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2020年11月28日土曜日

米国テキサス州でブタジエン装置が爆発・火災、球形タンクに迫る(爆発原因)

  今回は、 1年前の20191127日(水)、米国テキサス州ジェファーソン郡ポート・ネチズ にあるTPCグループのブタジエン製造装置で起こった爆発・火災事故について、20201029日(金)、米国化学物質安全性・危険性調査委員会(CBS)による原因調査の中間報告が公表されたので、その内容を紹介します。

< 施設の概要 >

■ 事故があったのは、米国テキサス州(Texas)ジェファーソン郡(Jefferson County)ポート・ネチズ Port Neches)にある石油化学品メーカーのTPCグループの工場である。

■ 発災があったのは、住宅街の近くにあるポート・ネチズ工場南ユニットで合成ゴムやプラスチックなどの原料となるブタジエンを製造する装置である。


< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 20191127日(水)午前1時頃、TPCグループのポート・ネチズ工場南ユニットで爆発が起き、工場が大きな炎に包まれた。

■ 事故に伴い、 TPCグループの従業員2名とセキュリティ関係の請負会社1名の計3名が負傷した。当時、工場では約30名が勤務していた。

■ 工場に近い家の住民は「寝ていたら割れたガラスが降ってきた。屋根の一部が落下し、ドアが全部開いていた」と爆発の衝撃を語った。別な住民は「家全体が揺れたように感じ、地震だと思いました」と語った。また、別な住民は「家が揺れたので、家の外に異常があると思って出たら、雲の下がオレンジ色に輝いているのを見ました」と語っている。爆発の爆風によって工場周辺では、少なくとも住民5人が負傷した。

■ 発災に伴い、消防隊が出動し、消火活動に当たった。

■ 1127日(水)午前10時、TPCグループは、消防などの緊急事態対応者と住民の安全を重視するとともに、環境への影響を最小限に抑えることに注力していると同社のウェブサイトに載せた。

27日(水)の朝の火災状況の動画がユーチューブに投稿されている。YouTube RAW VIDEO: Aerial video shows TPC Group plant in Port Neches burning hours after explosion2019/11/27)を参照)

■ TPCグループによると、事故発生時に電源が喪失し、どの装置でどのくらいの量があるのか把握できなくなったという。

■ 燃えている物質はブタジエンだった。ブタジエンは、分子式 C4H6で、ガソリンのような臭いのある無色の気体である。ブタジエンは石油から作られる炭化水素で、合成ゴムの製造などに使用される。地元ではブタジエンによる健康への影響が心配されている。曝露量が少ない場合、目、のど、鼻、肺に刺激を与えることがあり、曝露量が多い場合、視力障害、めまい、全身疲労、血圧低下、頭痛、吐き気などの症状が出て中枢神経系にダメージを与えたりする。

■ ジェファーソン郡は半径6.4km以内の住民約6万人に避難勧告を出した。テキサス州環境当局は、煙がまき散らす有機化合物が目や鼻、喉のかゆみ、呼吸困難、頭痛を引き起こす恐れがあるとしている。水質への影響は報告されていない。米国では、翌1128日(木)は祝日のサンクスギビング(感謝祭)で、多くの企業や学校は121日まで4連休となり、家族が集う帰省シーズンでもあり、数万もの家族の休日の計画が台無しになったと報じている。

■ 消火の専門家によると、火災の状況から消火泡を使用することは燃えている構造物に対して効果が無いだけでなく、圧力の高い石油ガスの火を消すと、再燃した際に爆発を起こす恐れがあるという。ブタジエンは沸点が極めて低く、気化して再び発火する可能性は高い。

■ 爆発後もプラントから黒い煙が昇り続けた。そして、1127日(水)午前240分頃に2度目の爆発があった。その後も爆発があったが、午後148分の4回目の爆発では、プロセス装置の塔(タワー)1基がミサイルのように空中を飛んで落下した。プラントの爆発で立ち昇る噴煙は数km先からも見えた。

