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2019年2月11日月曜日

山形県のバイオマスガス化発電所で水素タンクが爆発、市民1人負傷

 今回は、2019年2月6日(水)、山形県上山市にある山形バイオマスエネルギー社のバイオマスガス化発電所で、燃料用の水素ガスタンクが爆発して、周辺に被害を与え、市民1名が負傷した事故を紹介します。
< 発災施設の概要 >
■ 発災があったのは、山形県上山市(かみのやま市)金谷の工業団地にある山形バイオマスエネルギー社のバイオマス発電所である。この発電所は木のチップを使う木質バイオマスガス化発電で、2018年12月に完成し、今年3月末に発電事業を始める予定だった

■ 事故があったのは、バイオマスガス化発電所にある燃料用の水素タンクである。水素タンクは燃料となるガスを貯めるために設置されており、水素や一酸化炭素が貯蔵されていた。
                   上山市の工業団地周辺 (矢印は事故のあった建設前の場所)
図はGoogleMapから引用)
<事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2019年2月6日(水)午後4時10分頃、バイオマスガス化発電所で爆発が起こった。

■ 近所の住民から「爆発音がした」との110番の通報を受け、消防署が出動した。

■ バイオマス発電所の設備の試運転を始めて10分ほどして、水素タンクが爆発した。水素タンクの屋根部(直径約3m、厚さ約1cmの円形の金属板)が飛び、南西に100mほど離れた民家の2階部分を突き破った。家の中にいた30代の女性が、衝撃で落ちてきたものに頭をぶつけて首にけがをした。
被害を受けた住宅と飛んできたタンク屋根
(写真は左;Kahoku.co.jp、右; Sakuranbo.co.jpから引用)
■ 現場近くで働く女性は、「屋根に大きな物が落ちたような衝撃音があり、直下型地震のように地面も揺れた」と話した。爆風によって付近の住宅や事業所で、窓ガラスが割れたりする被害が出た。

■ 試運転を担っていたのは木質バイオマス発電施設などの設計・施工を請負った「テスナエナジー」で、事故当日は午後4時ごろから、試運転に向けた作業を進めていた。

■ 事故を起こしたバイオマス発電施設は「ガス化式」と呼ばれるもので、チップにした木材を熱して水素などのガスを抽出し、それを燃料にエンジンを回して発電する。爆発したタンクは燃料を貯めるためのもので、当時は水素のほか一酸化炭素やメタンなどのガスも充満していたとみられている。山形バイオマスエネルギーによると、当時、タンクには、燃料に使う水素などのガスが入っていて、試運転のため発電施設のエンジンの電源を入れたところ、突然、タンクの屋根が吹き飛んだという。

■ 2月8日(金)、上山市消防本部によると、爆発事故で、壁の一部や窓ガラスが破損するなどの建物被害が、発電施設内の建屋などを含め、14棟に上ることが分かった。被害は、施設を中心に半径約250mの範囲に及んでいた。女性がケガをした住宅を含め、民家や小屋で被害を受けたのは5棟で、工場などの事業所は9棟だった。金属製の屋根が直撃した住宅までの距離は約130mだった。最も施設から離れていたのは、南西約250m地点にある住宅脇の小屋で、窓ガラスが割れていたという。工場などではドアやシャッターのゆがみも確認された。

被 害
■ 人的被害として、市民1名が負傷した。

■ 発電所の燃料用水素タンクが損壊した。生産設備への影響はわかっていない。

■ 施設を中心に半径約250mの範囲にある建屋で、14棟に被害が出た。有害物質の漏洩は無かったと思われ、環境への影響はない。 
(写真はYomiuri.co.jpから引用)
< 事故の原因 >
■ 事故原因は調査中である。タンク内の水素ガスに引火したことやタンクの圧力が急激に上昇したことなどが挙げられている。

