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2019年2月20日水曜日

大阪府のカーペット製造会社でタンク清掃時に転落、2名死亡

 今回は、2019年2月13日(水)、大阪府和泉市にあるカーペット製造会社;プレステージ社の工場において、接着用の薬品タンクの上部にいた清掃会社のふたりの男性が転落し、死亡するという事故を紹介します。
< 発災施設の概要 >
■ 発災があったのは、大阪府和泉市伯太(はかた)町二丁目にあるカーペット製造会社のプレステージ社の工場である。

■ 事故があった設備は、工場にある接着用の薬品タンクである。タンクは直径約2.6m×高さ約5.4mで、上部に直径約50cmのマンホールがある。
事故のあった和泉市伯太町のプレステージ社工場(矢印)の周辺
(図はGoogleMapから引用)
<事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2019年2月13日(水)午前8時50分頃、プレステージ社の工場にあるタンクにふたりの男性が転落したという119番通報があった。

■ 通報を受けた和泉市消防本部の消防隊が現場に出動した。

■ ふたりは、尼崎市にある清掃会社;共栄工業の経営者75歳と従業員70歳の男性である。転落の通報は、別の従業員からあった。別な従業員によると、タンクの上にいたふたりの姿が見えなくなり、様子を見に行ってふたりともマンホールから転落したらしいという。

■ 事故当時、タンクの周辺で有毒の硫化水素が検出された。消防隊は、タンク内でふたりが倒れているのを見つけたが、硫化水素の発生で救助は難航した。消防隊は約4時間後の午後1時頃に救出したが、意識不明の状態で病院へ搬送した。

■ タンクは、委託業者によって廃棄に向けた作業をしていた。タンク内には、カーペットの表と裏を貼り合わせるのに使われる接着用の薬品が入っていたが、半年以上使われておらず、清掃会社の従業員らは薬品を抜き取って内部を清掃する予定だった。

■ 警察署は、一時、硫化水素が発生していたため、住民が現場に近づかずかないよう注意した。半径50m以内の周辺住民には、 自宅の窓を閉めて屋内に待機するよう呼び掛けた。近くには、保育園や小学校、高校などがあったが、屋外での活動を取りやめるなどした。規制は午後3時頃に解除された。

■ 事故当時、近くで働く30代の女性は「少し温泉のようなにおいがした」と話し、会社のエアコンや換気扇を切って外気が入らないようにしたという。別な男性は「こんなことは今までなかったので驚いたし、怖いです。危険な物質を取扱うところはしっかりしてほしい」と話していた。

■ タンクに転落したふたりの男性は病院で死亡が確認された。司法解剖の結果、死因は特定できなかったが、硫化水素による中毒死とみられている。 
事故のあったタンク(矢印)
(写真はAsahi.comから引用)
(写真はFnn.jpから引用)
被 害
■ 人的被害として死者2名が発生した。

■ 一時、硫化水素が発生していたため、半径50m以内の周辺住民は自宅の窓を閉めて屋内に待機した。

■ 物的被害や生産・出荷への影響は不明。

< 事故の原因 >
■ 事故の原因は、硫化水素の発生した可能性のあるタンクに防護策をとらずにマンホールを開放したためとみられる。

■ タンクに転落したふたりは硫化水素による中毒死とみられる。 
(硫化水素は無色のガスで刺激臭があり、高濃度で吸うと意識混濁や呼吸マヒの症状が現れる)

