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2022年10月28日金曜日

ロシアがウクライナのひまわり油タンクをカミカゼ無人機で攻撃

  今回は、20221016日(日)、ウクライナの港湾都市ムィコラーイウにあるエベリ・マリン・ターミナルにあるひまわり油のタンクがロシアの無人航空機によって攻撃された事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災施設は、ウクライナ(Ukraine)の港湾都市ムィコラーイウ(Mykolaiv)のザヴォドスキー地区(Zavodsky)にあるエベリ・マリン・ターミナル(Everi Marine Terminal)である。

■ 発災があったのは、ターミナルにあるひまわり油(Sunflower Oil)の貯蔵タンクである。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 20221016日(日)午後10時頃、ロシアの無人航空機(ドローン)がエベリ・マリン・ターミナルを攻撃した。

■ 目撃者によると、タンクから煙と炎が出ているという。当局によると、タンクにはひまわり油が入っており、貯蔵タンクが損傷して、漏れた油に火がついた。

■ 火災発生に伴い、消防隊が出動し、消火活動を行った。

■ ロシアの無人機攻撃により、17,500トンのひまわり油を貯蔵しているタンク2基が損傷し、ターミナル構外の道路にひまわり油が溜まっている。ターミナルでは、世界のひまわり油貿易の17%を扱っていた。

■ ドローンは“カミカゼ無人機”と呼ばれるイラン製の攻撃用無人航空機であるといわれている。ウクライナ当局はイラン製の無人航空機シャヘド-136Shahed-136)であるとみられる。イラン製の無人航空機がロシアーウクライナ戦争で使用されたのは1か月前の913日で、ウクライナ軍がハルキウ州クプヤンシク近くでドローンを撃墜し、確認された。1017日(月)、イランはロシアに無人機を供給していることを繰り返し否定した。クレムリンはコメントしていない。

■ ロシアは14機の無人航空機シャヘド-136を発射した。ウクライナ軍は11機の無人航空機を撃墜したが、残りの3機がエベリ・マリン・ターミナルの目的地まで飛行し、ひまわり油タンクと医薬品倉庫が被災した。

■ ユーチューブに火災の状況と消火活動について映像が投稿されている。YouTubeПожежа на підприємстві після атаки дронів-камікадзе神風無人機がムィコラーイウ地域のひまわり油タンクを標的に)2022/10/17を参照)



被 害
■ タンク・ターミナル内のひまわり油タンク2基(1基あたり7,500トン)が損傷した。1基はタンク側板に無人航空機の自爆により穴が開き、内部のひまわり油が漏洩した。タンク以外にも設備損傷があるとみられるが、全被災状況はわからない。 

■ ひまわり油タンク内に入っていた油が堤内火災で焼失した。油の一部が構外に流出し、道路上に溜まり、雨水排水系に流れた。

■ 死傷者は出なかった。

< 事故の原因 >

■ 戦争による軍事行動(無人航空機の自爆)である。(平常時の“故意の過失”に該当)

< 対 応 >

■ 消防隊は、約2時間、火災の消火活動を行った。主に堤内火災で、火災面積は1,000㎡だった。

■ ユーチューブに、ひまわり油が構外の道路上に流出している状況の映像が投稿された。YouTube「Дроныв Николаеве повредили цистерны с тысячами тонн подсолнечного масла — онотечет по улицам」ムィコラーイウのドローンは、数千トンのひまわり油タンクを損傷した-それは道路に流れる)2022/10/17を参照)

■ ウクライナ最大の港のひとつであるムィコラーイウは、ロシアの侵略が始まった時点で出荷を停止したが、ウクライナは国連とトルコが仲介した協定の下で食料の出荷ができるように港を開いた。しかし、ロシア占領下のヘルソン地域に近いムィコラーイウは、ここ数か月、絶え間なく砲撃を受けている。マリン・ターミナルは、6月と8月に少なくとも2回、攻撃を受けていた。住民のひとりは、「これは完全に民間の施設です。軍隊はいません」といい、攻撃は「経済を破壊し、食糧安全保障を破壊する」ためだと述べた。




補 足

■「ウクライナ」(Ukraine)は、東ヨーロッパに位置し、南に黒海と面する人口約4,500万人の国である。天然資源に恵まれ、鉄鉱石や石炭など資源立地指向の鉄鋼業を中心として重工業が発達している。

 2022224日(木)、ロシアが、突如、ウクライナに侵攻し、軍事衝突が起こった。

 ロシアがウクライナに侵攻して以降、タンクへの攻撃を紹介したのは、つぎのとおりである。

  ●「ウクライナ各地で石油貯蔵所が攻撃によってタンク火災」20223月)

  ●「ウクライナ各地の石油貯蔵所がミサイル攻撃によってタンク火災」20224月)

  ●「ウクライナで化学工場の硝酸タンクがロシアの攻撃で爆発」20226月)

  ●「ロシアのベルゴロド石油貯蔵所にヘリコプターによる攻撃」20225月)

  ●「ロシアのふたつの石油貯蔵所でタンク爆発・火災、テロ攻撃か」20224月)

  ●「ウクライナのクリヴィー・リフの石油貯蔵所がミサイル攻撃でタンク火災」20229月)

「ムィコラーイウ」(Mykolaiv)は、ウクライナの南部に位置し、ムィコラーイウ州の州都で人口約50万人の港湾都市である。ミコライフと表記されることもある。

■「ひまわり油」(Sunflower)は、ヒマワリの種子を原料とした油脂で、主に食用油として用いられている。可燃性物質であるが危険物ではないので、石油のような物性・性状は分からないところが多いが、ひとつのデータとして比重0.91.0、引火点290℃、沸点440℃という性状値があり、石油としては重油相当のオイルではないかと思われる。

■「発災タンク」は17,500トンと報じられているが、詳細はわからない。ムィコラーイウのザヴォドスキー地区にあるエベリ・マリン・ターミナルについてグーグルマップで調べたところ、側板が白一色の円筒タンクと側板に一本の帯が書かれたタンクが複数基並んでいる被災写真のタンク配置と似たところがあった。このタンク配置では、それぞれ4基ずつあり、側板が白一色の円筒タンクは直径約18mで、高さを約30mと仮定すると、容量は約7,600KLとなる。もうひとつのタンク側板に帯の書かれた円筒タンクは直径約18mで、高さを約20mと仮定すると、容量は約5,100KLとなる。タンク側板に帯の書かれた円筒タンクも被災している写真があり、側板の穴から内部の液が漏れているが、すでに消火活動は終わっており、水ではないかと思われる。

■「無人航空機シャヘド-136」(Shahed-136)は、イランの兵器メーカーのHESAIranian Aircraft Industrial Company)によって開発された無人航空機(ドローン)で、弾頭を搭載して標的に突っ込む自爆ドローンでカミカゼドローンとも呼ばれている。自爆ドローンはミサイルに代わる安価な精密誘導兵器として各国で開発され、配備が進んでいる。その中でも先行しているのが中東のイランである。最新の無人航空機の一つがシャヘド-136で、202112月に初めて公けになった。

