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2019年1月27日日曜日

メキシコの石油パイプラインで違法な油採取中に爆発、死者99名

 今回は、2019年1月18日(金)、メキシコのイタルゴ州トラウエリルパンに敷設されているメキシコ国営石油会社(ペメックス社)のガソリンのパイプラインで違法なタップによる油採取中、爆発・火災が起こり、99名が死亡し、39名が負傷によって入院するという事故を紹介します。
(写真はNationalpost.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、メキシコのイタルゴ州(Hidalgo State)トラウエリルパン(Tlahuelilpan)に敷設されているメキシコ国営石油会社のペメックス社(Petroleos Mexicanos: Pemex)の石油パイプラインである。

■ 発災があったのは、首都メキシコシティ(Mexico City)から北約90kmにあるトラウエリルパン付近に埋設された直径14インチの石油パイプラインである。メキシコでは、原油、天然ガス、石油製品がパイプラインで移送されているが、発災のあったパイプラインの油種はガソリンだった。
(写真はVoanews.comから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2019年1月18日(金)午後7時頃、トラウエリルパンの野原に敷設されていた石油パイプラインが爆発し、火災となった。暗闇がせまる中、炎と煙が激しく立ち昇った。

■ 爆発の約2時間前の1月18日(金)午後5時頃、油窃盗と思われるグループによって石油パイプラインに抜出しラインがあけられ、野原に多くの人々が集まり、お祭り気分のようだった。住民はガソリンをバケツやポリ缶などで採取していた。バケツやポリ缶を持った住民らは700人とも800人だったといわれる。

■ 発災に伴い、99名が死亡し、39名が病院に入院し治療している。(1月24日段階)

■ 爆発が起こった後、地元テレビは住民らが悲鳴を上げながら逃げ惑う姿や全身やけどを負った人の姿を放映した。

■ 爆発に伴う火災は、消防隊によって発災から4時間後の真夜中少し前に消火が確認された。

■ メキシコでは同種の犯罪が多発していることから、2018年12月に発足したメキシコ新政権は盗難対策として複数の石油パイプラインを止め、タンローリーでの燃料輸送をしていた。今回爆発したパイプラインは、稼働を再開したばかりだった。通油を開始した石油パイプラインには、約10,000バレル(時間単位不詳)が圧力約20kg/c㎡で流れていたという情報があるが、真偽はわからない。

■ 住民によると、爆発のあったパイプライン部は、油窃盗グループが繰り返しパイプに穴をあけているような場所だった。当局者によると、トラウエリルパン周辺のパイプラインは過去3か月間に10回、窃盗のために穴があけられているという。

■ ガソリンスタンドの全国的な燃料不足の中で、ほぼ4週間の間、停止されていたパイプラインが運転を再開したが、誰かが再び石油パイプラインに穴をあけた。この噂が地元に広まり、人々が集まってきた。多くの人が、ポリ缶を持って石油パイプラインにあけられた栓のところに現れた。

■ 地元の人によると、当初、ガソリンの採取はバケツを一杯にする程度であったという。しかし、群衆の数が多くなり、600人以上に膨らむと、人々は気短になっていた。ひとりの男がパイプラインのパッチ部に鉄の棒を突っ込んだ。すると、ガソリンが間欠泉の水のように高さ20フィート(6m)まで噴き出した。お祭りの様相が激しくなった。ガソリンで濡れた大人がポリ缶を投げたり、ガソリンを入れる容器類で場所とりする人が出てきた。

■ 追い払おうとした兵士に向かって何人かが石を投げ、棒を振り回した。ガソリンをとる人の中には、子どもを連れてきている人もあった。25人ほどの兵士は現場の野原周辺に立って、これ以上民間人が近づかないよう警備した。当局者によると、兵士はいたが、彼らへの指示は無理な介入をしないことだったという。1週間ほど前、別な町で国営の油を分捕るのを止めさせようとして、幾人かの兵士が住民たちから殴りつけられるという事件があった。
(写真はElpais.comから引用)
(写真はElcomercio.peから引用)
(写真はGlobalnews.caから引用)
(写真は左;Elcomercio.pe、右;Theguardian.comから引用)
被 害
■ 事故に伴い、 99名が死亡し、39名が病院に入院し治療している。

