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2013年8月30日金曜日

米国ペンシルバニア州で燃料貯蔵タンクが爆発し、死者1名

 今回は、2013年8月19日、米国ペンシルバニア州マーサー郡グリーンビルのレイノルズ工業団地にあるリード・オイル社系列のブラウニー・オイル社が所有するディーゼル燃料用貯蔵タンクが爆発し、近くにいた作業員が吹き飛ばされて亡くなった事例を紹介します。
レイノルズ工業団地にあるブラウニー・オイル社のタンク爆発事故直後の火災状況
 (写真はTheCelestialConvergence.blogspot.jpから引用)

本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Triblive.com,  Industrial Park Explosion Kills Worker in Mercer County,  August 19,  2013
      ・WTAE.com, Plant Explosion Kills Worker in Mercer County,  August 20,  2013   
  ・Post-gazette.com, Man Killed in Mercer County Plant Explosion, August 20,  2013
      ・WPXI.com,  Worker Kills in Mercer County Industrial Park Explosion, August 20,  2013
      ・Pittsburgh.CBClocal.com,  Cleanup Continues at Mercer County Explosion Site, August 20,  2013
      ・WKBN.com,  Fuel Storage Tank Explodes, Killing 1, August 20,  2013
      ・SharonHerald.com,  Explosion Fatality Was New Castle Man, August 21,  2013    

 <事故の状況> 
■  2013年8月19日(月)午後5時30分頃、米国ペンシルバニア州にある燃料貯蔵タンクが爆発してひとりが死亡するという事故があった。事故があったのは、ペンシルバニア州マーサー郡グリーンビルのレイノルズ工業団地にあるリード・オイル社系列のブラウニー・オイル社が所有するディーゼル燃料用貯蔵タンクが爆発し、近くにいた作業員が吹き飛ばされて亡くなった。

■ 近くに住んでいたマリー・クレスさんによると、爆発の威力はすさまじく、10,000ガロン(37KL)のタンクが空中を飛び、庭近くに落下したという。落ちた場所は住居のすぐ近くだった。「向こうの方で炎があがったので、すぐに911通報したわ。それから急いでドアを開けて飛び出してみたら、何と目の前にタンクが落ちていたのよ。台所から30フィート(9m)も離れていなかったわ」とクレスさんは話した。クレスさんは、庭にタンクが落下する少し前まで家の外にいたという。環境保全局によると、タンクは約100mの距離を飛んでいたという。

■ 調査官によると、タンクにはオフロード用ディーゼル燃料が入っていたという。トランスファー消防署のフィリップ・スティール署長によると、爆発したタンクは容量10,000ガロン(37KL)で、7,500ガロン(28KL)の燃料が入っていたといい、大半はタンクの防油堤内に溜まっていたという。こぼれた油に火がついて芝生が燃え出していたが、出動した消防署はすぐに消火活動を行なった。スティール署長は、「おそらく15分程度で終った」と語った。  

■ マーサー郡検視官事務所は、亡くなった作業員がブライアン・クラウスさん(37歳)であることを明らかにした。当時、タンクの渡り歩廊にいたと思われるクラウスさんは爆発で吹き飛ばされて地面へ落下し、頭部と骨盤部を強く打ったのが死因だという。検視官事務所によれば、不慮の事故死だという。

■ ピマチュニング・タウンシップ警察署のエリック・バーガー署長は、現場の構内にはプロパン用タンクがあったが、爆発には巻き込まれなかったと話している。当局者は、何が火源で爆発したか調査しているところだが、タンクから約100ヤード(90m)離れたところで一人の溶接士が作業しており、これが爆発の火源だったかもしれないという。バーガー署長によると、亡くなったクラウスさんは自営業の溶接工で、以前から事故のあったプラントで作業していたという。当局によると、他にケガをした人はおらず、現場にいたのはクラウスさんだけだったという。溶接工が歩廊を足場に溶接していたという話もあり、何が爆発の引き金だったかははっきりしない。リード・オイル社の最高財務責任者であるマイク・タップ氏は、会社として爆発の原因を調査している当局者と協力して作業を進めると話している。CBSローカル放送は、被害者が燃料貯蔵タンクの渡り歩廊部の溶接工事についてリード・オイル社と請負契約を結んでいたと報じている。

■ 環境保全局には、爆発後、すぐに召集がかかった。現場を見て驚いたことには、ディーゼル燃料の影響が最小だったことだという。環境保全局によると、タンクまわりに設置されていた防油堤内に約5,000ガロン(19KL)の油が保持されており、排水路へ流れていなかったという。環境保全局のゲーリー・クラーク氏は、「コントロールされたかのように、すべてがそのままの状態なのです。何かが起こっても、防油堤は自分の役割を果たしたのです。ディーゼル燃料が流出するのを引き止めたかのようです」と語った。環境保全局は、堤外に出たディーゼル燃料を数十ガロン(200リットル)ほどクリーンアップしたが、住民への影響や給水への危険性はないと話している。

■ 8月20日(火)、クリーンアップを行うメンバーがブラウニー・オイル社の現場での作業を始めた。

■ シャロンヘラルド誌は、8月21日(水)、トランスファー消防署のスティール署長の話として、15日(木)に容量10,000ガロン(37KL)のガソリンタンクで漏洩があり、爆発事故前の19日(月)にディーゼル燃料のタンクへ移送した経緯があったことを報じている。