■ 接着用薬品が長期間放置されることで腐敗し、硫化水素が発生したとみられる。

< 対 応 >
■ 警察で事故の原因を調べている。
(写真はSankei.comから引用)
補 足
■ 「和泉市」は、大阪府の南部中央の泉北地域に位置し、人口約185,000人の市である。
                大阪府和泉市の周辺 (マークが事故のあった現場)
(写真はGoogleMapから引用)
■ 「プレステージ社」は、和泉市でカーペット(敷物)の製造を営んでいる会社であるが、会社概要は不詳である。大阪の敷物会社を中心として設立された「日本カーペット工業組合」の正会員(30社)の1社である。
(日本カーペット工業組合は、カーペットの需要振興、業界基盤の強化などに取り組んでいる工業組合である)
(写真はGoogleMapのストリートビューから引用)
■ 日本カーペット工業組合によれば、カーペットの素材による分類および製造方法による分類は図表のとおりである。 「プレステージ社」が、この中でどの素材や製造方法を得意とするカーペット会社か不詳である。
 事故のあった「タンクの内容物」について、メディアによっていろいろな言葉が使われており、接着剤、のり、薬品、ゴムの素材などである。分かりやすいように配慮されたものであろうが、製造方法に熟知している人を除けば、イメージが伝わらない。カーペットの貼り付けに使用される接着剤と言っても、どのような形態でタンクに入っているか分からない。接着剤の中に転落したという情報に、インターネットではベタベタしたものの中に落ちたと理解している人が多いように感じた。正しいのがどれかは分からないが、本ブログでは「接着用の薬品タンク」を妥当な表現として採用した。写真を見ると、タンクは攪拌機の付いた攪拌槽と思われる。
カーペットの素材による分類
(表はCarpet.or.jpから引用)
カーペットの製造方法による分類
(図はCarpet.or.jpから引用)
タフテッド・カーペットの断面
(図はRakuten.ne.jp から引用)
■ カーペットに使用される接着の例は、図のようにパイル糸を植え付けた基布と裏布をラテックス(ゴム)のような接着剤で貼り付けるものがある。今回の事故では、このような接着用の薬品がタンクの中に半年以上使われていなかったので、この間に硫化水素が発生したものだと思われる。「硫化水素」は、空気より重く、無色であるため、発生したことに気づきにくい。発生条件は特殊なものではなく、比較的発生しやすい物質である。汚泥や液体を処理・貯留する施設で、硫酸塩が存在し、酸素が十分に供給されない環境の浄化槽やピット・タンクにおいて発生する。

■ 亡くなった人が75歳と70歳という高齢だったということがインターネットでの話題のひとつになっているが、建設業界の高齢化はかなり深刻である。高年齢者雇用安定法の改正によって65歳までの高年齢者雇用確保措置の導入が義務化されたが、現場では、若手技術者が少なく、高齢者に頼らなければ回らない状況で、70歳以上の人も働いている。実際、建設現場では、高齢化の職人が多く、施工技術者の人材も不足している。建設会社の中には、65歳以上の人に高所の足場作業はやらせないような制限を設けているところもあるが、法令的には、制限の規定はない。高齢者の労働災害が増えていることも事実であり、高齢者への配慮も必要である。70歳以上の人に仕事を任せると、安全管理上で心配なこともあるが、元気な人もおり、多くの現場経験を持ち、丁寧な仕事も得意で、他業者との段取や交渉もうまくやっていくという意見をもつ経営者もいる。

■ 最近、このブログで紹介したタンク内の硫化水素または酸素欠乏による人身事故は、つぎのような事例がある。
  この事例では、最初に入った人が倒れたのを見て、助けようと入っていったふたりも
  倒れ、3名が亡くなった。


所 感
■ 今回の事故では、タンク上部のマンホールから転落したといわれているが、空気より重い硫化水素がタンク一杯に溜まっていたと思われる。タンク上部のマンホールを開放して、内部がどのような状況になっているのかを確認した際に、ひとりが転落し、もうひとりが転落した人を確認しようとして硫化水素で気を失って落下したものと思われる。
 昨年起こった「石川県の製紙工場において溶剤タンクで死者3名」(2018年6月)の事例と異なり、換気が十分でない高さ(深さ)約5mのタンク内へ降りるという酸素欠乏危険作業をとったのではなく、タンク内部の状況(液レベルなど)を事前に確認しようとした行動であろう。ただ、最初に倒れた人を助けようとして二人目がとった行動は何らかの躊躇(ちゅうちょ)があれば、人身災害は回避されていたのではないかと心が痛い。