■ 石油パイプラインに違法なタップが設置され、配管が損傷した。パイプラインから内部のガソリンが漏洩し、焼失した。

< 事故の原因 >
■ 爆発の主原因は、油窃盗のため違法なタップによる故意の過失である。

■ 引火の原因は、初期段階の見方として、パイプラインの周囲にいた人々の衣類からの静電気放出とみられている。パイプラインの近くには多数の人間がおり、一部は合成繊維製の衣料を着用し、この衣類が電気反応を生じさせた可能性があるという。
(写真はAztecaamerica.comから引用)
(写真はLatimes.comから引用)
(写真はAbc13.comから引用)
(写真はNews.sky.comから引用)
< 対 応 >
■ メキシコ公安長官は、石油パイプラインの爆発による火災は消滅したと述べ、救助隊による遺体の回収が開始された。

■ メキシコ大統領は、記者会見で遺族にお悔やみの言葉を述べる一方で、「犯罪組織のガソリン盗難への取締まりが必要だ」として、深刻化している燃料窃盗への対策継続に理解を求めた。メキシコ各地では、窃盗グループによる燃料の盗難が相次いでいて、2018年だけで3,300億円の被害が出ている。

■ 1月21日(月)、メキシコ政府は2018年に違法なタップが14,894件見つかったと発表した。これはメキシコ国内で1日当たり41件である。

■ 政府は事故について詳細な調査を始めた。そして、ペメックス社はパイプラインが破裂していることを知っていたのに、なぜ爆発するまで何時間も石油パイプラインを閉止しなかったのかという疑問があがっている。

■ 1月21日(月)、ペメックス社の技術者が記者会見の場で、「最初、漏出はわずかだったが、あとになって噴水のようになった。このことが分かって20分以内に、ペメックス社は措置をとった」と述べた。この措置が石油パイプライン内の油の流れを止め得たかどうかは明らかではなかった。

■ ペメックス社の最高経営責任者(CEO)は、調査結果に従うといい、パイプライン閉止の遅れについて過失や怠慢があったかどうかについては肯定も否定もしなかった。そして、「すべては見られており、これからです」と付け加えた。メキシコ司法長官は、当局による過失に関する調査は進行中であり、今週中には質問への回答をすることになるだろうと述べた。

■ ペメックス社の最高経営責任者(CEO)は、調査結果に従うといい、パイプライン閉止の遅れについて過失や怠慢があったかどうかについては肯定も否定もしなかった。そして、「すべては見られており、これからです」と付け加えた。
 メキシコ司法長官は、当局による過失に関する調査は進行中であり、今週中には質問への回答をすることになるだろうと述べた。
(写真はThespec.comから引用)
(写真はRegister-herald.com から引用)
(写真はTimesdaily.comから引用)
(写真はVoanews.comから引用)
(写真はOkcfox.comから引用)
補 足 
■「メキシコ」(Mexico)は、正式にはメキシコ合衆国で、北アメリカ南部に位置する連邦共和制国家で、人口約1億2,800万人の国である。
 「イダルゴ州」(Hidalgo) は、メキシコ中部にあり、人口約760万人の州である。
 「トラウエリルパン」(Tlahuelilpan)は、首都メキシコシティが車で90分、国営のツラ製油所(Tula)から13kmのところに位置する人口約8,500人の町である。緑豊かなアルファルファー畑と発電所があり、メキシコの標準的な田舎町で、収入は全国平均レベルで、住民の約半分は中程度の貧困の世帯である。
            メキシコ合衆国と各州の位置   (図はUpload.wikimedia.org から引用)
■「ペメックス社」(Petroleos Mexicanos Pemex)は1938年に設立された国営石油会社で、原油・天然ガスの掘削・生産、製油所での精製、石油製品の供給・販売を行っている。ペメックス社はメキシコのガソリンスタンドにガソリンを供給している唯一の組織で、メキシコシティに本社ビルがあり、従業員数約138,000の巨大企業である。 

