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2021年10月12日火曜日

米国ニュージャージー州でアスファルト処理工場のタンクが爆発(原因)

  今回は、2020630日(火)に起こった「米国ニュージャージー州でアスファルト処理工場のタンクが爆発」事故について推定原因が判明したことと、米国でアスファルトの爆発・火災事故が多いことに関する指摘が202166日の“Inside Climate News”に掲載されたので、この内容を追補したものを紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 事故があったのは、米国のニュージャージー州(New Jersey)カムデン郡(Camden)グロスターシティ(Gloucester City)のブルーナイト・エナジー・パートナーズ社(Blue Knight Energy Partners)のアスファルト処理工場である。

 発災があったのは、ウォーター通りにあるアスファルト処理工場のアスファルト・タンクである。

アスファルト処理工場では、アスファルト・エマルジョン(アスファルト乳剤)が製造されている。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2020630日(火)午前1250分頃、アスファルト・タンクが、突然、爆発を起こした。

■ 近くの住民は、大きな音と家が揺れたので、目をさました。住民のひとりは、 「ちょうどベッドにはいって寝ようとしたところ、大きなボーンという音が聞こえました。一瞬、花火かと思いましたが、それにしてはあまりにも大きな音でした」と語った。

■ 爆発によってタンク上部の保温外装板が引き裂いたようにはがれ、火災となった。

■ 発災に伴い、グロスターシティ消防署の消防隊が現場に出動した。アスファルトは燃焼性の危険物質なので、カムデン郡のハズマット(Hazmat)隊も現場に駆け付けた。

■ 一方、消防隊は消火水の供給に課題点があった。この地域はデラウェア川に囲まれており、給水が制限されており、消火栓のアクセスも限られていた。 アスファルトは非常に燃焼性があり、まわりには満杯のタンクが火災に曝されており、また、近くには木造住宅がたくさんあったので、消防署はすぐに避難勧告を出すことにした。

■ 当局は、安全が確認されるまで、予防措置として住民を避難させた。34ブロックを半径とする地域に住むおよそ30世帯がコミュニティセンターに避難した。約4時間後に住民は帰宅できた。

■ 事故に伴う負傷者はいなかった。

■ ブルーナイト・エナジー・パートナーズ社は、事故後、ただちに運転を停止し、製品の出荷を取りやめた。 

■ 消防隊は消火泡を使用した。アスファルト・タンクの火災は約3時間ほど続いたあと、制圧され、午前8時に消火が確認された。

■ ブルーナイト・エナジー・パートナーズ社は、タンクの1基でベーパーに引火し、タンク構造物の上部付近で爆発を引き起こしたとしている。事故は従業員がタンクに液を移送していたとき、ベーパーに引火した可能性があるという。

被 害

■ アスファルト用タンクが爆発・火災で損壊した。屋根部が側板から外れ、タンク内に落ちるように損傷している。

■ 事故に伴う負傷者の発生はない。

■ 近くの住民約30世帯が避難した。

< 事故の原因 >

■ 事故直後、ブルーナイト・エナジー・パートナーズ社は、タンクの1基でベーパーに引火し、タンク構造物の上部付近で爆発を引き起こしたとしている。事故は従業員がタンクに液を移送していたとき、ベーパーに引火した可能性があるという。

■ 事故の要因は、自然発火性物質の形成とみられる。

 事故の1年後にグロスターシティ消防長は、爆発の原因はまだ調査中であるとしたが、有力な仮説原因として自然発火性物質の形成があげられていると述べた。

 (アスファルトタンクについて爆発火災の事故が多い要因は後述「対応」の項を参照)

< 対 応 >

■ 現場には、消防や警察のほか、ニュージャージー州環境保護局、連邦環境保護庁、米国沿岸警備隊が立入りを行った。

■ 爆発によって有害な煙が空気中に放出され、大気を汚染した。これは人間の肺に影響を与え、目や皮膚を刺激し、頭痛やめまいにつながる恐れがある。特に、こどもや呼吸器疾患を持つ人には憂慮すべき問題で留意が必要である。

■ 202166日(日)、アスファルトタンクで事故が多い原因について、サブリナ・シャンクマン女史(Sabrina Shankman)等はインターネットでつぎのように述べている。

 ● 業界の専門家は、全国の加熱タンクに貯蔵されているアスファルトとNo.6燃料油製品の構成の変化が、そこで働く従業員や近隣のコミュニティにリスクをもたらす可能性があると考えている。

