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2022年10月18日火曜日

ペルーの原油パイプラインで油漏洩、熱帯雨林から川へ流出

 今回は、2022916日(金)、ペルーのアマゾン地域の熱帯雨林に敷設されているペトロペル社の原油パイプライン(ノルペルアーノ・パイプライン)で起きた油漏洩事故について紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災施設は、ペルー(Peru)の国営の石油企業であるペトロペル社(Petroperu)の原油パイプラインである。

■ 事故があったのは、ペルーのアマゾン地域から熱帯雨林を通って太平洋岸に原油を輸送するノルペルアーノ・パイプライン(Norperuano)である。ノルペルアーノ・パイプラインは、長さ1,106kmで原油をロレート県の北東部から太平洋岸のピウラ県(Piura)バヨバル(Bayovar)の港まで輸送するもので、建設から40年以上経っている。



< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2022916日(金)、ペルーのアマゾン地域の熱帯雨林に敷設されている原油パイプラインの55km地点で油漏洩が発生した。

■ 923日(金)、漏洩油はアマゾンの重要な支流のマラニョン川(Maranon)に向かって流れていき、先住民族の住む熱帯雨林の川に流れ出した。流出油の影響はククマ民族(Kukumas)など少なくとも6つの先住民コミュニティに与えている。ペルーの環境省は、流出量は少なくとも 2,500 バレル(398KL)であると推定している。パイプラインを管理しているペトロペル社は流出量を発表していない。

■ 現場に近い先住民コミュニティは油流出に抗議し、マラニョン川を封鎖した。封鎖によって、当局が水のサンプルを採取したり、先住民コミュニティに医薬品を配布することができないという。

■ ペルーは小規模な産油国で1日あたり40,000バレル(6,360KL)しか生産していないが、その油田はアマゾンに集中している。

■ 924日(土)、ペルー政府は、川が油流出の影響を受けている2つの先住民の居住地域であるクニニコ(Cuninico)とウラリナス(Urarinas)コミュニティで90日間の非常事態を宣言した。この地域には、漁業に依存する約2,500人の先住民が暮らしている。

■ ペトロペル社の声明によると、 今回の流出は原油パイプラインを意図的に損傷させた結果だと述べている。事故は意図的にパイプラインに長さ21cmの切り込みを入れたことが原因であると主張している。1月以降、11回目の攻撃による被災だという。

■ ペルー国立鉱業・石油・エネルギー協会(Peru’s National Society of Mining, Petroleum, and Energy; SNMPE)は、ノルペルアーノ・パイプラインは2014年以来、少なくとも29件の妨害行為の標的になっていると語っている。ペルーの特別環境検察官がすでに新たな調査を開始している。

■ 近年、ノルペルアーノ・パイプラインの施設では、何度も油の流出事故が発生している。

■ ユーチューブでは、油流出の映像が投稿されている。YouTubeOil spill in Peru‘s Amazon2022/09/29)を参照)


被 害

■ 原油パイプラインが漏洩し、内部の油が少なくとも2,500バレル(398KL)流出した。

■ 環境汚染を引き起こし、先住民族の生活水などに影響を及ぼした。 

< 事故の原因 >

■ ペトロペル社は、第三者が意図的にパイプラインに長さ約21cmの切り込みを入れたことが原因だと主張している。

< 対 応 >

■ ペトロペル社は、 2022916日(金)にクニーニコ川で原油の痕跡があったと報告した。漏れの出発点は、ロレート県ウラリナス地区のノルペルアーノ・パイプラインの42km地点だとみられ、パイプには約21cm の切り込みが確認されたという。これは、第三者が機械工具で行ったものとみられるという。

■ 緊急時対応計画によると、ペトロペル社の緊急対応チームは、自社の職員と請負業者で構成され、最初の封じ込め措置のために現場を訪れ、漏れを制御するために切り口の領域に木製のブロックを配置し、マラニョン川への封じ込めバリアが設置された。