 (タワーが噴き飛ぶ動画がユーチューブに投稿されている。YouTubeSecond blast rocks area around Texas plant」2019/11/27)を参照)

■ 1127日(水)の夜になっても、火は消し止められなかった。

■ 火災の輻射熱が激しく、少なくとも3基の貯蔵タ」(ンクに引火することが懸念された。消防隊は、ブタンなどが入った球形タンクに水噴霧を行い、タンクの冷却に努めた。

■ 1128日(木)、消防隊は、火炎に放水砲で水をかけて水蒸気で火災を冷却し、燃え尽きさせる戦術をとった。火災の規模は縮小されたが、住民が帰宅できる状態には至らなかった。担当部局は29日(金)の朝に現場に集まって状況を確認し、避難勧告の解除ができるかどうか決めることとした。

■ 避難勧告の解除は1129日(金)午前10時に出された。結局、約5万人が2日間避難した。

被 害

■ ブタジエン製造関連の装置が破損・焼損した。被害額は5億ドル(550億円)とみられる。

■ 事故によって8名の負傷者が出た。内訳は会社関係が3名、住民が5名である。

■ 爆発の爆風によって現場に近い住民の建物に破損の被害が発生した。また、地元住民約6万人に避難勧告が出され、約5万人が2日間避難した。

■ 石油燃焼によって煙などによる環境への影響があった。影響の程度や範囲は不詳である。

< 事故の原因 >

■ 米国化学物質安全性・危険性調査委員会(The U.S. Chemical Safety and Hazard Investigation Board; CBS)による事故原因調査が行われ、20201029日(木)に中間報告が行われた。調査は現在も実施されている。

 ● 事故は施設の1,3-ブタジエンを製造する南ユニットで発生した。1,3-ブタジエンは高い可燃性と反応性を有している。 1127日(水)午前054分に配管の封じ込め機能が喪失し、約27,000リットル(27KL)の液体(主にブタジエン)が流出し、1分間もかからず精留塔が空になった。 負傷した従業員のふたりは、配管が破裂したのが見えたという。流出した液体は蒸気雲を形成し、午前056分に着火し、最初の爆発を引き起こした。

 ● 1127日(水)午前240分、2度目の爆発が起こり、さらに1127日(水)午後148分に大爆発が発生し、使用停止中だったデブタナイザー塔が空中に噴き飛び、施設内に落下した。他に4基の塔類が爆発と続いて起こった火災によって倒壊した。

 ● 損傷した機器から可燃性のプロセス流体が漏れ続けたため、1か月以上火災が発生し、最終的に鎮火したのは、200014日(土)午前10時だった。  

■ 米国化学物質安全性・危険性調査委員会(CSB)は、ブタジエンがプロセス容器内にポップコーンと呼ばれるポリマーを生成したとみている。 このポップコーン・ポリマーは、酸素がブタジエンと反応するときに生成される硬い物質である。ポップコーン・ ポリマーの形成によって装置内で破裂が発生し、封じ込め機能が喪失してしまった。調査報告では、事故が起こる前に、南ユニット内においてポリマーによる汚れの問題箇所が複数経験されており、ポップコーン・ ポリマーが生成され得ることは知っていたと指摘している。

■ 配管の破裂箇所は目撃者の証言によって特定されているが、装置内の被害状況がひどく、配管自体の確認はできていない。

< 対 応 >

■ TPCグループは、事故について同社のウェブサイトに2019年1127日(水)午前5時に第一報を出したが、午前10時の第三報を出して以降、何も発表しなかった。

■ 産業事故の原因調査で知られ、独立した連邦機関の米国化学物質安全性・危険性調査委員会(CSB)は、2019年1127日(水)の夜、ポート・ネチズに担当官を派遣すると発表した。 