■ 事故を防ぐためには、つぎの3つの要素が重要で、この3つのいずれがが適切に行われていれば、事故は回避できる。
 ① ルールを正しく守る
 ② 危険予知活動を活発に行う
 ③ 報連相(報告・連絡・相談)を行い、情報を共有化する
 事故経緯の詳細は分からないので、上記3つの事項のどこに課題があったかいえないが、あえて指摘すれば、つぎのとおりである。
 ● タンク内の接着用の薬品が半年以上使われなかった例は過去に無かっただろう。
  このため、過去の経験をもとにした通常の作業手順がとられたと思われる。
 ● しかし、過去の条件と異なり、換気の十分でない高さ(深さ)約5mのタンクを覗く
  こと自体が酸素欠乏危険作業の可能性のあることを認識しておく必要があっただろう。
 ● また、タンク保有者側も、半年以上使われていないことによる硫化水素発生の可能性
  について請負者に伝えておれば、違った対応がとられたのではないかと感じる。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Mainichi.jp,   大阪・和泉 工場タンクに転落の2人が死亡 搬送先の病院で確認,  February  13,  2019
    ・Mainichi.jp,   工場のタンク内に転落の2人死亡 接着剤、半年以上使われず 硫化水素発生,  February   13,  2019
    ・Mainichi.jp,   工場タンク内に男性2人転落」 硫化水素が発生 大阪・和泉市,  February   13,  2019
    ・Sankei.com,   工場タンクに男性2人転落 硫化水素検出、大阪,  February  13,  2019
    ・Mainichi.jp,    工場タンク転落死、2人の身元判明 硫化水素中毒死の可能性,  February  13,  2019
    ・Nikkei.com,  工場タンクに2人転落、硫化水素発生か 大阪 ,  February  13,  2019
    ・Jiji.com, 繊維工場で硫化水素発生=タンク転落、作業員2人死亡-大阪 ,  February   13,  2019
    ・Asahi.com, 工場タンクに作業員2人転落か 付近で硫化水素発生 ,  February  13,  2019
    ・Yomiuri.co.jp, 作業員2人タンクに転落 大阪の工場…硫化水素が発生 住民ら屋内避難 ,  February  13,  2019
    ・This.kiji.is, 工場タンクに2人転落、意識不明 ,  February  13,  2019
    ・Nhk.or.jp, 薬品タンクに転落 硫化水素検出 ,  February 13,  2019
    ・Tv-osaka.co.jp, 工場タンクに転落2人死亡 硫化水素を検出,  February  13,  2019
    ・Nnn.co.jp, 工場タンクに2人転落、意識不明 大阪、硫化水素検出,  February  13,  2019
    ・Mainichi.jp, 工場タンク転落死、2人の身元判明 硫化水素中毒死の可能性,  February  14,  2019
    ・Jp.reuters.com , 工場でタンク転落の男性2人死亡,  February  14,  2019
    ・Ktv.jp, 有毒な硫化水素が発生した工場での死亡事故、タンクの接着剤は約半年間使われず,  February  14,  2019



後 記: 今回の事故の情報を見ていると、日本全国の報道機関が伝えています。しかし、少しづつ内容に差があり、見比べながらつなぎ合わせて、やっと事実らしいものが見えてきました。それとほとんどは事故のあった日だけの報道で、1社だけが続報を出していました。タンク内容物の表現がいろいろありましたが、タンクの大きさ(高さ)にしても最初に消防が報じた8mのままのところもあり、のちに訂正されましたが、報じなかったところもありました。また、亡くなったふたりを従業員だと多くが報じていますが、ひとりは経営していた人(兼作業者)だったようです。とかく、発災の第一報は事故があったということが分かれば良く、内容は続報で事実(らしい)を報告していけば良いと言われていますが、まさにそのとおりの事例です。
 大阪ぐらい大きな都市だと、(多分)伝えるべきニュースが多く、発災の第一報だけの記事が多かったですね。この点、地方における事故の方が、地元のメディアによる続報が多く、事実に近づいていると感じます。



