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2015年5月28日木曜日

米国テキサス州で相次ぐ落雷によるタンク火災

 今回は、米国テキサス州で相次いで起った落雷によるタンク爆発・火災事故3件を紹介します。
 ① 2015年5月6日、「米国テキサス州バールソン郡で落雷による油井用タンク火災」
 ② 2015年5月7日、「米国テキサス州グレイソン郡で落雷による油井関連のタンク火災」
 ③ 2015年5月13日、「米国テキサス州ニュエセス郡で落雷による石油タンク火災」
テキサス州の郡
(写真はKBTX.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 発災施設はテキサス州バールソン郡ディーンビルにある油井施設である。施設はクレイトン・ウィリアムズ・エナージー社(Clayton Williams Energy Inc.)が所有し、ディーンビルの農道111号線と郡道116号線の交差点近くにあった。同社は、原油・天然ガスの探査と生産を行っている独立系石油企業で、主にテキサス州、ニューメキシコ州、ルイジアナ州において事業を展開している。

■ 発災したタンクは、原油貯蔵用のコーンルーフ式固定屋根タンクだった。
落雷のあったクレイトン・ウィリアムズ・エナージー社の油井施設 付近
(写真はグーグルマップから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2015年5月6日(水)未明、バールソン郡ディーンビルにある油井用施設に落雷があり、タンクが爆発し、火災となった。

■ ディーンビルに住むパム・ジンマーハンゼルさんは、「雷が落ちるのを聞いて、うぁー、これは近くだと思いました」と語り、一体何が起ったのかわからなかったという。

■ 発災施設からは炎と黒煙が空高く舞い上がった。施設のある農道111号線と郡道116号線の交差点の近くにある現場に到着した消防隊の隊員は、油井用の貯蔵タンクに落雷があったと直感した。早朝だったこともあり、消防隊は火災の制圧に苦労した。

■ 貯蔵タンク1基が噴き飛び、200ヤード(180m)離れたところに落下しており、爆発がいかに強力だったかを示していた。落ちたところは道路であったが、幸い負傷者は出なかった。

■ バールソン郡緊急事態管理部署コーディネーターのデビット・バグレー氏によると、タンクが爆発したのは、貯蔵タンク内のガスが拡散していたためで、このような状態になったタンクまわりは非常に危険だったであろうと語っている。

■ コールドウェル消防署のデビット・ピーブハウス署長によると、タンクが熱せられ、マンホールのゴム製ガスケットが燃え始め、内圧によって液が外へ漏れ始めたという。

■ 火災は数時間にわたって燃え続け、午前9時頃に消防隊によって制圧された。
                 燃え上がるタンク施設 (道路上に見えるのが爆発で飛んだタンク)
 (写真はKBTX.com から引用)
被 害
■ 事故に伴う負傷者は無かった。また、避難すべき住民もいなかった。 

■ 施設にあった5基のタンクが被災した。爆発で噴き飛んだタンクは損壊した。どのくらいの原油量があったか分からないが、各タンクの容量はおよそ400バレル(63KL)なので、これから推定できるとバールソン郡緊急事態管理部署バグレー氏は語っている。

< 事故の原因 >
■ 油井用の原油貯蔵タンクに落雷があり、可燃性ガスに引火して爆発を起こしたものである。

< 対 応 >
■ 火災発生に伴い、ディーンビル消防署、コールドウェル消防署、サマービル消防署が出動した。

■ 未明だったこともあり、消防隊は火災の制圧に苦労した。コールドウェル消防署ピーブハウス署長によると、原油火災用の特別な消火泡剤を別な消防署から持って来なければならなかったという。