 全長は3.5m、重量は200kg、弾頭重量は40kgで、自爆ドローンとしては比較的大型である。デルタ翼を採用した翼と胴体一体型の設計で、翼より先の機首は弾頭と誘導に必要な機器が納められている。プロペラ翼で飛行するが、離陸時は専用のランチャーとロケットアシストで加速させる必要がある。最高速度は時速185km、航続距離は少なくとも1,000kmである。飛行高度は604,000mで、エンジンは中国製エンジンの民生品を搭載しているので、騒音が激しく数km先から接近しているのが分かるという。通信衛星機能を搭載していないと思われ、GPSGlobal Positioning System)の座標をもとにした自律飛行だとみられる。YouTube「ロシアの新たな長距離攻撃兵器、イラン製自爆ドローン「Shahed 136」とは」2022/10/18)を参照)

所 感

カミカゼ無人機と呼ばれる無人航空機の自爆であるが、これまでのミサイル攻撃とは異なる被災状況である。

 ● 被災は複数タンクに及んでいるが、タンク火災にはなっていない。石油でなく、ひまわり油による影響かもしれない。

 ● 火災は堤内火災および周辺の火災である。

 ● タンク側板に穴が開いているほか、破片がほかのタンク側板や設備に当たっている。

 夜だったため、写真では炎が大きく映り、タンクの火災のように見えるが、ミサイル攻撃より損傷状況は大きくない。今回のテロ攻撃では、タンク火災がなく、被災状況は予想以上に小さいといった印象である。

■ ウクライナでは、異常な戦争状態が続いているためか、消防隊による消火活動は手際よくやっているように感じる。無人航空機(ドローン)によるテロ攻撃に鑑み、日本国内のテロ対策について考えるべき事項は、ウクライナでの石油貯蔵所へのミサイル攻撃と同様、つぎのとおりである。 

  ● 防油堤内の火災を想定すべきである。タンク側板に穴があくような被災を受けると、堤内火災が起こり、被害が周辺に拡大する。

 ● 堤内火災では大容量泡放射砲のシステムは有効でなく、今回の事例でも高発泡の泡消火モニターが使用されており、堤内火災用の高発泡設備が必要である。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

   Reuters.com,  Russian drones hit sunflower oil terminal in Ukraine‘s Mykolaiv – officials,  October 17,  2022

    Tankstoragemag.com, Ukrainian port city hit by Russian drones,  October 18,  2022

    Sabcnews.com, Russian drones hit sunflower oil terminal in Ukraine’s Mykolaiv,  October 17,  2022

    English.alarabiya.net, Russian missile strikes apartment building in Ukraine’s Mykolaiv,  October 18,  2022

    Euractiv.com,  US holds Russia responsible of ‘war crimes’ after drone attack hits Kyiv apartment block,  October 18,  2022

    Indianexpress.com, Watch: Russian drones hit sunflower oil tanks in Ukraine, roads flooded with oil,  October 19,  2022

    Franknews.globa, US condemns Russian ‘war crimes’,  October 18,  2022

    Mind.ua, В Миколаєві дрони-камікадзе пошкодили термінал, через який іде 17% світового експорту олії,  October 17,  2022


後 記: 今回の一報を見ると、タンク火災という情報でした。しかし、調べていくと、堤内火災または周辺火災で、しかも、消防隊による消火活動で2時間(数時間という情報もありましたが)で収束させています。ひまわり油だったからかも知れません。ひまわり油の性状をインターネットで検索したのですが、食用油なので、危険性のデータはなかなか出てきませんでした。使用済みの食用油はバイオディーゼル燃料になるくらいですから、軽油やA重油相当のオイルでしょう。そんなオイルのタンクを攻撃対象にすることが理解できません。(もともと戦争による軍事行動を普通の常識で理解しようというのが無理) 「国別の世界のひまわり油生産」(Atlasbig.com)によると、つぎのとおりです。(「経済を破壊し、食糧安全保障を破壊する」ためという話がまことしやかに聞こえますね)


2022年10月22日土曜日

群馬県の香料工場の円筒タンクで一酸化炭素中毒、死傷者3名

 今回は、2022915日(木)、群馬県板倉町の食品用香料などを製造する工場で、香料の製造作業に従事していた社員が円筒タンクで一酸化炭素の中毒で死傷者3名の出た人身災害を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、群馬県板倉町大蔵にある食品用香料などを製造する長谷川香料(株)の板倉工場である。

■ 事故があったのは、板倉工場内にある直径約120cm×高さ約170cmの円筒タンク(円柱タンク)である。タンクはコーヒーの香りがついた液体を入れるためのものである。


< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2022915日(木)午前11時頃、工場内で香料の製造作業に従事していた社員3人が体調不良になったという消防署への119番通報があった。

■ 通報にもとづき消防署が出動し、3人の社員は病院へ搬送された。いずれも男性で、48歳の男性が死亡し、30歳の男性は意識不明の重体で、41歳の男性社員は体調不良を訴えた。

■ 3人は、コーヒー豆を蒸留させたベーパーを冷却して香り付きの液体にし、タンクに移す工程で作業していた。 ふたりの男性社員がタンク内に倒れていた。通常はタンク内に入ることはないという。

■ 事故状況については報道記事によって、つぎのように微妙に違う。

 ● 30歳の男性社員は、タンク内にいた48歳の男性社員を外に出そうとタンク内に入り、さらに41歳の男性社員も駆け付け、タンク上部の直径約45cmの開閉式のふたからタンクの外に救出した。当時、タンク内に液体はなかったという。

 ● 41歳の男性社員がタンク内にいる2人に気付き、タンク上部の直径約45cmの開閉式のふたから救出した。

 ● タンクの中で意識を失った48歳の男性社員を別の30歳の男性社員が助けようとしているのを、周囲にいた男性社員が見つけ消防に通報した。通報を受けた消防が駆けつけたところ、タンクの中にいた2人はいずれも意識不明で、周囲にいた41歳の男性社員も頭痛とめまいの症状を訴えて病院に搬送された。

 ● 30歳の男性社員は、倒れていた48歳の男性社員を外に出そうとタンクに入ったという。その後、タンク内から大声が聞こえて、41歳の男性社員がふたりの救助に当たったが、体調不良を訴え救急搬送された。

■ タンク内から高濃度の一酸化炭素(CO)が検出されており、警察署は中毒になったとみて調べている。

被 害

■ 一酸化炭素中毒で男性従業員3名の死傷者が出た。1名が死亡し、1名は意識不明の重体で、1名は体調不良で病院へ搬送された。

< 事故の原因 >

■ 死傷者が出た原因はタンク内に存在していた一酸化炭素の中毒である。通常、タンク内に入ることはなく、当時、なぜ入槽したかなどの事故原因は調査中である。

< 対 応 >

■ 916日(金)、長谷川香料は、「亡くなられた社員のご冥福を心よりお祈 りするとともに、治療中の社員の一刻も早い回復を願っております」という声明を出すとともに、板倉工場の社員らで構成する事故調査委員会を立ち上げると発表した。長谷川香料は、関係省庁に全面的に協力しながら 「早期に事故の原因究明と再発防止策を検討していく」としている。長谷川香料は自社のウェブサイトにもプレスリリースを掲載している。