2019年2月17日日曜日

米国ノースダコタ州で塩水処理施設のタンクが爆発・火災

 今回は、2019年1月17日(木)、米国ノースダコタ州マッケンジー郡ワットフォード・シティにあるホワイト・オウル・エナジー・サービス社の油井用塩水処理施設でタンクが爆発・火災を起こした事例を紹介します。
(写真はRoundupweb.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国ノースダコタ州(North Dakota)マッケンジー郡(McKenzie County)ワットフォード・シティ(Watford City)にあるホワイト・オウル・エナジー・サービス社(White Owl Energy Services)の塩水処理施設である。施設は水圧破砕方式の油井で使用される塩水を処理する。

■ 発災があったのは、ワットフォード・シティの東のハイウェイ23号線から400mほど離れたところにある施設の塩水タンクである。タンク内で、水、油、ガスをそれぞれ分離する。
           ワットフォード・シティ周辺 (矢印がホワイト・オウル・エナジー・サービス社の施設)
(写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2019年1月17日(木)午後12時15分頃、塩水処理施設の塩水タンクが爆発し、火災となった。

■ 発災に伴い、ワットフォード・シティ消防署の消防隊が出動した。

■ 火災の炎は150~200フィート(45~60m)の高さに上り、約100ヤード(90m)離れたところでも火災からの熱を感じた。

■ 爆発時、現場にひとりの男性がいたが、ケガは無かった。

■ 爆発現場は工業地区にあり、危険に曝される住宅は無かった。しかし、警察は近くにある建家にいた人を安全のため避難させた。また、周辺の通行は制限された。

■ 火災はほかの塩水タンクに延焼した。午後になっても、タンクは燃え続けていた。しかし、消防署とホワイト・オウル・エナジー・サービス社は、タンク群の広い範囲に被害が及ぶ可能性がなく、近くに危険性がないこと、そして火が消えた後のクリーンアップを容易にするため、火災を燃え尽きさせる決定をした。

■ 発災から3時間を経たのち、タンクの1基が爆発して空中高く舞い上がった。この映像はユーチューブで流れている。タンクの大きさは300~400バレル(48~64KL)とみられる。 YouTubeWatford City white owl disposal explosion

■ その日の夜になって火は消えたとみられる。

■ 事故に伴う負傷者は無かった。
(写真はBismarcktribune.comから引用)
(写真はHazmatnation.comから引用)
(写真はRoundupweb.comから引用)
被 害 
■ 塩水処理施設のタンク10基が焼損した。このほかに被害を受けたタンク・機器があると思われる。

■ 負傷者は出なかった。発災地区に近い建家にいた人が待機させられた。

< 事故の原因 >
■ 火災の原因は、消防署と警察署によって調査中である。

< 対 応 >
■ 対応には、ワットフォールド・シティ警察署、マッケンジー郡救急隊、マッケンジー郡保安官事務所も出動した。
(写真はFacebook.comから引用)
(写真はKvrr.comから引用)
(写真はFacebook.comから引用)
補 足 
■ 「ノースダコタ州」(North Dakota)は、米国の北部に位置し、カナダに接する州で、人口約76万人である。州都はビスマルク市である。ノースダコタ州はシェールオイルの生産による石油ブームが続いており、石油生産量はテキサス州につぐ全米第2位になっている。
 「マッケンジー郡」(McKenzie County)は、ノースダコタ州の西部に位置し、人口約12,700人の郡である。
 「ワットフォード・シティ」(Watford City)は、マッケンジー郡の中央部にあり、人口6,500人の郡庁所在地である。2010年は人口約1,700人だったが、急速に増加している。この地域は、季節ごとの気温差が大きく、夏は湿気が高くて暑く、冬は非常に寒い。事故のあった1月は最も寒く、日の平均気温が-12℃で、平均最低気温は-17℃である。
          ノースダコタ州の位置(図はGoogleMapから引用)
■ 「ホワイト・オウル・エナジー・サービス社」(White Owl Energy Services)は、2013年に設立された環境保全会社で、ノースダコタ州を中心にで油田廃棄物の処理、回収、および廃棄の業務のほか、油田の塩水処理を行っている。ノースダコタ州では、クラス2の塩水処理施設を4箇所保有しており、ワットフォード・シティの施設はその一つである。塩水処理施設の一般的なプロセスフローの例は図のとおりである。
塩水処理施設の一般的なプロセスフローの例
(図はBrincowater.wordpress.comから引用)
■ 事故のあった施設には、固定式屋根タンクが10基あり、同じ大きさだと思われる。噴き飛んだタンクの大きさは300400バレル(4864KL)と報じられている。グーグルマップで調べると、直径約3.8mであり、高さを7mとすれば、容量は79KLである。10基のタンク群の中で、最初に発災したタンクがどれかは分からない。このほか、隣接して、10基のタンクがある。こちらのタンク群は大きさが異なっており、水、油、ガスを分離する設備はこれらのタンクではないだろうか。
 発災したタンク群は、タンクローリーから塩水を受入れ専用のタンクではないかと思う。タンクが同じ大きさであり、防油堤の規模が小さいからである。被災写真を見ると、火災初期に比べて被災エリアが広がっている。タンクが近接しており、タンクと防油堤の距離も短く、防油堤の機能が十分に発揮されなかったと思われる。一般的に、塩水タンクは鋼製でなく、グラスファイバー製が使用される。しかし、火炎にあぶられて噴き飛んだタンクは鋼製と思われる。材質が混在していたか、あるいは鋼製で統一されていたのかもしれない。
ワイト・オウル・エナジー・サービス社ワットフォード・シティの施設
(写真はGoogleMapから引用)
■ タンクが噴き飛ぶという事例は少なくないが、映像で撮られた例はあまりない。このブログでは、つぎの事例がある。