■ 消防隊は午前9時頃に火災の制圧に成功した。

■ 消防署のほかに関係機関の担当者が現場に派遣された。

■ バールソン郡緊急事態管理部署のバグレー氏は、住民の避難指示を出す必要はなかったと語った。

■ 火災が鎮火した後、油井の操業を再開するため、油井従事者は被災状況の確認を始めた。噴き飛んだタンクの交換用タンクが手配され、すでに現場に到着した。
(写真はKBTX.com から引用)
           消火泡を使用して制圧に成功した消防活動   (写真はKBTX.com から引用)
爆発で噴き飛んだタンク (道路端に落下)
  (写真はKBTX.com から引用)
                  鎮火後のタンク施設    (写真はKBTX.com から引用)
             運び込まれる交換用タンク    (写真はKBTX.com から引用)
補 足
■  「テキサス州」は米国南部にあり、メキシコと国境を接している州で、人口は約2,510万人と全米第2位である。「バールソン郡」(Burleson County)は、テキサス州の中央部東に位置し、人口は約17,000人の郡である。郡庁所在地は、今回の火災事故に消防署が出動したコールドウェル市である。
 「ディーンビル」(Deanville)は郡庁所在地コールドウェル市の西南に隣接する町である。

■ 「落雷のあったタンク」の容量は約63KLという情報がある以外、詳細はわかっていない。グーグルマップによれば、直径は約4mであり、高さ7mと仮定すれば、容量は80KL級となる。一方、噴き飛んだ距離は180mとなっているが、グーグルマップから推定すると約130~140mとみられる。なお、5基あったタンクの残り4基は外観こそ大きく損壊していないが、プール火災による損傷を受けていると思われる。
発災の油井タンク施設 (タンクは矢印のように噴き飛び、距離は130140mとみられる)
(写真はグーグルマップから引用)

(写真はKxii.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 発災施設はテキサス州グレイソン郡ホワイツボロ郊外にある油井関連施設である。施設のあるエリアには、水圧破砕法で回収された塩水を地下へ戻す注入井がある。施設の所有者はシルバー・クリーク・オイル&ガス社(Silver Creek Oil & Gas LLC)である。同社は、2012年創業の原油・天然ガス探査・生産を行なう独立系石油企業で、主にテキサス州、オクラホマ州を中心に事業を展開している。

■ 発災タンクは、油混じりの塩水を保管するためのもので、グラスファイバー製だった。
グレイソン郡ホワイツボロ郊外の油井関連施設付近
(写真はグーグルマップから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2015年5月7日(木)午後7時少し前、グレイソン郡ホワイツボロ郊外にある油井関連施設のタンクに落雷があり、タンクが爆発し、火災となった。

■ 施設はハイウェイ377号線から東に入ったスカボロー通り沿いにあった。数基のタンクで爆発が起こり、大きな火災となった。タンクは火炎と黒煙で包まれた。タンク火災の黒煙は遠いところからも見えたという。

■ グレイソン郡消防保安官のケビン・ウォルトンさんによると、施設内のグラスファイバー製タンクに雷が落ちた際、タンクが破裂し、火災が始まったという。

■ 施設はまわりが空地の広い場所にあったため、火災は施設外へ拡大することはなかった。消防保安官のウォルトンさんによると、施設の損傷は甚だしく、その日のうちにタンクの内液はほとんど出てしまったという。施設には何も残っていない状況になった。全タンクが無くなってしまい、残ったのは防油堤エリアだけだったとウォルトンさんは語っている。

■ 火災は5月8日(金)朝に消防隊によって消火された。
(写真はKxii.com から引用)
被 害
■ 事故に伴う負傷者は無かった。また、住民の避難を要することも無かった。 