■ 発電装置の稼働スイッチを入れて数秒で、水素タンク内の爆発が起きていたことが分かった。スイッチを入れた際、何らかの原因でタンク内の水素ガスに引火し、爆発が起きたとみられている。

< 対 応 >
■ 山形バイオマスエネルギーは、「ケガをされた方や周囲の皆様にご迷惑をおかけし、おわび申し上げたい。原因を調べるとともに、誠意をもって対応していきたい」とコメントしている。

■ 2月7日(木)、警察と消防署が朝から現場検証をして、詳しい状況を調べている。
 現場検証の状況はインターネットのユーチューブで流されている。(YouTube「稼働後数秒で爆発・上山」

■ 2月7日(木)、発電施設を担当する経済産業省関東東北産業保安監督部東北支部の職員が立入り、現場の状況を確認した。

■ 2月8日(金)、警察は午前9時半から事故の原因を調べるための実況見分を再開し、当時作業をしていた東京都の施工業者などから話を聞いた。警察は施設の構造や運用方法に問題があったと見て、業務上過失致傷の疑いで捜査を続けている。
(写真はKahoku.co.jpから引用)
(写真はFnn.jp から引用)
補 足
■ 「上山市」(かみのやま市)は、山形県の南東部にあり、人口約3万人の市である。上山市は、江戸時代には上山藩の城下町や羽州街道の宿場町として栄え、現在は上山温泉で知られる。

■ 「木質バイオマス発電」は、燃料となる木材を燃やしたり、熱することでタービンやエンジンを動かして発電している。大きく分けて2つの方式がある。
 ● 「直接燃焼方式」 ;木材を燃やして水を温め、発生した蒸気でタービンを回し、発電する。
 ● 「ガス化方式」;木材から発生する可燃性ガスを利用し、ガスエンジンを動かし、発電する
 近年、バイオマス発電が注目を浴びているが、発電方式の選択を先行しているドイツと比較すると、図のようになる。 日本では、ORC(蒸気タービンと同じくランキンサイクルによる発電方式の一種で、蒸気タービンとは異なり、熱媒として水ではなく、シリコンオイルなどの有機媒体を利用して発電を行う)の技術がなく、1,000kW前後の中小規模帯での選択肢が無かった。今回、事故があった施設の最大出力は約2,000kW弱で、ガス化方式を広げたものである。ガス化方式は直接燃焼方式と比べ、熱排水の処理の必要がなく、小規模施設でも発電効率が高いなどの利点がある。
 山形県で稼働中の木質バイオマス発電施設は7か所で、うちガス化方式が3か所、直接燃焼方式が4か所となっており、現在、稼働中の施設は約1,000~50,000kWの範囲にある。
          バイオマス発電技術の選択の幅   (図はNpobin.netから引用)

■ 「山形バイオマスエネルギー」は、間伐材や果樹の剪定枝をチップ化し、燃焼させる木質バイオマス発電事業をしている。 同社は、2015年に山形県の建設業・産業廃棄物処理業の㈱荒正と不動産業の㈱ヤマコーなどがバイオマス発電の新会社として設立された。事故のあった発電設備は2018年12月に完成したもので、ガス化方式を採用している。投資総額は約13億円で、年4億円程度の売電収入を見込んでいる。

■  「テスナエナジー」は、2014年に木質バイオマスのガス化プラント事業を専業として設立された会社である。テスナプロセスバイオマス発電システムと特徴である炭化炉・ガス改質炉は図のとおりである。