■ 916日(金)、労働基準監督署は工場の立入り調査に入り、安全管理に問題がなかったかを調べる。

■ 警察署によると、タンク上部に直径約45cmの開閉式のふたがあり、外から薬剤などを投入するためのものだという。通常は香料の製造作業中にタンク内に人が入ることはなく、同署は2人が何らかの理由で自ら入ったか、誤って落下したか当時の状況を詳しく調べている。

■ 916日(金)、長谷川香料によると、板倉工場は事故が発生した設備を除き、稼働を再開しているという。

補 足

■「群馬県」は、日本列島の内陸東部に位置し、関東地方の北西部にあり、人口約191万人の県である。

「板倉町」(いたくらまち)は、群馬県邑楽郡(おうらぐん)にあり、県の南東部最東端に位置する 人口約13,700人の町で、関東大都市圏に入る。

■「長谷川香料(株)」は、1903年の長谷川藤太郎商店創業に始まり、1961年に長谷川香料株式会社として設立された。 東京都中央区に本社を置く日本の香料メーカーで、国内2位のシェアを誇り、特に飲料用に圧倒的シェアを持っている。

 「板倉工場」は、1984年に食品部門の香料製造のために建設された。敷地面積:171,316㎡、従業員:231名の工場である。

■「香料の生産方法」は、原料、工程、素材、製品によって各種方法があり、概要を図に示す。

 素材は一般に天然香料と合成香料に分類され、天然香料は動植物から抽出、圧搾、蒸留などの物理的手段や酵素処理して得る。蒸留は「水蒸気蒸留」(Steam Distillation for Essential Oil Extraction)が一般的であり、採油する目的のもの(水に溶けやすいものが少ないもの)を水蒸気蒸留釜に詰め、水蒸気を吹き込み加熱し、熱水と精油成分が留出してくるので冷却して液体に戻し、精油を分離する。香料の水蒸気蒸留プロセスの概念図と水蒸気蒸留装置の例は図に示す。今回の事故の報道では、「3人は、コーヒー豆を蒸留させたベーパーを冷却して香り付きの液体にし、タンクに移す工程で作業していた」とあり、 「水蒸気蒸留」による作業をしていたものと考えられる。

所 感

■ 今回の事故状況は報道記事によって微妙に違うが、これまでの類似事例からつぎのような状況ではないかと類推する。

 ● 48歳の男性社員はタンク内に何らかの支障に出るものを見つけ、それを解消させようとタンク内に入ったのではないだろうか。善意の行動が裏目に出たと思われる。

 ● タンク内は一酸化炭素が充満または漂っていたため、 48歳の男性社員はタンク内で倒れた。一酸化炭素は、無色・無臭で感知しにくい気体であり、空気比0.967と空気とほぼ同じ重さの強い毒性を有している。

 ● 30歳の男性社員は、48歳の男性社員の行動を見ており、倒れた男性社員を外に出そうとタンク内に入った。この30歳の男性社員も倒れた。これも善意の行動が裏目に出た。

 ● 30歳の男性社員はタンク内に入る前に助けを得ようと大声で叫んだ。気づいた41歳の男性社員はタンク内をのぞいたところ2人が倒れているのに気付いたが、酸欠などで倒れたと思われるふたりを助け出すことは無理だと判断し、消防署へ通報した。 41歳の男性社員はタンク内をのぞいて状況を確認した際、一酸化炭素を吸い、体調が悪くなった。

 ● 消防署が駆け付け、タンク内の空気をガス検知器で確認したところ、タンク内から高濃度の一酸化炭素(CO)が検出された。消防署員は防毒マスクを装着して倒れたふたりを救出した。直径約120cm×高さ約170cmの円筒タンク内で倒れたふたりを直径約45cmの開閉式のふたから救出するのはかなり難しい作業だっただろう。

 ● 一酸化炭素は、濃度0.16%だと20分間で頭痛・めまい・吐き気、2時間で死亡する。濃度0.32%だと、510分間で頭痛・めまい、30分間で死亡する。濃度0.64%だと、12分間で頭痛・めまい、1530分間で死亡する。濃度1.28%では13分間で死亡するといわれている。

■ 製造方法は異なり、抽出法であるが、コーヒー豆から発生した一酸化炭素による中毒の事例がある。事例は、わかりやすく他社の人向けに作成された資料がある。このような資料を使って人身災害が出ないようにするのがよい。

 一酸化炭素ではないが、このブログでは、硫化水素などの中毒や酸素欠乏症で起こったタンク関連の人身災害について紹介しており、つぎのような事例がある。

 ●「石川県の製紙工場において溶剤タンクで死者3名」20186月)

 ●「大阪府のカーペット製造会社でタンク清掃時に転落、2名死亡」20192月)

 ●「北海道のでんぷん工場で男性が点検中にタンクへ転落か、死亡確認」 202010月)

 ●「日本製紙岩国工場においてタンク洗浄中に硫化水素中毒2名」 202112月)


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

  ・Jomo-news.co.jp, 香料工場事故3人死傷 製造作業中、CO中毒か 群馬・板倉町,  September 16,  2022

    T-hasegawa.co.jp, 当社社員死亡事故について(長谷川香料株式会社),  September 16,  2022

    Mainichi.jp, 香料工場で男性作業員死亡 一酸化炭素中毒か 群馬・板倉,  September 15,  2022

    Jomo-news.co.jp, 会社が事故調査委 板倉の香料工場3人死傷事故,  September 17,  2022

    Sankei.com, 香料工場で1人死亡 群馬、一酸化炭素中毒か,  September 15,  2022


後 記: 今回の事故は一か月前に起こったものですが、忙しいことと事故状況がはっきりしないこともあり、まとめを行いませんでした。というのも、上毛新聞というローカルメディアがあり、発災事業所はウェブサイトにプレスリリースを投稿していますので、続報が出ることを期待しました。しかし、被災者が死亡し、状況を把握している人がいないため、確証がとれないので、調査が難航しているのでしょう。このブログでは事故の再発を防止するという観点から、所感ではかなり類推したことを書きました。

 ところで、今回、香料メーカーという分野を初めて調べて初めて知ることが多々ありました。そのひとつは、香料の分野には、特許というものがありません。香料の製造は繊細であり、ノウハウの塊だそうで、特許を出さない方が自己防衛になるそうです。製造プロセスを調べられると、しゃべることができないところもあるかも知れませんね。

