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2012年9月26日水曜日

シンガポールのシェル製油所火災-2011 その後の情報

 一年前の2011年9月28日、シンガポールのプラウ・ブコム島にあるロイヤル・ダッチ・シェル系列のシェル・イン・シンガポール製油所において貯蔵タンク地区のパイプラインから火災が起こり、当ブログで紹介しましたが、その後、2012年8月31日に事故の責任に関してシンガポール労働省がシェル社を告発しています。このほか、当時わからなかった事故原因と消防活動の概況について紹介します。
本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいて要約したものである。
  ・FireDirect.net, Shell in Dock over Plant Fire,  September  4, 2012
  ・Reuters.com,   Singapore Charges Shell  over Safety  Lapses in Refinery Fire,  September 4, 2012
  ・tcetoday.com,  Singapore Charges Shell  over Refinery Fire  Could be Fined up to $500,000 over Safety 
   Breaches,  September 4, 2012
  ・FoxBubusiness.com,  Singapore Charges Shell  for Safety  Lapses in Refinery Fire ,  September 4, 2012
  ・WildShores.Blogspot.com,  Shell Refinery  Fire  at  Bukom: What  Caused  It,  October 4,  2011
      ・SingaporeBusinessReview,  Pulau  Bukom  Fire  Started during Maintenance  Preparation Work,  October 5,  2011
      ・HomeTeam. sq,   Fighting Fearlessly  against  the  Flames,   October 6,  2011
      ・SingaporeInfomedia,  Pulau  Bukom  Fire(2011), February   2,  2012 

<事故の概要> 
写真はStraitsTimesから引用
■  2011年9月28日(水)午後1時15分、シンガポールのプラウ・ブコム島にあるロイヤル・ダッチ・シェル系列のシェル・イン・シンガポール製油所において貯蔵タンク地区のパイプラインから火災が起こった。
 シンガポール市民防衛庁(SCDF)は、午後1時18分に火災発生の連絡を受け、ただちに消防車2台、消防バイク2台、レッドライノ1台および支援車両8台を出動させ、シェル自衛消防隊と共同して消火活動を行った。火災は何回かの爆発を伴い、ポンプ場周辺の175m×65mのエリアで激しく燃え続け、SCDFは消防士100名、車両34台(消防車13台、支援車両21台)を投入し、消火活動に努めた結果、9月29日(木)午後9時18分に鎮火した。

 <事故の原因> 
■ 事故は、ナフサタンクからポンプ場を通って石油製品を攪拌あるいは混合するパイプライン系統で起こっている。調査を実施した労働安全衛生を司る労働省の調査によると、「火災はメンテナンス前の準備作業中にポンプ場で発生した。事故当時、工事準備のためにパイプライン内の残留油の排出作業中で、バキューム車を使って油の抜き取りをしていた。このときに火災が発生し、周りに次々と広がり、ポンプ場全体を巻き込む大きな火災となった」という。
 労働省によると、シェル社はパイプラインから油を排出するときにオープン・ドレン・システムをとっており、事故時にはナフサをドレン弁および緩めたフランジ部からプラスチック製のトレイに受けていた。この方法だと可燃性ガスが空気中に放出して滞留しやすくなるが、会社は、ドレン排出作業時の近傍で爆発混合気形成の危険を従業員に知らせる携帯式ガス検知器を使用させていなかった。
 また、トレイにナフサを流し込んだことが、静電気を形成し、火花が飛び、ナフサの可燃性ベーパーに着火したのではないかという。ストレート・タイムズ誌は、発表でははっきり言っていないが、メンテナンス作業を行う前に油地区で油を抜き取る際、トラック(バキューム車)が着火源になった可能性もあるとしている。

 <事故の責任> 
■  シンガポール労働省は、2012年8月31日(金)、昨年32時間の火災を起こしたシェル社(シェル・イン・シンガポール)に対して安全義務違反で罰金請求の告発をした。シンガポールの下級裁判所で審議され、9月末に判決が出る予定である。労働安全衛生法に則り、有罪判決を受けた場合、 50万シンガポールドル(40万米国ドル=32万円)以下の罰金額となる。