テスナプロセスバイオマス発電システム
(図はTesnaenergy.co.jpから引用)
テスナプロセスバイオマス発電システムの炭化炉とガス改質炉
(図はTesnaenergy.co.jpから引用)
所 感
■ 今回の事故は、水素タンク(生成ガスホルダー)に爆発混合気が形成されたものだと思う。試運転時に生じる要因としては、つぎのようなケースがあるだろう。
 ● 試運転前に系内の空気を不活性ガス(窒素など)で置換していなかった。このため、空気の残った水素タンクに生成ガスが入り、爆発混合気が形成した。
 ● 試運転時に生成ガスライン系(ガス改質炉以降)に空気が入り、生成ガスとともに空気が水素タンクに入った。このとき、爆発範囲が4~75%と広い水素がタンク内で爆発混合気を形成した。
 引火源は、流動による静電気またはガスエンジンの逆火ではないだろうか。事故の背景として、試運転を行ったメンバーが、このような非定常運転について十分な知識と経験がなかったのではないかと感じる。   

■ 事故を防ぐためには、つぎの3つの要素が重要である。この3つがいずれも行われなかった場合、事故が起こる。
 ① ルールを正しく守る
 ② 危険予知活動を活発に行う
 ③ 報連相(報告・連絡・相談)を行い、情報を共有化する
 木質バイオマス発電といっても、新規のプロセス装置と同様の設備である。定常運転時のマニュアルはあっただろうが、今回のような運転始めの際のマニュアルに問題があったのではないだろうか。

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Asahi.com,  試運転バイオマス発電設備が爆発 「地面揺れた」 山形,  February  06,  2019
    ・Sakuranbo.co.jp, “ふた”はなぜ吹き飛んだ?バイオマス発電施設爆発事故 山形・上山市,  February  07,  2019
    ・Yomiuri.co.jp,  上山の発電所で爆発 破片で民家損傷 1人けが,  February  07,  2019
    ・Sakuranbo.co.jp,  “初めての試運転”で爆発・バイオマス発電施設事故 東京の施工業者などから聴取 ,  February  08,  2019
    ・Nhk.or.jp,  水素ガスなどに引火して爆発か,  February  07,  2019
    ・Kahoku.co.jp, 上山の工場で爆発 民家に金属片直撃、女性けが,  February  07,  2019
    ・Kahoku.co.jp, 上山プラント爆発>タンク内の水素ガス 引火した可能性,  February  07,  2019
    ・Jp.reuters.com,  バイオマスの施設で爆発、山形,  February  06,  2019
    ・Yamagata-np.jp, 上山のバイオマス施設で爆発 民家に被害、女性軽傷,  February  07,  2019
    ・Yamagata-np.jp, 稼働後数秒で爆発・上山 発電施設、県警は過失傷害容疑も視野,  February  07,  2019
    ・Yamagata-np.jp, 木質バイオマス発電、県内に7カ所 上山の施設はガス化方式,  February  08,  2019
    Yamagata-np.jp, 半径250メートル、14棟が被害 上山・発電施設爆発事故,  February  09,  2019


後 記: 石油貯蔵タンクとはちょっと違ったタンクですが、大きく報道された事故でしたので、ブログを投稿することとしました。今回、情報を調べていて感じたことは、バイオマス技術が随分進展しているということです。特に、山形県では熱心であるように感じます。山形県酒田市に最大発電能力50,000kWのバイオマス発電所(サミット酒田パワー)が20188月に完成し、商業運転をしているほか、木質バイオマス発電施設は7か所あります。今回、事故のあったバイオマス発電施設も従来だと選択肢のなかった2,000kWクラスのガス化発電です。しかし、ドイツのようにOCR方式を導入すべきだという意見があります。また、経済産業省の補助事業の場合、2月中に試運転を終えて完了届を出さなければ補助金が貰えないので、締切が最優先になり、安全性がおろそかになる懸念があるという意見もあります。今回の施設が補助事業かどうかわかりませんが、県や企業の頑張りは見える反面、発電に関する国や経済産業省の基本思想が見えないということがわかりました。



