果たすようになった。

■ タンクからスラッジなどの除去物質を取り出して処理する担当者や資機材は、環境汚染ベーパーを回収して処理する担当者と緊密に連携して作業を行わなければならない。これらの作業を統合して一体化しようとすることは有益であるばかりでなく、現在では不可欠なものといえる。

■ タンク洗浄と環境汚染ベーパー制御のふたつの作業の目的は密接に関係している。例えば、スラッジの除去速度は、タンク洗浄と環境汚染ベーパーの制御に関する主要な性能指標のひとつである。スラッジなどの対象物質を速く除去することで、環境汚染ベーパーの排出源を少なくし、タンクのベーパー空間をパージして換気する回数を減らすことができる。

■ 次節以降に、現在の最適と思われる基準に従ったタンク洗浄、ベーパーの排出、環境汚染ベーパーの制御を行うために必要な資機材や機能の概要について説明する。また、これらの作業を統合して一体化する改善計画についても説明する。

タンク洗浄の能力 

■ 専門知識・・・ タンク洗浄作業の請負者にとって、それまで培った経験や融通性があることは貴重な財産である。タンク洗浄作業の請負者は、原油、精製製品、廃水、酸性水、アスファルト、パラフィンなどを貯蔵するタンクについて、あらゆる種類のタンクの設計、タンクの用途、洗浄の対象物質をすべて処理する必要がある。タンク内の洗浄対象物質をスラリー化して除去するために、水洗浄法だけでなく、循環処理や化学処理の方法を活用する必要がある。

■ タンクのマンホールの締結ボルトを外して内部確認をしたとき、構造物の損傷や予想に反してスラッジの状況が違っていたり、これまで知られていなかった課題が見つかることは少なくない。このような未知の課題に対処するための判断力と対応できる資機材を備えておけば、安全性を高め、時間とコストを大幅に節約することにつながる。

■ 自動化・・・スラッジなどの対象物質を自動化した装置の洗浄方法によって除去すれば、タンク内の入槽作業時間を最小限に抑え、生産性を向上させ、タンク開放工程の時間を短縮することができる。つぎのような事項はその例である。

 ● 本質安全防爆仕様のカメラとライトを備えた遠隔制御のマンウェイ・キャノン(洗浄ノズル)は、タンク内の状況、スラッジなどの対象物質の状態、内部の雰囲気を可視化できる。

 ● 本質安全防爆型の遠隔操作車両(Remotely operated vehiclesROV)は、生命や健康に直ちに危険を及ぼす雰囲気や危険なタンク環境に対応できる。

 ● ハイ・ボリューム/ハイ・レベル・タンク・スイープ(High-volume, High-level Tank Sweep)方式は、高液位の状態で連続的に大量のスラリーを掃引(スイープ)し、人が入槽することなく、マンウェイの高さまでの対象物質を除去することができる。

 ● ハイ・ボリューム/ロー・レベル・タンク・スイープ(High-volume, Low-level Tank Sweep)方式は、低液位の状態で連続的に大量のスラリーを掃引し、人が入槽することなく、床から6インチ(15cm)以下の対象物質を除去することができる。

 ● ミニランス(Mini Lance)などの稼動時にも洗浄できる装置は、タンクを開放することなく対象物質をスラリー化し、除去することができる。                              

 ● 洗浄と脱ガスを同時に行うシステム。

■ 新しいロボットを組み合わせた新しいコンビネーション・システムとして、遠隔操作車両(ROV)、複数のロボット・マンウェイキャノンの洗浄ノズル、水中ポンプシステムを共通のプラットフォームで使用するものがある。1台のコントローラーで複数の機器を操作できるため、不測の事態に備えた融通性が高く、現場機器の物理的な設置面積を小さくすることができる。また、電動過油圧モジュールで駆動することにより、定格エンジンの問題を無くすことができる。

■ スラッジなどの対象物質の処理・・・スラッジなどの対象物質の除去と同様に、貴重な炭化水素を回収し、廃棄物を最小限に抑え、環境汚染になるベーパー排出を避けるために、現場でのスラッジなどの対象物質の処理には汎用性が重要である。このオプションとして、脱水・沈殿物の処理を行う二相遠心分離機や三相遠心分離機によるプロセス、プレート&フレーム・ベルト・フィルター・プレスがある。

■ 処理する技術は、廃棄物をタンク外に排出することを最小限に抑え、プラントの目的を達成する能力に基づいて選択される。このプロセスで発生するベーパーは、処理中に捕捉し、排気処理設備にかけるべきである。

環境汚染ベーパーの制御能力 

■ 安全性とコンプライアンス遵守を最適に実現するためには、初期の計画段階から、タンク洗浄と脱ガスプロジェクトに適切な環境汚染制御を組み入れるべきである。計画には、処理能力の調査やプラント関係者との調整を含むべきである。

■ 汎用性・・・タンク洗浄と同様に、あらゆる技術を活用して、可燃性ガスや有害ガスを低減・回収し、揮発性有機化合物が大気中へ放出するのを排除・削減しなければならない。これらのプロセスには、熱酸化や燃焼、ベーパーの中和/回収、炭素/化学吸着が含まれる。