■ 石油パイプラインの油窃盗は、メキシコなど貧困な国で起こっており、事故も少なくない。当ブログで取り上げた事故はつぎのとおりである。

■ 今回の事件の違法タップの方法は明らかにされていないが、おそらく「ホットタッピング」によるものであろう。本来はパイプラインの内容物を抜かずにバルブを切り込んだり、バイパスラインを設置するために開発された工法で、パイプラインに枝管(バルブ付き)のノズル部を溶接し、ホットタッピング・マシンという特殊な穿孔機を使用してパイプラインに孔を明け、抜出し口を設ける。通常はパイプラインの流れを一時的に止め、内圧を下げてから溶接工事や穿孔工事を行なう。石油パイプラインからの油窃盗では、内圧がかかったままであるので、極めて危険な工事である。
                    正規のホットタッピング工法の例   (図はWermac.org から引用)
パイプラインへの違法タップの例
(写真は、左;News.bbc.co.uk 、右;Linkedin.com から引用)
■ 石油パイプラインの違法タップの油窃盗に対して、メキシコでは 「ドローンによる監視」を行っているが、十分な効果は出ていない。また、パイプライン窃盗防止モニタリングという技術を提供している会社もある。アコースティック・エミッションを活用したり、防食用被覆材の損傷による電圧の急激な変化を検知する方法である。実際の有効性は分からない。

所 感
■ メキシコの石油パイプラインにおける油窃盗による事故は、2014年のメキシコで原油パイプラインからの油窃盗失敗で流出事故」、2017年の「メキシコの石油パイプラインで油窃盗中に爆発、死傷者6名」を紹介したが、違法タップによる油窃盗は増え続けており、この背景には、貧困の拡大、安易な石油パイプラインの敷設、窃盗団による組織的犯罪などいろいろな要因がある。しかし、今回の事故をみると、2017年当時よりも混迷を極めていると痛感する。

■ 今回の事故について、日本から見て常識では考えられないことはつぎのとおりである。
 ● 油窃盗グループがあけた違法タップに大勢の住民が集まってきた。
 ● 石油パイプラインの埋設ルートが以前から掘られ、放置されていた。
 ● 違法タップだけでなく、だれかが鉄の棒で石油パイプラインに穴をあけた。
 ● ガソリンが噴出流となっても、住民が逃げなかった。
 ● 油窃盗が起こっていても、石油パイプラインがすぐに閉止されなかった。
 ● 兵士が近くにいても窃盗を止めなかった。
 ● 兵士数が少ないと判断して、応援隊を要請しなかった。 
  
■ 火災への対応の詳細については報道されていないが、おそらく消防の対処は、石油パイプラインの移送バルブが閉止され、漏れた油を燃え尽きさせるという方法がとられたのだろう。現場に消防車は見えるが、事故後の現場写真を見ると、消火泡が使われた跡は残っていない。中途半端に火災を消火すると、油汚染や消火泡による土壌・水質の環境汚染の問題があるのを懸念していると思われるが、今回のように多くの住民が倒れた場合、まだ息のある人はいたはずで、難しい判断だったと思う。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Asahi.com,  メキシコのパイプライン爆発事故、死者は79人に,  January 20, 2019
   ・Sankei.com, メキシコのパイプライン爆発 燃料窃盗時に引火か,  January 20, 2019
    ・Cnn.co.jp, メキシコの送油管爆発 死者73人に、衣類の静電気が原因か,  January 20, 2019
    ・Mainichi.jp, メキシコ パイプライン爆発、死者79人に,  January 20, 2019
    ・Fnn.jp, メキシコ・パイプライン爆発で66人死亡 石油盗もうとして?,  January 20, 2019
    ・Nhk.or.jp, パイプライン爆発 死者66人に メキシコ,  January 19, 2019
    ・Tokyo-np.co.jp, パイプライン爆発、死者66人 メキシコ,  January 20, 2019
    ・Nikkei.com , パイプライン爆発66人死亡 メキシコ,  January 20, 2019
    ・Japanese.donga.com, メキシコパイプライン爆発、少なくとも73人が死亡,  January 21, 2019
    ・Abcnews.go.com, Death Toll Reaches 73 in Mexico Fuel Pipeline Fire Horror,  January 20, 2019
    ・Washingtonpost.com,  Death Toll in Mexico Pipeline Fire Reaches 89 ,  January 21, 2019
    ・Voanews.com, Mexico Pipeline Death Toll Reaches 91,  January 20, 2019
    ・Abc13.com, Children burned in Mexico pipeline fire being treated at Shriner's Hospital,  January 22, 2019
    ・Ktvn.com, Death Toll in Mexico Pipeline Fire Reaches 93,  January 22, 2019
    ・Globalnews.ca, At least 21 Dead, 71 Hurt in Mexico Pipeline Fire Caused by Fuel Thieves,  January 18, 2019
    ・Kwtx.com, Death Toll in Mexico Pipeline Fire Rises to 93,  January 22, 2019
    ・Cbs7.com, Death Toll in Mexico Pipeline Fire Rises to 95,  January 23, 2019
    ・Nationalpost.com, Death Toll Reaches 85 after Huge Blast at Mexico Pipeline Ruptured by Fuel Thieves,  January 20, 2019
    ・Theguardian.com, Mexico Explosion: Scores Dead after Burst Pipeline Ignites,  January 19, 2019
    ・Elcomercio.pe , México: La explosión en toma clandestina de combustible deja al menos 96 muertos,  January 23, 2019
    ・En.wikipedia.org , Tlahuelilpan Pipeline Explosion,  January 24, 2019
    ・Washingtonpost.com, Death Toll in Mexico Pipeline Fire nears 100,  January 24, 2019



