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2021年10月19日火曜日

レバノンのザハラニ石油施設でガソリンタンク火災

 今回は、20211011日(月)、レバノンのサイダ市にあるザハラニ石油施設のガソリンタンクが爆発して火災になった事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災施設は、レバノン(Lebanon)南レバノン県サイダ市(Saida)の南にあるザハラニ石油施設(Zahrani Oil Facility)である。 

■ 事故があったのは、ザハラニ石油施設内のガソリンタンクである。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 20211011日(月)午前8時頃、ザハラニ石油施設内のガソリンタンクで火災が発生し、黒煙が空に噴き出した。近くの農園で働いていた人によると、火災の前にバンという大きな音を聞いたという。

■ 発災に伴い、消防隊(民間防衛部隊)が出動した。

■ 消防隊はタンクの火災を消火しようと試みた。また、周囲のタンクを冷却して延焼を防ごうとした。

■ タンク内には、レバノン軍が所有するガソリンが入っていた。貯蔵されていたガソリン量は30万リットル(300KL)という。

■ レバノン軍は、火災が発生した石油施設の近くの地域に避難要請を出した。ただ、この地域には、人はほとんどいないとみられる。また、軍は予防措置としてベイルートと南部を結ぶ幹線道路を閉鎖した。

■ 事故に伴う死傷者の報告はない。

■ 石油施設では、事故前日の1010日(日)にタンクの屋根に傾きがあると気づき、早急の対応として、1011日(月)の朝からタンク内容物の移送を開始していた。この貯蔵タンクから別なタンクへのガソリンの移送中に火災が起こったという。技術的エラーという情報や輸送プロセス中の摩擦という情報もあるが、火災が発生した正確な原因は分かっていない。

■ 炎上するタンクと消防活動の映像がYouTubeに投稿されている。下記を参照。

 ●صور مباشرة لعملية الاطفاء في منشأة الزهراني للنفط جنوب لبنان (レバノン南部のザハラニ石油施設での消防活動のライブ写真)(2021/10/11

 ●سر الخزان 702 .. حريق محطة كهرباء الزهراني بلبنان لغز جديد (タンク702の秘密..レバノンのザハラニ発電所の火災は新しい謎)(2021/10/12

被 害

■ ガソリンタンク1基が火災で被災した。内液のガソリン約250KLが焼失した。

■ 死傷者はいなかった。


< 事故の原因 >

■ 事故前日にタンクの屋根に傾きがあると気づき、早急の対応として、事故のあった日の朝からタンク内容物の移送を開始していた。この貯蔵タンクから別なタンクへのガソリンの移送中に火災が起こった。技術的エラーや輸送プロセス中の摩擦という情報もあるが、火災が発生した正確な原因は分かっていない。

< 対 応 >

■ 火災は4時間燃え続け、11日(月)正午頃に消火した。一方、午後も火災は続いていたという情報もある。

■ レバノンのエネルギー省の大臣は、焼失したガソリン量は約25万リットル(250KL)だったといい、火災の原因について調査を開始したと述べた。

■ 発災のあったザハラニ石油施設の近くにあるレバノンの2つの最大の発電プラントのひとつが、2日前の109日(土)に燃料不足のため停止しなければならなかった。ザハラニ・プラントと北部にあるデイアアマール(DeirAmmar)プラントの両発電所は、1010日(日)の夜にレバノン軍から緊急に軽油6,000KLの供給を受け、操業を再開した。経済の破綻により、レバノンは燃料が不足しているだけでなく、薬、電気、さらには飲料水などの生活に欠かせない必需品も不足している状況である。

補 足

■ 「レバノン」(Lebanon)は、正式にはレバノン共和国で、地中海を望む位置にあり、人口約680万人である。首都はベイルートで、南はイスラエルに接した国である。

「南レバノン県」は、レバノンの南部に位置し、人口約約59万人の県である。

「サイダ市」(Saida)は、シドンとも呼ばれ、レバノン県の地中海側に面した人口約16万人で、南レバノン県の県都である。     

 レバノンのベイルートは1970年代まで金融都市として栄え、中東のパリとも言われたが、1980年代の宗派の内戦で荒廃し、イスラエルの軍事侵攻も招いた。さらに、20208月、ベイルート港で大爆発があり、少なくとも215人が死亡し、6,000人以上が負傷し、多くの施設と近隣地域が破壊さする事故があった。これは核爆発以外で最大の爆発事故のひとつで、肥料に使用される爆発性の高い硝酸アンモニウム数百トンが不適切に保管されていたことによって起きたものだった。 レバノンは経済破綻により、燃料不足だけでなく、薬、電気、さらには飲料水などの生活に欠かせない必需品も不足するという深刻な状況にあるという。

■ 事故のあったザハラニ石油施設(Zahrani Oil Facility)は燃料油の分配基地である。 北にあったザハラニ製油所が戦争で被害を受け、1989年半ばに操業を停止し、その後、修理計画が放棄され、貯蔵タンク機能だけが場所に変えることになった。現在の石油施設の場所は、ザハラニ発電プラントの南側にある。

■「発災タンク」をグーグルマップで調べると、ザハラニ石油施設内のタンク位置から判断して特定できる。「発災タンク」は直径約10mであり、高さを11mと仮定すれば、容量は800KLクラスとある。また、発災時のタンク内の液量が300KLといわれており、この液位は約4.1mとなる。焼失した量は250KLといわれており、この液位は0.7mである。消火後のタンク側板の塗装面を見ると、タンク液位はもう少し高いようだが、これは消火水が加わったためであろう。

