今回は、2021年6月1日付けの“Industrial Fire World”に掲載された「Fluorine Free Foam (F3) Research Highlights Major Deficiencies」(フッ素フリー泡薬剤(F3)の研究の重大な欠陥を浮き彫り)の内容を紹介します。
■ 私たちは泡消火剤のユーザーとして、可燃性液体(クラスB)の火災を消火する際に大きなジレンマを感じている。ジレンマとは、成分としてフッ素系界面活性剤(PFAS)を含む泡消火剤は米国で広く使われているが、PFASの規制が強化されることである。通常、トレーニングや小規模な都市火災への使用は禁止されているが、大規模な可燃性液体火災への使用は継続して許可し、消火の安全性を考慮して保護している。一般的に実績のある高純度C6AFFF(炭化水素C6とフッ素系界面活性剤を使用した水成膜泡消火薬剤)がずっと使用されてきている。しかし、使用する側の配慮もなく、大規模な火災へのAFFF(水成膜泡消火薬剤)の使用を批判的に禁止する人もいる。
フッ素フリー泡消火薬剤への移行は、生命の安全と重要なインフラを危険にさらす可能性があるか?
■ フッ素を含まない泡薬剤(F3)の代替品の選択肢について、まだ分かっていなくても費用のかかる移行へのリスクを冒すべきだという人もいる。新しい薬剤の開発の試みに関して潜在する責任や成果などについて十分に認識しているのだろうか? 特に、これまでの大きな事故による実証やこれまでのF3の比較テストでは、高い混合率、消火時間の遅さ、適応性の低下、特定の燃料に対する脆弱性を示している。大規模なF3テストはまだ完了していない。
■ これは、現在、製油所、貯蔵タンク基地、海上掘削施設、配送ターミナル、石油輸送(鉄道、船、パイプライン、輸送機)、固定泡消火システムを備えた既存施設が直面しているジレンマであり、さらに短期で見れば米軍の軍備や防護について揺るがせている。私たちは潜在的に存在しているが、現在は明らかでない結果に備えができているのだろうか?
■ 米国政府の規制当局は、2020年米国国防権限法(NDAA)に基づき、AFFF(水成膜泡消火薬剤)を含めたPFASを2024年10月までに段階的に廃止しなければならないと布告したが、一方、国防総省は2023年10月以降PFASベースの泡薬剤の購入を禁止した。これは反対あるいは異議を示すものではない。この2つの制限の免除は、外航船における船上での使用にのみ適用される。F3の性能が十分に達成されない場合、国防長官は期限を最大2年延長できる例外的な規定があるが、軍事用途に信頼できる代替手段があるかどうかは問題と考えていないようである。当然のことだが、PFAS泡薬剤は軍事訓練に使用することは禁止されており、封じ込めが不可能な緊急事態対応を除いて、軍事施設での制御できない放出は禁止されている。消火泡システムのテスト時における使用は、完璧に封じ込めができ、回収と適切な処分を行って環境に四散しないときに限って認められる。
■ それでも、同じNDAA 2020エグゼクティブ・サマリーでは次のように記載されている。「最近の状況の記憶の中では、世界はますます不安定で危険な状態にある。戦争への流れが後退するのではなく、上昇するにつれて、国の安全を提供し、私たちの価値観を保護し、それらを擁護する人々を支援するという私たち議会の役割は、ますます重要になっている。国のニーズが危機にさらされている中で、私たちは方向転換しなければならない」 一方、泡薬剤の分野では、迅速性が立証され、効果的な消防活動の能力について信頼性が得られており、これは生命の安全の重要性を強化することと矛盾しているようにみえる。では、なぜ不必要な変更をほとんど証明されていないF3の化学技術に強要するのだろうか?
