本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいて要約したものである。
・FireDirect.net,
Major Fire at Indian Oil Corporation’s Hazira
Depot, January 7, 2013
・News.com.au,
Three Killed in Indian Pil Depot Blaze, January 7, 2013
・AFP,
Three Killed in Indian Oil Depot Blaze: Police, January 7, 2013
・NewsWala.com, Surat
Indian Oil Blaze Killed Three, January 6, 2013
・NewsBullet.in,
Two Killed in Indian Oil Depot Blaze near Surat, January 6, 2013
<事故の状況>
■ 2013年1月5日(土)午後12時30分、インドのクジャラート州スーラトにあるインディアン石油(IOC)のハジラ・ターミナルのガソリン用タンクが爆発し、火災が発生した。
インディアン石油の関係者によると、4番タンクが3日前に漏れがあり、Iインディアン石油のバドダラ施設から3名の作業員が来て溶接作業を行っていたときに、爆発が起こったという。この3名の溶接を行っていた作業員は行方不明だという。その後、行方不明だった3名の作業員は死亡が確認されたと、当局は発表した。事故のあった石油ターミナルは、スーラトから約18km離れたハジラのバーサ近くのイチャプールにあり、石油製品を貯蔵していた。
■ 事故発生に伴い、スーラト、ナブサリ、ビリモラから出動した500名の消防士が火災の消火活動に従事した。また、ONGC(インド石油天然ガス公社)、L&T社(ラーセン&トゥブロ社)、エッサール社、リライアンス・インダストリーズ社の消防隊も消防活動の支援を行なった。少なくとも25台の給水車が火災タンクの消火に使われ、55台を超える消防車と30台の給水車によって隣接する他のタンクへの延焼を防ぐために使用された。
ハジラ・ターミナルの近くには、ONGC(インド石油天然ガス公社)の鉄道用ガソリンタンク貨車が40台停っていた。当局は、最優先でこれらの貨車を安全な場所へ移動させた。
■ スーラト市消防署のパンカジ・パテル署長によると、タンクの上部屋根が爆発場所から30m離れた所に噴き飛んでいたという。パテル署長は、逆巻くように立ち昇る煙が消防隊の活動の妨げになり、そして夜に入って状況はますます悪化したと語った。パテル署長によると、火災を消火し、延焼を阻止するためには毎分22,000リットルの水量が必要だったという。アーメダバード消防署とバドダラ消防署も支援のために駆けつけた。火災消火と隣接タンク冷却のため、
6,000KLを超える量の水と泡が使用された。
(写真はEnglish.Cina.comから引用) |
(写真はFireDirect.netから引用) |
■ 1月6日(日)になって火災は制圧下に入った。警察の発表では、火災の制圧までに21時間かかったという。警察当局の話によると、「3人の被害者は溶接工で、地獄のような火に巻き込まれた」という。 同日、インディアン石油は、亡くなった作業員のうち、二人はライシン・チョウドハリさん(38歳)とラーフル・プラサドさん(20歳)であることを確認したと発表した。先に発見された二人の遺体に続いて、6日(日)正午頃、3人目の遺体が発見された。政府は、被害者の家族には5ラーク・インドルピー(30万円)の賠償が払われると発表している。
インディアン石油は、「昨日の正午頃、ハジラにあるインディアン石油の貯蔵ターミナルにおいてモーター・スピリット(ガソリン)用タンクから発生した火災は、現在、完全に鎮圧され、わずかにくすぶっている状態です。その他のタンクは安全な状態です」と発表した。
モイリー大臣の会見を撮すテレビ画面
(写真はYouTubeの動画から引用)
