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2022年7月23日土曜日

カナダのタンクターミナルで建設機械がタンクへ衝突し、堤内に漏洩

 今回は、202278日(金)、カナダのノバスコシア州シドニーにあるインペリアル・オイル社のタンク・ターミナルにあるガソリン貯蔵タンクに建設機械のフロントエンド・ローダーが衝突し、タンクが破損し、内部のガソリンが防油堤内に漏洩した事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、カナダ(Canada)のノバスコシア州(Nova Scotia)シドニー(Sydney)にあるインペリアル・オイル社(Imperial Oil)である。同社は石油製品の貯蔵・物流を行っており、エクソンモービルのガソリンスタンドに石油製品を卸している。

■ 事故があったのは、インペリアル・オイル社のタンク・ターミナルにあるガソリン貯蔵タンクである。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 202278日(金)午前1130分頃、タンク・ターミナルの貯蔵タンクから約60万リットル(600KL)のガソリンが漏洩した。

■ 発災に伴い約60名の消防隊と警察が出動した。

■ この漏洩事故によってデスバレス通り北側に位置する約60世帯の住民に避難勧告が出された。住民のひとりは、「家の玄関に警官が来て、石油が流出しているので、避難できますか、と尋ねられたので、私は、はい、1分で」と応え、外に出てきたという。警察によると、住民へ避難勧告をするために約1時間かかったという。また、近隣の道路は通行が制限された。

■ 消防署長は、「私たちは、住民を強制的に避難させたわけではありません。現在、私たちが対処している状況について彼らに助言し、避難することが住民にとって最善の策であることを伝えたことです。事態が悪化した場合、私たちは住民の地域に対応を広げる必要が出てきます」と語っていた。

■ 漏洩した油は、土盛り式の防油堤内に溜まった。タンク内に残ったガソリンは別なタンクへ移送し、漏洩油はポンプで汲み上げる予定である。同社によると、流出した油を除去するのに24時間かかると予想している。

■ 78日(金)の午後、J.A.ダグラス・マッカーディ・シドニー空港から泡消火剤を積んだ消防車が、オイルタンクの周囲に築いた土盛り堤内に消火泡を放出した。消防署長は、空港用特殊消防車が出動できたのは幸運だったと語っている。空港用特殊消防車は消火泡を継続的に放出して、漏れたガソリンのベーパー拡散を抑制し、ガソリンが引火する恐れを軽減した。しかし、泡は夜を通して崩壊されていくため、再度、適用する必要がある。

■ 避難した住民は78日(金)の午後7時に自宅に戻ることが許可された。

■ 79日(土)、インペリアル・オイル社は、貯蔵タンクから石油が漏洩したのは、建設機械のフロントエンド・ローダー(ホイールローダー)がタンクに衝突し、タンクが破損したためだと発表した。

■ 発災に伴う負傷者は報告されていない。

■ 火花対策として近隣地域の電気を遮断した。このため、下水処理場の排水ポンプが停止し、下水が未処理のまま流された。停電は徐々に復電しているという。  

■ インペリアル・オイル社は78日(金)から出荷を停止した。シドニーの一部ガソリンスタンドでは燃料不足が生じている。

被 害

■ ガソリン・タンクが1基損傷し、内部のガソリン600KLが構内に漏洩した。  

■ 負傷者はいなかった。

■ 近くの住民約60世帯が避難した。また、近くの道路が交通制限で閉鎖した。

< 事故の原因 >

■ 事故の原因は工事ミス(建設機械の操作ミス)である。建設機械のフロントエンド・ローダー(ホイールローダー)がタンクに衝突し、タンクが破損し、内部の油が漏洩した。

< 対 応 >

■ 防油堤内に漏洩した油の回収は79日(土)の夜に始まり、710日(日)朝に完了した。インペリアル・オイル社は、漏れた600KLのうちどれだけ回収できたか明確でないという。これは一部が封じ込め用の消火泡に吸収されたり、蒸発した可能性があるためである。なお、通常、現場で放出された油は土壌に浸透されていくが、封じ込めエリアは粘土と砂利の層があり、通常、漏れたガソリンが地中に入り込む可能性は低いということだった。

■ 711日(月)、漏洩した燃料が回収できたので、今度は浄化の作業工程に移るという。インペリアル・オイル社によれば、環境の観点からどのような影響があるのかを調べるために、環境保護の関係者を招聘している。23日の間に浄化計画がどのようなものであるかを把握できるという。

■ 711日(月)、インペリアル・オイル社は浄化計画についてノバスコシア州環境・気候変動の規制当局と現地で検討作業を行う予定である。

■ インペリアル・オイル社は発災後から環境大気モニタリングを行っており、711日(月)時点で地域住民の安全や健康へ懸念点は検出されていない状況である。

■ 消防署によると、消防当局は定期的にタンク・ターミナルを視察しているし、今回のような事故に備えて計画を立てているという。

■ シドニーはかつて製鉄所の進出によって“シドニー・タール・ポンド”(Sydney Tar Pond)と呼ばれた北米で最大の有毒廃棄物処分場で自然環境を汚染されるだけでなく、近くに住む人々に健康上の問題を引き起こしたところである。シドニーに長年住んでいる住民にとって、今回の漏洩事故に不信感をもっている人は多い。「78日金曜日の漏洩事故は、もっとひどい状態になっていたかもしれないという警告としてとらえるべきです。今回の事例はヒヤリハットですが、もっと大事故になっていたかもわかりません。もう十分です。施設はこのような場所にはふさわしくありません」と語っている。