■ 国家防衛戦略報告書はまた、「国は極めて重要な時を迎えている。今日私たちが行う選択は米国の安全と影響について深刻な状況が潜在する世の中になるだろう」と明確に警告している。差し迫ったF3移行の方針に強い疑問を覚えてしまう。特に、結論に至るテストがまだほとんど行われておらず、不明確な状況にある中で、緊急事態の“戦闘” を想定した最悪のケースにおいてどうなるのだろうか。 この20年以上にわたる泡薬剤の改善によって、現在のF3に関する技術開発は避けてきたのに、なぜこのように短い時間枠で行おうとするのだろうか? これまでのF3に関わる大きな投資努力があるにも関わらず、現在の2020年の米軍仕様MilF PRF 24385F(SH)修正第4条(Mil-Spec)の必要要件にはるかに及ばない状況である。他の国々はこの重要な仕事を認めており、厳しい適用条件に対して12年間の猶予使用について検討している。
■ 生命の安全と重要なインフラのための結果の影響は、従来の環境問題に後れを取っているのだろうか? どんな火災でも対応する高純度のC6AFFFやC6AR-AFFF(耐アルコール性の水成膜泡消火薬剤)による素早い働きは、迅速に消火し、命を守り、損傷範囲を限定的にし、排水量を少なくして環境への影響を最小限に抑える消火戦術としてすでに実施されてきている。F3の適用倍率が高くて消火時間が長いことは、過剰な煙を出し、火災が拡大したり、命を脅かすリスクが大きくなり、有害な排水封じ込め時の溢流(オーバーフロー)の恐れが出たりして、重大な環境への影響につながる可能性がある。これはかなりのジレンマである。
テストの承認は私たちを誤って導くか?
■ 産業界に焦点を当てた全米防火協会(NFPA) 研究会2020の厳格な報告書では、F3は既存の水成膜泡(AFFF)システムの“一時利用”の代替品にはならないこと、そしてF3の火災適用性能は一定でなく多様であり、「F3に関して汎用的なスタンダードを開発することは困難である」と結論付けている。
■ UL162実施要綱にもとづき火災比較テストが165回実施されたが、「F3は、ヘプタンに対して良好だったが、米軍規格のIPA(イソプロピル・アルコール)とガソリン(10%エタノールを添加したE10 )で行った実施の一部に対して苦労した。特に、低発泡(吸引式)の泡が放出するときだった」 「タイプⅢのテスト(フォースフル方式)において、 F3は米軍規格のレギュラーガソリンについてAR-AFFFの3~4倍必要で、E10ガソリンについてはAR-AFFFの6~7倍必要だった」という。
■ F3の高発泡(7~8:1)の泡の方が低発泡(3~4:1)の泡より火災性能が優れていた。言いかえれば、低発泡の泡は同等の消火を達成するために25~50%増のF3を必要とした。通常、発泡倍率が高いほど到達距離は短くなり、消防士は炎により近づかなければならない。現在実施されている機器や訓練の多くは、C6AFFFやC6AR-AFFFの泡薬剤の低発泡倍率を使うことに基づいており、変更は簡単に対処できない大きな問題である。
■ AR-F3の性能ではガソリン・ベーパーに対応することができず、消火泡の覆いの中で反応して、 3〜4:1の発泡倍率が低い泡の場合、気泡を壊しているようである。3〜4:1の発泡倍率が低い泡は、7〜8:1の発泡倍率の泡を使用する場合と比較して、消火のために最大50%増しのAR-F3を必要とした。
■ この全米防火協会(NFPA)の調査では、大幅な再設計や変更を行わずに、既存の固定泡消火システムにF3を使用できない可能性が高いことが確認された。F3製品のひとつを選択すると、以後の設計は固定されてしまうかも知れない。このように適応性のない泡薬剤であれば、新しく改良されたF3が開発されても、さらに設計の変更を試みなければ、使用できなくなる可能性がある。粘度とプロポーショニングの難しさの問題に加えて、水生毒性が高く、高温での性能が低く、腐食性があるため、緊急事態対応時にF3に依存することの脆弱性がある。その上、承認された火災テストでは、合格が容易なヘプタンが用いられており、一般的に貯蔵され使用されているガソリンやE10(10%エタノールが添加されたガソリン)が対象ではない。このような承認テストには、UL162、FM5130、Lastfire、EN1568-3、ISO7203-1、IMOなどが含まれ、私たちを誤って導く可能性がある。
