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2022年5月29日日曜日

ガボンの石油ターミナルで原油タンクから大量流出

 今回は、2022428日(木)、アフリカ西海岸のガボンのポールジャンティ北方のロペス岬にあるペレンコ社のキャップ・ロペス石油ターミナルにおいて原油貯蔵タンクから油が大量に流出した事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、アフリカ西海岸のガボン(Gabon)のポールジャンティ(Port Gentil)北方のロペス岬(Cape Lopez)にある石油会社ペレンコ(Perenco)のキャップ・ロペス石油ターミナル(Cap Lopez oil terminal)である。

■ 事故があったのは、石油ターミナルにある容量90,000KLの原油貯蔵タンク(タンク番号R17)である。当時、高さ18mのタンクは容量の60%で、50,000KLの原油が入っていた。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2022428日(木)朝遅い時間帯に、石油ターミナルにある原油貯蔵タンクで油が漏洩する事故があった。

■ ペレンコ社によると、428日(木)に原油貯蔵タンクから原油が漏洩したが、構外に流出していないという。流出量は、ガボンの1日あたりの原油生産量を超える30万バレル以上とみられる。

■ 漏洩発見後、ペレンコ社すぐに別な貯蔵タンクへ送油を開始した。しかし、漏洩が拡大し、2基のタンクの防油堤内に流出してしまった。

■ ペレンコ社は原油の受入れ・貯蔵・出荷の業務を停止した。通常、石油ターミナルには1日あたり13万バレルの原油を受け入れている。

■ ペレンコ社は、「施設の安全確保と環境破壊を防ぐため、不可抗力の事態を宣言しました。海洋への汚染はまだ検出されていません」という声明を出した。「流出した原油をポンプでタンクへ回収するには数日かかる可能性があります」と広報担当は補足説明した。

■ ペレンコ社は、海上への流出拡大の予防策としてオイルフェンスを展張したと語っている。

■ 現場は原油臭が立ちこめ、かなり広い地域に流れていた。岬近くの漁村の住民は、428日(木)午後11時頃、避難したと語っており、電気が遮断され、爆発の危険性があるため、火を使うことやタバコに火をつけないようにいわれたという。

■ 流出の原因はまだ明らかではなく、ペレンコ社は調査を始めた。

■ 流出のあった翌日に撮影されたドローンによる航空写真では、被害の大きさを示しており、2基の貯蔵タンクが防油堤内に漏れた原油の巨大なプールに囲まれているのがわかる。1台のバキューム車が原油の中に没しているのがわかる。原油の深さは1.52.0mとみられる。また、タンク防油堤の一部から構内エリアに流出しているのがわかる。原油が流出した防油堤と大西洋の海までの距離はわずかしかない。


被 害

■ 原油タンクが漏洩して、内部の原油(5KL)が防油堤内に流出した。

■ 原油が大気に曝露して大気を汚染した。

■ 負傷者はいなかった。岬近くの漁村の住民が避難した。

< 事故の原因 >

■ 事故の原因は調査中である。

< 対 応 >

■ ペレンコ社は、「管轄当局と緊密に協力して、状況を迅速かつ安全に解決できるようにしています。貯蔵タンクからの漏れ原因については、できるだけ早く完全な調査を実施する予定です」と述べている。

■ 発災から1週間が経ったが、当局は流出した原油による海への環境汚染は発生していないと語っている。大規模な環境災害はわずかに回避されたとみられる。一方、市民社会組織は依然として懐疑的である。

■ 地元の環境組織が、2020年にトタール社(トタール・ガボン)からキャップ・ロペス石油ターミナルを買収したペレンコ社が、複数の環境問題で訴えられているときに、今回の事故が発生した。

補 足

■「ガボン」(Gabon)は、正式にはガボン共和国で、中部アフリカに位置し、大西洋のギニア湾に面する人口約222万人の共和制国家である。17世紀にフランスが影響力を強め、フランスの植民地時代を経て、1960年に独立した。建国以来、旧宗主国であるフランスとの関係が非常に強い。ガボンは林業による豊富な物産があったため、古くから豊かさで知られていたが、独立後も原油の資源開発による産油国であり、人口の少なさもあいまって国民所得はアフリカ諸国では高い部類に属する。しかし、原油生産量は1997年の1日あたり約37万バレルから減少傾向にあり、現在は1日あたり20万バレル程度に落ちている。