 また、タンク型式はグーグルアースの3Dの映像によって外部式浮き屋根型タンクであることが分かった。これによって、記事にある「タンク屋根に傾きがある」というのは、タンク浮き屋根の一部が沈降したものと思われる。

■ 火災の状況を映像でみると、全面火災(または障害物あり全面火災)の様相を呈している。ガソリンの燃焼速度を0.33m/hと仮定すれば、液位の変化3.4m(液位4.1m→0.7m)の燃焼時間は約10時間となる。このデータから火災は事故から約4時間後の正午頃に消されたのではなく、夕方ごろまで続いていたものと思われる。

 消火できる面積当たりの泡放射量を6.510 L/min/㎡とすれば、直径10m(表面積:78.5㎡)のタンクでは、必要な泡放射量は510785 L/minとなる。これは日本の大型化学消防車1台の放水能力(3,000 L/min)でまかなえる量で、はしご付き消防車(スクアート車)があれば、消火は可能である。

所 感

■ 事故は、つぎのような流れで起こったと推測している。

 ● 浮き屋根式タンクの浮き屋根が一部沈降しているのを発見した。

 ● その対応としてタンクを空にするため、内液であるガソリンを別なタンクに移送しようとした。

 ● 浮き屋根は傾いて側板に引っ掛かった状態であったため、徐々に液位を下げたとき、ある時点で浮き屋根の重量が勝り、一気に落ちた。

 ● この際、浮き屋根と側板が接触して火花が発生し、ガソリンベーパーに引火し、爆発した。

■ 浮き屋根は抵抗なく動くものだと思い、出火防止策を講じることなく、タンク液位を下げたと思われる。タンクの規模や浮き屋根の沈降状況は異なるが、 201211月に起きた「沖縄ターミナルの原油タンク浮き屋根の沈没事故」では、事故タンクから原油移送を行うときに、つぎのような出火防止策をとっている。

 ● 急激な液面降下を避けた。

 ● 付属物の落下防止措置がとられた。

 ● 雷注意報が出た場合、作業は中断することとした。

 ● 液面降下中は常時監視とした。

 ● 途中(事故後6日)でタンク液面に二酸化炭素(炭酸ガス)注入装置を設置する工事が完了したので、炭酸ガス注入を始めた。

 このタンク液面上に二酸化炭素(炭酸ガス)を注入して対応するのか、代替措置として泡消火剤を投入して移送を早く完了させるかどうかは意見が分かれるところであろうが、タンク浮き屋根の沈降といった異常事態時には出火防止策が必要である。

■ 消火は4時間ではなく、それ以上かかったものと推測され、容量800KLクラスとみられるガソリンタンクの消火活動としてはかなり難航している。大容量泡放射砲システムでなくても、通常の大型化学消防車で消火は可能だったと思う。時系列が分からないが、出動した消防車の放水能力が不十分で、且つ泡薬剤の保有量が不足していたため、有効な消火活動ができなかったように感じる。火災の後半になってはしご付き消防車(スクアート車)の出動と泡薬剤が確保でき、消火できたのではないだろうか。残念ながら消火戦略や消火戦術が適切だったとは言えない事例である。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

   Jp.reuters.com, Fire at Lebanon fuel storage tank contained – govt,  October 11, 2021

    Aljazeera.com, Fire at Lebanon’s Zahrani oil facility extinguished,  October 11, 2021

    Bbc.com, Large fire breaks out at oil facility in crisis-hit Lebanon,  October 11, 2021

    Smh.com.au, Oil tank fire in southern Lebanon contained, energy minister says,  October 11, 2021

    Jpost.com, Fire at Lebanon's Zahrani oil facility contained,  October 11, 2021

    Jordantimes.com, Lebanon firefighters quell fuel tank fire,  October 11, 2021

    English.ahram.org.eg, Lebanon firefighters quell huge fuel tank fire,  October 11, 2021

    Axios.com, Massive fire extinguished at Lebanon oil facility,  October 11, 2021

    English.alarabiya.net, Fire breaks out in benzene tank at oil facility in south Lebanon: Report,  October 11, 2021

    Arabnews.jp, レバノン南部の燃料貯蔵タンクで火災、消防隊員が消火活動,  October 11, 2021

    Usnews.com, Lebanese Firefighters Put Out Fire at Fuel Facility,  October 11, 2021

    News.cn, Huge fire breaks out in Lebanon,  October 11, 2021

    Almayadeen.net, حريق ضخم في منشأة نفطية جنوبي لبنان,  October 11, 2021


後 記: 初めてレバノンの事故を取り上げました。事故情報を知ってインターネットで検索すると、かなりの数があったので、メディアの取材がもとのように活発になったのかと思いましたが、中身を調べると、そうではないことが分かりました。ほとんどは政府要人からのコメントで、実際に現場を取材したという感じではありません。発災日の報道だけで、深掘りの追加報道はまったくありませんでした。それでも発災写真が多くあったのは、メディアの取材が少し変化してきたかなといった感じです。

 発災写真を見ると、事故のあったガソリンタンクの塗装はきれいですが、ほかのタンクは錆びだらけで供用されているのか、休止されているのか分からない状況です。この状態を見るだけで国情がうかがい知れるような気がします。それで少し調べてみました。宗派の争いは図のように複雑なようです。レバノンの世界報道自由度ランキングは、2009年には61位だったのですが、2021107位と低下しています。(他人事ではありません。日本も201011位だったのが、202167位です) 新型コロナウィルスの1日の感染者は現在500人ほどで、一時に比べると少なくなってはいますが、国の人口(680万人)からすれば、まだまだ多い状況です。





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