(写真はMediatv.nl
から引用)
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< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、オランダのロッテルダム(Rotterdam)の港開発地区であるユ-ロポールト(Europoort)にあるカルディック・ケミー・B.V社(Caldic
Chemie B.V.) の貯蔵タンク施設である。
■ カルディック・ケミー・B.V社は、ユーロポールトにメタノールとバイオエタノールの生産・貯蔵設備のほか桟橋、鉄道、タンクローリーの入出荷設備を有している。同社は化学会社のカルディック社(Caldic
Corp.)の系列会社である。
■ 発災があったのは、貯蔵タンク施設のメタノール用タンクである。タンク容量は6,500KLと報じられている。(実際は1,500KLクラスとみられる)
ロッテルダムのユ-ロポールト付近 (写真はGoogle
Mapから引用)
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ユ-ロポールトのカルディック・ケミー・B.V社付近 (写真はGoogle
Mapから引用)
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< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2016年7月19日(火)午後7時18分、ユ-ロポールトにあるメタノール貯蔵タンクで爆発が起った。爆発によってタンクの屋根が噴き飛び、地上へ落下した。その後、タンクは火災となった。
■ 発災当時、船からタンクへの荷揚げが行われていた。構内には11名の人たちがいたが、ケガは無かった。
■ 発災に伴い、消防隊が現場に出動した。警察はヘリコプターを飛ばし、上空から観察して状況に関する情報を伝えた。
(写真は左:Grootthellevoet.nt 右:Rinmond.nlから引用)
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■ 事故対応手順に従って、発災タンクに消火泡が放出され、隣接タンクへの冷却が実施された。
■ ロッテルダム港にいた船舶は、状況を確認するため待機していた。
■ 事故から約1時間経過した午後8時30分頃、状況は制圧下に入った。
■ 火が消えた時点で、タンク内にはメタノールが50%ほど残っていた。残液は近くの別なタンクへ移送された。
被 害
■ 貯蔵施設のメタノール貯蔵タンク1基が爆発と火災によって損壊した。内液のメタノールが一部焼失した。(50%のメタノールが残った)
■ 事故に伴う死傷者はいなかった。
(写真はHetbrandweerforum.nl
から引用)
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(写真はAD.nlから引用)
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< 事故の原因 >
■ 事故の原因は調査中である。(原因調査は7月20日から当局と専門家チームの共同作業によって進められている)
■ カルディック・ケミー・B.V社は、8月10日(水)、爆発の原因について暫定的な結論を得たが、さらにこの仮説を裏付けるため、別なチームに追加の調査を依頼していると発表している。暫定的な結論は公表されていない。
< 対 応 >
■ 発災に伴い、消防隊が出動した。7月19日(火)午後8時30分頃、状況は制圧下に入った。しかし、消防隊は隣接タンクの冷却作業をしばらく継続した。
■ カルディック・ケミー・B.V社は、事故後、原因がはっきりするまでメタノールとバイオエタノールの関連設備の操業を停止した。原因調査は、7月20日から当局と専門家チームの共同作業によって進められた。
同社は、8月10日(水)、爆発の原因について暫定的な結論を得たが、さらにこの仮説を裏付けるため、別なチームに追加の調査を依頼していると発表した。
■ この暫定的な結論と対策によって、メタノールとバイオエタノールの入出荷業務の安全性が確認できたので、停止していた関連設備の操業を再開することとした。所管の官庁と認識が合っており、操業再開に異義は出されなかった。メタノールとバイオエタノールの施設操業は8月5日(金)から実施されている。
補 足
■ 「オランダ」(Nederland)は欧州北西部に位置し、北は北海に面する人口約1,600万人の国である。正しくは、欧州だけでなく、カリブ海にも特別自治体の島を有するオランダ王国である。憲法上の首都はアムステルダムであるが、王宮、国会、中央官庁、各国大使館などはデン・ハーグにあり、事実上の首都となっている。日本では、風車、チューリップなどが有名であるが、世界でも有数の天然ガス産出国である。カリブ海のキュラソーはオランダ王国の構成国のひとつであるが、2012年8月に「カリブ海キュラソー島で油流出して環境汚染」の事故があった。
「ロッテルダム」(Rotterdam)は、オランダの西部に位置する南ホラント州にあり、人口約63万人の港湾都市である。