■ C6AFFFやC6AR-AFFFの使用が制限される前に、軍事用や産業用の大規模な火災試験を繰返し行って、緊急時の最悪条件下における新しい安全係数、信頼性能、効果のある適用倍率を、至急、確立すべきである。既存の小規模な火災試験の方法は、F3のユーザーが直面するような現実的な“最悪のケース” の事故想定を示すには、まったく不十分であるように思われる。 米国防火協会(NFPA)は、重要なハザード施設に対してF3がC6AFFFの実行可能な代替手段ではないとはっきり言っている。 C6の泡は、環境への影響を最小限に抑えながら、生命、重要なインフラ、資産を適切に保護するための“必須用途”の製品であり続けるだろう。
■ 米国の州は、広く使用・貯蔵されているガソリン、アルコール、E10のハザードに対してF3の採用できるリストや承認済みの解決策が無い中で、対処されてきた歴史的な汚染問題に関する判断を急いでやろうとしていないだろうか? 彼らは責任と結果を考えているのだろうか?
米国海軍研究所によると、原因は芳香族化合物にあり
■ 米国海軍研究所(NRL)の2019年に出された比較火災試験報告書でも、プール火災の燃料がヘプタンの場合とガソリンの場合において、F3の泡の消火効果に相違があることを確認している。AFFFはヘプタンとガソリンの両方で同様の効果がある。しかし、 F3は明らかにそうではない。60秒でガソリンを消火させる必要があることから、 4種類のF3を必要とし、基準となるC6AFFFの2.5倍から6倍の量がいることが明らかになった。消火する速度が早くなるにつれてこの差が広がった。 ガソリンのような急速に広がる火災から生命を保護し、被害を最小限に抑えるには、通常、消火する速度が重要である。命を救うためには秒単位である。公共の安全に対する懸念の気がかりな点である。
■ さらに米国海軍研究所(NRL) の調査により、この劇的な異なる結果の原因が明らかになった。F3がガソリン中の4つの芳香族化合物によって攻撃されていることが分かった。消火の最も難しいのはトリメチルベンゼン(TMB)で、次にキシレン、トルエン、ベンゼンである。あるF3が他よりも攻撃されやすかったが、すべてのF3がかなりの悪影響を受けた。この4つの芳香族化合物はジェット燃料(JetA/JetA1)にも含まれているが、量が少ないため、 F3が航空用燃料に苦労しながら戦っていることのある理由かも知れない。
C6AFFFは、消火が速く、信頼度が高く、有効であることが立証
■ 炭化水素のC8とは異なり、短鎖のC6フルオロテロマーの悪影響性は立証されていない。そして、消火が速く、信頼度が高く、有効であることが証明されている。C8とは、OECD(経済協力開発機構)の定義によると、PFOA、PFNA、PFSAを含む7つ以上のパーフルオロアルキル炭素原子をもつPFCA(ペルフルオロカルボン酸)
、またはPFOS、PFHxSを含む鎖に6つ以上のパーフルオロアルキル炭素原子をもつPFCAである。大きな効果が見込まれない現在のF3に対して、このままでは生命が脅かされ、大きな被害が起こったり、リスクが拡大するような深刻な悪影響が出そうなこととは対照的である。このことは、これまでの研究によって確認されている。また、考慮すべきことは環境への悪影響である。将来起こる大規模な可燃性液体による火災に対して、消火時間が長く、消火の有効性が小さいことによる過剰に発生する煙、多量に供給される消火水の排水、封じ込めエリアからの溢流などによる環境への悪影響である。これはかなりのジレンマである。F3による形成状況はそれぞれ異なるが、使用時も使用後も封じ込めに専念しなければならないケミカルである。
封じ込めにより環境汚染を最小限に抑える
■ ケミカルを使用するに際しては、消火排水の排出を厳格に管理することが重要である。C6の消火泡については、回収・集積、封じ込め、処理、安全な廃棄が確実に行われるよう規制が実施されており、特に歴史的遺産の汚染を繰り返さないように長年にわたって行われてきた。それでは、なぜ米軍は2024年以降の大規模な可燃性燃料の火災において、C6AFFFなどを慎重且つ有効に使い続けることをできないようにするのだろうか? 生命やインフラを保護しなければならないときに、使用できるようにするF3を市場に主導していくことが、米軍規格(Mil-Spec)の許容的な基準を満たすことから遠いようにみえないか?