 <消火活動>
ブコム島に渡るSCDFの消防車両(写真はHomeTeam. Sq から引用
■ 2011年9月28日(水)午後1時15分、ポンプ場43と称する製油所内のオープンエリア内で火災が発生した。ポンプ場43は、ガソリン、灯油およびその他の石油製品を移送するため、ポンプ、バルブ、配管で構成されている。製油所の消火ポンプが自動起動し、火災部へ泡を張り込み、酸素を遮断させようとした。一方、排水系統のポンプも起動し、火災部およびパイプライン部から液体を排出し始めた。シェル社の自衛消防隊40名も、泡放射を行い、放水して火災の消火活動に入った。
■シンガポール市民防衛庁(SCDF)は、午後1時18分に火災発生の連絡を受け、ただちに消防車2台、消防バイク2台、レッドライノ1台および支援車両8台を出動させ、35分以内でプラウ・ブコム島の火災現場へ到着した。 
出動するSCDFの消防隊員
(写真はHomeTeam. Sq から引用
 SCDFの消防隊が現場に到着したとき、2つの課題が存在していることがわかった。ひとつは荒れ狂っていた火炎の勢いを弱めること、もう一つは火災場所の直近に3基の石油タンクがあり、延焼を防がなければ、最悪の状況を招きかねないことであった。タンクは火災場所から15~20mしか離れていなかった。
 その後、SCDFは消防隊を増強させ、消防士100名超、消防車13台、支援車両21台が消火活動に当たった。 SCDFとシェル自衛消防隊の消防活動によって、火災エリアは176m×65mに限定された。また、SCDFは、隣接する石油貯蔵タンクに水噴霧して冷却を行い、圧が上がらないように防護策をとった。
最初のサージング現象
SCDFアンワル・アブドラ大佐(写真はHomeTeam. Sq から引用
■ 28日発災から4時間後の午後5時15分、消防隊は火災を制圧下に入れることができたと思った。シェル社はこの状況を報道向けに発表した。しかし、覆ったはずの泡の下では、火災の進行によって多くの配管が損傷していた。これらの配管から漏れ出した多量の石油が、正に火に油を注ぐことになり、午後6時35分、火災の中でサージングの現象が起こった。
 SCDF作戦本部長のアンワル・アブドラ大佐は、後日、「火災は暴走する恐れがありました。実際、火炎が噴き上がって大きくなる直前に、我々は無線連絡して、間一髪、消防隊員を退避させることができました」と語った。現場第一線にいたSCDFのリン・ヤン・アーン中佐はこの時のことを「ポンプ場の底の方で火炎が息つぎをするように弱まったり、強まったりするのが見えました。しばらくしてぱっと輝いたと思ったら、火が一瞬で走り、ポンプ場全体が炎で覆われました」と語った。このとき、火炎が大きく膨らみ、20mを超えるファイアボールが空に打ち上がった。アブドラ大佐は、「私は18年間勤務した中でいろいろな火災を経験してきましたが、このように複雑で激しい火災は初めてでした」と語っている。
SCDF保有の大容量泡放射砲
(能力
23,000L/分、放射距離100m)も投入(写真はHomeTeam. Sq から引用
 火勢が再び激しくなった後、消防隊は現場から一時撤退し、再編成を行い、放水銃の配置を変更した。重傷者の報告はなかったが、消防士1名が外傷を負い、5名が熱疲労と肉離れを起こした。
■ 28日夕方、SCDFの作戦本部がパシール・パンジャンのフェリーターミナルに設置された。一方、シンガポール軍はヘリコプターと海軍高速艇の部隊を待機させた。 日が落ちてから、100名を超す消防隊、消防車13台、支援車両21台が激しい火災と戦っていた。その火炎は、パシール・パンジャンやレッドヒルのあるシンガポール西地区ではっきりと見ることができた。 午後8時30分、シェル社は、事故対応に関係のない職員400名をプラントから避難させたが、自衛消防隊を含めて250名の職員は現地のプラウ・ブコム島に残った。製油所では、火災現場に近い装置はシャットダウンし、他のエチレン装置などのプラントは通油量を落として運転を続けた。
SCDF作戦本部の様子
(写真はHomeTeam. Sq から引用
2回目のサージング現象
■ 夜を徹しての活動で、消防隊は火の勢いを弱めることができると感じていた。そして、翌29日(木)午前8時に、SCDFの新しい一隊が現場に到着し、消防士はより気持ちが楽になった。しかし、発災から22時間を経過した午前11時45分、再び火災にサージング現象が現れ、液化石油ガス(LPG)を移送するポンプ場のエリアを巻き込んでしまった。このサージング現象によって、消防士は後方へ退避せざるを得なかったほか、車両4台のタイヤが溶け、消防車2台が動かないほど損傷を受けた。
29日午前11時45分の2回目のサージング現象
(写真はHardwareZone.com から引用)
 SCDFのアブドラ大佐は2回目のサージング現象について、「2・3分の余裕があった1回目のサージング現象にくらべ、2回目は10秒ほどで突然起こりました。しかし、2回目のときは前の経験で賢くなっていました」と語っている。SCDFは素早く反応し、対処した。
シェル社と協議するSCDF作戦本部
(写真はHomeTeam. Sq から引用
■ 破裂した配管からLPGが漏れ出して火災になっているという事実から、消防戦略を変更する必要があった。それまで消防隊は泡と水を使用していたが、消防活動は水だけを使用することに切り替え、火災との境界部を冷却して爆発を回避させる方法をとった。このため、海水を送水して、23台の放水銃で冷却活動を行った。しかし、製油所の火災現場では昼頃に爆発音が聞こえ、シンガポール本土では空に黒煙とファイアボールが見えた。
共同記者会見するシェル社とSCDF
(写真はHomeTeam. Sq から引用
■ 後日、SCDFは“複雑で多元的”な火災と呼んだが、過去に見られないタイプの火災だったと付け加えた。シェルの専門家も火災に供した油が何だったか確認できなかったと言っている。29日午前7時、シェル社は、3つの原油精製装置を含めてプラントのシャットダウンをさらに進め始めた。シェル社はSCDFと一緒に共同記者会見を行い、火災はなおも続いており、その理由はよくわからないが、火災周辺のパイプラインに入っている石油製品の流れを完全に閉止し、火災への燃料供給を断ち切る消火戦略をとっているという状況を説明した。
■ 消防隊は、発災から32時間経った29日(木)午後9時18分に火災の鎮火に成功したが、油のベーパーが残っていて再燃する可能性があるため、そのまま現地に待機した。30日(金)の夕方、SDCFは、配管が完全に閉止されており、ポンプ場に油が供給されてないことを確認した。SCDFは、現場の管理をシェル社へ引き継ぎ、10月2日(日)に撤収を始めた。

