今回は、2021年12月18日(土)、山口県岩国市にある日本製紙㈱岩国工場でタンク洗浄中に硫化水素中毒でふたりが負傷して事例を紹介します。
< 発災施設の概要 >
■ 発災があったのは、山口県岩国市飯田町にある日本製紙㈱の岩国工場である。
■ 事故があったのは、製紙工場の木をパルプにする工程にある容量約10㎥のタンクである。
<事故の状況および影響
>
事故の発生
■ 2021年12月18日(土)午後1時10分頃、日本製紙岩国工場で社員がタンク洗浄中に倒れて意識がないという通報があった。
■ 発災に伴い、消防署の救急車が出動し、現場で社員2名を病院に搬送した。 2人のうちひとりの社員(20歳代)が意識不明の重体で、もうひとりの社員(50歳代)は喉に痛みを訴える軽傷である。
■ 消防によると、現場付近には何らかの液体が入ったタンクがあり、消防はこのタンクから硫化水素が漏れた可能性があるとみて原因を調べている。
■ 岩国地区消防組合によると、現場で硫化水素を検出したが、工場外への漏れは無いという。
■ 日本製紙によると、社員2人は、木をパルプにする工程にある容量約10㎥のタンクを酸性の液体を使って洗浄していたという。
被 害
■ 人的被害として負傷者2名が発生した。
■ 物的被害や生産への影響は不明。有害物質の漏洩があったが、所外の環境への影響はなかった。
< 事故の原因 >
■ 事故の原因は、硫化水素の発生した可能性のあるタンク内からガスが漏れ出て、硫化水素中毒を起こしたとみられる。
< 対 応 >
■ 日本製紙によると、もともと硫化水素が発生する作業で、なぜ誤って吸ったかは調査中とのことである。 硫化水素は無色のガスで刺激臭があり、高濃度で吸うと意識混濁や呼吸マヒの症状が現れる。
補 足
■ 「岩国市」は、山口県の最東部に位置し、瀬戸内工業地域の一角を担う人口約127,000人の市である。
■ 「日本製紙㈱」は、日本第2位(世界8位)の製紙業会社で、三井グループと芙蓉グループに属し、全国に12の工場を擁している。
「日本製紙㈱岩国工場」は、 1939年(昭和14年)6月山陽パルプ工業㈱の岩国工場として操業開始し、現在は印刷出版用紙、情報用紙、外販用パルプを製造している。岩国工場のパルプ設備能力は木材パルプ1,800トン/日、年間生産量紙555,610トン、従業員555名、 敷地面積1,073,000㎡である。 岩国工場は合併の繰返しで、1972年に山陽パルプと国策パルプ工業が合併して山陽国策パルプ㈱となり、 1993年に十條製紙と山陽国策パルプと合併し、日本製紙㈱となった。
■ 事故があったのは「木をパルプにする工程」と報じられており、日本製紙の木材パルプ製造工程の例を図に示す。発災は容量約10㎥のタンクであるが、どの工程に使用されていたかは分からない。容量10㎥は直径2.5m×高さ2.5mほどのタンクである。日本製紙によると、酸性の液体を使って洗浄しており、もともと硫化水素が発生する作業であったという。
所 感
■ 今回の事故は、状況がよく分からない。タンク洗浄中に起こったものであるが、 2名の被害者うち、ひとりの社員(20歳代)が意識不明の重体で、もうひとりの社員(50歳代)は喉に痛みを訴える軽傷だという。印象としてはタンクへの入槽作業ではないと思われるが、硫化水素の濃度と症状からすれば、5~350ppmの硫化水素が漂っていたと思われる。
■ 本ブログで取り上げた硫化水素に関わるタンク事故は、2018年以降だけでつぎのように3件ある。
●2021年7月、「宮城県女川原子力発電所で洗濯廃液タンクから硫化水素漏れ(原因)」
(「宮城県女川原子力発電所で洗濯廃液タンクから硫化水素漏れ、7名体調不良」)
●2019年2月、「大阪府のカーペット製造会社でタンク清掃時に転落、2名死亡」
●2018年6月、「石川県の製紙工場において溶剤タンクで死者3名」
■ 硫化水素の事故では、善意の行動が裏目に出た事例がある。一方、酸素欠乏危険作業になるのに、防護措置(酸素マスク)をせずに作業や救助しようという無謀な事例もある。日本製紙岩国工場は、今回の事故について同社のウェブサイト(ニュースリリース)で何ら情報を出していない。世の中は硫化水素による事故が多いので、是非、調査結果を教訓とともに公表してもらいたい。(後記を参照)
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Chugoku-np.co.jp, 日本製紙岩国工場でタンク洗浄中の社員1人重体 硫化水素検出, December 18,
2021
・Sankei.com, 山口・岩国の日本製紙工場でガス漏れか、1人重体, December 18,
2021
・Asahisinbun, 硫化水素中毒? 製紙工場で男性重体, December 20,
2021
後 記: 今回の事故については、メディアの報道のほかインターネットのSNSで流れています。例えば、「3年前に石川県の製紙工場で同じような硫化水素中毒による死亡事故があったことを思い出しました。社員の方が回復されますように」、「マイナーな業界ってやばい工程の人手作業を平気で残していて怖い」、「若いし、硫化水素扱い資格を持ってなかったんだろうか。硫化水素の事故が起きるのは管理者のせいですよ。守るべきルールを守らないから、最近、工業系の事故が増えているんです」、 「日本製紙が安全対策マニュアル作成して作業指示していたのか、作業員が指示どおり作業していなかったのか、防毒マスクや換気していたのか?」、 「質問1; 労働安全衛生法違反?・・・第二十四条 事業者は労働者の作業行動から生じる労働災害を防止するために必要な措置を講じなければならない。 質問2; 労働者が声をあげて改善すべきだった?」 などで、状況が分かっていないだけに素朴な疑問が多いですね。このまま労働基準監督署に報告書を出して終わりじゃ、このような疑問をもった人はもっと多いはずで、日本製紙(岩国工場)に悪い印象残したままですね。
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