■ 施設には8基のタンクがあったが、火災によってほとんど壊滅的な状況に至った。

< 事故の原因 >
■ グラスファイバー製の油混じり塩水タンクに落雷があり、可燃性ガスに引火して爆発を起こしたものである。

< 対 応 >
■ 火災発生に伴い、グレイトン郡消防のほか、近隣から応援の消防署が出動した。

■ 消防隊は、激しい雨と雷という厳しい天候の中で、火災と戦った。夜中は大雨による洪水のような水の流れで近づくこともできなかったが、5月8日(金)の朝になってようやく消防隊はタンク火災を消火した。
 (写真はKxii.com から引用)
(写真はKxii.com から引用)
(写真はKxii.com から引用)
補 足
■  「グレイソン郡」(Grayson County)は、テキサス州北東部に位置し、人口は約12万人の郡である。
 「ホワイツボロ」(Whitesboro)はグレイソン郡の西に位置し、人口約4,800人の町である。

■ 発災の油井関連施設のタンク仕様はわかっていない。発災施設とみられる場所のグーグルマップによれば、タンクは8基ある。直径は約4mであり、高さを6mと仮定すると、容量70KL級である。落雷のあったタンクはグラスファイバー製であるが、8基すべてがグラスファイバー製かどうかはわからない。(明らかに黒いタンク4基はグラスファイバー製であるが、4基は白っぽい色をしている。また、鎮火後の写真をみると、外形をとどめているタンクもみられる)
                      発災場所とみられる石油タンク施設   (写真はグーグルマップから引用)


(写真はKRISTV.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 発災施設はテキサス州ニュエセス郡バンケットにある石油タンク施設である。施設はバンケットの北方で農道666号線と郡道44号線の交差点近くにある。

■ 発災したタンクは、原油貯蔵用のコーンルーフ式固定屋根タンクだった。
ニュエセス郡バンケットの石油タンク施設付近
(写真はグーグルマップから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2015年5月13日(水)午前8時30分過ぎ、ニュエセス郡バンケットの北にある石油タンク施設に落雷があり、タンクが爆発し、火災となった。当日の朝は雷を伴う嵐だった。

■ 施設はバンケットの農道666号線と郡道44号線沿いにあった。近くには住民の家が何軒かあった。爆発後に起ったタンク火災の黒煙は遠いところからも見えたという。

■ 近くにいた作業員によると、タンクに雷が落ちて爆発が起き、その結果、大きな火災になったという。

■ 発災に伴い、消防隊が出動し、タンクの火災現場へ到着した。炎は分刻みで大きくなっていった。 消防隊は、石油タンクへつながるバルブを探し、閉止して火災の燃焼を止めようと試みた。

被 害
■ 事故に伴う負傷者は無かった。 

■ 施設には10基のタンクがあったが、被災状況はわかっていない。

< 事故の原因 >
■ 石油貯蔵タンクに落雷があり、可燃性ガスに引火して爆発を起こしたものである。

< 対 応 >
■ 火災発生に伴い、消防署が出動したが、消火活動はわかっていない。
(写真はKRISTV.com から引用)
補 足
■  「ニュエセス郡」(Nueces County)は、テキサス州南部に位置し、人口は約35万人の郡である。郡庁所在地はコーパスクリスティ市である。
 「バンケット」(Banquete)は郡庁所在地コーパスクリスティ市の西方に位置する町である。

■ 発災の石油タンク施設の仕様はわかっていない。原油または天然ガスの油井関連と思われる。発災施設とみられる場所のグーグルマップによれば、タンクは10基ある。直径約4m×8基、直径4.8m×2基で、高さを推定して算出すると、直径約4mのタンクは容量70KL級、直径4.8mのタンクの1基は140KL級、もう1基は70KL級とみられる。
                    発災場所とみられる石油タンク施設   (写真はグーグルマップから引用)
発災場所とみられる石油タンク施設
(写真はグーグルマップ・ストリートビューから引用)
所 感
■ 今回の3件の事故をみて感じることは、本当に米国では、落雷によるタンク火災事故がめずらしくないということである。先月4月17日に起った「米国コロラド州で天然ガス生産関連施設に落雷してタンク火災」を紹介した中で、油井の塩水処理施設におけるタンク爆発・火災事故が再発するのは必至だと感じる所感を述べたが、今回の事故対応をみると、米国における認識は別なところにあると感じた。
 それは、油井の原油貯蔵タンクや塩水処理施設の油混じり塩水タンクは、落雷などで火災事故の起こることは想定内ということである。戦略思考の強い米国では、原油・天然ガスの生産に関してもつぎのような戦略思考で物事を考えていると思われる。
 ● 原油・天然ガス生産の戦略は、生産量を増やすことであり、このため広範囲で多数の油井を確保する。
 ● この戦略を遂行するための兵站(へいたん)業務を充実させる。
 ● 落雷という敵によるタンク火災事故は、戦術上の一時撤退と考える。このため、タンク火災によるタンク損壊に対しては、すぐに対応の人員資機材を送り込む。
 「米国テキサス州バールソン郡で落雷による油井用タンク火災」では、即日、交換用のタンクが現場に搬入されており、日本では考えられないような戦略思考が徹底していると感じる。

