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2020年1月24日金曜日

徳島市の油槽所で油受入れ中の灯油タンクが爆発(再発防止策)

 今回は、2019年5月16日(木)に徳島市で起こった油槽所の灯油貯蔵タンクの爆発事故について、10月21日(月)に事故原因となり得るすべての可能性を抽出して講じた再発防止策が発表されたので、この内容について紹介します。
 なお、同事故の発生当時については徳島市の油槽所で油受入れ中の灯油タンクが爆発」を参照。
                 事故タンク (写真はHeadtopics.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、徳島県徳島市末広1丁目の徳島石油㈱のタンク施設である。タンク施設には、10基の貯蔵タンクがあった。

■ 発災があったのは、徳島石油末広油槽所にある灯油用の貯蔵タンクである。タンクは直径約8.8m×高さ約9.1m、容量500KLで、事故時にはタンクの半分ほどの灯油が入っていた。
            徳島市の徳島石油末広油槽所付近 (矢印が発災タンク)
(写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2019年5月16日(木)午前7時40分頃、油槽所にある灯油用の貯蔵タンク1基で爆発が起こった。タンクから黒煙が上がり、火災となった。

■ 消防署に複数の周辺住民から「タンクが爆発した」との通報が相次いだ。

■ 発災により、市消防局の消防隊が消防車13台を伴い出動した。

■ 現場は住宅地に隣接した商業施設が集まる地域で、周辺道路は警察による交通規制や周辺住民に対する避難誘導がおこなわれ、一時、騒然となった。

■ 消防隊は、タンクを冷却するとともに、泡薬剤で消火に努めた。その結果、発災から約1時間45分後の午前9時25分までに鎮火した。

■ 事故による負傷者は出なかった。また、周辺の建物への被害も無かった。

■ 出火当時、油槽所近くの新町川に止まっていた船から、地下配管を通じて油槽所に燃料を移送する作業が行われていた。

被 害
■ 容量500KLの灯油タンク1基が爆発・火災で破損した。内液の灯油が一部焼失(量は不詳)した。

■ 事故に伴う負傷者はいなかった。
(写真は、左;Twitter.com右; Topics.or.jpから引用)
< 事故の原因 >
■ 事故原因は、徳島市消防局、徳島海上保安部、徳島県警察で調査中とみられる。

■ 2019年10月21日(月)、徳島石油は、事故原因となり得るすべての可能性を抽出して再発防止策を講じている。これから逆に類推される要因はつぎのとおりである。
 ● 引火源は、灯油タンクへの受入れ中の流動帯電による静電気だとみられる。
 ● 当該タンクが立管構造をしており、タンク上部から油を充填することになり、油の飛散・噴出や液面での跳ね返り、 泡の発生等により静電気の帯電が促進したとみられる。
 ● 作業マニュアルでは、静電気の発生を少なくする送油の流速制限について明示していなかった。
 ● 爆発混合気は灯油だけでなく、もっと軽質な油がコンタミ(混合汚染)でタンク内に入った可能性を否定していない。   

< 対 応 >
■ 5月17日(金)、市消防局や県警は現場検証を始めた。近くの新町川岸壁からタンクに伸びる送油管の状況などを確認した。総務省消防庁消防研究センターの職員を含む約30人が現場検証に当たった。タンカーを新町川岸壁に接岸させて燃料油出口を調べたほか、岸壁に設置された注入口やタンクに至る送油管の敷設状況に異常がないかなどを調査した。18日(土)以降は爆発したタンク付近を確認した。
 
■ 徳島市は、徳島石油に対して施設の使用停止命令を出した。

■ 2019年10月21日(月)、徳島石油は再発防止策を示し、同日から末広油槽所の稼働を再開する旨、ウェブサイトに掲載した。内容はつぎのとおりである。
 「徳島市消防局、徳島海上保安部、徳島県警察の協力のもと原因究明を進め、今後、決して同様の事故を再発させないためのタンクおよび配管の仕様を改修する工事について関係機関の指導に基づき進めてきた。また、業務作業手順等についても設備の改修と同様に重要なこととして抜本的な見直しを行い、企業としての安全に対する意識と行動を刷新した。今後、同様の事故を発生させないため、関係機関からの指導のもと、事故原因となり得るすべての可能性を抽出し、油槽所全般において安全対策措置を講じた」