2022年10月18日火曜日

ペルーの原油パイプラインで油漏洩、熱帯雨林から川へ流出

 今回は、2022916日(金)、ペルーのアマゾン地域の熱帯雨林に敷設されているペトロペル社の原油パイプライン(ノルペルアーノ・パイプライン)で起きた油漏洩事故について紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災施設は、ペルー(Peru)の国営の石油企業であるペトロペル社(Petroperu)の原油パイプラインである。

■ 事故があったのは、ペルーのアマゾン地域から熱帯雨林を通って太平洋岸に原油を輸送するノルペルアーノ・パイプライン(Norperuano)である。ノルペルアーノ・パイプラインは、長さ1,106kmで原油をロレート県の北東部から太平洋岸のピウラ県(Piura)バヨバル(Bayovar)の港まで輸送するもので、建設から40年以上経っている。



< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2022916日(金)、ペルーのアマゾン地域の熱帯雨林に敷設されている原油パイプラインの55km地点で油漏洩が発生した。

■ 923日(金)、漏洩油はアマゾンの重要な支流のマラニョン川(Maranon)に向かって流れていき、先住民族の住む熱帯雨林の川に流れ出した。流出油の影響はククマ民族(Kukumas)など少なくとも6つの先住民コミュニティに与えている。ペルーの環境省は、流出量は少なくとも 2,500 バレル(398KL)であると推定している。パイプラインを管理しているペトロペル社は流出量を発表していない。

■ 現場に近い先住民コミュニティは油流出に抗議し、マラニョン川を封鎖した。封鎖によって、当局が水のサンプルを採取したり、先住民コミュニティに医薬品を配布することができないという。

■ ペルーは小規模な産油国で1日あたり40,000バレル(6,360KL)しか生産していないが、その油田はアマゾンに集中している。

■ 924日(土)、ペルー政府は、川が油流出の影響を受けている2つの先住民の居住地域であるクニニコ(Cuninico)とウラリナス(Urarinas)コミュニティで90日間の非常事態を宣言した。この地域には、漁業に依存する約2,500人の先住民が暮らしている。

■ ペトロペル社の声明によると、 今回の流出は原油パイプラインを意図的に損傷させた結果だと述べている。事故は意図的にパイプラインに長さ21cmの切り込みを入れたことが原因であると主張している。1月以降、11回目の攻撃による被災だという。

■ ペルー国立鉱業・石油・エネルギー協会(Peru’s National Society of Mining, Petroleum, and Energy; SNMPE)は、ノルペルアーノ・パイプラインは2014年以来、少なくとも29件の妨害行為の標的になっていると語っている。ペルーの特別環境検察官がすでに新たな調査を開始している。

■ 近年、ノルペルアーノ・パイプラインの施設では、何度も油の流出事故が発生している。

■ ユーチューブでは、油流出の映像が投稿されている。YouTubeOil spill in Peru‘s Amazon2022/09/29)を参照)


被 害

■ 原油パイプラインが漏洩し、内部の油が少なくとも2,500バレル(398KL)流出した。

■ 環境汚染を引き起こし、先住民族の生活水などに影響を及ぼした。 

< 事故の原因 >

■ ペトロペル社は、第三者が意図的にパイプラインに長さ約21cmの切り込みを入れたことが原因だと主張している。

< 対 応 >

■ ペトロペル社は、 2022916日(金)にクニーニコ川で原油の痕跡があったと報告した。漏れの出発点は、ロレート県ウラリナス地区のノルペルアーノ・パイプラインの42km地点だとみられ、パイプには約21cm の切り込みが確認されたという。これは、第三者が機械工具で行ったものとみられるという。

■ 緊急時対応計画によると、ペトロペル社の緊急対応チームは、自社の職員と請負業者で構成され、最初の封じ込め措置のために現場を訪れ、漏れを制御するために切り口の領域に木製のブロックを配置し、マラニョン川への封じ込めバリアが設置された。

■ 20221月にも、ノルペルアーノ・パイプラインの59km地点で別な油流出事故が起こっており、この油流出に関する報道は、つぎのとおりである。

 ● 120日(木)の夜、ノルペルアーノ・パイプライン59km地点で油漏れの情報があり、121 日(金)午前230分、パトロール隊員が意図的な切り込みによる油漏れだったことが確認された。

 ● ノルペルアーノ・ パイプライン59km地点の油漏れ発生してから15 日後、ロレート県ウラニアスのヌエバ・アリアンサ先住民コミュニティの住民は日常生活に使用する水が汚染されていると指摘した。ペトロペル社は流出を止めるために緊急時対応計画にもとづいて実施したと言っていたが、現場から20分のヌエバ・アリアンサに到達した油の汚濁は油流出が拡大したことを示しており、被害は報告されているよりも大きいとみられる。なお、意図的な切り込みが原因だと報告されているが、先住民コミュニティに影響を与えた環境災害の容疑者はまだ特定されていない。

 ● 27日(月)、ノルペルアーノ・ パイプライン59km地点の油漏れ事故では、損傷を警告する早期警告システム(監視カメラとパトロールで構成)が機能しなかったという。ペトロペル社は、流出量が200300バレル(3248KL)で、事故が大きな環境破壊を引き起こさず、影響は最小限だと語ったという。

 ● 27日(月)、ノルペルアーノ・ パイプライン59km地点の油漏れは、雨によってウリトゥヤク川に到達してしまった。先住民コミュニティは、自分たちが水を採る小川が影響を受けていると説明した。先住民コミュニティは、油が健康にもたらす危険性を知っており、このため、川の水を消費しないことに決め、現在、彼らは雨から集められる水だけに頼っているという。原油の漏洩後、雨が降ってきて、峡谷の水位が 2m近く上昇し、浅瀬から油が流出してしまい、油汚染が拡大している。

 ● オンブズマン事務局は、パイプラインを管理するペトロペル社がさらに被害が拡大するのを避けるためにクリーンアップと封じ込め措置を順守するよう環境評価執行機関(OEFA)に求めた。

■ 53日(火)、ペトロペル社は、パトロール要員によってノルペルアーノ・パイプラインに新たな切り込みが確認されたと非難した。パイプラインは2022213日以降、操業が麻痺しているという。

■ 71日(金)、ペトロペル社は、ノルペルアーノ・ パイプライン67km付近で25か所の意図的な切り込みがあり、前例のないテロ攻撃を受けたと報告した。79日(土)、当初、パイプラインへの切り込みが25か所と報告されていたが、修理の対応作業中に更に7か所の切り込みが確認され、合計32か所だったことが分かった。

■ 729日(金)、ペトロペル社は、ノルペルアーノ・パイプラインの235km地点に第三者の行動による6か所の新しい切り込みの存在が確認されたと発表した。

流出の歴史

■ ある報告によれば、2000年~2019年の間、ノルペルアーノ・パイプラインと関連施設(原油生産や中継基地など)で474件の油流出が発生したという。これらの流出の約 65%はパイプラインの腐食と関連施設の運用上のミスが原因だった。第三者による流出の原因は約29%を占めている。報告書によると、流出はペルーのアマゾン地帯で発生したことが分かった。この報告書についてペルー先住民族の環境監視グループは正確な記録と信じているが、ペルー政府はまだ正式に認めていない。