■ 一方、この種の施設の消防活動では、「攻撃的な消火戦略」ではなく、基本的に「燃え尽きさせる戦略」をとっている。その背景はつぎのとおりである。
 ● 火災は並置されている複数タンクに及び、火炎規模はかなり激しく、誘爆による二次災害を防ぐ必要がある。
 ● タンク施設の規模は大きくなく、長期間、燃え続けることはない。
 ● 施設のある場所は、いわゆる田舎で、まわりへの影響は少ない。
 ● 対応する消防機関はボランティア型消防署が多く、消防資機材が充実していない。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・KBTX.com, Lightning Blamed for Explosion, Fire at Deanville Oil Well Site,  May 06, 2015  
    ・KTEN.com, Lightning Strikes Oil Tanks Causing Massive Fire in Whitesboro,  May 08, 2015
    ・Kxii.com,  Crews Extinguish Sadler Tank Battery Fire,  May 08, 2015   
    ・Kiiitv.com, Lightning Causes Petroleum Tank Farm Explosion near Banquete,  May 14, 2015   
    ・KRISTV.com,  Lightning Strikes Oil Tank, Causing Explosion near Banquete,  May 13, 2015



後 記: 今年の米国テキサス州は従来の落雷シーズンではないようです。5月25日、テキサス州知事は、竜巻や大雨による洪水被害が広がっていることを受け、州内の24郡で非常事態を宣言しています。死者も出ていますし、広範囲な地域で停電が発生しており、洪水に見舞われた地域では自宅の屋根の上に避難し救出された住民もいるとのことです。国立気象局は、竜巻やひょうを伴う激しい雷雨に見舞われる恐れがあるとして警戒を呼びかけています。
 今回の「米国テキサス州グレイソン郡で落雷による石油タンク火災」でも、洪水のため火災タンクに近づけなかったといっています。豪雨とタンク火災がいっしょに進行しているということは、ちょっと想像できないですね。
 








2015年5月21日木曜日

米国ウィスコンシン州の製油所でアスファルト・タンク火災

 今回は、2015年4月28日、ウィスコンシン州スーペリア市にあるカルメット・スーペリア製油所でアスファルト・タンクが爆発し、火災となった事故を紹介します。
(写真はFoxsanantonio.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 発災施設はウィスコンシン州ダグラス郡スーペリア市にあるカルメット社(Culumet)のスーペリア製油所である。製油所はスーペリア市の南に位置する場所にある。

■ 発災したアスファルト・タンクは、高さ9mで容量4,000バレル(636KL)であった。
                  カルメット社スーペリア製油所   (写真はグーグルマップから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2015年4月28日(火)午後3時30分頃、カルメット・スーペリア製油所でアスファルト・タンクが爆発し、火災となった。地元テレビ局は、火災によって立ち上った黒煙が隣のミネソタ州ダルースからも見えたと報じた。

■ カルメット・スーペリア製油所のコリン・シェイド所長は、ボンという爆発音が聞こえ、事務所の窓から外を見たら、アスファルト・タンクの上から炎が上がっていたと語っている。

