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2022年10月28日金曜日

ロシアがウクライナのひまわり油タンクをカミカゼ無人機で攻撃

  今回は、20221016日(日)、ウクライナの港湾都市ムィコラーイウにあるエベリ・マリン・ターミナルにあるひまわり油のタンクがロシアの無人航空機によって攻撃された事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災施設は、ウクライナ(Ukraine)の港湾都市ムィコラーイウ(Mykolaiv)のザヴォドスキー地区(Zavodsky)にあるエベリ・マリン・ターミナル(Everi Marine Terminal)である。

■ 発災があったのは、ターミナルにあるひまわり油(Sunflower Oil)の貯蔵タンクである。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 20221016日(日)午後10時頃、ロシアの無人航空機(ドローン)がエベリ・マリン・ターミナルを攻撃した。

■ 目撃者によると、タンクから煙と炎が出ているという。当局によると、タンクにはひまわり油が入っており、貯蔵タンクが損傷して、漏れた油に火がついた。

■ 火災発生に伴い、消防隊が出動し、消火活動を行った。

■ ロシアの無人機攻撃により、17,500トンのひまわり油を貯蔵しているタンク2基が損傷し、ターミナル構外の道路にひまわり油が溜まっている。ターミナルでは、世界のひまわり油貿易の17%を扱っていた。

■ ドローンは“カミカゼ無人機”と呼ばれるイラン製の攻撃用無人航空機であるといわれている。ウクライナ当局はイラン製の無人航空機シャヘド-136Shahed-136)であるとみられる。イラン製の無人航空機がロシアーウクライナ戦争で使用されたのは1か月前の913日で、ウクライナ軍がハルキウ州クプヤンシク近くでドローンを撃墜し、確認された。1017日(月)、イランはロシアに無人機を供給していることを繰り返し否定した。クレムリンはコメントしていない。

■ ロシアは14機の無人航空機シャヘド-136を発射した。ウクライナ軍は11機の無人航空機を撃墜したが、残りの3機がエベリ・マリン・ターミナルの目的地まで飛行し、ひまわり油タンクと医薬品倉庫が被災した。

■ ユーチューブに火災の状況と消火活動について映像が投稿されている。YouTubeПожежа на підприємстві після атаки дронів-камікадзе神風無人機がムィコラーイウ地域のひまわり油タンクを標的に)2022/10/17を参照)



被 害
■ タンク・ターミナル内のひまわり油タンク2基(1基あたり7,500トン)が損傷した。1基はタンク側板に無人航空機の自爆により穴が開き、内部のひまわり油が漏洩した。タンク以外にも設備損傷があるとみられるが、全被災状況はわからない。 

■ ひまわり油タンク内に入っていた油が堤内火災で焼失した。油の一部が構外に流出し、道路上に溜まり、雨水排水系に流れた。

■ 死傷者は出なかった。

< 事故の原因 >

■ 戦争による軍事行動(無人航空機の自爆)である。(平常時の“故意の過失”に該当)

< 対 応 >

■ 消防隊は、約2時間、火災の消火活動を行った。主に堤内火災で、火災面積は1,000㎡だった。

■ ユーチューブに、ひまわり油が構外の道路上に流出している状況の映像が投稿された。YouTube「Дроныв Николаеве повредили цистерны с тысячами тонн подсолнечного масла — онотечет по улицам」ムィコラーイウのドローンは、数千トンのひまわり油タンクを損傷した-それは道路に流れる)2022/10/17を参照)

■ ウクライナ最大の港のひとつであるムィコラーイウは、ロシアの侵略が始まった時点で出荷を停止したが、ウクライナは国連とトルコが仲介した協定の下で食料の出荷ができるように港を開いた。しかし、ロシア占領下のヘルソン地域に近いムィコラーイウは、ここ数か月、絶え間なく砲撃を受けている。マリン・ターミナルは、6月と8月に少なくとも2回、攻撃を受けていた。住民のひとりは、「これは完全に民間の施設です。軍隊はいません」といい、攻撃は「経済を破壊し、食糧安全保障を破壊する」ためだと述べた。




補 足

■「ウクライナ」(Ukraine)は、東ヨーロッパに位置し、南に黒海と面する人口約4,500万人の国である。天然資源に恵まれ、鉄鉱石や石炭など資源立地指向の鉄鋼業を中心として重工業が発達している。

 2022224日(木)、ロシアが、突如、ウクライナに侵攻し、軍事衝突が起こった。

 ロシアがウクライナに侵攻して以降、タンクへの攻撃を紹介したのは、つぎのとおりである。

  ●「ウクライナ各地で石油貯蔵所が攻撃によってタンク火災」20223月)

  ●「ウクライナ各地の石油貯蔵所がミサイル攻撃によってタンク火災」20224月)

  ●「ウクライナで化学工場の硝酸タンクがロシアの攻撃で爆発」20226月)

  ●「ロシアのベルゴロド石油貯蔵所にヘリコプターによる攻撃」20225月)

  ●「ロシアのふたつの石油貯蔵所でタンク爆発・火災、テロ攻撃か」20224月)

  ●「ウクライナのクリヴィー・リフの石油貯蔵所がミサイル攻撃でタンク火災」20229月)

「ムィコラーイウ」(Mykolaiv)は、ウクライナの南部に位置し、ムィコラーイウ州の州都で人口約50万人の港湾都市である。ミコライフと表記されることもある。

■「ひまわり油」(Sunflower)は、ヒマワリの種子を原料とした油脂で、主に食用油として用いられている。可燃性物質であるが危険物ではないので、石油のような物性・性状は分からないところが多いが、ひとつのデータとして比重0.91.0、引火点290℃、沸点440℃という性状値があり、石油としては重油相当のオイルではないかと思われる。