■ 報告書の作成理由のひとつは、ペルーのアマゾンでの油流出の責任者を特定することだった。企業や政府の声明では、パイプラインに損害を与えた第三者に一貫して責任があるとされている。 「流出が発生するたびに、それは第三者によって引き起こされたものであり、その地域の先住民コミュニティが責任を負っていると言われた」と先住民コミュニティはいう。 パイプラインを構築したエンジニアでさえ、パイプラインを破裂させるにはのこぎりよりもはるかに強力なものが必要になるだろうと語っている。

■ ノルペルアーノ・パイプラインの関連施設にブロック8やブロック192という原油生産施設がある。ブロック81970年から稼働しており、1971年~1996 年までペトロペル社によって運営されていた。その後、プラスペトロール・ノルテ社( Pluspetrol Norte)に譲渡された。プラスペトロール・ノルテ社は過去25年間、ブロック8を管理してきたが、この間、コリエンテス川とマラニョン川の流域に近いロレート県のトロンペテロスとウラリナス地区で油漏れによる罰金と制裁を繰り返してきた。ダテム・デル・マラニョン県のブロック192 でも状況はあまり変わらなかったが、2015年に操業が終了し、油流出に対処されていない修復への苦情が残った。2011年~2021年の間、ブロック 8とブロック192における操業に対して環境評価執行機関(OEFA)によって課された73件の懲戒手続きにより、72 件の罰金が課せられた。罰金の総額は 4,700万ドルを超えている。  

■ 別な報告書によれば、1997年~2021年の間、ノルペルアーノ・パイプライン、ブロック8やブロック192の原油生産施設に沿って流出した事例は533件である。油流出の33%は運用上のミスであり、22.3%は腐食によるもので、31.1%は第三者に関連しており、13.6% は自然災害による原因だった。

 最近でも、顕著な流出事例がいくつか発生している。

 ● 2014年にロレート県のクニーニコで発生した事故では、2,500 バレル(398KL)の油が流出した。

 ● 2016年には、同じくロレート県のモローナで 1,444 バレル(230KL)が流出した。

 ● 2016年、アマゾナス県のイマザで 3,000 バレル(477KL)が流出した。

 この3つのケースだけで、約7,000 バレル(1,110KL)がアマゾンの川、小川、土壌に流出したことになる。この3回の油流出によって、先住民コミュニティは農場を失い、川で魚を釣ることができなかったため、経済的に損害を受けたと述べ、補償を求めていた。また、二度と流出しないという保証を望んでいた。

 ● 20196月、ロレート県で妨害行為による油流出が発生し、先住民1,230 世帯の飲料水が汚染された。




補 足

■「ペルー」(Peru)は、正式にはペルー共和国で、南アメリカの西部に位置し、人口約3,300万人の共和制国家である。北にコロンビア、北西にエクアドル、東にブラジル、南東にボリビア、南にチリと国境を接し、西は太平洋に面しており、首都はリマである。

 ペルーは紀元前から多くの古代文明が栄えており、16世紀までは当時の世界で最大級の帝国だったインカ帝国の中心地だった。その後、スペインに征服され、植民地時代にペルー副王領の中心地となり、独立後は大統領制の共和国となった。民族は、メスティソ(混血)60.2%、先住民(アマゾン先住民等)25.8%、白人系5.9%、アフリカ系3.6%、その他4.5%である。 

 ペルーの国土は大きく三つの地形に分けられ、砂漠が広がる太平洋沿岸部のコスタ(国土の約12%)、アンデス山脈が連なる高地のシエラ(約28%)、アマゾン川流域のセルバ(約60%)である。ペルーは貧富の格差が大きく、特に山岳地域やアマゾン地域においては、貧困層の割合が高く、電力、上下水道・衛生、灌漑などの基礎インフラが十分整備されていないなど経済成長の恩恵から取り残されており、沿岸部と山岳地域・アマゾン地域との格差是正が大きな課題となっている。

■「ペトロペル社」(Petroperu)は、1969年に設立されたペルー国営の石油企業である。原油や天然ガスの探査、開発、輸送、精製、流通、マーケティングを専門とする一貫した石油企業である。

■「ノルペルアーノ・パイプライン」(Norperuano)は1972年に建設が開始され、1978年に完成したペルーの原油パイプラインである。原油採掘地域のロレート県からアンデス山脈を越え、ピウラ県の太平洋岸にあるバヨバルのタンクターミナルまで全長1,106kmである。ノルペルアーノ・パイプラインの輸送能力は10万バレル/日であるが、実際の輸送量は4万バレル/日程度である。

 原油採掘のロレート県からのパイプラインは熱帯雨林(ジャングル)があり、起伏の多い地形を横切ったり、水没したりするため、パイプラインにはエポキシ塗料で保護されており、H型の支柱を使用している箇所もある。北分岐パイプラインとの合流のボルハからは山岳と砂漠地帯で、ポリエチレンテープまたはタール・コーティングで保護されている。

所 感

■ 今回のペトロペル社のノルペルアーノ・パイプラインにおける油流出事故の原因は、第三者による意図的にパイプラインに長さ約21cmの切り込みを入れたことによるものだろう。しかし、破損状況を示す写真などの情報はなく、断言はできないように感じる事例である。

■ はっきりしているのは、ノルペルアーノ・パイプラインのアマゾン熱帯雨林における設置環境が極めて劣悪で、腐食対策はとられているようだが、パイプラインの保守は難しい。パイプラインと原油生産施設における油流出事故は多く、さらに近年、パイプラインに切り込みを入れるテロ攻撃が増えており、パイプラインの維持管理や運用管理が厳しくなっている。この点、「ホットタッピング」で石油パイプラインの油窃盗を行うつぎのような事例とは明らかに異なる背景がある。

 ●20191月、「メキシコの石油パイプラインで違法な油採取中に爆発、死者99名」

 ●20178月、「メキシコの石油パイプラインで油窃盗中に爆発、死傷者6名」

 ●20147月、「メキシコで原油パイプラインからの油窃盗失敗で流出事故」


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Jp.reuters.com, Peru indigenous groups block river in the Amazon after oil spill,  September  29,  2022

    Tankstoragemag.com, Peru oil spill labelled  ‘intentional’,  September  30,  2022

    Singletonargus.com.au, Peru river blocked after Amazon oil spill,  September  29,  2022

    Newsus.cgtn.com, Oil spill in Peru's Amazon,  September  29,  2022

    Brazilian.report, Peru declares state of energency after Amazon oil spills,  September  26,  2022

    Energynews.pro,  ペルーではペトロペル社が先住民族と衝突,  September  29,  2022

    Exitosanoticias.pe, Loreto: reportan que derrame de petróleo en el Oleoducto Norperuano llegó al río Marañón, September  16,  2022

    Larepublica.pe, Loreto: 56 comunidades nativas siguen en pie de lucha por derrame de petróleo, September  29,  2022

