ヌエボ・レオン州サンファン川へ流出した原油のクリーンアップ作業
(写真News.vice.com
から引用)
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<事故の状況>
■ 2014年8月16日(土)、メキシコのヌエボ・レオン州
でパイプラインからの油漏洩があり、近くの河川へ流出する事故があった。事故があったのは、メキシコ国営石油のペメックス社(Petroleos
Mexicanos: Pemex)所有のパイプラインで約1,500トンの原油が漏洩し、ヌエボ・レオン州北部にあるサンファン川へ流出して流域に環境汚染をもたらした。漏洩の原因は油窃盗の失敗によるものだとみられる。
ヌエボ・レオン州モンテレイ付近 (手前はカデレイタにあるペメックス社の製油所)
(写真はグーグルマップから引用)
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■ ペメックス社は、8月17日(日)、同社のマデロ-カデレイタ・パイプラインにおいて油を窃盗するため呼び径24インチの配管に抜出し口を付けようと試みて失敗して破裂し、油が漏洩したと発表した。パイプラインは近くのペメックス社カデレイタ製油所へ原油を移送するためのものだった。同社は、違法な抜出し口を付けようとしたパイプラインは制御下に入っていると語った。
■ メキシコ国家水資源委員会のデビット・コレンフェルド委員長によると、流出はサンファン川の流域6kmに広がったが、オイルフェンスによって囲い込まれたといい、コレンフェルド委員長は、「この流出区域のクリーンアップは2~3か月かかるだろう」と語った。さらに、コレンフェルド委員長は、河川が汚染された区域に暮らす住民に取水しないよう助言したと付け加えた。流出場所はヌエボ・レオン州の州都であるモンテレイから約40km離れたところになる。
■ 環境省のファン・ホセ・ゲラ・アブド氏は、8月26日(火)、サンファン川へ流出した油量は4,000バレル(630KL)近くとみられると語った。ゲラ・アブド氏は、「ペメックス社に確認したところ、本日までにクリーンアップは60%以上完了したとのことだった」と語った。
国家水資源委員会のコレンフェルド委員長は、「私たちはペメックス社に作業を急ぐように要請しています。というのも、数日中に雨の降る予報があり、その雨も通常より多いとみられるので、そうなれば油汚染が広がってしまいます」と語った。ペメックス社の安全・環境部のムズクイズ・マルティン・ルイス部長は、クリーンアップのため100名を超える作業員を雇用して対応していると報告した。
■ 9月3日(水)、ペメックス社は油窃盗失敗による油の流出量が1,500トンを超えるとみていると報じている。当局は、油の帯がすでに8kmに延びているといい、今後数日から数週間の雨の予報によってさらに油汚染が広がっていくことを懸念していると語った。汚染源の下流にはエルクチロ・ダムがあり、雨水はダムの方へ流れる。このダムはメキシコ第三の都市であるモンテレイの飲料水源になっている。この水系は飲料水源のほか農業用灌漑にも使われているが、汚染源は48kmしか離れていない。
■ 9月3日(水)のペメックス社の報道発表によると、汚染区域でクリーンアップに従事している作業員は500名以上にのぼり、流出油の90%を回収したと述べている。また、ペメックス社は水から油を回収するため、6台のスキマー装置と28台のバキューム車を投入していると語った。
しかし、前の週の月曜(8月25日)、漏洩は封じ込められ、現場の懸命の努力によって今週初めには終了する見込みだとペメックス社は語っていた。一方、国家水資源委員会は、油の回収が終わっても、必要なクリーンアップ作業が続くとみていた。国家水資源委員会は、必要な作業は3か月以上かかるだろうと予想している。
■ サンファン川へ油を漏洩したマデロ-カデレイタ・パイプラインは、油窃盗と石油闇市場に暗躍している犯罪組織の活動地区を通っている。これらの犯罪活動は日常化している。2010年12月には、プエブラ州サン・マルティン・テスメルカンにおいて、違法な石油窃盗の失敗によって生じた漏洩油の爆発で30名が亡くなるという事故が起こっている。
(写真は両方ともNews.vice.com
から引用)
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(写真は両方ともNews.vice.com
から引用)
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(写真はTelesurtv.netから引用)
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(写真は両方ともElmercurio.com.mx
から引用)
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補 足
■ 「メキシコ」は、正式にはメキシコ合衆国で、北アメリカ南部に位置する連邦共和制国家である。人口約1億2,200万人で、首都はメキシコシティである。
「ヌエボ・レオン州」は、メキシコの北東部に位置する州で、人口約465万人の州である。州都は人口約114万人の「モンテレイ」で、メキシコ第三の都市である。
メキシコには国内に6製油所があり、いずれもペメックス社が保有し、合計の精製能力は154万バレル/日である。東部メキシコ湾岸にシウダード・マデロ(Ciudad Madero)製油所 (19.0万バレル/日)、北部内陸にカデレイタ(Cadereyta)製油所
(27.5万バレル/日)を保有している。
シウダード・マデロ製油所では、2014年7月22日、「メキシコのペメックス社でタンク火災、負傷者も発生」する事故があり、従業員23名が負傷した。
