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2022年10月22日土曜日

群馬県の香料工場の円筒タンクで一酸化炭素中毒、死傷者3名

 今回は、2022915日(木)、群馬県板倉町の食品用香料などを製造する工場で、香料の製造作業に従事していた社員が円筒タンクで一酸化炭素の中毒で死傷者3名の出た人身災害を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、群馬県板倉町大蔵にある食品用香料などを製造する長谷川香料(株)の板倉工場である。

■ 事故があったのは、板倉工場内にある直径約120cm×高さ約170cmの円筒タンク(円柱タンク)である。タンクはコーヒーの香りがついた液体を入れるためのものである。


< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2022915日(木)午前11時頃、工場内で香料の製造作業に従事していた社員3人が体調不良になったという消防署への119番通報があった。

■ 通報にもとづき消防署が出動し、3人の社員は病院へ搬送された。いずれも男性で、48歳の男性が死亡し、30歳の男性は意識不明の重体で、41歳の男性社員は体調不良を訴えた。

■ 3人は、コーヒー豆を蒸留させたベーパーを冷却して香り付きの液体にし、タンクに移す工程で作業していた。 ふたりの男性社員がタンク内に倒れていた。通常はタンク内に入ることはないという。

■ 事故状況については報道記事によって、つぎのように微妙に違う。

 ● 30歳の男性社員は、タンク内にいた48歳の男性社員を外に出そうとタンク内に入り、さらに41歳の男性社員も駆け付け、タンク上部の直径約45cmの開閉式のふたからタンクの外に救出した。当時、タンク内に液体はなかったという。

 ● 41歳の男性社員がタンク内にいる2人に気付き、タンク上部の直径約45cmの開閉式のふたから救出した。

 ● タンクの中で意識を失った48歳の男性社員を別の30歳の男性社員が助けようとしているのを、周囲にいた男性社員が見つけ消防に通報した。通報を受けた消防が駆けつけたところ、タンクの中にいた2人はいずれも意識不明で、周囲にいた41歳の男性社員も頭痛とめまいの症状を訴えて病院に搬送された。

 ● 30歳の男性社員は、倒れていた48歳の男性社員を外に出そうとタンクに入ったという。その後、タンク内から大声が聞こえて、41歳の男性社員がふたりの救助に当たったが、体調不良を訴え救急搬送された。

■ タンク内から高濃度の一酸化炭素(CO)が検出されており、警察署は中毒になったとみて調べている。

被 害

■ 一酸化炭素中毒で男性従業員3名の死傷者が出た。1名が死亡し、1名は意識不明の重体で、1名は体調不良で病院へ搬送された。

< 事故の原因 >

■ 死傷者が出た原因はタンク内に存在していた一酸化炭素の中毒である。通常、タンク内に入ることはなく、当時、なぜ入槽したかなどの事故原因は調査中である。

< 対 応 >

■ 916日(金)、長谷川香料は、「亡くなられた社員のご冥福を心よりお祈 りするとともに、治療中の社員の一刻も早い回復を願っております」という声明を出すとともに、板倉工場の社員らで構成する事故調査委員会を立ち上げると発表した。長谷川香料は、関係省庁に全面的に協力しながら 「早期に事故の原因究明と再発防止策を検討していく」としている。長谷川香料は自社のウェブサイトにもプレスリリースを掲載している。

■ 916日(金)、労働基準監督署は工場の立入り調査に入り、安全管理に問題がなかったかを調べる。

■ 警察署によると、タンク上部に直径約45cmの開閉式のふたがあり、外から薬剤などを投入するためのものだという。通常は香料の製造作業中にタンク内に人が入ることはなく、同署は2人が何らかの理由で自ら入ったか、誤って落下したか当時の状況を詳しく調べている。

■ 916日(金)、長谷川香料によると、板倉工場は事故が発生した設備を除き、稼働を再開しているという。

補 足

■「群馬県」は、日本列島の内陸東部に位置し、関東地方の北西部にあり、人口約191万人の県である。

「板倉町」(いたくらまち)は、群馬県邑楽郡(おうらぐん)にあり、県の南東部最東端に位置する 人口約13,700人の町で、関東大都市圏に入る。

■「長谷川香料(株)」は、1903年の長谷川藤太郎商店創業に始まり、1961年に長谷川香料株式会社として設立された。 東京都中央区に本社を置く日本の香料メーカーで、国内2位のシェアを誇り、特に飲料用に圧倒的シェアを持っている。