    News.mongabay.com, More than 470 oil spills in the Peruvian Amazon since 2000: Report, October  06,  2020

    News.mongabay.com, Pluspetrol Norte: A history of unpaid sanctions and oil spills in the Peruvian Amazon, September 29,  2022

    Dialogochino.net, Oil spills stain the Amazon in Peru. Why has it been so slow to act?, May 10,  2022


後 記: ペルーでパイプライン流出事故が起こったという情報を知り、タンク関連設備であり、調べてみようと思いました。ところが、調べ始めて事故の発生日さえはっきりせず、流出状況も曖昧で、一時はまとめをやめようと思いました。しかし、ペルーのパイプラインが先住民族の生活を脅かす存在であることから意を決して(大げさかな)やはり調べてみることにしました。今回の事故だけでなく、これまでの流出状況にさかのぼる必要があると考え、関連の記事を読んでいくと、少しずつ内容が異なり、収束するどころか、発散していきました。結局、パイプライン流出事故は予想以上に多い(らしい)ことが分かりましたが、個々の漏洩状況ははっきりしません。第三者による意図的にパイプラインに切り込みを入れるテロ攻撃は、ホットタッピングで石油パイプラインの油窃盗を行う事例とは明らかに異なり、パイプラインの運用をやめさせようとする背景がありそうです。産油国にもいろいろな国情があることが分かりました。

 最後に話題を変え、ペルーという国を調べていて、インカ帝国の遺跡のマチュピチュやナスカの地上絵などは有名で知っていましたが、レインボーマウンテン(正式名称「ビニクンカ山」)という本当にあるのかなという山を知りました。世界は広いですね。


2022年10月6日木曜日

ロシア‐ドイツ間の天然ガス用海底パイプラインの漏れは止まった?

 今回は、2022926日(月)に欧州のバルト海ボルンホルム島沖の海上でガス漏れとみられる大量の泡が発生した事例を紹介します。ガス漏れの発生源はロシア‐ドイツ間の天然ガス用海底パイプラインとみられ、報道では欧米とロシアの観念的な言い合いが報じられていますが、このブログでは政治的な話を抜きにガス漏れの状況とその対応に焦点を当ててまとめてみました。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、欧州のバルト海(Baltic Sea)ボルンホルム島(Bornholm)のデンマーク(Denmark) とスウェーデン(Sweden)沖の海底である。

■ 事故があったのは、海底パイプラインのノルドストリーム(Nord Stream)の敷設場所付近である。ノルドストリームはロシア(Russia)のガスプロム社(Gazprom)が所有し、ロシア・サンクトペテルブルク近くの沿岸からドイツ北東部まで約1,200kmにわたる天然ガスパイプラインである。


<事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2022926日(月)の夜、ノルドストリーム2パイプラインのオペレーターは、105バールからわずか7バールまで急激に圧力が低下したことを確認した。その後、バルト海の海面にガスで泡立っていたのが確認された。

■ 927日(火)、デンマーク国防司令部は、バルト海にあるボルンホルム島沖の3か所でガス漏れが確認されたことを明らかにした。ガス漏れ源は天然ガスパイプラインのノルドストリームだとみられるという。ガス漏れは、2本あるパイプラインのうち、ノルドストリーム1の2か所、ノルドストリーム2の1か所で起き、ガス漏れが原因とみられる泡(最大のものは直径1km)が海面に発生している。海面のガス漏れによる泡の状況は映像が公開され、ユーチューブに投稿されている。YoutubeFootage shows Russia's Nord Stream gas pipelines leaking under Baltic Sea2022/09/28)を参照)

■ デンマーク当局は海上交通に危険があるとして、島の沖から5海里(約9km)以内の航行を禁止した。このパイプラインをめぐっては、ロシア側がウクライナへの軍事侵攻後に供給量を大幅に減らし、20228月末から完全に停止していて、残っていたガスが漏れたとみられる。

■ 927日(火)、ロシアは、ノルドストリームの3つのパイプラインが同じ日に損傷したと発表した。3つのパイプラインが同日に損傷するのは前例がないといい、復旧の見通しは立っていない。

■ 929日(木)、スウェーデン沿岸警備隊は、パイプラインのノルドストリームで4件目となるガス漏れを確認した。沿岸警備隊によると、スウェーデン海域の2件のガス漏れは1.8km離れており、スウェーデン海域のガス漏れから最も近いデンマーク海域のガス漏れ箇所までの距離は4.6kmだという。

■ ガス漏れは、いずれもバルト海に浮かぶデンマークのボルンホルム島付近で、それぞれ比較的近い場所で起きた。ボルンホルム島は、西をデンマーク、北をスウェーデン、南をドイツとポーランドに囲まれている。ガス漏れが起きているのは国際水域だけではなく、デンマークとスウェーデンの排他的経済水域でも起きている。この地域はかなり浅く、平均して水深50m前後だという。

■ 929日(木)、ガス漏れの2か所はデンマークの排他的経済水域内で発生しており、デンマーク当局者は、パイプライン内にあったガスの半分以上がこれまでにバルト海に放出され、残り大半も102日(日)まで漏れるだろうと述べ、漏れは少なくとも1週間続く可能性が高いと述べた。

■ ガス漏れの原因はわかっていないが、スウェーデンの地震学者は926日(月)に海底で爆発を観測したと語った。地震学者はマグニチュード2.3の地震に相当する揺れを記録しており、複数の爆発があったとみられると説明している。

■ スウェーデンの地震ネットワークとデンマークの地震ネットワークの両方が、926日(月)にガス漏れの地域で2回の爆発の可能性が記録されたと述べた。最初の爆発はスウェーデン時間の926日(月)午前23分に発生し、2 回目の大きな爆発は午後7 4分に発生した。地震データにより、スウェーデン海事局が2 つ目の漏洩の場所として指定した場所からわずか数km以内に 2 回目の爆発があったことが特定できたという。「正確ではないが、漏れの領域にかなり近いといえる」という。

 地震専門家によると、24 時間以内にこのような特殊な地震の特徴を作り出した可能性のある自然現象はないという。その代わりに、スウェーデン海軍が爆雷と海底機雷を使用して訓練演習を実施したときに、地震ネットワークが検出した地震現象に非常に似ているという。

■ スウェーデンとデンマークの地震学者はガス漏れの近くで2つの爆発の可能性を記録したが、爆発は海底ではなく、水中で発生したとみられるという。英国の防衛関係筋は、爆発はおそらく計画的で、水中地雷やその他の爆発物を使用して遠くから爆発させたとみられると語っている。 

■ 101日(土)、デンマークのエネルギー庁は、バルト海で破裂した 2本の天然ガスパイプラインのうちの1本の漏出が止まったようにみえると述べた。ノルドストリーム2を運営している会社から、ロシアからドイツまで走るパイプラインの圧力が安定したようにみえると知らされたという。これは、ノルドストリーム2のパイプラインでガスの漏れが止まったことを示しているとみている。

