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2013年8月30日金曜日

米国ペンシルバニア州で燃料貯蔵タンクが爆発し、死者1名

 今回は、2013年8月19日、米国ペンシルバニア州マーサー郡グリーンビルのレイノルズ工業団地にあるリード・オイル社系列のブラウニー・オイル社が所有するディーゼル燃料用貯蔵タンクが爆発し、近くにいた作業員が吹き飛ばされて亡くなった事例を紹介します。
レイノルズ工業団地にあるブラウニー・オイル社のタンク爆発事故直後の火災状況
 (写真はTheCelestialConvergence.blogspot.jpから引用)

本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Triblive.com,  Industrial Park Explosion Kills Worker in Mercer County,  August 19,  2013
      ・WTAE.com, Plant Explosion Kills Worker in Mercer County,  August 20,  2013   
  ・Post-gazette.com, Man Killed in Mercer County Plant Explosion, August 20,  2013
      ・WPXI.com,  Worker Kills in Mercer County Industrial Park Explosion, August 20,  2013
      ・Pittsburgh.CBClocal.com,  Cleanup Continues at Mercer County Explosion Site, August 20,  2013
      ・WKBN.com,  Fuel Storage Tank Explodes, Killing 1, August 20,  2013
      ・SharonHerald.com,  Explosion Fatality Was New Castle Man, August 21,  2013    

 <事故の状況> 
■  2013年8月19日(月)午後5時30分頃、米国ペンシルバニア州にある燃料貯蔵タンクが爆発してひとりが死亡するという事故があった。事故があったのは、ペンシルバニア州マーサー郡グリーンビルのレイノルズ工業団地にあるリード・オイル社系列のブラウニー・オイル社が所有するディーゼル燃料用貯蔵タンクが爆発し、近くにいた作業員が吹き飛ばされて亡くなった。

■ 近くに住んでいたマリー・クレスさんによると、爆発の威力はすさまじく、10,000ガロン(37KL)のタンクが空中を飛び、庭近くに落下したという。落ちた場所は住居のすぐ近くだった。「向こうの方で炎があがったので、すぐに911通報したわ。それから急いでドアを開けて飛び出してみたら、何と目の前にタンクが落ちていたのよ。台所から30フィート(9m)も離れていなかったわ」とクレスさんは話した。クレスさんは、庭にタンクが落下する少し前まで家の外にいたという。環境保全局によると、タンクは約100mの距離を飛んでいたという。

■ 調査官によると、タンクにはオフロード用ディーゼル燃料が入っていたという。トランスファー消防署のフィリップ・スティール署長によると、爆発したタンクは容量10,000ガロン(37KL)で、7,500ガロン(28KL)の燃料が入っていたといい、大半はタンクの防油堤内に溜まっていたという。こぼれた油に火がついて芝生が燃え出していたが、出動した消防署はすぐに消火活動を行なった。スティール署長は、「おそらく15分程度で終った」と語った。  

■ マーサー郡検視官事務所は、亡くなった作業員がブライアン・クラウスさん(37歳)であることを明らかにした。当時、タンクの渡り歩廊にいたと思われるクラウスさんは爆発で吹き飛ばされて地面へ落下し、頭部と骨盤部を強く打ったのが死因だという。検視官事務所によれば、不慮の事故死だという。

■ ピマチュニング・タウンシップ警察署のエリック・バーガー署長は、現場の構内にはプロパン用タンクがあったが、爆発には巻き込まれなかったと話している。当局者は、何が火源で爆発したか調査しているところだが、タンクから約100ヤード(90m)離れたところで一人の溶接士が作業しており、これが爆発の火源だったかもしれないという。バーガー署長によると、亡くなったクラウスさんは自営業の溶接工で、以前から事故のあったプラントで作業していたという。当局によると、他にケガをした人はおらず、現場にいたのはクラウスさんだけだったという。溶接工が歩廊を足場に溶接していたという話もあり、何が爆発の引き金だったかははっきりしない。リード・オイル社の最高財務責任者であるマイク・タップ氏は、会社として爆発の原因を調査している当局者と協力して作業を進めると話している。CBSローカル放送は、被害者が燃料貯蔵タンクの渡り歩廊部の溶接工事についてリード・オイル社と請負契約を結んでいたと報じている。