■ リード・オイル社のマイク・タップ氏は、事故に伴い、8月20日(火)、つぎのような声明を出した。
 「昨夜、リード・オイル社のブラウニー・ターミナルにおいて、私どもの協力会社として働いていた方が致命傷を負って亡くなられました。リード・オイル・グループは、亡くなられた方のご家族・ご友人に対して心からのお見舞いと哀悼の意を表します。リード・オイル社として独自の調査を行っておりますが、今回の悲劇的な事故の原因調査を行うOSHA(米国労働安全衛生局)に全面的に協力を行ってまいります」
タンク・ターミナルでの爆発事故後の上空からの写真
注;矢印部の黒いエリアは火災の焼け跡
(写真はKDKA.comの動画から引用)
防油堤内に油が溜まった事故後の現場
   注;矢印①の場所にディーゼル燃料タンクがあった。矢印②はタンクの底板部傾いたタンク渡り歩廊以外は整然としている。                                   (写真はKDKA.comの動画から引用)
タンク爆発事故の現場周辺
        注;タンクは矢印のように約100m飛んで、住民の家近くに落下 (写真はKDKA.comの動画から引用)
         爆発したタンクの底板部を調べる調査官   (写真はKDKA.comの動画から引用)
爆発で吹き飛んだタンク
         注;上部は黒く焼けているが、下部は塗装が残っている。  (写真はWKBN.comから引用)
爆発で吹き飛んだタンク
            注;タンク底板部が無く、下部は塗装が残っている。    (写真はWPXI.comから引用)

補 足
ペンシルバニア州 
■ 「ペンシルバニア州」は米国東部にあり、人口約1,270万人で、州都はハリスバーグである。ペンシルバニア州は米国において最も歴史のある州で、米国発祥の地といわれるフィラデルフィアは独立宣言や合衆国憲法が立案された場所である。
 「マーサー郡」はペンシルバニア州の西部に位置し、人口約11万人の郡で、郡庁はマーサー・ボロにある。
 「グリーンビル」はマーサー郡の北西部にある自治区で、人口は約6,300人である。

 ペンシルバニア州では、2010年8月11日、ファレルにある製鉄会社のデュファーコ・ファレル社が誤って油水混合液(推定52KL)をシェナンゴ川へ流出した事故がある。 2013年6月22日には、チェスター郡イースト・ホワイトランド・タウンシップのバックアイ・エナージー・サービス社のマルバーン・ターミナルで、タンク施設内からガソリンが漏れ、近くにあった豪雨時の非常用排水溝に流出した事故がある。この事故については、当ブログで「米国ペンシルバニア州でタンク施設からガソリン流出」(2013年7月)に紹介した。

■ 「リード・オイル社」(Reed Oil Company)は、ペンシルバニア州ニューキャッスルを本拠にした石油会社で、主にペンシルバニア州、オハイオ州を中心に暖房油、プロパン、オンロード用・オフロード用ディーゼル燃料、ガソリンの供給を行っている。リード・オイル・グループは、現在、「21世紀エナージー・グループ」(The 21st Century Energy Group)と名称を変えて経営の新展開を図っている。
 油の配送センターであるオイル・ターミナルは8箇所あり、グループ系列の会社が経営する形態をとっている。レイノルズ工業団地にあるオイル・ターミナルは同地区に事務所をもつ「ブラウニー・オイル社」(Brownies Oil Company)とウイリントン・オイル社の共同でグリーンビル・デリバリー・センター(Greenville Delivery Center)として運用されている。グリーンビル・デリバリー・センターはグリーンビルの別な場所にあったが、2010年に現在のレイノルズ工業団地に移転した。
事故前のタンク・ターミナル。タンクが落下した住民の家は右下端
(写真はグーグルマップから引用)
事故前のタンク・ターミナルの全景
    注;中央が燃料タンク群、左の枕型タンクがプロパン・タンク   (写真はグーグルマップのストリートビューから引用)

■ 「オフロード用ディーゼル燃料」は、公道を走行しない特殊な作業車(農業用のトラクターやコンバイン、建設機械のショベルカーやブルトーザなど)に用いるディーゼル燃料である。公道走行のオンロード用と違って、オフロード用ディーゼルエンジンは高負荷・高回転で連続運転される。オフロード用ディーゼル燃料の排出ガス規制はオンロード用ディーゼル燃料に比べて緩やかである。

所 感
■ 今回の事故は不可解なことが多い。爆発が起こっているが、火災は大した規模でない。爆発がディーゼル燃料タンクで起こっており、内液の大半が防油堤内に溜まっている。被災した溶接工の行動がはっきりしていないし、火源もはっきりしていない。

■ 不可解な事故をあえて推測してみると、つぎのとおりである。
 ● 爆発の事故前にディーゼル燃料タンクの内液が何らかの要因で徐々に漏れ出し、防油堤内に溜まっていた。タンクには防油堤の高さと同じレベルの油しか入っていなかった。(何らかの要因とは、タンクのドレン系統の配管不具合、あるいはタンク底部の腐食または割れによる開口などが考えられる)
 ● ディーゼル燃料タンクには、ガソリンが混入しており、内液が流出していった際、タンク上部に徐々に空気が流入し、ある時点でガソリンベーパーによる爆発混合気を形成するようになった。
 ● 内液が流出する際、タンク内に静電気が蓄積し、放電して火花が発生し、爆発混合気の火源となった。
 ● タンク爆発の勢いでタンクが空中へ飛び上がった。この瞬間、タンク底板が破断した。タンク本体は傾斜し、そのまま前方へ飛んでいき、道路を越えて住宅地に落下した。破断した底板はタンク群の後方へ落下した。タンク本体が飛んでいく際、内部の油が地上へ落ちて、火災となった。底板とともに残っていた油が地上へ落ちて、火災となった。タンク本体は、爆発時の熱で空間部が焼けたが、下部の油浸漬部は高温にならず、塗装が残った。
 ● 被災した溶接工はタンク群の異常(漏れ)に気がついて、タンクへ近づいていったとき、爆発が起こり、爆風に飛ばされて地面に叩きつけられた。

