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2016年5月20日金曜日

インドのバイオ燃料製造施設で火災、タンク12基に延焼

 今回は、2016年4月26日、インドのアーンドラ・プラデーシュ州ヴィシャーカパトナムにあるバイオマックス・フューエル社バイオ燃料製造施設の貯蔵エリアで火災が起こり、12基のタンクに延焼した事故を紹介します。
写真NDTV.com から引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、インド(India)南部のアーンドラ・プラデーシュ州(Andhra Pradesh)ヴィシャーカパトナム(Visakhapatnam)の特別経済区にあるバイオ燃料製造会社のバイオマックス・フューエル社(Biomax Fuel Ltd)の施設である。施設は、いろいろな原料から年間50万トンのバイオディーゼル燃料を生産する能力を有し、インド国内で最大級のバイオ燃料プラントのひとつである。

■ 施設内の貯蔵エリアには、2010年に建設された原料油用とバイオ燃料用の貯蔵用タンクが18基設置されている。原料用貯蔵タンクは12基あり、1基当たりの容量は約3,000KLで、発災時、各タンクには50~70%の原料油が入っていた。精製製品のバイオ燃料用貯蔵タンクは6基あり、1基当たりの容量は約6,700KLである。このほか、このタンク地区から約200m離れたところに、1基当たりの容量が400トンのメタン用タンクが4基ある。
ヴィシャーカパトナム特別経済区のバイオマックス・フューエル社付近(矢印が発災場所)   
(写真はグーグルマップから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2016年4月26日(火)午後7時15分頃、バイオ燃料製造施設の貯蔵エリアで火災が起った。黒煙が空に向かって立ち昇った。当時、発災現場近くに人はいなかったが、構内にいた15人ほどの作業員は安全に避難した。

■ 火災はタンクNo.9またはタンクNo.4から起ったとみられ、数分もたたずに他のタンクへ延焼していった。バイオマックス・フューエル社の自衛消防隊が消防活動をし始めたとき、タンクNo.4で爆発が起った。なお、同社には、専属の消防士を置いておらず、消防車も保有していなかった。

■ 火災になった原料油タンクには、パーム脂肪酸蒸留物(Palm Fatty Acid Distillate: PFAD)が入っていた。

■ 市消防に通報があったのは午後7時35分で、消防隊が現地へ到着したのは午後8時10分だった。
消防隊が駆け付けた後も火災によって6基のタンクで爆発が起ったという。当日午後10時には、火災タンクは11基に広がった。

■ 近くにある住民地区では騒ぎとなり、一部で避難する状況となった。

■ 消防隊の懸命な活動にもかかわらず、翌日になっても、火は衰えることなく、燃え続けた。結局、施設にあった18基のタンクのうち12基に延焼した。

■ 発災から40時間を超えた28日(木)正午の時点でも、タンク1基で火災が続き、ほかの1基からは煙が上っていた。この2基を除けば、ほかの10基は内部の油が燃え尽きた状況だった。消防隊は火災を制圧下に置くため、泡と水の放射を続けた。夕方になって火災は鎮火した。火災に伴う負傷者は出なかった。

■ 今回の火災は、1997年地元のヒンドゥスタン・ペトロリアム・コーポレーション社(Hindustan Petroleum Corporation Limited)で60人の犠牲者を出した製油所火災事故を思い出させるほど、火の勢いが強かった。しかし、今回の場合、幸いなことに死傷者が出なかった。 インドの産業界では、火災事故は増加傾向にあり、特に化学・製薬工場では、2012年以降30件の事故が起こっている。

被 害
■ 貯蔵エリア内のタンク12基が火災によって損傷した。タンク内にあった15~20トンの原料油が焼失した。損害額は9~10億ルピー(15~16億円)と推定されている。

■ 火災に伴う負傷者は無かった。近くの住民が一部避難した。
(写真はThehindu.comから引用)
(写真はTelugustoday.com から引用)
(写真はBehindwoods.comの動画から引用)
< 事故の原因 >
■ 原因は調査中である。
  火災は、タンクに接続されているポンプの電動機で短絡があったために起ったとみられている。また、火災から爆発に至ったのは、タンクから内部液が漏れていて、これに引火して火災になり、最終的にタンクが爆発した可能性があるという見方も出されている。
(なお、この地区の産業界における事故の70%は電気的な短絡によると報じられている)

■ 国家災害対応・消防庁によると、施設が国家建築基準(2005年)の火災安全システムに合致しておらず、貯蔵タンク間の保安距離が不足していたので、隣接タンクへの延焼が早かったとみているという。当該施設のタンク間距離は6mだった。