F3への大きな投資
■ 米国国防総省は、この問題を決着させる戦略的で有効性のある解決策を見つけるために1,000万ドル(11億円)超の投資をしている。しかし、時間は尽きている状況である。戦略的環境研究開発プログラム(SERDP)を通じて、代替できる信頼性のある有効な火災消火性能を追求している。環境セキュリティ技術認定プログラム(ESTCP)はPFASの改善に焦点を当てたもので、米国環境保護庁(EPA)とエネルギー省(DOE)が協力して実施している。排出の封じ込めや集積を最大にし、PFASを回収し分解することによって2024年以降もC6AFFFを慎重に使い続けることを認めないのはなぜなのだろうか?
バテル研究所は、F3が発泡倍率を高くしても消火時間が遅いことを確認
■ エネルギー省(DOE)のバテル研究所の研究方針では、同時の卓越性(優秀性)に焦点を合わせている。業務用の主なF3に関して火災性能、環境毒性、腐食性、粘性、エンジニアリングの改善点を評価して、火災性能の潜在性を強化し、2020年10月に報告した。数秒が命にかかわるとき、最良のF3が米軍規格(Mil-Spec)の規定より2~3倍遅い消火であったことが分かった。一部のF3について、圧縮空気式消火泡(CAF)を使用し再着火性(バーンバック)性能を向上させて小規模なテストを実施したところ、米軍規格のバーンバックの最小限の規定に適合することができたが、それでも消火には失敗した。吸引型泡ノズルを介して1,100〜1,400psi(75〜96bar)の超高圧を作り出したF3の供給を使用したテストでは、消火時間が短縮され(どの程度かは報告されていない)、ドライケミカルとの組み合わせで液滴サイズが小さくなったことによる冷却効果は向上した。しかし、これは風効果によるものが大きく、限界に近いと思われる。
■ バテル研究所は、過去10年間に100機以上の軍用機が米国の地面に墜落しており、平均すると年間約10機が墜落していることを確認した。ほとんどが有人航空機(ドローンではない)であると仮定すると、10人のパイロットが乗っており、さらに自国において表面上“安全な” 操縦中に生命が危険にさらされている乗客(航空機の種類によって異なるが)がいたかもしれない。これらの生命は、現在、提案されているF3の排他的な使用によってますます危険にさらされていないだろうか?
