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2022年4月11日月曜日

ウクライナ各地の石油貯蔵所がミサイル攻撃によってタンク火災

 今回は、2022310日に紹介したウクライナの石油貯蔵所のタンク火災情報に引き続き、2022325日以降、ウクライナ各地において石油貯蔵所がミサイル攻撃によってタンク火災になった情報を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災施設は、ウクライナ(Ukraine)の各地にある石油貯蔵所である。

■ 2022224日(木)、ロシアがウクライナに侵攻し、軍事衝突が起こり、ウクライナ東部の石油貯蔵所が攻撃された。その後、325日(土)、ウクライナ西部のリヴィウ(Lviv)の石油貯蔵所が長距離ミサイルで攻撃されたほか、西部地区の石油貯蔵所が相次いで攻撃され、さらに東部・中部地区の石油貯蔵所でも攻撃されている。3月上旬までの攻撃による被災状況は、「ウクライナ各地で石油貯蔵所が攻撃によってタンク火災」2022310日)を参照。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 325日(土)の午後430分頃、比較的安全な地域といわれていたリヴィウに空襲警報が鳴り響いた。数発の長距離ミサイルが街を襲った。

■ 長距離ミサイルの1発が、市の東部郊外の住宅地から遠くないところにあるリヴィウのウクライナ軍が使用している石油貯蔵所がねらわれ、爆発した。この爆発によって5人が負傷した。市街地では濃い黒煙が見られた。NATO加盟国のポーランドとの国境からわずか60kmでロシアから遠く、ミサイルは高精度長距離海上発射兵器“High-precision long-range sea-launched weapons” といわれている。

■ 州の消防隊が炎に取組み、火災は326日(日)午前5時頃、制圧され、午前7時に鎮火された。消防隊が炎を消すのに14時間かかった。

■ 米国コロラド州に本社を置く宇宙技術企業であるマクサー社(Maxar)は石油貯蔵所の損傷状況の衛星画像を公開した。

■ 327日(日)午後10時頃、ヴォルィーニ州(Volyn)ルーツク(Lutsk)で15分間に2回のミサイル攻撃があり、企業の石油貯蔵所が炎上した。大きな火災となり、消防隊が消火活動を行い、翌328日(火)の午前8時頃に制圧し、局所化した。しかし、完全に消火するまでに32時間かかり、328日(月)午前6時に鎮火した。

■ 火災の状況がユーチューブに投稿されている。(YouTube Волинська область: ліквідовано пожежу на території одного з промислових підприємств2022/03/28)を参照)

■ 327日(日)には、このほかハリコフ(Kharkiv)、キーウ(キエフ;Kyiv )、ジトーミル(Zhytomyr )の燃料貯蔵所への攻撃が報告されている。

■ ロシアの侵攻が5週目に入り、ミサイル攻撃がウクライナの石油施設や石油貯蔵所に向けられており、ロシアの戦略(戦術)が変わってきている。

■ 328日(月)の夕方、ウクライナのリブノ(Rivne)にある石油貯蔵所がロシアのロケット攻撃により、火災が発生した。

■ 火災は拡大せず、局所化しているが、329日(火)午前10時時点では消防隊による消防活動が続いている。その後、火災は制圧され、消火された。

■ さらに、328日(月)の夜、リブノにある別な石油貯蔵所がロシアのミサイル攻撃によって火災が発生した。

■ この火災では、消防士67人が消防機材17台を使用して24時間体制で消火活動に従事した。火災は、2日間続き、330日(木)午後1時頃に消火された。

■ 42日(土)、ロシアによってポルタバ州のクレメンチュク製油所(Kremenchug Refinery)と周辺にある燃料貯蔵所が砲撃された。企業のインフラが破壊され、プラント自体が機能していないとみられる。 クレメンチュク製油所は、ウクライナで唯一稼働している製油所だった。 

■ 43日(日)、ロシアの攻撃により、港湾都市オデッサ(Odesa)付近の石油貯蔵所などの重要施設で火災が起こった。オデッサはマリウポリ(Mariupol)と並んでウクライナ海軍の重要基地である。

被 害

■ 各地の石油貯蔵所などの石油タンクが砲撃を受け、火災となった。 

■ 石油タンクなどの石油施設への砲撃による死傷者は分かっていない。

< 事故の原因 >

■ 戦争による軍事行動としか言いようがない。(平常時の“故意の過失”に該当)

< 対 応 >

■ 中東カタールのメディアであるアルジャジーラ(Al-Jazeera)は、「4週間以上にわたる戦闘にもかかわらず、ロシアはこれまでウクライナの大都市を占領できていない。国連によると、この紛争によって数千人が死亡し、380万人近くが海外に避難し、ウクライナの子供たちの半数以上が自宅から追い出されている」と報じている。

補 足

■ 「ウクライナ」(Ukraine)は、東ヨーロッパに位置し、南に黒海と面する人口約4,500万人の国である。天然資源に恵まれ、鉄鉱石や石炭など資源立地指向の鉄鋼業を中心として重工業が発達している。20143月に、クリミア半島についてロシアによるクリミア自治共和国の編入問題があり、世界的に注目された。