■ このような推論が現実に起こりうるだろうかという疑問もある。しかし、ディーゼル燃料タンクが渡り歩廊での溶接によって爆発したという単純なシナリオでは、ますます不可解な疑問が増える。現時点では、事故原因はわからないが、世の中には「事実は小説より奇なり」を認識させるタンク事故がありうるということである。



後 記; 今回の事故情報の見出しを見たときには、「ンク内外の火気工事における人身事故を防ぐ7つの教訓」が活かされていない事例かと思いましたが、いろいろな情報をみてくると、まったく不可解な事故であることが理解できました。これまで多くのタンク事故情報を見てきましたが、今回のような事例は初めてです。頭の体操として事故を推測してみました。
 ところで、猛暑続きの毎日でしたが、やっと30℃を切る涼しい夜(?)になりました。猛暑による夏バテの疲れが一気に出そうな感じです。一方で、全国的に豪雨に見舞われており、雨の少ない北海道の苫小牧で時間当たり100mmの豪雨があったということですし、現在、西日本に向かっている台風15号は進路や速度が気象情報ごとに変化しており、気にしているところです。







2013年8月25日日曜日

東京電力福島原発の汚染水貯留用組立式円筒タンクから漏れ

 今回は、2013年8月19日、東京電力福島第1原子力発電所において放射能汚染水を貯留する組立式円筒型タンク(容量1,000㎥、直径12m×高さ11m)から高濃度汚染水が漏洩していることがわかった事例を紹介します。2013年4月5日、東京電力福島第1原子力発電所の放射能汚染水を貯めている地下貯水槽からの漏れが発覚されて以降、懸念されていた組立式円筒型タンクからの汚染水漏れが顕在化しました。
       (写真は原子力規制委員会へ提出した東京電力の資料から引用)
本情報はつぎのような情報基づいてまとめたものである。
  ・Tepco.co.jp,  東京電力プレスリリース;福島第一原子力発電所構内H4エリアのタンクにおける
水漏れについて, August 19~24,  2013
      ・朝日新聞, 原発汚染水漏れ関連記事, August 20~25,  2013
      ・Headline.yahoo.co.jp(時事通信), 福島第1、同型タンク350基=汚染水漏れ、事故後5回―接合部弱い構造・東電, August 20,  2013
  ・Nikkei.com,  汚染水漏れ、原因究明難航 規制委が福島原発視察, August 23,  2013
  ・Nsr.go.jp, 原子力規制委員会の特定原子力施設監視・評価検討会汚染水対策検討ワーキンググループの議事録等, August 19~22,  201
  ・Minpo.jp, タンク300基交換検討 第一原発の汚染水漏れ 東電が耐久性高いタイプに, August 25,  2013

 <事故の状況> 
■  2013年8月19日(月)9時50分頃、福島県双葉郡大熊町・双葉町にある東京電力福島第1原子力発電所において放射能汚染水を貯留する組立式円筒型タンク(容量1,000㎥、直径12m×高さ11m)から高濃度汚染水が漏洩していることがわかった。東京電力によると、パトロール中の同社社員が、発電所構内H4エリアのタンク堰のドレン弁から水が出ていることを発見して、タンクから漏洩していることがわかった。タンク堰のドレン弁は閉操作が実施された。

■ このときの現場状況の確認では、堰内に1~2cm程度の水溜まりがあり、堰のドレン弁の外側に約3m×約3mのエリアに約1cm、約0.5m×約6mのエリアに約1cm」の水溜まり2箇所が確認された。東京電力は、当時点で汚染した水の発生源は特定できていないものの、汚染水を貯留しているタンク周辺の堰内に溜まっていた水がドレン弁を通じて堰外へ漏洩したこと、タンクに貯留した水がタンクから漏洩したことが否定できないこと、および堰外に漏洩した水溜まりにおいて高いベータ線、ガンマ線が検出されたことから、同日14時28分、関係法令に基づく「管理区域内で漏洩したとき」に該当すると判断した。
 なお、東京電力は、堰の外にある水溜まりから一般排水溝等に流れている形跡はないことから、海への流出はないと推定している。