■ 火災通報に従って出動したスーペリア消防署の消防隊は、現場到着後、発災したタンクが空であることを知った。
 
■ スーペリア消防署のスティーブ・パンガー署長によれば、爆発は、午後3時半少し前、空のアスファルト・タンクで起こり、火災はそのタンクだけに限られたという。火災は、高さ30フィート(9m)のタンク内にあった残留物質が燃えたものとみられる。

■ タンク内に存在していた炎を出さないでくすぶるような物質によって、タンク内圧が異常上昇して爆発が起ったものとみられている。この爆発によってタンク上部が裂けた。カルメット社シェイド所長は、「爆発の力が上に逃げたのは不幸中の幸いでした。このため、タンクの屋根だけが裂けたのです」と語っている。

■ 当局は、スーペリアの製油所で起った爆発・火災事故による公共への危険性は無いと発表した。

■ スーペリア消防署とカルメット社の緊急事態対応チームの消防活動によって、同日午後5時15分、火災は鎮火した。
(写真はDuluthnewstribune.com から引用)
被 害 
■ 事故に伴う負傷者は無かった。 

■ スーペリア消防署パンガー署長によれば、事故に伴う実質的な避難者は出なかったという。

< 事故の原因 >
■ カルメット社は、火災の詳細原因は分かっていないと語っている。

■ 最初の爆発の原因については、スーペリア消防署とカルメット社によって427日(水)から調査が始められた。カルメット社は調査のため第三者を招いて進めるとしている。

< 対 応 >
■ 火災発生の通報に従って市の3箇所の消防署から消防車が出動した。

■ 発災に伴い、カルメット社は社内の緊急事態対応計画に従って活動を開始し、火災については緊急事態対応チームが対応した。

■ スーペリア消防署パンガー署長によれば、スーペリア消防署の消防隊はカルメット社の緊急事態対応チームを支援し、ドライケミカルを用いて火災を消火したという。スコット・ゴードン隊長によれば、タンクの温度が熱かったので、何回か火の手が上がったが、午後5時15分、消火に成功したという。発災後、2時間以内で制圧した。

■ パンガー署長によれば、その時点で、消防隊は水を使用してタンク外側を冷却し、燃料が再燃しないように図ったという。消防署の1部隊が現場に残り、タンクの冷却を続けた。

■ カルメット社の緊急事態対応チームは、火災を消火するために必要なドライケミカルは大量に保有していた。しかし、高さ30フィート(9m)のタンク頂部にアクセスする方法が無かった。スーペリア消防署はタンク頂部に届くはしご車を保有していたが、パープルKと呼ばれる高価で特殊なドライケミカルは持っていなかった。現場指揮所で消火戦術が決定され、はしご車の上からドライケミカルを放射し、消火することができた。スーペリア消防署とカルメット社の消防隊はこれまで広範囲な訓練を行なってきており、今回の事故対応でも、迅速かつ円滑に双方の消防資機材を投入し、火災を消火に導いた。

■ 警察署は予防措置としてスティンソン通りの通行を規制した。交通規制は、消防隊が現場で活動している間、実施された。

■ 火災が続いている間、製油所と消防署が共同で大気のモニタリングを実施した。住民へ危険を及ぼすような影響は出なかったという。

■ カルメット社は、製油所の生産には影響が無く、その旨、規制当局には連絡していると語っている。
(写真はDuluthnewstribune.com から引用)
(写真はDuluthnewstribune.com から引用)
散水のほか、はしご車によるドライケミカル放射と思われる消火活動の火災現場
 (写真はTopix.com から引用)
 < 消防隊の相互応援 >
■ スーペリア消防署ゴードン隊長によると、スーペリア消防署の消防隊と製油所の緊急時対応チームのメンバーは月1回を基本に一緒の訓練を行っているという。スーペリア消防署の上級隊員と製油所の管理者は定期的に意思疎通を図っている。