所 感
■ 従業員にガス検知器を携帯させていなかったという会社側の責任が問われているが、実際の現場では、このほかにミスがあったように感じる。というのも、手がつけられない火災になるほど大量のナフサや油が存在していたこと、また人が関わっているはずの作業にも関わらず、怪我人が出ていないという疑問が残るからである。工事準備のため、ドレン弁や緩めたフランジから油を排出させることは一般的に行われている。ガス検知器を使わないほか、ルールを正しく守らなかった操作が行われていた可能性がある。ルールを守らなくても事故がたまたま起こらないことはある。しかし、ルールを逸脱した作業はいつか事故につながることは明白である。
■ 事故直後の消火活動の情報は断片的であったが、今回の情報によって概況が理解できた。現場へ到着して火災を見たとき、予想を越える厳しい状況にあることが分かり、シンガポール市民防衛庁(SCDF)は車両34台(消防車13台、支援車両21台)と消防士100名の増強を判断したものと思われる。
 今回の情報で、配管火災のサージング現象の状況がわかった。2回目のサージング現象は石油液化ガス(LPG)が関与していたため、消火戦略を“積極的(オフェンシブ)戦略” から“防御的(ディフェンシブ)戦略” に切り替えていた。非常に厄介な配管火災だったことがわかる。事故直後、32時間も続いた消火活動の排水による海の汚染を懸念する報道もあったが、大きな問題にはならなかったようである。この点はシェル社の対応が評価できる。
■ 今回、大容量泡放射砲(23,000L/分×100m)が投入されていたことがわかったが、当該事例では有効に使われる状況ではなかったと思われる。前回の事故情報でも指摘したが、日本では、大容量泡放射砲の整備の次は堤内火災に関する弱点補強であり、その一つが堤内火災用に開発された消火泡発生装置の導入が必要だと思う。

後記; 今回の情報を整理していて感じたのは、シンガポールという国が元々国際貿易都市として発展してきただけに、情報に対する価値観が高いということです。一般に、事故の報道は一過性のところがあり、事故が収束しそうになれば、情報(報道)は出ない傾向にあります。この点、シェル製油所火災事故は続報が出されており、今回のようなまとめができました。例えば、前回は発災場所である「Pump House」を「ポンプ室」と訳しましたが、今回の情報でオープンスペースであることが分かり、「ポンプ場」と変更しました。













2012年9月20日木曜日

カリブ海キュラソー島で油流出して環境汚染

 今回は、2012年8月17日、カリブ海に浮かぶオランダ王国のキュラソーにあるキュラソー・オイル・ターミナルのタンクから漏れた原油が海上に流出し、周辺の海岸に漂着してフラミンゴなどの野生動物の生態系に影響を与えた環境汚染事故を紹介します。
本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいて要約したものである。
  ・CuracaoChronicle.com, Oil Spill at Jan Kok,  August  27, 2012
  ・Wdtn.com, Oil Spill Fouls Curacao Shore, Threatens Flamingos,   August  28, 2012
    ・NewsOrganizer.com, Oil Leak at Venezuelan-Owned Refinery  Threatens Curacao Wild Life, August  28, 2012
      ・Amigoe.com, Pictures from Coastguard Prove  the Spill Occurred on Friday, August  30, 2012
      ・Lubetech,co.uk,  Venezuela: Oil Spill at Curacao Refinery, August  31, 2012  