■ テキサス州の化学工場では、20193月以降、許容できないような重大な事故が3件起こっている。4月には、ヒューストンの化学工場で火災が発生し、ひとりが死亡したほか負傷者も出た。7月には、ベイタウンの化学工場の火災があり、37名が負傷する事故があった。

 ■ このような状況下で、トランプ政権はオバマ時代に制定した化学物質安全規制を2019年1121日(木)に緩和したが、皮肉なことに翌週の1127日(水)に爆発事故が発生した。化学物質安全規制は2013年にテキサス州西部の肥料工場で起こった硝酸アンモニウムの爆発事故を契機に制定されたものである。新しい規制はテロを懸念したもので、企業は施設で保管している化学物質に関する情報を一般に公表したり、事故後の第三者委員会に提出しなくてもよいというものなどである。

■ 事故から約1年経った202011月、ケミカルエンジニア誌は、改訂された化学物質安全規制によって不必要な規制上の負担を取り除くことによる節約額は年間8,800万ドル(96億円)と環境保護庁が見積っていたと報じ、今回の事故による被害額5億ドル(550億円)と比較した記事を載せている。


補 足

■「テキサス州」(Texas)は、米国南部のメキシコ湾に面し、メキシコと国境を接する人口約2,500万人の州である。

「ジェファーソン郡」(Jefferson County)は、テキサス州南東部に位置する人口約256,000人の郡で、郡の経済は主に石油に基づいている。

「ポート・ネチズ」 Port Neches)は、ジェファーソン郡の東部に位置し、人口約13,000人の町である。ポート・ネチズに隣接する町は、ネダーランド(人口約17,500人)、ポートアーサー(人口約54,000人)、グローブス(人口約16,000人)がある。

■「TPCグループ」(TPC Group)は、1943年に設立し、現在はテキサス州ヒューストンに本部を置き、C4炭化水素から得られる付加価値製品の生産を主力としている石油化学会社である。

 ポート・ネチズ工場は、テキサス州の最大都市ヒューストンから東に130kmほど離れたところにあり、 年間約9億ポンド(40万トン)のブタジエンとラフィネートを生産している。製品はパイプライン、船、鉄道、タンクローリーで市場に出されている。一方、この工場は2017年から連邦政府の大気汚染防止法のコンプライアンスを守っておらず、米国環境保護庁からプライオリティーの高い違反者とみなされている。

■「ブタジエン」は、化学式 C4H6で、無色、無臭、引火性のガスで、沸点-4.4℃である。石油留分を熱分解してエチレンを製造する際の生成ガスから分離する方法や、ブタンやブテンの脱水素法などにより工業的に製造され、合成ゴム製造原料などに用いられる。

■「ポップコーン・ポリマー」による事故はポリマー分野の工業界ではよく知られており、例えば、日本ではつぎのような事故がある。

 ● 198810月、「ブタジエン精留塔の定期修理工事準備中の塔内爆発・火災」

 ● 19948月、「日向に置いたブタジエンボンベの爆発・火災」

 ● 20188月、「ブタジエン製造施設ブタジエン漏えい」

所 感

■ 爆発の起点はブタジエン装置の精留塔の底部ポンプ吸込み配管における破裂部で、1分もかからずに約27KLの液体(主にブタジエン)が流出したことによるものだという。配管の破裂要因はブタジエンのポップコーン・ポリマーによる閉塞である。しかし、この運転異常は予想もしていない現象ではなく、ポリマー分野の一般的な異常事例であり、 TPCグループでも感づいていた人がいるという。

■ 一回目の爆発事故時に電源が喪失し、プロセス装置の状況を把握できなくなったことが背景にあろうが、手の打ちようがないまま、発災から約13時間後の午後2時頃に再びプロセス装置の塔が噴き飛ぶような爆発が起こったとみられる。被災写真を見ると、塔類が倒壊するなど装置内の被害はひどい状況である。配管破裂箇所は目撃者の証言によって特定できているが、事故後その配管を見つけることができないという。