■ ゴードン隊長によると、この自治体と民間企業のパートナーシップのあり方は、全米の製油所における共同応援体制に比べると“革命的”だと説明している。このことはスーペリア市民にとって有益なことであり、製油所の緊急事態時に最適な対応がとれることにつながっていると、ゴードン隊長は語っている。

■ これだけではない。カルメット社と他にスーペリア市で石油を取り扱っているふたつの会社(エンブリッジ社とプレーン・ミッドストリーム社)がスーペリア消防署に資金援助し、4名の消防士をテキサスで行われている石油関連火災への高度な訓練に派遣している。
 ゴードン隊長によると、昨年、テキサスの訓練に消防士を派遣しており、今回の火災ほど大きくはなかったが、訓練で同様な火災を体験していたという。 

■ カルメット社のシェイド所長は、4月29日(水)、「これは双方にとってウィン‐ウィン(Win‐Win)の関係です」といい、「昨日のように消防隊が駆け付けて対応してくれたことに、私どもは本当に感謝しております。同じようなことですが、消防隊が求めに応じて来ることがあれば、彼らの知識や知見を教えてくれることを私たちは期待します。私たちは一緒に訓練を行っていますし、このトレーニングによって私どもは見返りを十分得ています」と語った。

■ 発災当時、スーペリア消防署の消防隊と製油所の緊急時対応チームは統一の指揮所を設置し、火災制圧のための調整を行なったが、この2つの隊は1週間前に一緒に訓練を行なったばかりだった。

補 足
■ 「ウィスコンシン州」(Wisconsin)は、米国の中西部の最北に位置する州で、五大湖地域に含まれる。人口約570万人で、州都はマディソンである。
 「ダグラス郡」(Douglas County)は、ウィスコンシン州の北西部に位置し、五大湖地域にあり、人口は約44,000人の郡である。
 「スーペリア」(Superior)は、ウィスコンシン州北西端に位置し、ダグラス郡の郡庁所在地で、人口は約27,000人の都市である。
 ウィスコンシン州では、2014年11月、ラクロス郡で「米国ウィスコンシン州でアスファルトタンクが爆発・火災」事故が起こっている。
                   マーク部がウィスコンシン州スーペリア市   (写真はグーグルマップから引用)
■ 「カルメット社」(Culumet)は、1919年に創業し、特別な炭化水素生成物を専門に生産する独立系製油所をもつ石油企業である。インディアナ州を本拠とし、北米に11施設を有し、潤滑油、溶剤、ワックス、高純度ホワイトオイル、アスファルトなどを生産している。
 スーペリアには、2011年にマーフィー・オイル(Murphy Oil Co.)から取得した精製能力45,000バレル/日のカルメット・スーペリア製油所(Culumet Superior Refinery)があり、アスファルトのほか、ガソリン、重油を生産している。