■ 朝日新聞によると、東京電力は漏れた量について2箇所の水溜りで計120リットルと回答したという。
組立式円筒型タンクの構造
(写真は原子力規制委員会へ提出した東京電力の資料から引用) 
                      水溜り場所   (写真は東京電力が報道へ配布した資料から引用)
タンク堰の構造
注; 雨水が溜まらないよう集水桝にはドレン弁を設けておき、万一タンクからの漏洩が確認された場合は速やかに閉じる運用とする。                         (図は東京電力が報道へ配布した資料から引用) 
 819日(月)、原子力規制委員会は、東京電力から、福島第一原子力発電所における汚染水貯留タンクからの管理区域内漏洩について報告を受け、つぎのような対応をとった。
 ● 現地原子力保安検査官が、現場の状況などの確認を行っている。
 ● 原子力規制委員会から東京電力に対してつぎのような指示を行なった。
    ・漏洩箇所の早期特定
    ・H4タンクエリア周辺のモニタリング監視強化
    ・漏洩に対する応急対策実施後を目安として汚染土の回収
 ● 国際原子力・放射線事象評価尺度(International Nuclear and Radiological Event Scale:INES)に基づくと、漏洩原因や漏洩量がまだ確定できていないが、汚染水が敷地内に漏洩したことから、「レベル1」(逸脱)と評価した。
(図は電気事業連合会の資料から引用) 
 820日(火)、東京電力は、H4エリアのタンクにおける水漏れについて続報としてつぎのように発表した。
 ● 同エリア内のNo.5(H4-Ⅰ-5)タンク近傍の底部で水の広がりがあり、当該タンクの水位を確認した結果、タンク上部から3m40cm程度まで低下していた。水位は上部から50cm程度であったので、約3m水位が低下しており、水位低下分の水量は約300㎥である。
 ● 漏洩した水のうち、堰内の水は回収を実施(8月20日午前0時時点で約4トン回収)する。ドレン弁を通して堰外へ出た水は土壌に染み込んだと思われ、本日8月20日中に、周辺の土壌の回収を行う。
 ● 当該エリア堰のドレン弁は、全て閉止措置とし、8月19日中に実施済み。
 ● 堤内には、その後も漏洩が継続している。現場は約3時間ごとに状況を点検している。
 ● 漏洩しているタンクを特定した後、タンク上部から仮設ポンプで水抜きを行い、H4エリア内の別グループのタンクに移送する。
■ 朝日新聞によると、東京電力原子力・立地本部の尾野昌之本部長代理は「少ない量が長い期間にわたって漏れていた可能性がある」と話したことを報じている。
■ 朝日新聞によると、東京電力はこれまで堰のドレン弁を常に開けておき、汚染水漏れが見つかると閉めることにしていたという。しかし、今回は汚染水漏れに気づくのが遅れた。
■ 朝日新聞では、漏れた場所として考えられるのは、タンクの継ぎ目部分という。タンクはボルトでつなぎ合わせて造るフランジ型と呼ばれる構造で、短期間で大量に造れるため、事故直後から大量に据え付けられた。しかし、継ぎ目からの水漏れを防ぐゴム製パッキンが劣化しやすく、耐用年数が5年と短い。過去4回の水漏れはすべてフランジ型だった。
 今回漏れのあったタンクは2011年10月から使い始めたもので、「経年劣化は考えにくい」(東京電力)といい、施工不良やボルトの締め付けのバランスが悪いことで、漏れた可能性が考えられるという。
■ 朝日新聞によると、福島県村田副知事は「300トンとはかなりの漏れ。東京電力が的確に監視していれば漏れを少なくできたはずだ」と、東京電力の対応に疑問を呈した。

■ 時事通信によると、東京電力福島第1原発の放射能汚染水を貯蔵する鋼製タンクから大量の水漏れが見つかった問題で、東京電力は20日、漏水したのと同型のタンクが、同原発に約350基あることを明らかにした。このタンクは接合部がゴム製のパッキンで、接合部を溶接するタイプのタンクと比べて水漏れしやすい構造という。同原発事故後、タンクからの水漏れは今回で5回目だが、いずれも同型のタンクだったという。
タンクの設置状況と各タンクの水位 (%で表示) 
(図は東京電力が報道へ配布した資料から引用) 
タンクの設置状況と各タンクの水位 
(図は原子力委員会8月21日会議資料から引用) 
  タンクエリアと排水路の位置 (図は東京電力が報道へ配布した資料から引用) 
 821日(水)、東京電力は、H4エリアのタンクにおける水漏れの続報として対応状況についてつぎのように発表した。
 ● 堰内に溜まっている漏洩水を空きタンクに移送中である。(2日程度で移送完了予定)
 ● タンク堰の外側にある土のう式堤の外側に汚染とみられるエリアがあり、土のう式堤から汚染水や汚染土壌の水がBライン排水路へ流出することを防ぐための対策を実施中である。
汚染水のタンク間移送状 
(写真は原子力規制委員会へ提出した東京電力の資料から引用) 

               土のう式堰の外側の対策  (図は東京電力が報道へ配布した資料から引用)

土のう式堰の外側の対策(8月20日の実施状況) 
(写真は東京電力が報道へ配布した資料から引用) 
 821日(水)、東京電力は、H4エリアにある組立式円筒タンクから汚染水が漏れたことを受けて、構内にある組立式円筒型タンクの今後のパトロール方法について報道発表した。 また、原子力規制委員会へ報告した。
 ● パトロール頻度:2回/日(午前/午後)
 ● パトロールは、タンク周囲の堰およびタンク群内に入り、前後左右の状況を目視し、タンク基礎(床)に水たまりの有無を確認する。不自然な水たまりがあれば、線量を計測し、バックグランドに比べ有意に高ければ漏洩の可能性ありと判断し、詳細調査を行う。
組立式円筒型タンクの配置とパトロールルート(例) 
(写真は原子力規制委員会へ提出した東京電力の資料から引用)
(図はasahi.comから引用) 
 821日(水)、東京電力は、 漏洩した汚染水が排水路に流れた可能性があると発表した。
 ● H4エリアタンクの東側にある排水路の壁面において筋状の流れた痕跡が確認されたことから、当該部の表面線量当量率を測定した結果、最大で 6.0mSv/h(γ+β線(70μm線量当量率))であることを確認。このことから、汚染した土砂等が排水路に流れた可能性がある。今後、詳細な調査および評価を行う。

