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2023年1月30日月曜日

固定屋根式の軽油タンクで水素混合気による爆発火災 (1997年)

 今回は、1997112日(日)、イスラエルのオイル・リファイナリー社アシュドッド製油所にある固定屋根式(コーンルーフ型)の軽油用タンクで起こった爆発・火災の事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、イスラエル(Israel)にある政府系企業のオイル・リファイナリー社(Oil Refineries Ltd. )のアシュドッド製油所(Ashdod Oil Refinery)である。

■ 事故があったのは、アシュドッド製油所の貯蔵タンク地区にある固定屋根式(コーンルーフ型)の軽油用タンクである。1997年発災時、タンクには満杯の15,000KLの油が入っていた。



< アシュドッド製油所における軽油生産システム >

■ アシュドッド製油所はシンプルな型式のプラントで、主蒸留塔の分留から製品の貯蔵タンクまでの軽油生産工程は複雑な要素を無くした装置となっている。

■ 主蒸留塔では、数種類の原油または混合した油からガス、ナフサ、灯油、軽質軽油(LAGO)、重質軽油(HAGO)、常圧残渣油(燃料油)などの製品油に分離される。軽質軽油(LAGO)は、軽質分を減らして引火点を上げるため、蒸留装置内のスチーム・ストリッピング塔でストリッピングされる。灯油も同様である。

■ 軽質軽油、重質軽油、減圧軽油は、水素触媒脱硫装置(Hydrogen Catalytic Desulfurising Units)に送られるか、タンク地区の製品軽油タンクで直接ブレンドされる。この運転操作は、原油中の硫黄含有量や販売で要求される軽油製品の硫黄含有量に依存する。また、特殊な方法としては、灯油の水素脱硫装置 (Hydrogen Desulfurising Unit)に軽油をいっしょに通油することがある。

■ 2系統ある水素脱硫装置 (Hydrogen Desulfurising UnitHDS) には、それぞれストリッピング設備を有している。これらのストリッピング設備はリボイラー式過熱型ストリッパーとして運転をしていたが、省エネルギーのため水蒸気注入型に変更された。約20年前、ストリッピングされた軽油の濁りの問題から、軽油の水素脱硫装置だけがストリッピング方式を水蒸気から水素に変更することになった。 水素は安価に入手でき、濁りの問題も解消され、すでに他の企業で同様なプロセスを適用した例があった。灯油の水素脱硫装置では、引き続き水蒸気をストリッピングに使用していた。15年ほど前に軽油の水素脱硫装置で水素を使用した例があり、軽油で使用する話が高まったため、灯油の水素脱硫装置 でも、ストリッピング材として水蒸気の代わりに水素を使用する変更があった。

■ 2系統ある水素脱硫装置に通油された軽油製品と水素脱硫装置 に通油されなかった軽油製品は製油所のタンク地区に送られ、規格どおりの製品にブレンドされる。タンクは常圧の固定屋根式(コーンルーフ)タンクで、大気開放型の通気口(ベント)を備えている。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 事故前々日の1031日(金)午前230分、運転部はNo.401タンクへの充填を開始した。計画では、流動点-6℃の軽油を15,000KL入れることになっていた。充填は111日(土)の午後930分に完了し、タンク内の液位は16.49mで、油温は48℃だった。充填では、つぎのような原料油が通油され、ブレンドされた。

 ・タンク地区に貯蔵されていた高硫黄軽油 

 ・タンク地区に貯蔵されていた低硫黄軽油 

 ・常圧蒸留装置からの軽質軽油 

 ・常圧蒸留装置からの重質軽油 

 ・減圧蒸留装置からの軽質軽油 

 ・2系統の処理装置からの水素化処理された軽油  

 112日(日)午前7時、それまでの10時間は特に変わったこともなくタンクは満杯になり、出荷前の最終サンプリングの準備が整っていた。

■ 112日(日)午前730分、サンプル担当は最終テストに必要なサンプルを採取するためタンクに向かった。このあと、製油所や隣接地域で大きな爆発音が聞こえ、すぐに炎と黒煙が遠くからも確認された。

■ No.401タンクが爆発し、コーンルーフ型の屋根が破裂して防油堤に飛ばされていた。火災は防油堤内にも及び、隣接する軽油用の容量20,000 KLNo.402タンクまわりに拡大した。火災の発災当初、非常に濃い黒煙が周囲を覆ったので、どのタンクが火元であるか特定するのが難しいほどだった。

■ この事故によってサンプル担当の運転員1名が亡くなり、同じ防油堤内にあり、隣接する2基のタンクが火災になった。火災は3時間近く続き、近隣の2つの地区から緊急避難する必要があるのではないかという懸念する声があがった。