2019年2月7日木曜日

米国テキサス州で油タンクが爆発して堤内火災

 今回は、2019年1月29日(火)、米国テキサス州リバティ郡のデイセッタにあるサラトガ・オイル社油井施設のタンク設備で起こったタンク爆発・火災事故を紹介します。
(写真bluebonnetnews.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国テキサス州(Texas)リバティ郡(Liberty County)のデイセッタ(Daisetta)にあるサラトガ・オイル社(Saratoga Oil Company)の油井施設である。
 サラトガ・オイル社は、家族経営の小規模な油井会社である。当該油井施設は1日当たり1~4バレル(0.15~0.6KL)ほど油を生産していた。

■ 発災があったのは、デイセッタの町の南にある郡道2018号線の近くにある油井施設のタンク設備である。
       テキサス州リバティ郡デイセッタ付近  (矢印が発災場所) (写真はGoogleMapから引用)
                デイセッタ南の発災場所 (写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2019年1月29日(火)午前11時頃、油井施設のタンク設備で爆発が起こった。2基ある油タンクの1基が火災となった。油タンクから空に向かって黒煙が立ち昇った。

■ 発災に伴い、リバティ郡消防署の消防隊が出動した。大きな火災になったため、近くのデイセッタ消防署、ハーディン消防署、リバティ消防署、バトソン消防署の応援が要請された。

■ 火災は2基目の油タンクへ延焼した。その後、火災は防油堤全域に広がった。この火災状況がドローンによる空撮映像としてインターネットのユーチューブで流された。(YouTube;「Drone video captures fire after oil tank explosion in Liberty County」

■ ハイウェイ770号線近くの郡道2018号線沿いで現場から1マイル(1.6km)内にいる住人には、消火活動をしている間、避難するよう求められた。事故に伴うケガ人は無かった。

■ 火災は午前11時40頃には消された。火災がおさまった後、タンクの形はほとんど無かった。

■ 消火されたので、住民の避難は解除された。

■ 油タンクを保有している所有者によると、300バレル(48KL)の油が焼失したという。 
(写真はClick2houston.comから引用)
(写真はIsssource.comから引用)
(写真はBluebonnetnews.comから引用)
(写真はBluebonnetnews.comから引用)
被 害
■ 油タンク2基が爆発・火災によって損壊した。このほか3基のタンクが焼損した。油が約48KL焼失した。  

■ 負傷者はいなかった。近くの住人には、消火活動をしている間、避難するよう求められた。

< 事故の原因 >
■ 原因は調査中である。

■ 油タンクを保有している所有者によると、 静電気による爆発の可能性が高いという。 

< 対 応 >
■ 事故の原因についてテキサス鉄道委員会(Texas Railroad Commission)が調査を始めた。

■ 施設の保有者は、「私たちは大量の油を焼失しました。ここから立ち直るまで1年はかかるでしょう。ガレキを片付けてきれいにするまで、油井は全部止めることになるでしょう。それから新しい貯蔵タンクを搬入することになります。試練の時間を過ごしそうです」と語った。
(写真はAbc13.comから引用)
(写真はAbc13.comから引用)
(写真はAbc13.comから引用)
(写真はAbc13.comから引用)
補 足
■ 「テキサス州」(Texas)は、米国南部にあり、人口約2,870万人の州である。
 「リバティ郡」(Liberty County)は、テキサス州東部に位置し、人口約75,000人の郡である。リバティ郡の経済は主に農業と石油である。
 「デイセッタ」(Daisetta)は、リバティ郡の東部に位置し、人口約970人の町である。
           テキサス州リバティ郡の位置(赤枠)  (写真はGoogleMapから引用)
■ 爆発・火災を起こしたタンクの大きさは分かっていない。グーグルマップで調べると、発災場所のタンク設備には5基の固定屋根式タンクがある。うち3基は火災後、タンク形状が残っていないので、鋼製でなく、塩水用のグラスファイバー製ではないかと思われる。油タンク2基のうち1基は完全に座屈・損壊している。1基はタンク下部だけが残っている。いずれのタンクも直径は約5mである。グーグルマップでは、影の長さが違うので、高さを5~7mとすると、容量は98~130KLとなるので、100KL級のタンクとみられる。
 一方、発災写真を見ると、噴き飛んだ屋根を含むタンク上部が防油堤の外にころがっている。発災時の強烈な爆発をうかがわせるものである。この噴き飛んだタンク上部は下側が火を被った跡があり、堤内に残った下部タンクの上部ではないだろうか。座屈・損壊しているタンクが発災して内部液が堤内に漏れ出し、その火にあぶられて、タンク上部が噴き飛んだのではないだろうか。
           発災したタンク設備  (写真はGoogleMapから引用)
所 感
■ この事故は油井用タンクの弱点を示す事例である。揮発性の高い原油を固定屋根式タンクに保有するので、爆発混合気によって爆発する可能性は高い。過去の事例でも、この種のタンクは落雷による火災事故が多い。今回の場合、タンク設備の保有者は静電気による爆発の可能性が高いと語っているが、タンク内外での火気工事以外の静電気などによる引火源で火災が生じることがある事例といえる。