■ 20221月にも、ノルペルアーノ・パイプラインの59km地点で別な油流出事故が起こっており、この油流出に関する報道は、つぎのとおりである。

 ● 120日(木)の夜、ノルペルアーノ・パイプライン59km地点で油漏れの情報があり、121 日(金)午前230分、パトロール隊員が意図的な切り込みによる油漏れだったことが確認された。

 ● ノルペルアーノ・ パイプライン59km地点の油漏れ発生してから15 日後、ロレート県ウラニアスのヌエバ・アリアンサ先住民コミュニティの住民は日常生活に使用する水が汚染されていると指摘した。ペトロペル社は流出を止めるために緊急時対応計画にもとづいて実施したと言っていたが、現場から20分のヌエバ・アリアンサに到達した油の汚濁は油流出が拡大したことを示しており、被害は報告されているよりも大きいとみられる。なお、意図的な切り込みが原因だと報告されているが、先住民コミュニティに影響を与えた環境災害の容疑者はまだ特定されていない。

 ● 27日(月)、ノルペルアーノ・ パイプライン59km地点の油漏れ事故では、損傷を警告する早期警告システム(監視カメラとパトロールで構成)が機能しなかったという。ペトロペル社は、流出量が200300バレル(3248KL)で、事故が大きな環境破壊を引き起こさず、影響は最小限だと語ったという。

 ● 27日(月)、ノルペルアーノ・ パイプライン59km地点の油漏れは、雨によってウリトゥヤク川に到達してしまった。先住民コミュニティは、自分たちが水を採る小川が影響を受けていると説明した。先住民コミュニティは、油が健康にもたらす危険性を知っており、このため、川の水を消費しないことに決め、現在、彼らは雨から集められる水だけに頼っているという。原油の漏洩後、雨が降ってきて、峡谷の水位が 2m近く上昇し、浅瀬から油が流出してしまい、油汚染が拡大している。

 ● オンブズマン事務局は、パイプラインを管理するペトロペル社がさらに被害が拡大するのを避けるためにクリーンアップと封じ込め措置を順守するよう環境評価執行機関(OEFA)に求めた。

■ 53日(火)、ペトロペル社は、パトロール要員によってノルペルアーノ・パイプラインに新たな切り込みが確認されたと非難した。パイプラインは2022213日以降、操業が麻痺しているという。

■ 71日(金)、ペトロペル社は、ノルペルアーノ・ パイプライン67km付近で25か所の意図的な切り込みがあり、前例のないテロ攻撃を受けたと報告した。79日(土)、当初、パイプラインへの切り込みが25か所と報告されていたが、修理の対応作業中に更に7か所の切り込みが確認され、合計32か所だったことが分かった。

■ 729日(金)、ペトロペル社は、ノルペルアーノ・パイプラインの235km地点に第三者の行動による6か所の新しい切り込みの存在が確認されたと発表した。

流出の歴史

■ ある報告によれば、2000年~2019年の間、ノルペルアーノ・パイプラインと関連施設(原油生産や中継基地など)で474件の油流出が発生したという。これらの流出の約 65%はパイプラインの腐食と関連施設の運用上のミスが原因だった。第三者による流出の原因は約29%を占めている。報告書によると、流出はペルーのアマゾン地帯で発生したことが分かった。この報告書についてペルー先住民族の環境監視グループは正確な記録と信じているが、ペルー政府はまだ正式に認めていない。

■ 報告書の作成理由のひとつは、ペルーのアマゾンでの油流出の責任者を特定することだった。企業や政府の声明では、パイプラインに損害を与えた第三者に一貫して責任があるとされている。 「流出が発生するたびに、それは第三者によって引き起こされたものであり、その地域の先住民コミュニティが責任を負っていると言われた」と先住民コミュニティはいう。 パイプラインを構築したエンジニアでさえ、パイプラインを破裂させるにはのこぎりよりもはるかに強力なものが必要になるだろうと語っている。