< 再発防止策 >
① タンク内配管の改修等(静電気対策)
 ● これまでの調査結果により、事故を起こしたタンクは立管構造を用いていることが判明 した。(独)労働安全衛生総合研究所の「静電気安全指針2007」 によると、タンク上部から油を充填すると、油の飛散・噴出や液面での跳ね返り、 泡の発生等により静電気の帯電が促進されると記載されている。これらの帯電を防止するため、事故を起こしたタンクと同様の立管構造を採用しているタンクについてはボ トム・ローディング型へ改修した。
 ● 作業マニュアル内において、送油速度について明文化し、より静電気の発生を少 なくするように作業内容を改善した。
        タンク内配管の改修等(静電気対策) (図はTokuseki.co.jpから引用)
② マニュアルの見直し
 ● 燃料受入れ時や払出し時における作業マニュアルを見直した。
 ● マニュアルを順守するよう、作業時における安全チェックリストを導入した。 

③ 船舶受入配管の改修(コンタミ防止対策)
 ● 船舶からの受入れ時に使用している配管が一部共有していることから、コンタミ(混合汚染)のリ スクが発生し得る配管構造であったため、それぞれを独立した配管とし、ハード面にお けるコンタミを完全に防ぐ改修を行った。
           船舶受入配管の改修(コンタミ防止対策) (図はTokuseki.co.jp から引用)
④ 教育・訓練の実施
 ● 業務に携わるスタッフに対して教育を行った。

⑤ 消耗品の更新
 ● 消耗が見受けられるフロートワイヤー、パッキン等の部品を交換した。

⑥ 逆止弁の設置
 ● タンクから配管への油の逆流を防止するため、逆止弁が設置されていないタンクにおいて逆止弁を設置した。
 
⑦ 施設点検の実施
 ● 油槽所の再開にあたり改修工事とは別に施設の点検を行った。
   ・ 配管類の気密性の確認
   ・ 通気管の引火防止網の損傷、目詰まりおよび腐食の確認
   ・ アース抵抗の測定
   ・ 泡消火設備のバルブ作動状況と配管からの消火剤噴出状況の確認
  以上の点検を行い、各設備が正常な状態であることを確認した。

補 足
    徳島県の位置 (図はJmap.jpから引用)
■「徳島県」は、四国北東部に位置し、人口約73万人の県である。
 「徳島市」は、徳島県の東部に位置し、人口約25万人の都市で県庁所在地である。

■「徳島石油㈱」は、1931年に設立し、徳島市と高松市を中心に東四国全体をネットワークする石油製品の総合商社で、直営サービスステーション32箇所などを擁し、ガソリン、灯油、軽油、重油、LPGを供給する。徳島市末広に、地上式貯蔵タンク9基、総容量2,450KLの油槽所を保有している。
(写真は、左;GoogleMapのストリートビュー、右;Anzendaiichi.blog.shinobi.jpから引用)
■ 発災のあった「灯油タンク」は、直径約8.8m×高さ約9.1m、容量500KLで、事故時にはタンクの半分ほどの灯油が入っていたと報じられている。グーグルマップで確認すると、直径は報じられた値であり、容量500KL級の固定屋根式タンク(コーンルーフ・タンク)である。被災写真を見ると、タンク屋根は噴き飛んでおらず、屋根の一部が側板から外れているだけのように見える。従って、故意に接続部を弱くするタンクの設計どおりであり、また爆発力はそれほど大きなものでは無かったと思われる。