■ 熱酸化・燃焼・・・最新の移動式熱酸化ユニットは、99.98%以上の分解効率や除去効率を達成する認証を受けている。オプションには、直接燃焼式と間接燃焼式のシステムがあり、熱量範囲は1.545 MMBTU/時(1,58147,430 MJ/時=37511,340 kcal/時)で、処理流量は 5006,000立方フィート/分(14170 /分)である。これらのシステムの規模の選択によって、タンクの脱ガス段階の時間を短くすることができる。

■ 移動式スクラバー(洗浄塔)・・・スクラバーシステムは、有害な大気汚染物質、揮発性有機化合物、汚染の原因になる臭気を安全かつ効率的に捕捉し、中和することができる。これらのシステムには、化学薬品、乾燥媒体顆粒、または活性炭が使用される。媒体の選択は、対象となる汚染物質に応じて行われ、除去効率;DRE<99.9%を達成するために組み合わせることもある。

■ フレアの交換システム・・・必要に応じて、フレア交換システムを使用して、定期保全時にプラントのフレア容量に合わせたり一時的に増強させる。このシステムは1つの設定で複数の装置やプロセスを処理することができ、環境に配慮しながら、工程に重要な中断時間を予定よりも早く対応することができる。

統合した一体化の利点 

■ タンク洗浄とベーパー排出の実施計画を成功させるには、計画の最初の段階から環境汚染のリスクや低減策を考慮しなければならない。実行策には、各作業に従事する作業者や資機材、請負者とプラント関係者間の緊密な協力が必要である。

■ タンク洗浄と環境汚染ベーパー排出制御のふたつの作業を実施するために、それぞれ別な請負者を採用することはよくある。しかし、作業会社が増えれば増えるほど、作業の遅れや効率の悪さが発生し、安全基準を統一することが難しくなる。また、各作業会社がそれぞれの責任に固執していけば、プロジェクト全体の最適な目標を見失いやすくなる。

■ そのため、プラントの事業者は、プロジェクトの全工程を計画・実行できる一社を選ぶようになってきている。請負会社がすべての要件を満たすことができれば、一社に選定する改善策には大きな長所がある。

■ 安全性・・・作業の請負会社は、発火性製品の入ったタンク、生命と健康への即時危険な雰囲気、構造物の損傷などの危険性のある環境において、安全に作業を遂行するための操業管理の専門的知識、訓練、テクノロジーを有していなければならない。

■ その他の安全に関する必要事項には、つぎのような項目を含んでいる。

 ● 顧客の環境・衛生・安全管理部門、メンテナンス部門、検査部門との調整

 ● 自動化や遠隔操作化の機器

 ● タンク入槽に関する米国石油協会(API)の審査適合

 ● タンク入槽の監督者向け危険性管理の訓練

 ● 狭い空間への立入りを最小限に抑えるよう計画された作業内容

 ● プロジェクト前に危険性の特定と緩和計画について、タンク所有者のチェックを受けるために提出

 ● 流出防止のためのプロジェクト・エンジニアリング

 ● 作業技能者を支援するための指導プログラムによる継続的なトレーニング

■ 効率性・・・多くの作業を単一の請負会社に集約することで、プラントの立場を優位に保つことができる。調達コストの削減、開放期間の短縮、時間と費用の総合的な節約が見込めるようになる。プラント事業所の担当者にとっても、窓口を一本化することで、認識の共有化と意思疎通のレベルが上がる。

■ 作業品質・・・品質に関する保有基準のレベルが高ければ、プロジェクト全体の実行策の改善が期待できる。定期的な状態把握や追加請求のような日常の業務は単一の請負会社から発信されるので、プラント事業所の担当者には分かりやすいものとなる。

■ このように統合して一体化した作業の利点は、タンク洗浄や環境汚染ベーパーの制御に限定されるのではなく、水の処理、バキューム処理、プラント内の移送、その他の関連する作業も含まれていることが重要となる。

■ 産業界は環境負荷の低減と全体的な費用対効果の向上を目指しているため、統合して一体化したタンク洗浄と環境汚染に対するベーパー制御は総合的に高い価値を供することになるだろう。

補 足

■「USAデバスク社」(USA DeBusk)は、2012年に設立された石油のダウンストリームにおける産業用クリーニング事業の会社である。タンク洗浄だけでなく、化学洗浄、反応器の洗浄、環境汚染ベーパーの排出制御、ピグ、デコーキング、ろ過などを手がけている。(同社のウェブサイトを参照。https://usadebusk.com/tank-cleaning/