■ ドローンによる発災映像を見ると、完全に堤内火災の様相を呈している。塩水と油がタンク外に出て堤内に一杯になり、浮いている油が燃えているという状況である。土を盛り上げただけの防油堤であるが、外に溢れ出すことは防いでいる。消火活動は行われていないが、消火泡を投入することによって防油堤から油が溢流するのを避けるためであろう。鎮火後の被災写真を見ると、消火泡が投入された痕跡があるが、これは火勢が衰えたあと、堤内から溢れるおそれが無くなってからのダメ押しの処置だと思われる。

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  Chron.com, Drone Video Captures Massive Oil Tank Explosion in Liberty County, January 30, 2019 
   ・Abc13.com , Fiery Oil Tank Explosion Caught on Drone Camera in Liberty County, January 29, 2019
    Click2houston.com, Shelter-in-place Lifted after Oil Tank Explosion, Fire in Liberty County, January 29, 2019
    Bicmagazine.com, Oil Tank Explosion in Liberty County, Texas, January 29, 2019
    Bluebonnetnews.com, Oil Tank Explosion in Daisetta, January 29, 2019
   ・Easttexasmatters.com, Explosion Reduces Oil Tanks to Ash and Rubble, January 29, 2019
    Hazmatnation.com, Shelter in Place Lifted after Oil Tank Explosion, January 29, 2019
   ・Isssource.com, Blast, Fire Flattens TX Oil Tanks, January 31, 2019
    Kshnfm.com, Firefighters Battle Oil Tank Blaze near Daisetta, January 31, 2019


 後 記: ブログをまとめていて感じることは、事故情報が少ない時期と多い時期があることです。今は多いですね。昨年暮れ当たりは少なかったのですが、1月に入ってから事故が多くなっています。世界的にみているので、偶然ではありますが、不思議に思います。
 
 ところで、本ブログとしては異質な「米国アリゾナ州の山火事で消防士19名死亡」(2013年7月)を投稿していますが、このヤーネルヒル事故をもとにして制作され、昨年、劇場公開された映画「オンリー・ザ・ブレイブ」(勇者のみ)がDVDとなっているのを知りました。早速、レンタルDVDを借りてきて見ました。森林火事の専門消防士(ホットショット)のことは知っていましたが、日常の生活や訓練のことは初めて聞く話で、興味深く見ることができました。(「面白かった」と書こうとしましたが、隊員20名中、19名が亡くなるという痛ましい物語なので、面白いの表現はまずいですね)



