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2018年2月24日土曜日

米国オハイオ州で天然ガスパイプラインが爆発

 今回は、2018年1月31日(水)、米国オハイオ州ノーブル郡サマーフィールドにある天然ガス用ロッキー・エクスプレス・パイプラインのパイプライン施設で起った爆発・火災の事故を紹介します。
(写真はFacebook.comの動画から引用)
< 発災施設の概要 >
■ 発災施設は、米国オハイオ州(Ohio)ノーブル郡(Noble County)サマーフィールド(Summerfieald)にあるロッキー・エクスプレス・パイプライン(Rockies Express Pipeline)の天然ガス用パイプライン施設である。ロッキー・エクスプレス・パイプラインはタルグラス・エナージー社(Tallgrass Energy)などによって運営されている。  

■ 事故があったのは、 24インチ・セネカ・ラテラル(24-inch Seneca Lateral)称されているパイプラインで、このラインはロッキー・エクスプレス・パイプラインとマークウェスト処理プラントの間をつなぐものだった。発災があったのは、サマーフィールドから北へ約3マイル(4.8km)のオハイオ513号線と379号線の間にあるパイプラインで、施設内にはこのほかに複数のパイプラインがあった。
               ノーブル郡サマーフィールド周辺    (写真はGoogleMapから引用)
                 ロッキー・エクスプレス・パイプライン      (図はSnl.comから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2018年1月31日(水)午前2時30分頃、サマーフィールドの北にあるパイプラインが爆発し、火災となった。

■ サマーフィールドの住民は夜中に起った爆発で目を覚まされ、夜空が明るくなっているのを見た。多くの住民から消防署へ緊急通報があった。

■ 発災に伴い、各消防隊が出動し、消火活動を行った。出動したのは、ノーブル郡消防署のほか、ボランティア型のサマーフィールド消防署、ベルバリー消防署、カルドウェル消防署の各消防隊である。

■ タルグラス・エナージー社は、事故に伴い、 24インチ・セネカ・ラテラル・パイプラインを停止し、ほかと縁切りした。火災は午前4時30分頃に制圧された。
 
■ まわりには建物はなく、火災による影響は軽微で、樹木がわずかに焼けた程度だった。消防隊は1月31日の午前中までホットスポットがないことを確認するため、現場に待機した。

■ 事故に伴うけが人の発生や住民の避難は無かった。
(フェースブックに発災時の火炎の動画「Mid-OhioValley Weather Update」が投稿されている)

被 害
■ 天然ガス用パイプラインの一部が損壊・焼損したものとみられる。被害の状況は不詳である。

■ 事故に伴う負傷者な出なかった。また、住民の避難もなかった。

■ パイプラインの一部が運転できずに、天然ガスの供給へ影響が出た。
(写真はAmerica.easybranches.comから引用)
< 事故の原因 >
■ パイプラインの爆発原因は調査中である。

< 対 応 >
■ タルグラス・エナージー社はパイプラインの爆発原因の調査に入った。

■ 環境保護団体は、今回の爆発を起こしたパイプラインが詳細な審査を受けることなく承認されていたと指摘した。2013年、 24インチ・セネカ・ラテラル・パイプラインは、天然ガスの流れの変更について所有者からの要請があり、連邦エネルギー規制委員会が承認していた。当初、天然ガスは東から西へ流れだったが、その後この地域で急成長しているマルケス・シェールのガス田生産のため、所有者は流れを逆にする承認を求めていた。環境保護団体は、プロジェクトは環境影響評価書を準備して審議された後に、承認されるべきだという抗議書を提出していた。会社が計画を決めてから1か月でパイプラインは承認されており、極めて速い決定である。これは、環境審査プロセスの規制を基本的に撤廃するという問題だと指摘している。

■ オハイオ州環境評議会は、1月31日(水)、「パイプラインが爆発事故を起こしたという報告を受けたときには、常に最悪の事態を考える。幸い、今回の事故ではけが人が無かったが、米国国内を横断しているパイプラインに関する懸念が残った。爆発原因について十分調査されなければならない。国内を走っているパイプラインは数多くあり、潜在的危険性としてパイプライン破裂の問題についてじっくりと検討することは重要である。将来の事故を回避するため、パイプラインの建設には慎重な対応が求められる」という声明を出した。