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■ インドの石油・天然ガス省ビーラパ・モイリー大臣がくすぶった状態の現地を訪れ、火災の原因について調査するよう指示した。モイリー大臣は、インディアン石油の損害は45クロール・インドルピー(276百万円)にのぼるだろうと語った。インディアン石油は、火災の原因について社内の委員会で調査を行っており、1月20日には報告書を出す予定だと話している。
■ ハジラ・ターミナルには9基のタンクがあり、うち5基がガソリン用で、残り4基がディーゼル燃料用のタンクである。発災したタンクは容量9,600KLのガソリン用で、火災発生時には約半分の油が入っていた。強風のため、別のガソリン用タンクにも飛び火していた。
■ 週末にスーラトで起こった火災は、インディアン石油としては、2009年、北インドのジャイプールの貯蔵施設で11名が亡くなった大火災に続く事故である。 ジャイプールの火災では、11日間燃え続け、11名が亡くなり、損害額は280クロール・インドルピー(17億円)にのぼった。
飛び火した隣接タンクの消防活動 (写真はYouTubeの動画から引用) |
ほとんど座屈した火災タンク (写真はYouTubeの動画から引用) |
消防隊による消防活動 (写真はAFPから引用) |
補 足
■ 「インド」は、正式にはインド共和国で、南アジアに位置し、インド亜大陸を占める連邦共和国で、イギリス連邦加盟国である。首都はニューデリーで、人口は約12億人で世界第2位である。
「クジャラート州」は、インド北西部にある州で、人口は約5,060万人である。
「スートラ」はクジャラート州の中部にある人口約315万人の都市で、インドで10番目に大きい都市である。
■ 「インディアン石油」(Indian
Oil Corporation ; IOC)は、1964年に設立された国営の石油会社で、ニューデリーに本社を置き、従業員は約34,000人である。インドの大統領が会社の78%の株を有しており、国家統制されている。インディアン石油グループは、国内に10箇所の製油所を持ち、年間6,570万トン(約130万バレル/日相当)の精製能力を有し、139箇所の石油貯蔵ターミナルを有している。
なお、今回の事故の消防支援に参加した国営の「ONGC 」(Oil and Natural Gas Corporation
Limited ; インド石油天然ガス公社)、民間の「エッサール」や「リライアンス・インダスリーズ社」はインドにおける主要な石油会社である。
■ 「発災タンク」は、ガソリン用で容量9,600KLだとしたが、
報道には6,000KLや5,000KLといろいろな情報があった。グーグルマップで発災タンクの直径を推測すると、約32mであり、高さを10~12mとすれば、容量は8,000~10,000KL程度となり、9,600KLの情報を採用した。タンク型式は浮き屋根式と考えられるが、消防署長の「タンクの上部屋根が爆発場所から30m離れた所に噴き飛んでいた」という話と、火災写真においてタンク上部に屋根の骨部材が見えており、アルミニウム製ドーム型の浮き屋根式タンクではないかと思われる。
事故当時、発災タンクには油が約半分入っていたという情報なので、液位は5~6mと思われる。ガソリンの燃焼速度を33cm/h(消防研究所の燃焼実験、2004年10月)とすれば、燃え尽きるまでの時間は約15~18時間となる。発災から鎮圧までに21時間かかったということから、火災は泡消火活動によって鎮圧されたのではなく、燃料が燃え尽きたものと思われる。ただし、隣接タンクでは、シール部の火災が発生しており、この火災は消火活動で消火されたと思われる。
矢印が発災タンク。この写真では改修が行われているように見える。火災写真では、タンク上部に屋根の骨部材が見えており、アルミニウム製ドーム型の浮き屋根式タンクに改造されたと思われる。 |