■ 一般にプロセス装置の火災は流出が止まれば、被災箇所は比較的大きくない。今回の場合、損傷した機器から可燃性のプロセス流体が漏れ続けたため、1か月以上火災が発生し、最終的に鎮火したのは、200014日(土)午前10時だったという。消防隊の消火戦略は、冷却散水を行う防御的消火戦略をとるしかなかったと思われる。消防隊によるブタンなどが入った球形タンクの水噴霧などによって、20113月に起きた「東日本大震災の液化石油ガスタンク事故(2011年)の原因」のような2次災害を回避できことは幸いだった。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Afpbb.com,  米テキサス州化学工場で爆発、近隣に避難指示 現地報道,  November 27,  2019

    Jp.reuters.com,  米テキサス州化学工場で爆発、住民6万人に避難命令,  November 28,  2019

    Nhk.or.jp,  米テキサス州 化学工場で爆発炎上 4万人余に避難命令,  November 28,  2019

    Jiji.com,  米テキサス州の化学工場で爆発 6万人に避難命令,  November 28,  2019

    Asahi.com,  米の化学工場で2度の爆発、住民数万人に避難命令,  November 28,  2019

    Globenewswire.com,  Incident Statement #1 – TPC Group Port Neches Operations,  November 27,  2019

    Edition.cnn.com, Firefighters contain the blaze at a Texas chemical plant but a mandatory evacuation order remains in pl

ace,  November 28,  2019

    Edition.cnn.com, Firefighters contain the blaze at a Texas chemical plant but a mandatory evacuation order remains in pl

ace,  November 28,  2019

    Edition.cnn.com, Evacuation order lifted after Texas chemical plant explosions, but officials warn about asbestos debris

,  November 29,  2019

    Cbsnews.com,  60,000 people forced to evacuate after explosions at Texas chemical plant,  November 27,  2019

    Reuters.com, UPDATE 11-Residents flee fourth major Texas petrochemical fire this year,  November 27,  2019

    Vice.com, Videos Show Giant Texas Chemical Plant Explosion That Forced 60,000 People to Evacuate,  November 29,  2019

    Tpcgrp.com, TPC GROUP INCIDENT UPDATE #3 – TPC GROUP PORT NECHES OPERATIONS,  November 27,  2019

    Kfor.com,  Texas chemical plant explosion causes extensive damage to city,  December 27,  2019

    Beaumontenterprise.com, Fire glows in ghost town,  December 29,  2019

    Thechemicalengineer.com, CSB releases update on TPC explosion, November 04,  2020

    Csb.gov, Fires and Explosions at TPC Group Port Neches Operations Facility  Factual Update, October 29, 2020


後 記: タンク火災ではなく、プロセス装置の事故原因の情報だったので、調査するか迷いました。しかし、報道したメディアはひとつでしたが、米国化学物質安全性・危険性調査委員会(CBS)の発表はインターネットで公表されており、興味深い内容だったので、投稿することとしました。

 ところで、米国大統領選挙が終わりましたが、トランプ元大統領の負の遺産が尾を引いています。化学物質安全規制を緩めたのは、米国環境保護庁だったようで、トランプ元大統領の意向があったのでしょう。そういえば、米国化学物質安全性・危険性調査委員会(CBS)は、4年前、トランプ大統領が当選したあと、予算削減の対象として存続が危ぶまれていました。米国はどうなっていくのだろうかと思っていましたが、少なくとも安全・環境保護分野では、悪くなっていくことはないでしょう。





2020年11月20日金曜日

ナイジェリアのラゴスでOVHエナージー社のガソリンタンク火災

  今回は、 2020115日(木)、アフリカのナイジェリアのラゴスにあるOVHエナージー社のタンク・ターミナルで、ガソリン・タンクが火災を起こした事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 事故があったのは、アフリカのナイジェリア(Nigeria)ラゴス(Lagos)のアパパ地区(Apapa)にあるOVHエナージー社(OVH Energy)のタンク・ターミナルである。