■「ポールジャンティ(Port-Gentil)は、ガボン西部に位置し、人口は約13万人の港湾都市である。 1956年にポールジャンティ南の海上で原油生産が始まり、以後急速に発展し、石油産業が主産業となっている。ポールジャンティから北方にあるロペス岬(Cape Lopez)にペレンコ社(Perenco)のキャップ・ロペス石油ターミナル(Cap Lopez oil terminal)がある。

■「ペレンコ社」(Perenco)は、1975年にシンガポールを拠点とする海洋サービス会社として設立した。その後、16か国で事業を展開し、6,000人以上の従業員を擁し、ロンドンとパリに本社を置く石油企業である。1992年にガボンで操業を開始し、ポールジャンティの南にある4つの海洋油田を買収した。2020年にトタール・ガボン(Total Gabon)からキャップ・ロペス石油ターミナルを買収で得た。

■「発災タンク」は、容量90,000KLの原油貯蔵タンク(タンク番号R17)で、発災時、高さ18mのタンクに容量の60%の50,000KLの原油が入っていたと報じられている。グーグルマップで調べると、直径は約82mで、高さ18mとすれば約90,000KLの浮き屋根式タンクである。

 原油タンクの大量流出事故は、つぎのような事例がある。

 ●20071月、「フランスで原油タンク底部が突然破れて油流出」

 ●20153月、「ベルギーで原油タンク底部が裂けて油流出」

 今回の事故は、側板の油による汚れ状況から見て、上のベルギーの事例と類似しており、おそらくタンク底板部の破損によるものとみられる。


■ 防油堤の大きさをグーグルマップで調べると、約320m×160mである。防油堤は真四角でなく、一部が切り欠いた形をしており、面積は約49,300㎡である。タンクが2基あり、1基は滞油に寄与しないので、防油堤の滞油面積は約44,100㎡となる。滞油している原油の深さは1.52.0mと報じられているが、50,000KLを滞油面積で割ると、深さは約1.13mとなる。バキューム車の浸漬状況(発災翌日に撮影)から見て、深さは1.52.0mとないと思われる。

所 感

■ 今回の事故は、側板の油による汚れ状況から見て、タンク底板部の破損によるものと思われる。発災当初の漏れは大した量ではなく、バキューム車を使って油回収を試みたのではないだろうか。そのうち、漏洩が大きくなり、バキューム車を放置したものだろう。海への流出がなかったとともに、よく火がつかずに済んだものだと感じる。(ガボンは赤道直下で、4月の平均最高温度は30℃、最低温度は24℃だという) しかし、広い防油堤内に原油が直接曝露しており、臭気や環境汚染・土壌汚染の問題を引きずっていると思われる。 過去の類似事例では、20153月に起こった「ベルギーで原油タンク底部が裂けて油流出」の原因と教訓がよくまとめられている。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

     Reuters.com, Perenco shuts Gabon oil terminal after 300,000-barrel leak,  April  30,  2022

      Observers.france24.com, 'This is the final straw': Gabonese activists outraged at yet another oil spill by Perenco,  May  03,  2022

      Gabonreview.com, Incident pétrolier du Cap Lopez : le communiqué de Perenco Oil & Gas Gabon,  April  29,  2022

      Tankstoragemag.com, Major leak closes Perenco’s Gabon terminal,  May 03,  2022

      Devdiscourse.com, Anglo-French Perenco declares force majeure after oil terminal leak in Gabon,  May 06,  2022

      Theenergyyear.com, Perenco contains oil leak in Gabon,  May 02,  2022

      Greenmatters.com, Major Oil Spill in Central African Country of Gabon Averted After 300,000 Barrels Leaked,  May 03,  2022

      English.news.cn, Operations suspended at Gabon oil terminal after leak,  April  30,  2022

      Oilfieldafricareview.com, PÉRENCO CONFIRMS CRUDE LEAK AT GABON’S CAP LOPEZ TERMINAL,  May 03,  2022

      News.alibreville.com, Gabon: la société civile s’inquiète malgré le ton rassurant de Perenco sur une fuite pétrolière,  May 06,  2022

      Gabonreview.com, Incident au Cap Lopez : Le gouvernement annonce «une enquête complète»,  April  29,  2022

      Upstreamonline.com, Massive 300,000-barrel oil spill disaster averted at Perenco site in Gabon,  May 02,  2022