■ 環境保全局には、爆発後、すぐに召集がかかった。現場を見て驚いたことには、ディーゼル燃料の影響が最小だったことだという。環境保全局によると、タンクまわりに設置されていた防油堤内に約5,000ガロン(19KL)の油が保持されており、排水路へ流れていなかったという。環境保全局のゲーリー・クラーク氏は、「コントロールされたかのように、すべてがそのままの状態なのです。何かが起こっても、防油堤は自分の役割を果たしたのです。ディーゼル燃料が流出するのを引き止めたかのようです」と語った。環境保全局は、堤外に出たディーゼル燃料を数十ガロン(200リットル)ほどクリーンアップしたが、住民への影響や給水への危険性はないと話している。

■ 8月20日(火)、クリーンアップを行うメンバーがブラウニー・オイル社の現場での作業を始めた。

■ シャロンヘラルド誌は、8月21日(水)、トランスファー消防署のスティール署長の話として、15日(木)に容量10,000ガロン(37KL)のガソリンタンクで漏洩があり、爆発事故前の19日(月)にディーゼル燃料のタンクへ移送した経緯があったことを報じている。

■ リード・オイル社のマイク・タップ氏は、事故に伴い、8月20日(火)、つぎのような声明を出した。
 「昨夜、リード・オイル社のブラウニー・ターミナルにおいて、私どもの協力会社として働いていた方が致命傷を負って亡くなられました。リード・オイル・グループは、亡くなられた方のご家族・ご友人に対して心からのお見舞いと哀悼の意を表します。リード・オイル社として独自の調査を行っておりますが、今回の悲劇的な事故の原因調査を行うOSHA(米国労働安全衛生局)に全面的に協力を行ってまいります」
タンク・ターミナルでの爆発事故後の上空からの写真
注;矢印部の黒いエリアは火災の焼け跡
(写真はKDKA.comの動画から引用)
防油堤内に油が溜まった事故後の現場
   注;矢印①の場所にディーゼル燃料タンクがあった。矢印②はタンクの底板部傾いたタンク渡り歩廊以外は整然としている。                                   (写真はKDKA.comの動画から引用)
タンク爆発事故の現場周辺
        注;タンクは矢印のように約100m飛んで、住民の家近くに落下 (写真はKDKA.comの動画から引用)
         爆発したタンクの底板部を調べる調査官   (写真はKDKA.comの動画から引用)
爆発で吹き飛んだタンク
         注;上部は黒く焼けているが、下部は塗装が残っている。  (写真はWKBN.comから引用)
爆発で吹き飛んだタンク
            注;タンク底板部が無く、下部は塗装が残っている。    (写真はWPXI.comから引用)

補 足
ペンシルバニア州 
■ 「ペンシルバニア州」は米国東部にあり、人口約1,270万人で、州都はハリスバーグである。ペンシルバニア州は米国において最も歴史のある州で、米国発祥の地といわれるフィラデルフィアは独立宣言や合衆国憲法が立案された場所である。
 「マーサー郡」はペンシルバニア州の西部に位置し、人口約11万人の郡で、郡庁はマーサー・ボロにある。
 「グリーンビル」はマーサー郡の北西部にある自治区で、人口は約6,300人である。

 ペンシルバニア州では、2010年8月11日、ファレルにある製鉄会社のデュファーコ・ファレル社が誤って油水混合液(推定52KL)をシェナンゴ川へ流出した事故がある。 2013年6月22日には、チェスター郡イースト・ホワイトランド・タウンシップのバックアイ・エナージー・サービス社のマルバーン・ターミナルで、タンク施設内からガソリンが漏れ、近くにあった豪雨時の非常用排水溝に流出した事故がある。この事故については、当ブログで「米国ペンシルバニア州でタンク施設からガソリン流出」(2013年7月)に紹介した。