■ ノルペルアーノ・パイプラインの関連施設にブロック8やブロック192という原油生産施設がある。ブロック81970年から稼働しており、1971年~1996 年までペトロペル社によって運営されていた。その後、プラスペトロール・ノルテ社( Pluspetrol Norte)に譲渡された。プラスペトロール・ノルテ社は過去25年間、ブロック8を管理してきたが、この間、コリエンテス川とマラニョン川の流域に近いロレート県のトロンペテロスとウラリナス地区で油漏れによる罰金と制裁を繰り返してきた。ダテム・デル・マラニョン県のブロック192 でも状況はあまり変わらなかったが、2015年に操業が終了し、油流出に対処されていない修復への苦情が残った。2011年~2021年の間、ブロック 8とブロック192における操業に対して環境評価執行機関(OEFA)によって課された73件の懲戒手続きにより、72 件の罰金が課せられた。罰金の総額は 4,700万ドルを超えている。  

■ 別な報告書によれば、1997年~2021年の間、ノルペルアーノ・パイプライン、ブロック8やブロック192の原油生産施設に沿って流出した事例は533件である。油流出の33%は運用上のミスであり、22.3%は腐食によるもので、31.1%は第三者に関連しており、13.6% は自然災害による原因だった。

 最近でも、顕著な流出事例がいくつか発生している。

 ● 2014年にロレート県のクニーニコで発生した事故では、2,500 バレル(398KL)の油が流出した。

 ● 2016年には、同じくロレート県のモローナで 1,444 バレル(230KL)が流出した。

 ● 2016年、アマゾナス県のイマザで 3,000 バレル(477KL)が流出した。

 この3つのケースだけで、約7,000 バレル(1,110KL)がアマゾンの川、小川、土壌に流出したことになる。この3回の油流出によって、先住民コミュニティは農場を失い、川で魚を釣ることができなかったため、経済的に損害を受けたと述べ、補償を求めていた。また、二度と流出しないという保証を望んでいた。

 ● 20196月、ロレート県で妨害行為による油流出が発生し、先住民1,230 世帯の飲料水が汚染された。




補 足

■「ペルー」(Peru)は、正式にはペルー共和国で、南アメリカの西部に位置し、人口約3,300万人の共和制国家である。北にコロンビア、北西にエクアドル、東にブラジル、南東にボリビア、南にチリと国境を接し、西は太平洋に面しており、首都はリマである。

 ペルーは紀元前から多くの古代文明が栄えており、16世紀までは当時の世界で最大級の帝国だったインカ帝国の中心地だった。その後、スペインに征服され、植民地時代にペルー副王領の中心地となり、独立後は大統領制の共和国となった。民族は、メスティソ(混血)60.2%、先住民(アマゾン先住民等)25.8%、白人系5.9%、アフリカ系3.6%、その他4.5%である。 

 ペルーの国土は大きく三つの地形に分けられ、砂漠が広がる太平洋沿岸部のコスタ(国土の約12%)、アンデス山脈が連なる高地のシエラ(約28%)、アマゾン川流域のセルバ(約60%)である。ペルーは貧富の格差が大きく、特に山岳地域やアマゾン地域においては、貧困層の割合が高く、電力、上下水道・衛生、灌漑などの基礎インフラが十分整備されていないなど経済成長の恩恵から取り残されており、沿岸部と山岳地域・アマゾン地域との格差是正が大きな課題となっている。

■「ペトロペル社」(Petroperu)は、1969年に設立されたペルー国営の石油企業である。原油や天然ガスの探査、開発、輸送、精製、流通、マーケティングを専門とする一貫した石油企業である。

■「ノルペルアーノ・パイプライン」(Norperuano)は1972年に建設が開始され、1978年に完成したペルーの原油パイプラインである。原油採掘地域のロレート県からアンデス山脈を越え、ピウラ県の太平洋岸にあるバヨバルのタンクターミナルまで全長1,106kmである。ノルペルアーノ・パイプラインの輸送能力は10万バレル/日であるが、実際の輸送量は4万バレル/日程度である。

