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2023年2月21日火曜日

トルコ南部の地震、死者数45,000人を超す、港ではコンテナが火災

今回は、202326日(月)、トルコの南部で起こった地震による被災の状況を紹介します。特にこのブログの趣旨から産業施設に関する被害について紹介します。

< 発災地域の概要 >

■ 発災があったのは、東ヨーロッパと西アジアにまたがるトルコ(Turkey)と中東のシリア(Syria)の国である。

■ 地震によって多くの被災者や被害が出たのは、トルコ南部とシリア北部である。


<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 202326日(月)午前4時17分頃、トルコ南東部のガジアンテプ市付近でマグニチュードM7.8の地震が発生した。同日午後124分頃には、再びトルコ南東部で大きな地震が発生した。震源はカフラマンマラシュ県エルビスタン地区で、マグニチュードM7.5だった。この地震でトルコ南部とシリア北部にまたがる広い地域で多くの建物が倒壊し、死傷者が出た。

■ 発生した地震によってトルコとシリアにおける死者数が日々明らかになって増えている。210日(金)までに死者数は21,700人を超えた。現地では倒壊した建物の下敷きになった市民が最大20万人にのぼるという推定がある。トルコの死者数は18,342人で、シリアでも3,377人が死亡したと集計された。地震発生から4日目までにトルコとシリアの両国の犠牲者数は21,700人になったが、これは2011年に発生した東日本大震災の人命被害規模(18,500人)を上回る。両国の負傷者も78,000人を超えている。

■ 218日(土)、トルコの死者数が39,672人に達し、シリアの死者数は5,800人超となった。両国合わせた死者数は45,000人を超えた。

■ 今回の地震の被害が大きい背景のひとつは揺れの影響を受けた範囲が非常に広いということがある。被害の範囲は南北で300km×東西で450kmと、日本の関東・中部・近畿地方を合わせた広さに及ぶ。


■ 地中海に面するイスケンデルンでは、トルコ国内屈指の港があるが、26日(月)、港に積まれていた輸送用のコンテナが崩れて火災が発生した。当初は少数のコンテナ火災だったが、つぎつぎと近くのコンテナに延焼し、一晩中燃え続けて真っ黒い煙が空に立ち昇るような大規模な火災となった。消火艇などによって火災は27日(火)に一旦消えかかったが、その後再燃した。陸と海からの消火活動だけでなく、軍のヘリコプターや飛行機が出動し、火災を制御下に入れるようと試みられた。消火活動には、トルコ最大の都市イスタンブールの消防士も参加した。28日(水)午後、火災はほぼ消され、現場では引き続き冷却作業が続けられた。

 出火原因は可燃性の工業用オイルが入ったコンテナから出火した可能性が高いという。この火災のため、貨物船の出入港ができなくなった。210日(金)には、火が消し止められ、貨物船の出入港が再開されたが、物流が通常どおりに戻るには時間がかかることも予想される。  初期の火災から大規模な火災になるまでの映像が投稿されている。

(ツイッタ https://twitter.com/abdbozkurt/status/1622862607114809344  を参照)


■ イスケンデルン港の沿岸施設に行われた被害評価によってドッグが壊れていることが判明した。この港以外の他の商業港は影響を受けていないとみられる。トルコ運輸省は、イスケンデルン港を除いて他の港の操業を継続すると述べた。

■ イスケンデルン港に近いトルコ南部ハタイ県でシリア国境に近いドルチョルに係留されている最新鋭の「浮体式LNG貯蔵・再ガス化装置」Floating Storage and Regasification UnitFSRU の状況について具体的な情報はない。この浮体式LNG貯蔵・再ガス化装置エルトゥールル号は2021年に韓国で建造され、トルコ国営の石油・天然ガスパイプライン会社であるボタス社(Botas)が所有する17万㎥のトルコ船籍の船である。

■ トルコ南部のアダナ県にあるセイハン・オイルターミナル(Ceyhan Oil Terminal)は、地震の影響によって操業を停止したと報じられた。その後、213日(月)、原油を積み込んだ石油タンカーが出航した。

■ 26日(月)、石油・天然ガスパイプライン会社であるボタス社は、地震による石油パイプラインの被害はなかったが、予防措置として震源地に近いハタイ県を含む地域において天然ガスの供給を停止すると発表した。また、キリス県のガスパイプラインの損傷によって内部の天然ガスが漏れ出ているとも述べている。

 一方、ハタイ県のトップボガズ村の長によると、地震の後、ハタイ県で天然ガスパイプラインの2個所で爆発があったと話している。2個所は約3kmの距離があるという。ハタイ県の天然ガスパイプラインの火災映像がツイッタに投稿されている。

https://twitter.com/Lerpc75/status/1622430411681931266 を参照) (またはツイッタからダウンロードした動画Natural gas pipelines in Amik plain in Hatay burst with the force of the earthquake」を参照)