■ 発災があったのは、タンク・ターミナル1にある6,000トンの入ったガソリン・タンクである。


< 事故の状況および影響
>

事故の発生

■ 2020115日(木)午後1220分頃、タンク・ターミナル1にあるガソリン・タンクで火災が起こった。

■ 発災に伴い、ラゴス州消防署などの消防隊が出動した。

■ 24時間を経過し、消防車25台、消防士100名が動員されたが、火災は継続している。

■ ラゴス州緊急管理局は、火災を制御するための努力が行われている間、ラゴスの地元住民に落ち着いて行動するよう呼びかけた。

■ 火災が始まって1日を経過したが、一部の住民は安全な場所を求めてすぐに避難している。当局は、状況が管理下にあり、安全だといったが、住民はこのエリアから退避するのが最善の選択肢だと考えていた。近くの親類の家に避難した女性は、「火災から出る熱は非常に熱く、実際、耐えることができません」と語った。別な住民は、「このあたりには、多くのタンク基地があり、次に何が起こるかわからないので、本当にこわい」と話した。

■ 事故に伴う負傷者は無かった。

■ タンク火災の状況はユーチューブに投稿されている。(YoutubeFire Engulfs Oando Tank Farm In Ijora, Lagosを参照。


被 害

■ タンク1基が焼損し、内部のガソリン6,000トンが焼失した。

■ 負傷者はいなかった。

■ 近くの住民の一部が自主的に避難した。

< 事故の原因 >

■ 事故の原因は調査中である。

■ 目撃者によると、火災発生直前にタンク地区で溶接作業が行われており、溶接の火花が事故を引き起こしたのではないかという推測があるが、これは公式には確認されていない。

< 対 応 >

■ 事故に伴って対応した機関は、ラゴス州緊急管理局、連邦消防署、ラゴス州消防署、ナイジェリア海軍消防署、ナイジェリア警察、フォルテ石油消防署などである。

■ 火災は約45時間続き、117日(土)午前9時頃に鎮火した。

■ 火災が消え、ラゴス州緊急管理局は原因調査を始めた。

118日(日)、 OVHエナージー社は、「消防活動に従事した各消防隊に計り知れない努力と支援に感謝します。また、住民の方々にはご心配とご迷惑をおかけしました。私ども責任ある企業人として、最優先事項はすべての関係者の生命と財産の安全です。安全衛生の事故ゼロを目指して、火災原因の早急な調査を開始しました」という声明を出した。

■ ナイジェリアの主要石油販売業者協会は、119日(月)、OVHエネルギー社で起こったガソリンタンクの火災についてナイジェリア国内の石油供給に影響はないと発表した。






補 足

■「ナイジェリア」(Nigeria)は、正式にはナイジェリア連邦共和国で、西アフリカに位置し、アフリカのほぼ中央にあり、人口約2億人の連邦制共和国である。人口はアフリカ最大で、世界でも7位である。

 「ラゴス」(Lagos)は、ナイジェリアの南部に位置し、ギニア湾に接する人口約800万人の都市である。ラゴスと周辺都市を含む大都市圏の人口は約2,100万人といわれている。アフリカ全土の主要な金融センターであり、経済の中心地である。

 なお、ナイジェリアの事故としては、つぎのような事例がある。

 ● 20146月、「ナイジェリアの石油ターミナルで落雷、タンク火災、その後油流出」

■「OVHエナージー社」(OVH Energy)は、2016年にオアンド社(Oando) から資本的に独立したナイジェリアの石油会社で下流燃料部門に携わっている。所有資産は350箇所のサービス・ステーションと84,000トンの貯蔵能力を有しており、ブランド名はオアンドのままである。