2019年2月2日土曜日

イエメンでディーゼル燃料タンク爆発、薄層ボイルオーバーか、負傷15名

 今回は、2019年1月11日(金)、イエメンのアデンにある国営のアデン・リファイナリー社のアデン製油所で起こったディーゼル燃料用貯蔵タンクの爆発・火災事故を紹介します。
(写真はDebriefer.netから引用)
 < 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、イエメン南部の港湾都市アデン(Aden)にある国営のアデン・リファイナリー社(Aden Refinery Company)の製油所である。製油所は、2015年3月に反政府武装組織フーシ派によって占領され、操業を停止したが、7か月後に奪還されて運転が再開された。しかし、技術的な問題などによって生産は再び中断されている。製油所の貯蔵タンクは、2016年以降、イエメンの石油商人に賃借りされているという。

■ 発災があったのは、アデン製油所のタンク地区にある貯蔵タンクである。発災した貯蔵タンクはディーゼル燃料用で容量7,000トンであるという。
                          イエメンのアデンにあるアデン製油所付近 (矢印は発災したタンク) 
(写真はGoogleMapから引用)
                     アデン製油所のタンク地区付近 (矢印が発災タンク) 
(写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2019年1月11日(金)午後7時頃、アデン製油所で貯蔵タンク1基が爆発して火災となった。爆発音はアデンのブライガー地区でも聞こえた。

■ 貯蔵タンクにはディーゼル燃料が約7,000トン入っていた。貯蔵タンクの火災は、その前に配管が火災になり、延焼して爆発したという情報があるが、真偽は不詳である。

■ 発災に伴い、自衛消防隊のほか、民間防衛軍が消火のために出動した。3時間の消火活動を行ったが、火災の封じ込めはできなかった。

■ 1月12日(土)の昼過ぎ、内部液がタンク底部に近づいたとき、貯蔵タンクが爆発を起こした。
 
■ この2度目の爆発事故により、消火活動に従事していた消防隊員と火災を見ていた作業員が少なくとも15名負傷した。これはタンク火災を封じ込めようとして失敗し、新たな爆発が起こったため、負傷者が出た。負傷者は近くの病院に搬送された。

■ 1月12日(土)中には、タンクの火災は消えるものと見込まれている。衛星写真によると、1月13日(日)には、火が見えないので、消火されたものとみられる。
(写真はNthnews.netから引用)
(写真はDebriefer.netから引用)
(写真はThestar.comから引用)
被 害 
■ ディーゼル燃料タンクが爆発・火災によって損壊した。また、内部の燃料油が消失した。

■ 2度目の爆発で少なくとも15名が負傷した。

< 事故の原因 >
■ 事故の原因は調査中で不詳である。

■ 初期の情報で、火災事故は武装勢力による破壊活動の可能性が高いという見方があった。しかし、その後、イエメン内務省は否定している。
 貯蔵タンクの火災は、その前に配管が火災になり、延焼して爆発したという情報があるが、真偽は不詳である。 また、油タンクが砲撃を受けたとか、電気的な短絡によって爆発を引き起こしたなどいろいろな情報ある。

< 対 応 >
■ アデン治安部隊准将は、製油所で起きた爆発・火災の原因を明らかにするよう犯罪捜査部のチームに命じた。

■ 治安部隊は、事故がテロ攻撃らしいという情報を受け、構内で働くすべての人が構内から出ることを禁止し、調査を開始した。

■ アデンは国際的に認められたイエメン政府の支配下にある。サウジアラビアと西側に支えられた政府は、イランと同盟を結んだ反政府の武装組織フーシ派と戦っている。イエメンでは、何万人もの人々が殺され、経済が荒廃し、何百万人の人々が深刻な飢餓に直面している。国連は、この4年間続いている戦争を終わらせようと、先月、和平会談を開始した。しかし、逆にそれ以来、緊張が高まっている。