■ ソーシャルメディアでは、地震によって欧州にアゼルバイジャンの天然ガスを供給する主要なガスパイプラインが損傷し、ヨーロッパ大陸がガス不足のリスクにさらされているという情報が流れている。しかし、アゼルバイジャンからトルコを通る天然ガスパイプラインは震源より遠く離れており、ガス供給に支障はなくフェークニュースだという。

■ 地震を生き延びた人も避難場所や飲み水、食料を確保できていない人もいて、凍てつく寒さで命が脅かされている。

■ シリアでは内戦が10年にわたって続いていて、被災地には政権側と反政府勢力、それぞれの支配地域が含まれている。シリア国内の被災者は1,000万人を超え、人口の半数にのぼるとみられている。しかし、シリア北西部の反政府勢力が支配する地域では、支援ルートが限られており、十分に行き届いていないうえ、詳しい被害が分からない状態が続いている。

 こうした中、214日(火)、国連の衛星センターは国境に近い北西部のジャンデレスの町の様子を撮影した衛星画像の分析結果を公表した。 赤い点は被害を受けたことが確認できる建物でその数は228棟にのぼり、黄色い点は被害を受けたおそれがある建物で318棟にのぼる。ジャンデレスの町の広い範囲が赤や黄色の点で覆われており、町の全域が地震の被害に見舞われたことがわかる。

被 害

■ トルコの死者が39,672人に達し、シリアの死者は5,800人超となった。両国合わせた死者数は45,000人を超えた。

■ 地震によって多くの建物が倒壊したが、今回の地震は揺れの影響を受けた範囲が非常に広く、被害の範囲は南北で300km×東西で450kmと、日本の関東・中部・近畿地方を合わせた広さに及ぶ。

< 事故の原因 >

■ 2度の地震による自然災害である。

< 対 応 >

■ 28日(水)、日本の国際緊急援助隊・救助チームが震源近くのカフラマンマラシュで本格的な活動を始めた。日本各地の消防、警察、海上保安庁から選抜された救助チームは、地震発生の翌日の27日(火)に先発隊18名が現地入りし、8日(水)には後発隊55名が加わり、総勢73名態勢で捜索・救助にあたった。その後、日本の国際緊急援助隊・救助チームは任務を終了し、215日(水)に帰国した。

■ 210日(金)、日本政府は、トルコ政府からの要請を受け、数十名規模の国際緊急援助隊・医療チーム(団長、医師、看護師、薬剤師、医療調整員、業務調整員で構成)を現地に向けて派遣することを決定した。 同日夜、先発隊が羽田空港から出発した。また、政府は支援に必要な資材の輸送に自衛隊機を用いることを決め、トルコに向けて出発した。さらに214日(火)、国際緊急援助隊・医療チームの第3陣、215日(水)に第4陣を派遣した。

■ 210日(金)、東京大学渡邉教授は、米国の企業が配信している衛星画像を解析して、被害が確認できた場所を地図に記した画像とともにウェブサイトで公開し始めている。これまでに100個所以上を掲載しており、このうち、トルコ南部のカフラマンマラシュでは、多くの高層マンションなどが潰れるようにして全壊していることが確認できる。また、シリア国境沿いのハタイ県では、広い範囲で高層マンションが横倒しになったり、倒壊した建物のがれきが道路をふさいだりするなど、甚大な被害が出ていることが分かる。さらに、震源に近いトルコ南部のヌルダギでは、地表に現れた活断層の一部とみられる地割れなどが確認できる。(解析した情報は、ツイッタ https://twitter.com/hwtnv を参照)


■ トルコの建物6,000棟余りが無惨に押しつぶされて倒壊したことに対してその杜撰(ずさん)な建築慣行が俎上に載せられている。耐震設計条件を満たしていない建物が今回の地震で莫大な人命被害を出すことになったという指摘がある。建築専門家は今回の地震で多層建物の上の階のフロアが下の階にそのまま重なるように崩れ落ちる、いわゆる「パンケーキクラッシュ」が多かったことに注目した。このような形の崩壊は耐震設計条件を十分に満たしていない状態で、耐震性の弱い資材で建築されたことを意味する。

■ 210日(金)、多くの建物が倒壊したが、その中には、耐震性能をうたう比較的新しいものも含まれている。英国メディアのBBCは、がれきと化した新しい建物3棟に注目し、その安全性について調べた。