■ 「マデロ-カデレイタ・パイプライン」の詳細はわからないが、東部メキシコ湾岸のシウダード・マデロからカデレイタ製油所へ原油を移送する呼び径24インチのパイプラインである。
ペメックス社の石油施設では、
2010年12月のプエブラ州においてパイプライン石油窃盗の失敗によって生じた漏洩油の爆発で30名が亡くなるという事故のほか、
2013年7月にもパイプライン石油窃盗の失敗で爆発事故があり、7名の負傷者が出ている。このほかに、2012年8月には、タンカーに原油を荷役するときに使用するブイが沈没して海上に原油が流出する事故があり、油汚染された地域のクリーンアップ作業が行われている。
2012年9月には、レイノサにあるガスプラントで火災があり、26名が死亡する事故が起こっている。
2010年12月プエブラ州における爆発事故現場 2012年8月海上への原油流出事故現場
(写真は左:
AFPBB.comから引用、右:Banderasnews.com から引用)
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■ パイプラインの油窃盗の方法は「ホットタッピング」によるものと思われる。もともとはパイプラインの内容物を抜かずにバルブを切り込んだり、バイパスラインを設置するために開発された工法である。パイプラインに枝管(バルブ付き)のノズル部を溶接し、ホットタッピング・マシンという特殊な穿孔機を使用してパイプラインに孔を明け、抜出し口を設ける。通常はパイプラインの流れを一時的に止め、内圧を下げてから溶接工事や穿孔工事を行なう。パイプラインからの油窃盗では、当然、内圧がかかったままであるので、極めて危険な工事である。
ホットタッピング・マシンの例
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メキシコにおける油窃盗の現場の例
(写真は左:24-horas.mxから引用、右:Diariodelatarde.mx
から引用)
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所 感
■ 緊急事態発生時の危機管理の観点でみると、対応の体制がなっていない。通常(の国)であれば、地方自治体の緊急対応部隊や環境保全部署が主管して対応するが、 ペメックス社が国の組織体制のためか、まったくペメックス任せの対応になっている。また、原油流出が油窃盗という原因でペメックス社自体も被害者意識のためか、積極的とはいえず、対応が後手後手に回っている。元来、公共エリアでの油流出事故の対応(クリーンアップ)は責任や役割が曖昧になる傾向があり、対応について事前の危険予知によって問題点を抽出して備えておく必要がある。
■ パイプラインや貯蔵タンクからの油窃盗という事故(事件)は、日本では考えられない話であるが、メキシコだけでなく、アフリカや中国でも社会問題になっているという。
しかし、日本でもまったく油窃盗事件がないかというと、そうではない。2014年2月22日、北海道十勝鹿追町のJA給油所の貯蔵タンクから灯油約8,200リットルが抜き取られるという窃盗事件が起こっている。現在では、貯蔵タンクやパイプラインからの油窃盗が起こらないという予断は持つべきではない。
備 考
本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Reuters.com,
Oil Spill that Fouled Mexican River Will Take Months to Clean up, August 21,
2014
・Telesurtv.net, Clean-up Starts on
Mexican Oil Spill, August 26, 2014
・Online.WSJ.com,
Pemex Oil-Spill Cleanup of Mexico River
Is 90% Complete, August 28, 2014
・News.vice.com,
A Massive Oil Spill Is Threatening Mexico's Third Largest City's Water Supply,
September 03, 2014
・Firedirect.net,
Mexico-Pemex Says It’s Recovered 90% of Oil
Spilled into River, September 03, 2014
・Banerrasnews.com,
Pemex Ordered to Clean Up Oil Spill,
August 27, 2012
・Tokachi.co.jp, 給油所で灯油8000リットル盗難被害, January
22, 2014
後 記: 1970年初め頃の原油価格は2~3ドル/バレルだったものが、現在では100ドル/バレルを超える状況です。水より安いと言われた昔の安価な時代を知っている人にとって、石油の窃盗などは考えられないですが、社会の状況が変わったことを感じる事故(事件)です。
社会の状況変化といえば、このブログの後記に何回か紹介している出光徳山製油所の精製設備の閉鎖・解体工事ですが、流動接触分解装置(FCC装置)がほとんど解体されました。1957年(昭和32年)に当時の最新のガソリン製造装置として建設されたものです。今年、群馬の富岡製糸場が世界遺産に登録され、注目されましたが、石油工業の施設は文化財としての話などはなく、可哀想なものですね。
再生塔も半分解体されたFCC装置
(手前は新幹線の高架用柱)
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