■ 1月10日(木)に、アデンの隣県ラハイで実施されたイエメン政府軍事パレードにフーシ派のドローン攻撃が行われ、数人が死亡するという事件が起きている。1月11日(金)には、サウジアラビアと西側の連合軍が無人飛行機を使ってフーシ派の基地を破壊した。 
(写真はThenational.aeから引用)
(写真はXinhuanet.comから引用)
                              112日(土)の航空写真      (写真はTwitter.com.から引用)
                              113日(日)の航空写真         (写真はTwitter.com.から引用)
補 足 
■ 「イエメン」は、正式にはイエメン共和国(Republic of Yemen)で、中東のアラビア半島の南端部に位置し、人口約2,350万人の共和制国家である。
 現在、イエメン全土では,イエメン政府と反政府勢力との戦闘、イスラム過激派組織によるテロ、誘拐事件が発生しており、日本の外務省が提供している危険レベルでは、もっとも高いレベル4(退避勧告、渡航禁止)である。イエメン日本国大使館は、治安悪化のため2015年2月15日をもって一時閉館し、在サウジアラビア日本国大使館内に臨時事務所を設けている。
             イエメンと周辺国  (写真はGoogleMapら引用)
■ 「アデン製油所」(Aden Refinery Company)は、1952年に設立されたイエメン国営の製油所で、精製能力は12万バレル/日である。 元々は石油メジャーの旧BPThe British Petroleum Company によって設立され、運営されていたが、1978年にイエメン政府に所有権と支配権が引き渡された。現在、プロセス装置の操業は中断されている。

■ 「発災タンク」はディーゼル燃料用で容量7,000トンだったと報じられている。グーグルマップで調べてみると、固定屋根式タンクで直径約18mである。隣接している同じ大きさのタンクから推測すると、高さは直径と同じくらいであり、高さを18mと仮定すると、容量は4,500KL級となる。7,000トンを7,000KLと読み替え、直径約18mのタンクでは、高さは約27mとなり、細長い印象のタンクとなる。ありえない形状ではないが、直径約18m×高さ約18mの容量4,500KL級のタンクだったとみるのが妥当であろう。
            発災タンク(矢印)   写真はGoogleMapから引用)
■ 「火災したタンク」に関する報道情報はいろいろあり、発災したタンクは2基あるというのが、大半だった。しかし、発災したディーゼル燃料用タンクまわりに火災を起こした痕跡のあるタンクがない。航空写真によると、12日(土)に爆発したはずの2基目のタンク火災は、13日(日)には消えている。このことから、「内部液がタンク底部に近づいたとき、貯蔵タンクが爆発を起こした」という情報が妥当だと考える。

■ ディーゼル燃料用タンクの2回目の爆発は「薄層ボイルオーバー」ではないかと思われる。「ボイルオーバーの事例と最近の研究」(危険物研究所報告第117号)の中で「軽油のように長時間燃焼を続けても燃料層内に高温層が形成されないが、燃焼末期には水が激しく沸騰する現象で、一種のボイルオーバーのような現象が起こる」という古積博士らの指摘に符号する。
 今回の事例では、タンク火災の時系列がはっきりしないが、第1回目の爆発を1月11日(金)午後7時とし、第2回目の爆発を1月12日(土)13時(昼過ぎ)とすれば、燃焼時間は18時間である。ディーゼル燃料用タンクの発災写真によると、屋根の一部が噴き飛んでいるので、「障害物あり全面火災」の様相を見せている。仮に液面降下速度(燃焼速度)を20cm/hとすると、18時間後の液面降下は3m60cmである。
 タンクの大きさ(高さ)や液面高さのはっきりしたデータはないが、発災時の液面高さを18mとすれば、残油の高さは14.4mで、液面高さを10mとすれば、残油の高さは6.4mで、液面高さを5mとすれば、残油の高さは1.4mである。これらから考えられることは、発災時の液面高さは意外に高くなかったのではないかということである。当初の液面高さを5mとすれば、直径約18mのタンクでは、1,270KLの油が入っていたことになる。

所 感
■ ディーゼル燃料(軽油)は爆発・火災を起こしにくい油であるが、このブログで紹介したものだけでも、つぎのような類似事例がある。
 今回、テロ攻撃という情報もあるが、過去の事例からいえば、石油について安易な取扱いをし、タンク内にディーゼル燃料だけでなく、廃ガソリンのような揮発性の高い油を混合した場合、何らかの引火源があれば容易に爆発・火災を引き起こす。
 