 トルコ・マラティヤに建っていた新築ビル3棟のうち1つは、ソーシャルメディアに投稿された映像によると、マンションの下半分が崩れ、そのがれきの上に建物の下半分が傾いて載る様子が見える。昨年完成した新築の建物ならば、2018年に改正された最新の建築基準に沿って建てられ、鉄骨・鉄筋で補強した高品質コンクリートの使用が義務づけられているが、もろくも倒壊している。

 地中海沿岸にある港湾都市イスケンデルンでも、比較的新しい集合住宅が大きく崩れた様子が撮影された。16階建ての建物と横面と後ろ側が完全に崩れ、建物の一部だけがわずかに残っている。この建物は2019年に完成した物件で、2018年に改正された建築基準に沿って建てられたはずだ。建設会社に取材を試みているが、回答を得られていないという。

 被災地であまりに多くの建物が倒壊したことから、トルコでは多くの人が、建築基準法の内容を疑問視するようになっている。確かに今回の地震は強力だったが、適切に建てられた建物ならば倒壊はしなかったはずだと、複数の専門家が指摘している。

 トルコでは、安全基準を満たさない違法建築に対し、政府が「行政処分免除」を繰り返し提供してきた。安全基準を満たさなくても、一定の金額を払えば、法的に見逃されるという仕組みだ。これは1960年代から続き、最近では2018年にこうした「処分免除」が実施された。いざ大地震が起きれば、政府のこの政策が大惨事を引き起こす危険があると、もう長いこと批判されていた。


■ 214日(火)、日本メディアのNHKによると、今回の地震被害と地図で見ていくと、遠く離れた複数の街で同じような壊滅的被害が出ている現状がわかってきた。今回の地震で大きな被害が確認されている街を地図に示した。例えば、震源に近いカフラマンマラシュと西南にあるアンタキヤは約170km離れているが、同じように建物が倒壊する被害が出ている。


■ 専門家は、今回動いたとされる断層の中でも長い間、大きな地震がない「空白域」で発生したと分析している。今回の地震はトルコ東部にのびる「東アナトリア断層」がずれ動いたことで発生したとみられるが、この断層では過去、繰り返しマグニチュードM7クラスの大地震が起きている。しかし、東京大学地震研究所の三宅准教授によると、今回の震源地の近くのエリアは1513年を最後に500年以上にわたって大地震の記録がなく、こうした「空白域」では大地震の起こる可能性が高いという。


補 足

■「トルコ」(Turkey)は、正式にはトルコ共和国で、西アジアに位置するアナトリア半島と東ヨーロッパに位置するバルカン半島東南端の東トラキア地方にある共和制国家である。人口約8,400万人で、首都はアナトリア中央部のアンカラである。トルコは、アジアと欧州の2つの大州にまたがり、北は黒海とマルマラ海、西と南は地中海(西はエーゲ海)に面する。陸上国境は、西でブルガリア、ギリシャと、東でジョージア(グルジア)、アルメニア、アゼルバイジャン、イラン、イラク、シリアと接する。

「シリア」(Siria)は、正式にはシリア・アラブ共和国で、中東にある共和制で、人口約2,150万人である。北にトルコ、東にイラク、南にヨルダン、西にレバノン、南西にイスラエルと国境を接し、北西は東地中海に面し、首都はダマスカスである。 2011年にシリアの政府軍と反政府勢力による武力衝突が本格化し、内戦が起こっている。シリアでは多くの難民が生まれ、国外に逃れている人々は660万人で、うち550万人が近隣国で避難生活を強いられている。さらに、今回の地震による被災地が反政府勢力の影響下にある地域で支援が滞っているという。

所 感

■ イスケンデルン港に積まれていた輸送用コンテナが崩れて火災が発生した被災事故は、大きな地震後の対応が平時の対応ができず、大きな火災事故に至ったと思われる。原因は可燃性の工業用オイルが入ったコンテナから出火したのとみられるが、通常であれば、消防車による泡消火で消せるはずである。しかし、町全体が混乱して地震対応している中で、有効な消防資機材がなく、まさか工業用オイルから出火しているとは思っていなかったのではないだろうか。消防艇の海水の放水によって油が水の表面を広がっていったと思われる。トルコと同じく地震国である日本にとって考えるべき教訓であろう。

■ ハタイ県の天然ガスパイプラインの爆発・火災は事実なのかどうかよく分からない。村の長によると、地震の後、天然ガスパイプラインの2個所(約3kmの距離)で爆発があったと話しているし、ツイッタに離れた個所での火災映像が流れていることを考えれば、実際に爆発・火災があったと判断されよう。トルコ国営の石油・天然ガスパイプライン会社であるボタス社が情報公開に積極的でないため、事実が埋没してしまうという印象である。 


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

      Bbc.com,  トルコでなぜあれほど多くの建物が倒壊したのか 耐震対策は,  February  10,  2023

      News.yahoo.co.jp, <トルコ地震>無惨に押しつぶされた建物耐震設計されていない不法建築、被害を拡大させた,  February  09,  2023