 <事故の状況> 
■  2012年8月17日(金)夕方、ベネズエラ沖のカリブ海に浮かぶオランダ王国キュラソーで油漏洩があり、環境汚染を起こす事故があった。漏洩事故があったのは、キュラソーのバレン湾にあるキュラソー・オイル・ターミナルのタンクから漏れた油が海上へ流出した。流出した油は浮遊して、周辺の海岸に流れ着き、野生動物などの生態系へ影響を及ぼす環境汚染が懸念されている。 
■  油流出の状況がわかってくると、リファイナリア・イスラ・キュラソー社はヤンコック地区における油汚染について新聞で非難を受けている。 イスラ社によれば、漏れが起こったのはバレン湾にあるキュラソー・オイル・ターミナル(COT)で、8月18日土曜日だという。一方、カリブ海沿岸警備隊は17日金曜日に油流出を確認しているというつじつまの合わない話である。
 8月17日(金)には、カリブ海沿岸警備隊が港湾安全点検(HVI)の警告を出している。しかし、製油所の発表では、「8月18日土曜の夕方、 9056番スロップタンクのドレンを通じて出た油を廃水処理装置で処理している中で、“オイル・キャッチャ”から油が漏れ出てしまいました。漏れ出た油が海へ流出したので、装置をただちに停止しました。製油所としてはすぐにHVIに呼応し、翌日、状況点検のためバレン湾へ人を派遣しました」と言っている。
■ 8月19日(日)以降もヤンコック地区の方へ油が漂流していたにもかかわらず、イスラ社は8月22日(水)に知ったと説明した。
          バレン湾に面したキュラソー・オイル・ターミナル    (写真はグーグルマップから引用)
■ ヤンコックの近くに住むポーリン・メッサーシュミット-ニピウスさんは、19日(日)午後6時頃にマウンテン・バイクでヤンコックへ行った夫から、油で覆われていると聞き、この油災害について関係機関に連絡し始めたと、環境保護団体SMOCに話している。油は海の入口部にあり、すでにサリーナの方へ漂流していた。海岸部の珊瑚ビーチも汚染されていた。
 8月22日(水)、バイク同好会のメンバー約30名はヤンコック地区が油で覆われていることを発見した。製油所の反応は、「バイクに乗った人たちから水曜日にイスラ社へ連絡がありました。製油所に連絡があったのは、それが初めてでした」としている。
 製油所は、「HVCを確認したのは8月22日(水)付けのアミーゴ新聞の中で、バレン湾で油漏れがあったこと、漏れ出た油がどの程度に上っているのか調査しているという記事からです。この時、同時にイスラ社は海から油回収のためバキューム車を出しました」と言っている。
■ カリブ海沿岸警備隊は、海上の油の位置を撮影するために定期的に飛行機を飛ばしている。また、沿岸警備隊は流出油の漂流状況について報告している。疑問なのは、なぜ対応部署が排出口をフェンスで閉鎖する行動を取らなかったかということである。
■ 製油所は、「イスラ社は、 8月23日(木)朝、環境部の担当者を状況確認のためヤンコック地区へ派遣しました。しかし、当地区の一部が個人所有の土地であり、担当者は十分に検査ができませんでした。所有者の了解を得て、イスラ社の担当者は24日(金)に検査を継続しました。24日(金)の夕方、イスラ社は翌25日(土)から清掃作業を始めるために必要な資機材と人員の確保を行いました。バキューム車、ダンプカー、ショベルカーなどで、作業員は請負会社から来てもらいました。作業は続いており、さらに強化する予定です」と述べている。
 製油所から発表されたところによると、「製油所は今回の事故に対して深く謝罪するとともに、責任を感じております。将来、同様な事故が起こらないように予防対策をとります。 製油所の運営をしている者として、清掃作業を始めたすべての従業員、シント・ウィリブローダス(ヤンコック地区)の住民の方々およびボランティアで参加されている方に深く感謝致します。これからも継続し、イスラ社は被害を受けた地域が再生していくように努めていきます」と語っている。
■ 製油所のマヌエル・メディナ所長を含めた全幹部およびキュラソー石油労連(PWFC)の代表者は、清掃作業を行った昨日の前の日に、地域の人へ報告会を催した。キュラソー石油労連のリーダーであるアンジェロ・メーヤー氏によると、約200名の人が集まったという。
■ 流出した油が海岸線に広がり、キュラソーの自然豊かな中で暮らすピンク色のフラミンゴなどの野生動物は油まみれになってしまっていると、カリブ海に浮かぶオランダ領の小さな島の住民や自然保護者は8月27日(月)に語った。地元の環境保護団体のリーダーは、ヤンコックに流れ着いた原油はイスラ社が所有する貯蔵タンクのうち少なくとも1基から流出したものだと、27日(月)に指摘した。
 イスラ社は、ダイビングと色彩豊かな町であるウィレムスタットでよく知られている南カリブ海の島に製油所を保有し、大きな経済影響力を持つ雇用主である。イスラ社の製油所は、キュラソー島から約40マイル(60km)しか離れていないベネズエラの国営石油公社によって運営されている。
■ 環境保護団体SMOCのピーター・ヴァン・リーウェン氏は、「おそらくキュラソーで起こった最大の(環境)災害です。ヤンコックの地区は全部真っ黒です。鳥たちは真っ黒です。カニが真っ黒です。植物が真っ黒です。すべて油まみれになっています」と語った。
 オランダテレビでカリブ海のオランダ領を担当し、キュラソーを本拠にしているジャーナリストであるディック・ドレイヤー氏は、油で汚染された面積は“およそサッカー場30個分”だと推定している。さらに、ドレイヤー氏は、はっきりとした油膜の筋が3本あって沖合を浮遊しており、“キュラソーの南側にある海岸に汚染の恐れ”があると付け加えた。
■ ヤンコック地区で撮った写真では、黒くなった海岸、岸の岩に垂れる油、打ち寄せる波に巻き込まれる油濁の状況がわかる。吹きさらしのソルトフラッツの上には、油に汚れたフラミンゴ、甲殻類、とかげがもがいている可哀想な姿があった。
■ SMOCのヴァン・リーウェン氏によると、先週(8月20日の週)の時点で油流出によって野生動物が脅かされ始めたが、 会社によるクリーンアップ作業は最近になって行われ、漏洩のあったタンク基地から1,000m以内の自然保護区だけに限られていたという。タンク基地には、ベネズエラ国営石油公社(PDVSA)が大量の原油を貯蔵している。ヴァン・リーウェン氏は、「多くの時間が何もされないまま過ぎてしまいました。会社の誰かがやっと動き始めるまでに1週間が経っています」と語り、さらに、現在は流出した油を回収するため、作業員がヤンコックの海岸で油と砂を一緒に運び出していると付け加えた。
■ イスラ社の広報担当に多くの問い合わせがあっているが、8月27日(月)には何の回答もなかった。
 キュラソーの公衆衛生・環境・自然省の大臣に、政府として流出にどのように対応したか、あるいは今後事故を防ぐために何をするかという説明を伺いたいということに対して、27日(月)には回答がなかった。
■  SMOCのヴァン・リーウェン氏は、8月27日(月)、製油所施設から油が出たことを認めたイスラ社のミセス・ルフゲンナートと話したことを語った。「彼らはバレン湾に入港した原油タンカーから出たものだと認識していました。タンカーが正しい方法、すなわちタンクを空にして水を入れる方法で入港していないのではないかということです。イスラ社の製油所は事故へ至った原因について内部調査を始めていましたが、清掃作業を始めたのは最近です」
■ 公衆衛生・環境・自然省は、災害場所を確認に行っている。しかし、 SMOCのヴァン・リーウェン氏によると、「災害場所のごく一部について何枚かの写真を撮った後、現場を去っています。私が言いたいことは、流出に対する責任がイスラ社にあることは当然ですが、行動を起こす前に調査することを優先してしまっています。ヤンコックの住民によれば、油が漂着して1週間が経っています」