■ 102日(日)、デンマークのエネルギー庁は、ノルドストリーム1とノルドストリーム2 のパイプラインからの漏れが最終的に止まったと語った。破裂したパイプラインに入る水からの圧力でガスの漏れを止めたとガスプロム社が述べたが、その根拠ははっきりしなかった。

■ 103日(月)、スウェーデンの沿岸警備隊は、ノルドストリーム1からのガス漏れは、海面では確認できなくなったことを明らかにした。一方で103日(月)の午後に上空から観測したところ、ノルドストリーム2からは直径約30mのガス漏れが依然として確認でき、規模もわずかに拡大したという。

被 害

■ 海底パイプラインのノルドストリーム1とノルドストリーム2が、ボルンホルム島沖の海底で損傷したとみられる。

■ 海底パイプライン内に残っていた天然ガス(主にメタンガス)が海中へ漏出して、海面から大気へ放散し、環境汚染を引き起こしたとみられる。  

< 事故の原因 >

■ 原因は調査中で分かっていない。(爆発物による破壊工作という話があるが、爆発の状態は確認されていない)


< 対 応 >

■ 海底パイプラインのノルドストリーム1とノルドストリーム2が破壊工作を受けた疑いがあることを受け、欧州各国は、928日(水)、石油・天然ガス関連施設周辺のセキュリティを強化すると発表した。一方、EU(欧州連合) に加盟していないノルウェーは、石油と天然ガスの施設を保護するために軍隊を配備すると述べた。石油が豊富な国で、欧州最大の天然ガス供給国でもあるノルウェーは、陸上・海上設備のセキュリティを強化するとエネルギー相は述べた。

■ 専門家によると、海底パイプラインなどの施設を保護するための出発点は2つあるという。ひとつ目は、機器の故障や問題を自動検出する方法を構築すること。そして、損傷が発生した際に現場に急行して検査できる水中ドローンなどの機器を用意することである。ノルウェーは、エネルギー関連のインフラストラクチャーの軍事的保護を強化すると語っており、こうした措置はすでに始まっているとみられる。

■ デンマークとスウェーデンが調査を進めているが、現場での検査は未実施で、爆発の原因もはっきりしていない。欧州当局者は調査開始まで2週間かかるとの見方を示す一方、別の情報筋は102日(日)にも調査が始まるかもしれないという。

■ 欧州中の捜査当局は、誰が、何が、今回の爆発とおぼしき事件を引き起こしたかを正確に突き止めようとしている。捜査には地震データやその他のセンサーを含む、この地域に関して保有されているデータの調査のほか、事件に関する通信が傍受されたかどうかの調査、意図的な破壊の形跡がないか確認するためのパイプラインの調査など、複数のステップが含まれる可能性が高い。

■ パイプラインは水中の圧力に耐えることができるように、コンクリートでコーティングされた厚い鋼管で作られており、それらを損傷するにはかなりの力が必要である。スウェーデン王立工科大学の教授は、海底に残ったクレーターの大きさとパイプの損傷を調べることで、爆薬のサイズと爆発の場所に関する答えが得られる可能性があると述べた。海底の痕跡を調べれば、爆発装置がどこに置かれたかを突き止めることができるだろうという。しかし、ガスの漏れが重要な証拠を吹き飛ばした可能性があると付け加えた。

■ 欧州の安全保障当局者が、926日(月)と27日(火)にバルト海のガス漏れが発生した地点の近くで、ロシア海軍の補助艦を確認していたことがわかった。ガス漏れは926日(月)に発生し、水中での爆発が原因だった可能性が高いといわれている。この情報はロシア艦船が爆発と関係しているかはわからないが、今後の調査対象の一つになる。ただ、デンマーク軍の当局者は、ロシアの艦船がこの海域を日頃から航行しており、そうした船が存在しても、ロシアがパイプラインを損傷させたことを示すとは限らないと語った。近年、ロシアはバルト海での活動を活発化させており、海でも空でもデンマークが気づいているかを試しているとみている。しかし、そうした目撃情報はロシアに対する疑いの目が増す結果となっている。

■ 929日(木)、ドイツは、ノルドストリームの損傷でパイプラインから約30万トンのメタンガスが大気中に放出されたと見積もった。メタンは地球温暖化を最も強力に促すガスの一つで、この放出量が20年の期間で気候変動に及ぼす影響は自動車約548万台の年間排出ガス量に匹敵するという。損傷したノルドストリーム1は稼働停止中で、ノルドストリーム2は一度も稼働したことがなかった。それでも2本とも圧縮天然ガスが通っており、そのガスの大半はメタンだった。ドイツ連邦環境庁は、放出されたメタンの量はパイプライン2本の当時の推定状況やガスの量に関する情報を基に算出したと説明した。パイプラインには漏れたガスを抑え込む仕組みはなく、内部のガスは全て放出される公算が大きいという見方を示した。

■ 929日(木)、英国の持続可能性ガス研究所は、海底パイプラインからのガス漏れに関する既存のデータは乏しく、海面に達したガスの量を正確に把握することは困難だと語った。「ロシア国営ガス会社では、ガスの流量に基づく試算を行うだろうが、彼らは実際の大気中へのガス(メタン)漏れの量について、測定と監視を行うチームを派遣する必要がある」と研究員は言う。

■ 101日(土)、ロシアの国営ガス会社のガスプロム社は、「8億㎥のガス漏れが起きていると思われる。漏れたパイプラインには、8億㎥のガスが入っていると推定され、これはデンマークの3か月間の消費量に相当する」と明らかにした。

■ 安全保障関係者は、もし攻撃が意図的なものであれば、無人の水中ドローンによって実行されたか、ボートによって地雷が投下または設置されたか、ダイバーによって実行されたか、あるいはパイプ内部から実行された可能性があると推測している。しかし、爆発の原因が何なのか、どこから来たのか、パイプラインの外側からなのか内側からなのか、まだわかっていないという。パイプ内側からの可能性については、

ロシアからドイツへのパイプラインには、ピギング(ピグ工法)と呼ばれる作業によって洗浄機や検査機を送り込むことができ、ピギングを転用した攻撃もありうるという。

■ 2007年、ノルドストリームが最初に建設される前、スウェーデン国防研究所によるプロジェクト計画の照査において、テロとの関連でパイプライン周辺における爆発の可能性について警告が出されたことがある。この中で、「コンクリートで覆われているとはいえ、パイプラインはかなり脆弱であり、ダイバーがひとりいれば爆発物を設置するには十分である。ただし、そのような攻撃による影響はそれほど大きくないとみられ、この種の小規模な事件が大規模な爆発につながることはほとんどないと考えられる」とこの報告書では説明している。

■ スウェーデン当局によると、漏れが止まり、パイプラインを安全に検査できるようになるまでには、1 2 週間かかる可能性が高いという。英国オックスフォード大学の専門家は、損傷した部分を交換する必要があるため、修理には36か月かかると見積もっている。過去の別なパイプラインへの同様の損傷には、9か月かかったという。