補 足

■「カナダ」(Canada)は、北アメリカ大陸北部に位置し、10の州と3の準州からなる連邦立憲君主制国家で、人口約3,770万人である。首都はオタワで、米国と国境を接し、イギリス連邦加盟国である。

 「ノバスコシア州」(Nova Scotia)は、カナダ東部に位置し、大西洋沿いあり、人口約92万人の州である。

 「シドニー」(Sydney)は、カナダのノバスコシア州にある都市共同体で、ケープブレトン島の東海岸に位置し、人口約24,000人で、行政上はケープブレトン地域に属する。 シドニーの名前はシドニー男爵にちなんで付けられた。1904年に自治体となったが、1995年に解散され、ケープブレトン地域に併合された。市歴は古く、1820年に島がノバスコシアと統合されるまで、ケープブレトン島の首都として機能していた。人口は特にスコットランドからの多数の移民の流入により19世紀初頭に大幅に増加し、製鉄所が開設された後の20世紀初頭に増加した。

■「インペリアル・オイル社」(Imperial Oil)は、1880年に設立したカナダの統合石油会社である。原油、オイルサンド、天然ガスの生産者で、カナダに3つの製油所を有し、石油精製・石油化学製品の生産者・販売者である。なお、2016年にすべてのガソリンスタンドをエクソンモ-ビル社(ExxonMobil)に売却し、現在は卸売で石油製品を供給している。

■「発災タンク」は、ガソリンで北端にあるタンクと報じられているだけで、タンク仕様は分かっていない。グーグル・アースで調べると、直径は約14.5mの固定屋根式タンクである。高さを約12mとすれば、容量は約2,000KLとなる。漏洩した油が600KLであり、この相当液位は約3.6mである。

■「シドニー・タール・ポンド」(Sydney Tar Pond)は、ノバスコシア州のケープブレトン島にあるタール池には、カナダで最も汚染された場所のひとつとして知られている地域に、推定750,000トンの有毒な化学汚染物質が含有されていた。汚染物質は100年以上にわたって操業していたシドニー製鉄所から出たもので、シドニー郊外のシドニー湾に流れる川に流れ込んだ。汚染地域のクリーンアップに関しては多くの政治的論争があり、修復作業は遅れてしまった。クリーンアップ・プロジェクトが始まったのは1980年代になってからである。方法は池から汚染されたスラッジを燃やすための焼却炉を用いた。しかし、配管で有毒廃棄物を移送する計画だったが、うまく行かなかった。これに続いて、スラッジを安定させるために池にセメントを注いだ。2014年には、4億カナダドルの浄化が完了したといわれ、タール・ポンドは遊び場、スポーツ、ウォーキング施設のある公園になっている。


所 感

■ 事故は、建設機械のフロントエンド・ローダー(ホイールローダー)がタンクに衝突し、タンクが破損したためだと報じられているが、詳細は伝えられていない。通常、防油堤内に建設機械が入ることはなく、また入ったとしても危険物の入ったタンクのそばで作業を行う場合は細心の注意を払うはずである。タンクに孔が開くほど強い衝突だったとみられ、明らかに工事ミスであり、そのような作業を承認した管理ミスである。

■ 一方、発災後の対応は良好だと感じる。漏洩後、すぐに油回収を実施する計画であったようであるが、漏洩油面を泡で覆う方法を優先し、泡が不足すると判断して、空港用特殊消防車で対応したのは適切な判断だった。なお、感心したのは消防署・警察署の住民への避難勧告のやり方で、住民一人ひとりに配慮している。

■ 今回、火災や海上流出に至らなかったのは不幸中の幸いであった。 住民が語った“78日金曜日の漏洩事故は、もっとひどい状態になっていたかもしれないという警告としてとらえるべきだという意見は拝聴すべきである。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Cbc.ca, Front-end loader colliding with storage tank caused Sydney gas spill, company says,  July  09,  2022

    Cbc.ca, Gas spilled in Sydney fuel leak recovered, says Imperial Oil,  July  11,  2022

    Tankstoragemag.com, Punctured Imperial tank leaks 600,000 L of fuel,  July  11,  2022

    Atlantic.ctvnews.ca, 'No immediate danger': after 600,000 litres of gas leaks from Sydney Imperial Esso Station,  July  09,  2022

    Saltwire.com, 'We have to do something:' Fuel recovered from Cape Breton facility's gas leak, but incident rattles residents,  July  10,  2022

     Themoonlightersguide.com, Sydney evacuees return home after major gasoline spill at fuel depot,  July  10,  2022

     1015thehawk.com, No injuries after 600K in gas spilled at Imperial Oil plant in Sydney,  July  11,  2022

     Geotvnews.com, After the gas leak, untreated sewage was dumped in the port of Sydney.GTN News,  July  12,  2022

     Nsbuzz.ca,  600,000 Litres of Fuel Has Leaked At Sydney Imperial Esso Storage Facility,  July  09,  2022


後 記:  今回の事例は、建設機械がタンクに衝突し、タンクに孔が開くという通常起こらない事故です。メディアはこの点の深掘りについて意外に淡泊です。しかし、久しぶりに住民の声を取材した記事が多かったですね。新型コロナによってメディアが現地を取材しない傾向が続いていましたので、やっと元に戻ったという気がしました。そのおかげで、シドニー・タール・ポンドの環境汚染事例を知ることができました。日本の公害問題と同じような環境に配慮しないひどい事業所がカナダにもあったことを初めて知りました。