      News.yahoo.co.jp,  トルコ・シリア大地震の被害が急増、「世界でこれほどの災難見たことないはず」,  February  12,  2023

      Nhk.or.jp,  トルコ南部の大地震 被害実態のデジタル地図を公開 東京大学,  February  13,  2023

      Yomiuri.co.jp,  がれきの中からうめき声、日本の援助隊も懸命の捜索トルコ地震「72時間」経過,  February  09,  2023

      Jica.go.jp,  トルコ共和国における地震被害に対する国際緊急援助-物資供与-,  February  10,  2023

      Nhk.or.jp, トルコ・シリア大地震 広範囲にわたる被害 地図と画像で詳しく,  February  14,  2023

      Scienceportal.jst.go.jp, プレート境界で長大な活断層が動いたトルコ大地震 もろい建物を直撃し、犠牲者3.5万人を超える,  February  14,  2023

      Gsi.go.jp, 202326日トルコ共和国の地震に伴う地殻変動,  February  09,  2023

      Eri.u-tokyo.ac.jp, 202326日トルコ南部の地震,  February  10,  2023

      News.yahoo.co.jp, トルコの地中海沿岸で港湾火災、操業停止 地震の影響,  February  08,  2023

      Gcaptain.com, Fire Erupts in Containers Toppled by Earthquake at Turkish Port,  February  06,  2023

      News.am,  Explosion occurs in natural gas pipeline of Turkey’s Hatay Province, after earthquake,  February  06,  2023

      Offshore-technology.com, Earthquake in Turkey damages natural gas pipeline,  February  06,  2023

      Rt.com,  Quake ruptures gas pipeline in Türkiye (VIDEOS),  February  06,  2023

      Pipeline-journal.net,  Quake ruptures gas pipeline in Türkiye (VIDEOS),  February  07,  2023

      France24.com,  No, Turkey's earthquakes don't threaten Europe's gas supply,  February  10,  2023

      Bbc.com,  Turkey-Syria earthquake: Fire at Iskenderun port extinguished,  February  08,  2023

      Jp.reuters.com,  トルコ地震、死者4.5万人突破 278時間ぶりに3人救出,  February  18,  2023


後 記: トルコで大きな地震があり、連日テレビや新聞で報道されましたが、大半は建物の倒壊と救出あるいは支援活動に関するものでした。産業施設への影響は報じられていなかったのですが、これだけ大きい地震があれば、大なり小なり被害があったのではないかと思い、調べてみました。コロナ禍の影響もあり、期待しませんでしたが、日本の報道とは若干異なり、産業施設の被災記事はありました。しかし、地震で混乱している時には、SNSでフェークニュースが飛び交い、ご丁寧に爆発写真まで掲載されているものもあります。海外のテレビ番組の中には、フェークニュースについて真実かどうかを話題にしたものもあります。 

2023年2月13日月曜日

米国テキサス州の貯蔵タンク地区でプロパンが爆発して、死傷者6名

 今回は、2023117日(火)、米国テキサス州ハッチンソン郡ボーガーにあるWRBリファイニング社の石油精製所のタンク地区で爆発・火災があり、6名の死傷者を出した事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、米国テキサス州(Texas)ハッチンソン郡(Hutchinson)ボーガー(Borger)にあるWRBリファイニング社(WRB Refining LP)の石油精製所である。 WRBリファイニング社は、米国のフィリップス66社(Phillips 66)とカナダのセノバス・エナージー社(Cenovus Energy)の合弁会社である。

■ 事故があったのは、 WRBリファイナリー社のボーガー石油精製所のタンク施設で、通称ジョンソン・タンク地区と呼ばれている。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 2023117日(火)午前1015分頃、ジョンソン・タンク地区で爆発があり、火災が起こった。

■ 現場からは炎とともに渦巻く黒い煙が立ち昇った。タンク地区の近くにいた人によると、2回の爆発音を聞いたという。

■ 発災に伴い、バーガー消防署が出動して消火活動を行った。

■ 事故により作業員6名が負傷し、病院に搬送された。うちふたりは危篤状態で、UMC 熱傷センターにヘリコプターで移送された。被害者はいずれも特定されておらず、 WRBリファイナリー社で直接働いていたのか、外部の請負業者に雇われていたのかは分かっていない。その後、122日(日)、入院していた被災者ひとりが亡くなったと報じられた。死亡したのは、 建設会社のオースチン・インダストリアル社(Austin Industrial inc)の従業員である。