後 記: 今回一番時間がかかったのが、グーグルマップで探した石油ターミナルの場所でした。ガボンのポールジャンティ市の近くにあると報じられていたので、市内を探すと簡単に貯蔵タンク群のある場所がわかりました。その後、発災タンクはどれだろうと地図をいろいろな角度から見ましたが、ぴったり合いません。市内をさらに探しましたが、ありません。市内から北方のロペス岬(Cape Lopez)にまで足を延ばした(?)ところ、やっとキャップ・ロペス石油ターミナル(Cap Lopez oil terminal) が分かりました。あとから考えると、 Cape Lopezという地名からCap Lopezという名称をつけたというのが理解できました。

 ところで、ガボンという国があることを初めて知りました。ガボンにはメディアの検閲は存在していませんが、反面で政府を批判するメディアはしばしば法的な影響に直面することから、報道の自由が制限されてしまっているというので、報道の自由度ランキング(2021年)をみると、117位でした。ちなみに、日本(67位)、ウクライナ(97位)、ロシア(150位)です。

2022年5月23日月曜日

ロシアのベルゴロド石油貯蔵所にヘリコプターによる攻撃(4月1日)

  今回は、202241日(金)、ロシアのベルゴロドにあるロシア国営石油会社ロスネフチ社の石油貯蔵所においてヘリコプターによる攻撃でタンクが火災となった事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、ロシア(Russia)のベルゴロド(Belgorod )にあるロシア国営石油会社ロスネフチ社(Rosneft)の石油貯蔵所である。 

■ 事故があったのは、石油貯蔵所内にある容量2,000KLの燃料タンクである。


 <事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 202241日(金)午前5時頃、ベルゴロドの石油貯蔵所に爆発があり、タンクが火災を起こした。 

■ 火災は容量2,000KLの燃料タンク8基に及んだ。 

■ 事故発生に伴い、消防隊が出動し、火災の拡大防止に努めたが、8基の貯蔵タンクの火災がさらに広がるのを防ぐのに苦労していた。出動した消防士は70名、消防車両20台で対応していたが、火災の規模が大きいため、消防隊員は194名に増員され、消防車両などの消火装備は59台に増強された。 

■ 付近の住民には避難指示が出され、退避措置がとられた。 

■ 事故に伴い、施設の管理職員ふたりが負傷した。 

■ 英国メディアBBCによると、ソーシャルメディア(SNS)のツイッターに投稿された動画では、ロシアとウクライナの国境から約40kmにあるベルゴロドにおいて、集合住宅の近くで石油貯蔵所が燃えている様子が見え、中には、ヘリコプターが低空飛行してミサイルで石油貯蔵所を直撃し、火災が発生する様子が見える映像もあると報じている。BBCは、この映像の真偽はまだ確認されていないという。

■ ベルゴロド州知事は、州都にある石油貯蔵所でウクライナ軍のMi-24ヘリコプター2機が非常に低い高度でロシア空域に入り、ミサイル攻撃に行い、出火したと非難した。ウクライナ側はこれを認めていない。 

■ 米国メディアCNNによると、ベルゴロド州知事がSNS「テレグラム」の自身のチャンネルで、火災が起きたのはウクライナのせいだと証拠を示さずに主張した。CNNはこの主張を検証できていない。 

■ 英国メディアのロイター通信は、爆発を示したCCTV映像を入手したと報じ、映像に刻印された日付と時刻は石油貯蔵所での火災に対応しており、ビデオの建物が石油貯蔵所のエリアの建物と一致していることを確認した。ロイターによると、確認した場所からの防犯カメラの映像は低高度から発射されたミサイルのような閃光と、それに続いて地上での爆発を示している。 

■ 関連するユーチューブの動画はつぎのとおりである。

 ● YouTube、Ukraine War - Airstrike On Russian Soil! MI-24 Helicopters Strike Oil Depot In Belgorod(ウクライナ戦争-ロシア領土への空爆!ベルゴロドの石油貯蔵所にMI-24ヘリコプターが攻撃)(2022/04/01

 ● YouTube、Момент взрыва на нефтебазе в Белгороде и видео пожара(ベルゴロドの石油貯蔵所での爆発の瞬間と火災のビデオ) (2022/04/01