■ 「発災タンク」の仕様は、高さ9m、容量4,000バレル(636KL) という情報がある以外、詳細はわかっていない。このデータからすれば、直径は約9.5mとなる。グーグルマップと火災写真からすると、発災地区にある地上式のコーンルーフ式固定屋根タンクの直径は20~25mのクラスであり、発災タンクではないとみられる。一方、プロセス装置近くに支持脚付きの直径約8mの円筒タンクがあり、これが発災タンクと思われる。支持脚付き構造であり、いわゆる通常の貯蔵タンクではなく、アスファルト装置に関連するタンクと思われる。
カルメット・スーペリア製油所の発災地区(矢印が発災タンクとみられる)
(写真はグーグルマップ・ストリートビューから引用)
■ 「ドライケミカル」は、炭酸水素ナトリウムやリン酸塩類を主成分とする粉末の消火剤である。火災の熱によって分解して不燃性ガスを発生し、噴射に用いた窒素ガスとともに空気中の酸素濃度を低下させて消火する。油火災のほか電気火災やガス火災にも有効である。消火後の清掃が容易で、火の及ばなかった機器を損傷することがないという特長を有している。
 「パープル‐K」(Purple-K)は、米国の消火資機材メーカーのケムガード社(Chemguard Inc.)のドライケミカルで、カリウム重炭酸塩を主成分としている。製油所・化学プラントや航空機など重要機器まわりの火災に対して使用されている。ケムガード社傘下の消火専門会社ウィリアムズ・F&H・コントロール社(Williams  Fire & Hazard Control)でも使用している。
パープル‐Kの使用例 
(写真はウィリアムズ・F&H・コントロール社ウェブサイトから引用)
■ 「テキサスの火災訓練」とは、テキサスA&M大学のTEEXThe Texas Engineering Extension Service)による火災訓練だと思われる。同機関のウェブサイトによれば、火災緊急対応について、現在、15の訓練プログラムがある。TEEXの各種訓練には、米国内の企業や公的機関が参加しているほか、世界中から多くの訓練生が受講している。日本でも、旧石油公団(現JOGMEC)が主催して「備蓄技術者海外研修」として訓練に参加し始め、多くの訓練経験者がいる。「石油公団備蓄技術者海外研修について」19972月号)を参照。
(写真TEEXウェブサイトから引用)
所 感 
■ アスファルトタンクで注意すべきことは、水による突沸、軽質油留分の混入、運転温度の上げすぎ、屋根部裏面の硫化鉄の生成などである。しかし、貯蔵タンクでなく、プロセス装置(アスファルト装置)と関連のあるタンクであれば、他にも要因があろうし、特にタンクは空の状態であった(はず)のであれば、別な要因が加わるであろう。爆発の原因やその後の火災の原因は調査を待つしかない。

■ 火災の規模はそれほど大きいものではなかったが、消防活動には参考になる情報があった。
=平常時=
 ● 公設消防と民間企業が月1回の合同の訓練を実施している。
 ● 民間企業が資金援助を行い、公設消防の消防士をテキサスの火災訓練に派遣している。
=緊急事態時=
 ● 公設消防と民間企業の消防隊が統一した指揮所を設置している。
 ● 双方の消防資機材を組み合わせる(はしご車とパープル‐K)ことによって、有効な消火活動を行ってる。(情報の共有化と判断ができている) 
 日本でも、災害応援協定が結ばれているところは多いが、このような実質的な活動に活かされていることは聞いたことがない。

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・NewsOK.com, Fire Burns Tank at Superior Refinery,  April 28, 2015  
    ・KDAL610.com, Superior Firefighters Extinguish Asphalt Tank Fire at Calumet Refinery,  April 28, 2015
    ・Mineesota.CBSlocal.com,  Fire Burns Tank at Superior, Wis. Refinery,  April 28, 2015   
    ・BusinessNorth.com, Empty Tank Catches Fire at Superior Refinery,  April 28, 2015   
    ・DuluthNewsTribune.com,  Crews Respond to Fire in Tank at Calumet Refinery in Superior,  April 28, 2015
    ・DuluthNewsTribune.com,  Cooperation Key to Dousing Fire at Superior Refinery,  April 29, 2015



後 記: 先日は「コールド・ファイア」という消火薬剤の使用例の事故情報がありましたが、今回は「パープル‐K」というドライケミカルの消火薬剤の情報が出てきました。調べてみると、消火専門会社ウィリアムズ・F&H・コントロール社でも使用していました。薬剤としてはパープル(紫)というちょっと毒々しい色の消火剤だということがわかりました。日本では、公平さや宣伝への配慮からか具体的な商標名が報じられることは少ない(ほとんど無い?)ですが、情報を読む立場からすると、はっきりと報じられる方がよいですね。例えば、今回の事例でも、「特殊消火剤」という言葉で報じられれば、面白みも何もありませんからね。