2022年7月16日土曜日

ナイジェリアのマトリックス社のLPG施設で爆発・火災、死傷者17名

 今回は、202278日(金)、アフリカのナイジェリアのデルタ州ウォーリ(Warri)にあるマトリックス・エナージー社のタンク・ターミナルにおいて石油液化ガス(LPG)施設が爆発して火災が起こり、死者5名と負傷者12名が出た事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 事故があったのは、アフリカのナイジェリア(Nigeria)デルタ州(Delta)ウォーリ(Warri)にあるマトリックス・エナージー社(Matrix Energy)である。

■ 発災があったのは、マトリックス・エナージー社のウォーリにあるタンク・ターミナルの石油液化ガス(LPG)施設である。


< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 202278日(金)午後725分頃、マトリックス・エナージー社のタンク・ターミナルにある石油液化ガス(LPG)施設で爆発があり、火災が発生した。

■ 爆発があった時、多くの建物で地響きがし、揺れたため、住民は安全を求めて外へ逃げ惑った。別な住民は複数回の爆発音を聞いたと語っている。

■ 発災に伴い、デルタ州消防局などの消防隊が出動した。

■ 爆発・火災は積込み作業中に起こったとみられる。現場は混乱していて戦場のようだったという。

■ 事故によって死者5名と負傷者12名が出た。負傷者12名は病院へ搬送され、入院した。亡くなった人のうち、ふたりはエフルン(Effurun)にある石油訓練校の学生だった。発災当時、ふたりはインターンとして現場で従事していた。

■ マトリックス・エナージー社は、79日(土)、声明を発表し、その中で、「202278日(土)1925分頃、ウォーリにあるLPG施設で火災が発生しました。発災後、私どもは緊急事態対処計画を発動するとともに、デルタ州消防局、ナイジェリア港湾局、ウォーリ製油所石油化学、ナイジェリアガス社、シェル石油開発の安全チームの支援を受け、火災を制御しました。今後、私どもは事故の直接原因と間接要因を明らかにするために調査を開始します」などと述べている。

被 害

■ 液化石油ガス(LPG)施設の設備が爆発と火災で損傷した。

■ 事故によって死者5名と負傷者12名が出た。

■ 近くの住民は自主的に避難したとみられる。

< 事故の原因 >

■ 事故の原因は調査中である。

< 対 応 >

■ 火災は午後1020分までに制圧されたという情報があるが、79日(土)の未明も火は残っており、消防隊が消火活動を行った。

■ 79日(土)午前中、州の石油・ガス担当委員らのデルタ州政府代表団が事故現場を視察した。

補 足

■「ナイジェリア」(Nigeria)は、正式にはナイジェリア連邦共和国で、西アフリカに位置し、アフリカのほぼ中央にあり、人口約21,100万人の連邦制共和国で、イギリスの連邦加盟国のひとつである。人口はアフリカ最大で、世界でも7位である。ナイジェリアは原油産出国であるが、違法な石油精製施設が作られ、危険な手順で精製されており、農地や河川に油流出によって汚染の問題が出ている。また、20224月には違法な精製施設が爆発し、多数の人が亡くなるという事故が起こっている。

「デルタ州」(Delta)は、ナイジェリアの南部に位置し、人口約470万人の州である。

「ウォーリ」(Warri)は、デルタ州の中部に位置し、人口約53万人の市である。

 なお、ナイジェリアの事故としては、つぎのような事例がある。

 ● 20146月、「ナイジェリアの石油ターミナルで落雷、タンク火災、その後油流出」

 ● 202011月、「ナイジェリアのラゴスでOVHエナージー社のガソリンタンク火災」

「マトリックス・エナージー社」(Matrix Energy)は、2004年に設立されたナイジェリアの石油企業で、石油の貯蔵・物流・販売を行っている会社で、近年、石油探査と生産に展開している。また、ナイジェリアはアフリカで最も液化石油ガス(LPG)の使用の低い国のひとつだったのに対してマトリックス・エナージー社は、2018年以降、LPG施設への投資を行っている。マトリックス・グループは、デルタ州ウォーリに4つの石油貯蔵施設を所有し、運営しており、合計容量は白物製品が150,000KLLPG5,000トンで、水深11m×全長224mの専用桟橋を備えている。


所 感

■ 今回の爆発・火災は積込み作業中に起こったとみられるという。例えば、例えば、2004年ドイツで起こった「タンクローリーの荷積み時、LPGが漏洩・火災」の事例のようなタンクローリー積込み作業時の設備不良や操作ミスによることが考えられる。

 一方、発災は従業員や作業員が少なくなると思われる午後725分頃に起こっている割に死傷者が17名も出ており、何らかの異常が発生して点検中に急変して爆発が起きたことも考えられる。また、被災後の現場写真では広範囲に設備が破損しており、発災時の火災写真では石油液化ガス(LPG)の多量漏洩によって起こった事故であるようにも見える。

■ 事業者は、「発災後、緊急事態対処計画を発動するととも・・・」とセオリーどおりに述べているが、事故時でもっとも把握すべき事項のひとつである人員の確認がおそまつである。本文では、事故によって死者5名と負傷者12名が出たと記載したが、当初の情報では負傷者無しであり、その後も死傷者の人数は報道によって異なっている。火災が消えた時間もはっきりせず、現場指揮所の対応は実際どのようなものだったか疑問の残る事例である。  


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Tankstoragemag.com, Fire at Delta State tank farm injures 12,  July  11,  2022

