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2020年1月9日木曜日

インドのクジャラート州でメタノール・タンクが爆発、死亡者4名


 今回は、 20191230日(月)、 インドのクジャラート州カッチ地区にあるインディアン・モラセス社のタンク・ターミナルで起こったメタノール用貯蔵タンクの爆発・火災事故を紹介します。
(写真はTimesofindia.indiatimes.comから引用) 

< 施設の概要 >
■ 事故があったのは、インド(India)クジャラート州(Gujarat)カッチ地区(Kutch)にあるインディアン・モラセス社(Indian Molasses Company)のタンク・ターミナルである。

■ 発災があったのは、カンドラ港近くのタンク・ターミナルにある貯蔵能力1,800トンのメタノール用貯蔵タンク(Tank No.303)である。この施設から500mのところには、インディアン石油のタンク・ターミナルがある。
         クジャラート州カッチ地区のタンク・ターミナル付近 (写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2019年12月30日(月)午後1時30分頃、タンク・ターミナルにあるメタノール用貯蔵タンクが爆発し、引き続いて火災になった。

■ 事故に伴い、作業員4名が死亡した。

■ 発災に伴い、消防隊は消防車10輌を伴って現場に出動し、消火活動に当たった。参画したのは、ディエンダヤル・ポート・トラスト(Deendayal port trust)の消防隊、インディアン・モラセス社の自衛消防隊、ターミナル関連の消防隊である。

■ 会社の従業員1名と作業員3名が補修のため、タンクにいたとき、突然、タンクが爆発し、タンク屋根が噴き飛んだ。爆発の勢いは激しく、犠牲者全員がタンク屋根から遠くへ吹き飛ばされていた。犠牲者のひとりは海で発見された。作業員は溶接工事に従事していたとみられる。

■ 消防隊は火災タンクに対して泡による消火作業を行った。火災拡大を防止するため、周辺タンクにはタンク冷却用散水設備による冷却を行った。また、予防措置として、隣接タンクは内液を抜いて空にされている。

■ 発災場所の近隣住民に避難指示が出された。 

■ 火災は24時間を経過しても燃え続けている。
(写真はNews18.comから引用)
(写真はHindinewsonline.goldwingsartsinstitute.com Indianexpress.comから引用して合成したもの)

(写真はAmarujala.comから引用)
被 害 
■ 貯蔵能力1,800トンのタンクが1基損壊し、内部のメタノールが焼失した。被災の程度や量は不詳である。

■ 事故に伴い、4名の死亡者が出た。

■ 発災場所の近隣住民に避難指示が出された。 

< 事故の原因 >
■ 原因は分かっていない。

< 対 応 >
■ タンクは31日(火)も燃え続けており、燃料が燃え尽き、消えるまでに2日かかると見込まれている。

■ 2002年に、ケサル・ターミナルで同様の事故が起こり、制圧するのに3日間かかった。
(写真はTwitter.comから引用)
補 足
■「インド」(India)は、正式にはインド共和国で、南アジアに位置し、インド亜大陸の大半を領してインド洋に面し、人口約13億3,400万人の連邦共和制国家であr。首都はニューデリー、最大都市はムンバイである。
「クジャラート州」(Gujarat)は、インドの西端に位置し、インダス渓谷文明の中心地域のひとつとして歴史があり、人口約6,000万人を超える州である。
「カッチ地区」(Kutch)は、グジャラート州の西部に位置し、人口約200万人の地区である。
(写真はameblo.jpから引用)
 当ブログで取り上げたインドにおける事故情報は、つぎのとおりである。

■「インディアン・モラセス社」(Indian Molasses Company)は、1935年に設立し、主に液体バルクの物流事業に従事している。カンドラ、ムンバイ、ゴアなど14箇所にタンク・ターミナルを保有し、石油製品、液化ガス、石油化学製品、酸など貯蔵能力は100万KLを有している。