■ 近くの住民のひとりは、「タンク地区で火災と黒煙を見たのは初めてでした。救急ヘリコプターが飛んできたので、何かが起こったのだろうと思いました」と語っている。

■ 発災に伴い、製油所の近くの高速道路136号線の閉鎖が実施された。

■ 1月18日(水)、フィリップス66社がテキサス州環境品質委員会に提出した報告書によると、火災とそれに伴うプロパンの放出は複合施設のジョンソン・タンク地区で発生したといい、プロパンが放出した部分は塞がれているという。放出したプロパンは5,000ポンド(2,268㎏)といわれているが、プロパンが気体の状態なのか、圧縮された輸送可能な液体の状態なのかは明らかではない。

被 害

■ タンク地区内において構造物が爆発・火災で損傷した。

■ 爆発・火災により、死傷者6名が出た。内訳は死者1名、負傷者5名である。

■ 現場近くの高速道路が6時間にわたって閉鎖された。

< 事故の原因 >

■ プロパンの放出による爆発とみられるが、どのような構造物から放出されたのか、引火源は何かなどは分かっていない。

< 対 応 >

■ 火災は消防署などの消防隊の消火活動によって午後230分頃消された。

■ 閉鎖されていた高速道路は6時間後の午後430分に再開された。

■  WRBリファイニング社や親会社のフィリップス66は、テキサス州と地方自治体の当局と緊密に協力して対応している。

補 足

■「米国テキサス州」(Texas)は、米国南部にあってメキシコ湾岸に面し、メキシコと国境を接する人口約2,900万人の州である。

「ハッチンソン郡」(Hutchinson)は、テキサス州の北部に位置し、人口22,000人の郡である。

「ボーガー」(Borger)は、ハッチンソン郡の南部に位置し、人口約12,500人の市で同郡の最大の都市である。

■「WRBリファイニング社」(WRB Refining LP) は、2006年に設立され、ボーガー石油精製所(Borger Refinery)を運営している。同社はテキサス州ヒューストンに拠点を置き、テキサス州ボーガーとイリノイ州ウッドリバーに石油精製所がある。 WRBリファイニング社は、米国のフィリップス66社(Phillips 66)とカナダのセノバス・エナージー社(Cenovus Energy)の合弁会社である。

■「ボーガー石油精製所」は、1926 年に建設され、テキサス州ハッチンソン郡ボーガーにある。精製施設は、約 6,000 エーカーの土地にあり、920 人以上の従業員を雇用している。ボーガー石油精製所の精製能力は146,000バレル/ (23,200KL/日)である。石油精製所は、主に中程度のサワー原油と天然ガス液を処理し、原料油はパイプラインを通じてテキサス州西部やカナダなどから移送されている。主な製品は、燃料(ガソリン、航空燃料、ディーゼル)、天然ガス液、溶剤、石油化学コークスと硫黄などである。

■「オースチン・インダストリアル社」(Austin Industrial inc )は1918年に設立された建設会社で、本部はテキサス州ダラスにある。現在は3つの子会社をもち、従業員7,000名をかかえ、土木、商業、産業部門の多様な建設工事を請け負っている。

所 感

■ 事故要因は、タンク地区で行われていた工事の設備で使用されていたプロパンに引火して爆発が起こったものと思われる。近くに貯蔵タンクがあるが、このタンクに損傷や火災が起きていないようなので、建設工事の施設だけの問題だとみられる。何かの施設が建設されているようだが、通常のタンク地区にあるような施設ではなく、はっきり分からない。 

■ 貯蔵タンクに関連する「タンク内外の火気工事における人身事故を防ぐ7つの教訓」20117月)を参考にする以前の問題で、死傷者6名を出すような不適切な工事管理があったとみられる。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

      Reuters.com , Six injured in fire at Phillips 66 Texas refinery tank farm,  January  18,  2023

      Newschannel10.com, Highway reopens 6 hours after fire at Phillips 66 Borger Complex,  January  18,  2023

      Abc7amarillo.com, Refinery Fire: At least 6 injured, Highway 136 between Borger, Stinnett closed for hours,  January  18,  2023

      Marketwatch.com, Phillips 66: Fire at Texas Oil Refinery Injured Six, 5,000 Pounds of Propane Released,  January  18,  2023

      Dailymail.co.u, Three people are injured in 'major' explosion and fire at fuel storage facility in northern Texas,  January  17,  2023

      Hydrocarbonprocessing.com, Six injured in fire at Phillips 66 Texas refinery tank farm,  January  18,  2023

      Zehllaw.com, Phillips 66 Refinery Fire Injures 6 Workers Near Borger, Texas,  January  18,  2023

      Arnolditkin.com, At Least 6 Injured in Phillips 66 Refinery Fire Near Amarillo, Texas,  January  18,  2023

      Metro.co.uk, Three injured after explosion sets fuel storage facility on fire,  January  17,  2023