 ●YouTube、Ukraine accused of launching first airstrike on Russian territory since war began」ウクライナは戦争が始まって以来、ロシア領土で最初の空爆を開始したと非難された)2022/04/02

被 害

■ 容量2,000KLの燃料タンク8基が焼損し、内部の燃料油が焼失した。 

■ 負傷者が2名発生した。 

■ 近くの住民に避難指示が出された。


 < 事故の原因 >

■ 原因は、テロによる“故意の過失”でなく、戦争時のヘリコプターによる攻撃である。 

< 対 応 >

■ 202241日(金)午後7時頃、火災は局地化され、午後1020分に鎮火した。 

■ 41日時点で、ベルゴロドはロシアにとって戦争遂行の主要なロジスティクス・ハブ(兵站)の1つである。ベルゴロドは、ウクライナの2番目の都市ハリコフのすぐ北にあり、ハリコフはロシアの大砲によって激しく砲撃され、ロシア軍に囲まれたままである。(5月に入ってロシア軍はハリコフから撤退している)

■ 英国メディアのロイター通信は、爆発を示したCCTV映像を入手したと報じ、映像に刻印された日付と時刻は石油貯蔵所の火災に対応しており、ビデオの建物が石油貯蔵所のエリアの建物と一致していることを確認した。ロイターによると、確認した場所からの防犯カメラの映像は低高度から発射されたミサイルのような閃光と、それに続いて地上での爆発を示している。 

■ 42日(土)、ロシアの議員のひとりは、石油貯蔵所への攻撃を防ぐことができなかった理由についてつぎのように語っている。「防空システムのレーダーは、低い高度では建物や樹木のような障害物を検知するので、高い高度で侵入するミサイルや航空機からの攻撃から保護するようになっている」 

■ ヘリコプターが記録的な低高度で飛行していることは理解できるが、ヘリコプターは大きな音を立てるため、どうしてヘリコプターの音が聞こえなかったのかという疑問を語る人もいる。 

■ 今回の事件を含め、ウクライナーロシア両国の境界付近で発生している一連のミステリアスな火災と爆発の原因についてつぎのように語る専門家もいる。「幾つかのシナリオを想定することは可能である。例えば、クラライナ軍の妨害行為、ロシアに住む親ウクライナ派グループの破壊行為、ロシアの権力者が間接的に関与、または最近ロシアの戦争を“狂気の沙汰” と呼んだ海外に住むロシアの富豪者が背後にいるなど、可能性を拡大することに限界はない」 

■ NHK56日解説で ロシア国内では爆発や火災が相次いでいる。ウクライナの国境に近い、ベルゴロド、ボロネジ、クルスクで、ウクライナ東部に展開するロシア軍を後方から支援する弾薬庫などが狙われたとみられているという。ウクライナ政府の大統領府顧問がツイッターで「ウクライナはロシア軍の倉庫や基地への攻撃を含め、あらゆる方法で自衛する」と発信している。ウクライナ側が国境をこえてロシア軍を攻撃した可能性が高いという見方が強まっている。


補 足

■「ロシア」(Russia)は、正式にはロシア連邦といい、ユーラシア大陸北部に位置し、人口約14,600万人の連邦共和制国家である。

「ベルゴロド」(Belgorod)は、ドネツ川流域にあるベルゴロド州の州都で、人口約33万人の都市である。ロシアの首都モスクワから700km、ウクライナの国境から40kmの位置にある。

 ロシアのタンク事故には、つぎのような事例がある。

 ● 20138月、「ロシア・シベリアの石油施設でタンク火災」

 ● 20141月、「ロシア・ムルマンスクの石油施設でガソリンタンク火災」

 ● 20205月、「ロシアのシベリアで発電所の燃料タンク底板部から大量流出(原因)」

 ● 20224月、「ロシアのふたつの石油貯蔵所でタンク爆発・火災、テロ攻撃か」 

■「ロスネフチ社」(Rosneft)は、1993年に設立されたロシア最大の国営石油会社である。ソビエト連邦時代のソ連石油工業省を母体に設立された。ロシア国内のサハリン、シベリア、ティマン=ペチョラ行政区、チェチェンを含む南ロシアにおいて原油と天然ガスを生産している。石油精製施設は、黒海沿岸のクラスノダール地方のトゥアプセ、極東のコムソモリスク・ナ・アムーレにある。ベルゴロドに石油貯蔵所があるが、設備概要は分からない。