■ 発災して短時間のうちに製油所の緊急システムが作動し、燃焼している防油堤のすぐ西側にある複数のナフサ用貯蔵タンクの冷却が試みられた。

■ 最初に確認された被災は、爆発で屋根とともに投げ出されて死亡したサンプル採取担当の命だった。

■ No.401タンクは約3,000KLの軽油が噴き飛び、防油堤内で火災となった。タンクは大きく損傷した。屋根と側板部のシーム溶接は弱く製作されており、側板を壊すことなく、屋根部だけが破損した。タンク内の梁はねじれ、再使用は不可能な状態だった。火災の発生場所は、全直径30m No.401タンクの全面火災、No.401タンクとNo.402タンクの間の堤内火災、No.402タンク側板まわりで頂部まで炎の上がった地上火災などであった。

■ 発災後、地方自治体の消防隊がすぐに現場へ駆けつけ、さらに車で1時間以内の距離にある消防隊も現場へ出動するよう指示が出された。No.402タンク付近の火災を含めて堤内火災の鎮圧に力を注がれた。No.401タンクの火災は非常に濃密な黒煙が覆っていたので、視界が確保できず、効果的な泡による消火ができなかった。

■ 残った軽油はあとで製品として使用するため、他のタンクに移送された。No.402タンクは天板が損傷し、防油堤を横断する複数の配管が大きく曲がったが、破裂には至らなかった。このとき配管内の流れは保たれていた。

■ 約2時間の消火活動の結果、地上火災とNo.402タンク火災の大部分が制圧されたが、No.401タンク付近の地上火災とNo.401タンクの全面火災が残った。地上火災の消火にさらに30分ほどかかり、それからNo.401タンクの全面火災を泡消火で制圧しようということになった。この全面火災は集中した泡消火活動によって数分で鎮圧された。

■ サンプル採取担当が使っていたサンプリング装置は爆発で壊れていた。容器(部品はすべて真鍮製)につないでいたナイロン製ロープの1mが、事故後、No.401タンクの底で発見された。残りのロープは爆発時に飛ばされ、防油堤の内側で発見された。


被 害

■ 人災は、サンプル採取担当の運転員が爆発で屋根とともに投げ出されて死亡した。

■ 貯蔵タンク2基が損傷した。No.401タンクは屋根とともに約3,000KLの軽油が噴き飛び、防油堤内で火災となり、タンクは大きく損傷した。No.402タンクは、天板が損傷し、防油堤を横断する複数の配管が大きく曲がった。

■ 火災は3時間近く続き、近隣の2つの地区から緊急避難する必要があるのではないかという懸念する声があがったが、住民の避難は無かった。

< 事故の原因 >

■ 調査の結果、タンク内の爆発性混合気の発生源は、軽油の水素化処理装置のプロセスにおいて水素による軽油ストリッピングが不完全であったため、タンク内へ軽油とともに水素が侵入したと指摘された。

■ 発火源は、タンクからサンプルを採取するためにサンプリング設備で使用された合成繊維のナイロン製ロープ (綿ロープの代わり) による静電気火花だった。

■ 事故後、残念ながら手遅れだったが、同様の事故経緯が15年ほど前にも報告されていたことが判明した。この事故データベースが十分に活かされていなかった。

< 対 応 >

■ 事故後、すぐに調査が始められたが、同時に海外の有名な製油所の経験ある安全アドバイザーから、教訓を活かすために情報を求める最初の質問がきた。主な質問は次のようなものであった。「199711月の新聞記事によると、アシュドッド製油所でディーゼル燃料タンクが爆発したと書かれていた。通常の状況では、ディーゼル燃料タンクで爆発が発生することは事実上あり得ない」

■ しかし、現実には、このような爆発の起こる可能性があることがわかった。根本原因を特定するため、軽油中の水素の混入に焦点を当てた徹底的な調査が行われた。そして、プロセス系に内在する弱点が事故の原因となり、考え直さなければならないような基本的な事項が明らかになった。

 ● 先にブレインストーミングをした後で、詳細な調査を行う方が良い。

 ● 基本的により安全な代替策を常に模索すべきである。

 ● 事故データや教訓を広く公開することは、危険性の物質を扱う社会の一員として互助の関係を越えた役割を果たすことができる。

 ● プロセス安全管理システムを総合的に適用していくことは、規制や当局がまだ要求していない場合でも進めていくのがよい。

■ 常圧の固定屋根式タンクには、必ず空気が存在すると考えるべきである。屋根には、直径12インチのグースネックGoose Neck)と呼ばれるエアベント(通気口)が設置されており、まわりの空気と呼吸する。タンクの液位が下がっているときは空気を吸い込み、液位が上がっているときは余分な空気を排出する。