< 対 応 >
■ 発災に伴い、市消防のほか、海軍の消防隊数十名が現場へ出動した。

 現場には、ヒンドゥスタン・ペトロリアム・コーポレーション社の製油所と海軍の消防隊から消防車8台が駆け付けた。うち2台は泡放射の可能な化学消防車だった。

■ 27日(水)には、さらにヴィシャーカパトナム鉄鋼や港湾組合からの応援で駆け付け、合計150名の消防士と45台の消防車で消火活動が行われた。泡薬剤は各消防隊から集められ、10KL超の泡薬剤が消火のために使用された。

■ 12基のタンク内の油が燃え尽きて制圧下に入るのは、27日(水)夕方と予測された。消防隊は、貯蔵エリアの別な場所に設置されている6基のタンクへの延焼を避けることに努めた。

■ 海軍は、火災の状況を把握するため、2機の飛行機を飛ばした。また、救急車と医療チームを現場に配置した。

■ 発災から3日目の28日(木)夕方になって火災は鎮火した。
(写真はThenewsminute.comから引用)
(写真はNDTV.comから引用)
(写真はScoopnest.com から引用)
(写真はThenewsminute.com から引用)
(写真はNewindianexpress.com から引用)
補 足
■ 「インド」は、正式にはインド共和国で、南アジアに位置し、インド亜大陸を占める連邦共和国で、イギリス連邦加盟国である。首都はニューデリーで、人口は約13億人で世界第2位である。
 「ヴィシャーカパトナム」(Visakhapatnam)は、インドのアーンドラ・プラデーシュ州にあり、人口約173万人の都市である。インドの東海岸にあり、ベンガル湾に面した港湾都市で、重工業が盛んなほか、インド海軍の拠点都市でもある。
                                      インド中部付近  (図はグーグルマップから引用)                      
■ 「バイオマックス・フューエル社」(Biomax Fuel Ltd)は、2005年に設立したバイオ燃料製造会社で、非政府系企業である。インド国内に2つのバイオ燃料製造施設を有しており、最も大きいのが年間50万トンのバイオディーゼル燃料の生産能力を有するヴィシャーカパトナムの施設である。
 貯蔵タンク地区にあるタンクの大きさを報道容量とグーグルマップから推定すると、原料油タンクは直径約14m×高さ20m×容量3,000KL、バイオディーゼル燃料タンクは直径約19m×高さ約23m×容量6,700KLとなる。

■ 「バイオディーゼル燃料」は、植物油を原料とし、化学処理などの方法により製造されたディーゼルエンジン用の液体燃料である。ディーゼルエンジンは、もともとピーナッツ油等の植物油を燃料としていたが、原油による軽油が主流となっていた。しかし、1970年代のオイルショックを契機に、再びバイオディーゼル燃料が注目されるようになった。
 バイオディーゼル燃料の原料は、欧州では菜種油・ひまわり、米国では大豆油、東南アジアではパーム油が主な原料になっている。日本では、廃棄物の有効利用の観点から、廃食用油が用いられている。バイオマックス・フューエル社のウェブサイトでは、いろいろな原料から製造しているとあり、通常の原料油は明らかにしていない。今回の事故時にはパーム油と報じられている。
 製造方法にはいろいろな種類があるが、一般的な方法としては、アルカリを触媒としてメタノールと化学反応させることにより、原料油を脂肪酸メチルエステル(バイオディーゼル燃料)にする方法である。副産物としてグリセリンが発生する。バイオマックス・フューエル社のウェブサイトでは、製造方法は明らかでない。バイオ燃料製造プロセスの例を図に示す。
                   バイオ燃料製造プロセスの例  (図はCampomexicano.gov.mxから引用)
■ 「パーム脂肪酸蒸留物」(Palm Fatty Acid Distillate: PFAD)はパーム原油(Crude Palm Oil)の精製過程で得られる脂肪酸蒸留物である。規格はなく、性状例としては、密度約880kg/㎥、引火点約200℃、自然発火点約350℃、爆発はしないといわれている。火災時にはドライケミカル、泡、炭酸ガスによる消火を行い、水は使用しない。

