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2015年1月7日水曜日

リビアでロケット弾による原油貯蔵タンク火災

 今回は、2014年12月25日、リビアのエスサイダーにある国営石油会社ナショナル・オイル・コーポレーション系列のエスサイダー・ターミナルにおいて原油タンクに武装勢力の放ったロケット弾が当たり、火災を起こした事例を紹介します。なお、リビヤでは2014年7月にも国内の戦闘によって燃料貯蔵タンクが火災となった事故があります。
(写真はReuters.comから引用
 <事故の状況> 
■  2014年12月25日(木)、リビアにある石油貯蔵施設で原油タンクがロケット弾を受けて火災となる事故があった。事故があったのは、国営石油会社ナショナル・オイル・コーポレーション(National Oil Corpo.:NOC)系列のワハ・オイル社(Waha Oil Co.)のエスサイダー・ターミナル(Es Sider Terminal)において原油の入ったタンクに武装勢力の放ったロケット弾が当たり、火災を起こしたものである。
   リビヤのエスサイダー付近 (左下が原油ターミナル)
(写真はグーグルマップから引用)
■ リビヤ政府当局は、反政府武装集団がリビア最大の輸出ターミナルを制圧しようとして戦闘になり、 12月25日木曜、エスサイダー港にある石油貯蔵タンクがロケット弾を受けて火災になったと発表した。一方、住民からの情報によると、衝突はエスサイダー西側の街であるシルテでも起こっており、19名が死亡し、うち14名は発電所の警備員だという。

■ 政府公認の警備会社のアリ・ハッシ氏は、反政府武装集団が高速艇でエスサイダーに入った後、1基のタンクが火災を起こしたと話している。 他方、反政府側広報担当のイスマイル・アルシュクリ氏は、港を抑えようと侵攻を始めたが、高速艇を送り込んだり、貯蔵タンクを攻撃したことはないと否定した。アルシュクリ氏は航空機がタンクを攻撃したと話し、相手側を非難した。ハッシ氏は、「タンクに当たったが、ダメージは限定的です」と語ったほか、航空機と地上部隊による進軍はやめていたと付け加えた。
(写真はReuters.comから引用)
■ 12月30日(火)、石油関係者が語ったところによると、エスサイダー・ターミナルの火災は激しく燃え続け、180百万バレル(28万KL)の原油が焼失し、7基のタンクが被災しているようだという。

■ ナショナル・オイル・コーポレーション広報担当のモハメド・エルハラリ氏は、2基のタンクが損壊し、ほかに2基が30日時点でも燃えていると語った。2基の火災タンクは消火活動が行われている。リビヤ政府は、イタリア、ドイツ、米国に消防隊の派遣を要請しているという。

■ タンク火災の消火支援として、リビヤ政府が米国の消火専門会社に委託したことを広報担当が29日月曜に明らかにした。政府広報担当によると、5日以内に作業が開始されるという。会社名は明らかにされないが、請負の額は6百万ドル(6億円)といわれる。
(写真はReuters.comから引用)
(写真はBusinessinsider.comから引用)
(写真はBusinessinsider.comから引用)
■ リビヤ最大の石油輸出港で起きた激しいタンク火災は宇宙からも確認できていたと、ビジネス・インサイダー誌は写真を掲載した。この写真はNASA地球観測所が撮影したもので、黒煙が遠くまで流れているのがわかる。大火はすぐに6基のタンクへ広がり、何日も続いた火災による黒煙は宇宙からもはっきりと見えた。
              宇宙から見たタンク火災の黒煙状況   (写真はBusinessinsider.comから引用)
■ 1月2日金曜、当局は、エスサイダー・ターミナルにおいてこの一週間激しく燃えていたタンク火災を消火したと発表した。リビヤは、この火災による原油の焼失量を850,000バレル(135,000KL)と推測している。リビヤの原油生産量は一日当たり580,000バレル(92,000KL)だという。ナショナル・オイル・コーポレーションのトップ関係者によると、火災は消えたが、一日当たり400,000バレル(63,600KL)の出荷は難しいという。このトップ関係者は、「火災は7基の貯蔵タンクで起こり、うち2基は損壊した」と話している。

■ エスサイダー・ターミナルは、ワハ・オイル社(Waha Oil Co.)が操業する油田からの原油を供給している。ワハ・オイル社は、リビヤのナショナル・オイル・コーポレーションと米国のヘス社(Hess)、マラソン社(marathon)、コノコフィリップス社(ConocoPhilips)による合弁企業である。
(写真はReuters.comから引用)
(写真WSJ.comから(引用