■「発災タンク」は17,500トンと報じられているが、詳細はわからない。ムィコラーイウのザヴォドスキー地区にあるエベリ・マリン・ターミナルについてグーグルマップで調べたところ、側板が白一色の円筒タンクと側板に一本の帯が書かれたタンクが複数基並んでいる被災写真のタンク配置と似たところがあった。このタンク配置では、それぞれ4基ずつあり、側板が白一色の円筒タンクは直径約18mで、高さを約30mと仮定すると、容量は約7,600KLとなる。もうひとつのタンク側板に帯の書かれた円筒タンクは直径約18mで、高さを約20mと仮定すると、容量は約5,100KLとなる。タンク側板に帯の書かれた円筒タンクも被災している写真があり、側板の穴から内部の液が漏れているが、すでに消火活動は終わっており、水ではないかと思われる。

■「無人航空機シャヘド-136」(Shahed-136)は、イランの兵器メーカーのHESAIranian Aircraft Industrial Company)によって開発された無人航空機(ドローン)で、弾頭を搭載して標的に突っ込む自爆ドローンでカミカゼドローンとも呼ばれている。自爆ドローンはミサイルに代わる安価な精密誘導兵器として各国で開発され、配備が進んでいる。その中でも先行しているのが中東のイランである。最新の無人航空機の一つがシャヘド-136で、202112月に初めて公けになった。

 全長は3.5m、重量は200kg、弾頭重量は40kgで、自爆ドローンとしては比較的大型である。デルタ翼を採用した翼と胴体一体型の設計で、翼より先の機首は弾頭と誘導に必要な機器が納められている。プロペラ翼で飛行するが、離陸時は専用のランチャーとロケットアシストで加速させる必要がある。最高速度は時速185km、航続距離は少なくとも1,000kmである。飛行高度は604,000mで、エンジンは中国製エンジンの民生品を搭載しているので、騒音が激しく数km先から接近しているのが分かるという。通信衛星機能を搭載していないと思われ、GPSGlobal Positioning System)の座標をもとにした自律飛行だとみられる。YouTube「ロシアの新たな長距離攻撃兵器、イラン製自爆ドローン「Shahed 136」とは」2022/10/18)を参照)

所 感

カミカゼ無人機と呼ばれる無人航空機の自爆であるが、これまでのミサイル攻撃とは異なる被災状況である。

 ● 被災は複数タンクに及んでいるが、タンク火災にはなっていない。石油でなく、ひまわり油による影響かもしれない。

 ● 火災は堤内火災および周辺の火災である。

 ● タンク側板に穴が開いているほか、破片がほかのタンク側板や設備に当たっている。

 夜だったため、写真では炎が大きく映り、タンクの火災のように見えるが、ミサイル攻撃より損傷状況は大きくない。今回のテロ攻撃では、タンク火災がなく、被災状況は予想以上に小さいといった印象である。

■ ウクライナでは、異常な戦争状態が続いているためか、消防隊による消火活動は手際よくやっているように感じる。無人航空機(ドローン)によるテロ攻撃に鑑み、日本国内のテロ対策について考えるべき事項は、ウクライナでの石油貯蔵所へのミサイル攻撃と同様、つぎのとおりである。 

  ● 防油堤内の火災を想定すべきである。タンク側板に穴があくような被災を受けると、堤内火災が起こり、被害が周辺に拡大する。

 ● 堤内火災では大容量泡放射砲のシステムは有効でなく、今回の事例でも高発泡の泡消火モニターが使用されており、堤内火災用の高発泡設備が必要である。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

   Reuters.com,  Russian drones hit sunflower oil terminal in Ukraine‘s Mykolaiv – officials,  October 17,  2022

    Tankstoragemag.com, Ukrainian port city hit by Russian drones,  October 18,  2022

    Sabcnews.com, Russian drones hit sunflower oil terminal in Ukraine’s Mykolaiv,  October 17,  2022

    English.alarabiya.net, Russian missile strikes apartment building in Ukraine’s Mykolaiv,  October 18,  2022

    Euractiv.com,  US holds Russia responsible of ‘war crimes’ after drone attack hits Kyiv apartment block,  October 18,  2022

    Indianexpress.com, Watch: Russian drones hit sunflower oil tanks in Ukraine, roads flooded with oil,  October 19,  2022

    Franknews.globa, US condemns Russian ‘war crimes’,  October 18,  2022

    Mind.ua, В Миколаєві дрони-камікадзе пошкодили термінал, через який іде 17% світового експорту олії,  October 17,  2022


後 記: 今回の一報を見ると、タンク火災という情報でした。しかし、調べていくと、堤内火災または周辺火災で、しかも、消防隊による消火活動で2時間(数時間という情報もありましたが)で収束させています。ひまわり油だったからかも知れません。ひまわり油の性状をインターネットで検索したのですが、食用油なので、危険性のデータはなかなか出てきませんでした。使用済みの食用油はバイオディーゼル燃料になるくらいですから、軽油やA重油相当のオイルでしょう。そんなオイルのタンクを攻撃対象にすることが理解できません。(もともと戦争による軍事行動を普通の常識で理解しようというのが無理) 「国別の世界のひまわり油生産」(Atlasbig.com)によると、つぎのとおりです。(「経済を破壊し、食糧安全保障を破壊する」ためという話がまことしやかに聞こえますね)


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