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2022年5月23日月曜日

ロシアのベルゴロド石油貯蔵所にヘリコプターによる攻撃(4月1日)

  今回は、202241日(金)、ロシアのベルゴロドにあるロシア国営石油会社ロスネフチ社の石油貯蔵所においてヘリコプターによる攻撃でタンクが火災となった事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、ロシア(Russia)のベルゴロド(Belgorod )にあるロシア国営石油会社ロスネフチ社(Rosneft)の石油貯蔵所である。 

■ 事故があったのは、石油貯蔵所内にある容量2,000KLの燃料タンクである。


 <事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 202241日(金)午前5時頃、ベルゴロドの石油貯蔵所に爆発があり、タンクが火災を起こした。 

■ 火災は容量2,000KLの燃料タンク8基に及んだ。 

■ 事故発生に伴い、消防隊が出動し、火災の拡大防止に努めたが、8基の貯蔵タンクの火災がさらに広がるのを防ぐのに苦労していた。出動した消防士は70名、消防車両20台で対応していたが、火災の規模が大きいため、消防隊員は194名に増員され、消防車両などの消火装備は59台に増強された。 

■ 付近の住民には避難指示が出され、退避措置がとられた。 

■ 事故に伴い、施設の管理職員ふたりが負傷した。 

■ 英国メディアBBCによると、ソーシャルメディア(SNS)のツイッターに投稿された動画では、ロシアとウクライナの国境から約40kmにあるベルゴロドにおいて、集合住宅の近くで石油貯蔵所が燃えている様子が見え、中には、ヘリコプターが低空飛行してミサイルで石油貯蔵所を直撃し、火災が発生する様子が見える映像もあると報じている。BBCは、この映像の真偽はまだ確認されていないという。

■ ベルゴロド州知事は、州都にある石油貯蔵所でウクライナ軍のMi-24ヘリコプター2機が非常に低い高度でロシア空域に入り、ミサイル攻撃に行い、出火したと非難した。ウクライナ側はこれを認めていない。 

■ 米国メディアCNNによると、ベルゴロド州知事がSNS「テレグラム」の自身のチャンネルで、火災が起きたのはウクライナのせいだと証拠を示さずに主張した。CNNはこの主張を検証できていない。 

■ 英国メディアのロイター通信は、爆発を示したCCTV映像を入手したと報じ、映像に刻印された日付と時刻は石油貯蔵所での火災に対応しており、ビデオの建物が石油貯蔵所のエリアの建物と一致していることを確認した。ロイターによると、確認した場所からの防犯カメラの映像は低高度から発射されたミサイルのような閃光と、それに続いて地上での爆発を示している。 

■ 関連するユーチューブの動画はつぎのとおりである。

 ● YouTube、Ukraine War - Airstrike On Russian Soil! MI-24 Helicopters Strike Oil Depot In Belgorod(ウクライナ戦争-ロシア領土への空爆!ベルゴロドの石油貯蔵所にMI-24ヘリコプターが攻撃)(2022/04/01

 ● YouTube、Момент взрыва на нефтебазе в Белгороде и видео пожара(ベルゴロドの石油貯蔵所での爆発の瞬間と火災のビデオ) (2022/04/01

 ●YouTube、Ukraine accused of launching first airstrike on Russian territory since war began」ウクライナは戦争が始まって以来、ロシア領土で最初の空爆を開始したと非難された)2022/04/02

被 害

■ 容量2,000KLの燃料タンク8基が焼損し、内部の燃料油が焼失した。 

■ 負傷者が2名発生した。 

■ 近くの住民に避難指示が出された。


 < 事故の原因 >

■ 原因は、テロによる“故意の過失”でなく、戦争時のヘリコプターによる攻撃である。 

< 対 応 >

■ 202241日(金)午後7時頃、火災は局地化され、午後1020分に鎮火した。 

■ 41日時点で、ベルゴロドはロシアにとって戦争遂行の主要なロジスティクス・ハブ(兵站)の1つである。ベルゴロドは、ウクライナの2番目の都市ハリコフのすぐ北にあり、ハリコフはロシアの大砲によって激しく砲撃され、ロシア軍に囲まれたままである。(5月に入ってロシア軍はハリコフから撤退している)

■ 英国メディアのロイター通信は、爆発を示したCCTV映像を入手したと報じ、映像に刻印された日付と時刻は石油貯蔵所の火災に対応しており、ビデオの建物が石油貯蔵所のエリアの建物と一致していることを確認した。ロイターによると、確認した場所からの防犯カメラの映像は低高度から発射されたミサイルのような閃光と、それに続いて地上での爆発を示している。 