所 感
■ 火災の原因は調査中であるが、この種のタンク火災で多い落雷ではなさそうである。
 2つのタンク群(10基×2系列)があるが、1系列は油、水、ガスを分離する塩水処理設備で、もう1系列がタンクローリーから塩水の専用受入れタンクではないかと思う。塩水とはいえ、天然ガス系の軽質油分の混入した水を処理するプロセス装置のような設備であり、運転面の何らかの弱点が潜んでいるのではないかと感じる。

■ 消火戦略には、「積極的戦略」、「防御的戦略」、「不介入戦略」の3つがある。今回の消防活動状況の詳細は分からないが、積極的戦略や防御的戦略がとられず、不介入戦略がとられた。介入することによるリスクが大きく、許容できないケースというより、成り行きで不介入戦略になったように思う。積極的戦略をとるために、泡薬剤保有量の確保、2次防油堤の構築、隣接タンクの冷却などの措置がとられた様子はない。

■ 塩水タンクという名称から混入している油は少ないと判断し、広範囲に被害が及ぶ可能性がなく、近くに危険性がないこと、そして火が消えた後のクリーンアップを容易にするため、火災を燃え尽きさせる決定(不介入戦略)をしたものと思われる。しかし、火災エリアが拡大し、タンクが噴き飛ぶという想定はしていなかっただろう。被災写真を見ると、隣接する10基のタンク群も黒く煤がついており、辛うじて延焼を免れている。タンク内には、思いのほか油が入っていたという印象である。最近の「米国テキサス州で油タンクが爆発して堤内火災」(2019年1月)の例をみると、塩水タンクといえども、防油堤は余裕をもって構築すべきと感じる事例である。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Kxnet.com, Explosion at Disposal Site near Watford City,  January  17,  2019
    ・Willistonherald.com,  Tank Explodes at Saltwater Disposal Site in Watford City,  January  17,  2019
    ・Keyzradio.com, Watford City – Tank Explodes at Saltwater Disposal Site,  January  17,  2019
    ・Roundupweb.com, Tank Explodes at White Owl Energy Services Salt Water Disposal Site In Watford City, ND,  January  16,  2019
    ・Kvrr.com, Nobody Was Hurt After Oil Field Saltwater Disposal Site Exploded Near Watford City,  January  17,  2019
    ・Hazmatnation.com, No Injuries after Saltwater Disposal Site Experiences Tank Explosion,  January  17,  2019
    ・Oilfield1.com, Oilfield Explosion Sends Oil Tank Flying Hundreds Feet in Air,  January  18,  2019
    ・Inforum.com,  WATCH: Explosion Reported at Watford City Salt Water Disposal Site,  January  17,  2019