オランダと周辺国 (図はGoogle
Mapから引用)
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■ 「カルディック・ケミー・B.V社(Caldic
Chemie B.V.)は、化学会社のカルディック社(Caldic
Corp.)の系列会社で、ユーロポールトにメタノールとバイオエタノールの生産・貯蔵設備を有しているが、施設の生産・貯蔵能力は不詳である。
ユ-ロポールトのカルディック・ケミー・B.V社の施設(事故前) (写真はHetbrandweerforum.nlから引用)
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■ 発災タンクは容量6,500KLと報じられているが、グーグルマップによると、直径が約14mであり、高さを約10mとすれば、容量1,500KLクラスのコーンルーフ式タンクと思われる。また、被災写真によると、屋根が噴き飛んだあとの内部に浮き屋根が見られるので、内部浮き屋根式タンクと思われる。
日本では、内部浮き屋根式タンクの浮き屋根でいろいろな問題(沈降や破損など)が起こっており、消防庁から各種報告書が公表されている。
● 「内部浮き蓋付き屋外貯蔵タンクの安全対策に関する検討報告書」(2011年5月)
● 「内部浮きぶた付き屋外タンクの異常時における対応マニュアル作成に係る検討報告書」(2009年12月)
なお、米国における内部浮き屋根部の構造例は「内部浮き屋根シールの供用中検査の方法」を参照。
桟橋と発災タンク(矢印)の位置 (図はGoogle
Mapから引用)
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所 感
■ メタノールは、ガソリンと同様、揮発性が高くて引火しやすく、空気と混合して爆発混合気(爆発範囲:6~36%程度)を形成しやすい可燃性液体で、タンクでの爆発事例(「石油化学貯蔵所でメタノールが爆発し4人が死亡」)もある。
一方、タンクが内部浮き屋根式とみられ、入荷作業時に起こっていることを考えれば、内部浮き屋根の上部にメタノールと空気の爆発混合気が形成して、静電気などの引火要因によって爆発したものであろう。この入荷作業時の運転操作には、つぎのような問題があったと思われる。
● メタノールの揚げ荷速度が速すぎ、液が内部浮き屋根シール部から吹き上がった。
● 荷揚げ時の空気抜きが不十分(あるいは未実施)で、空気がメタノールを伴って内部浮き屋根シール部から吹き上がった。
■ 当該事故はタンク屋根を噴き飛ばす爆発が起った後、タンク火災は激しくなかったようである。火災は1時間ほどで制圧されており、タンクの被災写真を見ても焼損は比較的軽微である。消火活動が適切だったということもあろうが、大きな要因としては内部浮き屋根の浮力機能が維持され、内部浮き屋根上に漏出していたメタノール分だけが燃えたためと思う。これが、日本で使用されているパン型やバルクヘッド型の簡易タイプの内部浮き蓋タイプであれば、浮き蓋が沈降して全面火災になっていたかもしれない。この点、外部浮き屋根だけでなく、内部浮き屋根の浮力機能も重要だということを再認識させる事例だといえよう。
(注: 船からのタンク受入時に、軽質ガスが液を伴ってタンク内部浮き蓋上に噴き上がり、浮き蓋が沈降した事例は実際に起こっている。「№250タンク浮き蓋沈下原因調査結果」を参照)
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである
・Caldic.com,
Statement Caldic Chemie
Europoort ,
July 20, 2016
・Firedirect.net, Nederlands
– Europoort Tank Fire, July
22, 2016
・Mediatv.nl, brand
na Explosie Chemebedrijf
Caldic Europoort, July
19, 2016
・Caldic.com,
Statement Caldic Chemie
Europoort (Update), August
10, 2016
後 記: リオ・オリンピックに高校野球と毎日、話題の多い暑い夏です。気分が燃えているのではなく、西日本は本当に連日の猛暑で、熱中症になりそうです。
ところで、7月はタンク事故が続いた月でした。今回のオランダの事故は火災の火が短時間だったためか、情報量は少なかったですね。発災会社のウェブサイトに事故情報が掲載され、続報も出され、原因が分かったようですが、公表されず、なにか中途半端です。毎回、意外に時間を費やすのが、この発災会社(施設)を調べることです。会社名は分かっていても、どこにあるのか、どのような会社なのか、タンクの大きさはどうなのかなど基本的な情報を追っかけるのですが、完璧に分かることはないですね。ただ、苦にならないのは、世界の知らないところをGoogle
Mapなどで旅ができます。7月はこれまで訪れたことのない(?)イランとロッテルダムでした。
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