 「板倉工場」は、1984年に食品部門の香料製造のために建設された。敷地面積:171,316㎡、従業員:231名の工場である。

■「香料の生産方法」は、原料、工程、素材、製品によって各種方法があり、概要を図に示す。

 素材は一般に天然香料と合成香料に分類され、天然香料は動植物から抽出、圧搾、蒸留などの物理的手段や酵素処理して得る。蒸留は「水蒸気蒸留」(Steam Distillation for Essential Oil Extraction)が一般的であり、採油する目的のもの(水に溶けやすいものが少ないもの)を水蒸気蒸留釜に詰め、水蒸気を吹き込み加熱し、熱水と精油成分が留出してくるので冷却して液体に戻し、精油を分離する。香料の水蒸気蒸留プロセスの概念図と水蒸気蒸留装置の例は図に示す。今回の事故の報道では、「3人は、コーヒー豆を蒸留させたベーパーを冷却して香り付きの液体にし、タンクに移す工程で作業していた」とあり、 「水蒸気蒸留」による作業をしていたものと考えられる。

所 感

■ 今回の事故状況は報道記事によって微妙に違うが、これまでの類似事例からつぎのような状況ではないかと類推する。

 ● 48歳の男性社員はタンク内に何らかの支障に出るものを見つけ、それを解消させようとタンク内に入ったのではないだろうか。善意の行動が裏目に出たと思われる。

 ● タンク内は一酸化炭素が充満または漂っていたため、 48歳の男性社員はタンク内で倒れた。一酸化炭素は、無色・無臭で感知しにくい気体であり、空気比0.967と空気とほぼ同じ重さの強い毒性を有している。

 ● 30歳の男性社員は、48歳の男性社員の行動を見ており、倒れた男性社員を外に出そうとタンク内に入った。この30歳の男性社員も倒れた。これも善意の行動が裏目に出た。

 ● 30歳の男性社員はタンク内に入る前に助けを得ようと大声で叫んだ。気づいた41歳の男性社員はタンク内をのぞいたところ2人が倒れているのに気付いたが、酸欠などで倒れたと思われるふたりを助け出すことは無理だと判断し、消防署へ通報した。 41歳の男性社員はタンク内をのぞいて状況を確認した際、一酸化炭素を吸い、体調が悪くなった。

 ● 消防署が駆け付け、タンク内の空気をガス検知器で確認したところ、タンク内から高濃度の一酸化炭素(CO)が検出された。消防署員は防毒マスクを装着して倒れたふたりを救出した。直径約120cm×高さ約170cmの円筒タンク内で倒れたふたりを直径約45cmの開閉式のふたから救出するのはかなり難しい作業だっただろう。

 ● 一酸化炭素は、濃度0.16%だと20分間で頭痛・めまい・吐き気、2時間で死亡する。濃度0.32%だと、510分間で頭痛・めまい、30分間で死亡する。濃度0.64%だと、12分間で頭痛・めまい、1530分間で死亡する。濃度1.28%では13分間で死亡するといわれている。

■ 製造方法は異なり、抽出法であるが、コーヒー豆から発生した一酸化炭素による中毒の事例がある。事例は、わかりやすく他社の人向けに作成された資料がある。このような資料を使って人身災害が出ないようにするのがよい。

 一酸化炭素ではないが、このブログでは、硫化水素などの中毒や酸素欠乏症で起こったタンク関連の人身災害について紹介しており、つぎのような事例がある。

 ●「石川県の製紙工場において溶剤タンクで死者3名」20186月)

 ●「大阪府のカーペット製造会社でタンク清掃時に転落、2名死亡」20192月)

 ●「北海道のでんぷん工場で男性が点検中にタンクへ転落か、死亡確認」 202010月)

 ●「日本製紙岩国工場においてタンク洗浄中に硫化水素中毒2名」 202112月)


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

  ・Jomo-news.co.jp, 香料工場事故3人死傷 製造作業中、CO中毒か 群馬・板倉町,  September 16,  2022

    T-hasegawa.co.jp, 当社社員死亡事故について(長谷川香料株式会社),  September 16,  2022

    Mainichi.jp, 香料工場で男性作業員死亡 一酸化炭素中毒か 群馬・板倉,  September 15,  2022

    Jomo-news.co.jp, 会社が事故調査委 板倉の香料工場3人死傷事故,  September 17,  2022

    Sankei.com, 香料工場で1人死亡 群馬、一酸化炭素中毒か,  September 15,  2022


後 記: 今回の事故は一か月前に起こったものですが、忙しいことと事故状況がはっきりしないこともあり、まとめを行いませんでした。というのも、上毛新聞というローカルメディアがあり、発災事業所はウェブサイトにプレスリリースを投稿していますので、続報が出ることを期待しました。しかし、被災者が死亡し、状況を把握している人がいないため、確証がとれないので、調査が難航しているのでしょう。このブログでは事故の再発を防止するという観点から、所感ではかなり類推したことを書きました。

 ところで、今回、香料メーカーという分野を初めて調べて初めて知ることが多々ありました。そのひとつは、香料の分野には、特許というものがありません。香料の製造は繊細であり、ノウハウの塊だそうで、特許を出さない方が自己防衛になるそうです。製造プロセスを調べられると、しゃべることができないところもあるかも知れませんね。

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