■「発災タンク」は貯蔵能力1,800トンの円筒式タンクというだけで、直径や高さなどの仕様は分かっていない。内液がメタノールなので、内部浮き屋根式のコーンルーフ・タンクではないかと思われる。発災写真とグーグルマップを比較して見たが、タンクは特定できなかった。
      インディアン・モラセス社のタンク・ターミナル付近 (写真はGoogleMapから引用)
■「メタノール」は、化学式CH3OH でアルコールの一種である。メチルアルコールとも呼ばれ、日本では、危険物第四類アルコール類に指定されており、揮発性が高く、引火の危険性の高い液体である。メタノールは、接着剤、農薬、塗料、合成樹脂、合成繊維の原料など多岐に使用されている。泡消火は泡がメタノールに吸収されてしまうので、泡消火薬剤を用いる場合は耐アルコール性の泡消火薬剤を用いる必要がある。注水消火は、薄められたメタノールが溢れて、火災の広がる可能性があり、極少量の火災以外には用いるべきではない。
 メタノールに関わるタンク事故はつぎのとおりである。

所 感
■ 爆発・火災の原因は分かっていない。発災現場には、事業所のインディアン・モラセス社の従業員1名のほか、作業員3名がおり、溶接作業を行っていたとみられるので、タンクの工事中における事故の可能性が高い。米国CSB(化学物質安全性委員会)がまとめた「タンク内外の火気工事における人身事故を防ぐ7つの教訓」(2011年7月)のつぎの項目のいずれかが欠けたと思われる。
  ①代替方法の採用、  ②危険度の分析、 ③作業環境のモニタリング、
  ④作業エリアのテスト、⑤着工許可の発行、⑥徹底した訓練、⑦請負者への監督

■ コーンルーフの外部屋根が噴き飛び、内部浮き屋根が露出しているタンク屋根火災だとみられる。昼と夜のタンク火災写真を比較しても、タンク側板の焼け跡の高さが余り変わっていないので、内部浮き屋根上での火災でタンクとしての燃焼速度は遅かったとみられる。それにも関わらず、消火に時間がかかっているのは、消火戦略・消火戦術が的確でなかったからではないだろうか。メタノールでは、耐アルコール性泡消火剤を使用し、注水消火は避けなければならないが、通常の石油タンク火災と同様の対応をしていたため、泡がメタノールに吸収されてしまい、注水してもメタノールに薄められて屋根上の火災エリアが広がってしまったのではないか。

■ 他にも消火戦術上で適切ではなかった点は、隣接タンクの内液を抜いたことである。タンク側板にはりっぱな冷却散水設備が設置されて機能しており、対応はできているにも関わらず、内液を抜けば、液に接触していない金属面の熱曝露は大きくなる。タンク屋根火災で隣接タンクへの輻射熱は大きくなかったが、もしタンク全面火災であれば、隣接タンクへの延焼のリスクは大きくなっていた。

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
    ・Firedirect.net, India- Five Dead In Methanol Fire At Gujarat’s Kandla Port & Refinery Chemical Storage Terminal, January  01, 2020
    ・Hindustantimes.com,  4 dead in blast at Gujarat methanol storage tank,  December  31, 2019
    ・Mumbaimirror.indiatimes.com, Gujarat: Fire in methanol storage tank near Kandla Port still,  December  31, 2019
    ・Indianexpress.com, Four dead as blast in methanol tank sparks fire at Kandla port,  December  31, 2019
    ・Ahmedabadmirror.indiatimes.com,  Methanol tank catches fire after blast near Kandla Port; four dead,  December  31, 2019
    ・Thequint.com, 4 Dead at Gujarat’s Kandla Port as Fire Rages On 24 Hours Later,  December  31, 2019
    ・Navbharattimes.indiatimes.com, गुजरात: कांडला बंदरगाह पर मिथेनॉल टैंक में लगी आग, चार की मौत,  December  30, 2019
    ・Aajtak.intoday.in, कांडला केमिकल स्टोरेज टर्मिनल में लगी आग, 5 लोगों के मरने की आशंका,  December  31, 2019


後 記: 今回の事故は曖昧な情報の多い事例でした。まず、死亡した人数が1人だったり、5人だったり、メディアによってバラバラでした。ブログでは4人にしましたが、死亡した人の氏名を公表した点をとりました。それから、タンクの貯蔵能力が、2,000トン、1,800トン、1,700トンに分かれました。根拠はなく、真ん中をとって1,800トンにしました。また、被災者らがタンクに上っていたのは、定期検査のためというのがありましたが、何もせずにいてタンク上で突然爆発するというのは、不自然ですので、溶接作業をやっていたという記事を信じることにしました。12月30日という年末の所為で、結局、火災が消えたのかどうか分からないまま、メディアの続報はなくなりました。



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