■ 当時、空気と軽質炭化水素(主に水素)の爆発性混合気がタンクへの充填中に形成され、その量は約880㎥だった。111日(土)の夜、充填終了からサンプリングまで間、水素を大気中に放出するには十分な時間がなかったため、朝には製品軽油の上に爆発性混合気が残っていた。

■ 水素のリスクを考える際に常に頭に入れておくべき基本的な事項のひとつは、空気との混合物における爆発限界で、その値は4.0Vol75.6Volと広範囲である。

■ 水素が存在すると可燃性雰囲気が特に形成されやすい。さらに、常圧・常温で空気と混合された水素は着火エネルギーが非常に低い。例えば、主な可燃性ガスの最小着火エネルギーはつぎのとおり。

 ● 水 素       0.0170.018 mJ

 ● アセチレン  0.0170.018 mJ

 ● n-ペンタン 0.49 mJ

 爆発限界が広く、火炎速度が速いため、水素リッチな可燃性雰囲気では小さな着火源でも非常に発火火しやすい。火炎伝播は非常に速く、必然的に爆発に至ってしまう。

■ 製油所と消防署の消防隊による消火活動は非常に効果的で、3時間以内に2基のタンク火災と堤内火災が制圧され、タンク地区の他のタンクや設備に損傷は無かった。使用可能な消火水は30,000 KLだったが、そのうち約12,000 KLの水が活動中に使用され、保有していた80,000 リットルの泡消火剤のうち約12,000 リットルが使用された。

■ 緊急事態への備え(内部および外部)は良好で効率的で、屋根への泡放射のタイミングの戦術的決定は比較的早かった。そして、堤内火災の中にあり、直径30mのタンク全面火災を完全に鎮火させることができた。また、タンク散水による表面冷却システムにより、近くにあった複数のナフサタンクや製品タンクを保護することができた。 

■ 今回の事故対応についてある有名な国際的な安全コンサルタント会社は、「 オイル・リファイナリーズ社の爆発事故に対する緊急対応は優れており、このような状況に対処するための教科書的な手順にもとづいていた」と表明している。

< 教 訓 >

■ 製油所における貯蔵タンクは本質的にリスクをもっていることに疑いの余地はない。貯蔵タンクの目的は危険物を保管することにほかならない。しかし、貯蔵される油(炭化水素)の温度が引火点よりも低くても、軽油やディーゼル燃料を大気圧の固定屋根式タンクに貯蔵しても安全なのだろうか?

■ 「化学物質システムにおける危険性をすべて無くすことはできないが、化学物質システムのもつリスクはすべて明確にすべきである」

■ 2系統ある水素脱硫装置(HDS) のストリッパー塔底から出てくる軽油の流れは、水素によるストリッピングで長年運転されてきた。水素脱硫装置 (HDS) におけるストリッパー塔については、プロセスの潜在危険性を洗い出す手法であるHAZOP (Hazard and Operability Studies)のグループリーダーを養成するために行われていたHAZOPのコースのひとつになっていたが、貯蔵タンクへ入るところはHAZOPの対象になっていなかった。

■ この演習は入門書のようなもので、その中で「水素スイープ(掃気)されたり、製品である軽油に混入する可能性はないのか」という質問や疑問は無かった。この質問や疑問の背景は、2系統の水素のストリッピング流が最終的な製品タンクへ送られたり、沸点や引火点の低い油を扱う原油処理装置から出てくる2系統の別な軽油が流れの中に加えられないかという状況をいう。この流れに含まれていた水素は試験前に気化してしまうので、標準的な引火試験では水素の存在を確認することはできない。

■ 燃焼の3要素、すなわち可燃物、空気、着火源について考えてみると、空気はベント(通気口)を通じてタンクに流入するし、水素は極めて可燃性の高い成分で空気と混合すると爆発性がある。原因調査で判明した着火源は サンプリング設備のナイロン製ロープである可能性が高かった。サンプリング設備はサンプル採取担当によってタンク内に挿入されていた。

■ ストリッピング材となる水素は、従来注入されていた水蒸気に代わって低レベルで塔に導入される。 水素は非常に軽い物質で塔の上方へ向かって放散され、塔の底に残ることは考えられていなかった。事故前、タンクの充填は、2系統の平行な水素によるストリッピングをした流れと、個々の引火点をもつバイパスの流れに基づいて行われた。そして、そのうちのいくつかは標準的な引火点の66℃よりも低いものだった。タンクの最大可能液位まで満たすと、No.401タンクの屋根の下側には、880㎥のベーパー空間ができた。