■ 42日(土)、ロシアの議員のひとりは、石油貯蔵所への攻撃を防ぐことができなかった理由についてつぎのように語っている。「防空システムのレーダーは、低い高度では建物や樹木のような障害物を検知するので、高い高度で侵入するミサイルや航空機からの攻撃から保護するようになっている」 

■ ヘリコプターが記録的な低高度で飛行していることは理解できるが、ヘリコプターは大きな音を立てるため、どうしてヘリコプターの音が聞こえなかったのかという疑問を語る人もいる。 

■ 今回の事件を含め、ウクライナーロシア両国の境界付近で発生している一連のミステリアスな火災と爆発の原因についてつぎのように語る専門家もいる。「幾つかのシナリオを想定することは可能である。例えば、クラライナ軍の妨害行為、ロシアに住む親ウクライナ派グループの破壊行為、ロシアの権力者が間接的に関与、または最近ロシアの戦争を“狂気の沙汰” と呼んだ海外に住むロシアの富豪者が背後にいるなど、可能性を拡大することに限界はない」 

■ NHK56日解説で ロシア国内では爆発や火災が相次いでいる。ウクライナの国境に近い、ベルゴロド、ボロネジ、クルスクで、ウクライナ東部に展開するロシア軍を後方から支援する弾薬庫などが狙われたとみられているという。ウクライナ政府の大統領府顧問がツイッターで「ウクライナはロシア軍の倉庫や基地への攻撃を含め、あらゆる方法で自衛する」と発信している。ウクライナ側が国境をこえてロシア軍を攻撃した可能性が高いという見方が強まっている。


補 足

■「ロシア」(Russia)は、正式にはロシア連邦といい、ユーラシア大陸北部に位置し、人口約14,600万人の連邦共和制国家である。

「ベルゴロド」(Belgorod)は、ドネツ川流域にあるベルゴロド州の州都で、人口約33万人の都市である。ロシアの首都モスクワから700km、ウクライナの国境から40kmの位置にある。

 ロシアのタンク事故には、つぎのような事例がある。

 ● 20138月、「ロシア・シベリアの石油施設でタンク火災」

 ● 20141月、「ロシア・ムルマンスクの石油施設でガソリンタンク火災」

 ● 20205月、「ロシアのシベリアで発電所の燃料タンク底板部から大量流出(原因)」

 ● 20224月、「ロシアのふたつの石油貯蔵所でタンク爆発・火災、テロ攻撃か」 

■「ロスネフチ社」(Rosneft)は、1993年に設立されたロシア最大の国営石油会社である。ソビエト連邦時代のソ連石油工業省を母体に設立された。ロシア国内のサハリン、シベリア、ティマン=ペチョラ行政区、チェチェンを含む南ロシアにおいて原油と天然ガスを生産している。石油精製施設は、黒海沿岸のクラスノダール地方のトゥアプセ、極東のコムソモリスク・ナ・アムーレにある。ベルゴロドに石油貯蔵所があるが、設備概要は分からない。


 ■「Mi-24ヘリコプター」は、 ソビエト連邦時代に開発された攻撃用ヘリコプターで、1978年以来、国内で約2,000機が製造され、30か国以上に約600機が輸出された。攻撃ヘリコプターとしては異例の大型機であるが、これは強力な武装で地上を制圧しつつ、搭乗した歩兵部隊の展開を想定して開発されたためである。しかし、戦闘と輸送という二つの役割を一機に担わせる設計は、結果的に悪い折衷になってしまったことから、対地攻撃に特化したものとなった。

 ウクライナでは、陸軍と空軍に配備され、2014年から続くウクライナのドンバス内戦で、陸軍航空隊がウクライナ東部の親ロシア派分離主義武装勢力の鎮圧に投入している。実戦での運用では、低空を飛行することが多いことから攻撃を受けやすい対策として、作戦時には21組やグループで行動し、多方向から同時に攻撃するという戦術が用いられるようになった。 Mi-24の巡航速度は時速270kmといわれており、ウクライナ国境からベルゴロドまでの距離40kmの到達時間は約9分となる。