 ● 米国労働安全衛生局(OSHA)のニュースレポートなどによると、過去10年間で、アスファルトやNo.6燃料油などの重質油の入っていた少なくとも17基の加熱式貯蔵タンクが米国内のアスファルト・プラントやタンク・ターミナルで爆発している。事例の中には、作業者に死傷者が出たり、爆発によって近くのタンクで火災が発生し、地域住民が避難している。

 ● 米国労働安全衛生局(OSHA)や米国化学物質安全性・危険性調査委員会(The U.S. Chemical Safety and Hazard Investigation Board)では、これらの爆発事例について体系的な調査を実施していない。しかし、アスファルトとNo.6燃料油のプロセスと保管方法の変更が事故に関係しているとみられる。そのことによって、作業者やタンクの近くに住む住民が危険にさらされている。

 ● 長い間、企業や規制当局は、アスファルトとNo.6燃料油は性状が重質であるため、タンクからの放散量はわずかだと想定していた。しかし、過去30年の間、企業は製品を強化するため、次第に添加物を使用し、製品の構成を変えてきている。これらの添加剤はタンク内の蒸気圧を上昇させ、爆発しやすくなってきているという。

 ● これらの放出量の増加は企業からの報告がないという。ある州では、規制当局が放出量が無いという誤った仮定にもとづき、報告の提出を要求していない。放出量の報告が必要な州では、企業が、通常、石油業界によって開発された公式を使用して放出量を推定している。しかし、多くの場合、間違っており、蒸気圧とタンクの放散している大気汚染のレベルを過小評価している。

 ● 研究によると、企業が日常的に使用している量よりはるかに少ない量でも、添加剤は製品の爆発性に劇的な影響を与える可能性があるという。

 ● タンクの爆発は主に2つの仕方で起こる。 ひとつは、溶接のような裸火またはほかの引火源によってベーパーに着火することである。もうひとつは、引火源が特定できず、自然発火する場合である。重質油から放出される予想外に高濃度のベーパーが、2つの仕方で爆発に至るという。

■ さらに、シャンクマン女史は、事故の要因についてつぎのように述べている。

 ● 製油所はガソリンやジェット燃料などのより収益性の高い石油製品を生み出すため、 原油から貴重な一滴をより効率的に搾り出すようになっている。このため、減圧蒸留塔の最下部にあるアスファルトやNo.6燃料油などの製品は過去に比べ取扱いがむずかしくなっている。そこで、添加剤が登場してくる。

 ● この添加剤は登録商標されたケミカルだったり、または軽質の炭化水素である。通常、さらに精製されれば、ディーゼル燃料になるような軽質の炭化水素である。添加剤はアスファルトやNo. 6燃料油のような重質油と混合されるので、製品の性能やタンクからの放出量が変化する。

 ● アスファルト研究所の出版物によると、添加剤として軽質の炭化水素を含むことができることを認めている。このような添加剤は、揮発性が高く、タンクからの排出を増やし、添加剤を含まないアスファルトよりも低い温度で爆発する可能性がある。

 ● 一方、自然発火性爆発が発生するために添加剤は必要ない。アスファルトには、硫黄と水素の両方が含まれており、それらが反応すると硫化水素を生成する。アスファルトが加熱されるほど、より多くの硫化水素が生成され、時間の経過とともに高濃度のものが蓄積する。硫化水素がタンク内の酸化鉄(たとえば錆の形で)と反応すると、硫化鉄と呼ばれる新しい化合物を形成する。硫化鉄は空気にさらされると発火する可能性のある自然発火性物質である。

補 足

■「ニュージャージー州」(New Jersey)は、米国の北東部に位置する州で、人口約1,280万人である。 

 「カムデン郡」(Camden)は、ニュージャージー州の南西部に位置し、人口約51万人の州である。

 「グロスターシティ」(Gloucester City)は、カムデン郡の西部に位置し、デラウェア川をはさんでペンシルベニア州に接する人口約11,000人の市である。

■「ブルーナイト・エナジー・パートナーズ社」(Blue Knight Energy Partners)は、オクラホマ州タルサを本拠地として2007年に設立したエネルギー会社で、特に液体アスファルトと原油を中心として物流部門の事業を展開している。は 1,570万バレル(250KL)の貯蔵タンク、約646マイル(1,033km)のパイプライン、約60台の原油用タンクローリー、26州にある53箇所の液体アスファルト・ターミナルを保有している。