■ 朝日新聞は、「タンク汚染水 海流出か」という見出しで、東京電力は「汚染水が海に流出した可能性は否定できない」と説明したことを報じている。また、朝日新聞によると、21日夜に開かれた原子力規制委員会の作業部会では、タンクの底から漏れた可能性が指摘されたという。

■ 8月21日(水)、原子力規制委員会は、東京電力からの追加報告を受け、 INES 評価基準を適用して評価すると、「レベル3」(重大な異常事象)に該当すると発表した。
 
■ 朝日新聞は、東京電力の原子力部門のトップの相沢善吾副社長が記者会見で、「汚染水問題は経営の最大の危機、喫緊の最優先課題として取り組む」と述べ、「心からおわび申し上げたい」と陳謝したことを報じた。また、相沢副社長が自らが福島第1原発に常駐し、指揮にあたるとしたという。
 朝日新聞によると、福島第1原発には今回漏れを起こした同型のタンクが約350基あり、大半はタンク内の汚染水の量を確認する水位計がついていないという。また、汚染水をタンクに溜める前の点検を、水漏れが確認しにくい雨天に実施していたという。

■ 8月22日(木)、東京電力は、汚染水貯留用の組立式円筒型タンクを全数点検した結果、他のエリアでも漏洩した可能性があることを発表した。
 ● 8月22日午前11時~午後3時頃にかけて、漏洩したタンクと同様の組立式円筒型タンクの他エリアについて総点検(外観点検、線量測定)を実施。タンクおよびドレン弁の外観点検において、漏洩および水溜まりは確認されなかった。
 ● H3エリアのタンク周辺において、部分的に線量が高い箇所(2箇所)を確認。なお、当該箇所は乾燥しており、堰内および堰外への流出は確認されなかった。なお、当該タンクの水位は受け入れ時と変化がなかった。
  ・H3エリアBグループNo.4 タンク; 底部フランジ近傍:100mSv/h
  ・H3エリアAグループNo.10 タンク; 底部フランジ近傍: 70mSv/h
■ 朝日新聞は、東京電力が22日、別な2基のタンクのそばで高い放射線が検出されたと発表したことを報じた。漏れや水溜まりは確認できなかったが、東京電力は「微量の汚染水が漏れた可能性は否定できない」と回答したという。

■ 日本経済新聞によると、23日(金)に原子力規制委員会による現地調査が行われ、東京電力のずさんな管理体制が浮かび上がったといい、規制委の更田(ふけた)豊志委員は、「点検の記録が残っていない。点検がずさんだったと言わざるを得ない」と東京電力の対応を厳しく批判した。
 日本経済新聞は、 23日夕に経済産業省が有識者を交えて開いた汚染水処理対策委員会では、東電の担当者が「放射線量が高く、タンクの中に入れないので漏水箇所は分からない」と厳しい事情を説明したと報じている。タンクの漏れが発覚して5日たったが、東京電力は汚染水がタンク下部のコンクリート基盤から漏れた可能性を示唆するが、原因を特定できないままだと日本経済新聞は報じている。
タンクの配置と総点検エリア 
(図は原子力規制委員会へ提出した東京電力の資料から引用) 

タンクの設置状況と放射能高線量測定位置 
(図は原子力規制委員会へ提出した東京電力の資料から引用)

H3エリアの放射能高線量測定場所の状況 
(写真は原子力規制委員会へ提出した東京電力の資料から引用)

汚染水が漏れたタンクなどを視察する原子力規制委の委員ら 
(写真はnikkei.comおよびJNN動画から引用)
■ 824日(土)、東京電力は、漏洩のあった組立式円筒型タンクについて建設時の水張試験中に地盤沈下があり、移設した経歴があったことを発表した。
 ● 2011年6月、H1エリアに組立式円筒型タンクの建設を開始した。7月19日、 H1エリア北東側3基で水張り試験中に基礎部分が一部沈下(約20cm)した。 8月上旬にタンク3基を解体し、地盤改良を実施したH4エリアにタンク3基の再組立を9月中旬に実施した。10月上旬に3基のタンクの水張り試験を実施し、問題がないことを確認した。この間、8月に元請会社から基礎部沈下によるタンクへの影響に無いことの報告を受けた。
 ● H4エリアへ移設を行なったタンクは、No.10(元H1エリアNo.3)、No.5(元H1エリアNo.4)、No.3(元H1エリアNo.8)の3基である。同年10月21~24日にかけてタンクの運用を開始した。
 ● 漏洩リスクの低減対策として、H4エリアNo.3およびNo.10タンクの水は、H4エリア内で空きのあるタンクへ移送を行うこととした。

■ 朝日新聞は、「漏水のタンクに移設歴 地盤沈下で損傷可能性」という見出しで、東京電力は地盤沈下の際にゆがみや損傷などが起きた可能性があるとみて究明を進めると報じている。また、朝日新聞は、東京電力相沢副社長が、24日、福島県庁で同型のタンクについて「リプレース(交換)計画を検討している」と述べたことを報じた。福島民報は、タンクのリプレース(交換)計画について、接ぎ目をボルトで締めるタンクから耐久性が高いとされる溶接タイプに切り替えることが想定されるとし、実施時期について相沢副社長は「いつとは言えないが、できるだけ早い時期に示したい」と述べたと報じている。
タンクエリアと移設タンクの配置 
(図は東京電力が報道へ配布した資料から引用) 