補 足
■ 「オハイオ州」(Ohio) は、米国の中西部の北東に位置し、人口約1,150万人の州である。州都は人口約79万人のコロンバスである。
 「ノーブル郡」 (Noble County)は、オハイオ州の東部に位置し、人口約14,000人の郡である。1814年、北アメリカで最初に油井施設が設置された郡で、19世紀後半には人口20,000人を超えていた。
 「サマーフィールド」(Summerfieald) は、ノーブル郡の東部にあり、人口約250人の町である。   
 
■ 「タルグラス・エナージー社」(Tallgrass Energy)は、 2012年に設立された原油・天然ガスの輸送に携わるパイプライン会社である。カンザス州リーウッドに本拠地を置き、ワイオミング州、コロラド州、ネブラスカ州、カンザス州、ミズーリ州、イリノイ州、インディアナ州、オハイオ州を通る全長約11,900kmのパイプラインを有している。

■ 「24インチ・セネカ・ラテラル・パイプライン」(24-inch Senaca Lateral Pipeline)は、ノーブル郡サマーフィールドにあるマークウェスト・エナージー社(MarkWest Energy)のセネカ処理施設(Seneca Processing Facility)からタルグラス・エナージー社のロッキー・エクスプレス・パイプラインへ接続する約14.7マイル(23.5km)のパイプラインである。セネカ処理施設は天然ガスの製品化処理用として2013年に操業を開始した。
 24インチ・セネカ・ラテラル・パイプラインの発災場所をグーグルマップで調べたが、パイプライン施設らしい場所が点在しており、特定はできなかった。
24インチ・セネカ・ラテラル・パイプライン
 (写真はNapipeline.com から引用
 サマーフィールドにあるマークウェスト・エナージー社の天然ガスセネカ処理施設
 (写真はGalvanizeit.orgから引用)
所 感 
■ 発災したパイプライン(施設)の状況がわからないので、爆発原因は推測しようがない。一方、ロッキー・エクスプレス・パイプラインの運営を行っているタルグラス・エナージー社は2012年に設立された会社であり、 そのパイプライン支流である24インチ・セネカ・ラテラル・パイプラインも2013年に操業を開始しており、比較的新しい。このように新しいということが発災に関係しているのかもしれない。あるいは、操業開始から落ち着いてきた段階での緩みや慢心といったことが背景にあるのではないだろうかとも思う。

■ 消火活動の状況は分からないが、発災から約2時間ほどで制圧されており、天然ガスの場合、遮断弁を閉止するいう操作をすれば、油のような流出の拡散がなく、比較的速い制圧が可能だと思われる。消防隊が出動しているが、おそらく、まわりへの延焼防止を主とした消防活動だったと思われる。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
    ・Hazmatnation.com, Ohio Firefighters Respond to Pipeline Explosion, February 1, 2018
    ・Reuters.com, Tallgrass Isolates Ohio Natgas Pipeline Segment after Rupture, February 1, 2018
    ・Daily-jeff.com, Pipeline Explodes in Eastern Noble County Field,  January  31,  2018
    ・Wtov9.com, Pipeline Explosion Results in Fire in Noble County,  January  31,  2018
    ・Theoec.org, Statement from the Ohio Environmental Council on an Overnight Explosion of the Seneca Lateral Pipeline ,  January  31,  2018
    ・Napipelines.com, Natural Gas Pipeline Explodes in Noble County, Ohio,  January  31,  2018
    ・Marcellusdrilling.com, Utica Pipeline Explosion in Noble County, OH Affects Natl Output, February 2, 2018
    ・Thenewscenter.tv, Environmental Group Says Pipeline Not Thoroughly Reviewed, February 1, 2018



後 記: 最近の傾向としてオイル(石油)に関係する事故より、天然ガスに関わる事故が多いように思います。掘削技術の進化により天然ガスの生産が増加しているからではないでしょうか。今回の事故を調べていて、米国を横断するロッキー・エクスプレス・パイプラインについて初めて知りました。グーグルマップで発災場所を調べましたが、天然ガスのパイプライン施設らしい場所が点在しており、特定できませんでした。また、サマーフィールド周辺は草木が刈り取られてパイプラインが敷設されたと思われる直線が数多く見られ、地下には縦横にパイプラインが走っていると感じました。これが米国経済の源泉のひとつなのでしょう。しかし、これで本当にいいのかという素朴な疑問も湧いてきます。米国国内でも、環境保護団体が監視活動をしているのがその表れではないかと思いながら、まとめました。



2018年2月12日月曜日

カナダのラック・メガンティック列車脱線事故の原因(2013年)