    Punchng.com, Two students die in Delta tank farm explosion,  July  11,  2022

    Businessday.ng, Explosion rocks Matrix Tank Farm in Warri,  July  09,  2022

    Ait.live, Fire guts tank farm in Ifiekporo, Warri South in Delta State,  July  09,  2022

    Dailypost.ng ,  Fear in Delta community as explosion rocks tank farm,  July  09,  2022

    Allafrica.com,  Nigeria: 5 Drown Fleeing Warri Tank Farm Explosion - 8 in Critical Condition,  July  12,  2022

    Sunnewsonline.com, 5 die in Delta tank farm explosion, divers recover,  July  12,  2022

    Nigerianobservernews.com, Multi-million Naira tank farm gutted by fire,  July  12,  2022

    Thenationonlineng.net, 12 injured in Delta tank farm fire,  July  09,  2022

    Ripplesnigeria.com, Three people feared dead as explosion rocks tank farm in Delta,  July  09,  2022

    Thisnigeria.com, Delta tank farm explosion: 12 people hospitalized, as Govt says no life lost in fire incident,  July  10,  2022

    News9ja.ng, Two Petroleum Institute Students Killed In Delta State Explosions As Colleagues Demand Justice,  July  13,  2022

    Leadership.ng, 2 Students Die In Delta Tank Explosion,  July  13,  2022

    Sunnewsonline.com, Delta: 12 hospitalised as Okowa sends delegation to explosion site ,  July  09,  2022


後 記:まだまだ新型コロナの影響は続いており、報道の質は上等とは言えないです。ということで、ナイジェリアの報道の自由度ランキング2022年を見てみましたら129位と良くない状況です。(ちなみに、日本71位、ロシア155位です) 今回の報道では、被災写真が少ないことです。明らかに事故とは関係のない写真が掲載されているメディアもありました。そのような中、6枚つづりの説明文なしの写真がありました。(下の写真参照)

被災状況の写真かと思い一枚ずつコピーしておきました。あとでよく見ると、同じ場所あたりを撮影しているようだということが分かり、貼り合わせてみたところ、被災状況が理解できるものになりました。これがブログの標題に使った合成写真です。なぜ、このような理解しづらい6枚つづりの写真にしたか分かりませんが、もっと被災状態がはっきりと分かる写真があるだろうと思っています。

 ところで、今回、採用しなかった被災写真の例を紹介しておきます。これも説明文なしで、本当に火災終盤の被災写真かも知れませんが、フェークとした訳は“勘” としかいいようがありません。


2022年7月11日月曜日

米国ルイジアナ州のIMTT社のオイルターミナルで火災、自衛消防隊で消火

  今回は、2022612日(日)、米国のルイジアナ州セントチャールズ教区のセントローズにあるインターナショナルマテックス・オイル・ターミナルにおいて石油燃料油配管マニホールドで火災があった事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、米国のルイジアナ州(Louisiana )セントチャールズ教区(St. Charles Parish)のセントローズ(St. Rose)にあるインターナショナルマテックス・オイル・ターミナル(International-Matex Tank Terminals LLCIMTT)である。貯蔵能力は1,630万バレル(259KL)である。

■ 事故があったのは、11842リバーロード(11842 River Road)沿いにあるオイル・ターミナルの施設である。施設は石油、植物油、アルコールなどの液体製品を貯蔵するために使用されている。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2022612日(日)の午後845分頃、オイル・ターミナルの石油燃料油配管マニホールドで火災が発生した。

■ 施設の自衛消防隊が消火活動を行って制圧し、午後930分頃、火災は鎮火した。

インターナショナル‐マテックス・オイル・ターミナル社(IMTT)によると、同社は工場火災に対応できるよう訓練された緊急対応チームを社内に持っているという。

■ 当局によると、インターナショナル‐マテックス・オイル・ターミナル社(IMTT)はすぐの従業員の安否を確認するとともに、緊急事態対応計画を発動させた。

■ セントチャールズ教区によると、同社は施設付近の大気環境をモニタリングしており、「火災による敷地外への影響はない」という。

■ セントチャールズ教区は、午後10時頃、セントローズのタンク・ターミナル施設で火災が発生したと警報を出した。

■ 発災に伴う負傷者はいなかった。

被 害

■ 石油燃料油配管マニホールドが火災によって焼損した。内部の石油が焼失した。 

■ 負傷者はいなかった。

< 事故の原因 >

■ 火災の原因は分かっておらず、調査中である。

< 対 応 >

■ この施設では、約2年前の20207月、ポンプピットで火災を起こしたことがある。このピットは、液体を地上貯蔵タンク間の移送を行うもので、このときも負傷者は発生しておらず、大気への影響も報告されていない。このときも午後2時頃に火災が発生したが、午後224分までに消火したという。

補 足

■「ルイジアナ州(Louisiana )は、米国南部に位置し、メキシコ湾岸にあり、テキサス州の隣にある人口約465万人の州である。 州都はバトンルージュ、最大の都市はニューオーリンズである。

「セントチャールズ教区」( St. Charles Parish)は、ミシシッピ川の東岸に沿った地域で、もともと1720年代に多くのドイツ人開拓者が定住していたが、 1803年に米国がルイジアナ買収を行った後、1807年に設立された。