F3に関する高粘度、混合性、毒性、腐食の問題
■ バテル研究所は、F3が一般的に高粘度になり、予想外のプロポーショニングや混合性の問題を引き起こして泡薬剤の有効性を妨げていることを確認した。すべてのF3について水生毒性レベルは、米軍規格(Mil Spec)の規定に適合せず、C6AFFFを基準にすると標準的に10倍の毒性がある。これは、NRL(米国海軍調査研究所)やNFPA(全米防火協会)のテストによって分かったことであるが、ガソリンとE10の火災においてF3適用倍率が3〜7倍高いため、消火時間が遅くなり、過剰な泡溶液による排液排出の形成や溢流によって、深刻な魚の大量死、高いBOD(生物化学的酸素要求量)、水路の汚染を引き起こす可能性がある。思いがけないことに、バテル研究所がテストした6つのF3のうち1つだけが、米軍規格(Mil Spec) の20日間の生分解性要件に合致した。逆にF3の腐食結果はキュプロニッケルで顕著にみられた。テストされた8つのもののうち4つ(50%)が米軍規格に適合しなかった。また、8つのうちの1つは青銅でも適合せず、2つのF3でも鋼の腐食基準に適合しなかった。
テストされた6つのF3は、圧縮空気式消火泡(CAF)を使用しても、米軍規格(Mil Spec) に合致せず
■ 6つのF3消火剤は、従来の米軍規格(Mil Spec) のノズルを使用したが、すべて米軍規格に適合しなかった。 6つのF3消火剤はすべて、従来のMil-Specノズルを用いた米軍規格に適合しなかった。圧縮空気式消火泡(CAF) を用いて大幅に改善したが、それでも米軍規格の規定よりも2〜3倍遅い結果だった。7つのF3の結果のうち4つ(57%)は、従来のノズルを使用した米軍規格の再着火性(バーンバック) に適合し、圧縮空気式消火泡(CAF)を使用すると6つ(85%)に増えた。しかし、再着火性は、着火していない10ガロン(37.8リットル)のガソリンの上に2ガロン(7.5リットル)の消火泡を使用してのみ実施された(米軍規格では、テスト中、泡の覆いの中に熱い皿状のものを配置する必要がある)ため、消火泡の安定性のみを示し、意味のある耐フラッシュバック性を示すものではない。
強制的な投入(フォースフル方式)はF3に弊害あり
■ 2020年10月に防火エンジニアリング専門のジェンセン・ヒューズ社(Jensen-Hughes) が行った大規模なF3テストでは、150ガロン(567リットル)の燃料が使用され、熱出力は約80MW、炎の高さが40フィート(12.2m)、燃焼速度は40gpm(151リットル/分)を記録した。ジェット燃料(JetA)は、小規模な米軍規格(Mil Spec)と同様の結果をもたらすことが分かった。フォームチューブ型泡ノズルを使用すると、一般的にF3の消火時間が30〜45%短縮されるが、泡消火流の到達距離も40%短くなり、大規模な事故では消防士へのリスクが高まる恐れがある。
■ すべてのF3がテクニックで依存していたのはガソリンだった。強制的な投入(フォースフル方式)は、燃料性能を放棄しているのと同じで弊害があり、したがって、穏やかな適用(ジェントル方式)で高発泡の倍率において良い結果を得ているが、適応性と泡流の到達距離が損なわれた。ジェット燃料(JetA)での制御時間は、C6AFFFのときよりも、標準ノズルを使用したF3で平均80%長くなり、フォームチューブ型泡ノズルを使用したF3で平均67%長くなった。ジェット燃料(JetA)の消火時間は、 C6AFFFのときよりも、標準ノズルを使用したF3で平均29%長くなったが、フォームチューブ型泡ノズルを使用した場合は67%長くなった。ガソリンでは違いが目立ち、C6AFFFと比較すると、F3の標準ノズルで制御・消火した場合、平均2.7~3.3倍長くなり、 フォームチューブ型泡ノズルを使用した場合、2.0~2.3倍長くなった。
結 論
■ 4つの独立した一連のテストはすべて同様の結果だったことを確認した。ガソリンとジェット燃料(JetA)の両方で有効なF3火災性能を達成するには、ゆっくりした時間で、穏やかな適用(ジェントル方式)で、高い適用倍率、さらに加えて、高い発泡倍率が必要であり、潜在的には放射距離は40%短くなるとみられる。C6AFFFとC6AR-AFFFのクリティカルの燃料放出や泡膜の形成能力に対する効果的な埋め合わせは達成できなかった。
F3の中でもっと良かったものでさえ、ガソリンでは極めて長い消火時間が必要で、判断基準になるC6AFFFの性能と比較して、2〜4倍(E10の場合は6〜7倍)だった。テストされた最も良いF3は、F3の容量増加、配管径の増加、流量の増加、圧力増加、加えてシステムの設計変更に伴う費用がかかるなど、既存の泡消火システムの設計を損なう可能性があるが、さらに火災の緊急事態時に同等の性能を達成しそうにない。社会の期待に応えられそうになく、危険の増大や重大なインフラの被害に不必要にさらされる生活、そして消火排水の封じ込めからの溢流の恐れが増大する脅威にさらされる環境などF3に伴うリスクが増える。私たちは、そのような潜在的に生命を脅かすことに対して犠牲を払う用意ができているか、それはどのような具体的な利益があるというのだろうか?