 ■「Mi-24ヘリコプター」は、 ソビエト連邦時代に開発された攻撃用ヘリコプターで、1978年以来、国内で約2,000機が製造され、30か国以上に約600機が輸出された。攻撃ヘリコプターとしては異例の大型機であるが、これは強力な武装で地上を制圧しつつ、搭乗した歩兵部隊の展開を想定して開発されたためである。しかし、戦闘と輸送という二つの役割を一機に担わせる設計は、結果的に悪い折衷になってしまったことから、対地攻撃に特化したものとなった。

 ウクライナでは、陸軍と空軍に配備され、2014年から続くウクライナのドンバス内戦で、陸軍航空隊がウクライナ東部の親ロシア派分離主義武装勢力の鎮圧に投入している。実戦での運用では、低空を飛行することが多いことから攻撃を受けやすい対策として、作戦時には21組やグループで行動し、多方向から同時に攻撃するという戦術が用いられるようになった。 Mi-24の巡航速度は時速270kmといわれており、ウクライナ国境からベルゴロドまでの距離40kmの到達時間は約9分となる。

■「発災タンク」は、容量2,000KLのタンク8基と報じられている。グーグルマップで調べると、ベルゴロド石油貯蔵所には燃料タンクが16基あり、そのうち12基は同じ規模(容量)の固定屋根式タンクとみられる。これらのタンクは直径約15mであり、高さを11.5mとすれば、容量は2,000KLとなる。タンク内の油種は分からない。被災写真を見ると、発災タンクは中央部にほぼ一列に並んでおり、北方から襲来したヘリコプターから発射された複数のロケット弾またはミサイルによる攻撃で火災を起こしたものと思われる。

所 感

■ タンク火災の原因は、平常時のテロによる“故意の過失”でなく、戦争時のヘリコプターによる攻撃であり、“世界の貯蔵タンク事故情報”で取り上げる範ちゅうでは無い。発災当初、ウクライナを非難するためのロシアの偽旗​​(にせはた)作戦の可能性があるのではないかと思っていた。

 1か月余が経って振り返ると、ウクライナは、依然、関与を認めていないが、ウクライナによる軍事作戦だったと思う。攻撃が地上からのロケット砲などでなく、ヘリコプターが使用されており、さらに、Mi-24ヘリコプターの実戦経験から21組で行動するという運用をとっていることから、低空飛行の経験のある軍組織が関与しているとみられる。 

■ 消火活動については、初期段階で出動した消防士が70名と消防車両20台で対応していたが、火災の規模が大きいため、動員された消防士は194名に増員され、消防車両などの消火装備が59台に増強されたという情報だけで、どのような消火戦略や消火戦術がとられたかは分かっていない。

 発災が午前5時頃で、午後1020分に鎮火しており、火災継続時間は17時間20分である。当初と思われる被災写真では、大きな炎が真黒い煙とともに空に舞い上がっており、よく17時間余で消火できたと感じる。一方、タンク地区の発災状況を写した画像では、防災道路に多くの消防車両が配置されているが、消火活動をしているようには見えない。堤内火災が主でタンク火災は燃え尽きたという印象である。火災が収まってきた画像では、高発泡の泡モニターで堤内火災を消している。この点は適切な消火戦術である。


備 考

 本情報はつぎの情報に基づいてまとめたものである。

  Bbc.com,   ロシア、国内の燃料貯蔵庫をウクライナが攻撃と非難,  April  01,  2022

     Cnn.co.jp ,  ロシアの燃料貯蔵施設で火災、「ウクライナ軍ヘリが攻撃」と州知事主張,  April  02,  2022

     S.japanese.joins.com, 「ウクライナがロシア本土を初めて打撃ヘリ2機で石油貯蔵所空襲」,  April  01,  2022

     Washingtonpost.com, Mystery fires at sensitive facilities compound Russia’s war challenge,  April  27,  2022

     Shimamyuko.wordpress.com,ロシアで発生したミステリアスな一連の火災と爆発,  April  27,  2022

     Nhk.jp,ウクライナが攻撃か ロシア国内で相次ぐ火災や爆発,  May  06,  2022

     Republicworld.com, Russia's Logistics May Further Stretch After Fire At Belgorod Oil Depot Destroys Tanks: UK,  April  02,  2022