「セントローズ(St. Rose)」は、セントチャールズ教区にある国勢調査指定地域(CDP)で、人口約7,500人の町である。

■「International-Matex Tank Terminals LLCIMTT)は、バルク液体貯蔵ターミナル施設を所有し、運営している。 IMTTは、石油製品、植物油および熱帯油、再生可能燃料、およびさまざまな化学物質を保管および取り扱い、精製業者、商品取引業者、およびタンクリースサービスを提供している。IMTTは北米で運営されている。もとは1939年に設立された輸送と貯蔵会社を2020年にIMTTが買収し、操業を行っている。20213月の時点で、ルイジアナ州には約220人の従業員がいる。

 セントローズの施設には、207基の貯蔵タンクがあり、最小は150,000リットル(150KL)、最大は500,000 バレル(79,500KL)で、総容量は1,630万バレル (259KL)である。

所 感

■ インターナショナル‐マテックス・オイル・ターミナル(IMTT)は、米国のタンク・ターミナルではめずらしく自衛消防隊を有している。ルイジアナ州では、「米国ルイジアナ州における消防活動の相互応援の歩み」20163月)で紹介したように消防活動に積極的な州である。もともと、インターナショナルマテックス・オイル・ターミナル(IMTT)の前身の会社が1939年創立と歴史があり、当時としては公的消防の消防資機材がタンク基地にとっては貧弱だったのかもしれない。発災直後に従業員数の確認や緊急事態対応計画の発動など基本に沿った活動を行っているようだ。比較的短時間で消火に至っており、運転操作や活動は適切に行われたのだろう。

■ 発災は石油燃料油配管マニホールドで起こったとしか報じられていないので、詳細は分からないが、発災時と思われる写真があり、煙が高く上がっており、小さな爆発が起こったとみられる。配管接続部の破損または漏洩ではなかろうか。偶然かも知れないが、インターナショナル‐マテックス・オイル・ターミナル(IMTT)にタンク・ターミナルが買収された2年前からメディアで報じられるような事故は2回目である。組織が変わると、従業員の人材や心に変化が出てくることがあり、運営体制に留意の必要なことがある。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

     Nola.com,  Fire damages petroleum oil storage facility in St. Rose; no injuries reported, June 13, 2022

     Tankstoragemag.com,  IMTT St Rose suffers fire,  June  17,  2022

     Lobservateur.com, St. Charles Parish statement regarding fire at St. Rose tank terminal facility, June 13, 2022

     Brproud.com, St. Charles Parish: Fire put out at tank terminal facility, no injuries reported, June 13, 2022

     Wdsu.com, St. Charles parish officials confirm fire out at refinery in St. Rose, June 13, 2022


後 記:  新型コロナ発生以降、この種のローカルの事故の報道はほとんど無かったと感じています。このような報道をメディアがしてくるということは、世の中が安定してきたのでしょうか。 米国では、新型コロナの感染者数は日本のように毎日記事にされていないようです。それではコロナが収束したかといえば、そうではなく、まだ1日あたり10万人レベルの感染者が出ています。多くの人はワクチンを打ったことがあるし、インフルエンザと同じだと慣れてしまっているのでしょう。

2022年7月6日水曜日

千葉県君津市の日本製鉄でコークス炉の脱硫液タンクから構外に流出

 今回は、2022618日(土)、千葉県君津市にある日本製鉄()の日本製鉄東日本製鉄所にあるコークス炉で発生したガスの洗浄で使用する脱硫液のタンクが開孔し、内部の流体が漏洩し、さらに排水口を通じて構外の水路や河川に流出した事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、千葉県君津市にある日本製鉄()の日本製鉄東日本製鉄所である。

■ 事故があったのは、日本製鉄東日本製鉄所君津地区にあるコークス炉で発生したガスの洗浄で使用する脱硫液のタンクである。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2022618日(土)午後5時頃、日本製鉄東日本製鉄所君津地区でコークス炉で発生したガスの洗浄で使用する脱硫液のタンクに孔が開き、内部の液が漏洩する事故が起きた。

■ 脱硫液はさらに排水溝を通って敷地外に流出し、水路を経て近くの小糸川に流入したとみられる。

■ 市消防本部によると、619日(日)正午頃、付近住民から「川の水が赤い。魚が死んでいる」と通報があった。その後、午後230分頃、日本製鉄から君津市に「設備のトラブルで通常、排出しないものが排水口から出た」と連絡があった。消防が現場を確認したところ、国道16号沿いの水路が約2.7kmにわたって赤茶色になり、魚が死んで浮いていた。

■ 魚の死骸が多数確認され、君津市は、小糸川の人見大橋から下流の魚について触ったり食べたりしないよう注意を呼びかけた。

■ 千葉県(環境生活部水質保全課)によると、脱硫液のタンクには約3,000KLの液が入っていたが、タンクに孔が開き、敷地内に漏れ、さらに排水口から敷地外の水路に流れたとみられる。タンクからの漏洩量や構外への流出量は分かっていない。

■ 脱硫液に含有される主な成分はチオシアン酸アンモニウムなどのアンモニア化合物である。脱硫液は、石炭をコークス炉で蒸し焼きにしたときに発生するガスから硫黄分を除去するための液で、八割は水だが、鉄と反応すると赤くなるチオシアン酸アンモニウムを含む。

■ 日本製鉄によると、タンクからの漏れが分かった618日(土)で、最も近い排水口1か所を遮断した。

ところが、619日(日)以降、別の排水口2か所からも漏れていたことが分かったという。結局、脱硫液は3カ所の排水口から敷地外に流出していた。

■ 小糸川と水路は生活用水として利用されておらず、健康被害は確認されていない。脱硫液は小糸川を通じて東京湾へ流れ込んだ可能性が高いと見られている。小糸川河口付近には、釣り場があり、釣りを楽しむ人や釣った魚を持ち帰る人もいるという。