後 記: 事故の一報として日本のメディアの記事を知ったとき、また、メキシコでの石油パイプライン窃盗事件かと思いました。珍しく、すべての日本の報道機関が事故を伝えましたが、残念ながら日本の報道はそこまででした。
 さらに調べていくと、単なる油窃盗による事故でないことがわかりました。しかし、死者数が多い上に、日毎に増えていき、このことがニュースの焦点になり、私が知りたかった石油パイプラインに関するデータや事故の経緯ははっきりしない状況でした。そして、「所感」で書いたように日本にいると、常識では考えられないようなことが起こった事故だったのです。標題に「窃盗」の言葉を考えましたが、単なる盗みという感じではないので、「違法な(タップによる)油採取中」という表現にしました。これは、中東のタンク火災事故の中には、戦場におけるテロによるものがありますが、今回の事故はそれに近い状況だと感じています。このような中で、メキシコは事故を教訓とすることができるのだろうかと考えてしまいました。


2019年1月21日月曜日

米国テキサス州でタンク爆発? 実はタンクローリーが爆発、死傷者2名

 今回は、2019年1月15日(火)、米国のテキサス州ミッドランド郡の州間高速道路20号線の近くにある油井用タンク施設のタンクローリー入出荷設備で起こった爆発・火災の事例を紹介します。
(写真はMedia.graytvinc.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国のテキサス州(Texas)ミッドランド郡(Midland County)の州間高速道路20号線の近くにある油井用のタンク施設である。施設には、タンク設備のほかタンクローリーの入出荷設備があった。タンクは15基、タンクローリー積み場は3レーンあるが、所要者は報じられておらず、分かっていない。

■ 発災は、ミッドランド郡のFM1788号線の7800区画にあるタンク施設に入構していた油輸送用の大型タンクローリーで起こった。
テキサス州ミッドランド郡の州間高速道路20(左上)付近の油井群
 (写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2019年1月15日(火)午後、タンクローリーの入出荷設備で爆発・火災があった。

■ 当初、州間高速道路20号線の近くにある油井施設の蒸留設備で燃えているという情報が流れたが、これは、タンクローリーの設備近くにタンク設備があったことから勘違いしたものだった。ミッドランド消防署によると、現場で爆発した可能性があると通報を受けたという。その場所は油井用の塩水処理施設であったが、隊員25名が出動中に、発災は大型タンクローリー(エイティーン・ホイーラー;18-Wheeler)2台だと連絡があった。そして、現場に到着すると、タンクローリーは2台とも火災になっていた。