     Tass.com, Fire at oil depot in Russia’s Belgorod may spread to all fuel tanks, source says,  April  01,  2022

     Reuters.com , Ukraine denies attacking fuel depot inside Russia, mayor says fire almost out,  April  02,  2022

     Bbc.com , War in Ukraine: Russia accuses Ukraine of attacking oil depot,  April  01,  2022

     Tribunetimes.co.uk , Ukraine war: What we know about the helicopter attack on a Russian oil depot,  May  16,  2022

     Belpressa.ru , МЧС: пожар на нефтебазе в Белгороде ликвидирован,  April  01,  2022

     Fonar.tv , МЧС: пожар на нефтебазе в Белгороде ликвидирован,  April  01,  2022


後 記: 今回のタンク火災の情報は発災直後から知っていました。当初からロシアはウクライナ軍によるヘリコプター攻撃が非難し、ウクライナは攻撃を認めずに沈黙していました。ロシアによる自作自演の偽旗​​(にせはた)作戦の可能性を否定できず、本ブログへの掲載はしませんでした。ロシアのウクライナ侵攻についてはいろいろな情報やメッセージが出されていますが、「こたつCIA」(CIA;米中央情報局)と呼ばれる活動が注目されています。これは、商業衛星の情報などを使って戦況分析を発信している一般の人たちのことをいうそうです。「こたつCIA」という名前はちょっと皮肉っぽいところがありますが、軍事情報には機密や意図したフェーク情報がある中で 「こたつCIA」に期待する声があるといわれています。ということもあり、発災から1か月余が経ち、本タンク火災を調べてみることにしました。



2022年5月11日水曜日

欧州における雷検知ネットワークによる落雷リスクの回避

 今回は、2022413日付けでインターネット情報誌“Tank Storage Magazine”に載った“Minimising the lightning risk on tanks”(タンクの雷リスクを最小限に抑える)という雷検知ネットワークが企業の現場で雷のリスクを管理するのに役立っている情報を紹介します。

< はじめに >

■ 人間に対して危険な自然現象はいろいろあるが、落雷は世の中の死亡原因の中で25番目にはいっている。 「貯蔵タンク事故の研究」 によると、石油タンク事故の 33%は落雷が原因である。

■ 西ヨーロッパでは2018年にそれまでの10年間で最も落雷の多い年であり、ヨーロッパの雷検知ネットワーク全体で300万件が記録された。西ヨーロッパで最も頻繁に雷が発生した3つの国は、イタリア、スイス、フランスである。 (注;西ヨーロッパとは、ここではフランス、スペイン、イギリス、ポルトガル、ベルギー、ルクセンブルグ、オランダ、アイルランド、ドイツ、デンマーク、スイス、イタリアをいう)
■ 落雷は明らかな脅威であるが、最近の研究によって落雷のリスクを最小限に抑える信頼性の高い対応策(ソリューション)が開発され、人間社会、施設、業務をタイムリーかつ安全に確保することができる。欧州の貯蔵施設の事業者の中には、すでにこの対応策を備えているところもある。雷検知ネットワークを運用するメテオラージュ社(Météorage)は、企業が落雷のリスクを最小限に抑えるための課題をよく理解し、支援している。

落雷のリスクを軽減する対応策に導入する理由 >

■ 貯蔵施設において落雷のリスクを軽減するとは、雷雲がやってきたとき、荷揚げ作業の停止、保守作業の中断、人員の安全確保、嵐時のパイプライン作業に関する安全指示を行うことなどがある。

■ 特に可燃性の炭化水素を取り扱うような日常業務では、落雷のリスクが高くなる。さらに、石油プラントや製油所など金属でできた構造物は一般に広い場所に作られており、ほかの建物からも遠く離れている。このことが落雷のリスクを高め、貯蔵されている液体の可燃性と相まって、爆発や火災に対するリスクを生み出している。

現在の対応策 >

■ 落雷による被害防止の対応策は、オペレーターには実際に役立つ意思決定支援ツールである。これにより、オペレーターは、雷が本当の脅威となる瞬間を判断し、各操作や作業に対して事前に作成されている安全策を発令することができる。

■ 欧州をはじめ世界各国では、いろいろな企業がさまざまな技術(テクノロジー)を駆使して落雷検知を行っている。

 ● ローカル検出器やフィールドミル (電界強度計)による技術: 落雷が発する波を検知するものや、電界の異常を検知するものなどがある。現在、その範囲は限られており、設置、較正、メンテナンスに費用がかかり、煩雑である。また、その有効性は科学的に証明されておらず、雲と地上間の落雷と雲と雲の間の雷を識別することができない。 