 今回は、2013年7月6日(土)、カナダのケベック州ラック・メガンティックで貨物列車が脱線し、石油タンク車63台のほとんどが損壊し、さらに爆発・火災を起こし、47名の死者を出した事故の原因について紹介します。(当時の事故状況についてはカナダで石油タンク車が脱線して市街地で爆発・炎上」を参照)
(写真はtheatlantic.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、カナダ(Canada)ケベック州(Quebec) ラック・メガンティック(Lac Megantic)を通る鉄道である。この鉄道で貨物列車が脱線したが、事故のあったところは市街地の一角で店や住宅が隣接している場所だった。

先頭のディーゼル機関車
(写真はTsb.gc.caから引用)
■ 事故を起こした列車は、米国のレール・ワールド社(Rail World inc.)の子会社であるモントリオール・メイン&アトランティック鉄道(Montreal, Maine & Atlantic Railway)が運行していたもので、5台のディーゼル機関車に72両編成の石油タンク車が引かれていた。石油タンク車には原油が積まれており、米国ノースダコタ州バッケン地区からカナダ東部のニューブランズウィック州の製油所へ輸送中だった。石油タンク車は1両当たり30,000ガロン(114KL)の石油を積むことができ、輸送していた量は7,700KLだった。
ケベック州ラック・メガンティックの事故現場周辺
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2013年7月6日(土)午前1時15分頃、ラック・メガンティックで貨物列車が脱線し、脱線した石油タンク車63台のほとんどが損壊し、さらに爆発・火災を起こした。脱線したのが、ラック・メガンティックの市街地の一角で店や住宅が隣接している場所であったため、石油タンク車の爆発・炎上により周辺4区画が壊滅的な被害を受けた。
(写真はCanadianbusiness.comから引用)
(写真はTheglobeandmail.comから引用)
■ 最初の爆発以降も午前4時頃まで爆発が続き、建物40棟が倒壊し、多くの死傷者が出た。また、住民約2,000人が避難を余儀なくされた。爆発半径は1kmに達したといわれている。
(写真はCommondreams.orgから引用)
■ 火災は翌日も続き、7日(日)午後7時にやっとほぼ鎮火し、9日(火)には多くの住民が帰宅し始めた。しかし、発災現場では建物が倒壊しており、行方不明者の捜索は難航した。事故から1週間経った713日(土)に新たな遺体が確認されたが、それ以降も捜索が行われた。結局、5人が分からないまま、行方不明を含めた死者の数は47名となった。

■ 列車は事故の前、ラック・メガンティックから約11km西のナントで駐車しており、運転士はいなかった。ナントは丘の上にあり、ラック・メガンティックの町へは緩やかな下り坂になっており、列車が動き出して暴走したものとみられた。 なお、標高515mのナントから標高407mのラック・メガンティックまでの標高差は108mで、平均勾配は1.2%だった。
(列車の動き出しから脱線までの経過を映像化したYouTube「Simulationdu déraillement Lac-Mégantic」が公開されている)

被 害
■ 爆発・火災にともない、住民の死者(行方不明5人を含む)は47名にのぼった。

■ 周辺地区が壊滅的な被害を受け、40棟の建物が損壊した。また、住民約2,000人が避難をした。

■ 63台の石油タンク車が脱線して爆発・火災で損壊し、内部の原油は流出したり、焼失した。
(写真はTsb.gc.caから引用)
< 事故の原因 >
■ 事故の直接原因は、丘の上にあるナントから緩やかな下り坂になっており、無人の列車が動き出し、約11km暴走し、ラック・メガンティックのカーブで列車が曲がりきれずに脱線したものである。