■ 発災は、現場で荷下ろし作業をしていたところ、油を運んでいた2台の大型タンクローリーから火が出たものだった。

■ この事故によって、運転手ひとりが亡くなり、もうひとりの運転手は火傷を負い、ミッドランド記念病院へ運ばれたのち、ラブロック病院へ空輸搬送された。現場には他にもうひとりいたが、火災発生時は建物の中にいて被災をまぬがれた。
 
 被 害
■ 大型タンクローリー2台が焼損したしたほか、タンクローリー入出荷設備が損壊した。 

■ 死傷者2名が出た。運転手1名が死亡し、1名が負傷した。

< 事故の原因 >
■ タンクローリーの爆発・火災を起こした原因は調査中である。

< 対 応 >
■ 事故原因の調査は、米国安全衛生労働局(Occupational Health and Safety Administration;OHSA)およびテキサス州内の油田開発などの行政を行うテキサス州鉄道委員会(Texas Railroad Commission)が行うものとみられる。 
(写真はChron.comから引用)
(写真はMrt.comから引用)
(写真はMrt.comから引用)
(写真はMrt.comから引用)
(写真はCbs7.comから引用)
補 足 
(図はJa.wikipedia.orgから引用)
■ 「テキサス州」(Texas)は、米国南部にあり、メキシコと国境を接し、人口約2,510万人の州である。テキサス州はスピンドルトップで原油が発見されて以来、石油が州内の政治と経済を牽引する存在になってきた。テキサス州一人当たりエネルギー消費量および全消費量で国内最大である。従来、メキシコ湾の海底油田が主であったが、 21世紀に入るとシェールオイル採掘の技術が進歩し、内陸部を中心に石油生産量が増加した。テキサス州を国として見た場合、ロシア、サウジアラビアに次ぐ世界第三位の石油産出国になっていると言われている。
 「ミッドランド郡」(Midland County)は、テキサス州西部に位置し、人口約13万人の郡である。

■ 発災場所の所有者は報じられておらず、分からない。しかし、グーグルマップで調べてみると、タンクローリーの入出荷設備とタンク設備のある場所は特定できた。この施設の運用方法は分からないが、油田生産の塩水処理設備だけでなく、タンクローリーの入出荷設備があるので、生産油の集積場所だとみられる。
           発災施設  (写真はGoogleMapから引用)
■ 「テキサス州鉄道委員会」(Texas Railroad Commission)は、州内の石油・天然ガス産業、ガス公益事業、パイプラインの安全性、液化石油ガスの安全性、および石炭とウラニウムの採掘を管理している。

■ 「エイティーン・ホイーラー」(18-Wheeler)とは、輸送用の大型トラックにつけられた愛称である。元々トラックに付いているタイヤホイール数の18からきているが、タイヤが18個を超える大型トラックも「エイティーン・ホイーラー 」といっている。 
 日本でも30KL級タンクローリーが走るようになったが、 いわゆる「エイティーン・ホイーラー 」 ではない。しかし、宇部興産専用道路(宇部市から美祢市を結ぶ高速道路:約32km)は私道のため、規制がなく、 40トン積みトレーラーを2両連結したダブルストレーラーを牽引しているので、34輪の連結トラックが走っている。
大型トラック・タンクローリーの例
■ 大型タンクローリーが入出荷設備で爆発事故を起こした事例としては、201055日(水)、米国ベア郡サンアントニオにあるAGE石油(AGE Refining)の製油所敷地でエイティーン・ホイーラーの大型タンクローリーが爆発して火災になった事故がある。  
米国ベア郡サンアントニオのタンクローリー爆発・火災事故
 所 感
■ この事故は、油井関連施設においてタンクローリーがタンクに積み下ろしするような設備での事故であり、日本では起こりえないものである。しかし、一般にタンクローリーへの油積込作業中に漏洩したり、火災を起こした事例は少なくない。
 ● 2010年5月、米国ベア郡サンアントニオにあるAGE石油のエイティーン・ホイーラーの爆発・火災」  
 このような中で、危険物保安技術協会の第11回危険物事故防止対策論文(2013年)では、「タンクローリー輸送事故防止に向けての提言」が奨励賞を受賞している。
 