■「発災タンク」は、6,000トンのガソリンが入ったタンクである。ガソリンの比重を0.7とすれば、6,000トンは約8,500KLである。ナイジェリアのラゴスをグーグルマップで調べると、発災タンクは直径は約29mである。高さを15mと仮定すれば、容量は9,900KLである。タンクにはドーム式とみられる屋根が付いているので、タンク型式はアルミニウム製ドーム型内部浮き屋根式タンクと思われる。発災直後のタンク被災写真によると、タンク側板の塗装は上部しか剥離していないので、タンク内液は一杯に近かった。

■ 発災タンクは、115日(木)午後1220分から117日(土)午前9時まで約45時間燃焼し続けた。被災写真では、全面火災のような状況を呈している。しかし、タンクには、アルミニウム製ドームと内部浮き屋根があったと思われるので、障害物あり全面火災ではないかとみられる。しかし、全面火災とみなし、ガソリンの燃焼速度を約33/hとし、発災時のタンク液面を13mと仮定すれば、タンクの燃焼時間は約39時間となる。この推測と被災写真から、タンク火災は内液のガソリンが燃え尽きて鎮火したと思われる。

所 感

■ 今回の事故は、アルミニウム製ドーム型内部浮き屋根式タンクで起こっており、目撃者によると、火災発生直前にタンク地区で溶接作業が行われており、溶接の火花が事故を引き起こしたのではないかという推測がある。しかし、溶接であれば、アルミニウム製ドーム型内部浮き屋根式タンクの浮き屋根付近で溶接工事が行われていたことになり、死傷者が出ていないことを考えれば、原因としては考えにくい。

■ アルミニウム製ドーム型内部浮き屋根式タンクの火災事故としては、 20168月に起こった「中米ニカラグアで原油貯蔵タンク火災、ボイルオーバー発生」の事故に類似しているように思う。事故の経緯はつぎのように推測する。

 ● アルミニウム製ドーム型内部浮き屋根式タンクの浮き屋根上で可燃性混合気が形成し、何らかの引火要因で爆発が起り、引き続いて火災となった。

 ● 火災が拡大し、アルミニウム製ドームルーフが焼損するとともに、内部浮き屋根が沈下または部分的に沈下し、(障害物あり)全面火災のような状況に至ったものと思う。アルミニウム製の簡易型浮き屋根(浮き蓋)であれば、容易に内部浮き屋根が沈下することはあり得る。

 ● 当初は消火活動を実施していたが、手がつけられないほど火災が続き、消火を断念し、燃え尽きる判断をしたものと思う。こうして、45時間を経過して火災は燃え尽き、鎮火したとみられる。 

■ 直径約29mのタンクの全面火災であれば、日本の法令では、大容量泡放射砲システムは必要でなく、三点セット(最大放水能力3,000リットル/分)で良いことになっている。 現地では、大型化学消防車が数台配置され、消火活動を行っている。直径34m以下のタンクであっても、全面火災になれば、大容量泡放射砲システムが必要になる事例である。 

備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Tankstoragemag.com, Large fire at Apapa tank terminal extinguished,  November 09,  2020

    Today.ng, Lagos tank farm fire finally extinguished after 69 hours,  November 07,  2020

    Nairametrics.com, Tank farm in Iseri Iganmu reportedly on fire,  November 05,  2020

    Energyvoice.com, Fire strikes Oando tank farm in Lagos,  November 05,  2020

    Guardian.ng, Panic as fire guts Oando tank farm in Lagos,  November 06,  2020

    Melodyinter.com, Fire guts petrol tank farm in Apapa (video),  November 05,  2020

    Autoreportng.com, Moment When Oando Tank Farm In Apapa Went On Flames,  November 06,  2020

    Nairametrics.com, Tank farm Fire: Incident will not disrupt product supply,  November 09,  2020