 ● 衛星やレーダーによる画像: 衛星による探知は、全地球を網羅できるという利点はあるが、衛星の動きによって、3分程度の短時間に限られた領域しか観測できない。これは雷を検出するには十分であるが、嵐の連続的な観測には適していない。レーダーによる検出も正確な画像を得ることができる。しかし、一般的に高価な設備導入とメンテナンスが必要である。気象庁、軍、航空関係が保有しているのみである。このシステムの弱点は、差し迫った嵐や確かな兆候である雲の電気的性質に関する情報が得られないことである。

 ● 検知ネットワークによる技術: 現在、これが最も実績のある検知技術である。雷検知ネットワークからの情報は、雷が発生してから通常10秒程度で検知されるため、リアルタイムの点で唯一のものである。さらに、この方法は予測の観点でも1時間以内という最良の結果を出している。    

■ 雷の検出と位置特定は、気象、産業、軍事、研究など多くの分野で関心を持たれている。いろいろなシステムが開発され、それぞれに限界と利点を持ちながら使用されている。

■ 近年、雷の検出に不可欠な解決策として電磁波センサーのネットワークで構成された雷位置情報システムが開発されている。このネットワークはますます効率的になり、そのデータは雷雲の影響を受ける地域で使用されている。

メテオラージュ社 の 検出ネットワーク >  

■ メテオラージュ社Météorageは、欧州の雷検知ネットワークを運営するフランスの企業である。世界気象機関(World Meteorological Organization ;WMO)が発表した調査によると、同社が使用している技術は、現在、世界で最も高性能で効率的だといわれている。雲から地面への落雷を98%検出できるといい、雷位置標定精度は平均位置誤差100m以下である。

■ 落雷そのものを避けることはできないが、落雷の影響を防ぐための専門的な対応策はある。1987年以来、メテオラージュ社は独自の雷検知ネットワークを運営しており、コアビジネス(中核事業)として雷データの評価を専門に行っている。

■ 同社は、風力、石油、輸送、電力、レジャーなど雷のリスクに曝されている分野で、落雷に関するリスクを軽減するための啓発と予防の向上に貢献し、世界中の顧客を支援している。

■ メテオラージュ社は、顧客のニーズ(要求・要請)とあらゆるリスク管理に適応した革新的で信頼性の高い対応策を提供し、ユーザーの現場における落雷リスクを適切に管理できるようにしている。

 ● リアルタイム: ビジネスデータの統合を図る動的インターフェースを使って、ユーザーは観測サービスのネットワークによって現場や基地における嵐の動きをリアルタイムで視覚化し、追跡することができる。警報と組み合わせることで、現場での嵐のリスクが発生する場合にユーザーに警告を発し、人員の避難、故障や災害が疑われる場合のメンテナンスチームの派遣、荷積み作業の停止などの意思決定を正確に予測することができる。このように従業員など人の安全を保つだけでなく、この対応策は生産の休止時間や経済的損失を抑えることにも役立つ。

 ● 過去の経緯: 現場での検査や保険金請求手続きなどを容易に行う対応策があり、特に嵐が去った後のメンテナンス作業を計画する際に役立つ。メテオラージュ社は、数十年にわたって西ヨーロッパ全域で収集してきた豊富なデータベースにもとづき、地方レベルや国際的な規模で落雷の統計データを提供することができる。これらによって、ある地域の落雷のレベルを評価し、その場所に応じた現場のリスクを判断することが可能になる。 

■ メテオラージュ社では、顧客専任のサポートチームが 24時間年中無休で監視サービスを行っている。

アントワープ(オランダ)の燃料貯蔵所における事例 >

■ オランダのアントワープ製油所からパイプラインで送油される燃料貯蔵所は、貯蔵能力が756,000KLであり、24時間年中無休で稼働し、給油のために1日に約500人のトラック運転手を受入れている。このアントワープにある燃料貯蔵所がメテオラージュ社の検知システムのユーザーのひとつである。