      Mrchub.com, Six injured in fire at Phillips 66 Texas refinery tank farm,  January  18,  2023

      Myhighplains.com, 6 hospitalized, traffic impacted after Tuesday Johnson Tank Farm fire,  January  18,  2023

      Fox8live.com, 6 injured in fire at Texas oil refinery,  January  18,  2023

      Tankstoragemag.com, Six injured at Texas refinery,  January 18,  2023

      Amarillo.com, Man dies from injuries received in Borger Complex fire,  January  24,  2023


後 記: タンク地区で火災があり、負傷者が出たという一報から調べ始めました。どうやらタンク火災ではないようなのですが、メディアの記事によって内容に違いがありました。悩ませたのが、発災場所でした。石油精製所内ではないのは分かりましたが、“ジョンソン・タンク地区”がはっきりと別な道路名を明記しているところもあり、グーグルマップで探しましたが、それらしいところはありません。やっとストリートビューで被災写真と同じ工事施設が写っているので、特定できました。発災要因もほとんどの記事は調査中ということで分かりません。プロパンが放出したと報じているメディアがあり、事故要因としました。タンク地区でもプロパンを扱うような設備や配管があるように思いませんでしたし、工事でもプロパンを使用する設備は聞いたことはありませんが、タンク地区の工事で爆発性のあるプロパンを使用することは避けるべきだという思いから採用しました。6名の死傷者が出るような事故でしたが、取材記事は曖昧な点が残り、まだ新型コロナの影響があるのでしょうかね。

 

2023年2月7日火曜日

米国カンザス州で原油の埋設パイプラインが漏洩、小川へ流出

 今回は、2022127日(水)、カンザス州ワシントン郡でキーストン・パイプラインから石油が漏洩し、牧草地に流れ出て、一部が近くにあったクリーク(小川)に流出した事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、カナダ(Canada)のエネルギー会社であるTCエナージー社(TC Energy)の原油用のキーストン・パイプライン(Keystone Pipeline)である。 TCエナージー社は旧トランスカナダ社である。

■ 事故があったのは、カンザス州(Kansas)ワシントン郡(Washington County)の牧草地である。キーストン・パイプラインは、希釈ビチューメン(Diluted Bitumen)と呼ばれるタールサンド・オイル(Tar Sands Oil)をカナダのアルバータ州から米国オクラホマ州まで移送している。



<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 2022127日(水)夜、カンザス州ワシントン郡でキーストン・パイプラインから石油が漏洩し、牧草地に流れ出て、一部は近くにあったクリーク(小川)に流出した。

TCエナージー社は、127日(水)午後8時にキーストン・パイプラインを運転停止した。 

■ 夜が明け、空撮による映像によって、油漏洩が住民の農地に影響を与えた範囲が分かった。油が漏洩した区域は約1.5エーカ(6,070 ㎡)とみられる。

■ 流出現場近くの家では、油のにおいで目が覚めたと語っている。

  128日(木)、TCエナージー社はキーストン・パイプラインの警報システムが圧力低下を検出したと述べた。問題のあった個所を特定し、漏洩を制御するツールを展開しているという。

■ TCエナージー社は、漏洩の推定量が14,000バレル(2,226KL)だと発表した。しかし、漏洩の原因は明らかにされなかった。

■ カンザス州は、水のサンプリングと影響を受けた動物の保護に取りかかっている。死んだ動物の総数は明らかではないが、治療を試みたにもかかわらず死亡したビーバーが少なくとも1匹いるという。


被 害

■ パイプラインが損傷し、内部の油14,000バレル(2,226KL)が漏洩した。

■ 牧草地約1.5エーカ(6,070 ㎡)が油によって土壌汚染された。

■ 漏洩した油の一部がクリーク(小川)に流出し、水質汚染の被害が出た。動物への被害も出ている。

< 事故の原因 >

■ パイプラインが破損したものであるが、破損の原因は明らかにされていない。 

< 対 応 >

■ 127日(水)の夜に漏れが判明して以来、 TCエナージー社は復旧に取り組み始めた。油が注ぎ込んだクリークにオイルフェンスを展張し、複数のバキュームカーを使用して油の回収を行っている。1211日(日)時点では作業員250名が動員されている。また、 TCエナージー社は大気を含むモニタリングも実施している。

■ 住民の中には、 TCエナージー社が漏洩した油をどうするつもりなのか、埋めるのか、運び出して燃やすのかという素朴な疑問を呈している人がいるという。

■ 128日(木)、米国環境保護庁は、現時点で飲料水用の井戸や一般市民への影響はないとみられると述べた。米国環境保護庁は 地域コーディネーター2 名を現場に派遣した。