■ 獣医のオデット・ドエストさんはヤンコックに留まり、鳥たちを捕獲して救護に努めていた。彼女はフェースブックで、3羽のフラミンゴが本当に油まみれになっていると発信した。彼女は、「多くの人たちが集まれば、再び、きれいになったフラミンゴが飛べるようになるでしょう。貢献したいと思った人は、ソルトフラッツの向かい側に立っている青い家へ来て、洗剤液とタオルを使って手伝ってください」と伝えた。

■ イスラ社の製油所を実質的に運営しているPDVSAは、油流出が8月17日(金)に起こったことをキュラソー当局へ報告したことを認めた。8月31日(金)の PDVSAの声明では、この10日間、状況を改善しようと地方当局と協力して清掃作業を行い、影響を受けた地域の掃除は終わりに近づいていると述べている。
 清掃作業が終わりに近づいたという声明が出されたにもかかわらず、環境保護団体は、 緊急時におけるPDVSAの対応が遅く、環境汚染が拡大したと指摘している。 環境保護団体がクレームをつけているのは、状況がわかってから対応につくまでに、10日を過ぎていたということである。
 SMOCのヴァン・リーウェン氏は、PDVSAが“災害”に直面したときのガイドラインを持っていないことと、島に頼るべき環境部署が無いことを指摘している。
 一方、キュラソー当局は事故の原因究明に乗り出すことを発表した。ゲリット・スコッティ首相は、職務としてPDVSA と会い、政府当局に事故原因をはっきりさせるよう指示したことを力説した。
■ キュラソーの経済を支える事業の一つは観光事業である。2011年には約39万人の観光客が訪れ、前年に比べ14%増加した。

補 足
■  「キュラソー」(Curacao)は、ベネズエラの北約60kmのカリブ海に位置するオランダ王国の構成国で、人口約142,000人の島国である。首都はウィレムスタットである。
 1915年にベネズエラで原油が発見されると、ロイヤル・ダッチ・シェル社がキュラソー島にベネズエラ産の原油を処理する製油所を建設した。1954年キュラソーはオランダ領アンティルに組み込まれ、行政上の中心地となった。1970年代のオイルショックの影響を受け、1985年ロイヤル・ダッチ・シェルが島から撤退した。2010年10月、オランダ領アンティルの5島は解体され、キュラソー島は単独の王国構成国となった。なお、解体された5島のうちキュラソー島とシント・マールテン島は単独の自治領となり、残る3島はオランダ本国に編入された。

■  1985年にロイヤル・ダッチ・シェルが撤退した製油所は、ベネズエラ国営石油公社(PDVSA)がリース契約で取得し、「リファイナリア・イスラ・キュラソー社」(Refineria Isla Curacao B.V.)として1985年から操業している。製油所は首都はウィレムスタットに建設され、原油貯蔵施設および石油製品供給施設はウィレムスタットから北西約10kmのバレン湾に面して建設された。このタンク基地が「キュラソー・オイル・ターミナル」(Curacao Oil  Terminal)である。桟橋は6基あり、水深が1号21.0m、2号12.2m、3号17.1m、4号28.7m、5号19.2m、6号28.7mと非常に良い港として知られている。
               首都ウィレムスタットにあるイスラ製油所(中央)    (写真はグーグルマップから引用)

イスラ製油所の全景 
 
バレン湾に面したキュラソー・オイル・ターミナル 

■ 「ベネズエラ国営石油公社」( Petróleos de Venezuela, S.A.、略称PDVSA)は1976年に設立され、ベネズエラ政府が100%出資する石油会社で、日本ではベネズエラ国営石油会社あるいはベネズエラ石油公団とも表記される。
 今回の油流出事故は8月17日(金)に起こっているが、対応の最中である8月25日(土)に、ベネズエラのファルコン州にあるPDVSAのアムアイ製油所で、ガス漏れが原因と思われる爆発・火災事故が起こり、多くの死傷者を出す事故があった。この事故情報は本ブログの2012年9月2日に「ベネズエラの製油所で爆発してタンク火災、死者41名」として紹介している。

■ 「カリブ海沿岸警備隊」はオランダ海軍所属で、カリブ海のオランダ領を担当する沿岸警備隊である。キュラソーのウィレムスタットにあるパレラ海軍基地に駐留している。

■ 油汚染にあった野生動物の救護に獣医オデット・ドエストさんの活動が紹介されている。好意の行動ではあるが、ボランティアが参加した段階で適切な救護方法がとられたかは疑問である。  2012年1月11日、米国ニュージャージー州のバス車両基地にある油タンク2基からディーゼル燃料油が漏れて水路に流出し、環境汚染を起こす事故が発生したが、この時はトライ‐ステート鳥類救助・研究所(デラウエア州ニューアークを本部にする非営利環境保護団体)が活動している。
 この事故情報は、2012年2月29日に「米国で地下タンクからの油流出によって環境汚染」として本ブログに紹介している。その中では、「トライ‐ステート鳥類救助・研究所は現地に入って、野生動物の保護作業を行なっている。州環境保護省の広報担当ハッジャ氏によると、トライ‐ステートの職員が1羽の死んだカナダがんを発見したほか、ジャコウネズミとカメが死んでいたという。 トライ‐ステート鳥類救助・研究所はプロの鳥類介護者であり、また訓練を受けたボランティアが従事している。従って、住民は油の流出した地域で苦しんでいる動物を見つけても、自分たちで捕まえたり、介護したりせず、トライ‐ステート鳥類救助会ニュージャージー支部のホットラインへ連絡してほしい」とある。
 日本でも、この種の活動する団体が出てきており、野生動物救護医師協会は環境省の委託を受けて「油等汚染鳥救護のガイドライン」(2007年3月)を作成しており、インターネットで見ることができる。 http://www.env.go.jp/jishin/attach/guideline_ocb.pdf