■ タンクローリーの輸送中の事故も多いが、このブログで取り上げたつぎの事故は記憶に新しい大きな事故である。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
   ・Hazmatnation.com, Crews Respond to Tank Battery Fire near Midland, TX,  January  16  2019
     ・Newswest9.com. Officials Identify Victims of Fire on FM 1788 South,  January  15  2019
     ・Cbs7.com. Victims Identified in Deadly Midland County fire,  January  16  2019
     ・Yourbasin.com. One Killed in Midland County Crash,  January  15  2019
     ・Mrt.com. County Fire Marshal: 1 Person Dies in Tanker Truck Fire,  January  15  2019
     ・Chron.com. Victims in Midland County Tanker Truck Fire Identified,  January  16  2019


 後 記: 本事故情報の最初はタンク・バッテリーの火災ということで、調べ始ましたが、タンクではなく、タンクローリーの爆発・火災だということが分かりました。ブログ投稿はやめようかと思いましたが、「エイティーン・ホイーラー」の事故だということで、続けて調べることとしました。日本では 「エイティーン・ホイーラー」 の車両はありませんので、紹介を兼ねて調べることにしました。 「エイティーン・ホイーラー」は、映画「ターミネーター」で主人公が追いかけられる大型タンクローリーです。(古くて見ていない人も多いかな)  エイティーン・ホイーラーのような大型のトラックは日本で走っていないとお思いでしょうが、補足で書いたように山口県の宇部興産専用道路では、ダブルストレーラーを牽引する34輪の連結トラックが走っています。しかし、米国では3台のトレーラーを牽引する連結トラック(46輪)が公道を走っています。(写真参照)
 ところで、肝心の事故情報ですが、死傷者が出ているのもかかわらず、詳しい内容の報道記事などは出てきませんでした。広大な土地に13万人しかいない郡で、至るところに油井があるような地域ですが、米国の報道状況の変化を感じる事故でした。
(写真はBlog.nittu-soken.co.jpから引用)




2019年1月11日金曜日

米国コロラド州で工事作業中にタンク爆発・火災、負傷者3名

 今回は、2018年10月27日(土)、米国コロラド州ウェルド郡にあるマーラード・エクスプロレーション社のタンク設備で起こった爆発・火災の事故について紹介します。
(写真はGreeleytribune.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国のコロラド州(Colorado)ウェルド郡(Weld County)にあるマーラード・エクスプロレーション社(Mallard Exploration)の施設である。

■ 発災があったのは、コロラド州道14号線沿いでウェルド郡道83号線近くにある油井施設のタンク設備である。施設はブリッグスデール(Briggsdale)の東にあり、10エーカー(40,460㎡:約200m四方)の敷地に新しく建設されているものである。現在、この土地に生産油井はないが、タンクは6基ある
コロラド州ウェルド郡ブリッグスデール付近(中央部に郡道14号線)
 (写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2018年10月27日(土)午前9時頃、マーラード・エクスプロレーション社のタンク設備で爆発・火災が起こった。

■ 発災場所に比較的近いところの住民によると、家が地震にあったように揺れたという。そして、すぐに真っ黒い煙が流れているのに気がついた。

■ 発災に伴い、ウェルド郡保安官事務所とブリッグスデール消防署が対応に出動した。ウェルド郡保安官が現場に到着したときには、タンク設備は火に包まれていた。

■ 火災はブリッグスデール消防署によって消された。

■ この事故に伴い、請負会社の作業員3名が負傷した。ノースコロラド医療センターに2名は救急車で搬送され、1名は重度のやけどのためヘリコプターで搬送された。3名は、事故当時、タンク設備付近で作業をしていた。

■ 6基のタンクのうち1基は形が崩れて黒焦げになっていた。破片が四方に散らばっていた。タンクの屋根板が現場から約100フィート(30m)の距離に噴き飛んでいた。タンクは一般の建物から2,000フィート(600m)以上離れていた。

被 害
■ タンク1基が爆発・火災によって損壊した。 

■ 負傷者が3名出た。

< 事故の原因 >
■ 作業者のひとりが供用中でなかった貯蔵タンクの作業をしていたとき、電動工具からの火花がタンク内に残留していたベーパーと油に引火したものとみられる。  