 原油採掘のロレート県からのパイプラインは熱帯雨林(ジャングル)があり、起伏の多い地形を横切ったり、水没したりするため、パイプラインにはエポキシ塗料で保護されており、H型の支柱を使用している箇所もある。北分岐パイプラインとの合流のボルハからは山岳と砂漠地帯で、ポリエチレンテープまたはタール・コーティングで保護されている。

所 感

■ 今回のペトロペル社のノルペルアーノ・パイプラインにおける油流出事故の原因は、第三者による意図的にパイプラインに長さ約21cmの切り込みを入れたことによるものだろう。しかし、破損状況を示す写真などの情報はなく、断言はできないように感じる事例である。

■ はっきりしているのは、ノルペルアーノ・パイプラインのアマゾン熱帯雨林における設置環境が極めて劣悪で、腐食対策はとられているようだが、パイプラインの保守は難しい。パイプラインと原油生産施設における油流出事故は多く、さらに近年、パイプラインに切り込みを入れるテロ攻撃が増えており、パイプラインの維持管理や運用管理が厳しくなっている。この点、「ホットタッピング」で石油パイプラインの油窃盗を行うつぎのような事例とは明らかに異なる背景がある。

 ●20191月、「メキシコの石油パイプラインで違法な油採取中に爆発、死者99名」

 ●20178月、「メキシコの石油パイプラインで油窃盗中に爆発、死傷者6名」

 ●20147月、「メキシコで原油パイプラインからの油窃盗失敗で流出事故」


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Jp.reuters.com, Peru indigenous groups block river in the Amazon after oil spill,  September  29,  2022

    Tankstoragemag.com, Peru oil spill labelled  ‘intentional’,  September  30,  2022

    Singletonargus.com.au, Peru river blocked after Amazon oil spill,  September  29,  2022

    Newsus.cgtn.com, Oil spill in Peru's Amazon,  September  29,  2022

    Brazilian.report, Peru declares state of energency after Amazon oil spills,  September  26,  2022

    Energynews.pro,  ペルーではペトロペル社が先住民族と衝突,  September  29,  2022

    Exitosanoticias.pe, Loreto: reportan que derrame de petróleo en el Oleoducto Norperuano llegó al río Marañón, September  16,  2022

    Larepublica.pe, Loreto: 56 comunidades nativas siguen en pie de lucha por derrame de petróleo, September  29,  2022

    News.mongabay.com, More than 470 oil spills in the Peruvian Amazon since 2000: Report, October  06,  2020

    News.mongabay.com, Pluspetrol Norte: A history of unpaid sanctions and oil spills in the Peruvian Amazon, September 29,  2022

    Dialogochino.net, Oil spills stain the Amazon in Peru. Why has it been so slow to act?, May 10,  2022


後 記: ペルーでパイプライン流出事故が起こったという情報を知り、タンク関連設備であり、調べてみようと思いました。ところが、調べ始めて事故の発生日さえはっきりせず、流出状況も曖昧で、一時はまとめをやめようと思いました。しかし、ペルーのパイプラインが先住民族の生活を脅かす存在であることから意を決して(大げさかな)やはり調べてみることにしました。今回の事故だけでなく、これまでの流出状況にさかのぼる必要があると考え、関連の記事を読んでいくと、少しずつ内容が異なり、収束するどころか、発散していきました。結局、パイプライン流出事故は予想以上に多い(らしい)ことが分かりましたが、個々の漏洩状況ははっきりしません。第三者による意図的にパイプラインに切り込みを入れるテロ攻撃は、ホットタッピングで石油パイプラインの油窃盗を行う事例とは明らかに異なり、パイプラインの運用をやめさせようとする背景がありそうです。産油国にもいろいろな国情があることが分かりました。

 最後に話題を変え、ペルーという国を調べていて、インカ帝国の遺跡のマチュピチュやナスカの地上絵などは有名で知っていましたが、レインボーマウンテン(正式名称「ビニクンカ山」)という本当にあるのかなという山を知りました。世界は広いですね。


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