■ 今回の事例では、環境保護団体SMOC (De Stichting Schoon Milieu Op Curacao )の名前が出てくるが、環境汚染の反響は予想以上に大きいと思われ、9月8日付けのCuracaoChronicle誌には、つぎのような記事が出ている
 「製油所はSMOCを非難・・・イスラ製油所の広報担当は、世界的な世論を意図的にミスリードしたSMOCの環境保護運動を非難した。環境保護運動として撮られた聖ウィリブロード教会の前で油まみれになったフラミンゴの写真は合成写真だと言っている」
 写真はヤンコック地区で撮られ、SMOCの提供した一枚であるが、世界の報道機関はこの写真を使った。写真合成の真偽はともかく、教会への畏敬の念と教会の影響は日本人が想像するより大きいものと思われる。指摘のあったのは右の写真である。

所 感
■ 事故要因ははっきりしないが、情報から推測すると、つぎのようなケースが考えられる。ケース1;タンカーのバラスト水をスロップタンクへ受け入れ、廃水処理装置に移送したとき、オイルキャッチャで処理できないほどの多量の油が混入していたために、海へ流出させてしまった、ケース2;バラスト水受入れラインに間違って原油を受入れ、スロップタンクに多量の原油が入り、廃水処理装置を通じて油を海へ流出させた、ケース3;原油タンクの水切り作業時に、水が抜けた後もドレン弁を開放したまま放置して、多量の原油を海へ流出させた。
 いずれにしても、運転操作に関する基本的なルールが守られず(あるいはルールが曖昧)、いくつものミスが重なって流出事故に至ったことは確かである。
 事故の未然防止のためには、①ルールを正しく守る、②危険予知を活発に行う、③報告・連絡・相談(報・連・相)を行い、情報を共有化する、という3つの事項を行うことであるが、今回の事故ほど、この3つの事項が欠けていたと感じる事例は稀である。
■ 一方、リスクマネジメントの観点で見ると、事故後の対応も最悪な事例である。発災時間が金曜の夕方という構内にいる従業員が少なく、且つ連絡が伝わりにくい時間帯だったという条件があったにしても、対応が悪い。おそらく、間違った事故第一報に引きずられ、状況を確認しないまま、経過していったものと思われる。恐ろしいほどの鈍さである。
 しかし、記事の中で環境保護団体が指摘している「災害に直面したときのガイドラインを持っていないこと」と「頼るべき環境部署が無いこと」については、よその国の話ではない。 2012年6月28日、市原市のコスモ石油千葉製油所においてアスファルトタンクの破損によりアスファルトが排水口を通って海上へ流出した事故では、今回ほどでないにしても油回収の対応が後手にまわった事例である。 日本の中にも指摘のような問題が内在しており、「頼るべき環境部署が無いこと」は、特に住民に直結している県、市、町レベルの地方自治体にいえる課題である。

後記; 残暑が続いていましたが、一気に涼しくなりました。暑さに耐えていたせいか、朝夕は肌寒く感じるほどです。  ところで、先日、NHKのBSプレミアムで放送されたコズミックフロント「アポロ13号 想定外を乗り越える男たち」を興味深く見ました。月着陸を目指す有人宇宙船アポロ13号が酸素タンクの爆発による危機に面したときに、管制センターと宇宙飛行士がとった行動をまとめたもので、いろいろ感心するところがありました。  その中で「マーフィーの法則」が出ました。アポロ計画では、あらゆる想定をしてマニュアルを作成しています。酸素タンク喪失という想定はしていなかったのではなく、そのような状況では電源が無くなり、2時間で飛行士は死亡するという結果だったので、マニュアル記載から外したのだそうです。この際、管制センターで緊急事態に対応した担当官の言葉が「起こる可能性のあることは、いつか実際に起こる」というマーフィーの法則でした。ここから「想定外を乗り越える男たち」の物語になりました。今回の油流出事例をまとめているときでしたので、余計にマーフィーの法則」の言葉が印象に残りました。













  


2012年9月14日金曜日

米国ルイジアナ州の製油所でハリケーン襲来後に油漏出

 今回は、2012年9月2日、米国ルイジアナ州ベルチャスにあるフィリップス66社のアライアンス製油所においてハリケーン・アイザックが来襲した後に貯蔵タンク地区に油が漏出した事故を紹介します。
本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいて要約したものである。
  ・Reutrs.com, Phillips66 Alliance Refinery Reports Leakage at Oil Storage Facility,  September  4, 2012
  ・FirstEnercastFinancial.com, U.S. Guard: Oil Polluted Louisiana Wetlands after Isaac,  September  4, 2012
    ・UBS.WallST.com, Phillips66 Says  No  Sign of Oil Leak  from Refinery,  September  10, 2012
      ・Nola.com, Oil, Chemical, Coal Releases during Hurricane Isaac Should Have Been Avoided, Environmental Groups Say,
        September  6,  2012
      ・Blog.Skytruth.org,  Post-Isaac  Aerial  Survey  Photography  Now  Available from  NOAA,  September  6,  2012 