■ 大事故に至った要因はつぎのとおりである。
 ● 乗務員は運転士ひとりだけで、その夜はナントで駐車することになっており、列車は無人だった。
 ● 当夜、主機関車でボヤが起こり、消防隊が消火したが、列車のエンジンを切ったため、エア・ブレーキが効かなくなっていた。
 ● 列車にはエア・ブレーキのほか、各車両には手動ブレーキがあった。運転士は列車を離れる前に、7個の手動ブレーキをかけただけで、確認テストは行われていなかった。
                 列車のブレーキ系統    (写真はTsb.gc.caから引用)
 ● 傾斜地でブレーキ力が不十分な状態になったため、10,000トンの列車が下り坂を走行し始めた。速度は徐々に増加し、約11km先のラック・メガンティック市街地のカーブに入ったとき、列車が脱線した。速度は、カーブを安全に曲がるための速度の3倍に当たる時速105kmに達したとみられる。 
 ● 使用されていたDOT-111型の石油タンク車は、当時の安全標準に合致していなかった。このため、脱線後の石油タンク車から油が大量流出した。米国当局のテスト結果(1991年)、タンク車の外壁に補強を施すべきだという対策が表明されているにもかかわらず、カナダは新規車両だけに適用することとしており、リスクを潜在する石油タンク車を使用し続けていた。
              DOT-111型の石油タンク車    (写真はTsb.gc.caから引用)
 ● 鉄道線路が傾斜地の終わりでカーブになる形状だったため、脱線しやすかった。
(事故を調査したカナダ運輸安全委員会「 Transportation Safety Board  of  Canada: TSB」は、事故の概要を映像化にまとめてYouTubeLac-MéganticMMA Train Accident - 6 July 2013」に公開している)

< 対 応 >
■ 7月6日(土)の午後9時30分時点では、5両の石油タンク車が制御できない状況で炎上していた。7月7日(日)の朝には、燃え続けていたのは2両のみになった。ラック・メガンティック消防署は、ケベック・シティにあるウルトラマー製油所から搬送してきた特殊泡薬剤を使って、一晩中、火災と戦った。ラック・メガンティック消防署は近隣のシャーブルックや隣接する米国のメイン州からの消防隊の支援を受け、150名の消防士が消火活動に従事した。
 
■ 運輸安全委員会の調査官は、7月8日(月)、暴走した貨物列車のブラックボックスを回収したことを発表し、これが事故原因の手掛かりになるだろうと話した。

■ ラック・メガンティック列車脱線事故は、刑事事件としてモントリオール・メイン&アトランティック鉄道の関係者3人が起訴され、裁判となった。長い裁判の結果、2018年1月19日(金)、カナダの裁判所は、元運転士、オペレーション・マネージャー、鉄道運行管理者の3人を無罪と判決した。
 ● 列車はナントで駐車することになっており、運転業務を終えた運転士は宿舎のホテルに移動した。運転士は列車から去る前に、鉄道運行管理者に走行中に気づいた機械的不具合と煙発生について報告した。対応は翌朝行うということになった。
 ● 当夜、主機関車でボヤが起こったが、消火のために、消防隊がエンジンを切った。列車のエンジンを切ったため、エア・ブレーキが効かなくなった。しかし、エア・ブレーキは長時間のうちにエアが漏れるので、駐車のための主ブレーキと考えるべきでない。
 ● 列車にはエア・ブレーキのほか、各車両には手動ブレーキがあり、運転士は列車を離れる前に、7個の手動ブレーキをかけた。事故後の調査によると、列車が動き出すことの無いようにするためには、17~26個の手動ブレーキをかける必要があった。手動ブレーキの確認テストは行われなかったが、この確認テストを行うには、2名の乗務員が必要だった。
 ● 運転士のブレーキ操作方法は、モントリオール・メイン&アトランティック鉄道の運転指針に従っていたものだった。なお、カナダの鉄道規則では、駐車する列車の制動は手動ブレーキだけで効くようにし、確認テストを行う必要があった。

補 足
■ 「ケベック州」はカナダ東部にあり、米国のメイン州やバーモント州と国境を接する州で、人口は約780万人である。州都はケベック・シティであるが、州の最大都市はモントリオールで、公用語はフランス語である。
 「ラック・メガンティック」は、ケベック州の南東部に位置し、人口約6,000人で、農業・林業を主とする町である。現在、鉄道はそのままであるが、建物の被害のあった区域はほとんどが更地になっている。
■ 「モントリオール・メイン&アトランティック鉄道」(Montreal Maine & Atlantic Railway)は、米国のレール・ワールド社(Rail World inc.)の子会社で、20031月に設立され、総延長510マイル(800km)の線路を保有し、カナダのケベック州、ニューブランズウィック州、米国のメイン州、バーモント州の顧客に物流サービスを提供している鉄道会社である。
 レール・ワールド社は、1999年、エドワード・バークハート氏によって設立された鉄道管理および鉄道の民営化・再編に関する投資・コンサルタントを行う会社である。カナダおよび米国における「モントリオール・メイン&アトランティック鉄道」のほか、欧州のエストニア、ポーランドに傘下の鉄道会社を保有する。