■ 「灯油」は、比重0.79~0.85、引火点40~60℃、燃焼範囲が1.1%~6.0%の可燃性流体であり、灯油ストーブに使用され、同種類のケロシンはジェット機の燃料にも使われ、ガソリンなどに比べて比較的に安全な石油製品である。一方、石油製品は導電率が低く、静電気が生じやすい流体であり、特に灯油は静電気が蓄積しやすいといわれている。
 石油貯蔵タンクは静電気対策がとられており、ひとつは接地によって静電気が蓄積しないように大地へ流すことである。もうひとつは、できるだけ静電気が生じないように入荷配管の流速を制限する。米国では、従来、各社ごとに流速制限を設け、例えば、液深さが6フィート(1.8m)になるまで流入液の流速を
3フィート/s(0.9m/s)に抑えるといった対策例である。現在、API(米国石油協会)の静電気対策の推奨基準であるAPI RP 2003「Protection Against Ignitions Arising Out of Static, Lightning, and Stray Currents」では、つぎのような基準を推奨している。
 ● 受入時の初期流速は、充填配管の直径の2倍または61cmの深さ(どちらか小さい方)に浸漬するまで、1m/sに制限する。
 ● 初期流速の制限が終われば、受入流速を増加してもよいが、静電気の蓄積を最小にするため、最大流速は7m/s~10m/sとするのがよい。
            タンクの静電気発生を示す例  (図はLaw.resource.orgから引用)
所 感
■ 前回の所感では、「事故の原因は灯油タンクへの受入れ中の流動帯電による静電気だと思われる」として、つぎのような推測と疑問点を挙げた。
 ● 受入れ始めの初期流速は1m/sを超えていたのではないか。事故当時はタンクに半分程度入っていたというが、受入れ始めのタンクはどういう状態だったか。「充填配管の直径の2倍または61cmの深さ(どちらか小さい方)に浸漬するまで、1m/sに制限する」は満足していたのだろうか。
 ● 油槽所は受入れ始めの初期流速の制限事項を知っていたのだろうか。 
 ● 初期流速の制限が終わったとして、その後の受入流速が速かったのではないだろうか。「最大流速は7m/s~10m/s」の範囲になっていたのだろうか。
 ● 油槽所は荷揚げ時の最大流速を定めていたのだろうか。「最大流速は7m/s~10m/s」の範囲にしていたのだろうか。
 ● タンクの接地はされていたのだろうか。接地されていても、正しく保全されていなかったのではないか。

 これに対して、再発防止策の中で、「作業マニュアル内において、送油速度について明文化し、より静電気の発生を少 なくするように作業内容を改善した」とあり、発災当時、流動帯電や流速制限について認識が無かったために事故が起こった。一方、「アース抵抗の測定」が行われ、問題なかったことにより、タンクの接地は問題なかったと思われる。

■ 爆発混合気については、前回の所感で「タンク内の蒸気空間から考えてみると、受入れ前の蒸気空間はほとんど空気で、灯油ベーパーはわずかと思われる。(満杯のタンクから灯油を払い出しており、代わりに空気が流入している) 灯油を受入れ始めると、空気が出てゆき、灯油ベーパー成分が増えていく。灯油ベーパーの燃焼範囲は1.1%~6.0%であり、この範囲になったとき、蓄積していた静電気で火花を発し、引火して爆発したと思われる」と指摘したが、今回、灯油のほかに軽質な油のコンタミ(混合汚染)が起こったかは明確でないが、設備的にコンタミの起こるような問題が存在していたことが明らかになった。

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Rescuenow.net,  徳島市の徳島石油末広油槽所でタンク爆発火災、現在は鎮火,   May  16,  2019
    ・Topics.or.jp,  徳島市で石油タンク1基が爆発し出火、消防車13台が出動,   May  16,  2019
    ・Anzendaiichi.blog.shinobi.jp,  2019年5月16日 徳島市の油槽所で船から灯油を500KLタンクに荷揚げ中、タンクが爆発し火災発生、けが人なし,  May  23,  2019
    ・Nhk.or.jp , 油槽所のタンク火災 一時騒然,   May  16,  2019
    ・Eitokun.com , 徳島市末広でタンク爆発火事情報[今日の火災速報]ツイッター動画や画像で現在の場所は【2019年5月16日リアルタイム速報】,   May  16,  2019
    ・Topics.or.jp, 徳島市のタンク爆発 現場検証で送油管の状況確認,   May  18,  2019
    ・Kore-shiri.com, 徳島市末広1丁目徳島石油の火事原因や場所、被害は!画像動画を調査,   May  16,  2019
    ・Tokuseki.co.jp, 当社末広油槽所火災事故について,   October  21,  2019


後 記: 今回の情報は、最近の日本で起こったタンク火災について、その後の状況を調べてみたことから知った情報です。原因は継続して調査中ということですが、民間会社としては油槽所を再開するニーズがあることから、「事故原因となり得るすべての可能性を抽出して再発防止策を講じた」という変則的な過程でした。前回の後記で「教訓は広く開示してもらいたいものですね」と述べましたが、事故原因がややボーとしていますが、世の中の油槽所の関係者にとって教訓は開示されています。それにしても、大きな大気開放型タンクの「立管構造」というのは初めて知りました。逆流防止やコンタミ防止を狙ったのでしょうが、荷揚げ時の流速が速ければ、静電気発生を促すありえない設計です。タンクのボ トム・ローディング型に改修したといっても、「荷揚げ時の流速制限を守る」ことが肝要なのは勿論です。いままで事故が発生していない方が不思議なくらいで、マーフィーの法則 「起こる可能性のあることはいつか実際に起こる」の典型例だと感じながらまとめました。









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