< 対 応 >
■ 事故の調査のため、 コロラド州原油・天然ガス保全委員会(Colorado Oil and Gas Conservation
Commission)が現場に入った。また、米国安全衛生労働局(Occupational Safety and Health Administration)も事故の対応のため現地を訪れた。
(写真はGreeleytribune.comから引用)
(写真はThedenverchannel.comから引用)
(写真はDenver.cbslocal.comの動画から引用)
(写真はThedenberchannel.comから引用)
(写真はDenver.cbslocal.comの動画から引用)
補 足 
■ 「コロラド州」(Colorado)は、米国西部にあり、州の南北にはロッキー山脈が貫いており、州全体の平均標高が全米で一番高い山岳地帯で、人口約503万人の州である。州都および人口最大都市はロッキー山脈の東側にあるデンバー市(人口約60万人)である。
 「ウェルド郡」(Weld County)は、コロラド州北部に位置し、人口約25万人の州である。

■ 「マーラード・エクスプロレーション社」(Mallard Exploration)は、コロラド州デンバーに本拠を置き、原油・天然ガスの生産に携わっている石油企業である。

■ 爆発・火災を起こしたタンクの仕様(大きさ、内容物)は分かっていない。グーグルマップで探してみると、コロラド州道14号線付近には油井用のタンク設備が多々ある。これらのタンクは同じくらいの大きさで、直径約4.3mであり、発災タンクの大きさを類推できる。高さを約6mとすれば、容量は80KL級である。
 
所 感
■ この事故は、「作業者のひとりが供用中でなかった貯蔵タンクの作業をしていたとき、電動工具からの火花がタンク内に残留していたベーパーと油に引火したもの」とみられており、明らかに「タンク内外の火気工事における人身事故を防ぐ7つの教訓」(米国CSB;化学物質安全性委員会)が活かされていないものだろう。
 米国では、石油の油井が至るところにあり、タンク設備のオーナー(所有者)としての安全管理は希薄で、従って、タンク周辺の工事は請負会社任せになっているものと思われる。広大な人が住んでいない場所でのタンク工事に対する危険物の意識が弱くなっていると感じる。

 発災タンクの写真を見ると、いろいろな疑問がある。
 ● タンク周辺には防油堤がない。
 ● 新しく建設されていると思われるタンクに、なぜ可燃性ガス(油)が入っていたのか。
 ● 発災タンクの側板下部にはスラッジ抜出し用のマンホールがあり、空いている。
 ● 発災タンクの後側にあるタンク設備の地面が掘削されている。
 ● タンク設備には保温が施工されているが、この種のタンクには珍しい。
   (発災タンクの保温がバラバランに飛び散っている)
 ● 周辺には、油井もなく、タンク設備の用途がわからない。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Greeleytribune.com, Three Injured, One Seriously Burned in Tank Battery Fire near Briggsdale,  October 27  2018
    ・Denver.cbslocal.com, 3 Hurt In Weld County Oil Tank Battery Fire ,  October 27  2018
    ・Kdvr.com, 3 workers injured in oil tank battery fire in Weld County,  October 27  2018
    ・K99.com, Weld County Oil Tank Battery Fire Injured Three Workers,  October 29  2018
    ・Thedenverchannel.com, 3 injured in Oil Tank Battery Fire East of Briggsdale in Weld County,  October 28  2018
    ・9news.com, 3 Injured after Oil Tank Battery Catches Fire in Weld County,  October 28  2018



後 記: 本情報の入手は遅かったため、ブログ投稿も遅くなりました。ところで、最近、米国の油井施設のタンク設備やパイプラインの事故を見るたびに感じることは、米国の原油・天然ガスの開発へのあくなき挑戦(欲望と言っていいかも)ですね。石油メジャーが独占していた原油・天然ガス開発は、現在では中小の独立した石油開発会社が担っています。ガソリン価格は日本の半分程度ですし、広大な土地を見れば、地球温暖化がフェークニュース扱いになってしまう素地はあるなあと思ってしまいますね。今回の事故も請負会社の不注意で済まされ、忘れ去られるのではないでしょうか。教訓が活かされない土壌ができつつあることを危惧しながら、まとめました。