<事故の状況> 
■  2012年9月2日(日)午後、米国ルイジアナ州のベルチャスにあるフィリップス66社のアライアンス製油所で油漏出の事故があった。事故は、2日(日)午後1時過ぎに貯蔵タンク地区から油が漏出しているのが発見され、漏出量は不詳だという。
 同製油所は247,000バレル/日の精製能力を持っているが、ハリケーン・アイザックの襲来によって8月30日(木)以降、電力が止まって操業を停止しており、当日は洪水によって施設が冠水の状況に直面していた。
■ アメリカ沿岸警備隊は、9月6日(木)に、ルイジアナ州の湿地帯がハリケーン・アイザックの襲来によって油汚染の影響を受けたことを明らかにした。沿岸警備隊のニュースリリースによると、カッショクペリカンなどの水鳥や動物が油まみれになっていたり、死んでいたことから、マトル・グローブ湿地帯、プラックマイン教区にある各施設と野生生物について調査しているという。同ニュースリリースでは、評価チームは、バイユー・セントデニスやポート・サルファー近隣でも油を発見し、ブレトン・サウンドでキラキラした光沢が見られるとの報告に注目しているという。ニュースリリースによれば、湾岸警備隊とルイジアナ州の担当官が、ハリケーンで大きな被害を受けたブレイスウェイトにあるストートヘブン貯蔵施設を詳しく調査しているという。
 沿岸警備隊によると、ポンチャーントレイン湖を飛行機で上から調査したところ、油の流出や漏洩といった状況は見られなかったが、見慣れないドラム缶やコンテナーが見つかったという。沿岸警備隊が9月2日(日)に話したところによると、マトル・グローブの近くにある沼地で見つかった油が、停っていた2箇所の油生産施設から出たものかどうかわからなかったといい、漏れたという兆候も認められなかったという。     
■ 国家対応センター(NRC)から出された9月2日(日)の報告では、マトル・グローブ湿地帯への油流出はベルチャスにあるフィリップス66社のアライアンス製油所の貯蔵施設からだとしている。
 フィリップス社広報担当のリッチ・ジョンソン氏はこの情報を否定し、「私どもは、施設内のタンクや油槽を調べましたが、言われているようなことの証拠は見当たりませんでした」と語っている。ジョンソン氏によると、フィリップス社は漏洩について報告していないし、そのような話を誰がしたか分からないという。
 フィリップス社の製油所は、ハリケーン・アイザックがメキシコ湾岸に上陸したときに運転を停止しており、ジョンソン氏によると、ハリケーンが原因と思われる損傷被害はなく、ハリケーンが通り過ぎた後も、数日間は電力がなく、装置も停ったままだったという。同社によると、9月4日(火)の朝に電力が回復したので、製油所の装置を立ち上げているところだという。ただし、数週間で通常通りの運転に戻るかどうかわからないといっている。
■ 誰かわからない人物が、9月3日(月)に国家対応センターへアライアンス製油所の近くにある湿地帯へ油が漏れていると連絡したものと思われる。フィリップス社広報担当のジョンソン氏は、「製油所から漏洩していると連絡したようですが、そのような事実を裏付けるものはありませんでした」と話している。
 フィリップス社は、国家対応センターへ油漏洩の連絡をした人物を探そうとしたが、確認できなかった。なお、国家対応センターの事故報告システムはアメリカ沿岸警備隊によって運営されている。
■ その後、フィリップス社の広報担当は、ハリケーンが来るとわかって製油所の装置を停止する工程に入っていたが、製油所構内の道路と(排水)集積系統が洪水で冠水してしまったと話している。暗渠は閉止されており、製油所内の含油水は封じ込められていた。フィリップス社は、現在、構内の植生や土の上に残っている光沢上のもののクリーンアップ作業を進めている。
 光沢上のものは、8月30日(木)に製油所排水口近くの川でも見つかったが、このエリアにはオイルフェンスが張られた。広報担当は、それ以降、光沢上のものは確認されていないと語った。この二つの問題とも会社側から国家対応センターへ報告されている。
■ 環境保護団体の一つである「スカイ・トゥルース」(Sky Truth)はリモート・センシングとデジタル・マッピング技術を保有しているが、今回のハリケーンによる環境汚染の状況調査に適用し、ウェブサイトでつぎのように述べ、航空写真画像を公開した。
 「先の大きなハリケーン通過後、NOAA(米国海洋大気庁)は沿岸部および浸水区域に航空写真調査飛行を行いました。このため、関係の画像が利用可能となりました。地図上にあなたの知りたい場所をクリックすれば、詳細な画像を見ることができます。例えば、ルイジアナ州ベルチャス南のミシシッピー川沿いで洪水を受けたコノコフィリップス社のアリアンス製油所付近を見てください。水面の油膜がはっきり見えます。しかし、 NOAAが撮影した時点では、油膜は施設内に限定しているように見えます。メキシコ湾岸復興ネットワークのジョナサン・ヘンダーソン氏は今回の流出問題について自らのブログに投稿しています」
NOAAによる航空写真調査飛行から得られた写真によると、ルイジアナ州ベルチャスにあるコノコフィリップスの製油所構内において水面の油膜が確認できる。          (解説および写真はSkyTruthのWebSiteから引用)

補 足 
■  「ルイジアナ州」は、米国南部のメキシコ湾に面しており、州都はバトンルージュ、最大の都市はニューオリンズである。人口は約457万人であるが、2005年のハリケーン・カトリーナなど何度も大型のハリケーンに襲われたため、移転する州民が多く、他の州に比べて人口が伸び悩む傾向にある。
 「ベルチャス」は、ルイジアナ州の南東部のプラックマイン教区にあり、人口約12,600人の町である。