■ 環境専門家によると、希釈ビチューメンと呼ばれるタールサンド・オイルはピーナッツバターのように非常に粘りのある物質で、クリーンアップが難しい油だという。タールサンド・オイルの災害が発生した場合、従来の油流出よりも深刻であり、クリーンアップがはるかに困難で費用がかかり、毒性がはるかに高い。タールサンド・オイルの流出災害は何年もかかることがわかっている。

■ 128日(木)、米国パイプライン・危険物安全局(Federal Pipeline and Hazardous Materials Safety Administration PHMSA)はTCエナージー社に対して是正措置命令を出し、油漏洩の根本原因を調査するとともに10年間の検査を見直し、パイプライン漏洩のリスクを評価する是正作業計画を作成するよう指示している。パイプラインは連邦規制当局が認可した後に運用を再開できるという。

■ 1214日(水)、TCエナージー社は、牧草地に漏洩した部分の掘削を始めた。

■ 1215日(木)、 TCエナージー社は、クリークから4,125 バレル(656KL)の油を回収したと発表した。 1216日(金)、対応者は400名を超え、午後5時時点でクリークから 6,973 バレル(1,108KL)の油を回収した。1218日(日)までに7,233バレル(1,150KL)の油を回収した。しかし、 TCエナージー社によると、回収率はこの地域の今後の寒さによって遅くなる可能性があるという。寒さのため清掃が難しくなり、作業員は氷の生成を防ぐために間接的な熱を加える必要がある。

■ 1220日(火)、 TCエナージー社はパイプラインの漏洩部を切り取り、米国パイプライン・危険物安全局(PHMSA)の指示に従って金属試験を行うため研究所へ送った。

■ 1222日(木)、米国パイプライン・危険物安全局(PHMSA)はTCエナージー社が提出したキーストン・パイプラインの再開計画を承認した。これに基づき TCエナージー社はパイプラインのテストと検査を含め、再スタートの準備を始めた。米国パイプライン・危険物安全局(PHMSA)は、パイプラインが破裂したときよりも低い圧力で運転することを要求している。圧力は、127日の流出事故時の圧力よりも 20% 低く維持する必要があるという。しかし、 TCエナージー社と連邦政府機関は、127日の運転圧力がどのようなものであったかを明らかにしていない。

■ 202313日(火)、流出のあったクリークには封じ込め用のダムが作られ、パイプライン漏洩地点の上流から封じ込めダムの下流に一時的に迂回させる作業が進められている。流出したところから約3マイル(4.8km)下流部のクリークを封鎖し、集中的な清掃を容易にし、汚染を封じ込めようというものである。迂回路には水移送ポンプと地上のバイパスラインが設置され、毎分5,000ガロン(19KL/分)以上の水を移送できるという。

■ 2023123日(月)時点でTCエナージー社によると、油回収作業は順調に進んでいるという。現在までに推定流出量の約90%を回収した。作業員はスキマーやバキューム車などを使用してクリークと川岸から油と水を回収している。

■ カンザス州ワシントン郡の新聞は、キーストン・パイプラインが群を抜いてワシントン郡の最大の税収源であると報じた。郡における10の最大の納税者のうち7つはパイプラインに関与しているという。同紙によると、郡、2 つの学区、その他の地方自治体は、今年キーストン・パイプラインから合わせて190万ドル(247百万円)以上の税金を受け取っているという。TCエナージー社の最新の年次報告書では、133 億ドル(17,300億円)を超える年間収益と20億ドル(2,600億円)を超える純利益が報告されている。

■ キーストン・パイプラインは 2011年に操業を開始して以来、米国内で少なくとも 5件の漏洩が報告されている。

 注; 201711月に米国サウス・ダコタ州で起こった漏洩事故については、「米国サウス・ダコタ州で原油パイプラインから流出事故」を参照。






補 足

■「カンザス州」(Kansas)は、米国中西部に位置し、ネブラスカ州、オクラホマ州、コロラド州、ミズーリ州と隣接し、人口約294万人の州である。州全域がグレートプレーンズ(大平原)にあって土地が平坦であり、大規模農業に適しているため農業や牧畜業が盛んな州である。

「ワシントン郡」(Washington County)は、カンザス州の北部に位置し、人口は約5,800人の郡である。

■「キーストン・パイプライン」 (Keystone Pipeline)は、 1日あたり約60万バレルの石油をカナダから米国オクラホマ州に移送するパイプラインである。カナダのアルバータ州フォートマッケイ近くのオイルサンド採掘場から産出した原油(希釈ビチューメンと呼ばれるタールサンド・オイル)は米国のクッシングまで移送し、そこからメキシコ湾岸の製油所へは別のパイプラインに接続し、移送される。 TCエナージー社のパイプライン保有距離は、計画中のキーストンXLパイプラインを含めると、全長2,687マイル(4,300km)になる。