補 足
■ 日本におけるフッ素化合物について性質、規制、家庭生活との関わりなど解説した資料は政府や自治体などから出されているが、神奈川県から出されている「有機フッ素化合物に関するQ&A」が分かりやすい。
■ 日本の泡消火薬剤の種類はつぎのとおりである。
日本でPFOSを含有する泡消火薬剤を使用している消防機関、空港、自衛隊関連施設、石油コンビナート等の施設を対象とした調査が環境省で行われ、その結果、全国合計の泡消火薬剤量は338.8万リットルである。なお、泡消火薬剤中のPFOS含有量は全国合計17.82トンとなる。都道府県ごとの泡消火薬剤の量は「令和2年度PFOS含有泡消火薬剤等全国在庫量調査結果(泡消火薬剤量)」を参照。
また、消火試験などについては「消防用設備等に関するISO規格の比較検証事業報告書
(平成23年度)」を参照。
■ 実際の事故で泡消火薬剤を評価した例は少ないが、「英国バンスフィールド油槽所タンク火災における消火活動(2005年)」に参画した米国のウィリアムズ・ファイア&ハザード・コントロール社がつぎのように評価している。
● 今回の事例で使用された泡薬剤は一貫性のある品質とはいえないものだった。その中で消火性能の品質の悪いものは、消防隊を危険な状況にさらしかねないことが示された。
● 多く使われたフッ素たん白泡消火薬剤(FP)は、小型タンクと堤内地区の双方の消火に使用されたが、消火時間が遅かったということが示された。トタール社LOR製油所消防チームの最初のコメントでは、自分たちが持ってきた多糖類添加耐アルコール泡(AR-AFFF)を使用したときには、火災の消火が速かったという。一方、泡薬剤を使い果たし、フッ素たん白泡消火薬剤(FP)を使わざるを得なくなった火災に対応することが増えてしまったという。
● フッ素たん白泡消火薬剤(FP)による蒸発抑制の泡の覆いは、弱い風の影響でも簡単に壊れることがよくあり、通常期待されるより早く泡の覆いが壊れて再引火を起こすことがあった。
■ PFOSを含有する泡消火薬剤は、2010年に化審法(化学物質の審査及び製造等の規制に関す る法律)により第一種特定化学物質に指定され、PFOSを含む泡消火剤の製造・輸入はが禁止されている。しかし、PFOSを含む消火器や泡消火設備など既設の機器や設備等の使用は、適切な取り扱いや表示を行うことで引き続き使用が認められている。
なお、全国の消防本部・消防署が保有しているPFOS含有泡消火薬剤については、消防庁通知(2020年6月1日)に基づき、2022年の年度末までに計画的に廃棄することとされている。しかし、メーカーが推奨するPFOS非含有泡消火薬剤が、これまでと同様の消火性能があるかどうかは分からない。
■ 米国では、2020年7月にPFOA(C8)ベースの泡消火薬剤の製造が禁止され、C8を使用から除外するための5年間の移行期間がある。C8消火泡は、長炭素鎖で、環境に有害で持続性のある界面活性剤を含むフッ素ベースの泡消火薬剤である。この代替品として損傷の少ない短炭素鎖C6消火泡がある。環境への影響が低く、生分解性が高いといわれているが、これも禁止されつつあり、フッ素を含まない消火泡(F3)が注目されている。
■ 本資料の著者は、ウィルソン・コンサルティング(Willson
Consulting)のマイク・ウィルソン氏(Mike Willson)である。泡消火剤と固定泡消火システムのテクニカル・スペシャリストである。
所 感
■ 日本では、沖縄米軍基地における有機フッ素化合物の一種であるPFOS(ピーホス)と呼ばれるペルフルオロ・オクタン・スルホン酸を含む泡薬剤の流出事故で世の中に注目を浴びた。つぎのブログを参照。