    Thisdaylive.com, Fire Guts Tank Farm in Lagos,  November 06,  2020

    Dpr.gov.ng, OVH ENERGY DEPOT FIRE HAS BEEN CONTAINED,  November 07,  2020

    Oraclenews.ng, OVH counts losses as tank farm rises in flames,  November 05,  2020

    Thelagostoday.com, OVH Energy Appreciates Stakeholders for Combating Gas Tank Inferno, Reassures Commitment to Safety of Residents,  November 05,  2020

    Maritimefirstnewspaper.com, IJORA: Fire guts product tank farm, prompting OVH Energy’s investigation,  November 05,  2020

    Autoreportng.com, After 48hrs Of Fire, Oando Farm Fire Finally Put Out In Apapa ,  November 07,  2020

    Slynewsng.com, Residents flee as OVH petrol tank farm razes for over 20 hours,  November 06,  2020

    Theglittersonline.com.ng, Panic As Fire Guts Oando Tank Farm In Lagos,  November 06,  2020

後 記: 10月はタンク火災事故が多かったですが、その後、事故情報を聞きません。コロナ禍で報道が縮小していますので、事故が無くなったというより、事故情報が発信されなくなったと思っています。そのような中、アフリカのタンク火災の情報が出てきました。アフリカ最大の街のひとつにおけるタンク火災が3日にわたって続いた割にローカルなニュース扱いでした。そこで、ナイジェリアのコロナ感染状況を調べてみました。5月から6月にかけて感染者が増え、1790人を記録しましたが、その後、100人前後に低下しました。しかし、最近、また200人を超え、増加傾向にあるようにみえます。日本の東京か大阪くらいの感染状況です。メディアの取材は抑制的で、今回の事故でも、ドローンによる映像など被災写真が無ければ、事故の緊迫感は伝わらなかったでしょう。








2020年11月4日水曜日

米国オハイオ州でイネオス社の使用していないタンクが崩壊

  今回は、 20201025日(日)、米国オハイオ州アレン郡ライマにあるイネオス社の化学工場で大きな音がして、工場内にあった使用していないタンクが崩壊した事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 事故があったのは、米国オハイオ州(Ohio)アレン郡(Allen)ライマ(Lima)のイネオス社(INEOS)の化学工場である。イネオス社の化学工場はハスキーエナジー製油所に隣接している。

■ 発災があったのは、化学工場内にあるタンクである。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 20201025日(日)午後8時頃、化学工場で大きな音がして、地元地域を揺るがした。爆発のような音は数マイル(58km)離れたところでも聞こえたという。

■ 発災に伴い、ショーニー・タウンシップ消防署が出動した。消防隊は、現場に到着すると、崩壊したタンクを見た。

■ タンクの構造物が崩壊したが、地域社会に脅威を与えるような影響はなかった。

■ 消防隊は、数時間、現場に待機した。

被 害

■ 化学工場のタンクが崩壊した。タンクは使用されていなかった。

■ 負傷者は無く、地元への影響も無かった。

< 事故の原因 >

■ 事故の原因は不明である。

< 対 応 >

■ 消防署は、事故は調査中であると地元のニュースサイトに語った。消防署によると、事故が起こったとき、崩壊したタンクはすでに使用されていなかったという。なお、このタンクが貯蔵していたものについて語られていない。

補 足

■「オハイオ州(Ohio)は、米国の北東に位置するが、中西部の州で、人口約1,170万人である。

「アレン郡」(Allen)は、オハイオ州の北西に位置し、人口約102,000人の郡である。

「ライマ」(Lima)は、アレン郡の中央部にあり、人口約36,600人の市で、郡庁所在地である。

■「イネオス社」(INEOS)は、1998年に設立された化学会社で、石油化学製品、特殊化学製品、石油・ガスの製造会社である。世界24か国に171箇所の製造施設を有する。同社の創業者は、エッソのケミカルエンジニアであり、1995年に事業家と組んでBP社から酸化エチレン事業を買収し、その後単独で買取り、イネオス社を設立した。その後も、つぎつぎと化学会社を買収し、短期間に世界的な化学会社に成長した。