■ 「フィリップス66」(Phillips66)は、スーパーメジャーと呼ばれる石油会社の一つであるコノコフィリップスの系列会社である。2011年7月に石油開発部門と石油精製・販売部門を分割し、石油精製・販売部門は「フィリップス66」という名称の会社になった。フィリップス66はコノコと合併したフィリップス石油のガソリンブランド名である。このフィリップス66というガソリン名は、1927年に米国ハイウェイのルール66でテストを行ったとき、時速66マイルが出たことを記念して付けたものである。 なお、石油開発部門の会社が「コノコフィリップス」の名称を継承している。
 フィリップス66は、ルイジアナ州ベルチャス南のミシシッピー川沿いに精製能力247,000バレル/日のアリアンス製油所を持っている。
     フィリップス66アライアンス製油所  (左側が油漏出のあった場所)   (下はミシシッピー川) 
                                              (写真はグーグルマップから引用)
    23号線から見るアライアンス製油所の発災場所付近   (写真はグーグルマップのストリートビューから引用)

■ 「アメリカ沿岸警備隊」(United States Coast Guard)は、米国の沿岸警備を行う部隊で、国土安全保障省に所属し、人員は約42,000名である。米国では、陸軍、海軍、空軍、海兵隊に次ぐ5番目の軍隊(準軍事組織)として認識されている。沿岸警備や監視のほか、搜索救難や海上汚染の調査まで幅広い任務に当たっている。

■ 「国家対応センター」(National Response Center)は、米国領土において環境に影響を及ぼした石油、化学、放射能、生物学、病原体の汚染に関する情報の報告を一元化する機能と、問題への対応を行う機能をもった連邦政府組織である。NRCでは、新たにオンライン報告システムを導入し、インターネットのユーザーが簡単に事故情報を報告できるようにし、またアメリカ沿岸警備隊の職員が24時間体制で電話による対応を行っている。

■ 「ハリケーン・アイザック」による環境汚染被害は、国家対応センターに報告されただけで93件に上る。このような事態を見て、9月4日(火)、3つの環境団体は、石油、化学、石炭ハンドリング施設に対して事前の対策を行って問題が起こらないようにすべきだったと声明を出した。 Nola.comでは、この情報とともに汚染が起こった場所の写真などを紹介している。
   地図は9月4日(火)までに米国沿岸警備隊の国家対応センターに報告されたミシシッピー川沿いで起こった
  汚染事故を示す。                                (解説と写真はNora.comから引用)
    マトル・グローブ近くにあるキンダー・モーガン・インターナショナル・マリン・ターミナルの貯炭場では囲い用
   の盛り土から石炭が流出                          (解説と写真はNora.comから引用)

     マトル・グローブ近くのプラットフォームにあったタンク数基が損傷し、封じ込めのために展張したオイル
    フェンスを越えて出た油の光沢が見える(プラットフォームの左側)    (解説と写真はNora.comから引用)

所 感
■ 今回の事故はタンクから直接、油が漏洩したものではないと思われる。油膜の広がっているエリアにはタンク施設のほか廃水処理装置とみられる施設がある。事故は9月2日午後に発生と報道されているが、おそらく冠水したときに、含油排水系の地下設備などから油が浮き出たという事故ではないだろうか。ただ、写真で見ると、少量の油が広がったキラキラ程度の漏れでなく、かなりの量のように見える。
 もともと、フィリップス66社から報告をしたのではなく、構外地区の油汚染が製油所からの漏洩によるという第三者からの報告(通報)があったため、フィリップス66社の回答は歯切れが悪く、曖昧な表現が続いている。 大型ハリケーンの襲来、事前の装置停止、電力喪失、洪水による冠水などの問題処理で、製油所内は混乱していたと思うが、冠水しているにもかかわらず、暗渠を閉止して構外に出るのを防止したようにも思える。しかし、今回の油漏れの対応は、会社の隠蔽体質を感じさせ、信頼性を損ねる結果になっている。
■ 今回の事故で一番興味深かった点は「スカイ・トゥルース」のデジタル・マッピング技術である。 NOAA(米国海洋大気庁)の撮った航空写真から環境汚染のあった場所(あるいは無かった場所)をいち早くインターネットで公開している。フィリップス66社は曖昧な発表しかしていないが、スカイ・トゥルース(の写真)は、製油所構内で油漏洩があり、かなり広がっているが、構外には出ていないとはっきり語っている。
 以前、日本の市原でのアスファルト流出事故でも述べたように、海あるいは今回のような洪水エリアでの油漏れの状況は地上から視認しづらい。上空から見ることや航空写真が威力を発揮する。“事故は隠れたがる”といわれ、構内の小さな問題として対処しようとみられるが、環境汚染の問題は隠し通せるものではないと感じる事例である。 

後記; 今回の事故は情報源によって発災の状況や印象の変わる事例でした。 最初は、タンクから漏洩という表現もあり、単純に考えていましたが、発災事業所が事故を否定した発表を見ると、事実は何かよく把握できませんでした。もし、ここで製油所上空から撮った写真がなければ、まとめることができなかったと感じています。いろいろな情報源と航空写真を見ながら、最初に「油漏洩」という言葉を「油漏出」に変え、整理していきました。ちょっとした謎解きのような事例でしたが、これも面白みの一つでしょう。