■ 燃料貯蔵所の事業者は、つぎのように語っている。

「半径10km以内に嵐の活動が検知されると、私たちは作業をやめ、現場に出ている人を落雷から保護してくれる建物に安全に避難させるよう警告が出ます。雷が去ったら、私たちにも連絡が入り、作業を再開することができます。インターネットによって、雷を伴った嵐の進行状況を正確に把握することができますし、燃料貯蔵所に雷が何回落ちたかもわかるので、避雷設備の点検など必要な措置をとることができます」といい、「また、雷の検知や落雷回数を記録しなければならない規制にも対応することができます。メテオラージュ社は私たちが正しい選択をするのを支援してくれるので、とても助かっています」と付け加えた。

■ 要求の厳しい顧客に対応してきたメテオラージュ社の知識と経験により、社内のチームはネットワークの性能を評価し、質の高いアプローチの提案が可能で、指標や適用方法を定め、冗長性や耐障害性のあるシステムを設計できる。

補 足

■「西ヨーロッパ」は西欧ともいい、ヨーロッパ地域の西部を指す。 「西ヨーロッパ」の定義によって国際連合の分類、歴史的分類、民族・地理的分類、北大西洋条約機構加盟国(NATO)による分類などがあり、一律な区分けはない。この資料では、フランス、スペイン、イギリス、ポルトガル、ベルギー、ルクセンブルグ、オランダ、アイルランド、ドイツ、デンマーク、スイス、イタリアをいう。

■「メテオラージュ社」(Météorage)は、落雷の検出と位置特定を行う欧州のネットワークオペレーターであり、落雷リスク管理の予防のスペシャリストである。1987年以来、メテオラージュ社はフランスで雷検知ネットワークを運用しており、その後、欧州の大部分を含むように拡張した。メテオラージュ社は、雷に関連するリスクを憂慮する分野(産業、運輸、ネットワーク、レジャー、観光、気象、航空、軍事、風力など)にユーザーをもっている。


所 感

■ このブログで雷を取り上げたのはNASAによる雷マップ」 が最初で、落雷によるタンク火災を除いた落雷対策についてはつぎのようなブログを紹介した。

 ●NASAによる雷マップ」20126月)

 ●「中国における石油貯蔵タンクの避雷設備」20141月)

 ●「石油貯蔵タンクの落雷リスクと雷保護」201512月)

 ●FRP (繊維強化プラスチック)製タンクの落雷保護と接地系統の評価」202010月)

 今回の情報は現在の雷検知ネットワークの技術状況を知る上で興味深い。 「NASAによる雷マップ」によると、欧州は必ずしも雷の多い地域とはいえないが、雷検知ネットワークの精度向上とともに、雷への対応策をとってきているのが分かる。

■ 日本の雷マップは、「マレーシアでタンクローリーに落雷して次々に爆発」201410月)の「補足」で、フランクリン・ジャパン社のウェブサイトで公開している情報を紹介した。 今回、2009年~2013年と2013年~2017年の落雷密度分布図を比較してみると、全体としては分布図に大きな変化はないように思うが、雷が多いエリアは少し変化しているように見える。最近の気象環境が変化しているのか、雷マップの精度による差異かは分からない。

 メテオラージュ社は日本で活動していないが、日本における雷検知ネットワークに関連するものはつぎのようなものがある。

 ● 気象庁;雷レーダー(実況)

 ● ウェザーニュース;

 ● 電力会社;落雷情報 (たとえば、中国電力;落雷位置等の標定データ提供サービス

 ● フランクリン・ジャパン;落雷状況


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Tankstoragemag.com, Minimising the lightning risk on tanks, April  13,  2022


後 記: 地球上では、どこかで約1,800件の雷雨が起こっており、毎秒約100個の雷が地面に落ちているといいます。日本の落雷密度分布図をみると、私の住んでいる山口県(山陽)も落雷頻度が高い方です。確かに近年、異常気象が増え、環境は変わってきたように感じます。しかし、雷に関する体感でいえば、昔(といっても30年ほど前ですが)の方が落雷は多かったように感じています。これは落雷による停電が多かったのか、落雷によって業務への影響が大きかった所為でそう感じているのかも知れません。そういえば、もっと昔のこどもの頃は雷が鳴ったら、蚊帳(かや)の中にじっとしておれと教えられていました。これには一利ありますが、いつの頃からか蚊帳は無くなってしまいました。ところが、最近のキャンピング・ブームで、蚊帳が注目を集め始めているようです。