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2020年12月8日火曜日

イラクのバイジにあるシニヤ製油所でロケット攻撃、貯蔵タンクへ延焼

 今回は、 20201129日(日)、イラクのサラハッディン州北部のバイジにあるシニヤ製油所でロケット砲攻撃によって火災になった事故紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 事故があったのは、イラク(Iraq)サラハッディン州(Salahuddin)北部のバイジ(Baiji)にあるシニヤ製油所(Siniya Oil Refinery)である。シニヤ製油所は精製能力30,000バレル/日で、バイジにあるイラク最大のバイジ製油所の近くにある。

■ 発災があったのは、製油所内にある配管と貯蔵タンクなどの設備である。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 20201129日(日)夕方、シニヤ製油所でロケット砲攻撃によって火災が発生した。

■ この攻撃によって製油所は生産を一時停止することとなった。

■ イスラミック・ステート(IS)の武装グループは製油所を攻撃したと主張し、攻撃は2発のカチューシャ・ロケットで行ったと述べた。

■ ロケット砲攻撃によって石油配管が火災となり、貯蔵タンクへ延焼した。

■ 発災に伴い、消防隊が出動した。

■ バグダッド(Baghdad)とモスル(Mosul)との中間にあるバイジ製油所付近は、かつてイスラミック・ステート(IS)が占領していた地区であるが、イスラミック・ステート(IS) との紛争中に大きな被害を受けていた。シニヤ製油所は紛争中の被害を受けたが、201711月に修復が完了して操業を再開し、近くにある発電所にも燃料を供給している。

■ 攻撃に伴う死傷者は出なかった。(しかし、一部のメディアは攻撃によって従業員5名が負傷したと報じている)

■ メディアのMaps & Conflicts Database社はインターネット報道の記事(VIDEO SHOWS MOMENT OF ISIS ROCKET STRIKE ON OIL FACILITY IN IRAQ;ビデオはイラクの石油施設でのISISロケット攻撃の瞬間を示す)の中で、タンク近くで配管類が火災になる瞬間の動画を掲載している。(https://maps.southfront.org/video-shows-moment-of-isis-rocket-strike-on-oil-facility-in-iraq/ を参照)

被 害

■ 製油所内の配管や貯蔵タンクなどの設備がロケット攻撃や火災によって被害を受けた。被害の程度は不明である。

■ タンク内部の燃料が焼失した。焼失量は不明である。

■ ロケット攻撃による死傷者は無い。(しかし、一部のメディアは攻撃によって従業員5名が負傷したと報じている)

< 事故の原因 >

■ 事故の直接原因は、ロケット攻撃という「故意の過失」である。

< 対 応 >

■ 火災は数時間で消火でき、操業を再開できる見込みだという。

■ 米国などの国による3年間の軍事介入によって、2017年、イスラミック・ステート(IS)が占有していたすべてのイラク領土を取り戻し、過激派組織を地下に追いやった。 しかし、最近、特にイラク北部では、頻繁な攻撃が日常化している。

 

■ 「イラク」(Iraq)は、正式にはイラク共和国で、連邦共和制国家である。古代メソポタミア文明を受け継ぐ土地にあり、人口約3,840万人である。フセイン政権崩壊後、内政は混乱が続いている。

「サラハッディン州」(Salahuddin)は、イラクの中央部に位置し、人口約140万人の州である。

「バイジ」(Baiji)は、サラハッディン州の中央部に位置し、人口約20万人の市である。バイジは首都バクダットから北へ約200km離れたところにあり、イラク最大のバイジ製油所や大規模な発電所があり、主要な産業の中心地である。


■「シニヤ製油所」(Siniya Oil Refinery)は精製能力30,000バレル/日(20,000バレル/日ともいわれる)の製油所で、バイジ製油所の南西にある。通常、イラクの製油所はイラク・ナショナル・オイルという国営企業が運営している。シニヤ製油所は201711月に再開しているが、中国企業が運営しているともいわれ、実態はよく分からない。グーグルマップで調べると、製油所は存在するが、最新の撮影か分からない。

■「発災タンク」の仕様に関する情報はまったく報じられていない。配管が爆発したところの近くに固定屋根式タンクが見えるが、1,0002,000KL級程度の規模である。


■「カチューシャ・ロケット」は多連装のロケット砲である。もともとロシアの旧ソ連時代に開発・使用された自走式多連装ロケット砲であるが、その後、各国で製作された多連装ロケット砲の通称として使われている。今回、使用されたカチューシャ・ロケットは、イラクの武装グループによって一般的に使用されている中国製63107mmロケット砲ではないかといわれている。

所 感

■ 今回の事故原因は、ロケット砲攻撃という「故意の過失」に該当する。

 20201123日(月)にあったサウジアラビアで起こったミサイル攻撃(「サウジアラビアの石油流通ステーションの貯蔵タンクをミサイル攻撃」を参照)に続いてのテロ攻撃である。