■ 622日(水)は変色はなくなった。製鉄所周辺の水路は、619日(日)から約3日間にわたって水が赤く変色していたとみられる。

■ 千葉県によると液体は濃度が比較的低いため、人体に大きな影響はないとしている。君津市は、当面の間、新富水路や小糸川河口付近には近寄らず、人見大橋(通称:亀橋)よりも下流で獲れた魚を触ったり、食べたりしないよう注意喚起を行っている。隣町の木更津市では、魚の死がいに触らない、釣った魚を食べない、釣りや川遊びを自粛するなどの対策(自己防衛)が必要であると発表している。

被 害

■ 脱硫液のタンクに孔が開き、内部の液が漏洩した。

■ 脱硫液が排水口を通じて構外の水路や川に流出した。脱硫液に含まれるチオシアン酸アンモニウムによって水路や川が赤茶色に変色するとともに多くの魚が死んだ。魚が死んだのは、脱硫液の流出で一時的に水路や川のアンモニア濃度が高まったことが原因の可能性があるという。

■ 健康被害を訴える人はいなかった。

< 事故の原因 >

■ 脱硫液のタンクに孔が開いた原因は調査中である。

■ 事業所内の排水口から、本来あるべきでないシアンが検出された原因は調査中である。 

< 対 応 >

■ 日本製鉄東日本製鉄所は、622日(水)、「住民の皆さまに心配とご迷惑をおかけしたことを重く受け止めています。千葉県の指導のもと原因究明を進め、再発防止を図りたい」と語った。

■ 日本製鉄は、624日(金)、「東日本製鉄所君津地区における着色水の構外への流出について」という声明文を発表した。発生の経緯はつぎのとおりだという。

 ● 618()午後5時時頃、コークス炉で発生したガスの洗浄で生じる脱硫液のタンク (発生当時の在庫 約3,000 KL)より漏洩が発生、#10排水口系統に流入していたため遮断ゲートを閉弁。

 ● 619()午後1時頃、#14排水口より脱硫液を含んだ赤色の着色水が構外へ流出していたことを確認したため、遮断ゲートを閉弁し、木更津海上保安署に通報し、千葉県・君津市・木 更津市・富津市に報告した。

 ● 620()正午頃、#11排水口より脱硫液を含んだ赤色の着色水が構外へ流出していたことを確認したため、木更津海上保安署に通報し、その後、関係行政機関に報告した。

■ 622日(水)、千葉県(水質保全課)は、「小糸川等における着色水について」と題して「君津市の小糸川、日本製鉄株式会社東日本製鉄所君津地区の南側水路、水路と小糸川の合流部から河口周辺において、619日から水の変色や魚のへい死が確認されている。分析結果が判明し、安全が確認されるまでの間、念のため、水路および水路と小糸川の合流部(人見橋から君津大橋の間)の水を飲んだり、この場所で釣った魚を食べないように注意する」旨の状況をウェブサイトで発表した。

■ 日本製鉄は、 621日(火)と622()に排水口付近から採取したサンプルの水質分析結果が623()に判明し、シアンを含む一部項目に関して環境規制値を超える結果を確認した。環境規制値を超えたのはシアン、化学的酸素要求量(COD)、全窒素(T-N)、アンモニアの4項目である。このうち毒性の強いシアンは、基準値(不検出)を上回る1リットル当たり0.30.6mgを2か所で検出した。


■ 日本製鉄によって623日(木)に採取したサンプルでは、シアンは検出されなかった。623日(木)と624日(金)の水質分析項目は上記のとおりで、624日(金)時点では大半が分析中で結果が出ていない。

■ 日本製鉄の624日(金)時点での対応状況はつぎのとおりである。

 ● 脱硫液のタンクからの漏洩原因、着色水の構外への流出原因、シアンが検出された原因について調査を行っている。

 ● 排水流出防止措置を強化し(排水口遮断の二重化など)、構外への流出防止に努めている。

 ● 東日本製鉄所君津地区の全ての排水口付近や小糸川合流地点の水質分析、周辺環境の観 察を継続して実施している。

■ 千葉県は、東日本製鉄所君津地区に対して水質汚濁防止法に基づいて原因究明などを行政指導するとともに、周辺の環境への影響などを調べている。シアンは水質汚濁防止法の規制対象で、環境基準は不検出である。

■ 629日(水)、千葉県は、現時点で環境基準を超えるシアンは確認されていないと発表した。県は小糸川など周辺水域の水質を分析していた。また、これまでに健康被害は報告されていないという。県は日本製鉄に対し再発防止の目途が立つまでは水質分析を続けるとしている。

■ 73日(日)、千葉県は、日本製鉄東日本製鉄所君津地区の東京湾に面した排水口(#7排水口)付近から、基準値を超えるシアンなどの有害物質が検出されたと発表した。 この事業所では618日に着色水が川に流れ出て、シアンなどが検出されているが、これとは別な排水口である。千葉県は、事業所で排水の処理施設が故障した影響で、先月30日と今月1日に基準値を最大で5倍を超えるシアンが東京湾に面する排水口で検出されたという。この排水口は高炉の集じん関連設備の排水ルートからのもので、脱硫液タンクからの流出とは異なる。日本製鉄は、集じん関連設備の使用を直ちに止め、発生原因を調査中である。