■「アスファルト・エマルジョン」(アスファルト乳剤)とは、加熱しなくても常温で取扱えるように工夫したものをいい、アスファルトと水に乳化剤を混ぜてアスファルト微粒子を水中に分散(乳化)させ、含まれている水分が蒸発することでアスファルトとしての粘度性能を発揮させる。アスファルト・エマルジョン(アスファルト乳剤)は、主として舗装の表面処理、安定処理、タックコートなどに使用され、他にも緑化、水利、防水、鉄道の軌道材料などとして用いられている。アスファルト・エマルジョン(アスファルト乳剤)の製造方法の例は図のとおりである。

 乳化剤によって、水中にあるアスファルト粒子の表面の電荷が異なり、電荷の違いによりカチオン系(正電荷)、アニオン系(負電荷)、ノニオン系(帯電なし)に分けられる。カチオン系は、接着性に優れることから道路舗装によく用いられており、日本で道路用に使用されているアスファルト乳剤のほとんどがカチオン系で、アニオン系乳剤が使われることは少ない。ノニオン系は、セメント・アスファルト乳剤安定処理混合用として、既設アスファルト舗装を修繕する際、その場で舗装を粉砕して既設の路盤材とともに混合し、路盤を再構築する路上再生工法に使用される。乳化剤は以下のものが使われる。

 ● カチオン系:牛脂やヤシ油の脂肪酸誘導体のアミンの塩酸または酢酸塩(pH25

 ● アニオン系:高級アルコール硫酸塩(pH1213

 ● ノニオン系:アルキル基(ノニルフェニルなど)にエチレンオキサイドを付加したもの(中性付近)

■「発災タンク」は、アスファルト・タンクというだけで、容量や大きさなどの仕様は報じられていない。グーグルマップで調べると、発災タンクは直径約19mである。高さを12mと仮定すれば、容量は3,400KLとなる。従って、容量3,000KL級のコーンルーフ式タンクだとみられる。

 通常、コーンルーフ式タンクは爆発など内圧が上昇したときには、屋根と側板の溶接線が意図的に弱くした放爆構造で製作されており、屋根板が外れるようになっている。今回の事故でも、屋根板が側板から外れ、一部がタンク内に落下したと思われる。しかし、タンクの保温外装板は引きちぎられたようにギザギザになって破断している。これが、タンク側板が引きちぎられたように見える。一般に全面火災時は熱によってタンク側板が内側に座屈するが、今回はタンク保温外装板が火災の熱によって内側に座屈したとみられる。

 一方、発災タンクだけでなく、隣接しているタンクをみると、大気開放のタンクベントがついていないように見える。住宅地が近いので、不活性ガスの封入あるいは除害装置への連絡管が設置されているのではないだろうか。(爆発しているので、不活性ガス封入ではないと思われる)

 なお、発災タンクは、アスファルト・エマルジョン(アスファルト乳剤)を製造する前のアスファルトのタンクなのか、アスファルト・エマルジョン(アスファルト乳剤)を製造したあとの貯蔵タンクなのかは分からない。5基あるタンク群の中では、小型であり、アスファルト・エマルジョン(アスファルト乳剤)の製造過程にあるタンクではないだろうか。

■「No.6燃料油」(Number 6 fuel oil)は、日本の重油に相当する残渣油で、104127℃に予熱しておく必要のあり、高粘度である。残渣油には、水(2%)や鉱油(0.5%)などいろいろな望ましくない不純物が含まれている。この燃料は、バンカーCPS-400などの残渣燃料油として知られている場合がある。

■ アスファルトタンクの爆発・火災事故で本ブログに取り上げた事例は、つぎのとおりである。

 ● 20025月、「フランスのアスファルト製造所で添加剤タンクが爆発(2002年)」

 ● 20049月、「イタリアの製油所でアスファルト貯蔵タンクの破壊事故(2004年)」

 ● 20099月、「ニュージランドでアスファルトタンクが爆発、死者1名(2009年)」

 ● 20115月、「米国カリフォルニア州でアスファルトタンクが爆発して火災」

 ● 20133月、「韓国の慶尚北道で重油タンクが爆発」

 ● 20133月、「中華人民共和国の山東省でアスファルトタンク爆発・火災」

 ● 20135月、「フィリピンでアスファルトプラントのタンクが爆発して死傷者2名」

 ● 201411月、「米国ウィスコンシン州でアスファルトタンクが爆発・火災」

 ● 20154月、「米国ウィスコンシン州の製油所でアスファルト・タンク火災」

 ● 201612月、「米国カリフォルニア州の製油所でアスファルトタンクが火災」

 ● 20206月、「米国ニュージャージー州でアスファルト処理工場のタンクが爆発」

 ● 202010月、「米国ワシントン州のアスファルト・プラントで爆発・火災、タンクへ延焼」

所 感(前回)