■ ドイツ当局は、迅速に修理されない限り、損傷したパイプラインが海水による腐食のために再び稼働する可能性は低いと述べた。


補 足

■「バルト海」(Baltic Sea)は、欧州の北に位置する地中海で、ヨーロッパ大陸とスカンディナビア半島に囲まれた海域である。ユーラシア大陸に囲まれた海域ともいう。 西岸にスウェーデン、東岸は北から順にフィンランド、ロシア、エストニア、ラトビア、リトアニア、南岸は東から西にポーランド、ドイツ、デンマークが位置する。

「ボルンホルム島」(Bornholm)は、バルト海上にあるデンマーク領で、人口約4万人の島である。スウェーデン、ドイツ、ポーランドに挟まれており、行政面ではデンマーク首都地域のボルンホルム基礎自治体を成している。ボーンホルム島と表記されることもある。

■ 「ノルドストリーム」 (Nord Stream)は、ロシアの国営企業ガスプロム社(Gazprom)が所有し、ロシア・サンクトペテルブルク近くの沿岸からドイツ北東部まで約1,200kmにわたる天然ガスパイプラインである。パイプラインは長さ12mのパイプ約20万本で構成され、直径48インチ径で厚さ約40mmの鋼製ラインパイプで、厚さ110mmのコンクリートの被覆が施されている。 

 名称のノルドには「北」、ストリームには「流れ」という意味がある。ノルドストリームは大きく2本あり、それぞれ「ノルドストリーム1」「ノルドストリーム2」と称し、2020年時点の概要は表のとおりである。

 ノルドストリーム1は2012108日に開通した。全長1,222kmのノルドストリーム1は、ランゲルド・パイプラインを上回る世界最長の海底パイプラインとなった。2018年から2021年にかけてノルドストリーム2の敷設が行われ、20219月に完成した。

 ノルドストリーム・プロジェクトは、パイプラインが欧州におけるロシアの影響力を強めるという懸念や、中・東欧諸国の既存パイプラインの使用料が連鎖的に削減されるという理由から、米国、中・東欧諸国から反対を受けていた。ロシアがドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国を承認すると表明したことを受けて、この決定が領土保全と国家主権の尊重という国際法の原則に反する行為であるとして、ドイツの首相は2022222日にノルドストリーム2の認証作業を停止した。

 2022224日(木)のロシアによるウクライナ侵攻以降の影響は、つぎのとおりである。

 ●「ノルドストリーム2」はまだ一度も稼働したことはない。ロシアによるウクライナ侵攻の直前にドイツにより運用開始が延期された。しかし、20229月の時点で、パイプライン内に3億㎥の天然ガスが入っていたという。

 ● 稼動していた「ノルドストリーム1」は、20226月に輸送量が 75%削減され、1日あたり 17,000万㎥が約 4,000万㎥になった。

 ● 20227月、 「ノルドストリーム1」は定期的な点検作業を理由に10日間停止された。再開したとき、流量は 1日あたり2,000万㎥と半分になった。

 ● 20228月下旬、「ノルドストリーム1」は機器の不具合を理由に完全に閉鎖された。それ以来、パイプラインは稼動していない。

所 感

■ バルト海のガス漏れの事象について、報道では欧米とロシアの観念的な言い合いが報じられている。しかし、爆発やパイプラインの損傷状態を見た人はなく、まず真偽に疑問をもつのが率直な感想である。そこで、このブログでは、報道記事の中で政治的な話を抜きにガス漏れの状況とその対応に焦点を当ててまとめた。

■ それでも、海面のガス漏れは海底パイプラインから来ているものという推測に間違いないだろう。海底パイプラインから天然ガスが海上に漏れた事例としては、つぎのようなメキシコ湾で海上に漏れたガスに落雷で着火した事故がある。

 ●「メキシコ湾の海が燃えている?」 20219月)

 バルト海はNASAによる世界の雷マップ」20126月)で雷の発生頻度が低いところであるが、今回の事例では4か所から天然ガスが漏れているのによく火がつかなかったものである。

 このほか海底パイプラインからの流出や天然ガスパイプラインの爆発・火災事故には、つぎのような事例がある。

 ●「オーストリアの天然ガスパイプライン施設で爆発、死傷者22名」201712月)

 ●「インドネシアのボルネオ島で海底パイプラインから油流出、死者5名」20184月)

 ●「米国オハイオ州で天然ガスパイプラインが爆発」20182月)

■ すでに捜査は始まっているとみられるが、ガス漏れが止まった(らしい)ので、つぎはデンマークとスウェーデンが主となる状況調査が行われる。その状況を注視しておきたい。


備 考

 本情報はつぎの情報に基づいてまとめたものである。

   Nhk.or.jp,  ロシア ドイツ結ぶパイプラインガス漏れ原因に関心集まる,  September  28,  2022

     Cnn.co.jp,  海底パイプラインで4件目のガス漏れ スウェーデンが確認,  September  30,  2022

     Bbc.com,  欧州、石油・ガス施設のセキュリティを強化 ガス漏れはロシアの「破壊工作」,  September  29,  2022

     Nippon.com, 8億立方メートルのガス漏れか ロシア国営ガス会社が指摘 ロシアからドイツへのパイプライン,  October  01,  2022

     Wired.jp, 「ノルドストリーム」で起きたガス漏れは破壊行為なのか? 難航が見込まれる破損原因の究明,  October  01,  2022

     Nordot.app,  ノルドストリームガス漏れ 意図的損傷の可能性も,  September  28,  2022

     Bloomberg.co.jp,   ノルドストリームのガス漏れ、気候変動に深刻な影響も-メタンを放出,  September  28,  2022

     Nytimes.com, Mysterious Blasts and Gas Leaks: What We Know About the Pipeline Breaks in Europe,  September  28,  2022

     Bbc.com, Nord Stream: Sweden finds new leak in Russian gas pipeline,  September  30,  2022

     Npr.org , Seismologists suspect explosions damaged undersea pipelines that carry Russian gas,  September  27,  2022

     Euronews.com, Nord Stream: Fourth leak found as Russia and West trade blame over alleged sabotage of gas pipeline,  September  29,  2022

     Apnews.com, Danes: Nord Stream 2 pipeline seems to have stopped leaking,  October  02,  2022

     Nature.com, What do Nord Stream methane leaks mean for climate change?,  September  30,  2022

     Nytimes.com, The Nord Stream pipelines have stopped leaking, the Danish Energy Agency says. ,  October  02,  2022

     Equity.jiji.com,  ガス漏れ、一部停止もまだ継続=ロシアのパイプラインスウェーデン,  October  03,  2022


後 記: 今回の報道では、意図的な妨害行為によって引き起こされたとし、背後にある動機についていろいろな記事が出されています。政治的プロパガンダといえるでしょう。状況調査が行われますので、その状況を注視しておきますが、救いは報道の自由度ランキング(2022年)で2位のデンマークと3位のスウェーデンが報じることになるので、事実が曲げられることは無いでしょう。