H1エリアからH4エリア移設したタンクの場所 
(図は東京電力が報道へ配布した資料から引用)

外観状況確認結果
(写真は東京電力が報道へ配布した資料から引用)

H1エリアの基礎の状態 
(写真は東京電力が報道へ配布した資料から引用) 

 補 足 
■ 東京電力福島原発で使用されている 「地上タンク」には、 以前から既設設備として供用されている一般的な「溶接構造式円筒型タンク」のほか、事故後に導入された「組立式円筒型タンク」および「枕型タンク」がある。「組立て式円筒型タンク」は汚染水や真水の保管用として、枕型タンクは容量100㎥で高レベル廃棄物用として製作されたものである。

 福島原発に組立式円筒型タンクを納入した東京機材工業のホームページによると、同社は組立式円筒型タンクのほか角型タンクも納入しているという。事故後に製作された地上タンクは、現在、950基を超えているが、そのうち組立式円筒型タンクは350基以上という。組立式円筒型タンクは、もともと、土木工事用の仮設の水タンクに用いる目的で製作されたもので、接続部にパッキン(ガスケット)を使用しており、水密性能に限界があり、パッキン寿命は5年といわれる。東京機材工業は、今回の東京電力の放射能汚染水貯留用に大型化したものの技術革新性を売りにしている。

 しかし、東京電力は、2012年2月3日、組立式円筒型タンクを採用した淡水化装置濃縮水貯槽の側板接続部から漏れがあったことを公表している。今回の事故後の記者会見では、このほかに4件の漏れ事例があったという。この組立式円筒型タンクについては、地下貯水槽漏れ事故前の2013年3月12日に東京新聞の記事(耐久性より増設優先、福島第一、急増タンク群 3年後破綻」を引用する形で、「汚染水タンクの手抜きが判明! 溶接をしなかったため、耐久性が減少! 3年後には大改修必至」という問題提起のブログが出されていることは以前のブログの補足で紹介した。

所 感
■ 今回の漏れは、組立式円筒型タンクの底板部からである。タンク構造図によると、タンク底板は5枚の部材に分割され、側板と同様にボルトによる締結構造になっている。このためか、タンク構造図の仕様によると、底板の鋼板厚さは16mmと通常より厚い構造となっている。(注;危険物貯蔵タンクの底板の場合、法令による最小厚さは、タンクの容量が1,000KL10,000KL9mm10,000KL以上で12mmである) この締結構造の場合、据付時の漏れ試験について側板は目視検査ができるが、底板は下部から水が染み出てこないことを確認するのみである。また、底板の締結部から微小漏れがあっても、側板の締結部でできる増し締めができない。 
■ タンクの使用期間は2年弱であり、底板の厚さを考慮すると、内面腐食あるいは外面腐食(基礎側)による開口は考えにくい。従って、底板溶接部の製作時の欠陥を起点とした割れの貫通か、上記に示すように底板締結部のすきま発生による漏れだと思われる。福島第1原発に採用した組立式円筒型タンクで側板部の漏れがすでに5件発生している状況をみると、底板の締結部からの漏れの可能性が高い。
■ 824日になって、漏洩のあったタンクについて建設時の水張試験中に地盤沈下があり、移設した経歴のあったことが発表された。元請会社から基礎部沈下によるタンクへの影響が無いとの報告を受けたことなど責任回避的な印象をもつ。

■ 一般に工場製作の溶接部は健全性が高いとされるが、組立式円筒型タンクの底板部は鋼板を格子状に配置して溶接し、さらに締結用のリム部を溶接するので、溶接欠陥が形成しやすい構造だといえる。溶接技術(溶接士の技量)と品質管理に配慮しなければならない。このように内部欠陥が存在していた場合、水張り試験中の地盤沈下は欠陥のキズを進展させた可能性はある。しかし、タンクは大なり小なり地盤沈下の影響を受けるものであり、底板に締結部のある組立式円筒型タンクは、漏れの許されない放射能汚染水の貯留用としては適当でなく、土木用の水貯留に限定すべきだといわざるをえない。この点、土木用の地下貯水槽を放射能汚染水の貯留用に採用し、漏れが発生して破綻したケースと同じである。  



後 記; ついに組立式円筒形タンクの漏れの問題が顕在化し、後手後手対応の典型的な事例がまた起きたという感じですね。しかし、東京電力福島第1原発の事故情報を調べるのは疲れます。報道関係への配布資料と原子力規制委員会への報告資料に差がありますし、内容がまわりくどい表現が多いですね。今回の事例では、報道関係の取材が活発で、報道への配布資料の曖昧さを記者会見で問われたようです。
 一方、原子力規制委員会も昔(今も?)の原子力村の深層意識が残っているようです。現地原子力保安検査官の存在感がまったくありませんね。今回、 INES 評価基準の適用で「レベル3」(重大な異常事象)に該当することとしましたが、委員会の論点では、すでに「レベル7」(深刻な事故)の評価を行っている施設の応急措置の対応中の事象であり、「レベル3」を改めて評価するのはいかがなものかという話が出たようです。委員の目線は国民の方でなく、原子力村を向いているようです。組立式円筒形タンクの漏れという技術的な問題からだんだん発散していきますので、時系列的に情報を整理した現段階でまとめを終えることとしました。