 キーストンXLパイプライン計画はオバマ政権時に凍結されたが、トランプ大統領は20173月に連邦政府の許可を出した。しかし、キーストンXLパイプラインは環境保護団体、アメリカ先住民族、地主の一部から強固な反対に遭い、バイデン大統領によって再び計画は凍結されている。なお、キーストンXLパイプラインはモンタナ州、サウス・ダコタ州、ネブラスカ州を横断する計画であるが、 TCエナージー社(旧トランスカナダ社)の流出解析によれば、1.5バレル(240リットル)以下の漏洩は10年間に2.2回と推定されている。1,000バレル(159KL)を超えるような漏洩は100年間に1回と推定されている

■「 TCエナージー社」(TC Energy)(旧トランスカナダ社;TransCanada)は、1951年に創業したカナダのカルガリーに本拠をおくエネルギー会社で、北米で原油、天然ガス、発電事業を展開する。 20195月 、同社は TransCanada Corporation から TC Energy Corporation に社名を変更し、カナダ、米国、メキシコでのパイプライン、発電、エネルギー貯蔵事業を含む同社の事業をよりよく反映させるものとしている。

所 感

■ 漏洩原因は、事業者(TCエナージー社)と規制当局(米国パイプライン・危険物安全局)が明らかにしていないが、パイプラインの建設時に問題であろう。問題としては溶接欠陥、防食コーティングの不良、配管敷設上の不良などである。201711月に起こった「米国サウス・ダコタ州で原油パイプラインから流出事故」では、水の浮力対策としてパイプラインの上にコンクリートのサドルを載せる工法に疑問が出されている。

■  201711月の「米国サウス・ダコタ州で原油パイプラインから流出事故」とは異なり、今回の事故はクリーク(小川)に流出したので、発災事業所としての対応は速いとはいえない。パイプライン漏洩事故の標準的な対応マニュアルはできているようだが、牧草地だけでなく、川への流出の場合、オイルフェンスの展張や油回収の作業が加わる。さらに、軽質の原油でなく、希釈ビチューメンと呼ばれるタールサンド・オイルの場合、油が川底に沈むので、クリーンアップは厄介な作業であることを示す事例である。

■ 一方、 201711月の事故と同様、配管漏洩原因を明らかにせず、クリーンアップ作業中(川の水質汚染や汚染土壌の浄化)が終わっていないにもかかわらず、運転再開計画を認める米国の進め方に疑問を持つ。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

      News.wgcu.org, The Keystone pipeline leaked in Kansas. What makes this spill so bad?,  December  17,  2022

      Nebraskapublicmedia.org, Watch: Aerial footage reveals extent of Keystone Pipeline spill,  December  10,  2022

      Tcenergy.com, Milepost 14 Incident,  December  8 February 01,  20222023

      Abcnews.go.com, Oil spill in rural Kansas creek shuts down Keystone pipeline system,  December  10,  2022

      Latimes.com, Oil spill into a rural Kansas creek shuts down the Keystone pipeline,  December  09,  2022

     Kcur.org,  Crews have cleaned up most of the oil that spilled out of the Keystone pipeline in Kansas,  January  18,  2023

     Nytimes.com, Oil Spill in Kansas Prompts Shutdown of Keystone Pipeline System,  December  09,  2022

     Kwch.com, Crews in Washington County report progress in cleanup from historic oil spill,  December  14,  2022

     Pbs.org, Keystone pipeline shuts down after oil spill in Kansas creek,  December  11,  2022

     Theguardian.com, Keystone pipeline raises concerns after third major spill in five years,  December  21,  2022

   Reuters.com, Keystone operator recovers about 2,600 barrels of oil from Kansas creek,  December  13,  2022


後 記:以前、パイプライン漏洩事故に対して信じられないくらい米国民は鈍いと感想を述べたことがありますが、今回は多量漏洩で川に流出した事故で対応が完了していないにもかかわらず、早々とパイプラインの再開を認めることになりました。ロシアのウクライナ侵攻で世界的な石油不足という背景があるので、政治的な判断があることは感じます。しかし、はっきり言えるのは、キーストン・パイプラインの生まれが悪く、今後も漏洩事故は起こりうるということです。

 一方、新型コロナによるメディアへの取材制限などの影響が少なくなってきたことを感じます。今回のメディアの記事の中で出色なのは、キーストン・パイプラインがワシントン郡の最大の税収源であり、そのほか学区や地方自治体が税金を受け取っていると報じた記事です。この構図は日本の原発の設置地区と同じだと感じました。「地獄の沙汰も金次第」(じごくのさたもかねしだい) ということわざは日本だけではないようですね。