■ 今回のタンク火災では、補足の中で紹介した「軽油のように長時間燃焼を続けても燃料層内に高温層が形成されないが、燃焼末期には水が激しく沸騰する現象で、一種のボイルオーバーのような現象(薄層ボイルオーバー)」が起こったのではないかと思われる。
 発災写真を見ていて気になったことは、消防活動に関係しているとは思えない人が火災タンクの近くで火災を見物していることである。危険範囲(退避距離、ハザード・ゾーン)を設定し、直接、消火活動に従事している消防士以外は現場から遠くにいるべきである。まして、ボイルオーバーの起こる可能性のあるディーゼル燃料(軽油)ではなおさらのことである。


備  考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである
    ・Reuters.com,  Yemeni Refinery Fire Spreads to Second Storage Tank: Sources,  January 13, 2019
    ・Thenational.ae, Violent Explosion Shakes Yemen's Aden Refinery,  January 11, 2019
    ・English.alarabiya.net,  Violent Explosion Shakes Yemen’s Aden Refineries,Mmassive Fire Breaks out,  January 11, 2019
    ・Efe.com, Firefighters Battle to Extinguish Yemen Fire after Blast Rocks Key Refinery,  January 12, 2019
    ・Thebaghdadpost.com,  Explosion Sparks Fire at Aden Refinery in Yemen,  January 12, 2019
    ・Xinhuanet.com, 15 Injured in Fresh Explosion at Oil Refinery in Yemen's Aden,  January 13, 2019
    ・Tasnimnews.com, Refinery Fire in Yemen’s Aden Spreads to 2nd Storage Tank: Sources,  January 13, 2019
    ・Arabnews.com, Six Injured as Blaze Spreads after ‘Sabotage’ Blast at Aden Refinery,  January 13, 2019
    ・Debriefer.net, Yemen`s Aden Refinery Confirm Fire Decline, End of Gravity,  January 13, 2019
    ・English.almasirah.net, Fire Spreads in Aden Refinery Again,  January 13, 2019
    ・Middleeasteye.ne, Yemen Oil Refinery Fire Spreads to Second Storage Tank,  January 14, 2019
    ・Yemen-rw.org,  Huge Fire Breaks out in Yemen’s Aden Refineries,  January 11, 2019
    ・Thenational.ae , Firefighters Were Already Working to Contain a Blaze Which Broke out on Friday,  January 12, 2019
    ・Arabtradeunion.org , Yemen: The Injury of 15 Workers, Following The Explosion of One of The Aden’s Oil Refinery Tanks and The Union Calls for an Investigation,  January 14, 2019



後 記: 今回のタンク事故情報は量的には多かったのですが、何が真実(に近い)なのか訳がわからないほどいろいろな情報がありました。まず、イエメンが内戦中であり、反政府の武装組織によるテロ攻撃の情報が多くありました。私もてっきり砲撃かドローンによるものだと予断してしまいました。つぎに発災の経緯ですが、これまた、いろいろな情報が出ていて、一時は複数の説を併記しようかと思いました。しかし、発災写真を見ていくと、どの説もしっくりいきませんでした。もう一度、情報源を調べ直すと、発災タンクの2度目の爆発が同じタンクだという記事が出てきました。タンク事故情報としては不十分ですが、複数説は止めて真実と思われる説でまとめることとしました。
 ところで、イエメンの危険レベルはレベル4(退避勧告)なので、取材に制限があると思いますが、真偽は別として意外に多くの報道記事があるということに驚きました。アジアでは、中国の新華社が報道記事や写真を出しており、戦場記者や戦場カメラマンが行っているのでしょう。その背景には、最近の探鉱入札案件では、中国企業が進出しているといいます。