■ このほか、タンク工事の一体化や入槽しないタンク洗浄工事について、各社からユーチューブに投稿されている。主なものは、つぎのとおりである。

 ●Mourik non-entry tank cleaning cannon2014/06/14

 ●BLABO® system - no-man entry crude oil tank cleaning2010/07/06

 ●Non Entry Systems Ltd - Tank Sweep2018/01/31

 ●Sludge cleaning method of crude oil tank2014/11/24

 ●Crude Oil Tank Cleaning Technology2015/05/13

 上記の最初の2つは同じような内容である。英国のMouric社は、1958 年以来、貯蔵タンクの洗浄を専門にし、タンク内に入槽しないで行う工法を採用しているが、デンマークのOreco社のBLABO システム(特許取得)を採用しているためである。

 国内でBLABOシステムを最初に導入した例は、「新タンククリーニングシステム(BLABOシステム)の概要と適用例」JXエンジニアリング、2017年第47回石油・石油化学討論会)が発表されている。 

■ 旧タイホー工業が1979年に開発した「COW工法」(Crude Oil Washing;原油共洗い洗浄法)は大型原油タンクに堆積した原油スラッジを入槽作業なしに安全に排出する工法で、国内外で使用されている。 「COW工法」はタンク浮屋根上に設置した洗浄ノズルから原油を噴射し、スラッジを破砕・溶解させて回収する工法で、原油で原油を洗う事から共洗い洗浄とも呼ばれている。原油を抜かずに原油中で洗浄する場合を「油中洗浄」、原油を抜き出した後に洗浄する場合を「気中洗浄」と呼ぶが、通常は気中洗浄で行われる。

COW工法」では、堆積したスラッジの9799%回収する事ができるといわれている。「COW工法」を行った後、通常、さらに「温水洗浄」を行うのが一般的である。「温水洗浄」は、浮屋根上に設置した洗浄ノズルから、5060℃の温水を噴射してタンク内に付着した油分を洗い飛ばし、温水の温度で固形油を溶解して油分を回収する。 「COW工法」と「温水洗浄」の例を図に示す。


■ タンク開放に関わる工事中の事故で当ブログに紹介した事例は、つぎのとおりである。(年月は発表時)

 ●「日本におけるタンク内部清掃作業に係る火災事故」20174月)

 ●「エクソンモービル名古屋油槽所の工事中タンクの火災事故」 20164月)

 ●「太陽石油の原油タンク清掃工事中の火災事故」 20173月)

 ●「JXエネルギー根岸製油所で浮き屋根式タンクから出火」20167月)

 ●「東燃ゼネラル和歌山工場の清掃中原油タンクの火災原因」20176月)

所 感

■ 日本は約43年前の1979年にCOW工法というタンク洗浄方法が開発され、使用されている。欧米では、この20年、タンク内に人が入槽しないタンク洗浄方法が一連の技術開発の原動力となっているという。日本と欧米の違いは洗浄ノズルの噴射能力であろう。写真は米国の洗浄ノズル・システムの噴射テストの風景である。これを見ていると、大容量泡放射砲システムを想起させる。このような噴射能力の高い洗浄ノズルであれば、タンク洗浄の工程が短くなるだろう。そのためには、ポンプなどの一連の付帯機器や制御装置が必要になろう。タンク開放工程が逼迫(ひっぱく)していないなどの理由で、技術開発をしないというのはありえないように思う。

 洗浄ノズルの噴射テストの例は、YouTubePower Tank Cleaning is The Solution With Superior Non-Man Entry Tank Sweeps From PRO-LINE HYDRALINK(強力なタンク洗浄はPRO-LINE HYDRALINK社から提案する入槽しないタンクスイープ工法によって解決です)(2020/03/03) を参照。 

■ タンク洗浄に関わる各作業(工事)工程は長い。作業会社が増えれば増えるほど作業の遅れや効率の悪さが発生し、各作業会社がそれぞれの責任に固執していけば、プロジェクト全体の最適な目標を見失うと指摘する。各作業会社を元請け会社が一括して請負う仕組みではなく、請負会社がすべての要件を満たせば、一社に選定する改善策に大きな長所が生れる。このため、欧米のプラントの事業者は、プロジェクトの全工程を計画・実行できる一社を選ぶようになってきているという。

 このようにして、タンク洗浄と環境汚染の制御に関する設備や機器をパッケージ化して、設置や移動の短縮、遠隔操作化、要員不足対策など図っている。これも、設置当初はバラバラの機器の寄せ集めだった大容量泡放射砲システムが次第にパッケージ化されていくのと似ている。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Tankstoragemag.com,  Integrated tank cleaning and emission control (統合されたタンク洗浄と環境汚染の制御), August  30,  2022


後 記: 標題のひとつがタンク洗浄ということで、そう難しくはないだろうと考えていました。が、調べ始めると、日本ではなじみのない機器名などが出てきて、どんなものかを調べるのに時間がかかりました。しかし、検索エンジンのおかげで読みこなすことができました。画像検索ができるのは、おおいに役立っています。このブログを始めた10年前に比べれば、圧倒的な情報量がインターネットに登録されているのを実感します。逆にいえば、多くの情報から関係ありそうなものをしらみつぶしに調べ、そこから選択するのがコツになりますね。 (ところで、いまごろ虱(シラミ)はいないので、この言葉も風化していますが)