■ 汎用性定常プロセスシミュレーターのSimsci Pro-Ⅱモデルで行ったシミュレーションでは、ストリッピング塔内で圧力・温度で水素が飽和状態の軽油は、常圧の貯蔵タンクにおける圧力・温度に移動する間に、溶存水素の90%が消散することが分かった。また、気泡として軽油に同伴する水素も存在する可能性があることが分かった。

■ 爆発事故後に、 No.401タンクと同じ充填条件、同じブレンド比率の油が入ったタンクを検査したところ、軽油の上に水素が混在していることが判明した。

■ 事故調査では、着火源としていくつかの可能性があることがわかった。そのほとんどは排除すること可能だった。サンプル採取担当は帯電防止服を着用し、帯電防止靴を履いていた。また、充填時のタンク張り込み終了からサンプリングまで10時間近く経過しており、静電気による液帯電の可能性は無かった。着火源となる可能性の低いものとして自然発火性物質の存在する可能性があり、実際、タンク内壁には硫黄と鉄がいくらか残っていた。しかし、サンプリング操作時にこれらの物質が自然発火する可能性は非常に低いとみられるが、考慮しておくべき事項である。

■ 事故調査委員会の結論は、着火源として最も可能性が高いのはサンプリング設備のロープが本来綿であるべきなのに合成繊維のナイロン製であり、このロープに帯電した静電気の可能性が高いということだった。ロープの帯電は、空気が乾燥している状態でサンプリング設備を液中に投入する前に、ウエスやポリ塩化ビニル手袋でこすることによって生じたと思われる。このように帯電したロープがタンク内の液体やタンク壁に近づくと、放電する可能性がある。

■ 事故調査委員会での検討中、1995年版に重要な規格内容が見つかった。それはタンクのサンプリングに関する特別な注意事項の中に、次のような記述があった。

「静電気の発生を抑えるため、ナイロン製やポリエステル製のロープ、コード、衣類を使用すべきである」

事故調査委員会はすぐにこの発見を規格の制定者に連絡し、“使用すべき” の前に“NOT”の単語が抜けており、すべきでないが正しいと指摘した。

■ 水蒸気の代わりに水素を導入した時点では、変更管理の手順がまだ正式に使われていなかったため、リスクを分析したブレインストーム(集団思考法)の記録も残っていなかった。

■ 使用する機材を含むサンプリング作業の確認(監査)手順が不十分であり、通常使用する綿製ロープをナイロン製ロープに交換するというミスを犯してしまった。

■ 歴史からの教訓; 固定屋根式の軽油タンクで水素によって発生した事故は、これまで製油所関係者の間では知られていなかった。

 事故調査中、データベースを検索したところ、事例が見つかった。主に、シーアソン氏(Searson A.H.)が1983年に報告した1件で、軽油用の固定屋根式タンクにおいてゲージ用ハッチを通じてサンプリングを行っていたときに爆発し、オペレーター(運転員)が死亡したものである。このタンクには水素化精製した軽油製品のランダウン配管からの油が入っており、爆発は水素に富むベーパーと空気の可燃性混合気に着火したものと考えられている。

■ 会社と自治体の事故調査チームが報告書を完成させた後、事故から3か月経って、製油所関係者によって公開の会議が開かれた。この会議は、主に業界関係者を対象に、詳細な事故報告書の内容と学ぶべき教訓、そして事故調査チームのメンバーによる座談会から構成されていた。この会議のプログラムでは、国際的に著名なアドバイザイーであるデンマークのテイラー氏(R.Taylor)を招いて、このような事故に関する詳細な分析が行われた。会議には250名が参加しており、不幸にも事故が起きてしまった場合に、事故から学ぶことのできることを示している。

■ このような事故は起きないに越したことはないが 、それでも不幸にも起きてしまった場合、タンクの屋根と側板の継ぎ目の溶接を弱くしていたら、被害はずっと少なくなるはずである。そうしていなければ、タンクの全容量が放出され、火災が拡大しているかもしれない。

■  この火災は、この1年で見られた火災の中で最大規模のもので、発災直後から大きな不安を引き起こした。2基の軽油タンクを含む堤内火災による損害にとどめた製油所での活動とは対照的であった。メディアは取材活動を行い、空撮による被災写真を撮ったものの、火災現場の上空からヘリコプターで撮影するのは危険だった。