所 感
■ 事故の状況や原因に関する情報は比較的出そろっているが、つぎのような疑問があり、総じてよく分からないというのが、率直な印象である。
 ● パーム脂肪酸蒸留物の入っていた原料油タンクが爆発を起こすのか。
 ● 爆発を起こすような軽質留分はどのようにして入っていたのか。
 ● 発火源が電動機の短絡というが、何に着火したのか。
 ● 全12基の原料油タンクの火災による損傷程度に大きな差があるのは、内液の違いか。
 本来爆発を起こすような液でないので、原料油タンクの運用に問題があったことは間違いない。受入れるべき原料油で問題のあった事故としてはつぎのような事例がある。
 
■ 一方、火災に対する消火活動にも、つぎのような疑問があり、対応が適切だったかよく分からない。
 ● どのような消火戦略がとられたのか。(積極的戦略、防御的戦略、不介入戦略の選択)
 ● 消防士150名、消防車45台、泡薬剤10KL超の人員・資機材で、燃え尽きる前に消火できなかったのか。
 ● 消防隊は、燃えている原料油のMSDS(化学物質安全性データシート)を認識していたのか。
 ● 混成チームの消防隊の内部統制(指示命令系統)は機能したのか。
 確かに消火の容易な条件の火災ではないが、現場での的確な判断が行われず、成り行きで進んでいったように感じる。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである
    ・Hindustantimes.com, Blaze at Visakhapatnam Bio-Diesel Plant, Fire Tenders Rushed,  April  27,  2016 
  ・Foxnews.com,  Biofuel Manufacturing Plant Catches Fire in Southern India,  April  27,  2016
  ・Indianexpress.com, Fire Continues to Rage at Biomax Fuel in Visakhapatnam, 41 Fire Tenders at Spot,  April  27,  2016  
  ・Indiatoday.intoday.in,  Massive Fire at Bio-diesel Factory in Visakhapatnam, 12 Tanks Still Ablaze,  April  27,  2016
    ・Khaleejtimes.com,  Biofuel Manufacturing Plant Catches Fire in India,  April  27,  2016
    ・Dnaindia.com,  Fire at Bio-diesel Plant in Visakhapatnam SEZ Put Out,  April  27,  2016
    ・Thehindu.com,  Fire Ravages Bio-Diesel Unit at SEZ in Visakhapatnam,  April  27,  2016
    ・Business-Standard.com,  Fire at Bio-diesel Plant in Visakhapatnam SEZ Put OutApril  27,  2016
  ・Fibtimes.co.uk, Visakhapatnam: Fire Rages on at Biodiesel Unit in South India,  April  27,  2016
    ・Newindianexpress.com,  Vizag SEZ Fire: 40 Hours on, Fire Continue to Rage Biomax Tankers,  April  28,  2016
    ・Thenewsminute.com,  Day 3 of Vizag Bio-diesel Fire: Officials Still Dousing Flames,  April  28,  2016
    ・Thehindu.com, Visakhapatnam Bio-diesel Plant Fire Spreads Fast as System Fails,  April  28,  2016
    ・NDTV.com,  36 Hours and Counting: Factory Fire Near Visakhapatnam Rages on,  April  28,  2016
    ・Firedirect.net,  Biofuel Manufacturing Plant Catches Fire in Southern India,  April  28,  2016
    ・Newindianexpress.com,  Vizag Fire: Fuel Fcility Did Not Have Proper Hydrants?,  April  28,  2016
    ・Newspapad.com,  A Major Fire Incident at a Biofuel Plant near Visakhapatnam,  April  28,  2016
    ・Kostalekha.com,  Biomax Fire Accident – A lesson Learned from ill-equipped Industries,  May  18,  2016


後 記: 今回の事故の情報提供者(インドのメディアも情報源を明らかにしている)は多くいたようで、情報数は少なくないのですが、施設を理解していないのか、又聞きのためか、内容やデータに違いが見られ、正しい(らしい)と見極めるのに悩まされました。発災時間、発災タンク数、タンクの大きさ、タンクの内容物、出動した消防士の数、消防車の台数など肝心なものでさえ記事を見比べ、正しいと思われるものを選んでいきました。初期の記事では、バイオディーゼル燃料のタンク火災という思い込みがあったと思います。そのうち、原料油タンクの火災ということが分かり、一応、まとまった内容になりましたが、所感に記載したようにいろいろな疑問が残ったままになりました。消防関係による発表では、火災は制圧しているというコメントが毎日続き、結局、鎮火した正確な時間は分からないままになりました。
 報道という意味では、大きな事故で3日間も火災が続いているにかかわらず、住民の声がまったく報じられていません。また、現場で苦労したと思われる消防士の声も聞こえてきません。このため、臨場感の欠ける淡々とした内容になってしまいました。このあたりがインドの国情を物語るものでしょうか。

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