■ 「リード・オイル社」(Reed Oil Company)は、ペンシルバニア州ニューキャッスルを本拠にした石油会社で、主にペンシルバニア州、オハイオ州を中心に暖房油、プロパン、オンロード用・オフロード用ディーゼル燃料、ガソリンの供給を行っている。リード・オイル・グループは、現在、「21世紀エナージー・グループ」(The 21st Century Energy Group)と名称を変えて経営の新展開を図っている。
 油の配送センターであるオイル・ターミナルは8箇所あり、グループ系列の会社が経営する形態をとっている。レイノルズ工業団地にあるオイル・ターミナルは同地区に事務所をもつ「ブラウニー・オイル社」(Brownies Oil Company)とウイリントン・オイル社の共同でグリーンビル・デリバリー・センター(Greenville Delivery Center)として運用されている。グリーンビル・デリバリー・センターはグリーンビルの別な場所にあったが、2010年に現在のレイノルズ工業団地に移転した。
事故前のタンク・ターミナル。タンクが落下した住民の家は右下端
(写真はグーグルマップから引用)
事故前のタンク・ターミナルの全景
    注;中央が燃料タンク群、左の枕型タンクがプロパン・タンク   (写真はグーグルマップのストリートビューから引用)

■ 「オフロード用ディーゼル燃料」は、公道を走行しない特殊な作業車(農業用のトラクターやコンバイン、建設機械のショベルカーやブルトーザなど)に用いるディーゼル燃料である。公道走行のオンロード用と違って、オフロード用ディーゼルエンジンは高負荷・高回転で連続運転される。オフロード用ディーゼル燃料の排出ガス規制はオンロード用ディーゼル燃料に比べて緩やかである。

所 感
■ 今回の事故は不可解なことが多い。爆発が起こっているが、火災は大した規模でない。爆発がディーゼル燃料タンクで起こっており、内液の大半が防油堤内に溜まっている。被災した溶接工の行動がはっきりしていないし、火源もはっきりしていない。

■ 不可解な事故をあえて推測してみると、つぎのとおりである。
 ● 爆発の事故前にディーゼル燃料タンクの内液が何らかの要因で徐々に漏れ出し、防油堤内に溜まっていた。タンクには防油堤の高さと同じレベルの油しか入っていなかった。(何らかの要因とは、タンクのドレン系統の配管不具合、あるいはタンク底部の腐食または割れによる開口などが考えられる)
 ● ディーゼル燃料タンクには、ガソリンが混入しており、内液が流出していった際、タンク上部に徐々に空気が流入し、ある時点でガソリンベーパーによる爆発混合気を形成するようになった。
 ● 内液が流出する際、タンク内に静電気が蓄積し、放電して火花が発生し、爆発混合気の火源となった。
 ● タンク爆発の勢いでタンクが空中へ飛び上がった。この瞬間、タンク底板が破断した。タンク本体は傾斜し、そのまま前方へ飛んでいき、道路を越えて住宅地に落下した。破断した底板はタンク群の後方へ落下した。タンク本体が飛んでいく際、内部の油が地上へ落ちて、火災となった。底板とともに残っていた油が地上へ落ちて、火災となった。タンク本体は、爆発時の熱で空間部が焼けたが、下部の油浸漬部は高温にならず、塗装が残った。
 ● 被災した溶接工はタンク群の異常(漏れ)に気がついて、タンクへ近づいていったとき、爆発が起こり、爆風に飛ばされて地面に叩きつけられた。

■ このような推論が現実に起こりうるだろうかという疑問もある。しかし、ディーゼル燃料タンクが渡り歩廊での溶接によって爆発したという単純なシナリオでは、ますます不可解な疑問が増える。現時点では、事故原因はわからないが、世の中には「事実は小説より奇なり」を認識させるタンク事故がありうるということである。



後 記; 今回の事故情報の見出しを見たときには、「ンク内外の火気工事における人身事故を防ぐ7つの教訓」が活かされていない事例かと思いましたが、いろいろな情報をみてくると、まったく不可解な事故であることが理解できました。これまで多くのタンク事故情報を見てきましたが、今回のような事例は初めてです。頭の体操として事故を推測してみました。
 ところで、猛暑続きの毎日でしたが、やっと30℃を切る涼しい夜(?)になりました。猛暑による夏バテの疲れが一気に出そうな感じです。一方で、全国的に豪雨に見舞われており、雨の少ない北海道の苫小牧で時間当たり100mmの豪雨があったということですし、現在、西日本に向かっている台風15号は進路や速度が気象情報ごとに変化しており、気にしているところです。







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