後 記: 今回、発災があった場所は、急速に人口増加した町なので、消防署の設備も整備されていない様子です。また、報道体制も整っていないと感じる事例でした。それだけでなく、いまから6年前に起こった「米国ノースダコタ州の石油施設で爆発、タンク13基が被災」(2013年11月)の事故の所感で、「最近、米国では、油井関連施設のタンク事故が目立つ。今回も天然ガス井の塩水処理施設におけるタンク爆発・火災事故である。これまでは油・ガス井に付帯する貯蔵タンクの事故で、運転管理に問題があると思っていたが、今回は塩水処理を専門とする会社における事故であり、問題は根深いように思う。米国内で課題化されるのではないだろうか。対応策がとられなければ、事故が再発するのは必至だと感じる」と記載しましたが、まさに同じ州で再発した事例です。米国の石油繁栄の裏で起こっている出来事だと感じます。



2019年2月11日月曜日

山形県のバイオマスガス化発電所で水素タンクが爆発、市民1人負傷

 今回は、2019年2月6日(水)、山形県上山市にある山形バイオマスエネルギー社のバイオマスガス化発電所で、燃料用の水素ガスタンクが爆発して、周辺に被害を与え、市民1名が負傷した事故を紹介します。
< 発災施設の概要 >
■ 発災があったのは、山形県上山市(かみのやま市)金谷の工業団地にある山形バイオマスエネルギー社のバイオマス発電所である。この発電所は木のチップを使う木質バイオマスガス化発電で、2018年12月に完成し、今年3月末に発電事業を始める予定だった

■ 事故があったのは、バイオマスガス化発電所にある燃料用の水素タンクである。水素タンクは燃料となるガスを貯めるために設置されており、水素や一酸化炭素が貯蔵されていた。
                   上山市の工業団地周辺 (矢印は事故のあった建設前の場所)
図はGoogleMapから引用)
<事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2019年2月6日(水)午後4時10分頃、バイオマスガス化発電所で爆発が起こった。

■ 近所の住民から「爆発音がした」との110番の通報を受け、消防署が出動した。

■ バイオマス発電所の設備の試運転を始めて10分ほどして、水素タンクが爆発した。水素タンクの屋根部(直径約3m、厚さ約1cmの円形の金属板)が飛び、南西に100mほど離れた民家の2階部分を突き破った。家の中にいた30代の女性が、衝撃で落ちてきたものに頭をぶつけて首にけがをした。
被害を受けた住宅と飛んできたタンク屋根
(写真は左;Kahoku.co.jp、右; Sakuranbo.co.jpから引用)
■ 現場近くで働く女性は、「屋根に大きな物が落ちたような衝撃音があり、直下型地震のように地面も揺れた」と話した。爆風によって付近の住宅や事業所で、窓ガラスが割れたりする被害が出た。

■ 試運転を担っていたのは木質バイオマス発電施設などの設計・施工を請負った「テスナエナジー」で、事故当日は午後4時ごろから、試運転に向けた作業を進めていた。

■ 事故を起こしたバイオマス発電施設は「ガス化式」と呼ばれるもので、チップにした木材を熱して水素などのガスを抽出し、それを燃料にエンジンを回して発電する。爆発したタンクは燃料を貯めるためのもので、当時は水素のほか一酸化炭素やメタンなどのガスも充満していたとみられている。山形バイオマスエネルギーによると、当時、タンクには、燃料に使う水素などのガスが入っていて、試運転のため発電施設のエンジンの電源を入れたところ、突然、タンクの屋根が吹き飛んだという。

■ 2月8日(金)、上山市消防本部によると、爆発事故で、壁の一部や窓ガラスが破損するなどの建物被害が、発電施設内の建屋などを含め、14棟に上ることが分かった。被害は、施設を中心に半径約250mの範囲に及んでいた。女性がケガをした住宅を含め、民家や小屋で被害を受けたのは5棟で、工場などの事業所は9棟だった。金属製の屋根が直撃した住宅までの距離は約130mだった。最も施設から離れていたのは、南西約250m地点にある住宅脇の小屋で、窓ガラスが割れていたという。工場などではドアやシャッターのゆがみも確認された。