■ 千葉県は工場周辺の水路に毒性の強いシアンが含まれている可能性を621日(火)には把握していたことが判明した。最終的にシアン検出を公表したのは、それから8日後の629日(水)だった。シアンは人体に悪影響を与える恐れのある物質である。千葉県は検出値を「希釈されれば、直ちに健康に影響はない」としているが、住民への情報公開のあり方が問われている。

 千葉県は、620日(月)に工場周辺の水路で水を採取し、翌621日(火)に解析結果の速報値が出て、環境基準(不検出)を超える1リットル当たり0.2mgのシアンが検出されたことを把握していた。627日(月)に判明した確定値でも数値は変わらず、千葉県は629日(水)に公表した。

 千葉県は、この間、621日(火)~22日(水)に君津市と木更津市へ速報値の段階でシアンが検出されたことを伝え、注意喚起を依頼した。ただ、「取り扱いに注意してほしい」と念押しし、自ら公表はしなかった。

 県は今回の対応を「適切だった」としている。千葉県知事は630日(木)の定例記者会見で、「事業所の排水口付近で(21日時点では)シアンが検出されず、検出地点との因果関係が不明だった。事業者からはシアンが含まれていないという報告を受けていた。こうした観点から公表には及ばないと判断した」と説明した。

■ 脱硫液が流出後、工場周辺の水からシアンの検出が相次ぎ、関係者の間に戸惑いが広がっている。脱硫液はチオシアン酸アンモニウムであるが、水質検査ではシアンが検出されないはずである。千葉県や日本製鉄の水質調査では、これまでに工場周辺と排水口の4か所の水から1リットルあたり0.20.6mgを検出している。

 このうち、原因が推定できているのは、東京湾に面した敷地北側の排水口(#7排水口)の1か所だけだ。高炉の排ガスからシアンなどの有害物質を除去する施設が近くにあり、処理過程でトラブルが起きていたという。一方、他の3か所については理由が分からないままだ。いずれも脱硫液の流出経路にあたる場所だが、このため日本製鉄は、脱硫液が流出する過程でシアンが混入した可能性もあるとみている。

補 足

■「千葉県」は、日本の関東地方に位置し、人口約628万人の県である。

「君津市」は、千葉県南部に位置し、人口約80,600人の市である。君津市を流れる小糸川は、上流にヘラ釣りの聖地・三島湖がある。

■「日本製鉄東日本製鉄所」は日本製鉄()における製鉄所の総称で、20204月に鹿島製鉄所、君津製鉄所、直江津製造所、釜石製鉄所を統合して発足した。20224月に釜石地区を分離し、室蘭製鉄所と統合して北日本製鉄所とした。日本製鉄東日本製鉄所は、現在、鹿島地区、君津地区、直江津地区の3箇所に分かれている。

「日本製鉄東日本製鉄所君津地区」は、木更津港に面する千葉県君津市君津1番地にあり、君津地区の敷地面積は約1,173m2で、一部が隣の木更津市にあるが、工場の大半は君津市内にあり、高炉を2基有している。

■「コークス炉ガス」は、高炉用のコークス製造過程においてコークス炉から発生する副生ガスである。 主に製鉄所やコークス工場内で自家消費燃料として使用されている。コークス炉ガスには、いろいろな不純物などが含まれているため、燃料として利用される 前に精製処理される。特に、SOx の発生源とな る硫黄分(硫化水素)を除去するコークス炉ガス脱硫設備は、環境保護の観点から重要性が増している。

■「発災タンク」(脱硫液のタンク)はどのようなものか報じられておらず、不明である。コークス炉ガス脱硫設備のフローをみると、酸化塔ではないだろうか。容量が3,000KLであると報じられているので、直径約18m×高さ12m程度のかなり大きなタンクである。

■「チオシアン酸アンモニウム」は、別名ロダン化アンモニウムで、化学式NH4SCNで表される化合物で、除草剤、マッチ、合成樹脂の製造原料のほか防錆や繊維の染色にも用いられるが、コークス炉で石炭を燃やした際に発生するガスから硫黄分を取り除く液体の主成分でもある。チオシアン酸アンモニウムは、室温では安定な無色、比重は1.3、融点139℃、水やエタノールなどに溶けやすく、水溶液は 鉄と反応して血赤色になる。飲み込むと有害で、吸入した場合に気分が悪い時は、医師の診断・手当てを受ける必要がある。皮膚に付着した場合、水と石鹸で洗わなければならない。

 漏出時の措置としては、保護具を装着し、全ての方向に適切な距離を漏洩区域として隔離する。環境中に放出してはならないが、回収・中和漏洩物を掃き集めて空容器に回収し、後で廃棄処理する。チオシアン酸アンモニウム水溶液への浸漬試験では、腐食反応により水素が発生し,チオシアン酸イオ ンの触媒毒の効果で鋼材に水素を容易に吸蔵することが でき、金属表面の粗さが増加して腐食物の生成が確認されている。適用法令としては、労働安全衛生法、毒物・劇物取締法、消防法などには非該当で、唯一、水質汚濁防止法(有害物質;アンモニウム化合物、②生活環境項目;水素イオン濃度)に該当する。