■ 今回の事故は、これまで意外に多いアスファルト・タンクの爆発事例である。爆発例で多いのは、アスファルト内に軽質分が混入して気相で爆発混合気を形成する事故である。しかし、今回はアスファルト処理工場でアスファルト・エマルジョン(アスファルト乳剤)を製造する工程であり、従来の例とは異なるように思う。どのような乳化剤が使用されていたか分からないが、普通で考えれば、爆発混合気を形成するような軽質分が混入することはない。屋根が噴き飛んではおらず、屋根の落下状況を見ると、爆発力は大きくないと思う。しかし、事故が現実に起こっており、乳化剤などの添加剤が関わった運転上の要因に関係しているのではないだろうか。

■ 消火活動状況は詳しく報じられていないが、消防活動は適切だったように感じる。グロスターシティ消防署だけの対応でなく、アスファルトの燃焼性を考慮してカムデン郡のハズマット隊(Hazmat)を支援に要請している。また、消火活動の準備に並行して、すぐに近隣住民への避難を判断している。消火栓に課題があったといわれているが、解決して大きな問題とせず、消火活動を行っている。このあたりは、事前に仮想訓練をやっていたように感じる。もちろん、その場の状況に応じた即断力も必要だが、訓練(机上あるいは実践)で即断力を養うことは必要だと思う。

 発災タンクは3,000KL級と比較的小型であったが、タンク屋根が油面上にかぶさり、障害物ありタンク火災の対応となった。はしご車が出動し、上から泡消火剤を放射すれば、消火は困難ではなかったのではないだろうか。

所 感(今回)

■ 事故は自然発火性物質の形成とみられる。だた、乳化剤などの添加剤に関わった運転上の要因についても疑問の残る事例である。

■ 前回、アスファルト内の軽質分の混入問題について指摘したが、米国内でも問題視されているようである。今回の追補の記事は、米国内の実情についてよく調査して指摘している。ただ、米国労働安全衛生局(OSHA)などは、アスファルトの爆発事例について体系的な調査を実施していないという。可能な限り軽質分を搾り取ろうとする製油所側と、取り扱いやすいアスファルト性状を目指すアスファルト・プラント側との問題意識のズレがあるようだ。企業の自主性を重んじる米国ではあるが、このような問題のズレこそ、公的機関が解消するように動くべきだろう。  


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

  ・6abc.com,  Asphalt tank erupts into flames in Gloucester City, N.J., forces evacuations,  July  01,  2020

    Fox29.com,  Hazmat, fire crews respond to asphalt tank explosion in Gloucester City,  July  01,  2020

    Nbcphiladelphia.com, Blast Rips Top Off Tank at NJ Asphalt Plant; Neighbors Forced From Homes,  June  30,  2020

    Gloucestercitynews.net, Toxic Fumes from The Asphalt Tank Explosion Spread Throughout Gloucester City,  June 30, 2020

    Courierpostonline.com, Asphalt storage facility explosion rocks, evacuates Gloucester City neighborhood,  July 01, 2020

    Phillyvoice.com, Tank explosion at Camden County industrial plant results in residents being evacuated,  June 30, 2020

    Apnews.com,  Evacuated residents return after fire in asphalt tank,  June 30, 2020

    Nj.com,  Asphalt tank explodes in N.J. neighborhood, sending terrified families fleeing from homes,  June 30, 2020

    Insideclimatenews.org, An Explosion in Texas Shows the Hidden Dangers of Tanks Holding Heavy Fuels,  June 06, 2021


後 記: 今回のような情報は良いですね。このようなアスファルト・プラントの事故は一過性の事象として原因が“調査中”で終わってしまうものですが、アスファルト・プラントの事故が多いのを憂慮して調べていったものです。ただ、今回の情報は気候変動の問題を取り扱うインターネット・メディアによるもので、これまで一度も検索したことのないウェブサイトでした。グーグルの検索システムで“引っかかった”情報ですが、さすがだと感じ入りました。

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