その前年の2013年に同国内で親ロシア派と親欧米派の対立が激化し、2014年に州庁舎を占拠した親ロシア派が一方的にドネツク州の一部を「ドネツク人民共和国」の樹立を宣言した。同5月に行われた住民投票では独立支持が多数を占めたが、ウクライナ政権や欧米は投票の正当性を否定しており、情勢は混乱していた。

 なお、ウクライナのタンク事故で過去に紹介したのは、つぎのとおりである。

 ●「ウクライナの石油貯蔵施設でタンク火災後に爆発炎上、死者5名」20156月)

 ●「ウクライナの石油貯蔵所でドローン攻撃によるタンク火災か」20219月)

 ●「ウクライナ各地で石油貯蔵所が攻撃によってタンク火災」20223月)

所 感

■ ミサイル攻撃による石油貯蔵所の火災について従来の事故やテロ攻撃によるタンク火災と異なる点はつぎのとおりだと思う。

 ● 被災は複数タンクに及んでいる。今回の石油貯蔵所のタンク容量は報じられていないが、被災写真を見ると、2,0005,000KLほどのタンクと思われるので、タンク配置による影響があるのかもしれない。

 ● 火災は、タンクが炎上している場合もあるが、主として堤内火災である。従来のタンク火災では、熱によってタンク側板が座屈するが、このような座屈の見られるタンクは少ない。

 ● ミサイルの爆発によってタンク設備が変形あるいは倒壊しているものがみられる。

■ ウクライナにおける異常な戦争状態であるが、日本国内のテロ対策について考えるべき事項はつぎのとおりである。 

 ● 複数タンクの火災を考慮すべきである。日本のタンク火災は1基だけに起こるという前提であるが、複数タンク火災が起こった場合の対応について想定すべきである。

 ● 防油堤内の火災を想定すべきである。タンク側板に穴があくような被災を受けると、堤内火災が起こり、被害が拡大する。

 ● 日本では、タンク火災について大容量泡放射砲システムが導入されたが、堤内火災では、このシステムは有効に機能しない。ウクライナの事例を見ても、高発泡の泡消火モニターが使用されている。堤内火災用の高発泡設備を導入すべきである。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

   Euronews.com,  Five people are wounded after fuel storage facility near Lviv was hit,  March  27,  2022

    Jp.reuters.com, Russia hits Ukraine's Lviv with cruise missiles, defence ministry says,  March  27,  2022

    Washingtonpost.com , Russia claims Lviv strikes; Ukraine says it has detained 2 on suspicion of espionage,  March  27,  2022

    Aljazeera.com, Rocket attacks hit Lviv in western Ukraine as Biden visits Poland,  March  27,  2022

    Daytonews.com, Before-and-after images show destruction in ukrainian cities of mariupol kalynivka and izyum ,  March  30,  2022

    Globalnews.ca, Russia causes damage to Ukrainian fuel storage facility, buildings, satellite images show,  March  27,  2022

    Dailymail.co.uk, Russian rocket attacks target Ukraine oil and petrol depots in Lutsk, Kharkiv and Kyiv as Putin tries to starve the defending forces of fuel in ruthless bombardment,  March  28,  2022

    Hindustannewshub.com, Russia-Ukraine War: Russian soldiers blew up oil depot in missile attack, it took 14 hours to douse the fire,  March  27,  2022

    Bbc.com, Ukraine war: Five wounded after explosions hit western city of Lviv,  March  26,  2022

    Zaxid.ne, Пожежу після ракетного удару у Луцьку гасили півтори доби,  March  29,  2022

    Delo.ua, Ракетний удар по нафтобазі під Рівним: пожежа триває,  March  29,  2022

    Volyn24.com, У Рівному після ракетного удару другу добу гасять пожежу,  March  30,  2022

    Reuters.com, Missiles hit Ukrainian refinery, 'critical infrastructure' near Odesa,  April  04,  2022

    Poltava.to , НА КРЕМЕНЧУЦЬКОМУ НПЗ, ЯКИЙ ЗНИЩИЛИ РОСІЙСЬКІ РАКЕТИ, ПОЖЕЖУ ЛОКАЛІЗУВАЛИ — ЗАГИБЛИХ НЕМАЄ,  April  03,  2022

    Zahid.espreso.t , У Рівненській області загасили пожежу на нафтобазі, яка виникла ще 28 березня через ракетний удар,  March 30,  2022

    Zahid.espreso.t , На Житомирщині після авіаударів горить нафтобаза. Відео,  April 07,  2022


後 記: 当初はリヴィウの石油貯蔵所のタンク火災に関わる情報に焦点を当てて調べ始めました。が、インターネットで多くのメディア情報を読んでも、状況の内容が深まらず、発散していきます。もともと、戦争による軍事行動であり、ブログの対象ではありませんし、取り上げるのをやめようかとも考えました。どうするか悩んだのですが、詳細の情報が無くても被災の画像があるものを選び、まとめることとしました。一方、ロシアのベルゴロドの石油貯蔵所がウクライナのヘリコプターによって攻撃され、火災になったという報道があり、被災の画像もあります。しかし、これはロシアのプロパガンダと断言しませんが、事実が曖昧ですので、このブログには入れませんでした。

 ところで、被災画像を見ていたら、消火活動に使用していたはしご車の裏に漢字が書かれていましたが、中国の機械でした。火災の消火活動に寄与するだけでなく、今回の“戦争の火消し” に中国が一肌脱いでもらいたいものです。


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