被 害
■ 人的被害として、市民1名が負傷した。

■ 発電所の燃料用水素タンクが損壊した。生産設備への影響はわかっていない。

■ 施設を中心に半径約250mの範囲にある建屋で、14棟に被害が出た。有害物質の漏洩は無かったと思われ、環境への影響はない。 
(写真はYomiuri.co.jpから引用)
< 事故の原因 >
■ 事故原因は調査中である。タンク内の水素ガスに引火したことやタンクの圧力が急激に上昇したことなどが挙げられている。

■ 発電装置の稼働スイッチを入れて数秒で、水素タンク内の爆発が起きていたことが分かった。スイッチを入れた際、何らかの原因でタンク内の水素ガスに引火し、爆発が起きたとみられている。

< 対 応 >
■ 山形バイオマスエネルギーは、「ケガをされた方や周囲の皆様にご迷惑をおかけし、おわび申し上げたい。原因を調べるとともに、誠意をもって対応していきたい」とコメントしている。

■ 2月7日(木)、警察と消防署が朝から現場検証をして、詳しい状況を調べている。
 現場検証の状況はインターネットのユーチューブで流されている。(YouTube「稼働後数秒で爆発・上山」

■ 2月7日(木)、発電施設を担当する経済産業省関東東北産業保安監督部東北支部の職員が立入り、現場の状況を確認した。

■ 2月8日(金)、警察は午前9時半から事故の原因を調べるための実況見分を再開し、当時作業をしていた東京都の施工業者などから話を聞いた。警察は施設の構造や運用方法に問題があったと見て、業務上過失致傷の疑いで捜査を続けている。
(写真はKahoku.co.jpから引用)
(写真はFnn.jp から引用)
補 足
■ 「上山市」(かみのやま市)は、山形県の南東部にあり、人口約3万人の市である。上山市は、江戸時代には上山藩の城下町や羽州街道の宿場町として栄え、現在は上山温泉で知られる。

■ 「木質バイオマス発電」は、燃料となる木材を燃やしたり、熱することでタービンやエンジンを動かして発電している。大きく分けて2つの方式がある。
 ● 「直接燃焼方式」 ;木材を燃やして水を温め、発生した蒸気でタービンを回し、発電する。
 ● 「ガス化方式」;木材から発生する可燃性ガスを利用し、ガスエンジンを動かし、発電する
 近年、バイオマス発電が注目を浴びているが、発電方式の選択を先行しているドイツと比較すると、図のようになる。 日本では、ORC(蒸気タービンと同じくランキンサイクルによる発電方式の一種で、蒸気タービンとは異なり、熱媒として水ではなく、シリコンオイルなどの有機媒体を利用して発電を行う)の技術がなく、1,000kW前後の中小規模帯での選択肢が無かった。今回、事故があった施設の最大出力は約2,000kW弱で、ガス化方式を広げたものである。ガス化方式は直接燃焼方式と比べ、熱排水の処理の必要がなく、小規模施設でも発電効率が高いなどの利点がある。
 山形県で稼働中の木質バイオマス発電施設は7か所で、うちガス化方式が3か所、直接燃焼方式が4か所となっており、現在、稼働中の施設は約1,000~50,000kWの範囲にある。
          バイオマス発電技術の選択の幅   (図はNpobin.netから引用)

■ 「山形バイオマスエネルギー」は、間伐材や果樹の剪定枝をチップ化し、燃焼させる木質バイオマス発電事業をしている。 同社は、2015年に山形県の建設業・産業廃棄物処理業の㈱荒正と不動産業の㈱ヤマコーなどがバイオマス発電の新会社として設立された。事故のあった発電設備は2018年12月に完成したもので、ガス化方式を採用している。投資総額は約13億円で、年4億円程度の売電収入を見込んでいる。

■  「テスナエナジー」は、2014年に木質バイオマスのガス化プラント事業を専業として設立された会社である。テスナプロセスバイオマス発電システムと特徴である炭化炉・ガス改質炉は図のとおりである。