■ イネオス社の「ライマの化学工場」では、アクリロニトリル、アセトニトリル、シアン化水素、触媒を製造している。ライマ工場は、アンモ酸化プロセスを使用してアクリロニトリルの商業的に製造した発祥の施設である。アクリロニトリルの用途は、ABS、アクリルアミド、衣類・カーペット・毛布用アクリル繊維の主要成分である。副産物として生産されるアセトニトリルは、インスリンや抗生物質の生産における溶媒や、天然由来の農薬生産における原料として使用される。副産物のシアン化水素は猛毒であるが、殺虫剤、電気メッキ、鉱石の濃縮などに用いられている。アクリロニトリルプロセスで使用される触媒もライマ工場で製造されている。ライマ工場の敷地面積は92.4エーカー(373,800㎡)で、全生産能力は224,000トン/年で、従業員は157名である。アクリロニトリルのプロセスは図に示す。

■「発災タンク」に関する情報は、「すでに使用されていなかった」という以外まったく報じられていない。イネオス社はウェブサイトを設けているが、事故に関して一切コメントしていない。アクリロニトリルのプロセスに関係しているのか、まったく関係のないタンクなのかも分からない。グーグルマップでイネオス社のライマ工場を調べたが、 手掛かりがなく、見当もつかなかった。 

所 感

■ 今回の事故は状況が分からない。タンクが崩壊としたが、報道原文は“collapse”であり、崩壊する、つぶれる、くずれる、陥没するのいずれの意味合いが妥当なのかよくつかめない。

 消火用水タンクがバラバラに破裂した例(「消火用水タンクが破裂して死者2名の事故」20114月)やタンク底板部から大量流出し、屋根板が陥没した例(「ロシアのシベリアで発電所の燃料タンク底板部から大量流出(原因)」20205月)はあるが、今回の事故はこれらの事例とは異なるのであろう。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである

    Industrialfireworld.com, Tank Explosion Reported at Ohio Chemical Plant,  October 26,  2020

    Limaohio.com, INEOS tank collapse rattles region,  October 26,  2020

    Uk.reuters.com, Tank collapses at Ineos plant in Lima, Ohio, no injuries,  October 27,  2020

    Spaglaw.com, Explosion at INEOS Chemical Plant - Spagnoletti Law Firm,  October 26,  2020

    Hometownstations.com, Shawnee Fire: tank collapse at INEOS not a cause of alarm,  October 25,  2020

    Poandpo.com, Tank collapses in INEOS plant in U.S.,  October 27,  2020

    Powderbulksolids.com, Tank Collapse Reported at INEOS Chemical Plant,  October 26,  2020

    Hazardexonthenet.net, No injuries as tank collapses at INEOS chemical plant in US,  October 27,  2020


後 記: 今回の事故は情報を今後に活かすという点において内容が無いという感じですね。失敗学でいう事故を小さく見せたり、無かったことにする典型です。それも事業者でなく、現場を確認した消防署が状況を語っていないのはなぜでしょう。日本で流行っている“丁寧な説明”が必要で、説明をしなければ、何かを隠しているのではないかと疑ってしまいます。

 イネオス社のライマの化学工場にあるアンモ酸化プロセスのアクリロニトリル製造装置は猛毒のシアン化水素(第2次大戦でナチスがホロコーストのガス室で使用したと言われている)が副産物として出てきます。そのような工場でタンク崩壊の事故が起こっているので、当然のことながら大丈夫かなと思ってしまいます。米国は自由の国というイメージがありますが、2019年版「世界報道の自由度ランキング」で3年連続下落し、報道の自由のレベルが初めて「問題あり」に格下げとなり、ランキングは48位に落ちています。2020年では45位と若干上がり、「問題あり」から脱出はしていますが、どうなんでしょうね。