2013年8月21日水曜日

ベネズエラの製油所でタンク地区に落雷して火災発生

 今回は、2013年8月11日、ベネズエラのアンソアテギ州プエルト・ラ・クルスにあるベネズエラ国営石油公社(PDVSA)のプエルト・ラ・クルス製油所においてタンク地区にある排水処理施設に落雷があり、爆発して火災が発生した事故を紹介します。
プエルト・ラ・クルス製油所において落雷による火災で立ち上る炎と黒煙  
(写真はphotoblog.BBCNews.comから引用)
本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Reuters.com, Lightning Starts Fire at Venezuela Refinery : President,  August 11,  2013
      ・News.yahoo.com, Fire Crews Extinguish Blaze at Venezuela Oil Refinery, August 11,  2013
  ・Photoblog.NBCNews.com, Lightning Starts Fire at Venezuela Refinery,  August 11,  2013    
  ・Online.WSJ.com, Lightning Strike Sparks Fire at Venezuela’s Puerto La Cruz Refinery,  August 11,  2013    
  ・LosPueblosHablan.org, Fire in the Puerto La Cruz Refinery Fully Controlled,  August 11,  2013 
      ・Edition.CNN.com, Venezuelan Refinery Ablaze after Lightning Strike, August 12,  2013 
      ・Eluniversal.com, Fire in Puerto La Cruz Refinery under Control,  August 12,  2013 
      ・English.people.com.cn, Lightning Causes Fire in Venezuela,  August 12,  2013
      ・NamNewsNetwork.org, Fire at Venezuela’s Puerto La Cruz Oil Refinery,  August 12,  2013
      ・BBC.co.uk, Fire at Venezuela’s Puerto La Cruz Oil Refinery ‘over’,  August 12,  2013
      ・FireDirect.net, Venezuela – Fire at Puerto La Cruz Oil Refinery ‘over’,   August 15,  2013 

 <事故の状況> 
■  2013年8月11日(日)午後3時15分、ベネズエラの製油所でタンク地区に落雷があり、爆発が起こった後に火災となる事故があった。事故があったのは、アンソアテギ州プエルト・ラ・クルスにあるベネズエラ国営石油公社(PDVSA)のプエルト・ラ・クルス製油所で、タンク地区にある排水処理施設に落雷があり、爆発・火災となり、大きな炎と黒煙が立ち上った。プエルト・ラ・クルス製油所は、 PDVSAがベネズエラで操業している6製油所のひとつで、約20万バレル/日の精製能力を有し、約1,000名の従業員を擁している。
アンソアテギ州にあるベネズエラ国営石油公社のプエルト・ラ・クルス製油所
(写真はグーグルマップから引用)
■ プエルト・ラ・クルス地方では、週末にかけて雷を伴った大嵐に見舞われていた。当初、当局はプエルト・ラ・クルス製油所において貯蔵タンク1基に落雷があり、火災となったと報じている。しかし、その後の報道によれば、落雷があったのは製油所構内の燃料給油施設の近くにある排水処理施設(炭化水素を含む貯水池)とみられる。
 火災発生の通報を受けて公設消防署およびPDVSAの消防隊が出動し、大雨の中で消火活動を行なった。地元メディアは舞い上がるオレンジ色の炎と施設から湧き上がる黒煙の映像を放映している。発災現場から半径1km内に住む市民は避難した。情報省のデルシー・ロドリゲス大臣によると、事故に伴うけが人は発生していないといい、加えて、製油所の近隣地区には安全のため避難するよう指示を出したという。

■ 出動した消防隊によって消火活動が行われ、炎と2時間以上戦った後、ニコラス・マドゥロ大統領はツイッターで、火災は“制圧下” に入ったと書いている。マドゥロ大統領は、プエルト・ラ・クルス製油所で消火活動に当たっているチームと直接、連絡をとっているとツイッターで述べていた。
  11日(日)午後5時30分、州の治安保全機関は、PDVSA精製東地区の安全規約を履行し、火災を封じ込めたという。いくつかの専門家チームおよび治安保全担当者は、油施設の事故が完全に消滅するまで、現場に配置されている。

■  PDVSAのアズドルバル・チャベス副総裁は、他の生産施設および近隣地区の被害はなく、事故による製油所の生産への影響はないと話している。チャベス副総裁は、豪雨の最中に、雷光が、通常は炭化水素のエリア外のセパレータと呼ばれる貯水池に落ちたと語っている。

■ 地元メディアは、8月12日(月)、火災が鎮火したと報じた。

■ 本事故とは別に、 PDVSAによると、カラボボ州プエルトカベヨにあるエルパリト製油所(精製能力14万バレル/日)が、豪雨による停電によって8月11日(日)に操業を停止しているという。エルパリト製油所では、昨年2012年9月19日、今回の事故と同じように落雷によって、2基のナフサ用貯蔵タンクが火災となる事故があった。
■ PDVSAでは、昨年2012年8月25日、ファルコン州にあるアムアイ製油所(精製能力64万バレル/日)で、ガス漏れによるタンク爆発・火災があり、40名以上の死者を出し、多くの民家が損壊するという事故を起こしている。この事故は、昨年、ベネズエラが国内の燃料需要をまかなうためガソリンの輸入国となる要因となった。