■ 「消火活動」では、大容量泡放射砲が使用されたという情報はない。配備されていなかったと思われるが、例えば、日本の石油コンビナート等災害防止法でも、直径34m以上の浮き屋根式タンクに対して能力10,000L/分の大容量泡放射砲システムを配備する必要があることになっており、今回の発災タンクの大きさでは、配備対象とならない。米国でも、「貯蔵タンクの火災要因と防止策」(当ブログ2012年8月紹介)によれば、「直径45m以下のタンクの場合、有効な消火資機材(水、泡など)と人材が揃えば、消火活動は比較的容易である」 といい、必ずしも大容量泡放射砲を用いなくても消火は可能だと考えている。
■ 「隣接タンクの延焼防止」(輻射熱曝露対策)に冷却放水が行われている。消防署長によると、「火災の消火と延焼阻止に22,000L/分の水量が必要だった。 6,000KLを超える量の水と泡を使用した」という。
この水量の妥当性について考えてみる。 「貯蔵タンクの火災への備えは十分ですか?」(当ブログ2012年9月紹介)によれば、「一般的には、風下側を第一優先に曝露対策を行うことになる。風下の右側と左側にあるタンクについて冷却する必要が出るだろう。 曝露対策の冷却放水をしている場合、タンク側板部に水蒸気が出ている限り、冷却効果があると見て放水を継続すべきである。水蒸気が出ていない状態になれば、冷却の放水を停止する。タンク側板が再び熱せられた場合、冷却を再開する。このようにして消火用水の量を管理することによって、排水の量を減らす。タンクへの冷却水量は、直径30m未満のタンク;1,850L/分、直径30~45mのタンク;3,780L/分とする。注意すべき点は、過剰に冷却水を使うと、施設内の雨水排水系統のシステムを設計以上に酷使することになる。施設内の排水用ポンプの能力を超えてしまうと、火災地区で使用した水が溢れて、防油堤内をオーバーフローし、混合汚染の問題が生じる恐れがある 」と述べている。
今回の火災に適用してみると、発災タンクの隣接する2基と前面の2基の計4基のタンクに冷却放水を行なった仮定した場合、 [3,780L/分×1基]+[1,850L/分×3基]=9,330L/分 の水量となる。これに10,000L/分の泡消火水を加えれば、19,330L/分の水量となり、消防署長の話と概ね合っている。総量で6,000KLの水量を注水しているが、防油堤の滞水能力を超えてはいない。消防署長が定量的に把握しており、状況に応じた消防戦術をとっていることがうかがえる。しかし、事故後の消火泡廃水の処理が適正に行われたかの懸念はある。
所 感
■ 今回の事故は、火気工事中の爆発・火災だと思われるが、かなり大きな爆発が起こっているので、タンク浮き屋根上に多量の可燃性ガスが滞留して着火したものと思われる。可燃性ガスの環境管理や火気管理に問題があったことは間違いない。タンク型式の情報は伝えられていないが、写真などからアルミニウム製ドーム型浮き屋根式タンクと思われる。タンク型式と爆発要因に関係があるのかなど事故原因については調査結果を待ちたい。
■ 断片的な情報からであるが、今回の消火活動に注目すべき点がある。直径32m級で10,000KL未満のタンク火災は従来の消防資機材で対応が可能だと考えられていたが、今回、消火できなかった。強風や障害物(ドーム型屋根の残骸など)など消火活動に支障となる条件があったにしても、消防人員や資機材は揃っていたと思われる中で消火できなかったということは、このクラスでも大容量泡放射砲システムが必要だといえる。
後記; 亡くなった人への賠償が30万円という数字がありましたので、インドの人の収入がどれくらいか調べてみました。少し古いのですが、2008年にインド国立経済応用研究所の行なった調査結果では、1世帯年収50万円以下が1億8千万人、全世帯の81%だそうです。そして年収50万円を超えれば高所得者層だといいます。30万円の金額価値に関する印象は、調べる前後で一変しました。しかし、一方、円換算する意味があるのかという気もします。5ラーク・インドルピーとしておく方が予断を持たないようにも思います。収入が低いからといって、インド人が全員不幸なわけでもありませんし、昭和30年初期の日本人が不幸だったわけでもなかったのですから。これからも外国の情報を調べることになりますが、金額や円換算にこだわることはないなと思っています。
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