■「発災タンク」は、容量2,000KLのタンク8基と報じられている。グーグルマップで調べると、ベルゴロド石油貯蔵所には燃料タンクが16基あり、そのうち12基は同じ規模(容量)の固定屋根式タンクとみられる。これらのタンクは直径約15mであり、高さを11.5mとすれば、容量は2,000KLとなる。タンク内の油種は分からない。被災写真を見ると、発災タンクは中央部にほぼ一列に並んでおり、北方から襲来したヘリコプターから発射された複数のロケット弾またはミサイルによる攻撃で火災を起こしたものと思われる。

所 感

■ タンク火災の原因は、平常時のテロによる“故意の過失”でなく、戦争時のヘリコプターによる攻撃であり、“世界の貯蔵タンク事故情報”で取り上げる範ちゅうでは無い。発災当初、ウクライナを非難するためのロシアの偽旗​​(にせはた)作戦の可能性があるのではないかと思っていた。

 1か月余が経って振り返ると、ウクライナは、依然、関与を認めていないが、ウクライナによる軍事作戦だったと思う。攻撃が地上からのロケット砲などでなく、ヘリコプターが使用されており、さらに、Mi-24ヘリコプターの実戦経験から21組で行動するという運用をとっていることから、低空飛行の経験のある軍組織が関与しているとみられる。 

■ 消火活動については、初期段階で出動した消防士が70名と消防車両20台で対応していたが、火災の規模が大きいため、動員された消防士は194名に増員され、消防車両などの消火装備が59台に増強されたという情報だけで、どのような消火戦略や消火戦術がとられたかは分かっていない。

 発災が午前5時頃で、午後1020分に鎮火しており、火災継続時間は17時間20分である。当初と思われる被災写真では、大きな炎が真黒い煙とともに空に舞い上がっており、よく17時間余で消火できたと感じる。一方、タンク地区の発災状況を写した画像では、防災道路に多くの消防車両が配置されているが、消火活動をしているようには見えない。堤内火災が主でタンク火災は燃え尽きたという印象である。火災が収まってきた画像では、高発泡の泡モニターで堤内火災を消している。この点は適切な消火戦術である。


備 考

 本情報はつぎの情報に基づいてまとめたものである。

  Bbc.com,   ロシア、国内の燃料貯蔵庫をウクライナが攻撃と非難,  April  01,  2022

     Cnn.co.jp ,  ロシアの燃料貯蔵施設で火災、「ウクライナ軍ヘリが攻撃」と州知事主張,  April  02,  2022

     S.japanese.joins.com, 「ウクライナがロシア本土を初めて打撃ヘリ2機で石油貯蔵所空襲」,  April  01,  2022

     Washingtonpost.com, Mystery fires at sensitive facilities compound Russia’s war challenge,  April  27,  2022

     Shimamyuko.wordpress.com,ロシアで発生したミステリアスな一連の火災と爆発,  April  27,  2022

     Nhk.jp,ウクライナが攻撃か ロシア国内で相次ぐ火災や爆発,  May  06,  2022

     Republicworld.com, Russia's Logistics May Further Stretch After Fire At Belgorod Oil Depot Destroys Tanks: UK,  April  02,  2022

     Tass.com, Fire at oil depot in Russia’s Belgorod may spread to all fuel tanks, source says,  April  01,  2022

     Reuters.com , Ukraine denies attacking fuel depot inside Russia, mayor says fire almost out,  April  02,  2022

     Bbc.com , War in Ukraine: Russia accuses Ukraine of attacking oil depot,  April  01,  2022

     Tribunetimes.co.uk , Ukraine war: What we know about the helicopter attack on a Russian oil depot,  May  16,  2022

     Belpressa.ru , МЧС: пожар на нефтебазе в Белгороде ликвидирован,  April  01,  2022

     Fonar.tv , МЧС: пожар на нефтебазе в Белгороде ликвидирован,  April  01,  2022


後 記: 今回のタンク火災の情報は発災直後から知っていました。当初からロシアはウクライナ軍によるヘリコプター攻撃が非難し、ウクライナは攻撃を認めずに沈黙していました。ロシアによる自作自演の偽旗​​(にせはた)作戦の可能性を否定できず、本ブログへの掲載はしませんでした。ロシアのウクライナ侵攻についてはいろいろな情報やメッセージが出されていますが、「こたつCIA」(CIA;米中央情報局)と呼ばれる活動が注目されています。これは、商業衛星の情報などを使って戦況分析を発信している一般の人たちのことをいうそうです。「こたつCIA」という名前はちょっと皮肉っぽいところがありますが、軍事情報には機密や意図したフェーク情報がある中で 「こたつCIA」に期待する声があるといわれています。ということもあり、発災から1か月余が経ち、本タンク火災を調べてみることにしました。



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