■ イラクで起こった前回のテロ攻撃は、20165月、イスラミック・ステート(IS)の武装グループが自動車で乗り込み、自爆テロで球形タンクが爆発・火災を起こし、死傷者43人を出した事故だった。(「イラクで天然ガス工場にテロ攻撃、球形タンク爆発・炎上」を参照) その当時に比べると、イスラミック・ステート(IS)が占有していた地域は取り戻され、過激派組織は地下に追いやられ、規模の小さなテロ攻撃だという印象である。しかし、石油施設がテロ攻撃を受け、テロ対応が脆弱(ぜいじゃく)であることを露呈してしまった。

■ 日本では、重要施設に対してテロ対策をとっていると言われているが、ミサイルや無人機(ドローン)によるテロ攻撃を想定していない。しかし、今回、「カチューシャ・ロケット」という武器は古くからある多連装ロケット砲であり、まったく想定から外してもよいというテロ攻撃ではないと思う。このような武器が使用された場合、複数のタンク火災になる可能性がある。机上訓練で複数のタンク火災に対する消火戦略を考えておくべきではないだろうか。

 貯蔵タンクへのテロ攻撃で使われた武器はつぎのとおりである。

 ● 20033月、迫撃砲 (「インドで石油タンクに迫撃砲によるテロ攻撃(2003年)

   ● 20104月、擲弾 (「タイで石油タンクに擲弾(てきだん)によるテロ攻撃(2010年)

 ● 20147月、ロケット砲 (「リビアで国内の戦闘によって燃料貯蔵タンクが火災」

 ● 201412月、ロケット砲 (「リビアでロケット弾による原油貯蔵タンク火災」

 ● 20157月、時限爆弾 ( 「フランスの製油所で仕掛けられた爆弾によってタンク火災」

 ● 20161月、ロケット砲 (「リビアの石油施設基地で再び砲撃によるタンク火災」

  20165月、自動車による自爆 (「イラクで天然ガス工場にテロ攻撃、球形タンク爆発・炎上」

 ● 201710月、ライフル銃 (「米国のラスベガス銃乱射事件時にジェット燃料タンクを銃撃」

 ● 20199月、無人機(ドローン) (「サウジアラビアの石油施設2か所が無人機(ドローン)によるテロ攻撃」

  ● 202011月、ミサイル (「サウジアラビアの石油流通ステーションの貯蔵タンクをミサイル攻撃」

 ● 202011月、多連装ロケット砲 (「イラクのバイジにあるシニヤ製油所でロケット攻撃、貯蔵タンクへ延焼」


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

   Industrialfireworld.com, ISIS Claims Responsibility for Iraqi Refinery Attack,  November 30,  2020

   Dw.com, Iraq: Rocket attack causes fire at major oil refinery,  November 30,  2020

   Jp.reuters.com,  Islamic State says it launched rocket attack on northern Iraq oil refinery,  November 30,  2020

   Aljazeera.com, Rocket attack causes fire at oil refinery in northern Iraq,  November 29,  2020

   Parstoday.com, Daesh claims rocket attack on oil refinery in Iraq,  November 30,  2020

   Kurdistan24.net, Rocket targets oil refinery in Iraq’s Salahuddin province; ISIS claims responsibility,  November 29,  2020

   English.alarabiya.net, Rocket attack hits oil refinery in northern Iraq,  November 29,  2020

   Wearethene.ws, ISIS Terrorists Attacked Oil Refinery In Iraqi Saladin Province,  November 29,  2020

   Maps.southfront.org, VIDEO SHOWS MOMENT OF ISIS ROCKET STRIKE ON OIL FACILITY IN IRAQ,  November 30,  2020

   Soha.vn, NÓNG: Nhà máy lc du công sut 2 vn thùng mi ngày ca Trung Quc b IS tn công?,  November 30,  2020

   Irna.ir, منابع خبری عراقی از حمله راکتی به یک پالایشگاه خبر دادند,  November 30,  2020


後 記: 今回の事故を報じたメディアは結構ありましたが、内容が薄く、ほとんど同じようなものでした。 前回の「イラクで天然ガス工場にテロ攻撃、球形タンク爆発・炎上」20165月)の事故を伝える記事に比べると、雲泥の差です。政治状況の変化や新型コロナウイリスなどいろいろな背景があるにしても、事故状況や消防活動はほとんど分かりませんでした。ところが、被災写真さえも乏しい中、配管が火災を起こす瞬間の動画を掲載しているメディアがありました。監視カメラによると思われる動画ですが、ロケット砲の被弾というより、花火のような感じです。なぜ、テロ攻撃のあった場所を写していたのかなど疑問の残る動画です。しかし、標題に掲載した火災写真と重なるところがあるので、実際のものとして扱いました。このブログでは、テロ攻撃による事故で使われた武器が何だったのかを知りたい事項のひとつです。「カチューシャ・ロケット」という多連装ロケット砲だったことが分かっただけでも良しとしようと思いながら、まとめました。 

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