■ マドゥロ大統領の前のウゴ・チャベス大統領は14年間の在任期間中に石油企業の多くを国有化し、石油による輸出収入の資金を食料などの社会開発事業へ惜しみなく提供した。批評家は、 PDVSAが結果として経営管理を誤り、施設への投資を減らしたことによって、事故の多発や施設の計画外停止に至っていると指摘している。野党は、爆発がメンテナンス不足の結果だということについて、PDVSAが頑なに否定していることを非難している。 PDVSAのチャベス副総裁は、会社としては予防的な方法でメンテナンスを継続して実施しているが、“時によって手に負えない状況”があると述べている。チャベス副総裁は国営テレビの中で、「ベネズエラの北部沿岸地域はかつてない異常な気象状態を経験している」と話している。
                    発災現場に急行する消防車   (写真はRT.comから引用
              消火活動に努める消防隊  (写真はNews.yahoo.com/reutersから引用
               製油所から立ち上る黒煙   (写真はEnglish.people.comから引用
               製油所から立ち上る黒煙   (写真はEnglish.people.comから引用
                 製油所の火災を見る住民   (写真はEnglish.people.comから引用
       火災があったと思われる排水処理施設と貯水池   (写真はグーグルマップから引用

補 足
ベネズエラのアンソアテギ州 
■  「ベネズエラ」は、正式にはベネズエラ・ボリバル共和国といい、南米の北部に位置する連邦共和制社会主義国家である。人口は約2,850万人で、首都はカラカスである。ベネズエラはマラカイボ湖やオリノコ川流域を中心に多くの石油が埋蔵し、古くから油田開発が進められ、経済は完全に石油に依存している。
 「アンソアテギ州」は、ベネズエラ北東部に位置し、美しいビーチのある観光地として知られている。州の人口は約148万人で、州都はバルセロナである。州経済は観光業のほか、ホセ石油コンビナートがある。
 「プエルト・ラ・クルス」は、アンソアテギ州北部のカリブ海に面し、人口約45万人の港湾都市である。

■ 「ベネズエラ国営石油公社」( Petróleos de Venezuela, S.A.、略称PDVSA)は1976年に設立され、ベネズエラ政府が100%出資する石油会社で、日本ではベネズエラ国営石油会社あるいはベネズエラ石油公団とも表記される。
 設立以来、人事の政治化を排除し、政府から独立した合理的な経営が行われていたが、チャベス前大統領が就任後、PDVSA上層部の刷新や職員の大量解雇が実施されたことに加え、PDVSA総裁はエネルギー石油大臣の兼務となり、PDVSAに対する政府の関与が著しく強まった。また、社会開発事業へ資金を提供するなど国家財政に対する貢献の度合いも増し、食料、電力、セメントなど石油関連以外の子会社をその傘下に加えるなど、政府の一機関としての側面も強まっている。
 アンソアテギ州プエルト・ラ・クルスには、約20万バレル/日の製油所を有している。

所 感
■ 事故の状況は今ひとつはっきりしない。写真を含めた情報から推測すると、排水処理施設の貯油設備(小型タンクなど)に落雷があり、爆発を起こして火災になり、貯油設備から漏洩した油が貯水池に流れ込み、火災面が広がったものと思われる。このため、火災面積の大きな炎と黒煙が上がっている割に、火災は比較的短時間(約2時間)で鎮火へ向かったと思われる。もし、タンクの全面火災であれば、燃焼速度を30~60cm/h程度とすれば、液面高さ10mの場合、燃焼時間は16~33時間程度になる。一方、油が一気に燃焼し、輻射熱は相当大きなものになっていたので、まわりの施設、特に貯蔵タンクへの延焼の危険性は高かったと思われる。雨による冷却効果があったと思われるが、周辺施設への冷却放水が行われており、適切な対応だといえる。
 今回の事故で感じるのは、雷は必ずしも高い設備(例えば、貯蔵タンク)に落ちるとは限らず、排水処理施設のような設備への落雷がありうるということである。そして、貯水池へ油が漏れ、大きな油面火災になりうるということである。これまで想定したことのない火災が、現実には起こるということを認識させる事例である。 

■ ベネズエラ国営石油公社(PDVSA)の製油所では、2012年8月25日、ファルコン州のアムアイ製油所で死傷者を出すタンク爆発・火災事故、 2012年8月17日、ベネズエラ沖のカリブ海に浮かぶオランダ王国キュラソーで実質的にPDVSAが運営しているイスラ製油所での油漏洩による環境汚染事故、さらに、2012年9月19日、カラボボ州のエルパリト製油所における落雷によるタンク火災が起こっている。
 昨年の事故でも、ベネズエラのカラボボ州地域に過去30年間経験したこともないような雷を伴った嵐に襲われたと言われていたが、今年も、カリブ海の沿岸地方には、雷を伴う豪雨の異常な天候が続いている。しかし、天災が関与しているにしても、PDVSAの製油所で大きな事故が起こっているのは、組織や操業方針に問題があるという指摘を否定できないように感じる。



後 記: 今回もいろいろな情報を整理してみて、やっと推測できるような事故状況がわかりました。情報で感じたのは、ベネズエラ国営石油公社(というよりベネズエラの国)の組織がうまく機能していないと思われることです。ベネズエラ国営石油公社からの情報は広報担当からでなく、副総裁から断片的に出ていますし、果たして現地から正しい情報が流れているか疑問を感じます。また、大統領が、直接、現場のチームと連絡をとって、その情報を流しているのも違和感を感じるところです。(東京電力福島原発事故時と同様ですが) 
 ところで、今回も事故状況の写真が参考になりましたが、面白い(?)のは、中国の人民日報が、発災現場に近い写真を多く発信していることです。本事故は日本でも一部の報道機関が報じていますが、内容は海外メディアからの情報です。中国が世界に進出していることを感じますね。