●「沖縄の米軍普天間飛行場から泡消火剤が市内に大量流出」 (2020年4月)
●「沖縄の米軍普天間飛行場の泡消火剤流出事故で立入り調査」(2020年4月)
その後も米軍基地では、廃棄する泡薬剤を希釈して下水系排水路に流すなどの問題が生じている。今回の資料で米軍が廃棄を急ぐ背景は分かった。(希釈して下水系排水路に流すことは理解できないが)
■ 有機フッ素化合物の規制については日本も米国と同様である。特に有機フッ素化合物を含む泡薬剤に限ると、今回の資料の指摘は日本にも当てはまる。フッ素化合物を含む泡薬剤とその代替としてのフッ素フリー泡薬剤に問題点が多いのは分かった。日本では、フッ素フリー泡薬剤(F3)について消火機能の観点からまとめたものは少なく、貴重な意見である。
■ 今回の資料で気づいたことは、消火泡は結局何らかの“ケミカル” を使用せざるを得ないので、消火排水の排出を厳格に管理(回収・集積、封じ込め、処理、安全な廃棄の確実な実施)が重要だということである。もうひとつは、タンク火災を消すことができるかである。2005年に起きた英国バンスフィールド油槽所タンク火災の消火活動に参画した米国のウィリアムズ・ファイア&ハザード・コントロール社は、「今回の事例で使用された泡薬剤は一貫性のある品質とはいえないものだった。その中で消火性能の品質の悪いものは、消防隊を危険な状況にさらしかねないことが示された」と明確に語っている。消火泡をフッ素フリー泡薬剤に変更したが、消火機能が低下し、火災の消火ができず、消防隊を危険な状況にさらしたら、本末転倒である。よしんば、不介入戦略で燃え尽きるのを待つという方策がないではないが、原油タンクでは、ボイルオーバーというハザードが起きる。著者のマイク・ウィルソン氏のいう“ジレンマ”
である。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・ Industrialfireworld.com, Fluorine Free Foam (F3) Research
Highlights Major Deficiencies(フッ素フリー泡薬剤(F3)の研究の重大な欠陥を浮き彫り), June 01, 2021
後 記: 今回は、なじみの無い泡の消火実験の話など“食いごたえ” のある内容でした。しかし、考えさせられる内容でもありました。これまで泡の種類を横に置いて、大容量泡放射砲システムなどメインのハードウェアに片寄って注目し過ぎていたように感じました。資料の中に、過去10年間に100機以上の軍用機が米国の地面に墜落しており、平均すると年間約10機が墜落しているとあり、えっ!そんなに多いのと驚きました。航空機事故を想定し、「数秒が命にかかわる」という表現がありますが、
インターネットで調べてみたら、2019年に起きたアエロフロートロシア航空のSU1492便の事故(41名死亡、生存者37名)がユーチューブに投稿されており、これを見るとまさにそのとおりだと思います。
YouTube 「Завершено расследование уголовного дела в отношении пилота самолета, потерпевшего катастрофу」(墜落した飛行機のパイロットに対する刑事事件の調査が完了)( 2020/04/15)を参照。
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