テスナプロセスバイオマス発電システム
(図はTesnaenergy.co.jpから引用)
テスナプロセスバイオマス発電システムの炭化炉とガス改質炉
(図はTesnaenergy.co.jpから引用)
所 感
■ 今回の事故は、水素タンク(生成ガスホルダー)に爆発混合気が形成されたものだと思う。試運転時に生じる要因としては、つぎのようなケースがあるだろう。
 ● 試運転前に系内の空気を不活性ガス(窒素など)で置換していなかった。このため、空気の残った水素タンクに生成ガスが入り、爆発混合気が形成した。
 ● 試運転時に生成ガスライン系(ガス改質炉以降)に空気が入り、生成ガスとともに空気が水素タンクに入った。このとき、爆発範囲が4~75%と広い水素がタンク内で爆発混合気を形成した。
 引火源は、流動による静電気またはガスエンジンの逆火ではないだろうか。事故の背景として、試運転を行ったメンバーが、このような非定常運転について十分な知識と経験がなかったのではないかと感じる。   

■ 事故を防ぐためには、つぎの3つの要素が重要である。この3つがいずれも行われなかった場合、事故が起こる。
 ① ルールを正しく守る
 ② 危険予知活動を活発に行う
 ③ 報連相(報告・連絡・相談)を行い、情報を共有化する
 木質バイオマス発電といっても、新規のプロセス装置と同様の設備である。定常運転時のマニュアルはあっただろうが、今回のような運転始めの際のマニュアルに問題があったのではないだろうか。

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Asahi.com,  試運転バイオマス発電設備が爆発 「地面揺れた」 山形,  February  06,  2019
    ・Sakuranbo.co.jp, “ふた”はなぜ吹き飛んだ?バイオマス発電施設爆発事故 山形・上山市,  February  07,  2019
    ・Yomiuri.co.jp,  上山の発電所で爆発 破片で民家損傷 1人けが,  February  07,  2019
    ・Sakuranbo.co.jp,  “初めての試運転”で爆発・バイオマス発電施設事故 東京の施工業者などから聴取 ,  February  08,  2019
    ・Nhk.or.jp,  水素ガスなどに引火して爆発か,  February  07,  2019
    ・Kahoku.co.jp, 上山の工場で爆発 民家に金属片直撃、女性けが,  February  07,  2019
    ・Kahoku.co.jp, 上山プラント爆発>タンク内の水素ガス 引火した可能性,  February  07,  2019
    ・Jp.reuters.com,  バイオマスの施設で爆発、山形,  February  06,  2019
    ・Yamagata-np.jp, 上山のバイオマス施設で爆発 民家に被害、女性軽傷,  February  07,  2019
    ・Yamagata-np.jp, 稼働後数秒で爆発・上山 発電施設、県警は過失傷害容疑も視野,  February  07,  2019
    ・Yamagata-np.jp, 木質バイオマス発電、県内に7カ所 上山の施設はガス化方式,  February  08,  2019
    Yamagata-np.jp, 半径250メートル、14棟が被害 上山・発電施設爆発事故,  February  09,  2019


後 記: 石油貯蔵タンクとはちょっと違ったタンクですが、大きく報道された事故でしたので、ブログを投稿することとしました。今回、情報を調べていて感じたことは、バイオマス技術が随分進展しているということです。特に、山形県では熱心であるように感じます。山形県酒田市に最大発電能力50,000kWのバイオマス発電所(サミット酒田パワー)が20188月に完成し、商業運転をしているほか、木質バイオマス発電施設は7か所あります。今回、事故のあったバイオマス発電施設も従来だと選択肢のなかった2,000kWクラスのガス化発電です。しかし、ドイツのようにOCR方式を導入すべきだという意見があります。また、経済産業省の補助事業の場合、2月中に試運転を終えて完了届を出さなければ補助金が貰えないので、締切が最優先になり、安全性がおろそかになる懸念があるという意見もあります。今回の施設が補助事業かどうかわかりませんが、県や企業の頑張りは見える反面、発電に関する国や経済産業省の基本思想が見えないということがわかりました。