補 足

■「イスラエル」(Israel)は、正式にはイスラエル国(State of Israel)で、中東のパレスチナに位置し、人口約850万人の国である。イスラエルは、パレスチナに故郷を再建しようというシオニズム運動を経て1948514日に建国された。

「アシュドッド」(Ashdod)は、イスラエルの南部地区に位置し、テルアビブの南 32 km の地中海沿岸にあり、人口約26万人の都市である。

 イスラエルのタンク事故を紹介したのはつぎの事例がある。

 ●  201612月、「イスラエルの製油所でガソリンタンク火災」

■「オイル・リファイナリー社」(Oil Refineries Ltd. )は、イスラエルの政府系企業で石油精製などの石油会社である。1997年当時はアシュドッド製油所を傘下にしていた。

■「アシュドッド製油所」(Ashdod Oil Refinery)は、イスラエルの沿岸都市アシュドッドにあり、イスラエルで はハイファの製油所につぐ2 番目に大きな製油所で、1973年に操業を開始した。製油所は、アシュドッド製油所とハイファ製油所の両方を所有していた政府系企業オイル・リファイナリー社が運営していたが、国内の精製部門を民営化する取り組みの一環として、アシュドッド製油所は2006 年にパス・オイル社(Paz Oil Company Ltd)に売却された。

■「発災タンク」は、軽油用の固定屋根式(コーンルーフ型)タンクで、直径30m、容量15,000 KLである。爆発で屋根が噴き飛び、全面火災になった。(原文ではタンク上部のプール火災という表現を使っている) 現在の日本であっても、直径が34m以下であり、大容量泡放射砲システムは必要でなく、消防車両は泡放射能力3,000 L/minの三点セットでよいことになっている。これを直径30mの全面火災に当てはめると、単位面積当たりの泡放射量は4.2 L/min/㎡となる。NFPA(全米防火協会:National Fire Protection Association)によると、直径30mのタンク火災時の必要な泡放射量は6.5 L/min/㎡である。発災時の全面火災は集中した泡消火活動によって数分で鎮圧したとあるので、泡放射能力3,000 L/minの大型化学消防車2台相当で消火活動を行ったものとみられる。

所 感

■ 今回の事例で再認識したのは、プロセス装置と貯蔵タンクが密接に関係していることである。水素を使ったプロセス装置から出る油が配管を通って移送され、貯蔵タンク内で水素が混入する可能性があるということは、言われてみれば当然のことであるが、このようなことは考えたことが無かった。一般にプロセス装置と貯蔵タンクはそれぞれ管理が異なっており、今回のような貯蔵タンク内で爆発混合気が形成する可能性を考える仕組みは盲点となっていた。

■ 堤内火災を含めてタンク火災(直径30m×容量15,000 KL)を3時間で鎮圧できたのは、確かに消火戦略・消火戦術が適切だったのだろう。通常の消火機材で対応できたのは、タンク直径が30mと大型でなく、また内液が軽油で激しい燃焼力でない油だったのが幸いしていた。これで消防機材は十分だと考えてはいないだろうか。この点、 2003年北海道十勝沖地震後のナフサタンク火災(直径42m×容量30,000 KL)では、放射能力3,000 L/minの大型化学消防車などが複数台で泡放射してもまったく有効に働かなかったことと対照的である。日本の場合、大容量泡砲システム導入にきっかけになった事例である。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Rgipt.ac.in, Explosion and Fire in Gas-Oil Fixed Roof Storage Tank,  Yigal Riezel,  Process Safety Management, consultant,  Ashdod, ISRAEL,


後 記: ブログは1か月のご無沙汰でした。この間、パソコンの動きが鈍くなり、ドキュメント類をUSBに移したり、いろいろなことをやってみました。そのうち画面がフリーズしたり、スクリーンショットが使えなくなったりし、機能不全になりました。そこで不具合箇所をメモ書きして、パソコンを電器屋へ持ち込みました。チェックしてもらい、一度持ち帰ってみて動作確認をしました。まったくダメで再び電器屋へ行き、パソコンを初期化するしかないということになりました。この初期化に10日ほどかかり、結局、1か月ほどを要し、ブログが投稿できませんでした。

 ドキュメント類をUSBに移行していたのが不幸中の幸いでした。何が悪かったかは判然としませんが、Windows10のパソコンにWindows11をインストールしたのが関係していると思われるとのことです。同じような事例があるということでした。初期化されてしまったので、WordExcelが使えなくなり、新しくソフトを購入せざるを得ないという理不尽もありました。いまのところ動きの鈍さは解消しているようですが、原因がはっきりしないのでスッキリはしていません。