■  「DOT-111型」タンク車の安全性は米国の国家運輸安全委員会(NTSB)から指摘されているが、NTSBがまとめた「DOT-111 Tank Car Design」の概要はつぎのとおりである。
 ● 過去、1991年安全性の検討、1992年ウィスコン州スーペリア事故、2003年イリノイ州タマロア事故、2006年ペンシルバニア州ニューブライトン事故などを調査した結果、タンク破損の発生率が高い。
   ● 使用されているタンク車の69%はDOT-111型で、危険性物質の輸送に広く使われている。最近、バイオエタノール燃料の輸送にはDOT-111‘S型が使用されている。
 ● 米国鉄道協会(AAR)は、事故後の対応として、2011年10月からエタノールおよび原油の輸送にはすべて新しいDOT-111型を使用し始めた。この型式は、ヘッド部とシェルの肉厚増加、焼きならし鋼の使用、1/2インチ厚のヘッド・シールドの採用、上部付属物の保護などの変更を行っている。
 ●米国鉄道協会は既設タンク車の取扱いについて明確にしていない。新旧のタンク車が混在した場合、実質的に安全が強化されたとはいえない。 

< 所 感 >
■ 2013年、この事故情報に接したとき、「世の中には、予期せぬ悲惨な事故が起こるものだというのが第一印象である。週末の夜、住民6,000人の穏やかな町が、突然、戦場のように建物が壊され、炎上し、多くの人が亡くなるという最悪の事故に巻き込まれたのである」というのが、偽らざる感想だった。

■ それから5年、今回、刑事事件としての裁判結果に接して、この事故の難しさを感じた。裁判結果が示すように事故に至った状況をみると、決定的な法的な過失は無く、偶然がいくつも重なって起っている。一方、安全基準を満足していない石油タンク車が脱線・爆発・炎上という大事故に至ったのは、潜在危険性が高く、「起こる可能性のあることは、いつか実際に起こる」というマーフィーの法則どおりだともいえる。
 
■ 事故を起こしたモントリオール・メイン&アトランティック鉄道の安全文化に対する取組み姿勢に問題があったという。それでは、 この脱線事故を防ぎ得るにはどうすればよかったのか。
 ● 運転指針の作成段階での気づき(危険予知)である。列車駐車時の必要な手動ブレーキ数の根拠(データ)はあるのか、その前提条件(傾斜地、貨物車の数など)は適切かというような疑問を考えることである。
 ● 乗務員(運転士)1名による列車運行に変更になった際、ブレーキの確認テストができなくなることへの気づき(危険予知)である。(多分、初めから1名での運転ではなかったはず)
 ● 日常での運行時の運転士の気づき(危険予知)である。 傾斜地のナント駅で列車を駐車する機会は少なくなかったはずである。手動ブレーキだけで本当に効くのだろうかという問題意識をもった運転士はいるのではないだろうか。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Firedirect.net, Canada – 3 Cleared Of Negligence In Lac Magantic Railway Disaster,  January 25,  2018
    ・Blogtank-accidentspot.jp,  カナダで石油タンク車が脱線して市街地で爆発・炎上,  July  22,  2013
    ・Tsb.gc.ca,  Lac-Mégantic Runaway Train and Derailment Investigation Summary,  October  28,  2014
    ・En.wikipedia.org, Lac-Mégantic Rail  Disaster, January  25,  2018
    ・Cbc.ca, All 3 MMA rail workers acquitted in Lac-Mégantic disaster trial , January  19,  2018



後 記: 5年前、列車の石油タンク車の大事故ということでブログに紹介しましたが、最近になって事故の刑事事件としての裁判結果が出たという情報から調べてみました。47人の犠牲者が出た事故というのに、法的な過失はなかったという結果(法の限界)になにか割り切れない思いがあります。どうしようもなかったでは、所感の書きようがないので、想像を膨らませて危険予知の観点から考えてみました。融通の利かない人をマニュアル人間ということがありますが、マニュアル(基本)に則ることは大事です。一方、今回の事故原因をみても、必ずしもマニュアルが全て正しいとはいえないことがあることです。考えさせられる事例でした。
 一方、前回、所感で「事故でもう一つ注目するのは、鉄道会社の事故後の危機管理対応のまずさである。(中略) トップ(最高経営責任者)の言動がまったく不適切である。トップの危機管理意識の欠如か、トップに不適切な情報を流した組織の問題かはわからないが、“最悪のシナリオを考える米国” にもほころびが現れてきたようにも感じる事例である」と書きましたが、残念ながらほころびが進んでいるように感じますね。