補 足               
■ 「リビア」は、地中海に面する北アフリカに位置し、人口約640万人共和制国家である。海を隔てて旧宗主国のイタリアが存在する。2011年、カダフィ打倒を旗印にしたリビア国民評議会とカダフィ政権側の間でリビア内戦が勃発した。一時期はカダフィ政権側が評議会側の拠点だったベンガジ進攻寸前まで至ったが、NATO(北大西洋条約機構)などから軍事的な支援を受けた評議会軍が同年8月に首都トリポリを制圧した。10月にカダフィがシルトで射殺され、42年間続いたカダフィ政権は崩壊するに至った。
 「エスサイダー」(Es Sider)は、リビアの中央北部に位置し、地中海に面した原油輸出港の町で、人口約9,000人である。
■ 「ナショナル・オイル・コーポレーション」(National Oil Corp.:NOC)は1970年に設立されたリビアの国営石油会社で、石油・天然ガスの掘削・生産のほか、製油所・石油化学工場を有する。
 「ワハ・オイル社」 (Waha Oil Co.) は、1956年に設立された原油・天然ガス掘削・生産会社である。本社はリビヤのトリポリにあり、リビヤ最大のワハ油田の生産を行っている。 1962年にコノコ社(Conoco) 、アメラダ・ヘス社(Amerada Hess )、マラソン社(Marathon)と操業を開始している。現在は、リビヤのナショナル・オイル・コーポレーションと米国のヘス社(Hess)、マラソン社(marathon)、コノコフィリップス社(ConocoPhilips)による合弁企業となっている。
 
■ エスサイダー・ターミナルは原油の輸出基地であり、グーグルマップによれば、この施設は直径約80m×4基、直径約60m×15基、合計19基の浮き屋根式タンクが設置されている。従って、推定100,000KL級×4基、50,000KL級×15基の貯蔵タンクで合計115万KL級の貯蔵能力を有しているとみられる。被災したのは50,000KL級の原油タンクとみられる。被災直後の映像によると、タンク上部の2箇所から内部流体が放出しており、火災の範囲は大きくない。(「Rockethits storage tank at Libya‘s biggest oil port」を参照)
エスサイダー・ターミナルの原油貯蔵タンク群
(写真はグーグルマップから引用)
所 感
■ 2014年7月に起こった「リビアで国内の戦闘によって燃料貯蔵タンクが火災」を紹介した際、戦闘の砲撃によるタンク火災という稀な事例であるが、世界的に見ると、それほど珍しい事例とはいえないと述べた。しかし、半年も経たないうちに、再びテロ攻撃(あるいは戦争行為)によるタンク火災の事故情報を伝えなければならないほど、リビヤの内政が混乱しているということを感じざるを得ない。

■ 前回の所感では、「戦闘中のタンク火災に関する消火戦略について過去に言及した資料はないが、とり得る隣接タンクへの延焼防止策を講じるとともに、火災タンクは燃え尽きさせる戦略をとるのが基本だと考える」と述べた。今回のタンク火災の消防活動では、戦闘の最中に消防活動を行なうことの困難さはあるが、初期活動が良くなかったと感じる。記事中にあるように「タンクに当たったが、ダメージは限定的」と油断したところがあると思われる。被弾によって流れ出た原油が堤内流出にとどまっていれば、確かに限定的であったろうが、火がつき、堤内火災から隣接タンク側への火災拡大によって大きな災害になったものと思われる。
 発災タンクの堤内流出(あるいは堤内火災)に対して高発泡の消火泡で液面を覆い、さらに隣接タンクへの延焼防止策をとるべきだった。被弾したタンクが火災になった場合、消火資機材が整っていれば、消火戦術を試みてもよいが、基本的には「燃え尽きさせる戦略」をとるのがよいと考える。

■ 今回、消火活動が難航し、米国の消火専門会社に支援を委託したようであるが、どのような対応がとられたかについては知りたい点である。(対応を考える材料でもある)
 今回のタンク火災は、日本の「テロ対応」でタンクが被弾した場合の状況を想定する上で参考になる事例である。

備 考
  本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいてまとめたものである。
   ・Reuters.com, Rocket Hits Tank at Libya’s Biggest Oil Tank, December 26, 2014
   ・Telegraph.co.uk, Rocket hits storage tank at Libya's biggest oil port, December 26, 2014
   ・Reuters.com, Fire at Libyan Oil Port Destroys up to 1.8 Million Barrels of Crude, December 30, 2014  
   ・English.alarabia.net, Libya in $6 mln Push to Tackle Oil Port Fires, December 30, 2014
   ・Reuters.com, Libya Extinguishes Fire at Biggest Oil Terminal, January 02, 2015
   ・WSJ.com, Blaze at Libya’s Largest Oil Port Extinguished, January 02, 2015
   ・BuisinessInsider.com, Libya’s Catastrophic Oil Fires Were Visible from Space, January 02, 2015
   ・Bloomberg.co.jp, リビア最大の石油輸出港でタンク5基炎上、さらに広がる恐れ, December 29, 2014
   ・Newsweekjapan.jp,  リビアの石油生産が一段と縮小、輸出港でのタンク炎上で,  December 30, 2014


後 記: とにかく寒かった今年の正月三が日が明け、インターネットの情報検索を始めたら、今回の事故情報が出てきました。発災は去年(2014年)ですが、火災が続き、鎮火したのは年を挟んで今年1月2日です。年始め早々に大きな事故が飛び出してきました。年末年始のリビヤで起った事故ですので、情報としては多くなく、ロイター通信の独壇場という感じでした。ただ、緊迫感のある写真や動画があり、状況を知る上で参考になりました。
 ところで、情報の信頼性はわかりませんが、米国の消火専門会社へ委託した額が6億円規模だということです。現在、日本では大容量泡放射砲システムが導入され、各地の事業所に配備されています。配備事業所の消防隊は管理に大変でしょうが、一旦、異常事態で出動すれば、6億円の価値がある活動だと考えることもできるでしょうね。 

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