所 感

■ 本事例は、流出原因がわからず、構外への流出判明も遅れており、いろいろ疑問点があるが、2つに区分して列記する。

 1. 618日(土)タンクからの漏洩確認~619日(日)水路への流出確認まで

   ● タンクの開孔で内液3,000KLの推定漏洩量はどの程度と見込んだか。

   ● 過去のタンク検査はどのような結果か。

   ● 内液を別なタンクなどに移送したと思うが、この措置にとらわれ過ぎ、構外流出に気がつかなかったのではないか。

   ● ♯10排水口の遮断弁閉止だけでなぜ良いと判断したか。

   ● 構外へ流出していないことをなぜ目視で確認しなかったか。

 2619日(日)水路への流出確認以降

   ● ♯14の排水口の遮断弁の閉止だけでなぜ良いと判断したか。

   ● 618日~19日に構外へ流出した液量をなぜ推定していないか。(流出対策の対応に必要)

   ● 619日の市消防による水路の赤茶色変色や魚の死がいの確認以降、千葉県はどのような対応をしたか。(なぜ619日に水のサンプルを採取せず、620日に延ばしたか)

   ● 621日時点で千葉県は水質検査の中間結果でシアンを確認した以降、どのような対応をしたか。  

   ● 事業所の水のサンプル採取が621日と622日と遅れたのはなぜか。

   ● 水質検査結果(シアン確認)が脱硫液流出と関係していないことを明確に公表しなかったのはなぜか。(事業所、千葉県)    

■ 今回の事例は、前回の「山口県の下関バイオマス発電所の焼却灰タンクで人身事故」20226月)と同様、事故や対応を適切に行うには、つぎの3つの要素が重要である。今回の場合、土曜・日曜が重なっているとはいえ、事業所と千葉県の各担当部署ごとに問題がなかったかを考える必要があるように思う。

 ① ルールを正しく守る

 ② 危険予知活動を活発に行う

 ③ 報連相(報告・連絡・相談)を行い、情報を共有化する


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。   

      Asahi.com,  日本製鉄の敷地から脱硫液が流出 付近で魚が大量死、原因を調査へ,  June  22,  2022

      Nipponsteel.com,  東日本製鉄所君津地区における着色水の構外への流出について,  June  24,  2022

      Tokyo-np.co.jp,  小糸川に「脱硫液」流出 君津の製鉄所 下流域へ注意呼びかけ,  June  24,  2022

      Mainichi.jp,  製鉄所から脱硫液流出 周辺水路で魚大量死 君津/千葉,  June  24,  2022

      News.yahoo.co.jp,  製鉄所の敷地外に「脱硫液」流出 水路・川赤く染まり魚死ぬ 千葉・君津,  June  24,  2022

      News.goo.ne.jp,  製鉄所の水路に「赤い処理水」流出、3キロ先の川まで水が変色魚が大量死,  June  23,  2022

      Nhk.or.jp,  君津 水路で魚大量死 製鉄所から化学物質含む液体流出,  June  22,  2022

      Anzendaiichi.blog.shinobi.jp,  2022618日 千葉県君津市の日本製鉄でコークス炉ガス洗浄用の脱硫液タンクに穴が開き、30003が漏れて一部が水路に流出、水路を3日にわたり赤く染め沢山の魚が死ぬ(修正1),  June  26,  2022

     News.yahoo.co.jp,  日本製鉄の敷地外に脱硫液漏出 有害物質シアンを検出,  June  25,  2022

     News.yahoo.co.jp,  日鉄、製鉄所から毒物流出 環境基準超える 千葉・君津,  June  24,  2022

     Mainichi.jp,  日本製鉄の製鉄所から脱硫液流出 水路の魚が大量死 千葉・君津,  June  22,  2022

     News.yahoo.co.jp,  千葉県君津市の小糸川の水が赤く変色 現時点で「シアン」不検出,  June  30,  2022

     Excite.co.jp,  千葉県君津市小糸川の水が変色 死んだ魚も確認される 釣り人は釣った魚を食べないよう注意,  June  23,  2022

     Kisarazu-prime.com,  君津市人見の小糸川に化学物質が流れ出しました。,  June  29,  2022

     City.kimitsu.lg.jp,  小糸川の着色水に関するお知らせ,  June  22July 01,  2022

     Pref.chiba.lg.jp,  小糸川等における着色水について,  June  22 July 01,  2022

     News.yahoo.co.jp,  日本製鉄工場から東京湾にも... 基準値超えシアンなど検出,  July 04,  2022

     News.yahoo.co.jp,  千葉・君津市の製鉄所 有害物質「シアン」検出,  July 04,  2022

     News.yahoo.co.jp,  日本製鉄の工場からまた有害物質が流出 基準値の最大5倍超える「シアン」を検出 千葉・君津市,  July 04,  2022

     Mainichi.jp,  深まる謎 日鉄シアン検出、流出源は複数か 千葉・君津,  July 04,  2022

     Xtech.nikkei.com,  日鉄の君津地区でシアンなどの排出基準超過、6月の着色水流出とは別,  July  05,  2022

    News.nifty.com,  千葉県、21日に「シアン含有の可能性」把握 日本製鉄工場流出,  July 01,  2022


後 記: 今回の事故について6月中に出された報道や公式発表を読んでいって、ふと「重厚長大型の基幹産業」、「特権意識」という今の時代にそぐわない言葉が浮かびました。なぜだろうと考えましたが、河川や水路が赤くなったというのに、住んでいる人の声が無いからです。発災があってから4日経っており、ニュースでなくキュース(旧のニュース)なので、もう終わったことという関心の無さが感じられました。深掘りの無い事故報道だなと感じていたら、7月に入って別な排水口からシアンが海に流出していたという報道や千葉県は早くからシアン流出を把握していたという報道が出てきました。それまでもやもやしていたのですが、やはり裏が隠されていたのだと分かり、なにやら終わりのない事例になりそうです。